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WHITE ALBUM 2 another story ~もう一つのWHITE ALBUM~

作者:冬馬 凪
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【2話】どうして??
  どうして??[前]

 
前書き
~登場人物紹介~

*アフターストーリーの内容を踏まえずに書いています。なので公式と多少食い違うところがございますので、ご理解の方よろしくお願いします。
(coda終わった後のお話です)


山村 深夜(やまむら しんや)

 大学三年生
元天才ピアニスト。昔ピアノをやってて、あるコンテストに出場したとき一人の天才少女に出会い、彼女の演奏を聞いた彼は自分との実力の差に絶望し、ピアノをやめる。
そして2年前の天才少女の出したCDのファイナルナンバーを恋愛に聞かされて、またピアノを弾き始めた。


椎名 恋愛(しいな れいあ)

大学三年生
 歌手を目指し、駅前で路上ライブをしているところを深夜と出会った。


菜畑 心(なばたけ こころ)

大学三年生
 恋愛の幼馴染で、深夜の同級生。
あることがきっかけで男が嫌いになる。(父や弟は大丈夫)


北原 春希(きたはら はるき)

 開桜社に勤める編集者。仕事も順調であるが編集長にコキ使われる。


北原 雪菜(きたはら せつな)
 
 春希の妻で、ナイツレコード広報担当。たまにライブハウスで歌っているらしい。

冬馬 かずさ(とうま かずさ)

 天才ピアニスト。しばらくウィーンを活動の拠点に置いていたが近々日本に帰ってくるらしい。
 

 
時間を少し遡って1時間前


「深夜くんと心は知り合いだったの??」

「私とこいつは大学の同級生だよ」

バイト先の先輩などは恥ずかしいのか言わなかった。

「ああ、さすがにびっくりした」

「そっか・・・・」

彼女は少し黙りこんだが、そのあと再び口を開く

「運命的だね。そうだよこれは運命だよ!!」

彼女は納得したように頷いている。

「いきなりで悪いんだけど、深夜くん、心、私たちでバンド組まない??」

ん??俺は何故この結論に至ったか全く見当がつかなかった。

「私は別にいいけど、こいつが楽器なんて弾けるのか??」

「おいちょっとまて、なんで俺が弾けないことになってるんだよ?」

「弾けるのか?」

あいつは真剣な眼差しでこちらを見る。

「多少はな」

もう弾いてない。あれは何年前だろうか。いやはっきり覚えている。あれは。





中学に上がる一年前の小学6年生頃。俺はまだ東京に住んでいた。これでも良いところの坊ちゃんで生まれた俺は小さい頃から母親が元プロの音楽家だったこともあって、ピアノを習ってた。最初は楽しかったかどうかなんてわからなかったが母親が褒めてくれるそれが嬉しかったということだけは今でも覚えている。小学2年生から初めて、小学4年生に俺はその才を発揮した。なんとなく母親の勧めで出たコンクール小学生の部で優勝したのだった。あとあと気づいたのはそのコンクールは決してレベルの低いものではなかったということだった。それからというものの俺は天才という称号をもらい、周りからちやほやされる、そんな状況が小学生の俺には心地よかったのだろう。だがこの時点で俺は少なくともピアノを弾くという行為には全く楽しみを感じなかった、ただ周りから褒められるということにのみ楽しみを抱いていた。
そして俺に転機が来た。たまたま母親の知り合いに招待されて、ある天才ピアニスト冬馬かずさのピアノというものを聴きに行った。俺はたぶんこう思ったのだろう。自分以外に初めて出会った天才とは一体どんな奴なのかと。今思えば年も違えばその分経験も練習量も違うのだから上手いはずなのだ。だがその時の俺はただ負けたとしか思わなかった。その小さい頭で今までの自分を振り返った。

ちゃんと練習してきたか。ーいやそこまで本気でしていなかった。
ピアノを好きか。ー別に好きでもない。
なぜ引くのか。ーただ褒められたかっただけだった。

俺のピアノはこれだけで収まってしまうほどのものでしかなかったのだ。
その後も俺は真剣に彼女のピアノを聴き続けた。聴いていてすごく伝わる。音の一つ一つが彼女の心、気持ちのように彼女のすべてピアノに籠っていたのだ。
その時、素直にこの天才には勝てないと思った。
そして、ぽつりと言葉が漏れた。

「母さん、俺ピアノやめるよ」

それ以来、母は俺のすることに一切、口を出すことはなくなった。もちろん母からのレッスンもやめた。だが高校まではたまにピアノの前に立ち、あの時の天才に今ならなれるのではという幻想を抱きそのたびになれないことに失望し、大学に入ってからはつい1か月前まで弾いてなかった。と言ってもたまたま時間があり、立ち寄った楽器屋においてあるキーボードを軽くいじったぐらいでしかない。

やめていた音楽にまた向き合おうと思ったのはあの時に心が動かされたんだあの歌声に。







「心知らないでしょー??深夜くんピアノ上手いんだよ!!」

「えー??こいつが??」

ん??なんでだ??レイどころか誰にも披露したことはないぞ??

「ちょっと待て、俺は誰にも弾いたところを見せた覚えはないぞ」

「だって、こっそり見てたから」

俺は驚きで言葉を失った。見られてたのか・・・急に恥ずかしくなった。

「なら話しかけてくれればよかったのに」

「だって、せっかく上手に弾いているのにあなたはなぜか寂しそうというか辛そうな顔をしていたの」

そうなのか。自分では意識がない分、そう受け取るしかない。でもなんとなくだが理由は分かっている。弾いてるときにあの天才の影がちらつくのだろう。
一音、一音弾くごとに、自分の演奏と天才少女の演奏をテストの自分の解答と模範解答を比較するように、演奏も照らし合わせてしまっているのだろう。
あの時から俺は見えない敵と戦っていたのかもしれない。
そしてその戦いに負けたからピアノを遠ざけた。
だけど、一人の少女が教えてくれた音楽の素晴らしさを。
だからこそ彼女を信じて、俺に手を差し伸べてくれるなら。
俺は息を整えて言う。

「わかった。本気でプロを目指してもいい。ただし条件がある。俺が納得のいく演奏を二人が見せてくれ」

彼女は驚きのあまり立ち上がり周りの客の目を引いた。俺と心は手で座るように合図した。すると彼女は恥ずかしそうにして、ささっと座った。

「え??本当に目指してくれるの??」

「嘘でなければ目指すさ」

「どうして??就職とか、あなたのこれからを犠牲にするかもしれないいんだよ??」

「ああ、かまわない。特にやりたいこともなかったし。」

どうしてって・・・??だって俺は君に救われたんだ。

「そ、そっか・・・!!やったね心!!」

「私はまだやるとは言ってないけど」

「え・・・やらないの・・・・??」

レイが悲しそうに心を見つめると、彼女はため息をつき、少し悩んだ後返事を返した。

「お父さんとお母さんに聞いてからじゃないとな・・・」

「じゃあまだ望みはあるね!!」

心は再びため息をついた。

「そういえば深夜くんいつにすればいいかな??」

「そうだな・・・2週間までなら待つ。その次の日が俺のいちおう志望する会社のエントリー最終日だからな」

「わかった!!何演奏しようか悩むね心~!!」

「私は別に・・・」

「あともう一つ条件があって・・・・」

そのあとさらに1時間雑談し続けた。







俺はその次の週の木曜日に来週の火曜日に弓場町の楽器屋のスタジオに集合することとなった。

俺は着くなり店員に椎名恋愛の名前で登録されたスタジオを案内してもらい、分厚い二重のドアを開けた。

すると、準備万端の様子で俺は待っていた2人がいた。俺が入って来て椅子に座ると恋愛こと歌手レイがマイクを持っていつものように話しだした。


「今日は私たちのライブに来てくれてありがとうございました。あなただけのレイとココロのツーピースバンド30分だけですがお付き合いくださいね♪」

なぜこのような提案をしたのか。それは最後にもう一度確かめたかった。
彼女が今度は俺をあの影から助けてくれるのではないかと。
そして、もう一度自分の音楽と向き合うために必要だった。
本当に進んでいいのかと。後戻りはできない道を。

「では聞いてください。sound of destiny」

俺が拍手をすると同時に歌が始まった。

〈愛という 形ないもの とらわれている
心臓が止まるような恋が あること知ってる〉

出だしは完璧であった。二人とも息もぴったりでテンポもずれることはなかった。
特に意外だったのが、心のベースが上手かったことであった。明らか二週間で仕上げたというレベルではなく、ミスの1つもしない正確さがあった。きっと彼女も音楽を今までやってきたのだろう。
俺は精練された演奏に瞬きをすることなく、視覚、聴覚にすべての神経を注ぎ込んで演奏を聞いた。


〈星の奏でるメロディーに乗せて、歌いながら
行こう、いつまでも〉

あっという間に一曲目も終わりを迎えようとしていた。そう思っているうちにシンセサイザーの打ち込みも最後の音を打ち出し、残るのは・・・・。

恋愛はマイクから手を離し、その手はギターへと伸ばしていた。

sound of destinyの醍醐味とも言える最後のギターソロによる短音早弾き。

彼女はその最初の一音に手をつけた。歪んだ最初の一音から繰り出される単音の早弾き。白く細い指から伝わる音、高速で弦と弦を跨いでいく。いつもはアコースティックギターのせいもあって、かっこよく見える彼女の弾きに俺は釘付けだった。
そして、彼女も俺の期待に応えるようにミスをすることなく最後の一音まで弾いてみせた。


「ありがとうございました〜」

俺はタイミングを見計らいすかさず拍手をする。

「2人とも上手いな。レイはもちろんだけど、心も思っていた以上に」

「恋愛にギターを教えたのは私だからな。まあ師匠はとっくに超えられたが」

「そうかな・・・へへ//」

彼女は頬をつり上げ、嬉しそうにしているのが目に見えた。

「なるほど・・・他にも楽器はいくつか弾けるのか??」

「まあな家にあるのならある程度、一通り弄ったかな??」

「お前の家、スタジオとかありそうだな・・」

「よくわかったな。父さんが趣味で建てたんだよ」

「心の家はかなりのお金持ちなんだよ!凄いんだ~家にテレビが何台もあってさぁ・・・」

レイは心の事を楽しそうに話す。

「私の話はもういいだろ!時間限られてるんだから次いくよ」

「はーい」

そんな彼女の冷たい態度に俺は苦笑いして、彼女たちの準備の様子を眺めた。




準備を一通り終えると、ヴォーカルはマイクを持つ。そして一呼吸を置く。

「それでは、短い時間でしたがお聴きになっていただいてありがとうございました。次が最後の曲です。深夜くんが私たちの演奏を聴いてくれてとりあえず嬉しいです。それであなたがバンドメンバーになるかどうかはわからないけど、これが私なりのあなたへの恩返しです。私を見つけてくれてありがとう。心は何か言うことある??」

「ない」

たははと彼女は笑う

「じゃあ、最後の曲は深夜くんのリクエストの曲・・・・時の魔法。」

時の魔法。作曲冬馬かずさによる爆発的に広まった一曲。当時ピアニストによるCDと思えないほどの売り上げを出したことで業界を震撼させた。
その後、さまざまな音楽番組でも数々取り上げられ、その熱はWHITE ALBUMに引けを取らないものだった。
だが俺はこの曲を聴くことを避けた続けた。
彼女のピアノに再び心が折られるのを恐れた。
失くしかけた音楽への気持ちを失いたくないから。
だけどそれは逃避でしかない音楽と向かい合うには乗り越えなくてはいけない、正々堂々と打ち勝たなくてはいけないあのイメージを。
冬馬かずさに劣るというイメージを壊さなくては前へ進めない。必ず音楽をやっていく上で足枷となる。

「始める前に一つ聞いていいかな?なんで時の魔法なの・・??しかもピアノ音源は原曲のままがいいって」

「なら、少し話そうか」

もう一人で抱え込む必要はない、だって俺はもう一人じゃないから。

それから話した、冬馬かずさの演奏を聴いたこと、ピアノからやめたこと、ピアノに戻ろうとしても頭が無意識に彼女のピアノと比較してしまうこと、それからレイの歌声で救われたこと。
なるべく、手短に必要最小限の情報で話した。

「そっか・・そんなことがあったんだね・・・」

「もう時間ないよ恋愛」

一人は自分のことのように落ち込み、一人は同情さえしなかった。

「そうだね・・・でも私があなたの心を癒せるなら、私は何度でも手を差し伸べるよ」

私たち(・・・)だ」

「そうだね心!きっと今のあなたにピッタリな歌だと思います。では聞いてください・・・時の魔法」


携帯電話から流れるピアノの音は本物のピアノと違い、かなり聞き取りずらいものであった。

だが原曲のピアノ伴奏、冬馬かずさがひいたものには変わりはない。

だが印象はあの時とは全く違った。少し丸くなったそんな感じはした。


〈人は苦しみも微笑みも つないでゆける〉

彼女の言葉とともに、自分の中で霧が徐々に晴れていくような感覚だった。




〈きっと叶うよ 願いは目を閉じて 時の魔法を 叶えよう〉

今まで溜め込んできた音楽への思い、込み上げてくるものを抑えきれなくなりそうになる。


〈ゼロからonce again 〉

いつの間にか、俺の頬には目から何滴もの雫が零れ落ちていた。

〈ゼロからonce again〉

俺もここから始まるんだ・・・ゼロからもう一度やり直すんだ

人前で泣いているなんて恥ずかしい、みっともないと思われるかもしれないけど
今ならいいよな・・・。

俺はあふれ出る涙を一滴も拭き取ることはしなかった。


曲の終了と同時に俺は拭き取っていなかった涙を手で払い、その手で拍手をした。

「い、い曲でした。素敵な演奏でした。俺の要望を聞いてくれてありがとうございました。」

まだ涙ぐむのを止めることはできなかった。


「こちらこそ最後まで聴いてくださって、ありがとうございました。今をもちまして、深夜くん勧誘ライブを終わりたいと思います!では最後となりましたが、返事を聞かせてください。改めまして、深夜くん私たちのバンドに入ってくれませんか??」

「ぐすん、こちらこそよろしく、レイ、心」

震え交じりの声で二人に話した。



それから駅に向かう途中、俺たちはこれからについて話し合った。

「一回、各親たちに報告しなくちゃな・・」

「私の所は大丈夫だけど」

「俺は母親が東京だから、そっとまで行かないといけないな」

「御宿でライブとか・・」

心はぼそっとつぶやいた

「あのー」

「いいな。派手にやれば目立つし!」

「あそこ厳しいんじゃないの??」

「あのー!」

話に入ってこなかったもう一人の女の子がついに割って入ってきた

「盛り上げっているとこ申し訳ないんだけど、私まだ親に話せてないの・・・」

『えええええええええええええええ!!!!!!!』

二人揃って声を上げて驚いてしまった。

通行人たちの視線が集まって痛い。

「お願い・・!!私の父親を説得に協力して!!」

それは衝撃の告白であった。








とある空港


一人の黒髪の女性が到着ロビーに姿を現した。
すると俺の隣にいた妻はその女性の元へと駆け寄った。

「かずさぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

妻は黒髪の女性と抱き合っていた。

「ただいま雪菜」

俺と目が合った。

「ただいま」

俺は微笑んで、返事をした

「おかえり、かずさ」



どうして??[前]  (終)

 
 

 
後書き
お久しぶりです。冬馬凪です。

宣言通り雪解けの季節に更新となりました。原作周回皆様されましたか??僕は友人にソフトを貸したので
出来ませんでしたw

前回の更新からWA2の関連でもいろいろありましたね。

C91でかずさセットの販売やら麻里さん生誕祭、雪菜生誕祭となかなか充実したのではないのでしょうか。
かずさが歌う届かない恋はセコイですよね。泣いちゃいました。音楽って感動される力があると僕は信じています。

というわけで、以後ネタバレ




今回は主人公の深夜くんの過去にまつわる話でした。
このSSを作るにあたってひとつコンセプトがありまして、春希、かずさ、雪菜の影響によって良くも悪くも人生を変えられた人たちの物語なのです。
かずさは深夜くんに影響をあたえ、雪菜は恋愛ちゃんに影響を与えました、くしくもすべてがいい影響とは言えませんが、あの三人がもたらしたものはすべて無駄ではなかったということをどうしても書きたかったのです。
(この話したかもしれませんねw)
かずさは結果的に深夜くんを二人の少女に出会わせる役目をになった。と解釈してくれるのが一番いいかもしれません。
運命をいかに本当に運命的だったと思わせるのがうますぎるんですよWA2は。

さあ、話を戻して、とりあえずバンド加入ばんざーい!
と思ったらまさかの障害!彼らはどう説得するのか!御宿ライブは!?
次回は彼らの運命の分かれ道になると思います。

そしてついに彼女が日本に舞い戻ってきましたね。
今後に注目です!

どうして??[後]をよろしくお願いします!!


最後に、TWITTERのほうでアンケートを実施させていただきます。ぜひご協力ください。
@kirasinonlove

P.S. 2月14日に雪菜SSを投稿しました。こっちとは関係なく読める短編です。ぜひご覧ください

今後もよろしくお願いいたします。

冬馬凪

 
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