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KANON 終わらない悪夢

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19栞VS舞

 数日前
 夜中になり、何故か公園に一人佇んでいた栞。
「お嬢ちゃん、こんな遅くに一人でお散歩かい? 俺達と楽しい事しようぜ」
 暖かくなり始めた夜の公園では、どこにでもいるようなクズ達が、栞の周りに集まっていた。
「嫌です」
「俺たちが優しくしてるうちに、言う事聞けよなオラッ!」
「おいおい、吠えるなよ、お嬢ちゃん怖がっちまうだろう?」
 しかし、今日の栞はこの程度の脅しには動じなかった。
「誰がお前らみたいな「クズ」と」
「何ぃ? チョーシん乗ってんじゃねえぞコノッ!」
 ベンチを蹴られ、不良に取り囲まれた栞、だが栞は意外な行動を取った。
(ニヤリ)
「こいつ笑ってるぞ、どっかおかしいんじゃないか?」
「イケニエニナレッ」
 すでにその声は人間の少女の声では無かった。
 ブウンッ!
 栞が笑いながら腕を振ると、射程より遥か先の不良まで吹き飛び、手足を変な角度で巻き込みながら転がって行った。
「ギャアアアッ!」
 遠心力で飛ばなかった者は、壁に張り付いて肋骨でも折れたのか、血を吐いていた。生き残った者を掬い取りながら手を捻る。
「なっ! 何だこいつっ! 化け物だっ!」
「いっ、嫌だーーーっ! やめろーーーっ!」
 握り潰されそうな男が何か叫んでいたが、栞が同じ言葉を言って、やめるようなような相手では無いのは、考える必要も無かった。
(同情の余地無し、世間のゴミ掃除さ、やっちゃっていいよ)
「ワカッタ」
「「「「「ギャーーーーーー!!」」」」」
 夜の公園に男達の悲鳴が吸い込まれて行った。

 現在の校庭
『…やっと見付けた、こいつは魔物、私が倒す』
 香里が倒れた時に昼間の校庭に現れて以降、夜の校舎には現れなくなり、校外を徘徊して人の命を喰らってきた魔物。その一体をついに見付け、殺気を込めて向かう舞。
「ジャマダ」
 幼い人体に憑依しているようだが、本体を倒せば中身は出て来るか、一緒に潰れるかもしれない。まずはその頭を狙って打ち込んでみた。
「やめろっ、舞っ」
 魔物の一体は「異世界に飛ばされる暗闇」という新しい力を使っているのは見えたが、今の所は脅威にも成らず、かわしながら近寄って行く。
 スピードの早い腕は脅威だったが、いつもの様に肋骨をへし折られるような重圧もなく、手足に巻き付かれてバランスを崩され、その隙に暗闇を叩き込んでくる単調な攻撃や、切り裂く闇が飛んでくる。それらの全ては、舞にとって手に取るように分かった。全部自分の魔物が繰り出す、自傷行為のような物だったから。
『…はっ!』
 まずは挨拶代わりに、中身が潰れないように後頭部を叩く、これが普通の人間なら、気を失い、倒れて魔物が出て来るはず。そうなればこの子を祐一にでも任せ、周りの女に邪魔させないように戦えば良い、依代が無いなら夜の校舎で存分に戦える。
「キエロ」
 憑依した体まで強化されているのか、魔物が完全に支配しているのか、脳を揺すった程度では栞という子は倒れなかった。
『川澄さんっ、体ごと殺さないと無理よっ、もうその子は救えないっ』
 リボンの女が何か言っているようなので、次に体を潰してみる事にした舞は、本気の突きを放った。
『はああっ!』
「やめろっ」
 祐一が邪魔しに突っ込んで来たが、その前に突きを放ち、祐一の体を盾にして暗闇を払い、いつものように転がって逃げるが、魔物は喉仏に突きを喰らっても、何事も無かったように攻撃を続けていた。
「血を流させろっ、こうやって傷を付けて、血がなくなるまで刺せっ」
 他の女も魔物の殺し方を知っているようで、刃物や血を抜く針を使って攻撃している。右手から伸びた見えない腕は、傷だらけにされ血まみれになり、教室で感じたような大きな力を失って来ている。
『…邪魔をしないでっ! こいつは私の獲物よっ』
 この魔物は自分の獲物、必ず自分の手で殺さなければならない相手。刺して、切り倒して、その痛みを心地よく堪能し、のたうち回って苦しむ所を笑って見届けなければならない相手。
 そこで今度は栞の頭を潰すために上段に振り上げ、頭の天辺を狙った。
『…チェストオオッ!』

 だが、風の様に走り回って止まれなかった女が、舞の攻撃に隠れて栞の背後に回り、肋骨の上から刃物を突き立て、心臓の辺りに傷を付けた。
「ああっ!」
「やめろおっ!」
 とどめを刺され、倒れるかに見えた栞は。ペロリと舌を出して笑った。
「ザンネンデシタ」
 栞の心臓に刺さるはずだった刃は、黒い闇を介して、地面に張り付くようにして歩いている女の首筋に現れ、鎖骨から下に刺さる前に、祐一の手と一緒に現れて刺さるのを防いでいた。
「あっ、相沢くんっ」
 間一髪救われた女は祐一の手を見て、想い人の手を刺してしまった女もその相手を見て、栞も自分を救うために手を差し伸べた祐一の手が傷付いてしまったのを見て、三人は一斉に血の気を失って行った。
『ごめんなさい、相沢くん』
 暗器を背後に隠し、祐一の許可無く、栞と使い魔を共に抹殺しようとしたのを隠す真琴(本物)。
『…祐一、邪魔、そいつ殺せない』
 木刀を上段に構え、まだ栞を撲殺しようと殺気を解いていない舞。
「相沢くん、しっかりして」
 大した怪我では無かったが、今日は二度に渡って祐一に救われてしまったトイレの少女は、チョロイン要員として、傷口にハンカチを巻いて止血した。
「祐一さんっ、大丈夫ですかっ?」
 魔物に支配されていた栞まで祐一の傷を見て自分を取り戻し、その手を気遣った。
「おい、元に戻ったぞ、どうなってるんだ?」
「血が足りなくなったんだろう」
 こうして一時的に休戦となった一同は、使い魔を宿したままの栞と、祐一のやり取りを見守った。

「すみません、私のせいですよね、こんなになってしまって」
 魔物に心を売り渡して以降の記憶も持っている栞は、祐一の掌の傷をさすり、悲しそうにした。
「相沢、油断するんじゃない。そいつは人間の真似をしてるだけ、もう使い魔に心も体も奪われて、人を食ってきた化物だ、人間の形してるからって心を許したりすると、頭から齧られるぞ」
 そう言われても、外見も何も今までどおりの栞で、一月末に愛し合い、四月に再会できた恋人。忘れたり、見捨てたりはできなかった。
「さっきから皆んな、ああ言うんだ。もうお前は助ける方法がないとか、何かの化物だなんて。栞はどう思う?」
「分かりません、時々自分を見失って、お姉ちゃんと大喧嘩したり、祐一さんを引きずったりしました。あれがそうなら、私にはどうにもできません」
 まだ殺意を消さず木刀を持っている舞を止めながら、別の女も口を挟んだ。
「じゃあ、遺書でも残して自殺してくれ、今までの犠牲者はアタシらで探してどうにかしておくから。まあ、夜中に出歩いて女攫って遊ぶ奴らだ、どうなってようと気にしないでいいけどな」
「犠牲者って? 栞、何をしたんだ?」
「わかりません、でも、最近変な夢を見るんです。夜中の公園とか、色々な所で待ってる夢を」
「何を?」
 話が核心に迫り、つばを飲み込んで喉を鳴らす祐一。
「え? 待ってると男の人が何人も寄って来て、「遊ぼう」とか「一緒に行こうぜ」って誘われるんです。普段なら、そんなの怖くて逃げ出すんですけど、夢の中ではこう思ってしまうんです「美味シイ食ベ物ガキタ」って」
 他の少女達も舞も、夜の使い魔と会話してしまい、その本音を聞かされて、背筋に冷たいものが走る。
「逃げ回る人を追い掛けて、手の届かない所にいる相手でも、右手を伸ばせば届いてしまうんです。それでバキバキ言わせながら食べるとスゴクタノシイんです。でも○○ちゃんを助けるために取り上げられて、オナカイッパイにはならないんですけど、オイシカッタ、タノシカッタって目が覚めて、普段は忘れてしまって……」
 ここでも、「月宮あゆ」の名前を出すのは許されていない舞の右手。少女達も確信を抱き、救いようのない栞を哀れんだ。
「なあ、聞いただろ? もうこの子はダメだ。でも、一つだけ方法はある、この子が元に戻ってる隙に、昼間に親玉を倒すんだ。バンパイアみたいにな」
『意識が奪われていない間に、使い魔を放った主を倒せば、助かる可能性はあります。片腕が腐り落ちてしまうかも知れませんが、命だけは救えます』
「でも、どうやって探すんだ? バンパイアの親玉なんて」
『そこにいるじゃないですか、使い魔が現れたのに気付いて、真っ先に駆け付けた人が』
 回りにいる少女達の指が全部、舞を指差した。
「舞、お前だったのか?」
「…知らない、私じゃない」
 悪事や事件の首謀者のように言われ、女達の視線や殺気が舞に向かったが、気弱になって首を振り、覚えのない災厄には関わっていないのを主張する。

『忌み子、川澄舞。貴方の悪行もこれまでです、これ以上災厄を撒き散らすなら、わたくし達も容赦はしません。本来、貴方を倒すには秋子様の決済が必要ですが、ここまでの事を仕出かした以上、事後承諾でも構わないでしょう』
「待ってくれ、舞はそんな酷いことをする奴じゃないっ」
 祐一の止める声も聞かず、三人が加速し始め、一人は盾に戻った。
「相沢、退いてくれよ。栞ちゃん、お前の恋人なんだろ? その女と天秤に掛けてみて、どっちが大事か考えるまでも無いだろ?」
「…私は何もしてないっ、この子の事も知らないっ」
「悪い奴は皆んなそう言うんだよ」
 そう指摘されても、祐一にもどうしても信じられない。舞の魔物を操って栞に憑依させた、別人の存在が考えられ、その思いが拭い去れない。
『妖狐の血族と交じり合い、訪れる幸運と災厄は表裏一体。与えられる力や幸運の裏には、このような忌むべき災厄が付き纏う。わたくし達の一族は、人の心と妖狐の力を持って厄を祓わなければならないのです。十九年前、祖父や祖母達が、どのようにして川澄一家を廃したか、秋子様からお伺いですか?』
「いや、何も聞いてない、でも待ってくれ」
 今度は栞に向かい、舞の魔物を説得してみる。
「なあ? 舞の右手だっけ? 舞の所に帰ってくれないか?」
「さあ? 帰り方なんか知りません。でも、追い出された自分の体を取り返したいです」
「妹ちゃんよ、さっきの技で、この女を真っ二つにして異世界に放り込んでやれよ、そうすりゃ話しが早い。まあ自分の本体切れるわきゃないか? へへっ」
 物騒な話をされている間も、何とか栞に取り付いている魔物と舞に聞いてみる。
「お前は帰っても良いんだな? 舞はどうなんだっ?」
「…それは魔物、私が必ず倒す、邪魔しないで」
 周囲の人物も、この状態には違和感を感じた。夜の使い魔達は舞自身に追い払われ、その存在自体を消されようとしている。使い魔も誰かの体を乗っ取って命を喰らっても、自分のために利用するでもなく、本来の体を取り返そうとしている。
「じゃあ、舞の体に戻る前に、俺の右手にでも入っててくれ」
「いいんですか?」
 舞の魔物、右腕は、嬉しそうに栞の声と顔で喜び、その体は仄かに光り始めた。
『止めてっ、相沢くんっ!』
『私、ずっと祐一さんが好きでした。この場所、何年も前のあの麦畑の中で、夜中から夜が明けるまで走り回ったのを覚えてますか?』
 その言葉は全て栞の声だったが、この場所で走り回った記憶など無い祐一。そして体力がなく走れない栞が夜中から夜明けまで走れるはずがない。
『あの時、あの頃だけが幸せでした。また同じようにしてもらえますか? 今度は自分の体で抱かれたい、お願いします、あの体で、あの夜の麦畑をもう一度……』
 魔物の声と泣き顔は、祐一を引き寄せるように抱いて、通路を作るだけの軽いキスを交わし、舞の右腕は祐一の中に宿り、栞は意識を失って抱き止められた。
『何て事を……』
 邪悪な舞の使い魔が祐一に宿ってしまい、肩を落とす真琴(本物)。次の討伐対象は祐一になってしまい、舞を倒してもその腕がどうなるか分からない。
「夜の使い魔が乗り移って食い荒らしたのに、傷も付けないで抜き出せたのなんか聞いたこと無いぞ? すぐに里に連絡しないと」
 栞の右腕が腐り落ちもせず、繋がったままで祐一に支えられているのを見て驚く少女。
「相沢くん、それ、それ川澄舞に返せるの?」
「ああ、舞はまだ嫌そうだけどな」
 先ほどの目的、使い魔に憑かれ、人の命を喰らった栞の討伐から、術者本人と思われる舞を突き止め、舞さえ倒せば二人の命だけは救えると喜んだ瞬間。もっと信じられない事態が起こり、使い魔と会話して和解し、自らの身体に取り込んだ意味不明の術者を見た少女達。
「奇跡って本当にあるんだ」
 香里の病気が治ってしまうのは薄々知っていた少女達も、こんな事態が起こるとは信じられなかった。

 それから、気を失った栞を連れ、保健室に移動した一同。保健医に話し、ベッドに栞を預けようとした所で。
「えっ? どうしたの、また発作が? いえ、イジメ?」
 舞と数人の女子を見て、祐一の怪我やボロボロな栞を見比べた所で、病気ではなく舞のイジメと勘違いして騒ぎ出した保健医。
「いえ、違いますよ、どう説明したらいいのか?」
『ねえセンセイ、実は妹ちゃんにデッカイ化物が憑依しましてね、暴れだしたんで私達で倒そうとしたんですけど、相沢くんが説得して、またチューして大人しくさせたんです。今その化物って相沢くんの中にいるんですけど、信じて貰えますか?』
 余りにもそのままな説明を聞かされた保健医だったが、術に掛けられて信じたような信じられないような奇妙な状態に置かれ、結局笑い話に落ち着いて否定し始めた。
「もう…… 漫画の見過ぎよ、そんなのある訳ないじゃない」
『え~、そうですよね~、でも本当なんです』
「ハイハイ、分かりました、栞さんは預かりますね」
 そう結論づけて他の一同の傷も治療しだす保健医。そこで本日二度祐一に救われた少女が、包帯や消毒液を取って左手の治療を始めた。
「あの、ごめんなさい、私のせいよね、こんなになってしまって、縫わないとダメだから今からでも病院行こうか? その前にしみるけどごめんね」
 自分のハンカチを外し、消毒を始めようとしたが、ここ数日の危機に対応したのか、掌の傷は治り始めていた。
「うそ、もうこんなに?」
 その状態を見て、突き刺した本人も驚いていた。真琴(本物)の手応えでは、骨まで届いて止まったはずが、傷は半分塞がり、血も止まっていた。
「まあ、いつもの事だから気にしないで。そのハンカチ、洗っても無理だろうから、買って返すよ」
「え、いいのよ、助けてもらわなかったら、今頃お嬢の刃が刺さって、それどころじゃなかったし、最初ので真っ二つにされてたかも知れないし」
 一同は、この女が祐一の血が付いたハンカチを大切そうに仕舞い込み、傷口を丁寧に消毒して、まるで舐めるようにしてガーゼを貼って包帯を巻いたのを見た。
(また犠牲者だ……)
 ジゴロ野郎に恋愛脳に改造され、昨日は「もうお嫁に行けない」と泣いて睨んだ女が、同一人物を目をハート形に変えて見ながら左手を取り、心霊治療でもするように両手で握って愛おしそうに頬ずりしていた。
「王子様って本当にいたんだ」
(((ダメだコリャ)))

 既に三時間目は始まってしまい、遅刻はしたが授業に参加した一同。栞の回復を待って次の休み時間に訪ねてみたが、リボンロボが同行すると「春の大決戦」が再開されそうなので、祐一だけで起こしてみた。
「栞、大丈夫か? 起きてくれよ、栞?」
 ここで、栞が一月の記憶まで失っているかと思うと恐ろしかったが、起こしてみて、どこまで記憶しているか確かめようとした。
「祐一さん、私、どうしたんですか?」
 一応祐一の記憶ぐらいは覚えていて、寝ている所を起こされても驚かない所から、恋人関係なのも認識していると思えた。
「どこまで覚えてる?」
「え? 一時間目の休み時間、三年の教室に行くと祐一さんが登校してなくて、隣のクラスの女子まで集まってしまって「ヤベーよ、うちのお嬢と相沢、登校中に消えたって、今頃しっぽり濡れてるとこだよ」「上になったり下になったり、生きるの死ぬの大騒ぎの大運動会中よ」「何気に相沢競争率たけーから「今日は大丈夫だから」ってナマでしたり、ゴムに穴開けたりしてもう孕んじゃってる頃じゃね」「おいおい、他のクラスでも香里んとこの四人組、帰ったってよ」「マジ?いま5Pかよ、相沢どんだけ絶倫よ、マジケダモノ」「香里も参加してんじゃね?」「うっわ名雪いるよ、一人だけ仲間外れ?」「そこ「奇跡の恋」の妹ちゃん立ってるよマジカワウソス」「今、五人ケツ出させて並べてズッコンバッコン?」「イヤイヤ、相沢縛られて4,5人で上からリンカン学校っしょ」「もっと多いよ、今日女センセー一人休んでるし、参加中?」「エー、ババアもイケんのすごー」「イヤ男もイケるって話だし、こないだ北川いなかったし両手包帯してズルムケ」「どんだけ凄いプレイしたんだよ拳ズルムケ系?」「オマエラも誰か相沢にヤラれちまってね?」「ヤッベウチ今、毛ボーボーちょっと抜いてくる」「ネエネエ妹ちゃん、相沢ってそんなスッゴイことすんの?教えてよ」「うわコイツ本人に聞いちゃったよマジ鬼」「まあ「ユウイチサンハ、ソンナヒトジャアリマセン」だって、超ケナゲ~」な~んて、色々聞かれて、困ってたんです。
 栞の記憶力の素晴らしさと、今時の女子高生の会話を聞き取るヒアリング能力の高さに「貴方が聖徳太子ですか?」と聞きたくなるほどで、いつの間にか声色のレパートリーも増えてモノマネ能力も上がり、、落語家のような会話術にも感心した祐一。
「そ、そうなんだ、次、聞かせてくれるかな?」
「はい、二時間目の休み時間、祐一さんが「アノオンナ」と一緒に登校して来たのを見て、我慢できなくなって、それから……?」
 途中、栞がカタカナ言葉で喋ったので度肝を抜かれたが、魔物が喋った訳ではなく、その時の記憶が残っていただけなのか、いきなり平手打ちを打ち込んだのは覚えていないようなので、あれは栞の行動では無かったのだと思った。
「それから砂で目潰ししてグーで5,6発殴って、髪の毛千切れるぐらいに掴んで引きずり倒して、蹴りまくった後マウントして、メリケンサックで鼻の骨が折れるぐらいフルボッコにして、二目と見れない顔にしてやってから、関節技で腕でも折ってやろうかと思ったんですけど、そこから覚えてなくて……」
(あの? 魔物の方がやさしい反撃なんですけど?)
 怖すぎて声に出せなかったが、栞の行動は、魔物の方が社会的制裁を恐れて制限が加えられていて、本人のほうが過激で、容赦がない行動予定なのに気付いた祐一。
「後はお腹を蹴られたような気がして、カッター抜いて目でも狙ってやろうかと思ったんですけど、頭の中で「ヤメテ、ヤメテ」って声が聞こえて、知らない人が相手だから、お姉ちゃんみたいな卑怯な攻撃とか、過激な技は出さないでおこうって決めたんです」
(美坂家の戦闘って、もっと卑怯で過激なんですかっ?)
 魔物が制定してくれた戦闘における制限や紳士協定が実現し、美坂姉妹のようなバーリトゥードの争いが行われなかった先ほどの戦い。勝利条件も低めに設定され、どこかの「るろうに」のようなコロさずだとか、ジュネーブ条約に従った攻撃が行われたらしい。
「それにしても祐一さん、二時間目が終わるまで、あの女とナニしてたんですか?」
(アルファワン再起動、超重力反応! 左腕破損部に塩コショウ、マスタード入り栞クローを確認しました、緊急退避をっ)
 祐一の左手の傷口に、正確に親指を押し込み、傷をかき分けるように塩コショウ、マスタード入りの爪を差し込んできた栞。もちろんゴリラとクマに握りつぶされた左腕の挫滅箇所も、関節技を加えて捻られ、最も痛い状態で保持される。
「ウグゥ、イタイヨ、イタイヨ、ユルシテ」
 朝の登校時と同じになり、魔物という裁定者すら居なくなったので、さらに過激で卑怯な攻撃を加えられるようになった祐一クンロボ。
 左手の痛い状態は、栞ロボの右腕と脇、貧弱胸部装甲だけで固定され、空いている左腕はジャイアントバズーカの開閉部チャックを開き、敏感な発射口に塩コショウ、マスタード入り栞クローをお見舞いしようとしていた。
「コワイヨ、コワイヨ、ソレダケハユルシテ」
「相沢くんっ? あんた私の王子様に何してんのっ!」
(ベータスリー接近、アルファワンと近接戦闘開始、左腕破損部が開放されました、即時撤退を推奨します)
 心配して見に来てくれたと言うか、祐一と二人っきりになる状況を狙って来たトイレの少女は、栞を救ったはずの祐一に対して本人が攻撃を加えるという、有り得ない状態に立腹し、栞ロボとマジ喧嘩に突入した。
「ふざけんじゃ無いわよっ、あんた誰に助けてもらったと思ってんのっ? 相沢くんでしょ? いい加減にしなさいっ!」
「は? 私の「リミッター」勝手に外しておいて、ナニ言ってるんですか? 自分の「持ち物」に何しても勝手でしょ? そっちこそふざけないでっ」
(アノ、栞さんに憑いてた魔物って、やっぱりリミッターだったんですか?)
 所有物発言には怖くて言及できなかったが、ポケットに手を入れた栞が、どこかから「メリケンサック」を両手に召喚して装備し、塩コショウの目潰しを放ちながら、ジャブやフックを放っている恐ろしい光景を目にして、さらに恋心が低下した祐一クンロボだった。
(ベータスリー、絶対障壁を展開しています、栞エクステンドパンチは無効化されています、今こそJ・Bの発射を!)
 トイレの少女は、先ほど詠唱した「大盾」の効果が残っているらしく、栞ロボが放つクソ卑怯なパンチに、ピーカブースタイルにウィービングやダッキングで耐え、クラウチングスタイルに構えた時、栞ロボが上から放つクソ卑怯なキドニーブローに苦戦させられる。
「アノ、ケンカシナイデ、コワイヨ、コワイヨ」

 選択肢
1,教室まで戦術的撤退、舞ロボを召喚して、卑怯な栞ロボを撲殺してもらう。
2,隣の教室まで戦術的撤退、リボンロボを召喚して、卑怯な栞ロボを呪殺してもらう。
3,栞ロボを背後から拘束、貧弱な胸部無弾性装甲を襲撃してR・SからJ・B発射。
4,ベータスリーと愛の逃避行。
 選択肢「4」

(ベータフォー接近、援護射撃が開始されます)
「相沢、そこを退けっ、使い魔が外れたのに、そこまで堕ちた人間が助かった例をアタシらは知らない、その女はもう駄目だ、コロすしか無い」
「ああ、そうだな、栞はもう助からない、コロそう」
 先ほどの会話や、栞を庇い続けたのは何だったのか? 栞ロボの本性を知った祐一クンロボは、クッソ卑怯な攻撃に耐えかね、救出を諦めた。
 そこでベータスリー?は撤退を開始して、祐一クンロボの手を取ってこう言った。
「さあ、魔女(栞)はあの子に任せて私たちは逃げましょう、ここから私達のトゥルーラブストーリーが始まるのよ」
「ええっ?」
 お嬢の事などすっかり忘れ、ついに巡り合った白馬の王子様の手を取り、保健室からマッハで脱出し、二人っきりになれそうな屋上だか体育倉庫辺りにシケ込んで、パツイチ決めようと思うベータスリーロボ?
「待ちやがれっ、お前らっ、どこ行くつもりだっ?」
「え? ちょっと相沢くんと二人きりになれるところへ」
 その顔の計画書には「ヤダ、二人で体育倉庫に閉じ込められちゃってドッキリ、昼休みが終わって、五時間目が始まるまで誰も助けに来ないよ。二時間以上二人っきりなんて、全部奪われちゃう、どうしよう? あっ、折角ゴールインしたのにトイレも我慢できないよ、ヤダ、今度こそ見られちゃう、小さい方お漏らししちゃうよ、見ないで、見ないで~」などとふざけた内容が書いてあった。昨日の人工呼吸のせいで、確実に脳がブッ壊れ始めているトイレの少女。
「ふざけんなっ、この卑怯なバケモン、アタシだけで相手しろってか?」
「ユウイチサン、ソノオンナト、ドコイクンデスカ?」
 加速したまま廊下を走り、ベータフォー?と高速戦闘を続けて周りを蹂躙し、他の生徒を巻き込みながら破壊と殺戮を振りまく悪の栞ロボ。
 その周囲には再び暗闇のオプションが纏わり付き、数も数倍になり、その全てを暗黒二重反転異次元転送用殺戮歯車に変換し、一階の廊下を地獄絵図に書き換えて行った。
「オイッ、このバケモンさっきより確実に強くなってやがるぞっ、どの術も一言だって詠唱しねえし、ギャーーーッ!」
 栞はリミッターが外れたせいなのか、魔物が行使する術を体で覚えたのか、更に破壊的で卑怯な殺人に特化した力を使い、約一名を地獄に送り込んだ。
「シネ」
「ギャーーーーッ!」
(ベータフォーの無力化を確認、以後登録を抹消します)
 楽しげに遊んでいる子供たち?を後にして、ドップラー効果で声色が変わる悲鳴を聞きつつ、愛の逃避行を続けている二人。
「まだ追い掛けて来るわ、応援を呼びましょう」
 次第に危ない状況になり、舞や真琴の応援を呼ぼうとする二人。取り敢えず祐一は心の声で叫んでみた。
(舞っ、来てくれっ、また魔物が出たっ)
 黄泉平坂を駆け上ってくる以前の嫁?の追撃を逃れ、呪的逃走をする祐一。二つ目に投げた桃?は、舞を召喚した。
(舞ロボ接近、以後デルタワンと呼称します)
 二階の三年のフロアに登る途中の踊り場まで来た舞は、階段の上から木刀を構え、落下速度も利用して、復活した魔物?を始末しようとした。
「…祐一、邪魔、そいつ殺せない」
 木刀を持っていても、屋内なので大振りができず「ガトツゼロスタイル」で魔物(栞)打ち込んだ。
「はあっ!」
「アーーッ!」
 今回も無詠唱で、返し技に「フタエノキワミ」を放たれ、木刀を払われて肋骨を砕くほどの打撃で天井までふっとばされる舞。魔物より強力で不意を突いた「左腕」の一撃が決め手になった。
(…うそ、右手だったはずなのに……)
 ギャグキャラからの攻撃には滅法弱い舞も、ベータフォーと同じく、保健室の住人になった。
(デルタワンの無力化を確認、以後登録を抹消します)

 その頃、祐一の隣の教室では……
「ねー、あんた相沢と登校してて、香里の妹とか名雪まで追い払って、横取りしたって噂よ、目撃者多数なんだから吐きなさい」
「そのまま学校来ないでラブホに消えたって話じゃない、もうヤったの? 何回? どんな体位で?」
 三時間目終了と同時に、クラスの女子に質問攻めにあう真琴(本物)。
「んん~? 何のことかな~?」
 とりあえずジャギのようなセリフでとぼけてみるが、女子全員のkwsk攻撃は鳴り止まなかった。
「kwsk,kwsk,kwsk」
「詳しくっ、詳しくっ、詳しくっ?」
「クワシクッ、クワシクッ、ク、ワ、シ、クッ」
 頃合いと見た真琴は、自分こそが「奇跡の恋シーズン3」のヒロインであることを公表するため、術を使って周囲の洗脳を始めた。
『私が香里や妹ちゃんと同じ病気なのは前にも言ったでしょ? だから私も相沢くんに治療してもらうことになったのよ』
「ええ、知ってるわ、あんたも奇跡の恋なのね? そうなんでしょ?」
 そんな話は初耳だった連中も、まるで病弱な少女を見る目で見守り、kwsk攻撃が中断した。
『それでね、エッチする前に話し合ってる内に、相沢くんと小学校の頃から同級生だったのが分かってね、相沢くんも初恋の人が私だったって言うのよ~』
「「「「ええ~~?」」」」
「それって運命じゃない」
 香里のカレシが羨ましくて寝取った訳ではなく、栞や香里より、自分のほうが遥かに先約で、運命の出会いだと主張しておく。
『私だってそんな目で見てもらってたら、気が付いちゃうじゃない? だっていっつも目が合っちゃって、小学生のカワイイ相沢くんが「恋する男の子の目」で見てくるんだもの~』
「「「「オオーーッ」」」」
 ついさっきまで、祐一のことなど完全に忘れていて、告られてからようやく思いだしたにも関わらず、まるで当時から相思相愛だったかのように言い張る真琴(本物)。リボンを巻いて本性を表している間は、香里や栞に匹敵する性根が腐りきった女だった。
『私達って、八年も前から知り合って「お互いが初恋の相手」だったワケじゃない? でもね、そんなの告白できないでしょ、「もし断られちゃったら、どうしよう、今ならただの友達でいられるけど、嫌われたら、もう話もできなくなっちゃう」って思うじゃない?』
「ワカル~~、超ケナゲ~~」
 そんな事は分かるはずもなく、普通は女の子同士で遊ぶのに夢中で、下品で趣味も合わない男になど構っている暇もないのに同意が得られた。
『二人共、告白できないまま小学校は卒業しちゃったのよ、でも、中学に上がる時、両親が離婚して私は母の実家に引っ越し、悲しいお別れの時が来ちゃった訳よ』
「悲恋なのね、どんなお別れだったの?」
 ラブラブアイテムである「小学校の卒業アルバム」を証拠として提出して自分と祐一を指し示し、巻末の寄せ書き欄に先ほど祐一に書かせた「ずっと好きだった、祐一」も見せて、ぎこちない子供同士の恋愛が実らなかったのを公表しておく。
『卒業式で話し合ったの「相沢くん、私、両親の都合で引っ越すことになったの、中学は一緒に行けないね、さようなら、これを私だと思って持っていて」』
 もう自分の席で立ち上がって、目の前に小学生の祐一がいるような演技を始めるが、勿論お別れのプレゼントなどしていない。
『「ありがとう、沢渡さん」あ、これ私の旧姓ね、「きっと大事にするよ、僕のことも忘れないで」見つめ合う目と目、繋ぎあった手と手、やがて二人は引き合う磁石のように…… でも、子供だった私も相沢くんも、キスはできなかったのよ』
「相沢のヤロー、そこは告ってキスだろ、何してんだっ、アイツはっ」
 当時、抱き合ってもいないし、挨拶もせずにお別れになったのに、まるで抱き合ったかのように自分をハグしてキスのように口をとがらす。周囲の女子も盛り上がり、術にも掛かっているので多少の嘘は認められた。
『悲しいお別れだったわ、でも、運命の時は来たのよ。お互い、魂でも呼び合うかのように、五年の歳月を超えて二人は出会ってしまったの、二年生も終わりの一月、彼が転校してきたのよ』
「キャーーッ、すぐ分かったの? 相沢だってわかったんでしょ?」
 そうだと答えると、話の整合性が崩れるが、術を使って洗脳中なので、気にせず続けてみることにした。
『そうよ、すれ違っただけでピンと来たの、背丈も違って逞しくなってたけど、当時の面影そのまま、「初恋の男の子」「運命の恋人」と再開したのよ』
「「「「おおーーーーっ!」」」」
 祐一の名前も顔も、完全に忘れていて、会っても全く気にならなかったにも関わらず、都合が良いように話を変え、自分だけが気付いたように話す。
「でも、相沢は気が付かなかったのか? 酷いやつだな、ふざけんなよ」
『いいの、さっきも言ってくれたわ、「大人びて、背も高くなって気が付かなかった」って』
 どう見ても発育不全で、特に胸部の発達が遅れていて、下手をすれば中学生で通せるのには突っ込まない一同。術に掛かっているので仕方がない。
「お前は気が付いてたのに、相沢は香里の妹とか、香里と……」
 恋仲になったとか、体の関係になったとは言えず、周りの女が絶句すると、真琴(本物)は自然と綺麗な嘘泣きができた。
『あれ、どうしちゃったんだろう、分かってた、分かってたはずなのに、相沢くんはもう妹ちゃんと出会ってて、奇跡の恋の真っ最中だって分かってたのにっ、私のおままごとみたいな初恋じゃなくて、本当の恋をしてるって知ってたのにっ』
「お嬢っ」
 突然泣き出したクラスメイトを気遣い、友人の一人が抱きしめた。
「悲恋なのね、今度も悲恋なのね?」
『うっ、ううっ、ごめん、みんな』
 最近は「奇跡の恋」「奇跡の恋再び」など、恋バナには事欠かなかった一同も、その裏に隠された悲恋に涙した。捏造されたものとは知らずに。
『私、それでも相沢くんが好きだった、でもあの子と幸せそうにしているのを見てられなかった、それが憎しみに変わるのに、そんなに時間は掛からなかったわ』
「よっ、日本一」

 愛憎のドロドロ劇が大好物な連中からも合いの手が入る。その頃には、一階から破壊の限りを尽くしていた栞ロボが、ベータスリー?と祐一を追って三年のフロアまで遡上し、お嬢と付き人のいるクラスに突入して来た。
「お嬢、助けてっ」
「くぁwせdrftgyふじこlp! キシャーーーー!」
 すっかりギャグキャラに落ちぶれ果てた栞。逆上して、あらぬことを叫びながら追撃するお姿は、怒髪天を突いたまま火炎攻撃でも喰らったのか、アフロヘアーになり、制服も少し焦げていた。
「落ち着け、栞、話し合おう、話せば分かる」
 追い詰められたのか、まだ話が通じる相手だとでも思っているのか、愚かにも対話を要求する祐一クン。その相手は氷のブレスを吐き、翼?の動きとともに吹雪が発生し、まるで南極から来たペギラのようにも見えた。
『相沢くん、「それ」、どうしたの?』
 折角の「奇跡の恋シーズン3」放送中に、ペギラの襲来で話の腰をへし折られ、やっとこれから悲恋と愛憎の日々を捏造しながら語り、ついに運命の恋人と結ばれてエロエロな行為の話で盛り上がる所だったのも邪魔されてしまい、怒りも湧いて来たが、先ほど舞の使い魔が抜けたはずの相手が、変わり果てた姿になっているのにも驚かされた。
「さっきより酷くなってるの、あの子も川澄舞も一撃でやられちゃって」
『エ?』
 量産型ザコその1は別として、あれほど強かった舞まで一撃と聞かされて耳を疑ったが、アフロの化物は前より多くの暗闇を引き連れ、氷のブレスなど新しい術を使い、相変わらず何一つ詠唱せず神々の力を行使していた。
『みんなごめんね、「あの子」が来ちゃったや、ちょっとシバいて来るね。ああ、あの特殊効果とかは気にしないで、心象風景の具現化とか、そう見えてるだけだから』
 本妻で婚約者の襲来に盛り上がる教室だが、栞の周囲の特殊効果?は、術によってマジカノのように「ご使用になった皆様の個人的な感想です」の字幕が入って、暗闇に食われている級友とか猛吹雪は、自分たちだけが見えている栞の心象風景だと思えた。
『我は疾風(以下略)』
 廊下で約二名が加速し、バケモンのターゲットである祐一を連れて、比較的迷惑の掛からない屋上方面に退避して行った。

 その後、屋上では空を飛ぶ栞の奇声や多数の爆発音が聞こえたが、四時間目の始業チャイムで正気に戻った化物が教室に撤収したことにより停戦になった。だが昼休みには再び襲来するペギラとの決戦に備え、舞とザコ1の回復を待つことにした。


(あゆちゃん、栞ちゃんが助かってよかったね)
「あの、全然っ、助かったようには見えないんだけど?」
 栞の変り果てた姿を見て、ドン引きしているあゆ。奇跡を使って救った女の子が、ギャグキャラへと落ちぶれ、姉に使うのと同じクソ卑怯な攻撃を恋敵にも使いまくり、暗闇の追加、暗黒二重反転異次元転送用殺戮歯車、氷のブレス、ブリザードを呼んで東京でもマイナス30℃に下げられる、ペギラへと変貌してしまったのを見て、とても「助かった」とは言えない状況なのを悔やむ。
(いいじゃないか、元気な証拠だよ、これでもういじめられる事もないしね)
「うぐぅ」
(それにしても真琴ちゃんか、懐かしいな。きっと不幸にしてあげるね)
 また天使の人形の中から、本体に逆らうように内部から衝撃が走って、外に出ようとする何かの力。天使の人形を組み上げている複雑な力にも、真琴を守ろうと思う力と、破滅させようと思う力があった。
 
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