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IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》

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【第549話】

 
前書き
オリジナルバトル 

 
 意識の深い底、誰かの声が聞こえてくる――。


「起きたまえ、ヒルト君」

「ん……?」


 ゆっくり瞼を開く――そこは見慣れた天井ではなく突き抜けた様な青空の下だった、そして視界に捉えたのは仮面の男――ウィステリア・ミストだった。


「君を鍛えに来た。 以前も伝えたように来るべき時の為には打てる手は全て打たねばならないのでね――時間がない、イザナギを纏いたまえ」


 そう告げるウィステリア、来るべき時……この男はこれから先に起こる事を把握してるのだろうか?

 だが今はそれに囚われる訳にはいかず、イザナギを呼び出すと、俺の身体に光の粒子が集まり収束、その身に装甲を纏った。


「……今からある者と戦ってもらう。 彼女は親を亡くし、家を守るためにその身を国家代表候補生に身を落とした。 ……その瞳に浮かべる【蒼い雫】に、君は気付く事が出来るかね?」


 ウィステリア・ミストの隣に光の粒子が集まり始めた、やがてそれは人の形を形成していき――。


「……セシリア!?」


 長い金髪を靡かせ、瞼は閉じられていたがセシリア・オルコットが現れた――その身にブルー・ティアーズを纏い、長大なライフルを携え、ただただ立っている。

 状況が理解できない俺に、ウィステリアは語る。


「……ここにいる彼女は本物ではない。 コア・ネットワークと君の記憶を媒体にしたデータ状の産物といえよう」

「データ……?」


 そう告げる俺の言葉を他所に、ウィステリアは語る。


「無論、君自身見知った相手とは戦いにくいと感じるだろう。 ……いや、今はまだその時ではないだろう。 ……戦いたまえ」


 その言葉が合図になったのか、セシリアの瞼が開かれた。


「わたくしがお相手をしますわ。 準備はよろしくて?」

「準備はよろしくても何も、いきなり――」

「甘いですわよ! 時として唐突に始まることもありますのよ!? ……狙い撃ち致しますわ!!」


 ライフルを構え、ロックせずにセシリアは射撃――咄嗟に左へと流れるように避けるも。


「遅いですわよ!?」

「なっ……!?」


 左へ避けるのを見抜かれていたのか、既に待ち構えていたセシリアのショートブレードによる一撃を受けた。

 自身の射撃から左へ誘導させ、待ち構えて近接攻撃――普段のセシリアは遠距離からの間断ない攻撃が主体の筈だが……。

 そんな考えを他所に、サイドスカートに装填されたミサイル型のビットを至近距離から射撃させようとしていた。

 ゼロ距離攻撃――自身にダメージを負うことも構わないというスタイルに戸惑いつつ、距離を離そうと後退、だがセシリアの唇の端が僅かにつり上がった。

「引っ掛かりましたわね」


 直ぐ様ライフルを構え、連射――尾を曳く無数の光の粒子がシールドバリアーに当たる。

 煌めく粒子片となり鮮やかに輝く中、バリアーを貫通した一撃が装甲に当たると装甲表面温度が上昇と共に衝撃で身体に痛みが走った。


「っ……セシリアの武器にこれ程の威力があるやつはない筈だが……」


 構えたライフルはスターライトmkⅢ、ブルー・ティアーズに収納されているセシリア愛用のライフル、だが威力が段違いだ――と、ウィステリア・ミストからチャネル通信が届く。


『言い忘れていたがブルー・ティアーズの機体性能及び武装性能はリミッターを解除した状態の威力だ。 そして君にはあらゆるリミッターを掛けている。 君自身が取得したスキルもそうだが、イザナギ自身及び武装も一つしか使えないようにしている。 では続きを楽しみたまえ』


 スキル云々はわからないものの、従来の通りではないという事実を受け入れるしかない俺は武装項目欄を開いた。

 件並み使用不可と記載されている中、唯一使用可能なのは――。


「……ジャガーノート?」


 いつの間にかインストールされていた武装【ジャガーノート】、この武装は以前の紅い無人機が所有していた武装だった――シャルの持つ【シールド・ピアーズ】と同系統のパイルバンカーだった。

 ジャガーノートを呼び出し、右手に構えた俺を見てセシリアはくすりと不適な笑みを浮かべて呟いた。


「遠距離型のわたくし相手に接近専用――それも時代錯誤の掘削機で戦おうとは……笑止、ですわね」


 ……妙な近視感に囚われる――そして、俺は自然とこの言葉を口にした。


「やれるとは言い切れないが――やってやるさ、これがな」


 その言葉を無意識に口にした俺――下で様子を見ていたウィステリア・ミストは腕組みしながら昔を思い出していた。

 初めて自分が【IS】に乗った時の事を、共に戦った【仲間】の事を――唐突に記憶がフラッシュバックされた。


『――――。 どうしたの、ボーッとしちゃって、空を眺めてさ』

『ん? ……いや、平和だなーって思ってさ』

『アハハ、そうだね。 ……隣、座ってもいい?』

『ああ。 ……てかさ、短いスカートは止めておけよ、【シャル】』

『……―――のえっち』


 激闘が続く中、過去のやり取りを思い出したウィステリア――。


「……シャル」


 無意識に呟いた言葉は虚空へと消えていく、青空には煌めく粒子が幾重も弧を描いていた。

 周囲を包囲し、間断無く全方位から降り注ぐ光の雨、その中心に居たヒルトは被弾しながらも何とか耐え凌いでいた。


「チッ……シールドエネルギー残量残り300切ったか」

「うふふ、このまま踊りなさい。 わたくしの奏でる円舞曲で!!」

「チィッ……!」


 四月のクラス代表戦が過る――だが明らかにあの時とは違い、ライフルの射撃を絡めたオールレンジ攻撃と偏向射撃《フレキシブル》、更に機体にリミッターが掛かっていない為通常よりも動きが機敏であり、瞬間視を鍛えた俺も目で追うのがやっとだ。

 四基の内の一基が至近距離までやって来た。


「……そこだァッ!!」


 ブルー・ティアーズが描く軌跡を読み、ジャガーノートの矛先を軌跡の先に置くと共に杭を打ち出す。

 そのタイミングと同時にやって来た自律兵器は、杭が刺さり、紫電を放ちつつ地表へと墜ちていく。


「ほぅ。 点である杭打ち機でブルー・ティアーズを墜とすか。 ……君がやって来た並々ならぬ努力、垣間見えたといえよう」


 感心したように呟くウィステリアの言葉だが、戦いに集中していた俺は聞き逃していた。

 更に俺は体勢を変え、スラスターを点火、もう一基近くに居たブルー・ティアーズに狙いを定めるもそれを読んでいたセシリアは軌道を変え、残り二基のブルー・ティアーズが接近。


「……来た!」


 全身のスラスターを点火させ、周囲に来たブルー・ティアーズ一基を勢いのついた蹴りの一撃、もう一基を更にジャガーノートで突き刺し、合計三基のブルー・ティアーズを破壊した。


「まだ……終わってませんわよ!!」


 サイドスカートのブルー・ティアーズ二基を時間差で射撃、多角的軌道を描いて肉薄してくる。

 流石に接触信管型のミサイルに対しては迎撃出来ず、後方へと避けつつ、しつこく追跡してくるミサイルを後ろに、一気にセシリアへと肉薄した。


「……ミサイルの自爆狙いでしょうが、おあいにく様ですわね!」


 ライフルと自律兵器による射撃を行いながら後退するセシリア、リミッターの掛かっていないセシリアの機体にどんどん引き離されていき、フレキシブルによる射撃でシールドエネルギー残量残り50を切った。


「……ッ! 残量が……!?」

「……ふむ。 中々に善戦した方だな。 ……終演だな」


 その言葉通り、背後のミサイルと降り注ぐ光の弾雨がヒルトに直撃、爆炎の中へと消えていくイザナギ――そして、立ち込める爆煙から地表に墜ちていくヒルト。


「……わたくしの勝ちですわね」


 地表へと墜ちていくヒルトを掴むセシリア。


「……とはいえこの勝ち、わたくしにとって明らかに有利なものですわね。 ……次に相見える時には、互いに全力でいきたいものですわね」


 そう言い、セシリアの身体が光の粒子片へと変わっていく。


「……御別れですわね。 それではまた、ごきげんよう」


 それだけを言い残すと姿形も無くなったセシリア、そしてウィステリアが近づく。


「制限の掛かった状態での善戦、見事だった。 ……仮に互いに全力でいっていたなら勝敗はわからなかったたろう」

「……そう、ですか」


 それだけを呟く俺に、ウィステリアは更に続ける。


「次の相手は……要望があるならば聞こう」

「……相手? ……可能なら戦いたくはないが、そういう訳にはいかないんだよな?」

「無論だ。 ……君を鍛えることは【この世界の運命】を変えるのと同義なのでな」

「……運命」


 文字にすれば漢字二文字だが、言葉で聞けば重く、力強い言葉だった。


「……そろそろ夜があける。 また君の意識に介入しにくる。 ……次回の相手は私の方で決めておこう。 ……ではまたな、ヒルト君」


 そう言って身体が粒子となって消えていくウィステリア、それと同時に俺の意識が覚醒へと向かっていった。

 ――セシリアの部屋――。


「んん……」


 目が覚めたセシリア――先程まで見ていた夢が鮮明に蘇る。


「……ヒルトさんと模擬戦をする夢……。 わたくしが勝ちましたけど、どうせ見るのならばやはり甘い一時の夢が良かったですわ……」


 ため息を吐くセシリア――それと同時に時計を見ると午前五時。


「……少し起きるのが早すぎましたわね……。 もう少しだけ、横に……」


 そう呟き、瞼を閉じたセシリアは軽い眠りについた。

 場所は変わり、イルミナーティ本部、有坂ヒルトへの意識介入を終えたウィステリアは仮面を外し、鏡を覗き見た。

 青みがかった白銀の髪に紅い瞳、整った輪郭で見る人によっては二十歳ぐらいにしか見えなかった。


「……兄さん、ちゃんと眠ってるの?」

「……シルバーか。 ……何のようだ」

「兄さんが心配で様子を見に来たのよ。 ……それよりも、二人きり何だし、名前で呼んでくれても良いじゃない」

「……あくまでもここでは【コードネーム】だ。 私は【ウィステリア・ミスト】、そして君はシルバー……私の妹だが、公私混同は良くないのだよ」

「もう、兄さんは堅いんだから……」


 頬を膨らませるシルバー――紅い瞳が真っ直ぐウィステリアを捉えるも、ウィステリアは鏡を覗き込んでいた。


「……兄さん」

「ウィステリア・ミストだ」

「分かってるわよ。 ……もう」

「……。 ……【ヒルア】、これでいいか?」

「……!!」


 不意に呼ばれた自身の真名――【ヒルア】と呼ばれて目を見開くシルバー、そして嬉しそうに表情を綻ばせると。


「やっと呼んでくれた! もう、兄さんってクーデレなんだから」

「……冗談は止めたまえ、妹にデレるも何もない。 睡眠はこれからとる、30分もあれば問題はないさ、これがな」


 そう呟き、仮面を取り付けるとソファーに寝転がるウィステリア、其処に掛け布団を掛けたシルバーもといヒルアは僅かに笑みを浮かべながら。


「おやすみなさい、兄さん」

「……せめてボスかウィステリアと呼びたまえ」

「イ・ヤ☆ 二人きりの時はもう思いっきりデレモードになるんだから」

「…………やれやれ。 では30分後に」


 そう言い、ウィステリアは眠りについた。

 ヒルアはそれを見、明かりを消すと静かに部屋を後にした。

 一人眠りにつく、ウィステリア――。


「……束、さん……マリア……母さん……」 
 

 
後書き
今回は早かった更新

てか先週の鉄血は中々に衝撃的でしたな

ケツアゴと日曜日の戯けががどうなるやら 
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