KANON 終わらない悪夢
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23舞VS香里
授業参観後、職員室などに挨拶を済ませ、香里と共に病院に拉致された祐一は、放送協会さんの車の後部座席で香里と母親に挟まれ、逃げ出せない状態になっていた。
さらに前の座席には、父親ではなく同行取材班の方が二人にカメラを向けて録画している。父親は会社にでも戻ったか、帰ったらしい。
「本当に我儘な娘で済みません、今日もこんなに大騒ぎしてしまって……」
大騒ぎと言うか、校内では今後香里以外の女との会話も禁止、来るべき結婚式までは、病院から教室に通う香里が監視して、そのままタクシーで病院直行という日々になり、行動の自由も失った祐一。
「ははっ、そうですね」
カメラの前なので、余計な発言まで禁止されちゃってる哀れな祐一クン。既に操り人形になり、上から糸で釣られて口のところにも切れ目があり、パクパクと口を動かして喋っていた。
(今後、左右の敵をシグマワン、シグマツーと呼称します、現在両機は友好的です。攻撃を加えますか?)
(おせーよ、外堀埋め立てられて本丸まで陥落してるよっ、無限エネルギーも香里の思いのままだよっ)
ボロい戦闘AIに苦情を言ってみるが、このAIは戦闘時以外起動しない、香里は弁舌だけで秋子ちゃん研究所を占領し、祐一の無限エネルギーを奪取したので、祐一クンロボに搭載された各種兵装も無力だった。
「ごめんなさい、昨日は普通の見舞い時間でお別れになっちゃって、「こんなに長い時間会えない」なんて、「貴重な残り時間」からすると「時間を捨ててる」みたいで怖くなって、学校に行っちゃったの」
香里の芝居はまだ続いているらしく、カメラの前でグスグスと泣き続け、括弧内を強調ながら、震えて祐一にしがみつく(振りをする)香里。
やがて病院に到着して車から降りると、入口前に舞がいた。どうやって移動したのか不明だが、車より早く到着して病院で待っていたので驚かされる。
(こいつも栞と一緒で、縮地だか何だか使えるんだな)
剣道部とか部活のふりをして、長い鞄に木刀と刀を隠し持っている女に近付き、軽く話し掛けてみる。
「よう、どうしたんだ、見舞いに来てくれたのか?」
「…まあね」
香里や母親と一緒に入り口を通ると、まだ昼間の病院では有り得ない状態で、一階のロビーはほとんど人がおらず、予め人払いが行われていた。そこで特殊な発声法を使う舞。
『…ちょっと香里さんと話があるんです、お母さんとテレビの人は帰って下さい。祐一、牛丼買って来て』
「え……?」
早速全員術に掛けられ 母親とカメラは帰らされ、「香里、屋上に行こうか、久しぶりにキレちまったよ」みたいな提案をする舞。
他の女達に邪魔される前に、香里に潜む自分の魔物と決着を着けるつもりで来たらしい。
「ええ…… 今日は解散ですね、ありがとうございました」
「じゃあ…… 相沢さん、香里をお願いします」
「俺は、牛丼?」
中庭に出るドアまで行くと、庭にも誰一人としておらず、三人だけになった。
「舞、どうしたんだ? 香里まで」
「いいのよ、あたしのアイスクリームも買って来て」
急に雰囲気が変わった香里も、祐一をどこかに追いやろうとしていた。余り面識も無く、相性も最悪と思われる二人が、なにか話そうとしている。
(どうなってるんだ? こいつら仲悪かったはずだぞ?)
『…いいから、行って来て』
「あたしも川澄さんと、ちょっと話があるの」
舞の言葉にも操られ、買いに行かないという選択肢を思い付けない祐一。
「そうか? じゃあ行ってくる」
香里も祐一がいないと、泣いて喚いて、電話を掛けて来て「早く来て」と言われる数日だったが、何故か今は違った。そこで祐一は国道沿いにある牛丼屋まで走った。
「…やっと二人きりになれたな」
香里を睨んだまま、鞄の中の木刀を握る舞。間合いを詰めて行くが、今の距離は既に魔物の腕の射程範囲。すぐに飛び退くか、かわせる姿勢も作っておく。
「何の事かしら? あたし、ソッチの趣味はありませんよ」
「…ふざけるな」
「まさか祐一を取られたからって、襲いに来たんですか?」
「…違う、その子の中から出て来い」
「さあ? 患者は外に出られないのよ、それに「敷地内」がルールじゃなかったかしら?」
思わせぶりな香里の言葉を聞き、じりじりと距離を詰め、一撃を加えられる間合いに近寄って行く。
「何をするつもり? まさか病人のクラスメイトに斬り付けて、「手負い」や「瀕死」にでもするつもりじゃないでしょうね?」
舞の殺気を受けても平然としている香里、そしていつも舞が使っていた、魔物に与えた傷を表す言葉も口にした。
「…もう間違いない」
鞄から木刀を取り出し、香里に向けて構える。今までの躊躇を捨て、魔物を倒すための気合を込める。
「あら、今度は停学じゃ済みませんよ。警察に捕まった後、残りの私達はどうするつもり? うふふっ」
このままでは、いつ佐祐理や祐一が襲われるか分からない。大切な場所を荒らす魔物も許せなかったが、自分の周りの大切な人を傷付けようとしている、天使と名乗る物も許せなかった。
「…はっ!」
「あははっ」
香里は常人ではかわせない舞の一撃を軽々とかわし、人には飛べない距離を飛んで後ずさった。
「待てっ」
「ふふっ、ここなら敷地の中だからルール違反じゃないでしょ、こっちの方が思いっきりやれる」
香里の左手が振り降ろされると、その先に伸びた見えない腕が舞に襲い掛かる。その一撃を打ち下ろし、屈んで力をためながら一気に間合いを詰める。
「はあっ!」
常人なら心臓が止まるような突きを胸に叩きこんだが、やはり香里は倒れなかった。
「ふふっ、どうしたの? 胸なんか叩いても、すぐ再生するわ、さあ、かかって来なさいっ」
(…こいつ、いつもより早いけど、弱い)
重心が高く、体重も軽い香里の体では、いつものように押し潰すほどの力は発揮できなかったらしい。
(…その子を人質に取っている余裕か? それとも器が小さすぎて力が出せないのか?)
香里が即死する力では切りかかれず、隙があっても急所を刺せず、攻めあぐむ舞。
「ほら、見えるでしょ? 急所はここよ、もっと強く刺してみたらどう?」
心臓を指差して舞を挑発する香里、それは姿も声も香里でも、魔物その物だった。
「祐一に見せてやりたいわね、クラスメイトを斬り殺すあんたの姿を、佐祐理って人もどう思うかしら?」
「うるさいっ!」
頭蓋骨を砕くほどの打ち込みをしたが、寸前まで香里はかわそうともしなかったので、慌てて剣の流れをそらして鎖骨を叩く舞。
「甘いわね」
「うあっ」
胸に一撃を食らって吹き飛ばされる舞だが、いつものように、肋骨をへし折られるような重い衝撃は無かった。
「ゴホッ、ゴホッ」
(…やっぱり弱い、でも、こいつは殺せない、どうすればいい?)
「あはははっ! どうしたの? らしくないわね。そう、あたしは殺したら死体が残るものね、警察や祐一は騙せない、どうするのっ!」
立て続けに腕を振るわれるが、かわすか打ち下ろす以外、有効な手段は無かった。
(…祐一、どうすればいい? 私はこの魔物をどうすればいいの)
ここに来るまでは、香里を殺す覚悟すら出来ていたが、祐一の顔を見て、声を聞いてしまってからは、その意思は萎えていた。
(これで左手はズタズタ、祐一が帰って来たら、この手を見せて抱き付けばいい。「この女に殺されかけた」って、これでこいつは終わりよ)
意思の大半を魔物に支配されながらも、祐一に近付く女を潰す事は忘れていなかった香里。それが今の状態を拒めない理由でもあり、甘んじて受け入れるエサでもあった。
(…こいつは左手しか使わない。魔物は左手にいる)
そう気付くと、再び間合いを詰め、細く長い手の攻撃をくぐり、香里本体へと接近する舞。もちろんこれを「弱い」と言えるのは舞だけで、常人ならかわす事すら敵わず、栞の右手に潰された不良達のような末路を歩むのが普通だった。
(…左手の1本、へし折っても死にはしない。それにここは病院、やってみるか)
芝生の上を体勢を低くした舞が疾走する。香里の方も、視線と殺気が入れ替わったのに気付き、左手が狙われているのが分かった。
「やれるもんならやって見なさいっ!」
まず舞の足元を、刺のついた鞭のような腕が薙ぐ。
「はっ!」
一撃をかわし、低く遠くへ飛ぶ舞。香里はそこに返した手を捻り、後ろから腕を叩き込んだ。
「…甘いっ」
その攻撃も、まるで後ろに目が付いているかのように正確に読み、木刀で払う。
「くそおっ!」
いつものように、力で捻じ伏せるのと違い、スピードとリーチだけで対抗しなければならない。香里の腕は、決定力の無い力で舞の足に巻き付き、せめて姿勢だけでも崩そうとした。
「くっ! おおっ!」
そのまま転がって香里の横を通り過ぎ、不自然な体勢ながら体を起こし、腕を狙って斬りかかった。
「はああっ!」
その一撃で、普通の女の細い腕なら粉々に砕け、下手をすれば潰れたはずだった。
(はい、ご名答、これは君の左手だよ)
「…お前はっ! 天使、の人形?」
香里の腕を庇うよう、舞の木刀の前に出現した天使の人形。香里も小さな傷を負ったまま動けず、舞も木刀を引けなかった。
(そう、今は仮の姿だけどね、でもゲームオーバーさ)
「…何ですって?」
天使の人形に警戒しながらも、その手が指差す先を追って、鉄扉の方向を見た舞。
「香里っ! 舞っ!」
扉からは祐一の声が響き、二人の闘争心は一気に消えた。
(さあ、どうやって言い訳するのかな? それにどっちを信用するのか楽しみだよ)
「…待てっ!」
また消えて行く天使の人形を追うが、すぐに闇に混じり、見えなくなった。
「お前らっ! 何してるんだよっ!」
買い物袋を持ったまま走って来る祐一を見て、青ざめて行く舞。まさかあの距離を、こんな短時間で戻って来るとは予想もしていなかった。
祐一も、ここ数日の危機で力が戻り始め、二人の只ならぬ雰囲気を感じ、通学時のような驚異的な速さで走り抜けたらしい。
「助けてっ、祐一っ! この人が急に襲って来たのっ、怖いっ!」
予定通り、傷だらけになった自分を見せ、舞を通り魔のように言って、祐一の胸に飛び込んで助けを請う香里。
「…違う、その女は魔物。この地面とあの扉、人間の力で出来るはずがない」
隠すように背後に木刀を下ろし、事実を説明するが、こんな話は到底信じて貰えない。舞は街を徘徊して狩りをしている魔物の探索を諦め、祐一の傍にいる魔物を追い散らそうとしたのを後悔した。
「やっぱりそうだったのか、香里の左手は舞の言ってた魔物」
「「えっ?」」
香里の血が着いた木刀を持った舞を見て疑いもせず、あっさりその言葉を信じる祐一。
「どうしてっ? あたしの手こんなにされたのよっ、どうしてっ!」
「舞は意味も無くそんな事する奴じゃない、俺もお前と栞の片手だけ、凄い力だったから変だとは思ってたんだ」
「嘘よっ!」
「…祐一」
言葉は少なくても、今の状況を見た上で、こんな自分を信じてくれた祐一に熱い物が込み上げて来る舞。
しかし祐一は、香里が魔物だと分かっても平然として、胸に抱き止めたまま、いつものように頭を撫でていた。
「…どうして魔物だと分かっても、そうしてられるの?」
女としても少しムッとしたが、舞から見ても、魔物を抱いて可愛がっている人間を見るのは、信じられない光景だった。
「さあ? ここ何日か一緒だったし、なっ」
心は魔物とは言え、男女の関係になった上、香里に何かが憑依していたとしても、もう驚くような事態では無かった。
「でも、俺を「好き」なんて言ったの、香里じゃなかったんだな、嘘だったのか?」
諦めたような、しかしサバサバした表情で、香里の両肩を押して、距離を取ろうとする。
「違うっ、何でそんな事言うのっ? あたし、祐一がいないと死んじゃうのにっ」
先程の魔物の表情から、またか弱い表情に戻り、祐一の胸の中に戻ろうとする香里。
「じゃあ、今はどっちなんだ? 香里か? それとも舞が追いかけてた奴か?」
「分からない、さっきは確かにあたしじゃなかった。でもっ、祐一が好きなのはどっちも同じよっ」
目の前で、自分の左手が祐一に告白する光景を見せられ、奇妙な気分になって顔が赤くなる舞。そこで「…今からでも口封じ」と思ったかどうかは定かではない。
「何か難しいな、冷えるだろ? 中に入ろうか」
「うん…」
激しく争って汗はかいたが、風に晒されて体が冷えて来た二人。香里も、正体が分かっても優しくして、体を気遣ってくれる祐一に腕を絡め、人が少なすぎるロビーに戻った。
「舞もほら、牛丼」
「…分かった」
祐一が間に入った途端、奇妙な停戦が起こった。今まで言葉も交わさず10年戦って来た相手が、今は祐一に体を預け、腕を離そうともしない。
(…こいつが私の左手? それに栞と言う子が右手、分からない? でも祐一が好きだって言った)
天使の人形や、祐一に聞かされた話から、次第に状況が分かって来た舞。その表情は、自分の気持ちにも気付かされたのか、少し赤らんでいた。
しかし、自分から追い出した5体の魔物のうち、何体かは街中で人間狩りをしている。 例え死者は無くても、抜け殻のようになった者達は、明らかに生命力を吸い取られていた。そしてその魔物達を狩るのは、自分の使命だと舞は思った。
病院のロビーで、アイスクリームを口にしながら香里が口を開いた。舞も木刀を鞄に収め、牛丼に専念している。
「ねえ祐一、昔、一緒に遊んだの覚えてる?」
魔物と呼ばれた舞の分身達は、天使の人形と同じく、当時の記憶を鮮明に覚えていた。まるで固着したように、その瞬間に釘で固定されたままであるかのように。
「いいや、でもそれ、どっちの話だ? 香里か? それとも」
今は香里なのか魔物か、どちらと会話しているのか分からない祐一。舞もまだ、力の抜けきった祐一が、あの麦畑で遊んだ少年とは思っていない。
「あたしにもわからない。記憶が入り混じって、何がどうだったか、祐一の名前も知らなかった。でも、あんな楽しかったの生まれて初めて。あれ以外、楽しい記憶なんて何も無い」
そこまで言われ、今の人格は魔物だと思えた。香里と会うなら間違いなく名雪が一緒にいて、お互い紹介されて名前ぐらいは聞いている。
「忘れてて悪かったな。あの頃、何かがあって、俺もお前みたいな使い魔を出したらしい。でも、その使い魔が何をしたか、俺は覚えてないんだ」
その言葉を驚きの表情で聞いている二人。祐一は確かに「使い魔を出した」と言った、自分と同じような魔物を。
「「どうして、祐一が?」」
舞の別人格でも、同じ反応を示し、声をハモらせる二人。
「普段の香里なら言えなかったけど、今ならいいか。俺達って、この辺りの伝承にある妖狐の一族だったんだ」
「「え?」」
「香里と栞の病気が治ったのもそのせいだ。まあ、病気の原因も、妖狐の血が薄れたかららしいな、叔母さんが言ってた実家も、妖狐の家系なんだろ?」
「詳しくは知らないわ、母さんも も、そこまで教えてくれなかった」
天使の人形について、語る事は許可されていない左手。その正体や、祐一の出生の秘密までは聞かされていない。
「でも、香里が病気になったのって、お前が取り付いたからか?」
「違う、この女、祐一の事ばっかり考えて、力を使い過ぎてたから、いつ倒れてもおかしくなかった。だから、あたしが に言われて、この体に入って命を繋いでた」
舞の魔物は、香里や栞の命を奪うためでは無く、救うために憑依させられていた。
「あたし達も体が欲しかったし、体があったら、祐一に抱いて貰えるから」
恥ずかしそうに、祐一の胸の中に顔を隠す左手の魔物。
「じゃあ、香里の意思は?」
「この女、祐一に告白する勇気が無かったから、あたしが背中を押してやったの。そしたら止まらなかった。ふふっ、笑っちゃうでしょ、自分があたしに支配されてる感じがしたら、祐一を押し倒して、どんな恥ずかしい事でもしてた。泣き叫んで告白して「帰らないで」ってしがみ付いて、あたしの力まで引き出して、妹から祐一を取り上げようとしたのよ」
香里の豹変は、この辺りにあった。いつもクールで自分を見せないはずの女は、誰かに操られていると思った途端、本性を現しても恥ずかしく無くなっていた。
「もう香里の体、治ってるのか? だったら体返してやってくれないか?」
「この女、あたしが抜けたら、また格好付けて、祐一の事「嫌い」なんて言うかも知れない、それでもいいの?」
「やっぱり本心は嫌いなのか?」
「そんな訳ないでしょ、嫌いな男にあそこまでしない。この女、妹が大事でしょうがないの。でも心が魔物だったら奪える、押し殺してた欲を剥き出しにして、夜になったら喜んであたしに体を差し出してたわ。毎日「祐一に抱かれたい」って泣いてたの」
泣いていたのは左手も同じだったのか、涙声で訴えて、表情も同調していた。左手の言葉は香里の深層心理。声に出したくても絶対に出せなかった本当の心。
「あたし、祐一に抱かれて嬉しかった。子供の頃はこんな方法知らなかったけど、大きくなったから。でも、このままじゃ産まれて来るのはあたしの子じゃない、この女の子供。何か嫌でしょ、自分が抱かれてるのに。だから最近、ずっと焼きもち焼いてたの。変よね、あたしなのに、あたしに嫉妬するなんて」
「お前も、舞の分身なのか?」
「ええ、その女の分身に決まってるでしょ? あたし達は体を追い出された手足や胴体、こいつは追い出した主人格。だからあたし達は自分の体を取り返そうとして、ずっと戦って来たの」
そう言われ、ようやく魔物達が、舞の五体の分身だと気付かされる祐一。
「ねえ、あの体に戻っても抱いてくれる? あいつ、まだ処女よ。本心では祐一が好きで好きで仕方ないの」
「やめてっ!」
自分の心を勝手に告白され、悲鳴を上げる舞。
「こいつも、あたしが背中を押してやるから、すぐにオッケーよ。祐一だって嫌いじゃないでしょ、繋がってたからすぐに分かった」
香里の体がほんのりと光り、全てを告白した左手は舞を許し、祐一に抱き着いて通路を作るだけの軽いキスをしようとした。
「お願いよ、今からでもすぐに抱いて。あたし、自分の体で祐一に抱かれたい。祐一の子供、自分の体で産みたい、そうすれば、きっと……」
そのまま、祐一の腕の中で眠るように気を失った香里。舞の左腕は祐一に宿り、後は舞に許されて元の体に帰るだけとなった。
選択肢
1,左右の腕を舞に返す
2,まだ返さない
3,自分の体の中で飼う
4,秋子ちゃんと愛の逃避行
選択「1」
舞に香里を任せ、近くにあった車椅子を借りて、香里を病室まで運んでベッドに休ませると、舞に向き直って近寄る祐一。
「…やめてっ、私に乱暴するつもりね? エロ同人誌みたいにっ」
何か勘違いをして後ずさり、胸を隠して抵抗する舞。
「しないよ、安心しろよ。昼には右腕に、今は左腕に聞いた、お前は俺のこと好きじゃないのか?」
「…嫌いじゃない」
その言葉と表情から「相当嫌いじゃない」のが見て取れた。
「じゃあ、受け入れてくれよ、元はお前の右腕と左腕だ、もう許してやってくれるよな?」
「…嫌っ、そいつらは魔物、私が倒す」
「何でそこまで争うんだ? もうこいつらは俺の中にいる、今度は俺を倒すか?」
言葉に詰まり、答えられない舞。もう昔の事で、何故争い始めたのか、何故ここまで憎いのかすら覚えていない。その記憶は魔物が持っているかもしれないが、争いの切っ掛け程度は思い出せたので、ポツリポツリと話し始めた。
「…私も昔、祐一みたいに人の怪我や病気を治せたの」
「舞も? 俺と同じ?」
それは舞も妖狐の血族で、真琴(本物)達が言う「夜の使い魔」を出したのも妖狐の力に繋がるらしい。
「…その力でお母さんを助けたり、テレビにも出て色んな人を助けた。でも力が足りなくなると倒れる、もう無理だって言っても許してくれなかった。病気がひどい人に当たると、私の方が死にそうになった」
ここ数日の感触で、香里に触れられると力を吸われ、キスやそれ以上だと、さらに力を奪われるのを知ったので、舞の言葉と自分の経験が重なった。
「そうだな、俺は香里と栞だけだったけど、何かこう、生きる力とか、根こそぎ持って行かれる感じがするよな」
「…そう、最初はお母さんも気付いてくれなくて、「お金がもらえる」とか「人助けだから」って言われて励まされたけど、もうできなかった。そうしたら助からなかった子の家族が、「詐欺師」「うそつき」「あいつらだけ助けて、うちの子は助けなかった、差別だ、鬼っ」「子供の命を返せ、この化物っ」「うちの子はお前に殺された、悪魔めっ」「お前も死ね、怪物がっ」って、何度も脅かされて、追い回されたっ」
いつもより饒舌で、泣き出した舞を抱きしめ、頭を撫でてやって慰める。
「お前は悪く無い、悪いのはそんな奴らだ、もういい、もう終わったんだ」
「…ううっ」
舞に涙が戻ったが、祐一の中にいる右腕も震えていた。どうやら右腕が舞から追い出された喜怒哀楽のうち、哀しみの感情を持っていたらしく、間近にいる舞本体に影響を与えていた。
「舞のお母さんは助けられたんだろ? それだけでも良かったじゃないか」
「…うん、良かった」
抱き締めていると少し落ち着いたのか、泣き声が止まり、祐一の左手を取る舞。
「…さっきも香里さんが言ってたから少し思いだした。私が主人格、こいつらは私が追い出した、悪魔で鬼で化物で怪物で魔物、「嫉妬」と「怒り」と「恨み」と「憎しみ」と「恐怖」。だから殺さないといけない」
「やめろっ、こいつらを殺すと、お前の手足や胴体も腐り落ちるっ、最後にはお前が死んでしまうっ、だめだっ」
その魔物たちを自分の中に宿し、役目も知った祐一は、香里が持っていた左手が怒りに震え、栞が持っていた右手が哀しみ恨んでいるのが聞こえた。そしてそれらを倒した時、舞は感情の全てと生きるのに必要な力も失い、手足を一本づつ無くし、最後に残った胴体を殺した時にすべてが失われるのが分かった。
「怒りや哀しみは生きて行くのに必要な力だ、欲が無かったら食欲も無いし、恐怖が無かったら素手でライオンにでも向かって行く。お前は今まで、刀一本でライオンより怖い魔物に向かって行ってた、怖さが無かったんだな?」
「…え? そんなの無かった」
気の毒な相手を見て祐一も涙を流す、今まで自分を傷付け、自殺するために全力を傾けてきた少女。その顎を持ち上げ、もう一度許可を取ってみる。
「今からお前の一部を返していいな、もう許してやれ、争う意味なんて無いんだ」
「……やっぱり嫌」
「じゃあ、俺の両手を切り落とすか? そうなったらもう俺は生きていけない」
「それはもっと嫌っ」
また顔を背け、キスを嫌がるが、舞が一番気にする事を言ってやる。
「またお母さんの具合が悪くなったらどうする? もし佐祐理さんが怪我や病気にでもなったら、救えるはずのお前に力が無いんだぞ、どうする?」
「ん~~っ」
その状況を想像し、苦痛の悲鳴を上げる舞。次第に祐一に視線を戻し、承諾するような表情になった。
「…でも、そいつらが私に帰って来たら、何をするか分からない、また人の命を吸いに出歩くかも知れない、ここで暴れるかも知れない、そうなったら祐一が私を殺してくれる?」
木刀と剣が入った鞄を渡し、自分が魔物になった時は止めを刺して欲しいと言う舞。
「こいつらは、「そんなことしない」って言ってる、心がつながってるから嘘じゃない、もうそんな必要が無いんだ、お前の体から養分を貰えるし、自分を傷付ける意味もない」
「…本当?」
そう問うと、祐一の目も心の声も本当だと言っていた。安心した舞は祐一に体を預け、正面を向いて目を閉じた。
「いいんだな? 右手と左手を返すぞ」
舞は顔を赤らめたまま、小さく頷いた。
「じゃあ、顔を上げて、こっちを見てくれ」
怯えた小動物のような舞の顎を取り、上を向かせると、今度も通路を作るだけの軽いキスをした。
「…うっ」
暫く抱き合って唇を離し、顔立ちの良い横顔を見ているうちに舞にも異変が起こった。
「うっ、ああっ!」
左右の腕を押さえてその場に座り込み、戻って来た力に耐えている舞。いつものように、「手負い」や「瀕死」にした時の、「骨が中から腐って行くような感じ」と違い、今までの両腕の傷が、全て癒えて行くような感じがした。
「…こ、これって」
幼い頃出会った思い出の少年と巡り合い、何もかも繋がって得た暖かい感触も一緒に、体の中を駆け巡る嬉しい感触がした。こうして長年の戦いにようやく終わりが訪れ、これから左右の腕は舞の戦いに必要な力となった。
(おめでとう、君は和解できたみたいだね)
舞の力が増しても、それを祝っている天使の人形。舞の5分の2は思いを遂げた上、自分の体に戻った
「大丈夫か、舞?」
『ねえ、あの子、祐一なんでしょ?』
「え?」
両手を押さえ、胸を抱くようにしている舞。まるで発情したように息も荒く、顔も紅潮している。先ほど香里の魔物が言った通り、背中を押してくれたので今すぐ抱いて欲しがっているようにも見えたが、その表情と声に次第に狂気が混じってくる。
『あの麦畑で一緒に遊んだ男の子、祐一なんでしょ? 答えてっ!』
選択肢
1,うるさいので適当に「そうだ」と答えて、リノリウムの床に転がして足を持ち上げパンツだけ引きずり下ろし、自分はズボンも降ろさず2,3分で軽くレイプして済ませ、脱ぎたてホカホカパンツで血を拭いて没収。傷口にはティッシュでも詰め込んで家に連れて帰り、もう2,3回する。
2,香里と共にこの部屋に来た、「香里がロストバージンしたベッド」に転がし、気を失っている香里の真横で10分ほど掛けて舞も同じベッドでロストバージンさせてやり、デジカメで証拠写真も撮って、家でもう2,3回する。
3,ヌレヌレの舞をタクシーにでも押し込み、家に連れて帰って全裸写真を撮り、名雪が帰って来て部屋で泣いても「憧れの川澄先輩」がメスの声で鳴く所を聞かせてやり、真琴(偽)と名雪と栞がロストバージンしたベッドで、明日の朝まで新品の舞がボロ雑巾になるまで使い込んでやる。
4,冷静に考えてみる。
選択「4」
ここで祐一くんはオットセイ君の付属品であるタマタマから、大量のホルモンを受け取って脳までケダモノになっていたが、最後の理性を働かせて、舞とヤった場合どうなるのか考えてみた。
祐一クン未来予知中……
選択肢1を選んだ場合。
「そうだ、俺だよ、脱げよ、舞」
「…えっ?」
床に転がされて足を持ち上げられ、下着だけ膝まで降ろされ、局部を露出させられた舞。祐一はズボンも脱がず、チャックだけ降ろしてオットセイ君を出現させ、ヌレヌレの舞の局部に無断で押し当てた。
「…やっ! 痛っ!」
「静かにしろよ、香里が起きるだろ? 天井のシミでも数えてたらすぐ済むからよ」
「…うん」
優しい言葉も愛撫もキスも無く、ただオナホ代わりに突きまくられて、本当に天井のシミを数えている間に終わりを予告された。
「中に出すぞっ、全部受け止めろよっ、ううっ」
「…あっ、だめっ」
保険体育の授業を受けた舞は、それが何を意味するのかを知っていて、軽く抵抗してみたが手遅れで、腹の中に熱くて痛い感触が広がり、祐一の精子を子宮で全部受け止めさせられたのが分かった。
「ふ~~っ、スッキリした。これから俺の家に来いよ、もう2,3回するぞ」
「えっ?」
入れたまま下着を取られ、テッシュ代わりに傷口から出た血を拭き取られ、パンツの匂いを嗅がれた後ポケットにしまい込んだ所で引きぬかれ、精子や血が混じった汁を白い制服やスカートにも大量に掛けられて、自分の物だけ拭いた後のテッシュを、満タンになった局部の傷口にねじ込まれ、ノーパンのままで引き起こされた。
「立てよ、バス代もったい無いから歩きで家まで来いよ」
「…やっ」
半泣きで嫌がる舞の手を引き摺るようにして部屋を出ようとすると、香里と目が合った。
「何してんの、祐一」
「えっ?」
一瞬沈黙が支配すると、誰かが乱暴に階段を駆け登ってくる音がして、非常階段の扉にタックルしながら大きな音を立てて栞が現れた。
「祐一さん、川澄さんと手を繋いで、どこ行くんですか?」
全力で走ってきたのを示すように息を切らせ、まだ寒い時期に汗まで流している栞。時計を見ても六時間目終了から五分と経っていない。あの距離を数分で走破してきたらしい。
「あたしにも聞かせてよ、祐一」
魔物が抜けたはずなのに、相変わらずゴリラのような握力で腕を掴んで下さる香里さん。もちろん反対の腕は栞のクマみたいな力で掴まれ、メキメキと音を立てていた。
「あの、香里さん、いつから見てらっしゃいましたか?」
「え? そうね、祐一と川澄さんが何か言い合ってて、無理やりキスしてからよ」
そこで、「最初から見てらっしゃったのなら、声でも掛けて下さればよかったのに」と思う祐一だが、右腕の魔物と共に悲しみの感情が戻った舞が、見られていたと知って泣き出してしまい、言い訳もできなくなった。
「…やっ、いやあ~~」
「最初は金縛りみたいに体が動かなくて、祐一が川澄さんレイプしてる一部始終を見せられたわ。かわいそうに嫌がってるのに全部中に出して、あたしの時と同じじゃない」
「私の時もそうでしたよね? 嫌だって言ったのに押し倒して、キスもしないで下着だけ取られて、避妊もしてもらえませんでしたよね?」
香里と栞の場合は違ったような気がしたが、レイプや痴漢冤罪では女性の意見が優先され、男が口をはさむ余地など無い。
そこで股間や子宮の痛みを感じて押さえていた舞は、ティッシュの位置をいじっている間に外れてしまい、ビチビチと汚らしい音を立てて精液が股の間を流れ出て、くるぶしまで流れ出したのも見られてしまい、泣きながら屈んで尻の下に汚い汚液溜まりを作った。
「いやあっ、見ないでっ、見ないでえっ!」
見かねた香里がティッシュを箱ごと渡し、ウエットティッシュも抜いて舞の制服に着いた血と精子の染みを拭ってやる。
「う~~、グスッ、うう~~」
舞は泣きながら自分の足の間や股間、靴下や靴に付いた精子を拭き取り、制服とスカートに掛けられた血と精液を擦って取り、尻の下の汚液溜まりも自分で掃除し始めた。
「いやあっ、ヒック、こんなの最低っ、ううう~~っ」
涙と鼻水でグジュグジュになりながらも、自分が穢された痕跡を残さないよう処理する舞。
「栞、詰め所に行って警察呼んでもらって。多分、名雪と秋子さんもこうだったのよ、誰も被害届出さないから、こんな男がはびこってるのよ、許しちゃ駄目」
「ええ、お姉ちゃん」
五時間目、あれだけ激しく争った姉妹が、女の敵に対しては共同歩調を取り、恋心や独占欲も全て無くして、見下げ果てた男を掘の中に突き落とそうとしていた。
「香里~、今日も来たよ~」
そこで真琴(本物)まで来てしまい、さらに状況が悪化する。
「来ちゃだめよ、この男に近寄ったら犯されるわ」
「…うう~~っ、もうやだ~~っ、見ないで~~っ」
床掃除を終え、真っ白な制服の赤や黄色の汚い染みは、ウエットティッシュでも取れないのを確認し、座り込んで顔を覆って泣いている舞と、その前に立ち塞がって、レイプ被害者を親友に見せないようにする香里。
「もう手遅れだよ、私も相沢くんに酷いことされちゃったから」
「私も体育倉庫に連れ込まれて、乱暴されました」
両手の縛られた跡?や頬を殴られた跡?を見せ、既に手遅れだったと主張する親友たち。
「あんた達までっ?」
合計七人もの被害者を出した連続強姦魔、相沢祐一。それは氷山の一角で、毎夜生け贄にされて涙を飲んでいる少女達がいるに違いない。
女達は許せない女の敵を見て、簡単に刑期を終えて出てきそうな悪魔に、まずは鉄拳制裁を加え、その後はオットセイ君とタマタマの切除手術を行うため、カッターを取り出した。
(らめ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!)
選択肢1を選んだ場合の白日夢を僅か1秒で予測して却下した祐一は、続いて選択肢2を予想した。
祐一妄想中……
「あ、そうそう、オレオレ、あの畑ね、じゃあしようか?」
適当にオレオレ詐欺でその子とやらになりすまし、自分と舞の上着を取って、物置になっている隣のベッドに投げる。手慣れた様子で舞のスカートのホックとチャックも下ろして床に落とし、ブラウスのボタンも千切るように外して、抱き付いてブラの背中のホックも外す。
「…やっ」
香里の隣に舞を押し倒して寝かせ、靴も脱がせて床に捨てる。祐一も手早くズボンを下ろし、舞に伸し掛かって邪魔な香里を端に押し退けて乱暴に行為を開始する。
「…うっ」
露出させられた胸を乱暴に鷲掴みにされ、同意する前に胸も吸われ始め、小さく悲鳴を上げる舞。祐一の指に股間をまさぐられ、濡れているのを確認すると下着の中に手を入れられ、指で直接撫で回される。
「…ヒッ」
初めて他人に触られる感触、だが愛しい少年に触られたので我慢し、されるがままになる。
「もうビチャビチャじゃないか、もう入れてもいいよな」
「…え?」
同意していないのに下着を下ろされ、枕元に置かれたデジカメで撮影され、足を上げさせられ、局部も開かされて、初めての印まで撮影される。
「…やっ、だめっ」
「自分で広げろよ、撮ってやるから」
手で隠したはずが、逆に自分で広げるように言われ、嫌われたくなかったので我慢して広げ、撮影にまで協力してしまう。
『花びら撮るんだから花マークで良いんだよな?」
下品な表現で接写モードに切り替え、ピントが合った良い写真を撮るまで何度もフラッシュを炊かれながら撮影され、恥ずかしさで涙を流す舞。
「…もう許して」
「じゃあするぞ」
また同意しないままオットセイ君を押し当てられ、乱暴に突き抜かれた舞。
「…痛いっ、だめえっ!」
これも嫌われたくなかったので抵抗しなかったが、避妊もしてもらえず、優しい言葉も無かったので、さらに涙の量が増えた。
「うるさいって、静かにしてろよ、香里が起きるだろ?」
乱暴に腰を動かされるので、声や涙が出ないよう枕の端を噛んで耐えたが、どうしても声が出るので、祐一に枕を顔の上に置かれ、口封じに押し付けられる。
「ううっ」
片腕は自分の顔の上で枕を押さえ、もう片方の手で足首を掴まれたり、胸を乱暴に揉まれ抵抗する舞。その腕と足が香里に当たった。
「もう出すぞ、たっぷり出してやるっ、孕めっ、俺の子を孕めっ」
「ううううううううううう~~っ(訳:中にだけは出さないでっ)」
そこで誰かが階段を駆け上る音がして防火扉にタックル、病室の扉を開こうとしてガタガタ言わせ、内鍵が掛かっているので空間転移し、祐一の背後に出現した栞。
祐一は自分の後ろから猛烈な冷気がしたが、怖くて振り向けず、目を泳がせていると香里と目が合った。
「おはよう、祐一、これ誰?」
枕を顔に押し付けられ、誰なのかも分からない女だが、祐一に犯されて泣いているのだけは分かった。
「ユウイチサン、ナニシテルンデスカ?」
再び栞にカタカナ言葉で話し掛けられ、恐怖に縮み上がるオットセイ君。奥の奥まで差し込まれていた物を抜き出された舞は、また局部からビチビチと汚い音を立て、汚液を垂れ流してシーツや自分の股間を汚した。
『解錠!』
さらに何かの術を使って病室の内鍵を外し、真琴(本物)達まで入室してきて、祐一は詰みとチェックメイトと死刑を覚悟した。
「いやあっ、見ないでっ、見ないで~~っ」
最低の初体験に、泣き出して丸まって枕で顔だけ隠す舞。汚された体や局部はそのままで、さらに汚液を吐き出し、尻のラインとシーツに血と精子をぶち撒けた。
『忌み子、相沢祐一。貴方の悪行もこれまでです、これ以上災厄を撒き散らすなら、わたくし達も容赦はしません。本来、貴方を倒すには秋子様の決済が必要ですが、ここまでの事を仕出かした以上、事後承諾でも構わないでしょう』
香里のハサミ、栞の業務用カッター、真琴達の持つ刃物や針で、切除手術を開始されるオットセイ君とタマタマ。
(これも、らめ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!)
選択肢2を選んだ場合の白日夢を、これも僅か1秒で予測して却下した祐一は、共通の出来事を予想した。
祐一さらに妄想中……
オットセイ君とタマタマを下水に流され、女の子になる前に一応手術を受け、傷口だけ閉じて処置して貰った祐一サン。刑務官が監視している病室に、特別に許可を取った佐祐理が現れた。
「サ、佐祐理さん、違うんだ、あれは……」
その表情は当然いつもの笑顔では無く、目を見開いて、能面か般若のような顔で祐一を見ていた。
「舞から「全部」聞きました、舞は訴えないと言っていますが「私」は許しません。必ず報いを受けて貰います」
いつもと表情と人称も違うので、別人かと思えたが、離れていく刑務官、一緒に現れた黒服と、危なそうな半裸の男達、設置されたビデオカメラなどで、権力者のお嬢様だと気付かされる。
「坊や、これから俺達がお前をレ○プしてやる、大勢いるからケツの*はもうダメになるのを覚悟しろ。ワセリンも使わん、ローションも浣腸もなしだ、噛み切らんように歯も折っておく、ちなみに俺らはエイズ持ちだ、いいな?」
「へ?」
「お嬢様、汚いシーンと匂いが出ますので、あちらで悲鳴だけお楽しみ下さい」
「ええ、後はお願いします」
佐祐理が立ち去った後、前歯を全部折られ、何の前戯も無しにケ○の穴を掘られてしまう祐一サン。
「アッーーーーーー!」
最初の悲鳴の後、口の中も掘られて、次々にレイ○される。その状況は全部ビデオに取られ、裏ホモビデオに流出され、ネットでもばら撒かれて、色々な意味で人生を終了サせられる。
(もっと、らめ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!)
秋子ちゃんを召喚して逃避行もできないようなので、最後の望みをかけて選択肢「3」を選び、オットセイ君の命令にも勝てないので、可能な限り舞に優しくして自宅へと誘ってみる。
「舞、大丈夫か?」
「…平気」
「舞、俺……」
「言わないでっ」
今、祐一に何か言われれば、両腕の言葉通り、本当に身も心も捧げてしまいそうで、言葉を遮った。
「…今日はもう帰る、その子と一緒にいて」
「送ってやる、いや俺の家に行こう」
「…え?」
振り返った舞には表情が有った。それは適切な表情では無かったが、香里が悪巧みする時にしていたように、ニヤリと笑っていた。穏やかで爽やかな表情で。
「舞が、笑った?」
眠っている香里を置いて部屋を出ようとしたが、左手の魔物が言っていた通り、翌朝目覚めた時「あんたなんか大嫌いっ」と追い出されそうな気がして、メモだけ残して帰った。
ほんの1行「覚えていたら、また呼んでくれ 祐一」とだけ書き残して。
(香里の奴、もう俺の事忘れたかな? まあ、その方がいいか)
深層心理が隠され、普段の香理に戻った時、祐一との縁は忘れてしまうか、過ちだったと言われそうで少し寂しい気もした。しかし、真琴(本物)や栞の事を考えれば、これでいいのだと思えた。
さらに、香里と別れた上で、栞とヨリを戻すような真似もできない。以前のような恋心は失せてしまったので、いつか別れ話を切り出さなければならなかったが、両親と優しい姉の元に返してやりたいとも思っていた。
「バイバイ、香里」
気が強くて弱虫で、すぐに怒って泣いていた同級生。自分が好きだと言って、親友とまで絶交した女。「もうすぐ死ぬって言われた人間の顔、見た事ある?」と聞かれ、何度も泣きながらしがみ付かれ、切った髪を遺髪として渡されて、腕時計や持ち物を交換し合い、ついに自分の命も分け与えた少女。
香里が元気になった事だけを喜んで、今度こそ自分の役目が終わったと思い病院を出る。従兄妹の少女と仲直りして、また親友に戻れるように願いながら。
(舞の言葉を信じて、香里さんが魔物だと分かっても平気なんだ。さすが体で愛し合った者同士だね)
「うぐっ、か、体で」
(そうだよ、君も体が出来上がったら、同じようにしてみればいい)
「う、うぐぅ~~」
その状況を想像できず、顔を隠してクネクネしているあゆ。その体は別の場所で成長を続け、八頭身の美しい体に変化していた。人の命を吸い、血を奪って、魔性の力を付けて、赤黒い翼を伸ばしていた。
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