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KANON 終わらない悪夢

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37美汐、ゆうくん

 天野美汐さんがデレた。
 もちろん普通のデレ方では無く病んだデレ方で、佐祐理お姉ちゃんのような目の下に力が入りまくった感じで、笑顔なのだが祐一しか見ていない見開いた目をして、以前の光彩に光がないレイプ目から、背景も他の人物も目に入らない鈍い光を放つ狂った眼光に進化した。
 まばたきもしないので目が乾くのか、眼球を濡らすために涙が勝手に流れてくるようで、見慣れるまで怖い。
 現在の美汐さんは、死に別れたと思っていた妖狐の少年が祐一の使い魔だと知らされ、もう二度と離れ離れにならないよう魔物の腕力で祐一を拘束し、何かハーーハーー言いながら病んだ目で見下ろし、エンドロフィンの欠乏状態なのか震えていて、足まで使って絡みついて相手を逃がさないようにしていた。
 妖狐の一族の各家は、天使の人形の計画に驚き、人身御供や嫁となる男女を差し出し災厄を防ごうとしていたが、まあ名雪ちゃんが「だいじょうぶですよ」と言っていて、見つけ次第フルパワーでぶん殴ったり、たくあんアタックなどで始末すれば済むので水瀬家の面々は安心していた。

 第三十七話。
「あの、お婆さん? 実は7年前の記憶が無いんで分からないんですけど、俺は天野の家にいたんですか? 親類の家か実家にいたと思うんですけど」
 せっかく喜んでいる美汐を落胆させるのは気が引けたが、人違いでぬか喜びさせるのも悪いと思い、お婆さんに聞いてみた。
「うむ、あれは確かに7年前じゃった、森の奥で大きな泣き声が聞こえてのう、もちろん人には聞こえん声じゃ、わしらも慌てて駆けつけたが、その頃には狐様が来られて、その子と怪我をした人の子を助けて帰られた後じゃった」
 もちろん、狐様とは秋子ちゃんの事で、泣き声の主が祐一、怪我をしたのがあゆだった。
「そこに小さな子が走って来て、「助けて、助けて」と言うたで、その子に付いて行ったが、もう怪我をした子供はおらんかった。それでわしらも「その子は狐様が助けたので安心せい」と言うたら気が抜けたのか、そのまま倒れてしもうてのう」
 あの現場には、あゆと祐一しかいなかったが、それ以外の子供とは?
「心の声で話す子じゃったで、これは丘から来た子かも知れんと思うて、とりあえずうちに連れて帰ったが、今にして思えば、あれは婿殿が助けを呼びに行かせた、もう一人の婿殿じゃったんだのう」
「はぁ?」
 また祐一が理解不能の話をする人物が一人増えた。
「うむ、怪我をした友達の傍を離れられん体と、誰か助けを呼びに行きたい心。あの時、婿殿は力を使こうて、もう一人の自分を作って送り出したんじゃ」
「へえ?」
「わしらの間ではようある話じゃ、うちの息子、美汐の父親も時々分身を作っておった。この子が熱を出した時などは、一人残って手かざしをして治してやっていたものじゃ」
「はあ……」
 まだまだ理解不能だったが、さっきの秋子ちゃんの話ほど、とんでもない内容では無かったので、理解しようと努力してみる。
(これからは、こんな話が、「よくある話」で済まされるのか。でも怪我したのって誰だ?)
 あゆが木から落ちた致命的な記憶は、名雪に消されたまま思い出せないので、普通の生活が送れている祐一。
「目が覚めても記憶が無い子じゃったで、仲間にも、狐様にもお伺いを立てたが、あの時は大変でのぉ、お怒りが冷めるまで、婿殿を預かる事にしたんじゃ」
 多分、秋子ちゃんが手刀の一閃で大木を切り倒したり、残りがカンナくずになるまで粉々にしたり、火を噴いて焼き尽くしたり、大変な怒りようだったらしい。
「丁度、休みで美汐も来ておったが、この子は天からお預かりした子じゃよって、仲良うなってはいかんと言うたに、一目で婿殿を好いてしもうて」
「おばあちゃんっ」
 お婆さんの言葉で顔を赤らめる美汐。抱き付いて離さなかったり、胸がべったり張り付いている方は気にならないらしい。
「あれこれ世話を焼いて、とうとう名前を聞き出したのも美汐じゃった。それ以外は寝言で「助けて、助けて」しか言わんかったで、「ゆう」と言った名前だけが手掛かりじゃった。わしらも、もしやあのまま家に残ってくれるかと思うたのが間違いじゃったのう。他の狐様と同じで、一月と経たん間に婿殿の分身は消えてしもうた。美汐には酷な思いをさせた……」
 消えた祐一を探し、いつまでも泣き叫んでいた美汐を思い出し、涙するお婆さん。
「せめて二人とも、もう3つ4つ上じゃったら、子供だけでもこさえて、仲良う暮らせたものを」
「もうっ、お婆ちゃんったらっ」
 12,3歳辺りの、強姦罪ギリギリの年齢を狙ってくるお婆さん。
「じゃが、今ならもう安心じゃ、美汐の思いを遂げさせてやって下され、他にもおなごがおるのは知っておりますよって、せめて子供だけでも産ませてやって下され」
 そう言って手を付いて、頭を下げるお婆さん。立っている人物が多いので異様な光景だが、床上生活者で、秋子様や相沢様の前では普通の行為らしい。
「そんなっ、ゆうくんだって、その、心の準備が」
 真っ赤になってクネクネしている美汐の方は、全く異存は無いようで怖くなる祐一クン。
 さっきからヤリまくっていたが、お胤の方はカラっけつで出なかったので多分妊娠はしないはずだが、周りの雰囲気がいつも通りになり、嫌な汗を流す。
「ゆうくん、私じゃ嫌なの?」
 先ほどまでのレイプ目とは全く別人の、うるうるした目で見る美汐。しかし病んだ目のまま見下されているので、断ったりするとやはりSATSUGAIされてしまう。
「いや、そうじゃなくって。こう言うのはやっぱり、もっと時間をかけてだな」
「他の家でも、狐様の「お胤」を欲しがる者は大勢おります、じゃがこれは家のために言っておるのではありませぬ。美汐の、孫の今までの辛い思いを察してやって下されっ」
 もう床に額をこすり付けるように頭を下げるお婆さん。美汐が言っていた通り、霊力が強い子供を欲しがる家はあるらしいが、そうまでされて断れる祐一ではなかった。
「あの、手を上げて下さい。天野、いえ、お孫さんが嫌いなわけじゃありません、まだ子供までは早いかなと」
 その時、香里の鬼のような顔を思い出してしまったが、他にも祐一を取り上げようとする泥棒猫は許さない舞おねえちゃんとか、この場にいない栞さんとか、美汐との関係を認めてくれそうにない相手が沢山いた。
「では、あの美坂のような、とうに血脈の絶えた家の娘達には情けをかけて下さっても、この子にはっ」
(ばれテ~ラッ)
 美坂家の姉妹丼をご馳走になって沢山種付けしたのは、妖狐の世界ではバレバレらしい。
「祝言まで挙げた美汐には、子を産ませて下さらぬと申されるかっ」
「へっ……?」
「ゆうくん、覚えてない? 私達、結婚したんだよ」
 別れが近付いた頃、悲しむ美汐のために、お婆さんが自分の花嫁衣裳を着せてやり、仮祝言まで挙げていたらしい。
「その妖狐の娘さんも、帰って来れたのは婿殿の力。それに先程は秋子様とも睦み合われたご様子、街中に秋子様がお悦びになる声が聞こえましたぞ」
「まっ、参りました」
 さらに秋子ちゃんとの関係まで、全部ばれていたらしい、それも街中に。
「ゆうくんの浮気者っ、どうせ7年前の約束なんて覚えてないんでしょ」
 ちょっと頬を膨らませて怒る美汐。最初は「栞との約束が先で、婚姻届では香里が先」などと言い訳しようとしたが、現時点での先約と結婚歴のタイトルホルダーは美汐だった。
「すまんっ、多分、別の俺だから、記憶は無いみたいだ、それにあの頃の事は殆ど覚えてなくて」
「うん、いいよっ、昔みたいに何でも教えてあげるっ」
 ほんの数分前とは完全に別人になって、病んだ笑顔で優しく微笑んでいる美汐さん。 もう「みーちゃんの恥ずかしい所」でも何でも教えてくれちゃうらしい。

「お婆ちゃん、秘薬はある?」
「おお、持っておるぞ、婿殿には頑張ってもらわねば」
 そう言って何か瓶に入った黒い丸薬を瓶ごと渡したお婆さん、一回一錠の所を美汐は三錠出して祐一に渡した。
「飲んで」
「エ?」
 正露丸のような怪しい丸薬を見て後ずさるが、秋子も止めようともしないで「後で私にもして下さいね」みたいな表情で見て顔を赤らめていた。
『飲んで』
 強く命令されたので口に運んだが、朝にペットボトルに混ぜて飲まされた無味無臭の一服盛るための強壮剤ではなく、もうその為だけに作られた薬の強烈な味と臭気にむせたが、水も飲まされて胃袋に流し込まれた。
「スゲエッ、ゲホッゲホッ」
 大脱走で密造の蒸留酒を飲まされるシーンのように、喉が焼けるような感じがして咳き込むと、すぐに鼻血がでるような強壮感がした。
(これが香里の時にあれば……)
「また一緒にお風呂にも入ろうね」
「は?」
「だって、昔はずっとそうだったじゃない」
 これから一晩掛けてヤリまくる予定の美汐さんと、今日は疲れたので眠りたい祐一クン。
「それは小学生の頃の話だろっ、俺達もう高校…」
「ううん、私達、夫婦なんだよ」
 病んだ笑顔で祐一の頬に触れ、ニッコリ?と笑う美汐。祐一に取り憑いた魔物が、また一人。
「なあ、天野?」
「え、なあに、ゆうくん」
「俺、あいつらに追われてるんだ。もし、もしだぞ? 俺と二人で誰も来ない山奥か(N*Kも受信できない所)、遠い外国に逃げようって言ったらどうする?」
「うんっ、ゆうくんの行く所だったら、どこでもついてくよ」
 その笑顔を見て、祐一の脳裏に「毒を持って毒を制す」と言う言葉が浮かんだとしても、誰も責められはしなかったろう。しかしこの場合「毒を食らわば皿まで」が適切と思われる。
『うふふ…… もう離さないよ、ゆうくん、これから一生、ずっと一緒にいるんだ』
 祐一クンには怖いストーカー女が憑いてしまった、多分これから教室にまで付いてきて、別人の振りをして居座り、気の毒な犠牲者が二年の授業を受ける羽目になるのではないかと思われる。

「それでは婿殿、今後美汐を宜しくお願いします」
「はい」
 祐一に一礼して帰ろうとしたお婆さんは、秋子に通帳を差し出した。
「秋子様、失礼とは思いますが、これから美汐を養って頂くのにお使い下さい、どうかこの子をお願い致します」
「いえ、こんな良いお嫁さんを頂くんですから受け取れません、それに結納金を出すのはこちらですよ、お気遣いなく」
 祐一に暴力を振るい、闇堕ちした栞は諦め、姉である舞はまた空っぽになり、姉を名乗る佐祐理は実質レズ、香里や月宮真琴にはお引き取り願いたい秋子。
 祐一の世話役には忠誠度も高く、家事の能力や妖狐としての知識や術にも申し分のない美汐が選ばれた。
「滅相もございません、何やらこの度の災厄は、人の世が滅ぶとお伺いしております。何卒この子も神域に同行させてやって下され、天野の血を一滴だけでも残して下され」
「そんな酷いことにはならないと思いますけど、用心のために美汐さんは同居してもらいますね。お金はお孫さんに渡して下さい、これから祐一さんと楽しく過ごせますように」
 結構な金額が入った通帳とカードは美汐の手に渡った。これで手持ち金額が高い順は、栞、美汐、佐祐理、月宮真琴になった。他は祐一と同じく小遣い銭しか持っていない。
「いいの、お婆ちゃん? 私って殺されるはずじゃなかったの?」
「ああ、もう良い。お前は食われてもおらんかったし、不老不死になったとも聞いた。今度は逆じゃ、お前達だけが巫女として選ばれて生き残って、他の者は助からんかも知れん」
 聖書の初期の登場人物や、天孫降臨の頃のように、不死であったり、千年以上生き続ける羽目になった一同。
 秋子としては子供が欲しいのは純血の妖狐である名雪と真琴と自分なので、能力が低い者の血が混じって増えると、現在のように不死でも不老でもない、簡単に死ぬ者が多くなり、不幸の種も増える。
 この際、只人の遺伝は残さず、精霊でもある純血の妖狐の血だけ残すのも選択肢として考え始めた。
「それではお孫さんはお預かりします。美汐さん、他のお嫁さんとも仲良くして下さいね」
「え? …………はい」
 今の間と生返事が怖かったが、栞と仲良くする気など一切無く、美坂姉妹には強力な術を掛けて黙らせるつもりの美汐。
 相沢さんではなく「ゆうくん」の取り合いなので、いつか佐祐理に掛けられた軛も断ち切って、舞も支配下に置いて、沢渡真琴とだけ仲良くする予定なので、他の女とも事務的な会話以外するつもりも無かった。

 美汐のお婆さんや天野の家の者が帰った後、風呂場から性的にも満足した怖いお姉様方が現れたが、すっかりおかしくなってしまっていた美汐は祐一を手放そうとしなかった。
「どうしたんですか~? 美汐も一弥にそんなに懐いて?」
「…祐一から離れて」
「それがその、天野の死に別れたと思ってた妖狐の子が、俺の使い魔だったみたいで」
 現状を簡潔に説明してみたが、美汐の異常な状態を理解させるには至らなかったようで、舞が美汐の首根っこを掴んで引き離そうとした。
 ブラコンの姉の行動だったが、どう見ても性的なブラコンなので美汐も実力を行使した。
『お義姉さんこそ離れて下さい、私はゆうくんの恋人で結婚もしてるんです』
『…祐一から離れて』
 術の掛け合いになったが、ハーフの舞と、クォーターでも妖狐の一族なので血が濃く、天性の才能や術の練度も高い美汐の力が拮抗し、サウザントウォーに入った。
「まあまあ、美汐もお嫁入りして、これから一緒にいるんですから仲良くして、舞」
「…わかった」
 佐祐理の言葉に従ったのか、ゴージャスさゆりんの効果範囲なのか、おとなしく引き下がった舞だが、ブラコンの姉がこの程度で諦めるはずもなく、佐祐理がいない場所で雌雄を決する事になるのか、美汐の命が心配された。
(もうちょっと……)
 その間もマヌケな祐一クンは、佐祐理お姉ちゃんが浴衣の下に下着をつけていないのに気付き、胸の谷間や乳首を覗こうとしていたが美汐に阻止された。
「ゆうくんのエッチ、浮気者」
 そう言いながら祐一の目を隠したが、ちょっと腕力が強すぎてヘッドロックになりタップされたが、意味がわからないまま締め上げていると、もう一度命令された。
『…祐一を離せ』
 祐一が苦しがっているのに気付いて手を離したが、次第に険悪になるコトメと嫁の関係。
 翌日以降、栞や香里が出現しても術でも掛ければ引き離せるが、舞にだけは通用しない。
 いつかこの小姑とは決着を付けなければならないと感じた美汐は、強敵を倒す策を練り始めた。

『じゃあお風呂も空いたみたいだし、一緒に入りましょうね、ゆうくん』
 恐ろしい義姉を無視して入浴を「命令」する美汐さん。もちろんその時の表情は、香里や佐祐理と同じく、断れるような生易しい物では無かった。
 あえて言えば、7年の情念が上乗せされた分、さらに恐ろしい物と化し、妖狐だけに狐火や、怪しいオーラが背後に見えていた。そこで祐一が言えたのは一言。
「はい」
 今回は、それ以外の選択肢は無かった。
 祐一を脱衣所に押し込んで、怖い顔で睨み続ける舞を無視して、後ろ手に戸を閉めて鍵を掛けている美汐。ここで祐一に残された選択肢は?

1、漢らしく美汐を抱く
2、みーちゃんに無理矢理犯される
3、美坂姉妹が突入
4、秋子ちゃんと愛の逃避行

 多分2番…
「なあ、天野」
「みーちゃん、でしょ」
 祐一が見ているにも関わらず、するすると服を脱いで行く美汐。夕方の電話や嫁入り騒動以降、「もし相沢さんに求められたら?」と思ってはいたが、二人の関係上、裸になって愛し合ったり一緒にお風呂など有り得ないと思っていた。
「ゆうくん、また服の脱ぎ方忘れたの? 私が脱がせてあげる」
「待て、まだっ」
 あっと言う間に下着姿になった美汐は、胸を隠しながら祐一の服を剥ぎ取って行った。そこで何故か、脱がされる順序に体が動き、抵抗すると言うより、いつも踊っていたダンスのように自然に服が脱げた。
「ほら…… やっぱり覚えてた、私の脱がせ方」
 祐一の服を抱いて、笑顔のまま泣いている美汐。それは名雪の「ばんにゃ~い」や「おいっちにゅ、おいっちにゅ」より軽快で、ごく自然な動作だった。
「どうして?」
「体が、覚えてたんだよ、ゆうくんっ」
 下着だけになった祐一の胸に、素肌の美汐が飛び込んで来る。そこで、今にも弾けそうな心臓の鼓動が伝わって来た。
「ふふ、変だよね? 私、ゆうくんに、ううん、相沢さんに見られてもいいようにして来たのに、いざとなったらこんなに震えて」
「怖いのか?」
「違うの、私なんかスタイルも悪いし、背も高くない。可愛くもないし、面白い事の一つも言えないっ、あんな、あんな綺麗な人達に絶対勝てないっ、グスッ、ねえ? ゆうくんは誰が好きなの? 美坂さんがいいの? それとも真琴? 舞さん? 佐祐理さん? 秋子様?」
 残念ながらそこに名雪ちゃんの名前は無かった。別れ話を聞いているのか、顔やスタイルでも名雪には負けていないと自信があるのかは謎だった。
「もういい、やめろよ」
 ここで美汐を拒否すれば、誰かと同じで「屋上か窓から飛び降りるかも知れないわよっ」と言われるかも知れない。祐一は慎重に言葉を選んだ。
「私なんか忘れちゃった? 私は7年間、ずっと、ずっと待ってたのにっ」
「ごめんな、俺、お前の事忘れてて、でも、本当に何も覚えてないんだ」
「いいよ、いいよっ、でもっ、今日だけは私、ゆうくんのおよめさんだよっ」
「ああ……」
 思考を制御できない祐一は、美汐の前で嘘をついても、全て心の声で分かってしまう。
 しかし今は、恐ろしい香里や、あざとさや嘘やマッスルボディを見て恋愛感情が薄れてしまった栞より、目の前で泣いている少女がとても愛おしく思えた。
「これからでいいな、また何か思い出すかも知れないし、これからやり直しでいいな?」
「うん……」
 祐一の心に嘘が無いのを知ると、目を閉じて精一杯背伸びする美汐。しばらくすると、硬直していた筋肉から力が抜け、あれだけ震えていた体が収まった。
「あの頃、お婆ちゃんには怒られてたけど、キスなんて毎日してたのに、今はこんなにドキドキしてる」
「もう子供じゃないからな。でもいいのか? 俺みたいな「三叉鬼畜最低男」でも」
 様々な事情があったと言え、栞、真琴に続いて、名雪、香里、月宮真琴他三名、舞、佐祐理、秋子まで頂いてしまい、正にあだ名の通り「鬼畜」としか表現のしようが無い祐一の下半身。
「それは…… みんな、ゆうくんの力が欲しいからよ。きっと美坂さんは自分が無くした力を補充できる相手を見付けて、自分から近寄って行ったの。お姉さんだって一緒よ」
 それ以前は祐一に見向きもしなかった香里も、妹を救った相手だと知った途端、恋心を芽生えさせ、命の危険を知ってからは、まるで充電器のように傍に置き、離そうとはしなかった。
「確かに、そんな感じだったな」
「でも、真琴って人魚姫のお話みたいに、ゆうくんに愛されなかったら泡になって消えてしまうの。自分から告白しても同じ、今みたいに、ゆうくんに意地悪したり、嫌われるような事しかできないの。それを知ってても、真琴はゆうくんに逢いに来た」
「あいつが?」
 真琴に限って、そんなはずは無いと思うが、嘘などつきそうに無い美汐の言葉には黄金の重みがあった。
「私って嫌な女でしょ、真琴はあんなに純粋に、ゆうくんの事だけを思ってるのに取り上げようとしてる。他の人だって、私と同じように切ない気持ちで待ってるのに、こんな言い方して」
「もういい」
 泣き出した美汐を抱き締めて、頭を撫でてやる。
「寒いだろ、風呂に入ろう」
「うん」

 洗い場に入ると、美汐は当然のようにこう言った。
「また私が洗ってあげる」
「へ?」
「だって、いつもそうだったじゃやない」
 有無を言わさず座らされ、手慣れた作業のように決まった手順をこなして行く美汐。まず後ろから祐一の顎を持ち上げて頭を後ろに反らせ、目にお湯が入らないように手で覆いながら頭に湯を掛けシャンプーで洗い始める。
(これも、ずっとこうだったんだよな?)
 余りに手慣れた感じに驚かされ、まるでその手のお風呂屋さんに来た感じすらする祐一。それからは、子供の頃の思い出を取り戻すように、昔あった出来事を話し合った。
「こうするのも久し振りだね、遊びすぎてのぼせたり、騒ぎ過ぎてお婆ちゃんに怒られたり」
「そうだったかな?」
「他にも、お婆ちゃんに隠れて、洗いっこしたり…… 見せっこも」
「えっ?」
 耳のすぐ後ろで、エロエロな過去を話され、何故そんな重要な出来事を覚えていないのか? 自分を責め立て、今すぐロリ美汐の体を思い出すよう強く願う祐一だった。
「それも覚えてない?」
「今すぐ思い出したい、どうしても」
「うふふっ、後で、また、ね?」
 顔を赤らめながらも、男の子の記憶を取り戻させるのに、一番効果的な品物をチラ見せし、強制的に記憶を引き出すつもりの美汐。祐一も先ほどあれだけ恥ずかしがっていた体を見せてもらえると聞いて、猛烈に期待した。
 頭を洗い終わった後も、当然のように腕と背中も洗われる。腕に柔らかい部分が当たっても、驚いて祐一が見ても、作業に集中して隠そうともしない美汐を見て、子供の自分とは言え、ここまで嬉し恥ずかしいサービスを毎日のように受けていた相手を羨ましく思い、自分に嫉妬する。
「ねえ? おばあちゃんちの庭で花火したの覚えてない? 金魚花火とか、線香花火」
「う~ん、まだ思い出せないな。これだけ聞いたんだから、思い出しても良さそうなもんだけど」
「いいよ、ゆっくりでいいから」
 背中を洗い終わった所で後ろから抱きつかれた。背中に当たった柔らかい感触に「美汐嬢の洗浄テクニックに本紙記者も思わず昇天」しそうになったが、美汐の言葉で引っ込んでしまった。
「でも、本当に、帰ってきてくれたんだ」
 前に回した手で胸を洗われるが、その手は先に進まず、代わりに肩に顔を埋めた美汐の啜り泣く声が聞こえて来た。
「ずっと、ずっと待ってたの、グスッ、この7年、ゆうくんがいなくて何も無かった、ただ生きてただけだった…… ゆうくんが迎えに来てくれるのをずっと待ってたのっ」
 もちろん、美汐も生きてこの世で会えるとは思っていなかった。無気力な自分の命が尽きて、あの世から「ゆうくん」が迎えに来るのを、ただ待つだけの7年だった。
「天野……」
「やっと、やっと逢えたんだ」
 震える手を握ってやり、頭を撫でてやると、少し落ち着いたのか顔を上げ、手慣れた様子で祐一の顎を持って後ろを向かせると、唇を重ねて大人のキスをした。
 泣き声は止まなかったが美汐の手が動き出し、胸を洗い、脇、腹、ある場所を避けて足、そして躊躇いながらもその場所に到達した。
「いや、そこは自分で洗うから」
 期待はしていたが、再び大きくなってしまった場所が恥ずかしくなり、一応断ってみる。
「ダッテ、イツモコウダッタジャナイ」
 明らかな嘘をついてしまい、話し言葉がカタカナになってイントネーションもおかしい美汐。
 何度か洗った事はあるが、くすぐったくて逃げられたり、その後は自分も洗われてしまうので、しっかりとは洗えず、特に大きくなっている状態の物など洗った覚えが無いので、今ひとつ強く出られなかった。
「うっ」
 戸惑いながら、タオルで祐一を包んで洗い始める美汐。いつもと違い、鼻息も荒く祐一をこすり続け、心の中を覗き見て、どこをどうすれば良いのか表情を見る。
「ここ? こうすればいいの?」
 やがて、タオルが邪魔だと気付いた時、足の上に置いて、素手で、両手で洗い始めた。他の女の匂いを消すように、強く、激しく洗い、背中には自分の突起を擦り付け、荒い呼吸をする度にオスの変な匂いがしたが、それがとても心地よく、芳しい物に思えた。
「ああっ、天野っ、もうだめだっ」
「みーちゃん、でしょ?」
 この後、心の情景で祐一がどうなるのか知った美汐は、先に左手を当てて祐一を受け止めた。
「沢山出して、ゆうくん」
「うううっ!」
 思い出の少年に、幼い頃にはできなかった戯れをして、その心地よさそうな表情と、自分が受け止める予定の逞しい部分を見て、とても興奮した美汐。これは約束された当然の行為で、もう祖母に叱られることもなく、いつか子供を産むのさえ、とても自然な成行きだと思えた。
「はーっ、はーっ」
 祐一が放出し終わったのを見て、残りも搾り取ると、左手に乗せた物を引き寄せ、眼の前で光に当て、宝石でも見るように目を細めて観察する。子種の生産は間に合わなかったが、汁の方は秘薬が効き始めたようで大量に出た。
「さっきお婆ちゃんが言ってたみたいに、これが欲しい女が沢山いるの。この後、お婆ちゃんも天野家の女として、一族の未婚の娘を呼んで、できれば全員にゆうくんの「種付け」させるつもりだわ」
 また信じられない話を聞いて、美汐に向き直って話し続ける。
「そりゃ無いだろ、大昔ならいざ知らず、今時の子が好きでもない男と、その、スルなんて」
「掟が厳しかった頃は全員よ、今では呼ばれなかった女は許されて、指名されても拒否もできるけど、そんな女は絶縁されて、援助もされず放り出される。この価値が分からない者は一族にはいらないの」
 まだ掌の上で転がし、まるで高級ワインをテイスティングするように匂いまで嗅ぐ美汐。祐一は恥ずかしくて、早く流してくれないか待っていた。
「それ、もういいだろ、捨ててくれよ」
「嫌、こんな価値がある物、捨てられないよ」
 そう言うと零さないように注意しながら口に当てて飲み干し、掌に残った物も泡も気にせず全部舐め取り、四つん這いになって祐一の物にも口を付けると、中の残りも吸い取った。
「お、おい」
 後輩の豹変に驚き、まだ敏感だったので吸飲を止めさせようとするが、案外上手だったので続けてもらうことにした。
(飲めば百薬の長、お種を頂戴できれば、術や力も増し、子供ができれば必ず大きな力を持って産まれ、その霊力や運、力の恩恵で一族は潤い、立身出世や栄耀栄華も思いのまま)
 美汐は自分が口にしたくない言葉を、悲しい心の声で祐一に伝えた。
「でも、私は、ゆうくんがただの人なら良かった、他の女に取られたり、好きな人が一族の女達に順番に「使われる」なんて嫌っ。お婆ちゃんだって自分の好きな人を取られたから分かってくれる、今日だけは、私だけのゆうくんだって認めてくれる」
 あのお婆さんまで一族の掟に縛られ、好きな相手を取り上げられて、一族の女達に交代で汚された気の毒な状態を考えさせられる祐一。眼の前の少女には、そんな辛い思いをさせたくないと思った。

『今度はゆうくんが洗って』
「エ?」
「ダッテ、イツモソウダッタジャナイ」
 祐一を押しのけ、椅子に座って背中を晒す美汐。まだちょっと震えているようだが、自分も同じように全身くまなく洗われても構わないのか、祐一の手を自分の胸に導いた。
「綺麗だ」
 真っ白な透き通るような肌から、血の色が見えて首筋や肩、肘、膝がピンクや赤に染まる。
 タオルを取って綺麗な部分を更に洗い、全身を羞恥の朱に染めて行く少女に見惚れて、赤みが増えるように強くこすった。
「また、ゆうくんに洗ってもらえるなんて」
 泣き出した少女を背中から抱いて、胸や腹も洗って行く。左手は素手で胸を洗い、柔らかさを試すように揉んだ。
「ごめんね、小さくて」
 長生きするために生活していた訳でもないので、命を繋ぐだけの食べ物しか口にせず食も細く、肋骨が全部見えるような貧弱な体を恥じ、体を捩るが、予想もしない答えが帰ってきた。
「いや、もっと小さいほうが好きなんだ、美汐の細い体、大好きだよ」
 この祐一は貧乳派なので、アンダーバストもウエストも細い美汐が好物で、上物も小盛りの方がありがたかった。
「そうなんだ」
 お世辞や嘘ではなく、心の声からも自分の体が気に入ってもらえたのが分かり安心するが、今度は二人の真琴と栞の貧乳が敵になったのも分かった。
「でも秋子様はいいんだ」
「うっ」
 図星をズビシッと突かれて窮地に陥るが、未亡人下宿の管理人さんは、ピヨピヨのエプロンと竹箒さえ持ってくれれば多少大きくても我慢できる。
 実の姉と佐祐理お姉ちゃんも大きすぎるが、お姉ちゃん属性でオネショタ?なのでオッケー、名雪だけはケツもデカ過ぎて、太腿の鍛え上げた筋肉も、香里のウェストサイズと同じなので却下された。
「うふっ、ゆうくんって悪い人なんだ、名雪さんだけダメなんて気の毒」
 本心から気の毒と思わず、脱落した女を嘲笑う美汐。レズのお姉様も、実姉も脱落、ド貧乳でも宗教女も駄目。浮気相手の女ではなく「ゆうくん」に危害を加える暴力女もノーサンキュー。超嘘吐き嘘芝居女も却下。母親代わりの女も好意ではなく、子作りと力を取り戻すために交尾しているだけのようなので敵とは思わなかった。
「真琴とは浮気してもいいよ、ゆうくんの子供を身籠らないと、あの子はまた消えちゃうかもしれない」
 人道的な配慮で、泡となって消えてしまう人魚姫には交配を認めたが、他の女との接触は禁止されるらしい。
「俺、香里に狙われてるみたいだし、明日も来たら何をしでかすか分からない、それと栞も……」
「大丈夫よ、二人共物凄い術掛けてあげる、二度とゆうくんに変なことできないように。月宮の四人も大丈夫だと思う」
 術には耐性がない美坂姉妹と、術者としては下位の月宮一行にも効くらしく、明日からの学校生活を保証された。
「ああっ、美汐っ、綺麗だ」
 全身を血が透き通った赤に染め上げ、白い肌と混じってピンクに輝くような首筋や背中に武者振り付く。
「うふっ、全部触ってもいいよ、でも中は洗わないでね、さっきした時の、ゆうくんの子種が泳いでる所だから」
 か細い少女の腹や股間も洗って興奮する祐一の手を押し留め、足に誘導する。もうその頃には丸薬が効きすぎて、オットセイくんが冷凍ソーセージ並にガチガチになってしまい、背中に当たって折れ曲がることもできずに美汐の肌と距離を取るように邪魔になってしまっていた。
「じゃあ、中にしまっちゃおうか、ゆうくん。それで奥まで洗って」
 舞とは違い、お風呂場でも石鹸を使ってスムースインさせてくれる美汐は、腰を浮かして自分の中に誘導した。
「ううっ、もう我慢出来ないんだっ!」
 タマタマからの命令でケダモノになってしまった「しまっちゃうオジサン」は、後ろから幼い体を貫き、美汐の奥の奥まで無理に詰め込んだ。
「ああっ、おっきいっ、ちっちゃかったゆうくんのとぜんぜん違う、私の中、ゆうくんの形に変えられちゃって、子宮が上に押し上げられてるっ」
 あの真面目で礼儀正しく硬すぎて、魔物からも「ガチガチの貞操帯みたいな女」と言われた少女はどこに行ったのか、エロ娘への坂を転げ落ちて行く。
「柔らかいっ、あったかい、よく締まるし、美汐の中、さっきとぜんぜん違うっ」
 相手が自分をとても慕っていてくれるのが中の感触や肌からも伝わり、先程ただの後輩と先輩が交尾したのとは違い、美汐からは運命の少年と再会して身も心も捧げ尽くしてくれるのが全身から伝わって来る。
「いいっ、いいよっ、ゆうくんっ」
 朝に月宮真琴とした時のように、セックスフレンドとして抱いた時と、初恋の相手として抱いた差を思い出したが、これが自分も記憶を取り戻し、美汐の死に別れた少年として交われば、どれほど心地よいか考えただけで達しそうになった。
「もうっ、もうダメだっ、美汐っ、出すぞっ、中に出すぞっ」
「うんっ、来てっ、一杯出してっ」
「あああっ」
 子種の生産は間に合わなかったが、汁の方はED治療薬を飲んだ時のように先走り汁が大量に出て、射精時もそれはそれは沢山出て、気を失いそうになる祐一。
「ああっ、ゆうくんっ、一杯出てるよおっ」
 処女同然の体で起重機のように腰を使われ、尻の肉も乱暴に突かれてパンパン鳴らされながら、さらに子宮を奥に詰め込まれ、痛みしか無いはずの美汐も一緒に達した。

 浴室の外では、そのヌレヌレでヌメヌメの会話、肉と肉がぶつかる音、イク時の切羽詰まったオスの声、子宮の中に出されて歓喜しているメスの声を聞かされ、鬼のような顔をした舞、真琴、月宮真琴、チョロインさん、などが秋子と佐祐理によって突入を阻止されていたが、美汐の術で他の女のことを忘れさせられていたマヌケな祐一は気づいていなかった。
(うふっ)
 もちろん美汐は浴室外の面々に気付いていたが完全に無視した。
『まあいいじゃありませんか、運命の再会をした後なんですから』
 身に覚えがある少女は、佐祐理の固有結界、ゴージャスさゆりんの効果で一歩引いた。
『それと真琴ちゃん、佐祐理、自分と同じ髪の色をした女の子、久しぶりに見ました~』
「へ?」
 真琴は佐祐理の視線と矛先が自分に向いたのに気付いて本能的に下がったが、もう手遅れだった。
『佐祐理、フォックスブラウンの髪の女の子に目がないんです、これから佐祐理の妹になってくれませんか?』
「エ?」
 既に佐祐理溺愛ハグによって固められ、風呂上がりのふんわりした髪と蒸気した肌に抱かれ、いい匂いがする洗い髪や石鹸の香りがする体に抱きすくめられ、体の中にある変なスイッチを全部オンに切り替えられた。
「そ、そんな……」
「…妹になって」
 怒りの発散先を探していた舞にまで抱き着かれ、目を半分上に向けてアヘ顔にされ、抵抗していた手が力なく堕ちて佐祐理の背中を抱き止めた。
『決まりですね、もう真琴は佐祐理の妹です』
「は、はい……」
 ほぼフルパワーの純血の妖狐である真琴も佐祐理のアルター能力でオーダーの前に堕ちた。
 そこで秋子も舞も月宮真琴もチョロインさんも天使の人形も月影先生のような髪型になって。
(((((佐祐理、恐ろしい子……)))))
 と思わされた。
『じゃあ、二階にイキましょうか』
「え? えっ?」
 佐祐理と舞に両腕をガッチリと固められ、二階の自分の部屋に連行された真琴は、100V電源の電動マッサージ器とクリキャップ、尿道と栗と栗鼠を下から調教するゴム製品、ア*ル開発をするアナルビーズなどによって天国と連続イキ地獄に旅立ち、その一部始終を録画された。
「やっ、やっ、もう許してっ、いや~~~~っ!」
 夜中に目を覚ましてイタズラしたり盗み食いしないように、秋子からも「念入りに」と注文が入った佐祐理は、真琴が翌日の昼ぐらいまで天国に滞在できるよう、徹底的にグッチュグチュに仕上げて、電マが無いと生きられない体に調教してやった。
 もちろん、搭乗者のあゆも、真琴と同じ運命を辿った。

 浴室では、勃起が一向に収まらない祐一が美汐に連結したまま髪を洗い、浴槽でも対面座位で連結したまま話していた。
「こんなに嬉しいなら、昔からずっとこうしてれば良かったね」
 気持ちいいではなく嬉しいと言った美汐。秘薬を飲んでもまだ傷は痛むらしい。
「ごめんよ、まだ思い出せなくて」
「ううん、いいの、今は私が嬉しくなる番だから」
 もう鼻先を付け、片方の目には美汐の目しか見えていない距離で話し、満面の笑みのまま泣いている少女を乗せたまま抱きしめる。
 この後輩に限っては、こんな距離感で話し合うなど有り得ず、オットセイくんと美汐の口がお友達でも、話すだけで唇が触れ合い、風呂を出ても今晩はこの距離で話し合うのが分かった。
「これからずっと一緒なんだ、嬉しい、夢みたい」
 先程から何度も自分の頬を抓り、体も抓ったり叩いたりして、何度も夢ではないか確認し続けている美汐。
「別れがあんなに辛いなら、一緒に生まれて一緒に死ねばよかった。そうだ、これから一つになろうよ」
 病んだ美汐さんの心の声からは、性的に肉体的に結合する程度では足りず、何か怪しすぎる術を使って同一の存在になり、心も体も魂も、全部結合させてしまおうと考えているのが聞こえた。
「エ?」
 もちろんその手首には、一回手首が取れて繋いだんじゃないかと思えるぐらい壮絶なリスカ跡が残っていて。正面から見ると、ゆうくんと別れた月命日ごとに肉を削いだ傷が、左手の上から下までバツ印になってビッシリと刻まれていた。
「ね? そうしよう、体の中の精霊も交換したりして、ね?」
 もう別れる気なんか一切無く、お互いの絆をどうやって深めるか、縫い付けたり、二人の体に血を通わせたりと、どんどん危ない方向に向かっている美汐さんの思考。
「いや、ほら、愛の結晶とか言うじゃないか、子供が生まれたらさ、それが一つになった証拠なんだよ、だから」
 目の前の超メンヘラリスカストーカー女の、超ヘビーな愛が重過ぎて怖すぎて、つい赤ちゃんにすべての呪いを託そうとする祐一クン。
「うん、今ゆうくん良いこと言った。でもね、それだけじゃ全っ然足りないんだ、もっとね、何もかも共有してるって言うか、全部結びついてないと嫌なんだ」
 頬をベッタリと貼り付け、耳元で怪しい妄想やデムパを放送して下さる美汐さん。その構想はどんどん歪んで行き、祐一を捕食しようと姉と同じく、病的な妄想に捕らわれて行った。
「ゆうくん私と同じ血液型かな? だったら血管繋いで血を通しても大丈夫だよね? 内臓も交換しようか、術で交換するんだから大丈夫だよね、うん、決めた」
(うそ~~~ん)
 勝手に決められると非常に困ってしまう案件が、美汐さんの中だけで決定されて行く。
「片肺、腎臓片方は交換、ゆうくんのお腹に卵巣一つ移植して、精巣は一つ貰う、足は長さが違うから困るけど、左手なら良いよね?」
 香里の腕時計で汚染されたような左腕は自分のと交換して消毒、自分の左手を時計ごと移植して、おしっこする時も、自分に挿入させる時も、万が一自家発電する時も自分の左手で処理させると決めた。
「あ、そうか、もう私の体と内臓捨てて、頭と手と子宮と卵巣、ゆうくんの方に移植しちゃえばいいんだね、アソコとお尻だけゆうくんのアソコの上に移植して、授業中でも繋がれるようにしておいて、外見だけ術で誤魔化したらいいんだよね。ね?」
 一体何の同意を得たくて「ね?」と言ったのか分からないが、その眩しい笑顔が怖すぎた祐一クン。
 美汐さんとのドナー提供が適合しないよう祈ったが、その辺りの物理法則すら捻じ曲げてきそうな相手に恐怖する。
「残った所は誰か体が不自由な子に貸して、使い魔にするか、いざとなった時だけ返してもらえばいいし」
 何が可笑しいのか分からなかったが、何やらクスクスと笑い出した美汐さん。シャムの双生児状態の自分と、ゆうくんと結合した未来予想図が楽しかったらしい。
「あの…… それだけは止めて下さい、お願いします」
 みーちゃんの楽しい新婚生活の予想を断ち切って悪いと思ったが、怖すぎて真顔で敬語まで使って断ってしまったが、それは誤りだった。
「え? どうして?」
 急に声のトーンが変わり、怒気を含んだ低い声に変わった。

 選択肢
1,超土下座外交展開、美汐さんに土下座して、怖い術とか交換はやめてもらう。
2,「愛」とにかく愛の一言で突き通す。
3,ヤンデレ系のゲームでも、唯一の正解とされる逆ギレで攻め倒す。
4,泣きながら逃げ出して、秋子ちゃんに助けてもらう。
5,一応未来予知なんかしてみる。
 選択「5」

 1の場合。
「勘弁して下さい、ほんっともう、勘弁して下さい」
 水面下まで頭を下げ、一旦結合も解いて洗い場で土下座ししようとしたが、美汐さんの万力みたいなマンリキには逆らえず、取り外しもできなかった。
『どこに行こうって言うの、ゆ~く~ん』
 もう香里さんどころじゃない強烈なハグ、だいしゅきホールドで身じろぎもできないゆうくん。「実際に焼かれる時、安珍清姫ってこうだったんだな」というホラームービーを現実に見せられ、美汐の蛇体に巻き付かれて体の骨がバキバキと折れて行く。
「ギャーーースッ!」
 土の中にも潜れる美汐さんは、祐一クンの体に溶け込んで一体化し、諸星大二郎の生物都市みたいに二人は溶け始めた。
『ホラ、コレデモウハナレナイ、ズットイッショヨ、ウフフフフフフフフフフフフフフフフウフフフフフフフフフウフフフフ』
 もうその時には、美汐の声が頭の中から響き、完全に取り憑かれてしまっていた。
「アンギャーーーーッ!」
(らめええええええええッ!)

 2の場合。
「愛だ」
「え?」
「だから愛なんだ、俺達は別れても、離れ離れになっても、必ず巡りあって結ばれるんだ、これが運命なんだよ」
 何か真琴が読んでいた小学生か中学生向けの恋愛漫画のようなセリフを口にして美汐を丸め込もうとした祐一クン。
 だがそんな程度の付け焼き刃では、壊れきった美汐さんのトラウマ電流爆破デスマッチスイッチは解除できなかった。
「ナニイッテルノ、ユウクン」
 結合を解いてゆらりと膝立ちになり、先ほど佐祐理お姉ちゃんに掴まれて両肩に痣が残っている場所を倍ぐらいの握力で上書きされる。
「ワタシガ、ユウクンとワカレテ一度デモ、たった一日でも幸せな時がアッタトデモ思うの?」
 祐一も、もう鎖骨と肩甲骨が粉砕骨折させられるのは覚悟した。
 美汐さんは地獄の亡者でも出せないようなエフェクトの掛かった恐ろしい声で鳴き、息が続かなくなると、息を吸い込みながらでも声を出したので、引き笑いならぬ引き悲鳴で叫んだ。
「クルシカッタ、ツラカッタ、スグニシンデシマイタカッタ、モウイキテイタクナカッタ、フデgファsgfsljgサ;ロg;アs;kcダkshカ」
 もうその顔は、香里の怖い顔などはるかに超え、あの顔が安っぽいお化け屋敷のメイクかオバQに思えるような本物のホラー映画の、目と口から血を吐きながら喋るモンスターの最終形態を見た。
(イヤーーーーーーーーッ!)
「ソレナノニナンデ? ナンデ? ナンデ?ナンデ?ナンデナンデナンデナンデナンデナンデ?」
 すっかり壊れてしまった美汐さんは、自分と一つになりたくないと言い出した相手を、ゆうくんと認識出来なくなって行った。
「ヤッパリ、ユウクンのニセモノ?」
 不定形の粘菌みたいになった美汐さんは、人の形を失って行き、祐一クンの口とか耳とか鼻とか、穴という穴から侵入を始めた。
『ユ~~~ク~~~~~ン』
「ギャーーーーーース!」
(これも、らめええええええええっ!)

 選択肢3の場合。
「ふざけんなよ美汐、お前はもう俺のい、嫁なん、だからな、俺のこと、え、言いつけに従えないのか?」
 未来予知なのに歯の根が合わず、カミカミで命令したが、ヤンデレーな人は祐一の気弱さを察知して、従おうとしなかった。
『ドーシテイヤナノ? フタリデヒトツニナルノヨ? ソレガシゼンデショ? ユウクン』
 完全に壊れた美汐さんは、顔全体が外れて寄生獣みたいになり、血走って本当に血が出てる目だけ残った頭部と、ギザギザの牙が生えた顎らしきパーツで祐一くんを噛んで捕食しようとしていた。
「アンギャーーーー!」
 ハリウッドの特殊メイクの頂点か、流行りの3DCGのモーフィングでも使ったような変化に怯え、鳴き声を発してみるが、もう口の穴とか耳の穴とか色々な所から粘菌美汐さんに侵入され、脳の中を調べられ、美汐の手で脳の中をかき回され、記憶の隅々まで探られた。
「アッタ」
 名雪の術の痕跡を調べだされ、あゆや美汐、舞、佐祐理、栞との記憶も引きずり出される。
「ギャーーーーーーーーッ!」
 思い出してはならない致命的な記憶。あゆが落ちて一旦命も失い、祐一や舞の力で傷を修復したが、地面に落ちた血や流れ出た血を集めて戻す程の術は使えず、何かを犠牲にしてあゆの命を体に戻した記憶。それが現実の祐一にも反映された。

「思い、出した」
 どこかの禁呪詠唱の主人公のようなセリフを言い、名雪の術を破って記憶の一部を取り戻した祐一。
 切断されていた自分の使い魔、天使の人形とのリンクも接続され、失っていた力の一部も取り戻す。
(へえ、そんな方法があったんだ、名雪の術だけは破れなかったのに、中からなら簡単に崩せたんだ)
 名雪の力には決して抗えない天使の人形。その能力や力の全ては名雪から調達して、今まで本体から離れながらも生きて来た養分も名雪から受け取っているので逆らえなかったが、祐一から力の供給を受け、その必要も無くなって来た。
(こりゃあいい、たくあんアタックが効かないなら、名雪にだって刃向かえる、皆殺しだ)
 これで愚かな人類の大半を削除できると思い立つ天使の人形。栞や佐祐理の視点から、醜く汚い人間を見続けてしまったので、もう救いの心や慈悲など持ち合わせていなかった。最大の障壁だった名雪の力にも対抗して、呪いの塊である、あゆの肉体が起動すれば、汚い心を持った人類は勝手に殺し合って死ぬ。
(あはははははっ!)
 上機嫌でバレルロールなどしながら自分の本体、祐一の体を目指して飛ぶ天使の人形。
 まだ子供の名雪によって、本体から抜け出したままにも関わらず、体だけ浄化されて記憶も消され、リンクも切断されてしまった哀れな存在。
 そうなるのを知って切ったなら、名雪が最大の敵なのだが、善意によって行われた儀式は、祐一自身を救い苦しい記憶から解き放っていた。
 
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