IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
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【第584話】
美冬がいち早く抜け、続々と他の面々も走り始めた。
走る度、美冬のダブルフレアスカートは小さく舞うが、美冬は気にしていなかった――それよりも。
「キャプテン! キャプテン!」
肩に乗せた鸚鵡が煩い、しかも肩を移動するものだから気になってしまう。
声援が聞こえる中、美冬が第一関門に到着した。
「さあ、第一関門の跳び箱です! みんな頑張れ!!」
楯無さんの実況が入り込んでくる、第一関門の跳び箱は、今着てる服だと明らかにパンチラしてしまう。
「……どうしよう」
「ドウスル? ドウスル?」
「……そうだ!」
一旦間合いを取る美冬、タンッタンッと小さく跳ねる度、開いた胸元も上下に揺れる。
「……美冬、行きます!」
何を思ったか、跳び箱へ向かって駆け足――そして、跳び箱を飛ぶのだがそれが勢いのある二回宙返りだった。
勢いのついたスカートの裾は、空気抵抗と重力、後は運によって一切パンチラしないという奇跡によって美冬は突破したのだった。
「メガマワッタ! メガマワッタ!」
「我慢しなさい!」
くるくる目を回す鸚鵡にそう言いつつ、美冬が独走する一方、流石に真似が出来ない面々は何とか見えないように跳び箱を跳んだ。
鈴音もチャイナドレスなら美冬の様に飛ぶのだが、サイズが合わないドレスで下手したらずれ落ちる可能性があるため、仕方なく普通に飛ぶ。
その間にもハプニングは続出――セシリアだ。
着ている巫女装束がなかなか似合っている彼女、古来から金髪巫女というのは絵的に映えるものである。
そんな彼女だが、慣れない草履での踏み込みに、袴の裾を思いっきり踏んで跳び箱を跳んだ。
置いていかれる袴、跳ぶセシリア――豊かなお尻とそれを隠すショーツが露になる。
「い、いやあああああっ!!」
セシリアの叫び、予期せぬハプニングにエロオヤジ軍団は――。
「ぬほほっ! 良いですな良いですな!」
「それもあのセシリア・オルコット嬢の予期せぬハプニング!」
「良い視察ですな」
「全くですな、ワハハハハッ」
「………………」
レイアート会長の冷めた眼差しも何のその、興奮する一同は他所に楯無さんも実況には力が入っていた。
「おおっとこれは予期せぬハプニング! セシリアちゃん、早く穿き直さないと!」
慌てて袴を穿き直すセシリア――だが、帯の締め方がわからず、何とか締めるのだがまだ緩いのか、袴を手で抑えなければ落ちそうだった。
ハプニングを他所に、カーテンからやっとシャルは着替え終えた。
ドイツ軍服を着こなすシャル、正直似合っていて窮屈そうに胸を押し込めている。
転入当初のバストサイズは見立てでは八十三、だが現在は八十六と今なお成長を遂げている。
因みにだが、軍服を着るのに遅れたのは岸原理子のせいだ、カーテン内で彼女のちょっかいが無ければ真っ先に着替えを終えていた筈なのに。
走りながら後を追うシャルは軽やかに跳び箱を跳ぶのだった。
一方――ラウラは未だにカーテン・サークル内に居る。
状況を先頭に移す、トップの美冬が平均台でバランスを取りながら進んでいる。
追い付いたエレンも同様に平均台を進むのだが――既に顔が真っ赤に染まり、いち早くゴールに行きたかった。
それも仕方ない、まさか胸元が大胆に開いたミニスカセーターだとは思わなかったからだ。
しかもヒルトが見てるという状況が非常にまずかった。
ハプニングを乗り越えたセシリア、下着が隠せてない箒、ぶかぶかのドレスの鈴音も平均台に突入。
それに遅れてるのは未来と美春、その後ろにシャル、簪という順番だ。
「キャプテン! セマッテル、セマッテル!」
「もう! 煩いってば!」
トップの美冬だが後ろを見ると続々と平均台に挑戦していた。
平均台の長さはあろうことか十メートル、長すぎるそれをバランス取りながら進む美冬。
だがここで驚異の追い上げを見せるのがシャルだ。
「皆、お先に!」
軽やかな足取りとバランスで平均台を渡るシャル、ここで一位になれば確実に優勝だからだ。
そしてもう一人――脱げる心配のない簪も追い付く。
「私も、先に……」
衣装による圧倒的アドバンテージ、だがコスプレにしてはいまいち萌えない為そういう意味ではアウト。
シャルに抜かれたのはいざ知らず、簪にも抜かれたとなっては箒、セシリア、鈴音の三人は憤ってしまう。
「くっ、このままでは負けてしまう!」
「し、仕方がありませんわね!」
「虎穴に入らずんば虎児を得ず、ってね!」
衣装の乱れを気にせず、平均台へと進む三人に遅れること未来と美春。
未来は羞恥心で本来の力を発揮できず、美春は羞恥心は大丈夫だが微妙に着心地の悪さで実力を発揮できない。
「お、遅れてるけど……は、恥ずかしい……!」
「何か動きにくいなー、可愛いのに……」
そんな二人も平均台へと移動――そして最後尾、ラウラは――。
「フフフフフ……。 ハハハハハ!!」
カーテン・サークル内から飛び出したラウラだが、身に纏う黒い装甲――シュヴァルツェア・レーゲンを纏い、跳び箱を吹き飛ばして突き進む。
ラウラが着ているピンクのビキニアーマー――着た当初は良かったものの、ヒルトに見られるという羞恥心に今まで出られなかったのだ。
既に冷静な考えが出来ないラウラ、ISを纏ったのもその為だ。
「ハハハハハ! ISを使えばこの程度の障害など!」
突風と共に突き進むラウラ――平均台へと差し掛かったその時、ホイッスルが鳴り響く。
「はい、ラウラちゃん失格~」
実況席から何処からともなく取り出されたレッドカード――突然の事態に止まる一同。
わなわなと震えるラウラ――感情は抑えきれない。
「ふ、ふ、ふざけるなぁぁぁ! こんな格好までして失格だと!? ヒルトと教官達、ママ以外の全員吹き飛ばしてくれる!!」
ここでいう教官は織斑先生と親父、ママは母さんの事だろう。
頭を押さえる織斑先生、親父はあちゃあっといった様な表情を浮かべ、母さんは口許に手を当てて微笑んでいた。
重い音を立て、リボルバーキャノンが平均台へと狙いを定めていた。
「ラウラ、止せ!」
「と、止めるなヒルト! 皆の記憶を消さねば私は――私は……消えろおおおおおッ!!」
叫びが学園全体を木霊した、俺がISを展開するよりも先に発砲音が鳴り響く。
放たれる前にリボルバーキャノンが狙撃される。
「なっ!?」
「ダメですよー、ボーデヴィッヒさん。 ルールは守りましょう」
暢気な口調と共に部分展開でライフルを構える山田先生。
……ラファール・リヴァイヴ、確か前の騎馬戦で全機使用されてて、今まだ調整中だった気がするが。
考えを他所に、ラウラは――。
「ば、馬鹿なぁぁぁぁぁっ!!」
断末魔を残し、リボルバーキャノンの砲弾の爆発に呑まれたラウラ――そのまま競技は中止となり、勝者はなしとなった。
「オワリヨケレバスベテヨシ!」
「こらっ! 君は大人しくしてなさい!」
「タスケテー、タスケテー!」
美冬の肩に乗っていた鸚鵡も、役目を終えたからか大空高く羽ばたき、自由の身となった。
縁があれば、いつか戻ってくるだろう……多分。
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