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KANON 終わらない悪夢

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47香里の最後

 第四十七話

「何が一弥よっ、こいつは祐一よ。アンタの弟なんて、とっくの昔に死んでるんでしょ? 現実を見なさいっ、馬鹿じゃないのっ?」
 先程の術で天候は悪化していたが、さらに黒雲が広がって夕立のような豪雨が始まり稲光が光る。
 佐祐理のご機嫌が悪化すると天候が崩れるらしいが、舞の人格が風の精霊に変わっても、ここまでの変化は起こらないのではないかと思われる程、急激に雷雨が発生した。
 現在怒りの人格で瞬間湯沸かし器の舞は、無言で刀が入った鞄を念動力で引き寄せ、真剣の方を抜刀して香里に向けた。
 さらにイザナミとその妻?の怒りの影響なのか、週末時計が早送りになり、宇宙の定数が-1.7ぐらいになって木星付近と太陽周辺の宇宙が少し裂けた。
 よく科学番組で見るゴム製の薄い膜の上に球体を転がし、球体の重量で沈む分で重力を表す模型。そのゴムが破れるように事象の水平線の向こう側が現れ、重力レンズの向こう側に見えていた天体すら観測不能にする別の宇宙、何も見えない異世界の切れ端が見え始めた。

 選択肢
1,その場で佐祐理自身が制裁するため、香里の頭を掴んで差し上げ、バビル2世並の超高圧電撃で、バビルの塔に攻めて来たバランでも二秒でぶっ壊れるぐらいの「ピカチュウッ、十万ボルトだっ!」の刑に処してやり、映画グリーンマイルで頭に濡れたスポンジを置いてもらえなかった死刑囚みたいに踊らせてやり、生肉が焼き上がる匂いを教室に充満させて差し上げる。
2,佐祐理を罵った相手を舞が許すはずもなく、香里が泣こうが喚こうが、強化されているはずの手足から順番に切り落としてやり、わめき声が五月蝿いので声帯も切除、ダルマになった所で「ジョニーは戦場に行った」状態でも死ねない呪いが掛かった体で、モールス信号で「KILL ME、KILL ME」を連続で送信するだけの人生を開始して差し上げる。
3,もしくはスタートレック第1話に出た前任の艦長のように「異星人なので、バラバラになっていた人類の部品が、どこに付いているか分からなかったから適当に付けた」みたいな感じで、全部元の場所とは違う場所に移植してから接続修復して差し上げる。
4,佐祐理が「ちょっと他の書類も拝見できませんか~?」と笑顔で油断させて、「不受理」のゴム印がある婚姻届や、両親の同意書、診断書、戸籍謄本、除籍謄本、原戸籍、などなどを受け取り、一瞥した後に舞に引き渡し、ヒイロユイみたいな顔をした舞が真っ二つに引き裂いてゴミ箱に叩きこみ、「香里、お前を殺す」みたいな展開になる。
5,ハイパー土下座外交開始。香里に漢の中段突きを叩き込んで膝を着いた所で頭を引っ掴んで額を床に叩きつけ、祐一も用務員のおじさん並の土下座を敢行、「関東土下座組」ぐらいの土下座を完成させ、佐祐理お姉様の怒りをどうにかして収めてもらう。帰ってからは犬になって、お姉様方のオシッコでもなんでも飲み、足の裏も舐め放題で謝罪。美人の後輩から処女の女の子を二人ほど誘拐して、お姉様に生け贄として提出。香里と一緒に人間椅子として二日ほど勤務し、怒った後の大魔神でキングギドラ、子供を攫われた後のガッパ、暴れだしたギララ、ロケットで金星に送らないと人類が絶滅してしまう大怪獣ガメラのようなお姉ちゃんズを、ザ・ピーナッツのモスラの歌で鎮める。

 まず1から3は論外なので、4を選んでしまった後の不幸な未来を予測するため、泣きながら未来予測する祐一クン……
「…香里、お前を殺す」
 その挑戦状を黒い笑顔で受取った香里と違い「まあ、なんてことを……」などと言いながら、ご学友のリリーナ様?を気遣うクラスメイト達。
 最後の授業参観の当日、休んでいて不在だったとは言え、クラスのほぼ全員が香里を応援して結婚式当日まで頑張っているのを見ながら、そこまでの対応をした舞と佐祐理を許せず、即座にイジメが開始された教室。
 まずは佐祐理、舞の教科書やノートは落書きされまくって、破かれて汚されて返却。机には油性マジックでビッシリ落書きされて一輪挿しが置かれ、過去の栞の机と同じになっていた。
 私物の鞄や引き出し、ロッカーには汚物投入、弁当箱は中身をぶち撒けて何度も破壊。やれることはやりまくって佐祐理を不登校にし、舞は教科書もノートも筆箱も持てないような状態にされ、クラスの女達や香里が高笑いして勝利宣言した頃、各自の自宅に倉田家顧問弁護士から訴状が届き、倉田佐祐理嬢と川澄舞嬢に対する慰謝料、治療費、社会復帰のためのトレーニング、復帰のための講習費用の請求。さらに鞄に入っていて壊された祖母の形見の品や、有田焼、景徳鎮などの重要文化財の茶碗、国宝級の工芸品。過去の仏師が制作した最高級の漆塗りで、現在では既に入手不可能な当時のオーバーテクノロジーで作成された漆や顔料で、万葉絵巻を鮮やかに描き出した百首のうちの九十点の重箱と箸と国宝級の重要文化財が壊され、漆が剥がれていたために使用されなかった数点だけが残されたり、被害を受けた最高級の青磁の器の天板には、キトラ古墳と同じ星図が描かれ、古代中国の天文図と朝鮮王朝が秘蔵していた天文図の比較証拠として、カビや湿度の変化の色あせで既に失われた古墳の代わりとして、蓋だけでも何度も文化庁から要請があって貸し出し、真贋の鑑定が何度もなされ、有り得る最高の技術で撮影されていて、四段重ねの器それぞれの周囲に描かれた四聖獣は今にも動き出しそうな活き活きとした描写と技法で描き出され、それでいて落ち着いた色彩が今も尚失われず、調査におもむいた調査官と、その時代を描いた時代小説の作家でもある鑑定士が、その場で卒倒して失禁し脳梗塞まで起こし、両脇を抱えられたまま病院に直行したと言う曰くつきの品なので、鑑定結果は出ていないが、もし真作なら調査後即座に国宝指定されるのが確実視されていた品を、何度も破壊された重箱の代わりを佐祐理が探し、コレクターであった曽祖父の品を、許可も得ず「うっかり」蔵から持ちだしてしまって舞との昼食の弁当箱として使用していて、イジメの結果破壊。当然現代の技術では再現不可能な、青磁の美術品を割ってしまった女子生徒達に対し、美術品修復の専門家に提出して修復する費用など、まず着手金として五十六億八千万円の被害届と慰謝料の請求が出された。
「何、これ……?」
「有り得ない……」
 世界でもニュース配信され、「中国本土にも残っていない国家レベルの宝を、日本鬼子ごときが破壊した」のを許せず、中国全土で反日デモが巻き起こり、進出していた日本企業が多数焼き討ちにあい、日本人駐在員が監禁されリンチに、大使館にはデモ隊が押し寄せ火炎瓶で攻撃された。
 韓国では「韓半島の至宝を日帝が略奪し、返還する前にチョッパリ如きが壊してしまった。直ちに謝罪と賠償を要求シル」と反日デモが巻き起こり、大使館前ではいつものウィーン条約違反のパフォーマンスが連続し、慰安婦像に抱きついて泣き女のBBAがアイゴーアイゴーと泣き叫び、日本の国旗を焼いて、国鳥であるキジを生きたまま裂いて生で食べ、割腹パフォーマンスとジッポオイルでの焼身自殺?パフォーマンスも披露。何故か米軍基地に多数の人間が乱入、地雷犬のように調教された女子中学生二名が移動中の装甲車の下に滑り込み無事脂肪。「米軍は出て行け、戦争時統帥権を返還せよ」の一大デモが起き、国家全体が騒乱状態に陥った。
 北朝鮮では、日本人亡命者や日本人の血を継ぐものが「成分が悪い」という理由で全員強制収容所送り、拉致被害者なんかも鬼籍に入れられ口封じが行われた。
 地方紙に加害者側の女子生徒連名で投書があり、「北方四島返還が当然で、二島返還論者は売国奴、帝政ロシア時代にロシア皇太子に斬りかかった警官の名誉回復を要請、証拠品として押収されたサーベルと制服を国宝として指定せよ」と掲載され、ソビエト崩壊後「札びらで殴り倒す」外交を展開し、ムネヲ議員とか外務省ロシア課の努力が水泡と帰し、合意文書の覚書も白紙撤回、交渉団全員国外追放され帰国、共同開発中のサハリン2の権利と設備を全て放棄するよう申し入れが入った。
 学校には即座に「文部大臣と次官」「文化庁長官、次官」「外務大臣と次官」「教育関係者や大量の役人、警護の警官達」が連日視察に到着し、校長、教頭、学長、事務長、PTA会長、地域の教育長などが血の小便と血便と吐血を垂れ流しながら土下座謝罪して、値段を付けることなど到底出来ない、中国北朝鮮韓国日本の四カ国でも国宝以上の品を故意に壊し、国家の友好状態をも破壊した学生を即座に全員退学処分。校長教頭担任教育長は耐えられずに一週間以内に自殺(させられた)
「学び舎で起こった、国家存立以来、考えられる限りの最大級の不祥事」として取材陣も殺到。メディアスクラムで夜討ち朝駆けアリアリ、新聞テレビ、週刊誌が揃って突撃し、国宝と外交関係を破壊した生徒の家や親族は週刊誌で実名報道されて日常生活も不可能になり、父兄や親族が勤務していた職場、会社、公共機関も全員を懲戒解雇。それでも被害は収まらず、美術品愛好家の政治家、皇室関係者、歴史家、社主、金主、株主、総会屋、右翼、などなど…… 中国共産党、南北朝鮮、世界の青磁愛好家、美術館関係者、コレクター、評論家などなどから一斉に批判され、失われた美術品への追悼発言が送られ、修復を依頼された専門家も「技術を誇示しようにも名前を売ろうにも、手を出した瞬間に確実にタヒぬ案件」としてゼロであろうがフジタであろうが全員に拒否され、中国の青磁の産地に送っても、正倉院に保管されている器物と同じで「このように素晴らしい品は、現在の技術では同じものは決して作れず、勿論修復など不可能です、もったいない事をしました」と送り返され、割れた部分だけを繋いで、液体が漏れる場所を詰めて返された。
「ごめんなさい、知らなかったんです、許してくださいっ」
 そんな寝言が通じない、中国朝鮮の処刑人が多数入国していて、被害者の佐祐理と舞を除き、事件を起こした女生徒、家族、親族は完全に社会から抹殺され命も失った。過去の勤め先は取引停止にされ、官公庁には出禁。契約書のある案件でも「重大な過失」を指摘され契約解除、協力会社も保身のためと連鎖倒産を防ぐため、潮が引くように消えて行き、入社時に書かされて誰の名義なのかも忘れたような保証人に対して損害賠償が行われ、故人でも法定相続人全員に請求。大勢の被害者と破産者、路頭に迷って自殺する者を多く生み出し、通勤時間の鉄道が何度も止まり、アイキャンフライした人物も増え、被害がどんどん拡大して行った。
「い、いやっ、助けてっ、殺さないでっ、いやあああああああっ!」
 こうした災厄の中で「主犯格の加害学生が普通の生活を送っているのは間違いでは無いか?」と言う風潮や世論が巻き起こり、逃亡先の安ホテルでも「床のカーペットを掻きむしって生爪が剥がれたり、爪の隙間に繊維がたっぷり挟まりながら抵抗しても、まるで窓の方向に引き摺られるように足から窓に向かって自分で歩き、隣のビルにまで泣き叫んで命乞いをする声が聞こえたけどそれは気のせい、意識を失った後も備品のウィスキーの小瓶を自分で全部胃袋の中にに飲みこみ、浣腸の趣味があったらしく、自分で肛門からアルコールを注入するような悪癖も公開、両手足を自分で縛って口と鼻と目にガムテープを張るマゾヒスト趣味まで披露し、身動きも呼吸もできない状態で、日本人には少ない東アジア系のDNAを持つ男性複数と援助交際し、自分で体に「中華人民共和国万歳!」と簡体中文で記入。首と背筋の力だけを使って窓に向かってジャンプ、隣との隙間が30センチしか無い場所に滑り込み、9階から地面に向かって飛び降りて自殺」という、所謂「エクストリーム自殺」が大流行した。
「それだけはっ、それだけは許してっ、それも食べますけど、どうか命だけはっ、現役の女子高生ですよ? 何でもしますからぁ、ぎゃあああっ! お母さんっ! いやあああっ! お願いしますっ、どうか命だけは……」
 車の知識がない女子も、車体の外から全面にテープで目張りをして、ボンネットからエンジンの隙間を通ってエアコンの空気取り入れ口から車内に入り、家族と一緒に車内でバーベキューを楽しみ、練炭の炭で肉を美味しく頂き、解剖後も家族全員の胃の中に同じ焼き肉を確認済み、誤って一酸化炭素中毒で亡くなってしまった後、車外からガソリンを掛け、燃料キャップを開いたままキャンプファイヤー、車体にハングルで「チュチェ思想マンセー、150日労働闘争を完遂せよ!」とスプレーで書いて、燃え盛る車の中にまたボンネットから車内に入り、焼け落ちた後に自分で両目に金日成バッジのピアスを入れ、一家仲良く天国の旅行に旅立った。
「おぐふうっ、おげえええっ、ぐぼおおおっ!」
 人命尊重のためもあり、加害学生の少女は少年院に隔離され、集団生活を送りながら社会復帰を目指し、名前を変えて別の地域で生活を始められるよう訓練が行われたが、自責の念からか、同居人が多くいるにも関わらず、自ら「ねじりん棒」を咥え、三段ベッドの上から何度も「パラシュート部隊」を実行して、失神しても血が混じった便を失禁しても止めようとせず「丁度人間の両足か両膝のような物体」に向かって腹から何度も何度も飛び降り、内臓に大きなダメージを負って、刑務官に腹痛を訴えて泣き叫んだようだが、素行不良でいつも病院に行きたがって作業をサボる生徒の行動を見ていて、毎回却下され続けたために、抗議のため自分の血で壁に日章旗を描き、負傷が発覚しても治療の甲斐無く亡くなるものが続出した。
 合計50名以上ものエクストリーム自殺者を出し、通常の自殺者も150名以上、重軽傷者計測不能、wikiの三大読み物、「三毛別羆害事件」「日本住血吸虫」などの一位がついに交代し、自殺、犯罪部門では「北九州監禁洗脳連続殺害事件」「兵庫県尼崎の監禁洗脳連続殺害事件」に並ぶ読み物になった。死傷者数や悲惨さでも南米で起こった「ゴイアニア被曝事故」を超え、真実はジョークサイトのアンサイクロペディアだけに記載されるいつもの事態になり、ハンスウルリッヒルーデルかシモヘイヘの記事のようになった。
「ようし、よく言った。今度こそ事件の全貌を解明するぞ、行こうっ!」
「はいっ!」
 この経緯を調べたいと申し出た記者の目の前で、ゴーサインを出した上司が伸身のニ回転半から脚前挙で喜び、ツカハラからコリバノフを決めて、誤って本社ビルの窓から転落、屈伸のブーメラン状態で飛行し、約3800メートル向こうにある人権弁護士の事務所に窓からエクストリーム入室、資料一式を持ち去って10階から地面に向かって頭から着地。その一部始終を目撃してしまったトラウマで精神病院に入院した記者と弁護士は、その日の夜に両手足を広げても届かない幅の排気ダクトを登って屋上に出て、受電設備から動力の400V電源で感電して一時間以上楽しんで、両手足の神経が焼き切れた状態で消防署のハイパーレスキューやレンジャー部隊顔負けのロープアクションを実行、受電していた電線を伝い、トランスの上位にある6600Vの高圧電線でダンスし、何故か漏電ブレーカーも作動せずにブレイクダンスを楽しんでからブラックメンになって炭化し、カラスの巣の上で一週間も眠っていた。
 教室から大半の女子と数名の男子が消え、他のクラスも転出多数、廃校になって絶望先生の最終回みたいになった教室。当然香里の結婚式は中止され、香里も家族も行方不明、栞だけが佐祐理のM奴隷兼メイドとして生存した。

「らめええええええええええええええうええええええええええぅええええええええっええぅええっ!!」
 怖すぎる佐祐理お姉ちゃんの仕返しを思い、心の声ではなく地声で悲鳴を上げてしまう祐一クン。
 ダッシュで香里に向かって床になぎ倒して頭を下げさせ、お姉ちゃんズに向かって土下座を開始する。
「佐祐理お姉様、どうか、どうかこの相沢祐一に免じて謝罪を受け取って、この馬鹿を許してやって下さいっ! 平に、平にご容赦の程を~~っ!」
 もう靴の裏を舐めようがどうしようが、クラス全員の嘲笑の的になろうが頼み込んでみて、クラスの半分以上が虐殺され、見せしめのために家族も処刑執行されるよりはマシだと思い、何があろうと今後とも佐祐理にだけは反抗しないよう誓ってから頼み込んだ。
「………許した」
 多少時間が掛かったが、実の姉の方は謝罪を受け取って許してくれて、剣を鞄に収めた。佐祐理お姉ちゃんも席を立ち、祐一に近付いて頭を上げさせた。
「いけませんよ、一弥。倉田家の男子たるもの、そう簡単に頭を下げるものではありません。特にクラスのみんなが見ている前で、お姉ちゃんに向かってなど」
 祐一の「北海道土下座組」を堪能して許してくれたのか、その場で立たせてくれたお姉ちゃん。しかし香里の方は起こそうともせず、背中を踏みつけて潰した。
『よくもクラス全員の前で一弥に土下座などさせましたね? この代償は必ず払って貰います』
 空気中の原子がイオン化し、猛烈なイオン臭を撒き散らし、クラス全員の頭髪が逆だって上に引き寄せられる。
 教室にセントエルモの火が点灯して窓枠や金属部分が発光し、消灯してあるはずの蛍光灯が次々に点灯した。外ではゴロゴロと激しい雷の音がして、稲光が直上にまで近寄って校舎を責め苛む。
『佐祐理っ、だめっ!』
 舞が制止するほどのエネルギーが佐祐理本体に蓄積され、その破壊力とエネルギーは全て香里を目指していた。この術が実行されると、ジュール熱で香里だけでなく佐祐理の人体も焼け焦げて消失する。
『タヒね』
「らめええええええっ!」
 無詠唱で実行されるはずの雷撃だったが、祐一が抱き着いて佐祐理の唇を唇で塞いで止めた。
「うっ、ううう」
 佐祐理としても、一弥を感電させる訳には行かないので、雷撃を止めた。
「「ぷはっ」」
 一分近く掛かったが、佐祐理のご機嫌が真っ直ぐになり悪天候も回復、通常のゴージャスさゆりんの固有結界が張られて、香里、委員長、王子、香里を応援している女子、不倫賛成派なども陥落した。
「もう… 一弥ったら、人前でこんなにキスするなんて」
 唇周辺の涎をハンカチで拭き、満更でも無い表情で顔を赤らめ、少し顔を背ける佐祐理。
 周囲でも「やっぱり香里じゃなくて倉田さんなんだ」「やっぱり金と財産目当てなんだ」「政治家の地盤を継いで政治家になるつもりなんだ」などなど、嫌な声が聞こえたが、全く否定できない祐一。
 昨日は香里がいる真横で舞をヤってしまいそうになり、未来予知で栞や月宮一行からのの「オットセイくん切除手術」を回避し、佐祐理からの報復も回避。転移技で舞の家に連れ込んで貰って佐祐理まで呼び出して3P、という嬉し恥ずかしい行為をヤリまくった記憶があり、オットセイくんと自分がしでかした犯罪の大きさに、どこで選択肢を間違えたのか考え、セーブポイントを探したが、現在の祐一クンにはタヒに戻りの機能や魔法も無く、クラスメイトにも佐祐理お姉ちゃんの仕返しの怖さを説明しようも無く、冷や汗や脂汗を流して耐えるしか無かった。
「はい、もう何でもします。お姉ちゃん達と結婚でも奴隷契約でも何でもしますから、こいつらまで殺さないで」
 涙声でお姉ちゃんズに懇願する祐一クン。足もガクガク震えてマジお漏らし寸前で、オットセイくんも怖すぎて縮み上がって、ミドリガメくんに変身していた。

「香里、立てっ」
 舞に引き起こされ、無理矢理立たされた香里。そこで左手の平手打ちが飛んだ。
「きゃっ」
「私は昨日まで「お前の中に入って」、命も繋いでやったし、背中を押しもしたっ、でも今のは何だっ? 死にたいのか? 私に殺されたいのかっ?」
 胸ぐらを掴まれて激しく揺さぶられる香里。周囲の人間にはその言葉の意味までは理解できなかったが、この二人は中に入ったり出たりする不潔な関係で、舞と香里が因縁浅からぬ間柄なのは理解できた。
「えっ?」
 いつもなら気の強い香里からも仕返しの平手打ちが飛んで、激しい争いが起こるはずだったが、それを期待した人物にも、香里をよく知る人物からも意外と思われる結果が出た。
「そこにいたのねっ、どうして川澄さんの中に帰っちゃったの? 病院で一人なんて寂しかったっ」
 香里は舞の胸に飛び込んでオイオイ泣き始め、祐一に対して行うはずだった行為をクラス全員の前で披露し、二人の関係が深すぎて危ない領域に入っているのも公開した。
「えっ? あの二人デキてたの?」
「やっぱり香里ってガチ?」
「じゃあ、どうして相沢くんと?」
 クラスで公然の秘密、舞*佐祐理、香里*名雪、それ以外にも祐一*佐祐理、舞*香里、実の姉*祐一のカップリングまで公開されて、以前の香里*祐一、名雪*祐一、真琴*祐一、栞*祐一は何だったのか考えさせられる一同。
「どうしてあたしだけ置いて帰っちゃったのっ? あれから一人で寂しかったんだからっ! ねえ、帰って来て、また「あたしの中に」戻って来てよっ? お願いだからっ」
 命を繋ぎ、エネルギー補充をするのに祐一に依存していた香里だが、その心は舞の魔物、左手の怒りの人格に、もっと依存していた。
『私も自分の体に帰れたばかりだし、祐一とも一緒にいたい』
「もう貴方がいないと生きていけないのっ、貴方に支えられていないと、一人で立ってなんかいられないっ、お願いっ、お願いだから~~っ」
 普段、気が強い女がマジ泣きして、格好良い姐さんに抱き着いて泣いている姿を見せられ、多数の男子も「やっぱコイツらデキてんジャね?」と思い始めた。
 あまりにドロドロでヌレヌレの六角七角関係で、誰がどう付き合っていて破局しているのかも、舞と香里がいつの間に出来ていたのかも分からず、クラスの連中も穢れた大人の恋愛関係に戸惑った。
『仕方ない奴だな、少しだけだぞ』
 舞は香里の顎を持ち上げると、通路を作るよりもう少し熱が篭ったキスをした。もちろんクラス全員が見守る中で。
「「「「「「「「「「あああっ!」」」」」」」」」」
 香里も涙を流しながら嬉しそうにその行為を受け止め、背中に回した手を緩めようともせず抱き合った。
「おい、挨拶のキスじゃねえぞ」
「あの二人、デキてたんだ」
 そこで、佐祐理の敵認定までされていた香里だが、舞の左手の仮住まいだった体でもあり、妹同然の扱いを受けている女だと気付き、仕方なくオーダーとアルター能力を発揮した。
『舞の左手さんのお気に入りを殺す訳にも行きませんね、貴女も佐祐理の妹になってもらいますよ』
 佐祐理からも「死の接吻?」を与えられる香里。さらに…
『ズレソデタヘミサコヅ、ラキグフェタクデヘニト。もうお前はゆうくんに嘘をつけない、暴力も振るえない、お前は一生相沢様の下僕だ』
 美汐プレデターさんからも術を喰らい、「精霊の移動」「ゴージャスさゆりん」「美汐の術」と気絶物の技3連発のコンボを食らって、ピヨって倒れた香里。そのタヒ体は祐一に託された。
「え? 俺?」
『そうなのダ~、左手は香里に移動したからボクに交代したゾ、エヘンッ』
 人格が喜びの舞に切り替わったようで、何か意味不明だが偉そうにする姉。
 とりあえず香里を席に座らせて放置、とも思ったが、現在香里の席には名雪、自分の隣には美汐が陣取っているので置く場所がない。ピヨり具合も相当なので椅子では自立させられず、仕方なく保健室に搬送しようとお姫様抱っこしてみた。

 選択肢
1,邪魔くさいので美汐に「コイツも俺の女だ、気がつくまで面倒見てやれ」と命じて介抱させるか、美汐ちゃん梱包材で椅子に縛り付けて放置させる。
2,邪魔くさいので名雪に「コイツも俺の女だ、気がつくまで面倒見てやれ」と命じて介抱させるが、舞と香里の関係に嫉妬した名雪が、憧れの川澄先輩ともっと深い仲になるために体の精霊を交換し始める。
3,邪魔くさいので栞に「コイツも俺の女だ、気がつくまで面倒見てやれ」と命じて介抱させるが、これ幸いと姉の処刑を始める最終兵器さんを見て恐怖する。
4,邪魔くさいので舞に「コイツも俺の女だ、気がつくまで面倒見てやれ」と命じて介抱させるが、今は喜びの舞なので、香里は大勢の目の前で頂かれて裸にひん剥かれそうになり、慌てて保健室に連れて行く羽目になる。
5,佐祐理お姉ちゃんにだけは逆らわない。香里が暗殺される前に保健室に出頭して、保健医に救いを求めてみる。

 選択「5」
「相沢くん、香里を保健室に」
 気を失った香里を支えるのに、委員長も駆け寄って手を差し伸べたが、そこで純血の妖狐の手に触れてしまった。
「あっ」
 接触部から妖狐の強い妖力を受け取り、鼻からは妖狐のフェロモンを嗅いでしまい、発情させられた委員長は、恋をしてはいけない相手に恋をして、自らの不倫賛成を肯定する立場に立った。
(あ、相沢くんって、こんなに格好良かったかしら?)
 お姫様抱っこのまま運搬される香里を補助しながら、祐一に接近を図る委員長。
 その行動と赤外線による体温上昇、局部、腹部の温度上昇は栞に見破られて「祐一さんに女が近付いているセンサー」が働いて追跡され、いつものように美汐プレデターさんも同行した。

『ふっ、キャピュレットの犬め、我が弟に手を出そうなど片原痛いわ』
 何やら喜びの舞が一人芝居を始め、倒れたジュリエットだかティボルトに、嘲りの声を掛ける。
 佐祐理は舞の人格が切り替わったのを見てビデオを準備し「舞ちゃん一人ミュージカルの巻」を録画していたが 大好物の匂いを嗅いで、舞の芝居に全力で乗っかった人物がいた。
「おのれ、モンタギューめ、我が剣を受けよ」
 手持ちの30センチ定規で斬りかかったのは、演劇部の王子だった。
 もうこの頃には、観客も全員変なスイッチを「オン」に切り替えられていたので、生タカラヅカ歌劇を見た女子もキャーキャー言いながら、参加したり観客に回ったりして、王子様二人を見守っていた。
「ああっ」
 剣術の心得がない王子は、簡単に舞に定規を奪われ、腕を捻られて背後に回られ、定規を喉元に突きつけられた。
『ふふっ、その程度の業前で私に立ち向かおうとは愚かな』
 背後から顎を持ち上げられ、腕を捻られて動けないまま抵抗もできず、唇を奪われる王子。
「「「「「「「キャーーーーッ!」」」」」」」
 佐祐理の「魅了」の魔法を見た舞も使い方を覚え、王子を自分の虜にした。
 それを見せられた佐祐理のご機嫌が少し悪くなったが、王子のタヒ体は佐祐理の腕の中に転がされ、再びまたたび餌食になった。
『うふ、佐祐理、背が高くて格好良い女の子に目がないんです、貴女も佐祐理の妹になってくれますか?』
「エ? はい……」
 その後も舞のキスが欲しい数人の女子が突入して餌食になり、邪魔な男子は蹴り倒された。
 舞か佐祐理好みの処女の女子は、魅了の魔法で虜にされ、ゴージャスさゆりんの餌食になって行った。

 どこかの天文台。
 太陽周辺に、フレアも背景の星の光も透過させない、ガスのような「染み」を観測。各観測所に追試を依頼したい。という報告が相次ぎ、混乱を極めた。
 さらに木星周辺でも同様の現象が観測され、ガスでも天体でも無い黒点、黒い帯とでも表現するべき物体の存在が確認された。
 木星周辺では小さい衛星が二個ほど行方不明になり、木星を観測する人工衛星も何個か行方不明になった。
 問題なのは裂け目の向こう側が、「電波、電磁波がこの宇宙と同じように伝搬しない」「重力や物理法則が、こちら側と違い、普通のガスを通過するように軌道計算もできず、入り込めばどこに行ったか、どうなったかすら予測不能」なのが問題になった。
 通常、太陽系全体、太陽圏は高速で移動して銀河を回っているので、もし途中で裂け目を作っても後に置き去りにするはずが、この裂け目は太陽や木星と一緒に付いて来た。
 この宇宙での空間の概念ではなく、向こう側の宇宙の物理法則に従って、書き割りのセットが壊れたように、移動する太陽と同じ場所を裂け目も移動していた。

 保健室までの道のり。
「そっと、そっとよ」
 香里をお姫様抱っこのまま運搬する祐一に寄り添い、できるだけ時間をかけて保健室に行き、二人っきりの時間を作ろうとしている委員長。
 階段に近寄ると下段で待ち構えて、祐一が足を踏み外さないよう、香里が落ちないよう気を使って支える。
「お姉ちゃんは私が運びます」
 その思惑まで察知した栞が姉を奪い取り、魔物の腕力で小脇に抱えて、右手一本で持ち上げて階段を降りる。
 舞お姉様から頂いた大切な特服は、足で踏んだり地面に擦ったりしないよう気をつけたが、姉の方は乱雑に、時には故意に手すりとか柱に当てて「ゴン」とか「ガン」とか鳴らしながら大股で歩き、保健医不在の保健室に乱入して空きベッドに姉のタヒ体を乱暴に投げ出した。
「ぎゃっ」
 パンツやケツ丸出しで転がる姉を放置した栞を見かね、委員長がスカートを直してやり、靴と上着も脱がせ、薄い布団も掛けてやる。
「美坂さ… 香里さんどうしたのかしら? 川澄さんともいつの間にあんなに親密になってたのかしら?」
 委員長的には、祐一と香里、佐祐理、舞、目の前の栞との関係の方が気になったが、クラスの話題と言うか懸案事項として、舞と香里の仲を把握しておきたくなって聞いてみた。
「え? あいつらは… どう言ったらいいのか」
 一般人と思われる委員長には魔物や使い魔を説明できずにいると、栞が口汚く話した。
「うちのお姉ちゃんは誰とでも寝るクソビッチです。名雪さんと関係がありながら、祐一さんも誘惑して、舞おねえ… 川澄さんとも同時進行で「肉体関係」があって、男女見境い無しです」
 ちょっと事実とは違ったが、栞が簡潔に解説してくれたので、否定もできない祐一。
「え? そうだったの?」
 栞の悪態や冗談?に気付かない真面目な委員長は、その言葉を信じた。香里から祐一への純愛を聞いて応援していたが、自分の恋愛事情にも都合が良く「その必要は無い」と切り替えられ、自分の恋を優先させた。
「でも相沢くんも、栞さんに始まって、水瀬さん、香里さん、川澄さんに倉田さんでしょ? 凄いのね」
 もう自分もその仲間でも良いのか、ジゴロで女殺しのテクニックで引っ掛けて欲しいのか、笑顔で問いかける委員長。
 今のところ真琴二人、月宮一行、秋子、美汐、ヤンキー女、眼鏡地味子さんなどへの乱暴狼藉の数々は聞き及んでいないらしい。
「うぐぅ」
 清廉潔白な人物から、自分の乱行を指摘されてしまい、うぐぅの音を漏らす。
 この上、未亡人下宿の管理人である、戸籍上の叔母までヤってしまった叔母さんファッカーで、血の繋がった姉もヤったシスターファッカーで、1月まで狐のメスだった子までやった北海道獣姦道路ファッカーだと気付かれれば、人間として扱われないのは明白で、汚い物を見る目で見られるか、別の委員長みたいに「不潔よぅ~~~」と叫ばれて、文芸部員A,Bかチトセくんみたいにアッパーカットを食らって星になるしかない。
「でも正直、そんなに女の子にモテる相沢くんに興味が湧いてきたわ」
 祐一も目の前の真面目な女が、いつものように妖狐の妖力やフェロモンにヤられて頬を紅潮させ、目の下も少し充血させて腫れぼったいような表情になり、多分下腹部も充血させてパンパンに膨らませて、メスの顔をして発情し、交尾をせがんでいるように見えた。
「「ああ?」」
 その言葉を聞いて、顔を歪める化け物二匹。
 授業を受けていて教室から出ず、騒乱にも話し合いにも参加しなかった委員長は、目の前にいる栞が北海道の大半を統率する暴力集団の頭で、その気になれば警察組織もブッ倒して、委員長みたいな小娘一人、オホーツク海に沈めても困らない存在なのを知らなかった。
 さらに背後に控えて姿も気配も消し、今にも術を発動して左右からこめかみを突き刺し、謎の呪文を唱えて支配下に置こうとしているプレデターが怒りの表情で睨んでいるのにも気付いていなかった。
(逃げてー、委員長全力で逃げてーーっ)
 朝から十人以上の被害者を出し、先程はレディース総長と校長を病院送りにしたポケットに収まりきらないモンスターは、怖い顔をしながら委員長の背後に迫って両手の人差し指と中指を立て、こめかみに突き刺そうとしていた。
(ユルシテ、一般人は壊さないであげて、ユルシテ)
 委員長の眼鏡のつるに横に両手を当てて、美汐の攻撃を防いでやる祐一。
 それを見た美汐は「ゆうくん? どうしてこの女を庇うの? もしかしてこいつが気に入ったの? そう、そうなのね?」みたいな、もっと怖い表情になって、突き立てる予定の指を六本、八本、十本と増やし、脳が焼き切れるぐらいの術を叩き込もうとしていた。
「え? 相沢くん? この手…」
 困ったことに先ほどゴージャスさゆりんの結界内で、変なスイッチをオンにされていた委員長も「もしかしてキス?」みたいな勘違いをして自分で眼鏡を外してポケットに収め、「ジゴロな男性に騙されて、このままロストバージンしてもいいかしら?」ぐらいの決心をして目を閉じた。
(チガウヨ、チガウンダ、インンチョウ)
「デギシャルヘジネ、ラスチクテ…」
 祐一の悲しい心の声は委員長に通じず、泥棒猫でメスブタの女を処刑するため、最終兵器さんのマッスルボディが唸りを上げ、嫌なマイナスの妖気を発散するみーちゃんが、石仮面から出る骨が刺す穴に合わせて指を叩き込み、清純な委員長を夜の生き物に変えてやろうとして謎の呪文を唱え始めた。
「らめえええっ!」

 選択肢
1,ギャグキャラとして、委員長が受けるはずの制裁を一身で受け止め、最終兵器さんの殺人フルコースを受けて、美汐の術で夜の生き物になって「URYYYYYYYY」とか叫んでみる。
2,ギャグキャラとして、決心してくれた委員長にキス。当然の結果としてパロスペシャルを極められた状態で美汐からも大車輪キックを受け、リングネーム「死刑執行人シスターズ」の攻撃を一身で受け止め、ツープラトンの攻撃からトップロープに持ち上げられ、雪崩式のブレンバスターとかキャプチュードを喰らって天国に旅立つ。
3,「お客様の中にお医者様はいらっしゃいませんか?」みたいな感じで保健医とか、さっきいたはずの用務員のおじさんを探して、隣のベッドとかにも応援を要請してみる。
4,ポケモンボールを探り、「天使の人形、君に決めた」みたいな感じで、まだ眠っている天使の人形を叩き起こし、昨日の夜みたいに周囲の女全員をヌレヌレのヌッチャヌチャ、その場にへたり込んで汁だまりを作って発情するだけのメスに変えてやり、ややこしい状態の香里も一気にメスブタ奴隷の孕み奴隷に変えてやる。但し、この場合委員長も巻き添えにしてメスブタにしてしまうので、ヤルことをヤってやらないと発情しきったまま脳が壊れてしまうので、いつものコースに突入。

 選択「3」
「先生、保健の先生はいませんか?」
「どうしたのかね? その声は相沢くんか?」
 隣のベッドには、先生は先生でも教頭が寝ていて、魅力的な低音で声を掛けられた。
 委員長を処刑する体制に入っていた栞は「チッ」とか言いながら戦闘態勢を解除し、人間を辞めてるお嬢さんも、指から生やした爪を猫みたいに引っ込めて、人外の術を行使するのをやめた。
 祐一としても「日頃の人徳とは、このような状況でも役立つのだ」と思い知らされ、自分には清廉潔白な人生は送れないが、どうにかして人徳を積めるよう努力してみようと考えさせられた。
「どうしたんですか?」
 カーテンが開くと、中から中学生ぐらいの女子も現れた。
 真面目そうで眼鏡なのは委員長と共通だったが、髪の毛まで纏め上げられて頭の後ろにピッタリと張り付いて後れ毛すら無く、前髪まで髪留めてシッカリ固定。もう服装までカチカチで、上着には髪の毛や埃一つすら乗っておらず、繊維の流れまで一方向。ブラウスの袖までアイロンが当たって糊も効いてカチカチ、スカートの丈も完全に標準の長さを守り、プリーツの一つ一つまでアイロンが当って、靴下、靴、靴紐の結び方、名札の角度、全てが完璧で、軍隊の服装チェックが入ったとしても、鬼軍曹殿でもケチが付けられず、褒めてもらえるぐらいの一糸乱れぬ服装をしていた。
 さらに表情、目付き、口の閉じ方まで完璧で隙がなく「こうしていればイジメを受けることもなく、誰からも侮られる心配も無いのだ」と思わされる顔付きで、何より体幹が通っていて、背筋の伸ばし方、姿勢、腕の動かし方、発声の仕方、両足の踏み幅、細胞一つまで何一つ間違っていない人物がカーテンの向こうに二人もいるのを見せられた。
((((勝てない))))
 美汐の術も、栞のマッスルボディも、委員長の弁舌も、例えゴージャスさゆりんでも、フルパワーの妖狐による魅了や誘惑も、この少女にだけは通じないのでは無いかと思えた。

「あ、教頭先生とお孫さんですね、どうも」
 現在のメンバーで、誰にも存在を察知されていなかった眼鏡地味子さんが声を出して挨拶し、全員を驚かせた。
(((((気が付かなかった)))))
 例え香里や栞とパコパコヤリ始め、委員長も巻き添えにしてドーブツのメスにして交尾し終わっても、声を掛けられなければ存在に気づかなかった相手に驚かされる。
『貴女いつの間に…』
 隠形の術を使っている美汐より効率的に、何の術も使わず体力やコストゼロで姿を消していた過去の親友に驚かされるプレデターさん。
「えっと? 君は…」
 生徒全員の名前と経歴を記憶している教頭も、この生徒の名前と経歴だけは、どうしても出て来なかった。
(この子は確か…)
 小中学校で何度か同じクラスになり、名前を知っているはずの栞も、地味子さんの名前だけは思い出せなかった。
(((((恐ろしい子…)))))
 先ほど結ばれたばかりの祐一も、その状況すら忘れそうになっていて、どうも妖狐の妖力を受け取った地味子さんの元々の素養が開花し、素で隠形の術を使い、自分から正体を表さない限りどんな検問でも通過できる体になったらしい。

 二年、美汐の教室。
 その頃、二年の教室でも事件が起こっていた。
 休み時間に美汐が話す「鬼籍の濃い?シーズン4」も問題で、名誉殺人によって処刑されそうな所を、まるで怪盗のように盗み出して救ってくれた憧れの先輩の「作話」も話題になっていたが、それを話していたのは、その内容を録音?されていた沢渡真琴だった所にある。
 純血の妖狐のメスがひとたび髪を掻き上げれば、教室中にそのフェロモンが振りまかれ、外見が美汐の真琴に恋をする者が続出した。
 その声は人間のオスにとってセイレーンの歌声で、例え難破しようと座礁しようが向かって行き、破滅する結果が見えていても殺到するのが男である。
「天野さん、そんな「許されない恋」なんて駄目だ、俺なら君を幸せにしてやれる」
『い~のよ、あたしと祐一は結ばれて幸せになったんだから邪魔しないで』
 いつもの頭のユルそうな真琴語のまま喋っているが、これも術の影響でクラスメイトの脳内で翻訳され、いつも通りの美汐の語り口調に変換され、カチカチの堅い内容に切り替わる。
(翻訳:構わないんです。私はもう、相沢先輩と結ばれて、幸せになったんですから。話の腰を折らないで下さい)
 既に一時間目からメモが回ってきて告白され、ラブレターも何通か到着しても、どこかのアスカみたいに床に捨てて土足で踏んでゴミ箱に直行。休み時間に絶叫告白されても無視、女子のリクエストに答えて、美汐の指示通り「奇跡の故意4」を話し続けた。
「俺と結婚してくれ、天野さんっ」
『うっさいわね、あんたなんか知らないわよ、だから邪魔しないでって言ってるでしょ?(翻訳:静かにして下さい。私は貴方のことは何も知りません。ですから話の邪魔はなさらないで頂けますか?)』
 気の毒な男子は、ナンパに失敗して座礁し、波間に屍を晒し続けていた。

 ついでに祐一の隣の教室。
 既に月宮一行やヤンキー女、五月蝿い女は自分の教室に帰り、「俺もついにお母さんか、エヘヘ」などと別人のように笑っていたり、うるさい女は祐一から「せっかく美人なんだから、もう少し静かにしてればいいのに」と言われたセリフが頭のなかでグルグル回り、自分の席に座って手で口を閉じ、目を丸くしたり細めたり、顔を赤くしたり青くしたりして、先ほどの出来事を反芻していた。
 ボッチ女はボッチATフィールドを展開しながら、フィールドを破って入ってきた二人目、それも処女膜まで破って自分の胎内に侵入し、何もかも奪って行った人物のことを考えて含み笑いしていた。

 再び保健室。
「お、相沢の旦那じゃねえですか、丁度良い所に来なすった、このお嬢さんがさっき話してた教頭先生のお孫さんでさあ、気に入りやしたかい?」
「エ?」
 例え気に入っても、現在の祐一くんのチャックに奥にいるポケモンはオットセイからミドリガメくんに退化してしまい、怖がって外にも出て来ようとしない。
 さらにこんな完璧超人、鉄頭銅人で岩石鉄代さんを落とせ、と言う方が無理な相談である。
「私からもお願いする。教育者としては恥ずべき行為で、人の親、祖父としても、まともな人間なら言えない言葉だと重々承知している。しかし、私個人の我が儘として聞いて欲しい。この子も君の嫁として、神域とやらに連れて行ってはくれまいか?」
 ついに陥落した教頭も、教育者としての信念を捻じ伏せて、孫の将来のために、「この地域での注意事項」程度しか知識がない、妖狐の血族に嫁に出そうとしていた。
「イエ、コンナ、シッカリシスギタオジョウサンヲ、イタダクワケニワ…」
「この子は人前に出しても恥ずかしくない子として育てたつもりだ、どこか至らない所があるかね?」
 至らないどころか、至り過ぎて怖いと言うか、この姿を見ただけで自分達の行いが恥ずかしくなり、自分は相応しくない男だと感じ取ってしまう。
 さらに目の前で転がっているクソ女や、同等の嘘をついて暴力まで振るって来る妹、何か怖い術を連発しているヤンデレ女とは比べ物にならず、ちょっとレンタルでお借りして「この子が大和撫子の見本です」と紹介して、講師として招きたいと思ったが、女全員に嬲り殺しにされてタヒにそうだったので取りやめにした。
「さあさあ、この人がお嬢さんのお婿さんだ。その何だ「親同士が決めた婚約者」みたいなもんだ、もっと近くに」
 美汐が用務員のおじさんまで餌食にしようとしたので、抱き止めてどうにかしてやめさせると、教頭の孫から挨拶をされた。
「え? そうなんですか? 初めまして、只今ご紹介に預かりました教頭の孫で鉄代(仮名)と申します、どうぞお見知り置きを」
「初めまして、相沢祐一です」
 一同は「中学生が「ご紹介に預かりました」とか「お見知りおきを」とか言うか?」と思ったが、教頭の前なので黙った。
 年上のはずの祐一も、自分の挨拶時の語彙の少なさを感じ、敗北した気分だったが、自分が標準程度で相手が異常過ぎるのだと思う事にした。
「さ、もっと近くに」
 教頭の孫を押し付けられ、ほんの少し手が触れたが、普通なら委員長のようになって恋に落ちて発情するはずが、ほぼノーダメージの相手。
 祐一は鬼畜王ランスに出てくる女の子の魔王みたいに、ヒットポイントが20万ぐらいある子に、5から10だけダメージを与えて以後の攻撃を諦めた。
「教頭先生、後は若い者に任せましょうや?」
「そうかね、ではよく話し合って決め給え」
 どうやら「俺の孫をファックしてよし」と許可が降りたようだが、その前に話し合って本人に許可を取らないといけないらしい。
「え? お祖父さん、体の具合はどうなったの?」
「すまんな、それもお前を呼び出すための方便だったんだ。にわかには信じられないだろうが、先程話したように、この世は終わるらしい。その後の世界で生き残るには彼の妻になって神域とやらに篭もるしか無い。それが嫌だと言うなら私も諦めよう、だがお前にだけは生き残って欲しい」
 嘘をつかない人物が「方便」と言い、自分を曲げてでも孫を生かすように、自己の存立も孫の人格を穢してでも生きられるように道を作った。

(僕にもこの子をどうすればいいか分からないよ)
 常時、栞を監視して助けたり、タヒ人が出れば尻拭いをしている天使の人形の一部も、難攻不落の教頭の孫には手出しできなかった。
 
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