IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
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【第569話】
空へと躍り出た俺、それと共に楯無さんからの追加ルールが告げられた。
「さて、ここでヒルト君の投入ですが……彼のハチマキを獲得出来た組には一五〇〇点差し上げようと思います!」
一五〇〇点――それは破格の得点だった。
何せ最下位はトップに立ち、トップは更に引き離せるのだから。
観戦していた子も、騎馬戦に参加してる子も皆が俺を注視した。
だが、良い話には必ず裏がある――。
「但し、もしも彼から逆にハチマキを奪われたなら――専用機持ちはマイナス千点、一般機はマイナス一〇〇点なので気をつけてね♪」
ハイリスクハイリターン、既に数の減った組にはリスクは低くなるがそれでも組代表の専用機持ちがとられれば得点がリセットされるのと同様だった。
膠着状態の戦場、風が吹き抜け、皆の頭上をとる形の俺は見下ろすように機影を確認した。
「二十五機……。 流石に普通に考えたら不利だが、ハチマキとれば良いだけなら」
一人ごちる俺に、痺れを切らしたのか――。
「有坂のハチマキとれば!!」
「少なくとも三倍――優勝は確定よ!」
「それに、ランクEじゃ私達に敵う筈ないんだからッ!!」
功を焦った三機が真っ直ぐに飛び出す。
「だ、ダメだよ! ヒルトはそんなに甘い相手じゃないよ!!」
シャルの叫びは届かない、もう彼女達に見えてるのは優勝という栄光――それと同時に叶えられる願いによって支配されていた。
『マスター、三機急接近なのですよぉ('◇' )』
「OK、先ずは……肩慣らしだな!!」
クイックブーストによる瞬間加速――直ぐ様トップスピードに乗った俺は更に瞬時加速で制限限界を越えたスピードで先頭の一機の横を通り抜ける。
「え?」
一瞬の事だった、黒い風が吹き抜けたと思えば頭に巻いていたハチマキが奪われていた。
続けざまに二機――三次元機動に自信のある子だったのだが気付けばヒルトに頭上を取られ、しゅるりとハチマキを奪われていた。
三機目――何が起きたのかを理解する頃には眼前にヒルトが居た。
突然の事に対応出来る人間ってのは一度そういう事を経験した人間だけ。
目の前に一五〇〇点のハチマキがあるのに、思考が追い付かない。
紅蓮に燃え上がる瞳から目が逸らせず――。
「はい、ハチマキ貰いっ♪」
「あっ……!?」
屈託ない笑顔でハチマキを奪われた三機目の子――ランクEと侮っていた――そう思っても後の祭、敗北の事実だけが虚しく告げられる。
「オォッと!! ヒルトくんの電光石火!! あっという間に三機のハチマキを獲得だー!! ヒルトくん! お姉さん鼻が高いわーッ!」
明らかに贔屓されてる実況に、照れ隠しで俺は視線を逸らした。
「っ……一瞬で三機のハチマキを……」
「い、いつの間にヒルトさん、あれほど腕をあげてましたの……!?」
「あ、あたし達と同じ体操着だってのに、あの機動……!?」
「つ、強くなってくれるのは嬉しいけど、でも――」
「あぁ、敵に回せば……わかる。 異様なプレッシャーを……」
「……っ。 ハチマキ、とれる気がしない……」
箒、セシリア、鈴音、シャル、ラウラ、簪とヒルトの電光石火による三機からハチマキを奪った速さに戦慄していた。
一方の未来。
「速い……! でも数では私達が優位だから協力すれば――。 ダメだ、ハチマキは一本……一五〇〇点。 協力したからってハチマキ争いは避けられない……!」
そう、事実互いに協力すれば確実にヒルトからハチマキはとれる。
だがそれで一五〇〇点とれるのは一組だけなのだ、既に協力前提っていう考え自体が破綻している。
「お兄ちゃんからハチマキ奪う方法……。 思い付かないよぉ……」
妹の美冬も困っていた、性能差とかの話ではなく明らかにヒルトの技術が短期間で向上していたからだ。
誰かを出し抜くというのも美冬には難しく頭を悩ませる結果に。
「うーん。 ハチマキは欲しいけど……ヒルトは私のマスターだし……。 あぅぅ……」
美春も同様だった、天真爛漫な彼女自身、今回の種目も楽しんでいたがヒルトが相手になるとそれ所ではなくなる。
だが、エレンはというと違っていた。
「……やはり君はスゴい。 ――例え私のハチマキをとられようとも、真っ向勝負なら悔いはない!!」
シールド・ウィングが大きく可変、空戦モードに移行させるとエレンが動いた。
「エメラルドさん!?」
「すまない! ……だが私は、純粋に勝負がしたいのだ!」
先に動いたエレン――俺はハチマキ片手に各部スラスターを点火させる。
クイックブーストによる瞬間加速――其処からの三次元機動、先に動いたエレンより速く、トップスピードに乗り、限界速度を越えた。
全身に掛かるGの衝撃も、イザナギが緩和してくれるお陰で負担はほぼほぼなかった。
ハイパーセンサーから見える景色が凄まじい速度で流れていく――アリーナでは出せない、その速さにエレンは驚きを見せた。
接触まで直ぐだった、黒と緑が交差と同時にハチマキを奪い合う激しい攻防が繰り広げられる。
惜しむのはこれが模擬戦ではないことだ、やってることはハチマキの奪い合う――だけど、その攻防自体目を見張るものだった。
「す、すご……」
誰かはわからないがそう呟く、息を飲み、ランクEの落ちこぼれの烙印を押されたヒルトと、転入したてのエレンの攻防にその場に居た全員が目を奪われていた。
「ぅおっ!? 危なっ!?」
「フフッ! 君に冷や汗をかかせたのならそれは光栄だな! 君は強い! だが――君の為だけに!! 君の為だけに偽装改良した私の【ウィオラーケウス・デンス】! 負ける訳にはいかないのだッ!!」
熱くなるエレン、目まぐるしく周囲の景色が流れ、互いに螺旋機動で上昇しながら攻防を続けた。
誰も手出し出来ない――次元が違うからではなく、手を出せば水を差すだけだから。
埒があかない――俺がそう感じた時、俺は意表をつくことを決めた。
巻いていたハチマキを頭からとる――突然の事に、エレン自身驚き、動きが止まってしまった。
人間、予想外の事が起これば身体は反応出来ず、思考も停止してしまう。
「はい。 ハチマキ貰いッ!」
「あ、ああっ!?」
気づいた時にはエレンの額に巻かれていたハチマキは俺の手の中に。
すっとんきょうな声を上げたエレンに俺は――。
「わははははっ! 油断したな、エレン」
「……っ」
大将がハチマキをとられたことにより、無条件でエレン組は敗れた事になる。
と同時に、得点も〇点になってしまった。
「まあ悪く思うなよ?」
ニッと白い歯を見せ、俺は新たな標的に狙いを定める一方、エレンは――。
「……やはり君は強いな。 ヒルト」
残り二十一機――さて、どうするか。
「もらったぞ!!」
「ハチマキ、渡しなさいよ!」
直上から迫る箒、そして直下から迫る鈴音の二人は額に巻かれたハチマキに狙いを絞り、その手を伸ばした。
「おわっ!?」
直上直下共に避ける俺、だが避けても油断は出来ない。
「私達がとればっ!!」
「トップにたてる!!」
箒組、鈴音組の選出された二機が時間差で俺に迫った。
伸びてくる手を避け、そのカウンターでハチマキの結び目を指で掴む。
後は相手の勢いそのまま、巻いていたハチマキが俺のものに。
直ぐ様二機目も、避け様にハチマキをとった。
「そ、そんなッ!?」
「何て反応なの!?」
とられた事実が二人を呆然とさせた――だが俺に向かってくる無数の機影。
「先にとったもの勝ちで良いんだよね?」
「あぁ。 そうでなければ我が嫁は倒せないからな」
シャル、ラウラと専用機持ち二人が更に迫る――二人して瞬時加速を使い肉薄、俺は慌てながら頭を引っ込めた。
空を切る二人の手、慣性には逆らえず過ぎ去る二人。
協力出来ない――だが、誰が先にとっても文句無しでの協力体勢が自然と整ったのはやはり先程のヒルトの動きを見た結果だろう。
「……ここだ!」
「ぬぉっ!? だけど!!」
「あっ……」
簪の手が僅かに触れかけるも、何とか避け、逆にハチマキを奪いとった――やはり数で来られたら無理だと再認識した。
「ああっ!? 簪ちゃんがヒルトくんにハチマキとられちゃった!? ……勝負の世界は残酷、残酷なのです!」
心なしか簪がやられた事に私情が入ってる気がした。
簪のハチマキはとれたものの、俺のハチマキを狙う魔の手は常に迫っていた。
「おおっと!? ヒルトくん万事休すか!? ここでとられたら、お姉さんからの罰ゲーム確定よ!!」
嫌な予感しかしなかった、魔の手を掻い潜れる筈も無く、避けるのも疲れ、精神的疲労も溜まり、一瞬の隙をつかれた。
「はい! もらったー!!」
「あっ!?」
一瞬の隙をつかれ、ハチマキをとられてしまった俺――とった相手はというと。
「出席番号一番、相川清香!!」
「何でいつも自己紹介ばっかなんだよ!!」
そんなツッコミをしつつ、相川清香が所属するシャル組に得点四五〇〇が加算された。
説明不要だとは思うが、一般機は得点三倍加算なのだ。
後書き
数には勝てませんでしたー
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