詩織の【中学校の美術の授業】
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「手を組んで、上に突き上げる。ちょっと腰をひねって」
中学生の話じゃ期待できないなんて思ってるでしょ。
大丈夫(?)。女の子の裸、出てくるよ。
◆
クロッキーって言葉、その授業で初めて知った。
古典のクロッキーの名作を何点か観た。裸婦もあったけど、デフォルメされてるから、なんてことない。
それから、椅子をゲームみたいに円く並べて、
教師が適当に指名した男子を中心の椅子に座らせて、クロッキー開始。
あ、上半身だけ裸ね。男子だから、なんてことない。
十五分で交代。クロッキーは短時間の芸術だし、モデルの子も描かないといけないし。
「次は……」
教師の言葉にかぶって、
「ハイ!」
と立ち上がったのが、なんと女子。
「おいおい、女子は……」
「だめですかぁ?」
と、シャツを脱ぎだしてた。
わ、ノーブラ。
そして、貧乳。
中学生の胸じゃないな。
教師が熱意に負けてOKを出すと、その子は、とてもナチュラルに、中心の椅子に着いた。
男子は突然の女子のおっぱいに、どう反応していいかわからないようだった。つまり、異様に静かだった。
このあと、
背中ばっかりだから席を移動したいと言う女子Aが現れ、
それなら、モデルの人数を増やせばいいと、女子Bが有言実行、自ら半裸になった。
私は、巻き添えで半裸。
3人でモデル。名付けて、阿修羅式クロッキー。
──────────
恥ずかしかったかって?
シャツを脱ぎ、ブラを外す時は、恥ずかしかった。
でも、おっぱいを出したら、平気。むしろ嬉しい。
嘘じゃないよ。
ポイントは中学生時代ということ。
乳房を女性のシンボルだと誇りに思い始める頃で、
おっぱいが成長するのが本当に嬉しい時期。
だから、お風呂は“おっぱいチェックタイム”。自分で揉んだりするし。
それにおっぱいって、健康美の象徴だと思う。
私だけかな?
とにかく、
“チラチラ見るからいやらしいのよ”
“きれいでしょ、もっと視て”
という気持ちだったんだけど、やっぱり、変態かなぁ?
──────────
美術の時間が終わると、すぐに普通の一日に戻った。
クラスメイトのおっぱいなんて、もう一生見られないでしょうけど(結婚でもしない限り)、私を含め、おっぱいを見せた三人が、冷やかされたりすることはなかった。
いつまでも騒いでいると、スケベ扱いされてしまい、他の女子から嫌われてしまうとわかっていたのかなぁ。
──────────
昼休み。
女子Aが、私の机に来た。
「背中しか見えない」と発言した張本人だ。
この際、はっきり名前を書こう。美奈子だ。
美奈子はクロッキー帳を見せた。
「うまい……」
やや斜めから捉えた、私の上半身。
つい、自分の乳房に見とれてしまった。
脱いでよかった。描いてもらってよかった。心からそう思った。
「私、美大に行くつもり」
美奈子は言う。
うん、行けるよ、この腕なら。
「で、私、あの3人のなかで、一番気に入ったの。ぜひ、全身を描きたいんだけど」
え? 今、なんか言った?
「今日の放課後、家に来てよ。あ、パンツは穿いてていいから」
──────────
着いちゃった。
連れられてきちゃった。
美奈子の家は普通だった。
台所にいたお母さんに挨拶して、二階の美奈子の部屋に入る。まあ、普通の部屋だった。
「緊張してるの? 女同士なのに」
緊張しないほうがおかしい。
「私が美大目指していることは、親も知ってるよ。こんな本も買ってくれる」
彼女が本棚から取り出した大型本──表紙が裸の女性の写真。
中身は、すべて全裸の女性の写真だった。ヌード・ポーズ・ブック。その名の通り、ありとあらゆるポーズをとっていた。
四つん這いなんて、着衣でも恥ずかしいのに、このお姉さん、ハダカで、平気なんだ。
健康で可愛いおっぱい、なんて自負が失われてしまう。
ダメだよ、中学生がこんな本持ってちゃあ。
「大丈夫、パンツは穿いてていいから」
また言った。
パンツは穿いてていい。
つまり、パンツ以外は身につけちゃいけない。
ともかく私は、たいして親しくもないクラスメイトの部屋で、ショーツ一枚でベッドの上にいた。
美奈子は、間違いなく芸術家だ。
私のヌードを正しく見ている。
落ち着いてるのは、同性だから、というわけではない。
仮に、モデルが裸の男性でも、普通に観察するに違いない。
彼女の筆は速い。
速いから、私は、ポーズを次々に変えなければならなかった。
いつの間にか、
私は床に立つ裸婦になっていた。
普通は立ちポーズ→寝ポーズとなりそうなものだが、これも美奈子の感性なのか。
相変わらず、ショーツ一枚で、「休め」のポーズで立つ私。
なにげないポーズほど、美奈子の針は振れるらしい。
─────────
「手を組んで、上に突き上げる。ちょっと腰をひねって」
言われた通りにする。
コンテが走る。
「そのまま、後ろを向いて」
回れ、右。
「いい。すごくいい。……でも、これだけはパンツが無いほうがいい」
あー。
うすうす予感はしていた。
美奈子が本当の芸術家なら、どこまでも純粋な表現を追求するはずで……。
コンテは動かない。
わかったよ。
私は、ショーツに手をかけ、一気に降ろした。
「ありがとう、詩織」
コンテが走る音がした。
◆
「お疲れ様」
美奈子が一階から持ってきたオレンジジュースを飲んだ。
「おいしい」
私はまだショーツも穿いてない。
それほど、全裸が気持ちよかったから。
「夕食、詩織の分まであるって。モデル料として食べてって」
「うん」
「部屋を出るときはパンツ穿いてよ」
「パンツだけでいいの?」
「かまわないけど」
どんな家だ。
─────────
(終わり)
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