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姦物語(ヤリモノガタリ)

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01月火ちゃん

 僕、阿良々木暦はこの間から、神社跡で毎日のように撫子ちゃんにブッ殺され続けてバンパイアの力で再生し続けたので人間だった所が減り過ぎて「俺は人間をやめるぞぉーー!」みたいな状態になって人間を辞めることになった。
 人間からバンパイアに転職のジョブチェンジだかクラスチェンジして、忍、キスショットアセロラだかアロエなんたらさんと一緒に姿を消す羽目になった。
 逃げないと多分、斧乃木ちゃんとか影縫さんに不死身の怪異としてボコられて殺されてしまうんじゃないかと思う。
 臥煙さんの弟子というか、小間使いのアルバイトにでもなって保護してもらいながら生きて、知識なり技術なり教えてもらうのもアリかと思ったが、だいたい碌でもないバイトで不死身ならではの危ない仕事になりそうなので、切羽詰まって逃げ道もなくなってからにしようと思う。

、家を出るに当たって気になることがある。月火ちゃんだ。
 フェニックスだとか不死鳥の怪異で、托卵して育ったら出て行くらしいのだが、まだ月火ちゃんは中学生なので成人まで時間がかかる。
 それまでに血液型以外調べたり、父親か母親が肝臓移植だとか骨髄移植になって、適合でも調べられたら、遺伝子とかも違うし、血が繋がっていないとバレると困る。
 まず第一、両親とも血が繋がっていなかった場合。
 受精卵の万能性でも使って自分の細胞核だけ放り込んで復活していたとしたら、全く血が繋がっていないので「病院で取り違えられた」と大騒ぎになって、そのまま月火ちゃんを育てながら自分の本当の子も探すだろう。
 もう見つからない、お腹の中で本物の鳥の托卵みたいに蹴り出されて、本当の子は死んでいたとしても。
 そのニ、母親の卵子だけ使って、ファニックスの細胞核を入れて受精状態にして復活して、母とだけ血がつながっていた場合。
 父が怒って「誰の子だ?」と騒ぎ出して、身に覚えのない母が困り、離婚を言い出されたりして一家離散。
 僕の遺伝子もどうなっている事やら分からないので、子供全員調べたら、火憐ちゃん以外血がつながってない、なんて事になると父が人間不信になって、よくあるネットの不倫物みたいに自殺したり出家したり壮絶な法廷闘争とかになって、とことんまで復讐されて、それに人生掛けるような余生を送らせるのはキツすぎる。
 その三、両親とも血が繋がっていて万々歳、今まで通り我儘ですぐ怒り出して「プラチナむかつく」女子高生とかニートに育って馬鹿な人生を送る。もしそうなら目出度い事だ。

 自分の小遣いだとかバイトでもしてDNA検査しても良かったが、結局バレるんだから色々ぶっちゃけるのに決めて、休日の朝食時、話があると言って妹二人の退出後、両親に相談した。
「あの、実は春休み頃バンパイアに噛まれて、人間辞めることになったんだ。ここが噛まれた傷。これから不死身の化け物として追われる身になるから逃げるんだけど、ごめんね」
 物事には動じない親だが、驚いたのか、息子がおかしくなって馬鹿なこと言い出したか、冗談でも言っていると思ったのか、困った顔をしたので、影の中から忍を引っ張り出して説明した。
「こいつが噛んだバンパイア本人。ほら、牙とか出てるだろ? 血を吸ったらもっとでっかくなってさ、20か30歳ぐらいの外見になるんだ」
 まあ忍、キスショットさんまで影から出したからには信じてもらうしか無い。
 両親も金髪で白人で8歳ぐらいの子供を急に見せられたので驚いたが、コーヒーも吹かずニッコリ笑って「コンニチワ」とか「ハワイユー」とか挨拶までした。
「その子が暦のお嫁さん? ずいぶん小さいわねえ、お幾つ?」
 母は余りのショックにボケたのか、おかしくなったのか、何か見当外れの話を始めた。
「いや、ホントはこんな幼児じゃないからね、400年ぐらい生きてるからね、ロリコンじゃないよ」
 自分がロリコンの犯罪者では無いと説明したのだが、父はその言葉にでも反応したのか、職務に忠実になってこう言った。
「暦、どこからこの子を連れて来たんだ? 誘拐と監禁は犯罪だ、さ、一緒に署まで行って事情を聞こうか?」
「だから違うって、誘拐とか犯罪じゃなくて、影から急に出たの見ただろ? 影にも入るよ、ほらちょっと隠れて」
「いやじゃ」
「いやそう言わないで忍、ちょっと影を出入りするだけでいいからさ」
 影に入るのを何故かイヤイヤしている忍。初対面の両親にガン見されるのは気にしないらしい。
 そんな相談をしている間に、父は手錠を用意して息子を幼児略取誘拐と監禁の罪で現行犯逮捕しようとしてるし、母は忍をナデナデしようとして逃げられ、僕の後ろに隠れて袖とか掴んでウルウルしてるのを見て「あら、よく懐いてるのね」と言ったり、「そんな小さな子を懐かせるなんて、まさか自分の息子にワッパを掛ける日が来るとは思わなかった」と父も泣き出してしまい、また母が「甘い物好き? ホットケーキ食べる?」とか甘いもので釣ろうとして、忍まで「食べる」と言い出すし、騒ぎに気付いた月火ちゃんまで来てしまい「あ~っ! こいつお兄ちゃんに取り付いてる化け物! いままで何回か見たっ」とか奇声を発して台所の包丁抜いてくるし、火憐ちゃんまで降りてきて「兄ちゃん、アタシとの約束どうすんだ? この子誰?」とか喚きだして収集がつかなくなった。
『うるさい、黙れ』
 忍の一言でようやく静寂が訪れ、沈黙の呪文モンティノでも食らったのか、家族全員口をパクパクさせて本当に黙らされた。
 それでも月火ちゃんは包丁持ってジリジリ向かってくるし、デッカイ妹は身長170の巨体で、いつでも忍を締め上げたり投げたり出来るように構えを取るし、父は僕に後ろ手に手錠を掛けて、母はホットケーキ焼き始めた。
『全員座れ』
 忍の命令通り、自分の席に付く家族。ホットケーキ係は免除されたのか、ボウルにホットケーキミックスを入れて水とかき混ぜる作業を続けた。
『これからワシが言う話は事実じゃ、ワシは魔法の国から来た魔法少女で、今後この家で暮らして、他の奴らと競って次期女王を目指している。これからお前たちに魔法を掛ける、ワシは親戚のオジサンから預かった従姉妹とかそんな所じゃ、口癖は「暦お兄ちゃんのお嫁さんになる~~」じゃ、寝床はこやつと同じ、覚えておけ』
 忍が一番壊れた話を言い出し、CSで見た古い魔法少女の話を始めた。
 それは昭和の魔法少女で、最近のハイビジョン制作のは、お互いに殺し合ったり勇者だったり円環の理に導かれたり男の娘だったりするので、そんな古い話が通じるのは母だけだ。
 勿論親戚に金髪の奥さんを貰った叔父は居ないし、牙が生えて血を吸って空飛んで太陽が嫌いな親戚もいない。
 それでも魔女っ子メグとかサリーちゃん、ミンキーモモぐらい古い話が通って、妹達は忍を僕や自分の従姉妹だと信じて、両親も親戚の子だと思い込んだ。
 日常的に魔法を使ったりしても「実は魔法使いだし、アタシは知ってるんだぜ」みたいな芝居を続けることになった。
 しかし「暦お兄ちゃんのお嫁さんになる~~」はどういう意味なのだろうか? 寝床が一緒でも怪しまれないためか? 忍もある程度デレて本当に懐いたのだろうか?
「話を続けよ、主殿よ。いや、暦お兄ちゃんであったな」
 話を続けるように言われたが、BBAバンパイアに噛まれて家を出る話は続けられそうにない。
 忍はこの家に居候する魔法少女で、まじもじるるもみたいな「実の妹」ではなく従姉妹だから、年齢さえ合えばギリギリ結婚できる相手になってしまった。
「妹御はフェニックスなのであろう? 話を続けよ」
 続けよと言われても、月火ちゃん本人がいる前で言うのは忍びない。言葉に詰まっていると忍がまた何か話し始めた。
「それと月火、ちゃんはワシ、いや僕の本当の妹じゃなくて、フェニックスが托卵していった子なのじゃ、この家の誰とも血は繋がっておらぬ」
 忍は声色を使ってるつもりなのか、大して似ていない僕のモノマネを始めて、僕が説明している振りをしたが、まだ言霊が効いているのか、何故か荒唐無稽な話も通ってしまった。
「月火がうちの子じゃない?」
「まあ暦、変なことを言わないで、月火は私がお腹を痛めて産んだ子よ」
 僕が言っても信用して貰えそうにない言葉も、忍が言うと即座に信用してもらえた。それは本人にも通じたらしい。
「びええ~~~~っ、お兄ちゃんが虐める~~~~っ! どうせあたしなんて橋の下で拾ってきた子なんだ~~~っ、びええええ~~~~っ!」
「落ち着け、血は繋がって無くても月火はアタシの妹だ」
 デッカイ方の妹がナデナデして労ってやり、僕の方を睨んでくるが、そう言ったのは忍だ、僕じゃないって。
 父は何か「本当の月火は?」とか狼狽えるし、母も「病院で取り違えたんじゃないわよね」と疑いだし、月火ちゃんは泣き喚き続けるし、デッカイ方は睨むし怒るし今にも掴みかかって来そうだ。
「月火、あなた暦と結婚しなさい」
「「「へ?」」」
 焼き終わった一枚目のホットケーキを出して、今までの会話でおかしくなったのか、母が変なことを言い始めた。
「さ、ホットケーキよ、お食べなさい」
 ちなみにこの家では母の言葉は決定である。命令とかじゃなくて、もう決まったことなので覆せない。
 前にガハラさんを連れてきて彼女だと紹介したはずなのだが、僕と月火ちゃんは何故か結婚、いや今はまだ年が足りないので婚約する運びになった。
 こんな怒りんぼの奥さん嫌だ。
「わ、WQたしGSと、おHF兄ちゃんFづSKが、けっ、GJSDFK結婚?!」
 ついさっきまで泣きわめいていた月火ちゃんは、すっかり泣き止んで吃音症を発症しながら真っ赤な顔をして、僕と結婚するのが決まったのを驚いていた。
「母ちゃんっ、何で月火と兄ちゃんが結婚なんだよ? アタシはどうなんの? 兄ちゃんも何か言ってよ、アタシと約束したじゃんっ」
 デッカイ方の妹も何か混乱して、例の歯ブラシの一件以来、僕と将来の約束をシたことになっていて、彼氏とやらとも別れて、母にも相談して「兄ちゃんに歯ブラシで口の中をイタズラされて気持ちよくなって「兄ちゃんいいよ」と言ってしまったのでセキニンを取って欲しい」と言ったらしく、結婚までは無理でも今後結ばれて恋人になるつもりでいたらしい。
「母さん、一体何を?」
「え? 月火だけ血が繋がっていないなんて可哀想でしょ、男の子は暦だけだし、月火と結婚させるにはこの子しか居ないでしょ? まさか私と離婚してあなたが結婚するの?」
 まともな反応をした父と違い、母は消去法で僕を選び、「月火と籍を入れて、うちの子にするには、僕と結婚させるしか無い」といった結論を円環の理だか何処かから導いちゃっていた。
「アハッ、忍、暦お兄ちゃんのお嫁さんになる~~」
 僕の家庭と人生を一瞬で破壊した代わりに「人生の楽しみ方」を覚えた憎っくきバンパイアは、なにか楽しそうに笑いながら、ホットケーキにバターとシロップを掛けて食った。
 5枚も食った。
 
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