| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

KANON 終わらない悪夢

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

34パーティー

 水瀬秋子が管理する「未亡人下宿」に入居していた学生、相沢祐一はついに思いを遂げ、血の繋がっていない叔母で管理人である秋子と結ばれた。
 ライバルのテニスコーチとかはいなかったが、後輩の栞とかヤンデレの姉、実姉だった舞とか、病み切った佐祐理お姉ちゃん、再会出来た初恋の相手だが、怪しい宗教の教祖の娘だった月宮真琴とオマケ三名、帰って来た純血の妖狐である真琴、何故か嫁入りして来た妖狐とのクォーターである美汐。ほぼ全員ヤンデレでリスカ経験者、レイプ目で瞳孔の光も消えているのが数名、闇堕ちしているのも数名、人外の妖術を行使する化け物揃いというクリーンナップで打線を組める恋人たちが、秋子との関係を許すはずもなく、特に栞さんのマッスルボディからの処刑宣告が恐ろしすぎる祐一クン。
 病んでないのは純血の妖狐である秋子と真琴だけという状況で、人間の心の脆さを感じたが、秋子のクローンだが純血の妖狐であり、元従兄弟で幼なじみの名雪ちゃんの精神も鳳凰幻魔拳で破壊してレイプ目にしてしまい闇堕ちさせてしまった。
 もし秋子ちゃんの固有結界から出たり、佐祐理お姉ちゃんのアルター能力、ゴージャスさゆりんの効果範囲から出れば、怪獣大決戦が開始され、魔物を憑依させられて間もない只人四人の命は風前の灯に近かった。

 第三十四話
 精霊と化した魔物の証言や、移動の儀式が収められたビデオを見せられ、驚いている倉田家の一同。土産にダビングしたテープを貰い、佐祐理の母は自分の父である当主と相談するため帰宅しようとしていた。
「それでは今日は、これで失礼します、また近々参上します」
 別の者に車の運転を任せ、爺やとメイドは情報収集や給仕として水瀬家に残った。お嬢様以外の使い魔が入っている少女たちの観察もして「今度はお前の番だ~!」と言われないよう警戒していた。
「それでは皆さん、楽しいパーティーをお楽しみ下さい」
「うおっ、本物のメイドさんと執事の人だ」
「あまり騒ぐな、貧乏育ちがばれるぞ」
「でも私も初めてみたわ」
 爺やは魔力源も持たない低級の術者だが、四人の少女とお嬢様の中に二人分入っていて、周りの目を憚ること無く体を組み換え、中の一人は燃え上がるような勢いで焼かれ、再生しているのが見えた。
 魔物の残り香も感じ、勝手口から入った強大な化け物にも恐れたが、庭から入った魔物に懐かしい感触を覚え、それが一弥様の変わり果てた姿だと感じて涙した。
(恐ろしい…… これほどの災厄が起こっていたとは、それもお嬢様の身に降り掛かっていながら気付けなかったとは、何たる不覚)
 周りにも、明らかに人間の振りをするのを辞めて、人を殴った後の血の匂いがプンプンする女が闇に染まった目をして、お嬢様を「お姉さま」と呼んで笑っている。川澄舞の中には、お嬢様の悲しみと思われる心がいて優しく抱き止められていた。
(やはりこの娘はお嬢様を害するような真似はしないか?)
 台所側のテーブルでは、奥様から注意された通り、明らかに純血の妖狐と思われる娘が、秋子様を上回るような力を放出しながら猛り狂っていた。その隣には天野の娘が平然と座り、妖狐に気負されることもなく話をしている。
(あの娘は直系か? だとすると四分の一)
 名雪様がいないのを不思議に思ったが、二階から悲しそうな心の声が聞こえたので、この状況に怯えたか、場の空気から出生の秘密を知らされて落ち込んでいるのだと思えた。
(後で飲み物と食べ物でもお持ちしよう)
 落ち込んだお客様を元気付け、もてなすのも執事の役目と思い、名雪の嘆きを取り除く方法も探す。
 そこで不注意な娘がテーブルからグラスを落としたが、お嬢様が手で追いかけ、生身の体は間に合わなかったが、精霊の腕が追い付いてグラスを掴んだ。
「まあ、お姉さま凄い」
「佐祐理は最近できる子になったんです」
(お嬢様ぁ……)
 以前のようにドン臭いと言われ、何かと世話を焼いてやらねば普通の生活も難しかった頃を懐かしみ、異形の化け物になってしまったお嬢様を不憫に思う。
 しかし、巨大な災厄が起こり、伝承すら残らない破滅が招かれた時、巫女として選ばれた娘だけが生き残り、人類として命を繋いで来た過去を思い、お嬢様と一弥様は今度の災厄の後も生き残る存在となれたのかもしれないと感じた。
(洪水伝説、トバ火山、人類は過去五度滅びたと言われるが、今度生き残るのは?)
 狭い室内を見渡し、60億分の10程度の天文学的な確率の中に、お嬢様と一弥様が選ばれ、方舟に乗れる権利を貰えた奇跡には感謝した。

「グラスは行き渡りましたか? それではパーティーを始めましょう、カンパ~イ」
「「「「「「「「「「乾杯」」」」」」」」」」
「今日が記念日の皆さん、おめでとうございます。佐祐理はとうとう舞と結ばれて、一弥、いえ、祐一さんとも結ばれて、もうすぐ一弥を産んで取り戻す予定です。はい、舞もお願い」
 舞とガチレズなのがバレても構わないのか、ほぼ全員自分の妹にして同じ穴の狢にしてしまったので公表されても構わないのか、モロバレだった二人の関係を堂々と宣言した佐祐理。機嫌が良いので一時祐一の名前も言って一弥生誕の祝も口にした。
「…約束してた子と10年ぶりに再会した。心も体も融け合った。佐祐理とも結ばれた…… 嬉しい」
 珍しく嬉しいとまで言って感情を表す舞。だが祐一から「血がつながってる」とか「実の姉さんだったからもうできない」などとホザく声が聞こえたが当然却下。
 血がつながっていようが異母兄弟であろうが、融け合って一つになって子供も何人も作り、それが嫌でも「絶対に逃がさない」と思っている怖い姉。
「私は、初恋の人と再会して結ばれました。家や母の命令とかじゃなくて、現人神の王子様と結ばれて幸せです」
 自分の初恋は違ったはずだが、都合が良いように記憶も書き換わっている女。結局ステイタスが大事で、王子様だの神だの貴族だの、誇れる身分が無いと鼻も引っ掛けないクソ女。
「私は、弱い自分が嫌でした、でも強くなれそうです。母も病気で、教団に拾ってもらわなかったら死んでました。でもこれから強くなります、相沢くんとも結ばれて幸せになります」
 チョロインさんは、どう見ても心が弱いままで、これからもずっと不幸で、苦労だけしそうな少女の見本を見た一同だが、気の毒すぎて本当のことは言えなかった。
「アタシは、これから使い魔が入った自分の心と体の変化を記録して、伝承のページを増やす。里のババアに送れば残してくれるはずだ。そうだ、お前らも記録してくれ、何でもいい、細かい変化も全部書いて残してくれ、頼むっ」
 祐一と結ばれたのは記念でも何でもないのか、特に発言しなかった座古。それより伝承が気になり、友人たちにも記録を頼んだ。
「分かったから離せ、記録しておく。私は今、炎の精霊に焼かれて、弱い部分が燃やされている所だ。生き残った強い部分だけ再生されて増やしている。先ほど、お姉さま方や相沢に忠誠を誓って身を捧げた所だ。この身にも主君と仰ぐ人物ができた、好ましい。私の家はすぐに死ぬ家系だが、そこからも逃れられるかもしれない」
 付き人の少女も、強くなれる身を喜び、仕えるべき人物を見つけ、すぐに病死する短命で呪われた家系から開放されるのも喜んだ。一生恋愛などする予定は無かったが、祐一との関係は「主君だ、夜伽は一度だけ務めた」と言い張るらしい。

「え? 私ですか? そうですね、恋人で婚約者の人が朝から浮気して、二時間目の休み時間に登校して来たと思ったら女連れで、ちょっと逆らったら「使い魔が入ってる」な~んて言われて殺されそうになって、お腹に子供がいたかもしれないのに膝蹴り、右手血まみれにされて血を抜かれて、舞お姉様にも木刀でぶん殴られて、真琴さんに首から心臓に刃物突き立てられて死ぬとこだったんですけど、何とか助かったと思ったら右手の魔物、いえ、リミッター外されてしまって、目が覚めたら祐一さんがいたんで、傷口に塩コショウとマスタードが入った爪を差し込んでたんですけど、緒路院さんが来て喧嘩になって、その上祐一さんと嬉しそうに逃げたじゃないですか、だから怒って追いかけて座古さんと舞お姉様をぶっ飛ばして、あ? お姉さま、階段の天井に貼り付けちゃってごめんなさい」
 栞の恨み節が延々続いたが、手にとった紙皿や紙ナプキンが紙の自然発火点を超えたらしく、ブスブスと煙を立てて燃え始めた。
 舞も普通人に対して持っていた無敗無敵伝説がついに破られ、栞に一度敗北したのを認めて苦笑いしていた。
「三時間目の休み時間は停戦になったんですけど、昼休みにはお弁当対決になって、私の作ったおかずは全部呪いの塊か毒物の塊だって言われて、貧乏くさいタッパーの煮物に負けました。それから「乳無し」とか「そのブヨンブヨンの腹は何?」って笑われて、6つに割れた腹筋とか、血印とか言う刺青も見せつけられて追い払われました」
 ギャラリーは「そこまで言ってませんよ」と言いたかったが、もう闇堕ちして夜間は無敵の女で、月宮の精鋭である数十人の術者を無傷でブッ倒し、拳銃まで持った普通の歩兵も傭兵も893も一人で倒しきって、弾丸を回避しながら仏恥義理の仏陀義理で葬り去り、使い魔たちの食料に変えた化け物に口出しできる女はいなかった。
「昼休みにお姉ちゃんが来て、「奇跡の故意、シーズン2」を話して、クラスの人を全員味方につけて、N*Kのカメラまで呼んで録画して、これから教室や体育館でお姉ちゃんと祐一さんの結婚式が行われるそうです。六時間目が終わって病院まで音速で走ったのに、お姉ちゃんは倒れてて魔物を抜かれてポンコツになってたので殴り合って倒すわけにも行かず、捨ててきました。その隙に祐一さんは舞お姉様と逃げた後で、一緒にシャワーまで浴びて、電話で佐祐理お姉さままで呼んで3Pしてしまいました。現場に殴り込んだ時にはもう手遅れで、仕方なく祐一さんを処刑しようとしても止められて…… まあ、お姉様の妹になって抱き締められたりキスしてもらったり、調教されたのは良かったんですけど。ああ、それと祐一さんと生でしたら寿命が伸びて、天使の人形君が私達の命を繋いでくれて助けてくれたのが分かったのは嬉しかったです。でも、その後お姉様の妹に追加された三人まで祐一さんと浮気して、ちょっと席を外してる間に、天野さんまで祐一さんのお嫁さんになったそうで……」
 ついに栞の死んだ視線が自分に向かったのに恐怖したが、その右手の紙皿は燃え尽き、震える指の間から青い光を放って「臨界のチェレンコフ光」が漏れているように見えたが、気のせいだと思って無かったことにした。
「それに真琴ちゃんとは私と祐一さんが付き合い始めた頃から二股かけられてたみたいで、さっき寝かされた間にも「再会の記念に一発」ってしたんですよね? それに秋子さんとも結ばれて得意絶頂ですかそーですか」
 既にアナザーディメンションが広がり、どんな距離なのか「超新星爆発寸前のベテルギウス」が見え、デコポンみたいな北極か南極に回り込むと、ガンマ線バーストが地球を襲いそうになった。
『やめてっ、栞っ!』
 栞の余りの怒りに佐祐理が叫び、アナザーディメンションを閉じさせた。
「まあ、いい事もありました、天使の人形クンと一緒に、私を虐めてた女の所に行って思いっきり仕返しをして、私を殺しに来た刺客を倒して、ついでにこの街の刺客全員ブッ飛ばして二百人近く養分に変えてやりました。あ、お姉ちゃんは見捨てたんですけどね(テヘッ)、天使くんと一弥くんとも友だちになって、あゆちゃんの復活にも貢献できました」
「一弥とっ?」
 一弥関連の話題にはグイグイ食い付いて下さるお姉様に驚かれたが、残念なお知らせをしておく。
「あ、一弥くんから伝言です。いつもお姉ちゃんの後ろから見てるよ」
「本当ですかっ?」
 佐祐理は喜んでいるようだが、この続きが残念な内容なので、ここで口をつぐもうかと思ったが、恩人からの伝言なのに、間違いや嘘を伝えることは出来なかった。
「階段を降りる時は気をつけてね、僕が後ろから蹴って落としてあげる、って言ってました」
「ああっ」
 残念なお知らせで佐祐理が泣いてしまったので、明るい話題も提供しておく。
「天使くんと一弥くんって凄く仲がいいんですよ、いつも「兄弟」とか「相棒」って呼びあって、再会する時は「磯野~、晩飯持って来たぞ~」って言うみたいです、本当の兄弟みたいでした」
「あの子にも友達が…… ああ、ありがとう」
 合掌して神仏に祈って感謝するようなポーズを取る佐祐理だが、あの二人からは一番遠い存在である。
 もう栞もそんなものは信じなかったので、堕ちた方の神様と自分の守護天使に感謝してみた。
(天使くんありがとう)
 ギャラリーも、栞の数々の犯罪行為を聞いたが特に気にしなかった。
 翌日の新聞や、地方ニュースで小さく家屋倒壊のニュースも出るはずだが、レイプ被害者保護のために報道規制で自粛されるので、一日で消えてしまう。
 路上や公園で転がっていた老人化した大勢の人物は、月宮の後方部隊や893の仲間が泣きながら片付け、「オカッパ頭の化け物」は闇社会で一気に有名になり、川澄舞と同じく「美坂栞」には決して手を出さないよう通達が出た。
 復讐を誓う者もいたが、秋子様からの厳命で、当主自害などという前代未聞の処罰まであり、次に逆らえば災厄が降りかかり、万人の死者が出るので仕返しすら出来ない状況になり、無能な当主の自業自得として語り継がれた。

「次は天野さん、どうぞ」
「え? 私ですか?」
 真琴が帰って来て、自分と別れた妖狐も帰って来るかもしれない状況以外、めでたい事もなく、天野本家では殺されそうになり、相沢さんと結婚させられてしまったので迷惑この上無いが、少し憧れていた先輩と高校聖夫婦?として過ごし、「奥様は十八歳」みたいな生活をして、うつみ宮土理さんに「誰かが私をよんでいる~」と言われるのに興味があったりするかも知れない。
「そ、そうですね、真琴が帰って来たのと、美坂さんが言った通り、相沢さんに嫁入るすることになりました」
 唇を押さえ、キスの感触を思い出したり、絶体絶命のピンチに王子様が現れて、抱き寄せられて怪盗に自分が盗まれるようにして救われ、心まで盗まれてしまったのを思い出して顔がほころぶが、栞の悪鬼羅刹のような顔に気付いて自粛した。
「はい、真琴も何か言って」
「え? 帰って来れた、また秋子さんや祐一と一緒に住める、美汐とも遊べる。はい、終わり終わり」
 頭もユルく人見知りする真琴が早々に打ち切ってしまい、秋子に回さなかったので、この十数年の思いや、ついに運命の相手と結ばれて「21歳にしてとうとう男性と初体験して処女を失い(娘に遅れること2ヶ月)」力は返してもらえなかったが子供を授かりそうで、途中にも「秋子っ」とか呼んで貰ったり「初恋の相手だったんです」とかリップサービスしてもらって嬉しかったとか、ガバガバの太平洋女と呼ばれずに済んだとか、やっぱり処女再生手術と膣内の締りを上げるよう縫合手術を受けるべきだったとか、次は名雪も押さえ付けて親子丼で出しますねとか、今日は私も記念日なんですよ、ちゃんと聞いて下さい、と言いたかったが、心の声が聞こえた連中も、舞は無視、佐祐理は大人の対応をして叔母と甥がパコパコやったのにはノーコメントを通し、月宮真琴は相手が怖すぎたのと、祐一を責めて愛情を失うと命も失いそうなのでコメントは控えた。

「さあ、皆様、急ごしらえですが、オードブルもお召し上がり下さい、何かお嫌いなものはございませんか?」
 すぐに調理できたトリやエビの唐揚げなどが並び、ポテトや野菜で飾られたオードブル。ベジタリアンな四人の説明を忘れていたので、サラダボウルから野菜を取ったり、アスパラガスを齧っている四人、しかし血に飢えたケダモノが二人、寿司から目が離せなくなった。
「食うぞ、アタシは食うぞ、見やがれ、このトロの分厚さを、お前らだって回ってない寿司なんか見たこと無いだろ?」
「昔、お母さんに回転寿司に連れて行ってもらったことがあるの。でも、その後は一家心中なんだろうなって思ったら喉につかえてむせちゃって、ろくに食べられなかったの」
 涙声で悲しすぎる寿司屋あるあるを聞かされ、「そこまで貧乏くさい話し、ね~よっ!」と突っ込みたくなったが、最期の贅沢が回転寿司、その後は親子心中という酷すぎる話を聞いてしまい、適当に相槌を打って流した。
「お前は隠れてカップ麺とか菓子類を食べてるだろう、しまいに術が使えなくなるぞ」
「いいんだよ、これからは妹ちゃんとかお姉さまみたいに全部無詠唱で使える、お前も食え」
 座古と緒路院さんは分厚いトロを醤油につけ、口に運んで涙を流した。
「ちきしょう、このわさび、目に来やがるぜ」
「本当、私、何で泣いてるんだろう」
 貧乏な二人を見て気の毒に思う栞だったが、何故か自分も元クラスメイトも涙を流しているのに気付いた。
 今まで月に一度の贅沢な外食がファミレスか回転寿司で、マグロだと思い込んで食べていたのは別の代替魚のさらに切れ端でしかなく、いま人生で初めてトロを口にして、これこそが本当の寿司で今まで食べていたのは偽物なのだと感じて、カッパ寿司の地下で寿司を握らされているカッパの子供のように泣いていた。
 辛いものは人類の敵だと思っていたが、高級なわさびは辛くないのか、自分の体が強くなって山葵に耐性ができたのか、適量の辛さが心地よかった。
 祐一も泣いていた、美汐も泣いていた、舞お姉様も真顔だが体が泣いて涙だけ流していた。
 佐祐理お姉様の他にも一人お嬢様がいたが、生臭物は食べさせてもらえない人で、今も野菜スティックを齧っている草食動物。きっと心では泣いているに違いない、人類にこんな格差があるのは許せない栞は、ロックで革命を起こしたくなった。
「やぁっ、辛いっ、こんなの食べられないっ」
 違う意味で口が子供な人物が、食べてはいけない大人の快楽を口にして、あろうことか特上寿司を吐き出してティッシュに包んで、お子様らしくジュースで口の中の味を甘く塗り替える、地獄のような光景を目撃してしまった。
「真琴、貴方はわさびを食べられませんから、お寿司はやめておきなさい、ほら、ピザがありますよ」
 この中にも裏切り者がいた。何かの会合で本当の寿司を何度か食ったことがある秋子。
 ちょっとしたパーティーや、シェフが休みの日にディナー前に軽くお昼に摘んでしまえる佐祐理。
 そして特上寿司をたった今、目の前で生ゴミに変えてしまった純血の妖狐。
 栞は怒りに震えてこのブルジョアどもにプロレタリアートの赤い鉄の槌と鎌を叩き込んでやろうかと思ったが、こちらの世界でも上級市民様の純血の妖狐二人には手出しができず、普通の世界での上級国民様は、この寿司を食べさせてくれたお姉さま本人なので、とりあえず通り道にいた祐一の後頭部にパンチを叩き込み、怒りの鉾を鎮めた。
「いたっ!」
 とりあえず昏倒させたので寿司を食う口が一つ減り、ライバルが減った。
 相変わらず泣きながら食っている二人がいたが、幸福の絶頂であの世に送ってやるか、全てを堪能させてから倒そうか迷っていると、爺やさんが何か用意を始めた。
「急でしたので自家製ではありませんが、百貨店の地下で買って参りました、ローストビーフと焼豚です、お試しになりますか?」
 すでに切り分けられて紙皿に載せられて行くロースト何とか、栞はそんな物はテレビで芸能人が口にする所しか見たことが無く、現実には存在しない架空の食べ物だと思っていた。
 それが四枚も乗った皿が、メイドによって自分の前に給餌?され、「これは罠だ!」と第六感が悲鳴を上げていた。だが愚かな栞は箸を出してロースト何とかを口に運んでしまった、
(うわああああああああっ!)
 何か、力石にトリプルクロスのアッパーでも食らったようにふっ飛ばされ、ソファーに倒れて数秒間意識を失った栞。
 口の中で革命が起こった、プロレタリア革命でもなく、宗教革命でもなく、産業革命が起こっていた。四輪作が開発され、麦以外に豚の餌になる作物も休耕地で生産され、新大陸からジャガイモがもたらされ、裕福な農村でも四人に一人は餓死していた時代が終わり、クズ野菜や藁で牛を飼い、ミルクも飲んでチーズなども生産する。そんな豊かな農業の革命から、牛肉を数時間掛けてゆっくりローストしたり、表面だけ焼き上げて中はジューシーな肉汁を逃さないまま調理する技術も自然発生的に生み出された。
 掛けられていたタレも絶妙だったが、皿に乗っていたマスタードソースが大人の味で、ピリ辛で肉に合って意識を奪われた。
 先ほど感じた罠の感触は大当たりで、栞のド底辺で貧乏な口は、佐祐理お姉様の繰り出す口撃に耐えられず、この高級なエサを貰うためなら、お姉様の奴隷になっても構わないと思い始めていた。
 復活した祐一も泣いていた、美汐も泣いていた、舞も泣いていた、例の二人も抱き合って喜んで泣いていた。そんな幸せがさっき食べた半分と残り三枚しか残っていない。しかし裏切り者もいた。
「ねえ秋子さん、これだったら生のウサギの肉のほうが美味しいよね? 生きてるのを捕まえて、新鮮な所をガブっと」
「ええ、まあ」
 秋子は20年も前の食事を忘れたのか、曖昧な答えをしていたが、もう人間の口では生々しい血の味がするウサギは楽しめず、ローストしてソースも掛かった食べ物に夢中になっていた。
(お前にロースト何とかを食う資格はねえっ!)
 真琴の皿に乗った三枚を強奪したかったが、さらに焼豚も給餌?され、また第六感が「これも罠だ! 食うな!」と叫んでいたが、既に闇堕ちした栞は焼豚も食ってしまった。
(んほおおおおおおっ!)
 これも今まで栞が食べていた「ヤキブタ」は偽物で、これこそが焼豚なのだと思い知らされた。自宅で母が作ったラーメンやスパゲティに混ぜられる、激安スーパーで買える程度のヤキブタかさらにその細切れ、それは病死肉か捨て値の安物か、上級国民様が口にする品が期限切れなどで落ちてくるB級品で、スカスカのカスカスで脂身が抜けるか、脂肪を注入した偽物のギトギトしか無い。死ぬ前に本物が食べられたのを幸いと感じ、こんなエサをくれるお姉様に一生付いていこうと心に決めた。
 祐一も泣いていた、美汐も泣いていた、舞も泣いていた、例の二人も殴り合って夢ではないかと確認しながら喜んで泣いていた。
「わ、私も食べるぞっ、グハッ」
 我慢できなくなって、付き人も口にしたが、栞のようにふっ飛ばされて、「お口の中で産業革命や~」が起こり、昏倒した。
「どうしたの? 大丈夫?」
 第2次大戦でホロコーストが起こり、終末収容所にいたユダヤ人が開放された時、西側で米軍に開放されたものは、多くの食料を固形のまま与えられ、胃痙攣や食べ過ぎなどの症状を示し、折角開放されたのに多数が亡くなったと伝えられている。しかし東側のソ連兵に開放された者達は、本当の飢餓を知っているロシア人に、スープかシチューしか与えられず生存した確率が高かったと言われている。
「へっ、そんなスゲエもん、急に食うからだ」
 戒律を守り切って10年以上生臭物は一切口にしなかった少女と、カップ麺を盗み食いして牛脂、豚脂、グルタミン酸を吸収していた女の差が出た。
((ライバルが一人減った))
 月宮一行から一名の脱落者と、頑として肉を食べず、未だにアスパラガスとサラダを齧っている草食系のウサギがいたが、目の前からローストビーフとヤキブタが下げられ、他の二人に捕食された。
 祐一も泣いていた、美汐も泣いていた、舞も泣いていた、例の二人も殴り合ってローストビーフと寿司とヤキブタを取り合って泣いていた。
 さっきから偉そうに言ったり、特上寿司を吐き出した沢渡真琴は、美汐か秋子に倒されて眠っていた。後で謎ジャムでも入った食品か、子供の口が喜ぶ甘く安い、赤とか紫色のゲテモノの食物を腹に詰め込まれるのに決定したらしく、おとなが楽しむ食品を食べる権利は無いと認定された。
「ピザなども御座いますよ、宜しかったら取り分けいたします」
 栞は「白いご飯を下さい」と言いたかったが、残念な子として扱われそうだったので、ピザをご飯側の炭水化物として扱い、ローストビーフや焼豚をおかず側にして食べようとした。
(うひいいいいっ!)
 栞が今まで口にしていた冷凍ピザや、トースターで焼く「とろけるチーズ」などは、石油から加工したゴムやプラスチックの親戚だと気付かされた。
 普通の宅配ピザだと思って口にした物は、イタリアンレストランが宅配しているもので、上級国民様限定の会員制で「一見さんお断り」の店だったが、大して値段に差がないのに本物のチーズやトマトが使われ石窯の炭火で焼かれていた。
(もう騙されない、もうこれ以上は……)
 栞の動物的な勘をも狂わせる、普通のピザを装ってまで口撃してくる佐祐理のイジメ。
 そう、これはもう、上級国民様が下層のゴミクズを見下げ果てるための儀式で、生活水準の差を見せつけるために行われているイジメなのだと思い始めた。(被害妄想)
 屈折しまくったド底辺の舌を持った下層国民は、巨大化して上から見下ろして「オホホホホホ」とか笑っている佐祐理お姉様の幻影を見上げて、ロックで大政奉還させてやろうと決意した。
 祐一も泣いていた、美汐も泣いていた、舞も泣いていた、例の二人も「ピザはデブでも食ってろ!」と罵り合いながら泣いていた。そこで阿片的な美味を口から洗い流すために、紙コップに給仕されたオレンジジュースを口に運んだ。
(ぎゃあああああああっ!)
 それはデパ地下で季節100品限定で売られている100%ジュースで、上級国民様専用の、さらに百貨店の外商がお得意様用に確保している店内に出さない品で、大した値段でも無いが、手にすることができる人物は非常に限られた極上の品で、一般人ならデパ地下前で発売前から二、三日並び、買えてもオークションで転売したほうが遥かに効率が良いジュースだった。
(許して、もう許して……)
 ソファーから転げ落ちそうになり、喉の中と舌の上の味蕾を焼きつくされた栞。もう下層国民の生活には戻れず、舌にピアスでもされたようになってチェーンで繋がれ、上級国民様に付き従う下僕にされてしまった。
 さらに半笑いで給餌?するメイド(被害妄想)が、外国製のパインジュースを注いだ。
(これも間違いなくご禁制の品……)
 グラム数の末端価格では、ウランや金より高いと思われるパインジュース(間違い)、それを栞の心は拒否したが、腕が勝手に紙コップを口に運び、飲み込ませようとしていた。
(いやっ、やめ、やめてっ、それだけは許してっ)
 祐一のオットセイ君を咥えさせられ、口の中に出されて飲まされそうになった時も、ここまで抵抗しなかった栞。震える舌はジュースを迎えるように伸び、口の中に外国製のジュースを流しこんだ。
(いやああああああっ!)
 口の中を外国のパイナップルにレイプされてしまった栞は、「黒ひげ危機一発」のゲームの人形のように、パインになった体から芯と頭が飛んで、その辺の床に転げ落ちた。
 秋子も泣いていた、月宮真琴も泣いていた。祐一も泣いていた、美汐も泣いていた、舞も泣いていた、例の三人も「オレンジとパインって麻薬だったんだね」と抱き合いながら泣いていた。
 その間、佐祐理は栞の百面相を見てクスクスと笑っていたが、決して嘲笑っていたわけでは無く、表情の変化が面白すぎたからである。

(下拵えはこれぐらいで宜しいかな?)
 これらは全て、爺やが仕込んだ罠で、唸るほど金を持っているにも関わらず、金の使い方も知らない妖狐の小娘を落とす策略で、各家が高級食材を献上しても大して料理の仕方も知らず「石をパンに変える魔法」で調理してしまい、せいぜい焼いたり蒸したりする程度しかせず下拵えも適当、小麦粉と豚肉と野菜を肉まんに変える程度の力で、数千年にも及ぶ人類の英知や香辛料の歴史に並んだと思い込んでいる妖狐に、一泡吹かせてやろうと仕込んだ劇薬であった。もしこの後「これはどこで買えるんですか?」と病んだ目で秋子に言わせれば勝ちである。
「お次はお嬢様のお夕食にお出しするはずだったサーロインステーキでございます。人数分ご用意しておりますが、お口に合うかどうか?」
 最高級の熟成肉をシェフに出させ、トリミングして人数分以上切り分けて持って来たので、これで陥落しない人類はいない。
 元はイヌ科の生き物なのでシャピアリンステーキは控えたが、焼き上がりを持ってくるのではなく、鉄の厚さ10ミリのホットプレートで焼き、度数の強いワインを振りかけて点火しフランベしてやる。
「あの、白いごはんを下さい」
 もう意識が飛んでしまい、瞳孔が開いている栞は、残念な子だと思われようがどうしようが、白いご飯と一緒でなければ肉を食べられなかった。
 どんな高級なおかずでも、少し齧って味が染みた飯を掻き込んで食う、外国人には嘲笑の対象でしか無い食文化だが、日本人として産まれてコメを食ったからには、この行為の良さが身に染みているはずである。
「ええ、そうしましょう」
 陥落した秋子も立ち上がり、肉を食うには米の上に置いてから、の常識が二十年の生活で身に付いてしまい、恐ろしい罠からも逃げられなかった。
「おい、白い飯だぞ、何年ぶりだ?」
「う~ん、七年ぶり?」
「わ、私にも米の飯を……」
 五穀断ちして来た連中にも米が出され、堕落の一途を辿っていたが、一人だけ泣きながらサラダを食っている草食動物もいた。
「お待たせしました、極上のサーロインでございます」
 切り分けられてフォークでも箸でも食べられるステーキが、塩コショウとバターだけで出された。もう人類を堕落させるには十分な破壊力を持っていたが、この匂いに耐えられず、やって来た野獣が一匹。
「おや、名雪様、たった今ステーキが焼き上がった所でございます、宜しければご一緒にどうぞ」
 自分の部屋でドナドナを無限ループで歌っていた名雪は、信じられないほど香ばしいガーリックの匂いに釣られて、自分の出生の秘密や、母親と恋人の関係などより重要な「食欲」に押されて、天の岩戸を開いて出て来てしまった。
「…名雪、もう泣かなくていい、私もずっと「忌み子」と呼ばれて来た。貴方は必要な子、誰かのコピーじゃない、皆んながいらないと言うなら私が貰う」
 珍しく饒舌な舞に話しかけられ、感激する名雪。でも舞の肉は1ミリも分けてもらえなかった。
 アマノウズメの踊りやタヂカラオの腕力より強力な匂いで引っ張られてリビングに入った名雪は、秋子の側や祐一の近くには行きたくなかったので、あこがれの川澄先輩の隣をこじ開けて座った。ケツ圧が二人分なので祐一と月宮真琴が押し出され、野菜のボウルを持って秋子と美汐がいるテーブルに移動した。
(((((おふううううっ、らめっ、らめええええええっ……)))))
 栞も泣いていた、名雪も泣いていた、秋子も泣いていた、祐一も泣いていた、美汐も泣いていた、佐祐理の家で食べたことがある舞も、母に食べさせてやりたくなって泣いていた、例の三人も、米の飯をたらふく掻き込みながら泣いていた。
 数枚ずつ焼き上がり、一人に出されるのは数切れだったが、次のステーキも焼かれ、今度は調味料が違っていた。マスタードソースである。
(なんちゅうもんを、なんちゅうもんを食わしてくれたんや、海原はん)
(ぎゃああああああっ!)
(許してっ、もう許してっ)
(う、ま、い、ぞ~~~~っ!)
(ドドンガ、ド~~~ン)
 関西の食通のように泣く者、味皇様のように口からビームを吐く者、頭から火山を噴火させる者、口の中でとろける肉を食ったことが無いド底辺の者は、その場で倒れた。
 そしてローストビーフと焼豚と寿司とピザとステーキを食った名雪は、ご機嫌が真っ直ぐになり、いつもの笑顔を取り戻した。案外子供で安い女であった。
「パンも御座いますよ、如何ですか?」
 バターと本物のメイプルシロップを練り込んで焼いたパン、これも上級国民様にしか手にできない品で、トースターで焼いただけで信じられない美味になり、本物のバターやジャムを塗るとさらに人間を堕落させたが、一人だけ謎ジャムを塗りたくって食べる女もいた。
「お次はロブスターとホワイトソースの焼き物でございます」
 もうパーティーの軽食やオードブルでは無く、全員を堕落させ、佐祐理お嬢様に従わせるためのエサだったが、ついに秋子も倒れた。
「デザートにはケーキとプディングをお持ちしました」
 ホテルや高級菓子店が閉まっていたので、テレビで名前を売った店に発注し「倉田様に納品できるなら今後の仕事も」と店長自ら残業し、材料費に糸目を付けず焼き上げた逸品が給仕された。
 プリンもスーパーで売っている卵すら入っていない偽物ではなく、ケーキ屋の冷蔵庫にあった全てをサービス品として配達した。
「もう食べられないのに、体が言うことを聞かない」
「もう許して」
 バケツプリンを製造したことがある秋子も、このプリンやケーキの魔力には抗えず、ついに「この品々はどうやったら買えるんですか?」と縋るような目で爺やに聞いた。
 勝利を確信したセバスチャンも、特に勝ち誇ったりはせず、全ての食品の購入方法をメモ書きして渡し、自分の仕事に満足していた。
(パーフェクトだ、執事よ)
 佐祐理はどこかのヴァンパイヤか、その主人の貴族のお嬢様のように、執事の仕事に非常に満足していた。白いご飯も食べず、いつでも食べられる特上寿司もステーキも他の娘や舞に譲り、安物で甘いだけの庶民味ケーキが口に合わなかったので食後のコーヒーを楽しんでいた。
 もちろんコレも、現地通貨では1キロ4ギルというゴミ同然の価格だが、山賊が出るアフリカのインフラも何も無い高地から持ち出し、ヨーロッパに持ち込めば末端価格が金や麻薬と同じ値段に変化するコーヒー豆で「フェアトレードって何ですか?」と言う、格差社会や世界の縮図を一筆書きで描いたような豆だった。

 その頃の北川一行。
 場末のカラオケ屋で泣き叫び、もし火事が起きても、逃げ場もなければ消火設備も排煙設備もない、腐った古いペンシルビルにある格安カラオケ屋の一室に収まっていた一同。
 原価1円ぐらいの濃縮還元ジュースに、さらに氷を入れて水増ししたものを高値で掴まされ、隠れて持ち込んだ安物のダルマウィスキーを混ぜて飲む。
 ツマミは衛生管理など一切されていない、腐敗寸前の黒い鶏肉を重油のような古い油で揚げた唐揚げとポテトなどの毒の塊、腐ったイカか豚肉が乗ったお好み焼き、腐ったタコが入ったタコ焼きなどの粉もん、悪酔い確定であった。
「名雪っ、好きだ~~~~~っ! そのデッカイケツを俺に使わせてくれ~~~っ!」
 他の部屋の迷惑になるほど順番に叫び、ラブソングの合間に恋人?の名を呼ぶ男たち。もう涙は枯れ果て酔いも回って、北川も呪いのビスクドールから、呪いの市松人形ぐらいの穏やかな表情に戻っていた。
「シングルベッドで一人上手で床オナしてたんだよ~~~~っ! 栞~~~~っ!」
 替え歌の歌詞もどんどん下品になって、もし別室に女の集団がいても、絶対に声を掛けられない学生服の集団。
 惨めさも炸裂していたが、男同士の気安さや連帯感で盛り上がり、案外楽しい時間を過ごしていた。
「香里を食べ~ると~、ティンコがもげ~る~」
 余命三ヶ月と言われるヒロインがこんな場末のカラオケ屋に来るはずもないが、間違ってクラスの女か同じ学校の奴がいれば、ドン引きされた上で女子全員に話が通って無視され、人生終了が確定するような替え歌で爆笑する一同。学生時代の大切な恋が破れ、もう人生を投げていた。
「真琴の貧乳と合体してえ~~~~っ!」
 ロボ物のアニソンで、合体の掛け声の代わりに女の子と合体したがる気の毒な男。この後、ホモの先輩の家に「カモがネギを背負った状態」で転がり込み、女装させられて何かに目覚め、処女?を捧げる男は、祐一を掘る確約を取る前に全てを奪われてしまう。
「香里っ、名雪っ、栞っ、みんな一回は好きになったんだ~~~~っ!」
 北川もノリノリで歌い、年度が変わったり、体型の好みが変わると、乳がでかいが大人しい名雪や、貧乳で病弱だが優しい栞、また元に戻ってキッツイ性格と男嫌いの女が好きになっていた。一穴主義の男には引かれたが、今日はその程度の座興は許された。
「「「「「香里ちゃ~~~~~ん!」」」」」
 小学校時代の、天使のような香里を思い浮かべ、マイクを掴んで叫ぶ北川達。
 祐一は五時間目以降、香里と宜しくやっているとばかり思っていた一同も、即座に香里を捨てて川澄先輩や倉田先輩、月宮の三人、秋子さん、見知らぬ真琴と宜しくヤっていて、さらに天野と言う後輩が嫁入りしたと知れば、学校中で暴動が起こり、校舎のガラスが全部割られ、廊下をオートバイが爆走し、北川たちが放送室を占拠して、「俺達は腐ったミカンじゃねえ!」とか叫び、金八先生の説得も虚しく、ついに警官が突入して「中島みゆき」の「世情」が流れるなか連行されて行くのが想像できた。
「「「「「「「「「「くそ~~~っ、相沢の馬鹿野郎~~~~~っ!」」」」」」」」」」
 都会の繁華街を歩く高校生なので、泥酔している生徒など山ほどいるので補導もされず、無事帰還して泣き寝入りした一同。一名だけ処女?を失ったと漏れ伝えられている。


 あゆちゃんのゆめのなか。
(一人になったな……)
 一弥も送り出し、あゆも真琴も送り出して、ついに一人になった天使の人形。
 真琴のエネルギーも吸い出し、もう不要になっていたが、純血の妖狐を破滅させると国が滅ぶか星が滅ぶので、あゆ復活の始動キーには使えない。今後秋子の所で適当に暮らし、最期の時間を楽しく過ごせれば良いと思っていたので手放した。
(もうすぐ会えるよ、そうすれば君は自由だ)
 あゆの魂や心はいつでも取り返せるので、それまで楽しい時間を過ごせるように願っていた。
 目の前の巨大な試験管には、邪悪な妖気を放つ、あゆの新しい肉体が動き始めていた。汚らしい心臓が鼓動を始め、赤黒い翼は天を呪い、その足は地を呪い、その手は人を呪っていた。
 
 

 
後書き
普通のパーティー回のはずが、何故かジジイ無双回になりました。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧