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KANON 終わらない悪夢

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20栞対リボン

 朝からエロい事や戦いの連続で忘れていたが、昨日の見舞い時間の終わりから会っていない香里の事も思い出す祐一。
(そう言えば、香里の奴、あれから大丈夫かな?)

 その頃の香里は、「婚姻届」の証人欄に、数百回と練習した「水瀬秋子」の筆跡を完全にコピーした字を書き込み、近くの判子屋で探しまわって秋子の判子に一番良く似た物を買い、さらに印章不鮮明の偽造まで覚えて押して、必要書類とともに病院近くの役所に提出していた。
「まあ、書類に不備があったら言ってくるわね、受理されるまで何回でも提出してやるんだから」
 執念にも似た何かに突き動かされ、婚姻届の提出を済ませた香里は、その足で学校に向かった。本日の襲撃場所は、もちろん祐一クンが待つ教室であった。

 四時間目、祐一はペギラ対策のために授業も聞かず過ごしていると、時間が過ぎて行った。そして授業が終わる頃、視界の端の校庭を「ショールを羽織った女」が通り過ぎて行ったような気がした。
(まさかな?)
 それは祐一だけが持つ甘い考えで、もちろん香里の魔の手は、今日も祐一に襲いかかろうとしていた。

 やがて昼休みになり、お嬢以下数名に、舞と共に中庭のいつもの昼食場所に拉致され、ペギラの襲撃を待っていると、授業を聞いて頭が冷えたのか、ブチ切れていない栞と、Aランチお持ち帰りができない名雪まで現れた。親友に祐一との関係を問い質しに来たらしい。
「お嬢、あのバケモン大丈夫か? 暴れない?」
「まだ分からないわね、気を付けましょう」
 ギャグキャラなのでアフロヘアーとか制服の焦げ目は元通り治っていたが、切れると何をし出すか分からない。今は周囲に他の生徒もいるので、実力行使は控えた。
「…魔物じゃないのに魔物?」
 弁当がない舞も祐一の警護のためにも参加していたが、日陰に入ると天使と名乗った魔物や「うぐ~~っ」と悲鳴を上げる魔物が現れるかも知れないので、佐祐理はまだ休まされている。
 そこで、魔物に体を強化されてしまい「バケモン」と呼ばれるまでになった栞が、祐一達が座っているシートに近付き、氷のブレスまで吐けるようになった口を開いた。
「アラゴメンナサイ、ウチの「主人」がお世話になっちゃってるみたいで。オホホ」
 完全に正妻気取りで、祐一の隣で弁当を開いている愛人に向かって、見下げ果てた表情で言い渡すペギラ。
『いいのよ、料理の分量もまともに決められない上に、栄養バランスも最悪で、ド下手で農薬とか毒まみれの料理を食べさせる訳にも行かないし、ねえ相沢くん?』
 術まで使われて同意を求められるが、「はい」と答えた瞬間、栞はペギラになって破壊の限りを尽くし「二大ロボ、春の大決戦」が再開されてしまう。先ほど舞と量産型ザコ1号を倒した実力を見せ付けられた祐一は、煮物を噛みながら無言と中立を貫いた。
「まっ、何ですか? その茶色くて貧乏くさいタッパー、全部煮物とか煮物とか煮物じゃないですか? お婆ちゃんの料理? 肉や魚どころか、ご飯も無いなんて、臭そう~」
 鼻まで摘んで、茶色い煮物の数々を嘲笑い、貧しい内容にも苦言を呈するペギラ。砂でも蹴り込んでやりたかったが、そうすると全力での戦闘が開始されるゴングが鳴るので今は自重した。
「貧しい庶民の貴方は知らないだろうけど、これは五穀断ちと言ってね、生臭物を断った上に穀類まで断って、心身を清めて引締め、体に不浄を入れないための努力の結果なんですよ。この高級素材を見て気付かないなんて、お里が知れますわよ、オホホ」
 汁物が多いので、タッパーに詰めさせて、茶色い上に貧乏臭いのを拭えない精進料理。その中身は無農薬野菜と天然塩、天然醤油で纏められた高級食品で、栞が持っている業務用スーパーで買った中国産のゴミで、何だか分からない肉から製造された「ピンクスライムモンスター肉(くず肉のアンモニア漬け)」を「何かの腸」に詰めて加工して「燻製液」と「着色保存料」に漬けて「赤ゴキブリ」の赤で染めたハムや赤ウィンナー、死んだブロイラーか病死鶏肉で作ったミートボールといった穢れた食品、92年の大凶作以降、残留農薬タップリの中国米が大量に混入された事故米、汚染米、遺伝子組み換え食品が沢山混入された物体、化学調味料の塊と「醤油に似た液体」「黒く濁って何が入っているかすら表記できないソース」「絶対腐らないケチャップ、マヨネーズ」で味付けされた弁当とは比べ物にならない内容だった。
「まあ、二人ともそれぐらいにして」
 まるで嫁姑戦争のような会話に恐れをなし、何とか栞も着席させようとしてみる祐一。右側にはお嬢が陣取り、左側には「怪我した左手の代わりになってアゲル」という表情のトイレの少女がいたが、栞は左側に寄って「どけ」と一言だけドスの聞いた声で言い渡すと、少女は「ヒッ」と小さく悲鳴を上げて退散して行った。
『まあ? 何ですか、その汚らしい料理は? 病死した鳥の肉に化学調味料と言う名の毒をまぶして、汚染された下水油や機械油で揚げた唐揚げと呼ばれる汚物。ネズミかミミズの肉や腐った肉を洗濯機に掛けて薬品で消毒して、永久に腐らない保存料を混ぜて、すり身にして分からなくした後で、ゴキブリの赤で染めたウィンナーと言う名の毛虫。雄鶏に生まれて卵を産まないからと言って、孵卵してすぐに粉砕機に送り込まれて、あんな愛らしい姿から羽毛や骨ごと直接ゴミとして処分されてしまった可哀想なヒヨコを加工した、ナゲットと名付けられた怨念の塊。魚毒性も知らないで、小魚から順に重金属を貯めていって、大きくなればなるほど水銀や放射性物質を貯めこんで、妊娠中に食べれば子供に障害が出る、魚料理と呼ばれる胎児への殺意。食べるためだけに育てられて一年ほどで出荷され、泣き叫んで嫌がる動物を虐殺、草食動物でありながら、食べ残しの肉や骨まで食べさせられ、海綿状脳症を起こしてもそのまま出荷される脳への破壊。そんな恐ろしい物を相沢くんに食べさせようだなんて、貴方は鬼なの? それともやっぱり、相沢くんを毒殺しようとしているんでしょ? 正直に言いなさいっ』
 弁当を開いた途端、その一つ一つの重苦しい由来を説明して、調理した本人ですら立ち所に食欲を失い、吐きそうになるのを堪えて並べさせ、叩き潰していく鬼畜な女。
「人間は何かを殺して食べて生きて行くんです、その野菜や豆だって生きていたのに、例えサボテンでも言葉が通じて友達になれるのに、貴方もその友達を殺して食べてるんです、何が違うんですか?」
 戻しそうになるのを堪えて、目の前の汚染されまくった料理を取り、自分の口に運ぶ栞。最初の一口は穏当な卵焼きを選んだが、その玉子焼きを半分残し、食べさしを祐一の口に運んで間接キスまで狙ったが、その相手は明らかに動物たちの死体を拒否して首が右を向き、右の女がスプーンで運んだ豆料理を口にした。
『はい、アーン。相沢くん、由来が分かったら、あんな恐ろしい食べ物口にできないよね? これからは私が毎日、安全な食品を用意してあげるから、もう食べちゃダメよ』
 術にも掛かり、目の前の栞の弁当が、汚物と怨念の塊に見えて、とても食べる気が起こらなくなり、舞以外の女も、当然のように野菜の煮物と豆の煮物とキノコや野草に箸を伸ばした。
「あの、お嬢、そっちのもらってもいい?」
 名雪まで栞の弁当やAランチが食べられなくなり、現在交戦中で祐一との関係を問い詰めるために来た敵なのに、その相手が持って来た煮物に手を出したが、舞は相変わらず気にせず、くず肉のアンモニア漬けを食った。
「ええ、いいわよ、私達はみんな、相沢くんの彼女なんだし、もう仲間でしょ」
 その一言で戦いの火蓋が切って落とされ、穏やかな?食事風景から口論に発展する一同。栞とお嬢と一応名雪も加えた戦いに興味があった女子生徒も、周りに陣取って耳をダンボにして、戦いの行方を生暖かく見守った。
「だれが彼女ですか? 祐一さんの彼女で婚約者は私だけです」
「ええ~? 相沢君と私って、小学校からの同級生でね、「お互いに初恋の相手だったのよ」もう「八年越しの恋」でね、授業サボって愛し合った後、結婚を申し込まれたわ」
「「「「「おお~~~っ」」」」」
 周りのギャラリーから、最初のジャブの応酬に賛辞が送られ、人の不幸で飯が旨く、ドロドロの愛憎劇をオカズに、飯を頬張る女が続出した。
「…私は祐一の彼女じゃない」
「アタシも」
「私も違うぞ」
 一応拒否権を行使する女もいたが、名雪とトイレの少女は辞退しなかった。参加者四名と香里を入れて五人。素晴らしく飯が美味くなる最高のソースを手に入れて喜ぶ女達と、祐一に呪いを込めながら腐った肉が入ったパンを齧ったり、カレーに似た物体が混ざったパンを腹に詰め込み、「この男だけは必ず不幸にしてやろう」と心の中で誓い合う、北川ほか多数の嫉妬マスクが、涙の味がする男飯を食った。
「わたしなんか、ゆういちの幼なじみで親戚で、子供の頃からずっと仲がよかったんだから」
「「「あ?」」」
 周囲からの、「お前は黙ってろや、クソブスデブの筋肉ダルマが、お前如き「寝る」以外に脳がね~んだからよ、肉便器は黙ってな」と言う無言の圧力で、早々に退場させられる気の毒な名雪ちゃん。
「私、まだ相沢君と寝てないけど、キスはしたもんっ、凄いことしてもらってトイレに駈け込んだり、今日なんか二回も命助けてもらったんだからっ」
「「あ?」」
 再び「お前如きスカトロ女、便所でブリブリ音出して泣く以外脳がね~んだからよ、黙って便所で泣いてろや? まだ肝心なことヤってね~んだろ? 直にヤって中出ししてもらって、口で精子味わってから、その臭い口開けや、クソ女がっ、それともケツアナの処女でも差し出したのか? ああっ?」と言われているようで、泣きながら走って逃げたトイレの少女。
「「「「「おお~~~~っ」」」」」
 素晴らしい先制攻撃で、あっという間に二匹の女が撃墜され、飯が美味すぎて拍手する女子一同。男子は走って逃げようとした、まだ処女と思われる女の子を引き止め、「あんな酷い男は忘れろ、俺が大事にしてやるっ」などと声を掛けたが、肘鉄どころかグーで殴られ、「相沢くんは私の王子様よっ」となじられ、女心の複雑さを体感させられた。
「貴方は所詮、私が祐一さんを貸したお姉ちゃんから、また貸しされただけの女、病気が治ったのなら今すぐ消えて下さい」
 残った二人の直接対決になり、ギャラリーも腰を据えて茶でも飲み、女同士の口論を楽しんだ。
『え~? 妹ちゃんって、相沢君と一月に知り合って、もう四月も半ばなのに、まだ五回しか寝てないんでしょ? 明るい所はイヤで体は絶対見せないとか、家族がいるからダメとか、ゴムが無いとできないとか、薬になるのに口ではできないし飲めないとか、そんなの彼女じゃないじゃん、病気以外にも体に欠陥があるんでしょ? 見せなさいよ』
 その間も祐一の口に、高級しいたけや松茸の煮物とか、春の七草とかを口に運び、祐一には発言させない真琴(本物)。
 食事とアレやエロ写真、初体験ビデオなどのエロ濃度では圧勝しているが、恋愛実績では祐一の初恋以外、何一つとして存在しないので、そこに言及されないようエロエロ攻撃で攻め抜いた。
「くっ」
 乳の成長度合いで、貧乳と言える目の前の敵にすら完敗している栞。見せるどころかパットで二重に増量して誤魔化しているのもバレれば、爆笑されるのは必至。ウエストも括れていない幼児体型なのに骨盤やケツはデカく、足も細くない上に膝下が短くて足首が太い、体毛の処理もしていないので、眉毛もすね毛も腕もアソコもボーボー、アソコは洗っても変な臭いがして、筋肉もないので締りも悪い。女の体として誇るべきものが何もない栞は、下ネタ対決では完敗した。
『私、明るい所で初めての印もしっかり見てもらって、デジカメで隅々まで撮影してもらって、初体験の後も二回、ずっとビデオに撮って、また見てもらえるようにしたよ』
「「「「「おお~~~~っ」」」」」
 何故か男子の間で絶賛され、彼女にも実施して欲しいサービスナンバーワンの支持を受け、エロアイドルとして祭り上げられる。
「そんなのただの痴女です、ヘンタイです、妻になる女には相応しくありませんっ」
 虚勢を張るが、自分には絶対できないサービスを明るい場所で平然とやり遂げた女を見て、悔しくて悔しくて仕方がない栞。姉にまで似たような真似をされ、全部見せた上で祐一のも見て、口でも三回飲んだ痴女の姉より上手がいるとは信じられなかった。
『それと、これ何だと思う?』
 男子がいない方向に向いてスカートをずらし、ブラウスを少し引き上げて腹の肉を見せる真琴(本物)。栞の目には引き締まったウエストに、六つに割れた腹筋が見え、自分のブヨンブヨンの腹とは次元が違う体を見せ付けられ、その下にはさらに信じられない物を見た。
「相沢…… 刺青っ?」
 下腹部には上半分の文字が見えたが、どう読んでも自分の恋人で婚約者の名前が、彫ったような赤い痣で、それも恋人の筆跡で書いてあった。
「あの子タトゥーしてる、お腹に相沢の名前が彫ってある」
「え~? 体全部、相沢の所有物って意味? コワ~イ」
 一部の女子にバレてしまった血印、その声を聞き、放課後までには紅衛兵に人民裁判を開かれる気がして、震え上がる祐一。
『こういう痣なのよ~、生まれつきあったって言ったら信じてくれる~?』
 目眩がするような変態プレイを見せられ、後ずさる栞。目の前の女は、祐一が書いた名前を自分の腹に写し、タトゥーを入れたか、赤い痣にして残るようにしていた。
『おしりにも首にも、手足にもあるよ、相沢くんに直に書いてもらったんだ~、「処女の血で」』
 括弧内を栞の耳元で呟き、勝ち誇ったようなような表情をする真琴(本物)。栞は何か気持ち悪い呪術のような匂いを感じ、目の前の女と自分の恋人を、汚い物でも見る目で蔑み、ドン引きして首を振ってイヤイヤしながら、体も後ろに下がって行く。
『これ、血印って言ってね、「身も心も一生、貴方様のためだけに捧げます、浮気なんか有り得ません、他の男からも守ってくれますから安心して私だけを愛して下さい」って意味なのよ、『これ以上の愛の言葉ってあると思う?』 無いよね~』
 周囲の人間にも強めの術を掛け、これこそが愛の本当の愛だと宣言しておく。祐一は超ヘビーな愛に押し潰され、その狂った声を聞かされ、いつもの言霊を唱えた。
「うぐぅぅぅ」
『相沢くんにも、私の名前書いたんだ、それで真言を唱えながら祈念して、「どうか浮気しないで、私だけの物になって」ってお願いして定着したの。もう消えないし、お互いを所有しあってるから、契約には絶対逆らえないのよ。もう妹ちゃんは、私が許可しない限り相沢くんとはエッチできないの、今のうちに教えておいてあげるわ』
「エッ?」
 契約条項と約款が違うような気がして、疑問の声を漏らす祐一。浮気禁止は無しで、子種だけ出さないで済むよう選べる契約だったはずなので、目の前の女に問い質したかったが、自分に乗り上げるようにして栞に迫り、小声で話す女の横顔が怖すぎ、そのヤンデレーな目が自分に向かった時、オシッコをちびりそうになって、オットセイ君とともに縮み上がった。
「祐一さんは、その話も知っててサインしたんですか?」
「シラナイヨ、消エナイナンテ知ラナカッタシ、浮気禁止ニハ、シナイッテ約束ダヨ」
 もう半泣きで栞に答え、目の前の怖い女に代わりに聞いて欲しかった祐一。
 これでは心の恋人秋子ちゃんと真実の愛を語る時に、許可を取らないと獣のような激しい交尾はできない。さらに香里と栞には治療?が必要で、最低でも月に一度は生で交尾しないといけない。
「祐一さんを騙したんですね? 泥棒猫の分際でっ!」
 栞に「よく言ってくれた」と褒めてやりたかったが、怖くて声には出せない祐一。しかし、赤い糸だか相手への所有権の結果、怖い女にも聞かれているはずなので、色々と自重した。
『心配しないで、貴方。わたくしだけでご満足頂けるよう努力します。どうしてもと仰る時は、この下女や香里との関係も「許可します」、どうせ生理が終わって発情した時、月に一度ぐらいしか「使えない女」どうでもいいじゃありませんか?』
「エ?」
 回数も時期も言われた通りバッチリで、栞に許可される時は生理でも終わった頃で、避妊もすれば万全の頃しかさせて貰えないが、何故そんな事まで知り尽くしているのか?  ヤった回数から栞の断り方まで全部知られているのにも恐怖を抱き、ストーカー女に恐れおののいて震えが止まらないオットセイ君。
『もう分かったでしょう? 貴方や香里が持っている「婚姻届」なんて紙切れ、私達の契約の前には、何の役にも立たない紙切れなのが、ウフフフフッ。ねえ、ア、イ、ザ、ワ、サ、マ』
 耳元でまた様付けで囁かれ、ホラー映画より怖い状況に、オシッコをちびらずに違うお汁を少しちびってしまうマゾい祐一クン。恐怖によって色々と違うスイッチが押されたらしい。
「私、負けませんからっ、貴方みたいなヘンタイ女にも、お姉ちゃんにも、絶対負けませんからっ」
 半泣きで、舞と自分ぐらいしか箸を付けなかった弁当をガチャガチャと片付け、人前で泣き出さないように駆けて行く栞。祐一も腰が抜けているのか、恋人を追えず、ガタガタと震えることしかできなかった。
「「「「「「「「おお~~~っ!」」」」」」」」
 周囲のギャラリーも、血印だとか契約なんかは、術が効いて単語が頭の中から放り出されて認識できなかったが、リボンの女が勝利して、恋人で婚約者の女が敗北して泣き言と捨て台詞を残して逃げ出したのを見た。
 メシウマな状況に女達は箸が止まらず、男達は栞を引き留めて自分が後釜に座ろうとしたり、女の子の手作り弁当の残飯だけでも頂こうとしたが、残らず撃破されて張り倒され、女心の複雑さを堪能した。

「…おいしかった」
 どの意味で美味しかったのか分からないが、舞は最後まで箸を離さず、栞の汚染物質まみれの弁当もタップリ食べ、味方なのか敵なのかよく分からない女達の弁当も食べた。
 そこで、栞が忘れて行ったのか、置いて行ったのか分からないデザートのパックに気付き、開いてみた女、量産型ザコ1号がいた。
「おお、名雪、お前が好きなイチゴがあるぞ、全部食べろよ」
「え? いいの」
 いつも怖い系の話をよくする相手に引きながら、イチゴパックを受け取る名雪。
「ああ、アタシは農家のオッサンに色々聞かされてから大嫌いになったんだ、こいつらも全員そうだぞ」
「イヤ、言わないで、その続きだけは言わないでっ」
 次に聞かされる言葉が、自分が聞きたくない言葉の中で、寝起きに祐一に聞かされた「もうお前とは終わりにしよう」に次ぐ、人生でベストスリーに入りそうな嫌な言葉になりそうで、耳を塞いで拒否するが、大声で聞かされてしまう。
「イチゴってのはナメクジが一杯入るそうなんだっ、一晩中グチュグチュ表面を這い回ってな、見えないぐらい小さな奴まで中に入って食うんだとっ、「またナメクジ入りやがって」って取る動作を見せてくれたんだけどな、それが出荷しないように千切ったのか、ナメクジだけ取ったのかは教えてくれなかったんだっ、あれからアタシらイチゴが食えなくなってな、あははははっ!」
 自分と同じ犠牲者を増やし、高らかに笑うザコ1号。周りの女達もまた同じネタを聞かされ、何とか食べられるようになったイチゴがまた食べられなくなった。
「いやあああああああっ!」
 無事、聞きたくなかったトリビアのナンバーワンに輝いた言葉は、名雪のトラウマとなって、無限エネルギー名雪エンジンの動力源である、イチゴ本体、イチゴクリーム、イチゴジャム、イチゴペースト、イチゴ味の品物全般が食べられなくなり、名雪の無敵状態は解除された。


「うぐぅ、また栞ちゃん負けちゃったよ」
 自分が応援していた栞が負けてしまい、落胆するあゆ。隣りにいる自分の守護天使?は、栞や他の女を幸せにするつもりは微塵も無く、不幸にすることばかり考えているようで嫌になった。
(あゆちゃんは、相沢祐一と栞ちゃんが結ばれてもいいの?)
「うぐぅ」
 それはそれで困るので、目の前の怖い女や、怖い香里、怖いお笑いキャラになってしまった栞、まだ寝ボケている名雪とは別れて欲しいような気もした。
 
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