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IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》

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【第588話】

 セシリアとの戦いが終わり、ヒルトが補給をしていた頃、来客席では……。


「ま、まあまあやるではありませんか」

「そ、その様ですな」


 先の戦いをディスプレイで見ていたオーランド等反対派。

 ヒルトの資料と今の戦いのリプレイを見比べていたが――。


「まあ、猿も木から落ちるという言葉もありますからな」

「ホッホッホッ、そうですな、あのイギリス代表候補生もさっきのハプニングで調子を落としていただけでしょうし」

「左様、まああの落ちこぼれのラッキーパンチはこれまでという事ですな。 ワッハッハッハッハッ!」


 そんな高笑いする一向に、織斑千冬はフッと小さく笑みを浮かべた。

 補給を終えたヒルト――休憩は挟まず、そのまま規定位置へと移動した。


「ふふん。 次はあたしと勝負よ、ヒルト!」


 準備万端と謂わんばかりに双天牙月を頭上で掲げ、器用に身体全体使って剣舞を見せた鈴音。

 その様子を見ていた生徒一同から歓声が巻き上がった。


「戦う前から目立って――鈴音は目立ちたがりだな」

「ふふん。 見られてなんぼの商売よ。 せっかくだからヒルトも何かやりなさいよ」

「いや、俺は演舞とかそんなの出来ないからな」


 断るヒルトに、鈴音は八重歯を見せて不敵に笑う。


「ヒルト、悪いけど手加減しないわよ?」

「勿論だ。 手を抜かれても困るしな」


 事実、手を抜かれても嬉しくはない。

 そんなので代表候補生になったとしても、織斑先生が言っていた持つべき者の義務《ノブリス・オブリージュ》を果たす事が出来なくなる。

 お互いに準備が出来たと判断されたのか、シグナルが点灯した。

 鈴音はパワー型インファイターだが、中距離も問題なくこなせる。

 武装関係でアウトレンジは苦手だがそれでも間合いの詰め方は上手く、離しても最低中距離は維持できるのは彼女が基礎を疎かにしていない証拠だ。

 シグナルが緑へと点灯した瞬間、鈴音は加速と共に間合いを詰め、接近戦を仕掛けてきた。

 双天牙月を操り、多角的に連撃を繰り出す鈴音の一撃一撃を受け流すヒルト、切り結ぶ一合一合、双天牙月の質量は北落師門の遥か上を行き、一撃一撃重かった。

 更に以前とは違い、連撃に合わせて腕部衝撃砲で細かくシールドエネルギーを削ってくる。


『ま、マスターΣ(゜□゜;) 接近戦は不味いのですよぉヽ(・_・;)ノ』

「チッ……衝撃砲が厄介だな!」


 クイックブーストからの離脱にも対応する鈴音、流れを鈴音に取られたヒルトだがまだ瞳に闘志の炎は燃え上がっていた。

 切り結ぶ合間も腕部衝撃砲を放つ鈴音――だがヒルトはそれに対応し始める。

 双天牙月の刃をスウェイでかわし、隙を埋める腕部衝撃砲を空いた左手や右手の掌打で逸らす。

 だが鈴音もそれは予想していたらしく、本命の衝撃砲のチャージを終えていた。


「やるじゃん! だけど――この距離は痛いわよッ!!」


 衝撃砲がスライドされ、既に中の球体は光を放っていた。

 不味い――そう思った俺だが流石にこの距離を回避は……いや、出来る。

 身体に負担の掛かる回避方だが、俺は迷わず選択した。

 衝撃砲が放たれるその瞬間――瞬時加速で離脱、クイックブーストによる直角カーブ――急激に掛かるGによって内臓が押し潰されかけ、スラスターも唸り声を上げる。

 多角的機動を人の身体で行うのは危険が伴う――だけど、出来ない訳じゃなかった。

 肉体と骨が軋み、悲鳴をあげるヒルトの身体。

 放たれた衝撃砲は空を切る――必中の距離で外した事に驚きを隠せなかった。

 更に目標であるヒルトも見失う――いくらハイパーセンサーで三六〇度全方位見られた所で、捉えるのはパイロットの動体視力、そしてそれに対応する反射神経だ。

 北落師門による連撃――読めない機動に翻弄される鈴音、流れは鈴音からヒルトへと変わっていた。


「ッ……追いきれないッ!?」

「そらぁッ!!」


 北落師門と格闘術による接近戦――刀と体躯を駆使したヒルトの戦い方は、既に型にはまらない自由な動きを可能としていた。

 肩、脚部、腕部と掌打を叩き込み、双天牙月の一撃を避けつつ、カウンターで甲龍の装甲を切り裂く。

 だがそれでも、接近戦は鈴音の方が上手で、直ぐに対応してくる。

 二人の戦いはまるで演舞の様であり、互いにシールドエネルギーを削りあっていた。

 違うのは、鈴音の甲龍の装甲はボロボロになりつつあるのに対してヒルトのイザナギは傷一つないという事だ。

 装甲材は甲龍の方が新しい、イザナギは旧来からあるチタン合金――だが、F.L.A.G.からもたらされた分子結合殻による圧倒的強度によって傷がつかない。

 新たにその上から電離分子を流して更に強度を上げている。

 そして、お互いのシールドエネルギーが二〇〇を切ると――。


「ハァッ、ハァッ。 ……やるじゃん、ヒルト!」

「いや、正直いっぱいいっぱいだな」


 息が上がってる鈴音――ヒルトがそう言うも、明らかに余裕が見てとれる。

 無茶な直角カーブ――本来であれば骨折は免れないのだが男と女では身体の作りが違う。

 入学当初の授業で瞬時加速中に別方向へと軌道変更しようとすれば、内出血や骨折、骨髄損傷といった怪我に繋がる。

 だけど――それはあくまで女の子の身体ではついていけないだけであり、例外のない男の身体なら問題はなかった。

 無論、身体を鍛えていなければ確実に骨折やら神経や骨髄をやられるだろう。

 額の汗を拭う鈴音、ヒルトとは模擬戦してはいるが今日の気迫はいつもと違っている。

 最大火力の衝撃砲はヒルトには通じない。

 今までの様に双天牙月と組み合わせた腕部衝撃砲だと火力が低すぎて削りきる前に削られてしまう。

 意外性を考える時間もない――いや、そもそも相手の油断を誘う意外性何てそうそう思い付かない。

 明らかにヒルトが異常なのだ、型通りの戦い方もあるが、明らかに誰とも違う戦い方をする。

 一夏なら――猪突猛進故に対処しやすくてもヒルトが相手では難しい。

 得意な接近戦及び中距離戦も、ヒルトにとっては苦手な距離ではない――遠距離では逆に此方が不利になるのは明白。


「ヒルト! とことん付き合ってもらうわよ! あたしの得意な接近戦でねッ!!」

「上等!!」


 鈴音に応えたヒルト――互いの刃が交差し、攻防が開始された。

 さっきまでと違うのは、お互いが空中でトップスピードに乗ったまま戦っていること、スピードに乗った近接戦闘は、キャノンボール・ファストでもそうそう見ることができない。

 ヒルトの実力を懐疑していた生徒一同、高いレベルで纏まった戦いに釘付けになり、反対派の連中に至っては口をあんぐりさせたままだった。


「こ、これが落ちこぼれと言われたものの戦いですか、オーランドさん……?」

「は、はは……。 ま、まあまあやるほうだとは私は思いますが。 逆に言えばあの有坂ヒルトで彼処まで戦えるのであれば、織斑一夏君なら彼を瞬殺する事も可能ということ」

「そ、そうですな! いやいや、織斑一夏君が彼を瞬殺する場面、見たいものですな」


 あんぐりしてはいても、一夏の実力の方が高いと信じて疑わない一同。

 ここで否定すれば我々に見る目がなかったという事になる、凄まじい攻防の最中、自身等の保身を考え始めていた反対派。

 そして、激しい戦闘も終わりが近付く――互いの刃が交差お互いのエネルギーはもう一撃で枯渇するという所まで来ていた。


「次の一撃で終わるわね……」

「……だな。 ここで鈴音に負けたとしても、俺に悔いはない。 代表候補生になるのが時期尚早だったってだけさ」

「ふふん。 ……時期尚早何かじゃないわよ。 少なくとも、あたしよりヒルトの方が強いじゃん。 ……ヒルト、何で『ワイヤーブレード』使わないの?」


 鈴音は気付いていた、ヒルトと互いに接近戦をしながらも北落師門と格闘術以外使わなかった事を。

 手を抜かれてると思った鈴音、だがヒルトの答えは意外だった。


「あ……そういやワイヤーブレードあったっけ? 忘れてた」

「へ? ……ぷっ! あははははッ! わ、忘れるほど集中してたんだ?」


 思わず可笑しくて笑う鈴音、忘れさせるほど、ヒルトと鈴音の接近戦は激しさを窮めていたと謂えなくない。


「ふふん。 使ってもいいわよ?」

「いや、最後までこれでいくさ」


 そう言って北落師門を腰だめに構えたヒルト――鈴音はその構えを見て、直感でヒルトは北落師門を投げる――。

 ヒルトが持つスキルの一つが具現維持限界を応用したスキル、未だに名称を着けてないのはヒルト自身他にも使い手がいるのだからその人が着ければいいと思っている。

 無論、世界広しといえどこんな応用した技を使うものはいない。

 唇の端をを吊り上げた鈴音――双天牙月を構える。

 刹那、ヒルトが動く――北落師門を構えたまま――瞬時加速をかけた。

 読み違えた――一瞬で判断した鈴音だが、逆に言えば此方が投擲すれば勝てる。

 迷うことなく双天牙月を振り切る鈴音、手から離れた双天牙月は大きく円を描いてヒルトに突き進む。

 勝った! ――だが鈴音は忘れていた、ヒルトが直角カーブ出来るだけの身体能力を持っていたことに。

 コンマ一秒にも充たず、ヒルトは瞬時加速中の直角カーブ――突如視界から消えたヒルトに、思考が追い付かない鈴音。


「悪いな、俺の勝ちだ!」


 背後をとったヒルトの一閃が、鈴音の脇腹へと当てられた。

 鈴音の絶対防御が発動と共に試合終了のアナウンスが流れた。

 読み違えた――否、ただヒルトの戦う選択肢が鈴音以上に多く、一瞬で見抜く動体視力と反射神経がものをいった。

 どれも全て、入学当初から行っている地道な訓練が身を結んだ結果と謂える。


「……あーあ、負けちゃったか。 悔しいな」


 悔しさ滲ませる鈴音――そんな鈴音にヒルトは言う。


「リベンジマッチなら何時でも受けるぞ、鈴音」


 ニッと白い歯を見せたヒルト、不意に見せたその笑顔に自然と高鳴る鼓動。


「……ふふん、次はあたしが勝つからね! 首を洗って待ってなさいよ」


 頬を紅潮させ、鈴音はそういうとヒルトは笑顔で返した。

 二戦目、危なげながらもヒルトが勝利を納める結果となった。 
 

 
後書き
まだまだ続きます(; ̄Д ̄) 
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