IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
【第598話】
前書き
原作なう
っても結構はしょってます
朝、昨日丸一日寝ていた俺は空腹に我慢できず、食堂で朝食を摂っていた。
右から左に並べられた様々なおにぎり――の半分が胃の中に入った辺りで食堂が騒がしくなってきた。
何事かとは思うも、腹が減っては戦は出来ぬという事で食事優先の俺に――。
「ヒルトくん! ご一緒してもいいかな!?」
「むぐ?」
トレイを持った数人の女子が相席を希望してきた――他にも席は空いてるが、あまり無下にしても悪いので頷こうとしたその時。
「ちょっと! あたしたちだって其処に行きたかったんだけど!?」
新たなグループが現れ、俺の向かい側の席を指差していた。
その間もおにぎりは減っていく。
「残念、早い者勝ちなのよ」
「誰が決めたのよ! 私達だって食べたいんだから!」
喧騒渦巻く食堂、一触即発の雰囲気を醸し出す二グループを他所に――。
「んじゃ、俺食べ終わったから皆で座って? ごちそうさまでした」
テーブルの上を片付け、女子グループ二組に場所を明け渡すと俺は食堂を後にした。
「もう! あんたたちが邪魔しなきゃヒルトくんと食べれたのに!」
「何よ! この間まで織斑くん織斑くんって言ってたのにもう手のひら返したの!?」
「そっちこそ!!」
龍虎相打つ二組――暫く言い合いを続け、織斑千冬に介入されたのは別の話。
場所は変わり自室へと戻る俺――戻る合間も何故か以前より声を掛けてくれる女子が増えていた。
悪い気はしなかったが、何か変な感じもするのでそそくさと部屋に戻ろうとしたその時。
「あ、ヒルトくん。 もう身体は大丈夫なのかしら?」
「え? 楯無さん」
曲がり角を曲がる前に呼び止められた俺、振り向くといつもの制服姿の楯無さんが柔らかな笑みを浮かべて立っていた。
「あ、あのね。 ヒルトくん、今日って空いてる?」
「ん? 空いてますよ。 体育祭終わったし、後はまったりするぐらいですね」
「そ、そう。 ……じゃあさ、慰労会って訳じゃないけど……お、お姉さんと出掛けない? ほ、ほら、キミ、スゴく頑張ったし……」
視線が泳ぎ、頬を紅潮させた楯無さん。
断る理由もなく、俺は頷くと――。
「よ、良かった。 実はね、ちょっと買い物に行きたかったの」
「成る程。 荷物持ちが欲しかったんですね」
「……ち、違うわよ。 ……き、キミとデート……したかっただけ。 それに……あんなに頑張ったキミを荷物持ちに使えないわよ、バカ……」
また視線を逸らした楯無さん。
手を後ろで組み、落ちつかなさそうに足をプラプラさせていた。
「ん、なら行きましょうか――の前に着替えですね」
「あ、もうこのままいこっ。 じ、邪魔が入っても嫌だから……。 ほらっ、お姉さんと行くわよ!」
半ば強引に腕をとった楯無さんに俺は苦笑しつつ、二人で向かった場所は電車を乗り継いだ先にあったアーケード街だ。
行き交う人々――平日だからかサラリーマンや主婦が目立つ。
「さあ、ヒルトくん。 お買い物しましょう」
「OK。 先に何を見ます?」
そう聞き返す俺――だがその前に楯無さんは俺に手を差し出す。
「ん」
「ん? ……これって、手を繋げって事ですか?」
聞き返すと、赤くなった楯無さんは俺を見ながら意地悪そうに言った。
「あら、ビンタの方が良いかしら?」
勿論本気で言ってる訳じゃない、それを理解しつつ俺は笑顔を見せて手を取り。
「ははっ、ビンタするよりは手を繋ぐ方が良いですよ。 楯な――刀奈の手、好きですから」
突然の刀奈呼びに顔が真っ赤になり、ドキドキ高鳴る鼓動を抑えようと深呼吸した。
繋がれた手――刀奈はその手を引っ張って走り出す。
「ほらほら、行くわよヒルトくんっ!」
「おっと!? いきなり走り出したら危ないですよ」
「あははっ!」
笑顔を見せた刀奈に、俺は空いた手で頬を描くと走り出した。
「ヒルトくん、先ずはショッピングよ! その後はお茶してから――あっ、イヤリングも見たいかな、それからそれから――」
「ははっ、何か忙しくなりそうなスケジュールですね?」
「うふふ、当たり前でしょ? お姉さんとのデートは忙しいわよ!」
楽しそうに笑う刀奈を見て、一昨日の疲れも吹き飛んだ俺はとことん付き合う事に決めた。
最初に入ったのは冬物コートを売っているブティックだった、店内に入るなり刀奈のファッションショーが始まる。
様々なコートを着こなす彼女、俺とは別次元の人間なんだなと思ってしまう。
だけど――そんな彼女は俺と一緒にいる、そんな事実が少し嬉しかった。
「ヒルトくん、これなんてどう?」
そう言って刀奈が着て見せたのは冬着にしては丈の短いファー付きのコートだった。
「ふむ……パッと見だと暖かいか寒いのかよくわからないコートですね」
「うふふ、でも動きやすいのよ? 流石にロシアじゃ着れないけど」
そう告げる刀奈――ロシアはニュースでしか見たことがない俺は聞いてみた。
「ロシアってやっぱり寒いんですか? それとも思った程じゃない感じですか?」
「地域によるわね。 春や夏はけっこう寒さは平気よ?」
「成る程……一度行ってみたいですね」
「え?」
聞き返す刀奈に、俺は再度答えた。
「行ってみたい――というか行きたいです。 機会があれば案内してくれないですか?」
「も、勿論よ。 いつか……必ず、きっと、絶対ね!」
「その時はよろしくお願いします、刀奈」
妙な敬語と入り交じる俺、頭を掻いてると刀奈は不意に声を上げた。
「ヒルトくん、あれ、あれ!」
指差す先にあったのはアミューズメント・スペース――ゲームセンターだった。
「私、あそこに行ってみたい!」
「ゲーセンですか? 良いですよ、行きましょう」
「うん! ――あ、ちょっと待っててね、着替えるから!」
パタパタと試着室に戻る刀奈――一人になると前みたいにまた服を戻せとか言われないか身構えてしまう。
だが特に何もなく、試着を終えた物を刀奈は戻していくと二人揃って店を後にした。
すぐそばの信号が変わるのを待つ俺と刀奈――隣の刀奈を見るたびに、俺と釣り合わない気がしてならなかった。
それほどまで彼女は綺麗なのだ――正直可愛い、勿論他の子も可愛いが――。
信号が変わるや、刀奈は俺の手を取り駆け足で走っていく――店内へと入ると入り口付近はやはりUFOキャッチャーが並んでいた。
「ヒルトくん、お姉さんね、ゾンビ撃ちたい」
「ゾンビ? ……というと、あのガンシューティングですか?」
指差す先にあるのはおぞましいゾンビが描かれたガンシューティングゲームだ、出来ればあれじゃなく別のをいきたいのだが――。
「そうそう! いつも私を怖がらせるゾンビ、撃ち殺すのよ」
「そ、そうっすか……。 一応あそこにISの格闘ゲームあるけど……」
そう言うと刀奈は首を振る。
「お姉さんがやったらずっと連勝よ。 先にゾンビ、ゾンビ!」
「……了解っす」
しぶしぶ付き合う俺――どうやら最新型らしく、無線式のガンコントローラーが四つ刺さっていた。
「じゃあヒルトくん、一緒に始めましょう!」
はしゃぐ刀奈は二挺手に取った――二挺拳銃で行くのだろう。
三人分の小銭を投入――このゲームは最大で四人プレイが可能だ。
一挺手に取り、手のひらでガンスピンする俺に負けじと刀奈は二挺拳銃スタイルでポーズを決めた。
「銃ノ型(ガン・カタ)、魅せてあげる!」
ゲームスタートと同時に現れる夥しい量のゾンビ軍団。
ギャングスタイルで構えた俺はヘッドショットを決めてゾンビを蹴散らす――隣の刀奈はやたら派手な動きの二挺拳銃スタイルで倒していった。
ゲームに必要の無いターンしながら撃ったりしているといつの間にか人目を集めていたらしく――。
「お、おい、あの子すげえぞ」
「一発も当たってないどころか、ゾンビを全く近寄らせない!」
「な、何者なんだ……」
ガンシューティングゲームの周りに集まる群衆――てか平日のゲーセンなのに集まりすぎだろ。
弾切れの度に画面外を撃つ俺に対して、リズムに乗るように刀奈は巧みな二挺拳銃扱いを見せ、周りの目を釘付けにしていた。
最終ステージ――怒濤のゾンビラッシュ、多勢に無勢といった感じで襲い来るゾンビを俺はひたすらヘッドショットで倒していく。
衆人環視の元、いよいよラスボスが現れた。
互いにカバーしあい、弱点に弾丸を撃ち込む俺と刀奈――気付けば俺も刀奈もノーダメージでラスボスを倒した。
「ふふっ、私達二人にかかればこんなものね」
両手でガンスピンを決め、二挺のコントローラーを元にあった場所に収める刀奈。
「てか俺いらなかったっすね」
「あら? ヒルトくん居なきゃ、お姉さんやられてたわよ」
互いにハイタッチする俺と刀奈――俺もガンコントローラーを元に戻す。
「あ、あれ、あの子……見たことがあるような……?」
観衆の一部が刀奈を指差した――ギョッとする刀奈は俺の手を取るや。
「ヒルトくん、あっちに行きましょ!」
「あ、了解です」
刀奈に連れられ、その場を後にする俺と刀奈。
「あっ、思い出した! あの子どっかで見たことがあると思ったら、ほら『ISモデルショット』九月号表紙の更識楯無だ!」
「うわっ、超有名人じゃん。 ……てかさっき、男連れてたよな?」
「くっそー! やっぱ彼氏持ちかよ! 羨ましいぞ、コノヤロー!!」
ヒルト等がいなくなった後の出来事である。
とりあえずあの場を離れた俺と刀奈はプリクラコーナーへと入っていた。
「うふふ、ヒルトくんはどのフレームが良いかしら?」
「フレームは……これなんかどうですか?」
そう言って俺が選んだフレームは犬や猫が入り乱れるファンシーなフレームだった。
刀奈は嫌な顔一つせず、笑顔を見せると。
「ええ、それでいいわよ? それじゃあ――これでよしっと、後は何を書きましょうか」
くるくるとペン回しをする刀奈、何か閃いたのか画面に書き始めた。
画面に書かれた文字はロシア語だった。
《Я тебя люблю》と書かれていて全く読めなかった。
「これでよしっ」
満足そうに頷く刀奈、タッチパネルを操作すると機械音声がシャッターを切りますと喋った。
フレームに入るように刀奈は寄り添ってくる――内心ドキドキしつつ、カウントダウンが始まる。
「ヒルトくん」
「え――んむっ!?」
シャッターを切られる直前に刀奈に呼ばれた俺は顔だけ振り向いた。
そして、塞がれた唇――視界いっぱいに広がる刀奈の顔、柔らかな唇の感触――撮影が終わると同時に刀奈の唇は離された。
「どれどれ……うふふ、ヒルトくんってば顔が真っ赤よ?」
「ちょ、だ、誰だってそうなるでしょ!?」
出てきたシールに映し出されているのは俺と刀奈の口付けをする所だ――不意打ちのキスに俺の目は開き、刀奈は閉じて寄り添う様に身を預けていた。
「うふふ、よく撮れてるわね。 ……はい、ヒルトくん」
そう言って二〇枚綴りのシールを半分渡す刀奈――一応受け取るが、流石にこれはバレたら不味い。
だけど刀奈の嬉しそうな表情を見た俺はまあいいかと思う――そして。
「ヒルトくん、まだまだ一日はこれからよ!」
満面の笑顔で俺の手を取り、ゲーセンを後にした俺たち。
その後も二人でお茶したり、アクセサリーを見たりと振替休日を満喫したのだった。
ページ上へ戻る