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IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》

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【第585話】

 コスプレ生着替え走が終わり、次の競技へと向けて準備が行われる中。


「更識、少し来い。 委員会会長が呼んでいる」

「え? わかりました。 じゃあヒルトくん、少しの間、任せるわね?」


 織斑先生に呼ばれ、楯無さんは隣の来客席へと移動した。

 会話内容は聞こえないものの、何か重要な事を話してる様だった。


「千冬姉と楯無さん、あの人に呼ばれたけど何の話してるのかな」

「……さあな」


 一夏の問い掛けにぶっきらぼうに答えた俺。

 運動会とはいえ、流石に暇なのは敵わない。

 跳び箱や平均台を片付ける教師や生徒達を眺めていると――。

「やあやあ織斑一夏くん、ご苦労様」


 そんな声が聞こえ、一夏が振り向くとIS委員会のオッサン連中が現れた。


「あ、どうも」

「ハッハッハッ、君は座っていたまえ。 学園襲撃事件の数々、解決しているのだから疲れているだろう。 先日も何やら襲撃されたと聞いた、無論君の活躍によってこの学園が無事なのはわかっているがね。 ……それよりもだ、そこの落ちこぼれ」


 そこの落ちこぼれ――多分俺の事だろうが生憎と落ちこぼれという名前では無いので無視していると――。


「君の事だよ、ISランクEの落ちこぼれ、有坂ヒルト。 貴様は何を暢気に座っているのだ! さっさとグラウンドの片付けぐらい手伝ったらどうだ!」


 突然怒り始めた委員会のオッサン――更年期なのかと思っていると。


「ホッホッホッ、まあまあ。 落ちこぼれだから何も出来ないだけの様ですよ」

「その様ですな。 あまり怒っているとオーランドさんも血圧が高くなりますぞ」


 抑えるようにいう二人も、明らかに俺を馬鹿にしていた。

 気にせず無視し続ける俺、一瞥するオーランドと呼ばれたオッサンは。


「フンッ、こんな礼儀もなっていない無駄飯食らい。 役にもたちませんな。 全く、親の顔が見たいものだ」


 その発言に、近くに居た母さんが反応した。



「あらぁ? うふふ、不出来な息子ですみませんねぇ」


 間延びした声と共に現れた母さん、ギョッとする一同だがオーランドと呼ばれたオッサンだけは母さんを下から上まで舐めるように見た。


「ほほぅ。 貴女が有坂ヒルトのお母様ですかな。 成る程……息子は不出来だが、お母様は何処か品があるように見えますな」

「あらあら、私を褒めても何も出ませんよぉ? ……うふふ、それよりも、不出来な私の息子に、言うことは無いのかしらぁ?」


 間延びした声故か、世論は女尊男卑なのだが強気なオーランドと呼ばれたオッサンは――。


「ありませんな。 言って悪いことは何一つ言っていませんのでね」

「うふふ、そうですかぁ。 ……オーランド・カーン、さん? でしたわねぇ♪ 後、そちらの方々は確か……右からスコット・ドルティ、ジェームズ・ブライアー、劉蓋風、ダスティ・ショーン・ライアンJr.……ですわねぇ♪」

「「……!?」」


 名乗ってすらいない四人の名前を当てられ、狼狽する四人――委員会会長のレイアート・シェフィールドならテレビのニュースにも取り上げられるが、一議員は不祥事を起こさなければ誰もわからないはずだった。

 小さく笑みを浮かべた母さんを見た五人は――。


「ふん。 興が削がれた。 戻るぞ」


 オーランドを筆頭に五人はその場を立ち去った。


「……あの人等、結局ヒルトに何の用だったんだ?」

「……うふふ、織斑君には永遠にわからない問題よぉ」

「ふーん」


 母さんが答えると、一夏は返事をし、椅子から立ち上がって何処かへと行った。


「ヒルト、嫌な思い……したわよねぇ?」

「ん? ……まあもう慣れたかな」

「……そう?」


 よしよしと俺の頭を撫でる母さん、普段なら恥ずかしいからと止めさせるのだがそんな気は起きなかった。


「うふふ。 ヒルト、お母さんそろそろ行くわねぇ」

「……あぁ」


 短く返事をした俺、母さんはその場を後にした。

 ――と同時に、現場が慌ただしくなる。

 次の競技の為に設営していた風船類等が一様に撤去されていき、上級生は何処からとってきたか知らないが、小型ドローンをあるだけ用意していた。

 機数だけなら優に百を越えている――グラウンドに並べられたそれらが一様に空へと舞うと、学園中に散っていった。


「有坂、すまないが此方に来てくれないか?」


 隣の来客席に居た織斑先生に呼ばれた、何事だろうと思い近くへ移動する。

 来客席には織斑先生、楯無さん、それとIS委員会会長の三人が待っていた。


「初めまして有坂ヒルトくん。 IS委員会会長、レイアート・シェフィールドです」


 差し出された手を、俺は握り返すとニコッと笑顔で応えてくれた。

 鮮やかな金髪は腰まで伸びていて、瑞々しい唇――だが顔付きはやはり大人の女性だ、美人の分類に入るだろう。


「え、えぇ。 よろしくお願いします。 ……というか、何で呼ばれたんですか?」


 握手はしたまま、呼んだ織斑先生に聞くと代わりに楯無さんが説明し始めた。


「ヒルトくん、今見てる通り、次の競技の設営してたけどそれは中止にしたの。 今回、委員会会長、レイアートさんがいらっしゃった理由は君にあるの」

「え?」


 理由が俺に?

 思わずレイアート会長を見るとにこやかな笑顔を見せた。


「えぇ。 実は今、委員会で君を代表候補生に選出しようとする動きがあるの。 ……大半は反対派ばかりだけど」


 それはそうだろう、世間一般で俺は落ちこぼれ――さっきのオッサン連中も落ちこぼれと言っていたから、あれが反対派という奴だろう。

 人数が少ないのも、昼から来たのも学園への手続きとか様々な要因があるはずだ。


「そこでね、君の実力を目の当たりにしたら少なくとも見解は変わると思うの。 ……この後の競技予定見ましたけど、少なくともその競技を行うよりは君の実力を改めて皆に見てもらう方が良いと思って」

「実力ですか……」

 見せる実力も何も、俺自身はいつも通りに行うだけだ。

 代表候補生――か。


「有坂、承ける承けないはお前が決めることだ」

「織斑先生……?」

「無論、ここに居るものでお前が代表候補生に相応しくないと思う人間はいない。 私も更識も、有坂が代表候補生として選ばれるのは何ら問題はないと思っている」


 腕組みをし、俺を真っ直ぐ見る織斑先生。


「有坂、代表候補生となれば……義務が生まれる。 その義務はIS操縦者としての義務だ。 戦いが嫌いなお前にとって、避ける事が出来ない――《持つべき者の義務【ノブレス・オブリージュ】》からな」

「ノブレス・オブリージュ……義務、か……」


 瞼を閉じる――言葉の重みを感じる、だけど……未来や美冬、セシリア、鈴音、シャルにラウラ、簪、楯無さん――皆がそれらを背負ってきていたんだ。

 ゆっくりと瞼を開く俺、真っ直ぐ会長の目を見て俺は言葉を紡いだ。


「何処までいけるかわからないですが……やりますよ。 ……そう……《持つべき者の義務【ノブレス・オブリージュ】》として!」


 その言葉を聞き、織斑先生は小さく頷き、楯無さんは嬉しそうに笑顔を見せた。

 そして――レイアート会長から告げられた条件。


「有坂くん。 忘れたらダメだけどまだ君は代表候補生に決まった訳じゃないの。 ……私の条件として、君には【今いる専用機持ち】全ての人と戦って勝ってもらいます」

「……専用機持ちと?」

「はい」


 一瞬何を言ってるのかよくわからなかった――だがわかるのは会長が言ってる事は本気だと言うことだった。 
 

 
後書き
次回からは専用機持ちとの戦い 
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