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IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》

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【第592話】

 簪との戦いはそれほど時間は掛からなかったものの、やはり連戦による疲労は見えていた。

 補給をする合間に水分補給を行うヒルト、椅子に全体重を預ける様に座っていた。

 普段の筋トレや模擬戦とは比較にならない疲労感は、身体の動きを鈍くさせる。

 軽く瞼を閉じるだけで、疲れた身体は休憩を欲するのがわかった。

 瞼を開き、疲労感で重くなった身体を起こすとヒルトはイザナギを纏った。

 ISを纏っている間は疲労で重くなった身体を支えてくれる、だけど解放されたら重くのし掛かる。

 だけど、弱音は言っていられない。

 飛翔し、ヒルトはたち位置へと移動した。

 これを乗りきれば六人――半分は越えたと思えば少しは気も軽くなる。

 待ち構えていたのは箒だった、ここで最新鋭の機体紅椿が来る。


「次の相手は私だ。 ……ヒルト、私は今回から暫く単一仕様は使わない」

「ん、良いのか?」

「無論だ。 私は単一仕様【絢爛舞踏】に頼りすぎた。 いつまでも頼っていては精神も成長しない」


 身体的成長に関しては問題ないだろう、格闘戦は元から評価が高いのだから。

 だが精神面だけは別だ、箒自身もそれをちゃんと確認出来ただけでも成長しているといえる。

 二振りの刀を呼び出した箒――それに合わせてヒルトも北落師門を呼び出す。

 だが疲労感からか、なかなか像が結ばず、北落師門が形成されない。


「……北落師門・真打ち!」


 大きく右腕を振るい、北落師門の名前を叫ぶと像が形となり、刀を形成した。


「……ヒルト? 疲れているのか?」

「ん……いや、大丈夫だ」


 上手く像を結べなかったが、ヒルトは誤魔化すように笑った。

 箒が声を掛けようとするも、ハイパーセンサーにシグナルが点る。

 そこから試合開始までは数秒も掛からなかった。

 一方で、明らかにヒルトの疲労の色が見えてご満悦のオーランド。


「おっと、代表候補生を目指すものがこの程度の連戦で疲労が見えてるとは、やはり落ちこぼれですな」

「そうですな。 私が乗れば百連戦でもやりますが、生憎と私はISが乗れませんので」

「ハッハッハッ、それは残念だなスコット。 まあ我々はゆっくり観戦しようではありませんか」


 反対派の言葉に千冬は瞼を閉じ、ぐっと奥歯を噛みしめる。

 力になれない自分が悔しかった、教師として無力を感じたのもこれが初めてだった。

 ブリュンヒルデの肩書きも、この反対派の前では役に立たない。

 悔しさを滲ませながら千冬は改めて大型投影ディスプレイを見る。

 連戦疲れの筈だが、ヒルトと箒の戦いはヒルトが押していた。

 箒のクロス・グリッド・ターンに追従するヒルト――二刀流による流れる連撃も受け流し、隙あらばバリア無効化攻撃による斬撃を浴びせる。

 絢爛舞踏に頼っていた箒、それらを使わずに継戦する力は低かった。

 もちろん自身の甘えと最新鋭機という緩みもあるだろうし、他にも様々な要因があるといえる。

 後悔しても遅い――だけどまだ間に合う。


「ハァアッ!!」


 雨月、空裂による粒子攻撃――空を彩る紅い粒子、それらは全て避けられた。

 箒自身が接近戦以外がいまいちといえる、だけどそれでもヒルトに食らい付いた。


「ふむ、篠ノ之箒は調子が悪いようですな」

「仕方ありません、先ほどほぼ半裸で走らされたのですから」

「ふむ、この事が篠ノ之博士にバレますと不味いかもですな」

「ハッハッハッ、我々は大丈夫。 あくまでも来客ですので」


 反対派各々がそう呟き、やられているのも先ほど調子を崩したからだと結論つけた。

 篠ノ之博士の妹ゆえに評価が甘いのだろう――もちろんそれは一夏にもいえるが。

 模擬戦は更に続き、互いのエネルギーが二〇〇を切ろうとしていた。

 疲労がたまっていてもこれだけ追従するヒルト、想いだけでは届かない代表候補生の座。

 だが――織斑千冬から言われた持つべき者の義務《ノブレス・オブリージュ》という言葉が、ヒルトを更なる高みに導いている。


「そらぁぁあっ!!」


 体躯を駆使した格闘戦、刀と体術を組み合わせた独特の動きは箒も読めないでいた。

 一方の箒は、型が確りしてるが太刀筋がヒルトに見極められている。

 それでもヒルトは当たるのだが、疲労故の反応の鈍さからだろう。

 何合も切り結び、スピードに乗った戦いはほぼ互角――本来なら疲労でヒルトが不利だが、経験値の差で上手く食らい付いていた。

 エネルギーが更に下回り、残り互いに一〇〇を切る。


「ハァッ、ハァッ……!」

「ッ……やはり強い。 だが、私ももっと……強くなりたい!」


 呼吸の荒いヒルトに、箒は更に接近戦を仕掛ける。

 刃が切り結ぶ音、空を切る音、装甲に当たり、激しく火花を散らせる音――だがヒルトの耳には届かない、疲れてるが凄まじい集中力で攻撃も防御も行う――そして、下から斬りあげる一撃によって遂に箒のエネルギーを〇にした。

 試合終了のブザーが鳴る、呼吸の荒いヒルト、視線が定まらない中――。


「ひ、ヒルト、大丈夫なのか!?」

「え? ……だ、大丈夫、だ」


 とても大丈夫に見えないヒルト――だがゆっくりしていられない為ヒルトは直ぐに補給に戻ろうとした――が。


「……絢爛舞踏!」


 不意に触れられ、一気にシールド・エネルギーが回復した。


「……す、少しは休む時間もできるはずだ」

「……すまないな、箒。 ありがとな?」

「か、構わない」


 ヒルトの笑顔に視線を逸らした箒、だが明らかに休憩させなければ疲労で参ってしまう。

 だが、これ以上箒に出来ることはなかった。

 ヒルトも、エネルギーの補給を受けて推進剤の補給だけをする為に戻った。


「ほぉ……そろそろ彼も限界ですかな? いやはや、これでは代表候補生の道も茨の道ですな。 ハッハッハッ」


 明らかに疲労の色が見え始めたヒルトを見て機嫌良さそうに笑うオーランド。


「…………」


 流石のレイアート会長も、休憩時間を設けさせないと不味いと思い、その場から立ち上がると――。


「今から三十分ほど休憩を取ります」

「な、何ですと!? 会長、それは行けませんなぁ……このあとの予定に響きますぞ?」

「それはわかっています。 ですが、あれだけ疲労していては有坂君のポテンシャルを発揮させるのも難しいかと」


 ポテンシャル――オーランドにとってはどうでも良かった、正直商品価値としても有坂ヒルトは劣っていると決めつけているからだ。

 だが此処でオーランドは何か閃いたのか、わざとらしく手を叩いた。


「仕方ありませんな。 三十分休憩後、また再開と致しましょう。 ――ですが、次からの戦いは有坂ヒルト一人に対して、専用機二人での戦いで時間調整していただかないと」


 条件が明らかにヒルトに悪い、三十分休憩と引き換えに二対一では――抗議しようとした千冬。

 だが意外な人物がそれを止めた――ヒルトの父親、有坂陽人だ。


「ちょっといいか?」

「むっ? 何かね? ……警備員風情が……私に話し掛けるなど百年早いが、まあ聞いてやらんこともない」


 明らかな上から目線だが、有坂陽人は気にせず言葉を口にする。


「すまないなオーランドさん。 幾らなんでも二対一はキツいだろうから一人だけ、次の一戦は増援を入れさせてはもらえないですかね?」


 会長の警備で今まで黙っていた彼も流石に言わずにはいられなかった。

 有坂陽人の提案に渋い顔をするオーランド。

 だが、唇の端を吊り上げ、顎を指で触れながら言った。


「ほほぅ……まあ良いでしょう。 とはいえ、増援をかってくれる方がいるとは思えませんがな?」


 その言葉通り、戦いが凄すぎて大半の子には無理だろうし、そもそも他の量産機は前の騎馬戦で使用されていたのだから直ぐには使えない。


「OK、じゃあとりあえずそれで決定という事で宜しいですかな?」

「良いですとも。 時間になっても現れなければ有坂ヒルト一人で戦ってもらいますがな」


 何とか休憩時間を三十分確保、それは直ぐにアナウンスされ、ずっと試合を見ていた生徒も息抜きする為に身体を解し始めていた。

 この三十分が吉と出るか凶と出るか……それは誰にもわからなかった。 
 

 
後書き
果たしてどうなるやら┗(^ω^ )┓ ┏( ^ω^)┛

箒戦描写少なかったけど、経験値不足だからあれぐらいかなと 
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