IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
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【第560話】
運動会当日、場所はIS学園正門。
正門前にはIS委員会が視察の為の入校許可申請の為、足止めをくらっていた。
「会長、視察をするにしても急に予定をたてられては――」
「えぇ、本来であれば正式な手続きを経て――ですが、私も含め、貴殿方には今一度現状を視察するのも良いかと」
「そ、それはそうですが――会長、視察内容が【有坂緋琉人】の代表候補生昇進に相応しいかどうか等と……彼に適性等無いのは明白。 現にこの書類にもランクEと――」
視察――実際の所は有坂ヒルトが代表候補生に相応しい実力があるかを確かめるためにやって来た。
無論今回の視察団の大半はその実力に懐疑的な為、視察には乗り気ではなかった。
更に唐突な視察という事もあって足止めをくらっているという状態。
だが――ここで視察を行わなければ今後の予定的にも厳しいものとなるのは会長には明白だった。
申請が下りれば――そう思い、視察団の小言を聞き流しながら会長は許可を待つのだった。
一方、IS学園グラウンド。
普段はただただ広いだけ、だがその広さ故にISを使った模擬戦等はアリーナの様な制限を受けない。
そんなグラウンドも、急遽開かれる事になった運動会によって各種競技が行いやすい様になっていた。
準備を行ったのは上級生たち――今回の運動会は一年生限定の為、一部生徒からは批判はあったものの、更識楯無生徒会長の取り計らいによって事なきを経た。
そして、今回の運動会は優勝した者にはどんな願いも叶えられる。
――とはいえ、各クラス毎に代表候補生(というか専用機持ち)を主体にするとかで一般生徒が『私たちじゃ願いを叶えられないんじゃ?』っていう一部の声が上がったものの、此方も生徒会長の機転で問題解決された。
一年生に関していえば、前半の活躍具合によって様々な恩恵があるとか何とか。
上級生も同様、運動会の設営含めて後半には何かあるとかないとか。
真相は当人たちだけが知ること故に、ヒルトにはわからなかった。
そして、グラウンドに集められた生徒たち、開会式が盛大に開かれようとしていた。
「それでは、これより一年生による専用機持ち筆頭のヴァーサス・マッチ――通称大運動会を開催します!」
開会式のアナウンスは生徒会長である更識楯無が執り行った。
それに呼応し、全学年生徒の歓声が一気に上がると共に、用意されていた開会式用の花火が青空に花開いた。
「選手宣誓は、生徒会長権限によって有坂ヒルトくんにお願いするわね」
唐突にそう告げられ、視線が一斉にヒルトへと向けられた。
ぎょっとした表情を見せるが、断れないと分かり観念して壇上に登る。
「ヒルトー、頑張れよー」
そんな一夏の声援が聞こえる――一体何を頑張れというのか、というかたまには替われよと心でひたすら呪詛の言葉を吐き続けた。
雲一つない青空のした、ヒルトの眼前には一学年女子一同。
この学園は何故か体操着をブルマにしているため、美しい脚線美及び、整ったヒップラインを露にしていた。
そして、一年だけではなく上級生も同様の体操着姿――因みに一夏は短パンだが、ヒルトは下だけちゃんとジャージを穿いている。
軽く咳払いをし、緊張で高まる鼓動を抑えようと深呼吸し――。
「選手宣誓! ……私たちは正々堂々スポーツマンシップにもっこり――じゃねぇっ、乗っ取りだ!」
自分で言い間違い、自分で突っ込むヒルト、それに様々な反応する一同。
「ヒルトくん……流石にもっこりはダメよ」
そう告げるのは楯無だった、心なしか顔が赤くなってる。
「有坂くんー、定番ネタだねー!!」
「でも掴みは悪くないよー!!」
「し、下ネタだなんて不潔です!」
無論ヒルト自身わざとではないのだが――それはさておき、また咳払いをして言い直した。
「スポーツマンシップに乗っ取り! 力の限り正々堂々と競い合うことを誓います!!」
今度はちゃんと言い切るや、それに呼応して歓声が沸き起こった。
そして、各専用機持ち各々はそんな歓声の中。
「……この日の為に精神鍛練を行ってきたのだ。 何があろうと、私は動じる訳にはいかない」
そう呟くのは紅組団長の篠ノ之箒だ。
ただただ自身の精神鍛練を行ってきた篠ノ之だが、肝心の運動は全く練習してないという。
「うふふ。 運動会……わたくしがエレガントかつパーフェクトに……優勝を貰いますわよ」
髪をかきあげるのは蒼組団長のセシリア・オルコットだ。
「ふふん。 今回はアタシが勝つわよ。 勝って……何を願おうかな」
勝つ気満々なのは桃組団長の凰鈴音、願い自体はたいして考えてなかったようだ。
「皆気合い充分だね。 ……だけど、今回は僕、負けるつもりないから」
橙組団長のシャルロット・デュノア、普段とは違い明らかに闘志がみなぎっていた。
「……誰であろうと立ち塞がる者は排除する。 たとえそれが我が嫁であろうと……私には叶えなければならない願いがあるのだから!」
腕組みしつつそう宣言するのは黒組団長、ラウラ・ボーデヴィッヒだ。
「……勝つ」
小さく意気込むのは鉄組団長、更識簪――組分けは色で決まるのだが、何故か鉄組という。
「皆気合い入りすぎ。 ……っても、美冬も負けるわけにはいかないからちょっと本気だしちゃおうかなーっ」
屈伸運動するのは黒檀組団長、有坂美冬だ。
鉱石になってるが気にはしなかった。
「……勝てるかな。 ううん、勝たなきゃ……!」
白組団長、飯山未来。
心なしか緊張の色を隠せない未来だったが、その瞳には確固たる意思を感じさせた。
「運動会! ずっと楽しみにしてた! 早く始まらないかなぁ……」
本当に楽しみらしく、ウキウキと心待にしていたのは黒曜組団長、有坂美春――機体色が黒故なのだろうか、明らかに組名が色ではなくなっていた。
「……転入したての私が団長等と――否、これはせっかく与えてくれた機会だと見る方が賢明か」
翠組団長、エレン・エメラルド。
風に靡く緑の髪、組んだ腕に乗っかる二つの膨らみ。
身長とは不釣り合いなそれだが、彼女自身トランジェスター体型なのだから仕方なかった。
因みにだが凰鈴音、ラウラ・ボーデヴィッヒの二人を両隣にすると明らかに羨むような視線で見られるエレン・エメラルドだった。
後、ヒルトと一夏だが身体能力が女子とは違うので基本ISを用いる競技以外では出番はない。
宣誓を終え、壇上から降りたヒルトに、唐突に後ろから抱き着く楯無。
「お疲れ様、ヒルトくん!」
「……楯無さん、一応皆の前ですので」
「うふふ。 大丈夫よ、一応皆からは見えない死角だから」
「い、いや……明らかに母さんには丸見えになってるから」
事実、有坂真理亜は二人の行動を微笑ましく見ていた。
流石にヒルトの母親に見られていたというのは気付かず、赤面するとパッと離れた楯無。
「じゃ、じゃあ、私、実況とかで忙しいから!」
そう言って脱兎の如く逃げ出した楯無、追いかけようとしたヒルトだったが有坂真理亜に捕まってしまう。
「あらあらぁ? ……うふふ、ヒルトったら……隅におけないわねぇ♪」
「な、何言ってるんだよ母さん……」
「うふふ♪ 娘候補がまた増えたわぁ……♪」
楽しそうに微笑む真理亜は、その場を離れていく。
頬を掻くヒルトを他所に、運動会は開催されたのだった。
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