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IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》

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【第591話】

 ヒルトが次の試合の為に補給をしてる間に流されたアナウンスは、ヒルトにとって厳しいものだった。

 次からはパッケージ装備の使用が許可される――これにはヒルトも適用されるが、ヒルトはこの補給する時間内に行わなければいけない。

 無論補給に手一杯なヒルトには無理難題、そもそもイザナギに着用するパッケージはIS用強化外骨格【クサナギ】以外は現状無い状態だ。

 ヒルトにとって、利点が全くない新たなルールの追加、深く考えないようにしても重くのし掛かってくる。

 補給を終えたヒルトに、イザナギのコア【ナギ】が語りかけてきた。


『マスター、大丈夫なのですよぉ(b^ー゜) ナギが精一杯サポートするのですよぉ(≧ω≦)b』

「ん……頼むな」

『お任せなのですよぉ!( ̄^ ̄)ゝ』


 イザナギのコア・クリスタルは淡く優しい輝きを放っていた。

 共鳴現象――人によっては見ること自体かなわないその現象は、ヒルトにとっては見慣れた現象だ。

 ヒルトの声、想いに応える――それはコアにとっては当たり前の事だった。

 輝きを放っていたコア・クリスタルも胸部装甲内へと格納され、補給を終えたヒルトは直ぐ様立ち位置へと飛翔していった。

 既に相手は来ていた――打鉄弐式、簪だ。

 アナウンス通り、パッケージを装備した打鉄弐式――シールドパッケージ『不動岩山』、広範囲防壁を展開していて容易に攻撃を突破させない様に見えた。


「ヒルト、くん。 ごめ――」

「謝る必要はないさ。 決まった事に、従ってパッケージを身につけただけだろ? ――問題ないさ」

「う、うん……」


 確かに決まった事だが、フェアな内容では無いことは簪だけじゃなく他の人にも感じられた。

 シグナルが点灯――今から何をいっても、何をしても試合は始まる。

 簪自身も気持ちを切り替える、先の試合全部見た簪にとって、実力が桁違いなのは明白だった。

 専用機の完成が遅かったからとかではない、単純にヒルトが行ってきた努力――その結果だ。

 だけど、ヒルトの表情には疲労の色も見れてとれる、マルチロックシステムを起動させた簪。

 ヒルトも、両腕にギガンティック・マグナムを展開して構えて見せた。

 更にシグナルが点る――呼吸を整え、ヒルトは真っ直ぐ簪を見据えた。

 そして――シグナルが緑へと変わった瞬間、五戦目の試合が開始された。

 マルチロックシステムでヒルトをロックする簪だが、それよりもいち早くヒルトは攻撃を仕掛ける。


「唸れェェェッ!! ギガンティック……マァグナァーームッ!!」


 他四戦よりも気合いの入った叫び声は、ビリビリと空気を振動させ、呼応するかの様にギガンティック・マグナムのスラスターが唸りを上げて射出された。

 巨大な拳が簪に迫る、マルチロックしつつ回避運動をとろうとする簪だが……。


「ギガンティック・マグナム、イグニッションッ!!」


 瞬時加速する巨大な拳、回避が間に合わないと判断した簪は不動岩山で攻撃を防いだ。

 衝撃に機体は揺れるも、ダメージは軽微、直ぐ様反撃しようと山嵐を起動させた。

 だがヒルトは次の行動に移るのが速かった、空いた手で新たに電磁投射小銃を呼び出し構え、フルオート射撃で簪を攻撃。

 疲労の色が見えていたヒルトだが、動きのキレは悪くない。

 直上からのフルオート射撃――弾雨が降り注ぐ簪、ミサイルを放とうにも誤爆する危険性があった。

 不動岩山の防壁で防ぎつつ、荷電粒子砲で反撃を試みるがロックせずの射撃の為、掠りもしなかった。


「いっけぇぇぇッ!! ギィガンティック!! マァグナァァァァムッッ!!!!」


 もう一方のギガンティック・マグナムが射出、握りこぶしを作り、それは簪に一直線に向かった。

 また加速されてはかなわないと判断するや、クイックブーストと共に急上昇する簪――その間もヒルトの射撃による弾幕でエネルギーは削られていく。

 明らかにアサルトライフルの威力を上回る新たな銃、加速力と一点突破する貫通力が上がっていてもしこれが制限解除、或いは限定解除されていたなら装甲を貫通、絶対防御が発動してあっという間に敗北するかもしれない。

 現に不動岩山の防壁は、電磁投射小銃の弾幕を防いではいるが明らかに損傷が上回っている。

 打鉄同様、自然に修復されて継戦防御力を向上させているのにそれを上回る威力。

 回避と防御を合わせても逃れられない弾幕――弾切れも期待できない。

 一瞬でも山嵐を放てる機会が欲しかった簪は、出力を絞った荷電粒子砲をランダムに撃ってみせた、無論当てる必要の無い、端から見れば無駄撃ちでしかない。

 だけど、それがうまくいったのか、一瞬弾幕が止む――刹那、一斉に放たれる四八基のミサイル。

 マルチロックされ、執拗にヒルトを追跡するも、電磁投射小銃の弾幕に阻まれ一基、また一基と爆発が空を描いた。

 その間もミサイルと重ねて十字射撃になるよう荷電粒子砲を撃つも、ヒルト自身が多角的機動を描き、ミサイルも荷電粒子砲も避け、迎撃し、放った最後の一基も撃ち落とされた。

 新たに装填する合間、簪は薙刀《夢現》を呼び出し、構える。

 接近戦でヒルトに敵うとは思わない簪だが、薙刀の間合いなら上手くすれば範囲外から攻撃が出きる。

 迎撃が終わったヒルト、明らかに連戦の疲れが現れ始めていた。

 一息入れる間もなく、簪が迫る――弾幕を張るも、不動岩山によって阻まれ、ダメージは与えられなかった。

 一旦電磁投射小銃をかなぐり捨てるヒルト、粒子片となり空中で散り、新たにカリバーンを呼び出した。

 迂闊だった、薙刀の間合いなら北落師門は届かないもののヒルトの持つ大剣は薙刀を上回る間合いを持っている。

 走り出したら止まらない――簪は薙刀を支え、突撃をかけた。

 互いの刃が交錯する、質量の差で簪が支えた薙刀は一撃で手元から弾き飛ばされた。

 勢いそのまま、ヒルトはカリバーンで大きく凪ぎ払う――その一撃で破損していた不動岩山が完全に破壊された。

 デッドウェイトとなったパッケージを強制排除する簪――切り返しの二撃目が打鉄弐式に直撃、大きくシールド・エネルギーを減らした。

 三撃目――袈裟斬りの一撃はかわし、至近距離から荷電粒子砲を浴びせた。

 だが咄嗟にカリバーンを盾にしたヒルトにそれは届いていなかった――反射神経も明らかに上回っていて、どうシミュレーションしても勝つイメージが出来ない。

 簪は以前の襲撃事件が脳裏に過った、あの時のヒルトの機体は打鉄の改良型――他の皆が二機で一機相手に苦戦する中、ヒルトは一機で逆に複数撃破していた。

 弱気な自分が見え隠れする――だが頭を振り、簪は直ぐに近距離からの荷電粒子砲の射撃を行う。

 だが――ヒルトはそれを見て唇の端をつり上げて笑った。


「……もらったぜ、簪?」

「……!?」


 粒子片となって四散するカリバーン、向こう側から電磁投射小銃を構えるヒルト。

 荷電粒子砲のチャージが終わる前にもろにフルオート射撃の弾幕を浴びる簪。

 不動岩山も無く、無情にもシールド・エネルギーが一気に減少――そして、数値が〇になると共に試合終了のブザーが鳴った。

 終わってみればヒルトの圧勝――前半の四人の強さに比べれば、簪は経験値が少ない。

 他の四人は事件解決の為に出撃しているのだし、仕方ないといえば仕方ない。

 だけど、悔しさで唇を噛み締めた簪に、ヒルトは――。


「今回は俺の勝ちだな。 ……リベンジマッチ、いつでも待ってるさ」


 その言葉と共に笑顔を見せるヒルト、疲労の色は見えてたがそれでも笑顔のヒルトに、ヒーローの姿を重ねて見ていた。

 一方――。


「これで五連勝の快進撃! スゴいよ、ヒルトくん!」

「ほんとほんと! もうー、ヒルトくんってばこんなに実力あるなら隠す必要無いのに♪」


 怒濤の快進撃、今回からパッケージ装備で明らかに不利だと思われていたがヒルトが勝利を納めた事により、評価はうなぎ登りだった。

 一方で面白くないのは反対派の人間、レイアート・シェフィールドはヒルトの活躍にレポートを取りつつ、終始笑顔だった。

 織斑千冬は逆に、明らかに疲労の色が見え始めているヒルトを気遣おうと、レイアート会長に進言する。


「レイアート会長、ここで一旦小休止をとっては如何だろうか? 生徒達も観戦疲れも出てくる時間帯ですし――」

「おっとそれはダメですな、ブリュンヒルデ」


 言葉を遮ったのはオーランドだった、千冬は腕を組むと――。


「何故です?」

「それは単純明解、我々には次のスケジュールがありますので。 会長はヨーロッパへ、我々はアジア方面へと向かわなければならないのです」


 その言葉に、千冬は無意識にレイアート会長を見た。


「えぇ。 確かに私にはヨーロッパ欧州連合の視察がありますが……オーランド達には予定はなかった筈では?」

「何を仰いますか。 急な会合もあれば、アジア方面での活動もあります。 本来であれば今すぐにでも発たなければいけないのですが、一応? 彼の代表候補生選出が掛かってますからなぁ」


 千冬はオーランドの目を真っ直ぐ見るも、オーランド自身は目を逸らす。

 今言ってるのは嘘だろう――だが、下手にいえば今すぐにでも帰るかもしれなかった。

 歯痒い状況に、千冬は奥歯を噛みしめ――。


「わかり、ました……」


 其れだけを言うのが精一杯だった、ブリュンヒルデと崇められていても、学園外では無力に近い。

 心の中でヒルトに謝る千冬、オーランドは表情に悔しさが見える千冬を見て僅かに唇の端をつり上げた。 
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