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IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》

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【第593話】

 
前書き
ちょい長いっす 

 
 三十分の休憩時間はヒルトにとって願ったり叶ったりだった。

 推進剤の補給だけは済ませ、備え付けのベンチで横になり、疲労回復していた。

 一方で有坂陽人は悩んでいた。


「増援……言ってはみたがやっぱ無理かな」


 一人ごちる有坂陽人、理由として貸し出し可能な機体は全て調整中になっている。

 それもISを用いた騎馬戦の弊害だった、機体さえあれば一組の誰かにいえば手を貸してくれたかもしれないが。

 陽人自身がヒルトの増援という事も考えたが、ヒルトの代表候補生選出問題に親が介入していいとも思えなかった。

 悩む陽人は自然と妻である真理亜の元へ向かっていた。

 レイアート会長の警護は今だけ織斑千冬が担当してる為、自由に動けた。


「真理亜」

「あらぁ? ……うふふ、あなた、警護は良いのかしらぁ?」

「ん……まあ大丈夫だ。 それよりもだ」


 整備室を訪れた陽人を出迎えた真理亜、事の経緯を説明し――。


「――って訳なんだ。 ……最悪俺がとも思ったが、それは流石にヒルトの為にならない気がしてな」

「うふふ。 あなたが改良された黒夜叉に乗って出たら勝負にならないわよぉ。 出力にリミッターをかけてた今までと違って限界出力で戦えますもの。 ……だからこそ、PPSは世界に発表してはダメなのよぉ」


 世界のバランスが変わる、男も使えるパワードスーツが開発され、それもISと互角、或いはそれ以上の能力があると知れば世界は黙っていない。

 今でこそ黒夜叉はISと認識されてるが……ISコアを用いず、永久機関となるエネルギー・コア結晶体を用いているが故に、技術流出だけは避ける為、全て有坂真理亜の脳内で記憶し、設計図等は焼却処分していた。


「まあその話は置いておくとして……。 うふふ、ヒルトの力になれる子、居るわよぉ?」

「おっ? 居るっていう辺り、真理亜はこの事態を想定してたのか?」


 陽人の問いに否定する真理亜――。


「いいえ。 元々は模擬戦に介入させようと思っていたのよぉ? ……世界初、【可変支援IS型パッケージ《イザナミ》】。 ……うふふ、イザナギ専用パッケージ、オートクチュールといった所かしらぁ♪」


 やっと形になって嬉しかったのか、笑顔を見せる真理亜。


「ん? 最近母さん毎日遅くまでやってると思ったら、そんな物を作ってたんだな」


 整備室を見回す陽人だが、それっぽいISが全く見当たらなかった。

 悪戯っぽく笑みを浮かべ、陽人の手を取り隣の部屋へと誘う。

 其処にはカタパルトに接続された小型飛行機があった。

 だがそのサイズは小さく、ちょうどISを一回り小さくしたような飛行機だった。


「……真理亜、これがISか?」

「えぇ。 可変型で今は変形してるのよぉ」

「変形? はぁぁ……変形したら、人は乗れねぇよな?」

「えぇ、だから予め無人機として設計したの。 可変型なのはあくまでも支援及びイザナギの強化って所かしらぁ」


 そう言ってイザナミに触れる真理亜――。


「この子なら、ヒルトの助けになるわよ。 うふふ……♪」


 一応問題は解決したといえるが、後はどれだけヒルトが身体を休められるかが問題だった。

 陽人と真理亜のやり取りの最中、ヒルトの前に現れた反対派のオーランド。


「やあやあ有坂ヒルト君、中々いい試合してるじゃないか。 まさか落ちこぼれと言われた君がここまで勝つとは思わなかったよ」


 身体を休めている最中に現れたオーランド、重い身体を起こしたヒルトは――。


「……どうも」

「ほほぅ……それが目上の者に対する挨拶かね? まあ良いだろう、私は寛大だからね。 寛大な精神で君の無礼を全て許そうではないか」


 自分に酔しれてるのかオーバーアクション気味に身振り手振りし、そう喋るオーランド。

 正直身体を休めたいヒルトには鬱陶しいだけだった。


「それよりもだ。 我々の厚意で三十分も休憩を貰えたのだ、何か言うことはないかね?」


 まるで自分のおかげと謂わんばかりに言うオーランド、正直めんどくさいヒルトは。


「アリガトウゴザイマス、キュウケイデキタノハスベテアナタサマノオカゲデス」


 心のこもらない棒読みに、こめかみをひくつかせたオーランド。


「……ふん、所詮は落ちこぼれだな! 有坂ヒルト、君に良いことを教えてやろう。 次の試合には二人、相手してもらうことが決まった」

「……二人」


 つまり二対一という不利な状況で戦わなければいけないという事だ。

 だが――今はとにかく休みたかったヒルトは。


「……用件が終わったなら出ていってくれないか?」

「……!! き、貴様ーッ!」


 握りこぶしを作り、殴ろうとするオーランド――だが。


「オーランド! 何をしているのです!」

「……! か、会長……、こ、これはその――そう! 有坂ヒルト君に対しての激励ですよ! ハッハッハッハッ!」


 笑って誤魔化そうとするオーランド、レイアートは怪訝な表情を浮かべた。


「私には彼を殴ろうとしている様に見えたのですが?」

「とんでもない! 私などが彼を殴ろう等と、畏れ多い。 それでは私はこれで」


 そそくさと立ち去るオーランド、レイアートは溜め息を吐くと。


「ごめんなさい、有坂君。 身体を休めてる最中だったのに邪魔しちゃったわね」

「いえ、大丈夫ですよ」


 そう告げるヒルトに、申し訳なく眉根を下げたレイアート。


「六連戦お疲れ様。 ……有坂君、最初に言った条件の半分過ぎました。 正直、君がそこまで戦えるとは思っていませんでした。 代表候補生の一人か二人、勝てばいい方だと思っていましたので」


 実際の所、代表候補生選出の条件はここまで厳しくない。

 とはいえ、高い目標を出されて何処までいけるか、どれだけ実力を見せられるか――だが少なくともこの学園にいる教員生徒に関してはヒルトの評価は上がったのが確実だった。


「……勝てたのは運もありますよ、ギリギリの戦いもありましたし」

「ええ、でも貴方は勝ちました」


 レイアートは柔らかな笑みを浮かべ、ヒルトに告げ、更に言葉を紡ぐ。


「今日の試合を一度委員会議員に見てもらおうと思ってます。 篠ノ之箒さんに勝利した事で反対する者も少ないでしょう。 ……後の試合は君自身、何処までいけるかの腕試しだと思って頑張ってください。 ……では、失礼するわね?」


 そう言って立ち去ったレイアートを見送るヒルト、時計を確認するとそろそろ休憩時間が終わろうとしていた。


「……腕試しか。 ……だけど、条件は専用機持ち全員に勝つこと」


 栄養ドリンクを飲みほしたヒルト――疲れた身体に今一度力が戻ってくるのを感じた。


『これより、第七戦目を開始致します。 なお、この試合は有坂君には二人相手をしてもらいますのでご了承くださいますよう、お願いします』


 ――二対一、正直勝てる見込みはないかもしれないが、弱音を吐いても意味はない。

 力が戻った身体を起こし、イザナギを身に纏ったヒルトは改めて立ち位置へと飛んでいった。

 そして、待ち構えていたのは美冬と美春の二人の妹――。


「お兄ちゃん……ごめんね。 ……本当は二対一で戦いたくないけど――」

「戦わないと、ヒルトを代表候補生にしないってあのおじさんが言ってた! ……むぅ、人間悪いやつも多すぎッ!!」


 憤る美春――二人の機体にはそれぞれパッケージが装着されていて、美冬はIS用強化外骨格【クサナギ】――明らかな巨体は威圧感を放っている。

 一方の美春の村雲・弐式『森羅』、高機動展開パッケージ【ナルカミ】を装着している。

 あれは外付け用の展開装甲――機能特化型の一つだ。

 正直、二対一でも厳しいのにパッケージまで――そう思っていると母さんからのオープン・チャネル通信が開いた。


『ヒルト。 今から貴方を援護する機体を出撃させるわよぉ? 教職員、列びに生徒の皆様、決して慌てないでねぇ♪』


 通信が切れると同時に、学園整備室から出撃したのは――小型の飛行機だった、フライヤー・ユニットよりも大型ではあるがISよりは一回り小さい印象だ。


「あれって、飛行機……よね?」

「ヒルト君を援護って言ってたけど……ママ先生、飛行機で援護させるの?」

「無理無理! 流石にあんな小型機じゃ、無理よ! それに、飛行機じゃISには敵わないんだし!」


 全く敵わないわけではないが、相手にならないのは事実だった。

 弧を描き、飛翔する小型飛行機――だがそれは、誰もが予想しえなかった行動を起こした。

 太陽を背に、小型飛行機は一瞬にして【人型】へと可変したのだ、背中の可変翼を畳み、バイザー・アイに光が点る。

 唖然とする一同――ヒルトも変形する機体等初めて見たため、目を見開いていた――そんな所に、変形した機体――登録名称【イザナミ】からのチャネル通信が届いた。

 明らかに人など乗れない機体からのチャネル通信――開くとヒルトにとっては久しぶりに聞く彼女の声が聞こえてきた。


『主君! 久しぶりなのだ! わ、私だ、覚えているかッ!?』


 忘れようがなかった――イザナギに乗る前まで乗っていた打鉄……そのコアである『雅』の声だ。


『ああ、覚えてるぞ。 ……雅』

『……! 良かった! ……主君、ただいま!』


 そう言い、変形した機体【イザナミ】はヒルトの隣に並び立つ。

 だが、並んだのも一瞬で更にイザナミはその場で全身が分離――各パーツがイザナギに装着されていった。

 ハイパーセンサーに表示されるパッケージ名【イザナミ】――と。


『お、お待たせ致しました。 し、少々色々な事が起きて困惑していますが。 ……今から試合を開始します!』


 その言葉でシグナルに明かりが点る――装着されたイザナミ、そのコアである雅が語りかけてきた。


『主君、以前と同様、不束者ではありますがよろしく頼みます』

『ああ、頼――』


 そう返事をしようとする俺に割り込んだのはイザナギのコアであるナギだった。


『マスター!(`ヘ´) 浮気なのですょぉ!(`o´) ナギちゃんだけのマスターだと思っていたのに(`ε´)』


 割り込んだナギはご機嫌斜めだった、浮気発言で雅は憤ったのか――。


『な、何をいうか! 元々主君は私の主君だ! 浮気も何も、元々私が本妻というものだ!』


 等と本妻宣言、勿論これにはすぐ反論するナギ。


『本妻はナギちゃんなのですよぉ!(*`θ´*) むうぅ!(`ヘ´)』

『ぐぬぬぬぬっ!』


 言い争うコア達に、俺も疲れが飛んだのか――。


『いい加減にしろ! 誰が本妻とか、んなこと言っても仕方ないだろ! 二人とも、今は俺に力を貸してくれ!』

『ハッΣ(゚ロ゚) そ、そうなのですよぉ(゚ロ゚) 試合が始まるのですよぉ、言い争いしてもマスターが困るだけなのですよぉ( >Д<)』

『む……そ、そうであった。 ……主君、サポートは私とナギに任せてくれ。 主君の掛かる負担、必ず私たちが減らそう』


 言い争いが終わり安堵する俺――更にシグナルが点灯。


「むぅ……本妻って言うなら美春が本妻なのに……」


 コア・ネットワーク・リンクして聞いていたらしく、美春は不機嫌そのものだった。

 一方の美冬は何があったのかわからず、頭を傾げていた。

 そして――三つ目のシグナルが点灯、妹二人との戦いが始まった。


「行くよ、ヒルト! ――【形態変更(フォルム・チェンジ)】! 《草薙》で行くんだからッ!!」


 目映い光と共に機体が形態変更されていく――一方の美冬は強化外骨格の拳を突き出し、手のひらを開放。


「先手、貰うよ!」


 甲高い高周波が響き渡ったその刹那、圧縮された高粒子ビームが放たれる。

 速さの劣る粒子ビーム、イザナミで強化された機動性で容易く避けるヒルトだが――。


「ヒルト! そこに行くのは見えてたよ!」

「……!?」


 回避先を読んでいた美春が待ち構えていた、形態変更を終えた村雲・弐式はスリムなハーフスキンタイプに――だが、外付けパッケージ【ナルカミ】がまるで羽織るコートの様になっていた。

 ナルカミの装甲が開くと、圧縮粒子が開放され、爆発的な加速力を乗せて美春は格闘術を叩き込んでくる。


『わわっ(゚ロ゚) 連撃なのですよぉ(>Д< )』

『慌てるなナギ! 主君、ここは私がサポートしよう!』


 雅のサポートが入り、反射的に美春の格闘術を捌いていく。


『むむ(`ε´) ナギちゃんも負けてられないのですよぉ!o(`へ')○☆パンチ!』


 動作反応が軽くなる――捌くだけではなく、隙を見て美春にダメージを与えていく。


「ッ……ナルカミの加速力も加えてるのに!」


 機動性特化のナルカミを用いた格闘術は正直驚異だ、だが今のヒルトは先程まで疲れていた時とは違う上に、イザナミの力で更に機体性能が底上げされている。

 だが――。


「お兄ちゃん! 美冬だって居るんだからねッ!!」


 背後に迫る巨体――圧倒される威圧感、美春は一旦距離をとり、入れ替わるようにヒルトは美冬と交戦した。

 巨体だが、挙動の軽い強化外骨格クサナギは見た目に反して素早く、そして鋭い一撃を与えてくる。

 分離したイザナミの腕部パーツから強化されたハニカム状のエネルギーシールドが形成され、その一撃を阻むと衝撃がイザナギの機体を揺らした。


「わかってるさ! お前を忘れる訳ないだろ!!」

「……! へへッ、いっくよーッ!! オロチィーッ!!」


 ヒルトの不意の言葉に高鳴る美冬、だが戦いは忘れておらずクサナギの腕部に予め装着した【八式・天乃御柱】が射突攻撃を行う。

 その威力は凄まじく、強化されたハニカム状のエネルギーシールドも所々ヒビが入っていた。

 次の一撃が来る前にヒルトは離脱――同じくしてイザナミの腕部パーツが可変――弾幕を張る子機となって周囲に展開した。


『主君、これらの制御は私に任せてほしい。 これならば主君の負担にもならないはずだ』

『わかった。 セシリアみたいな自律機動兵器は俺に制御できないからな』

『むうぅ(`ε´) マスター! ナギちゃんもサポートしまくるのですよぉ!\(`O´θ/キック!』


 イザナギから射出されたイザナミの二基の腕部パーツは、雅の制御下で美春を牽制し始める。

 一方ナギも、ヒルトに掛かる負担を最大限減らす様にイザナギのマニュアル操作する俺をサポートした。


「自律機動兵器? ……でも、美春について来れないよ! ナルカミを着けた美春、負けないもん!」


 全身の外付け展開装甲が開き、粒子片を散らして爆発的加速力で引き離そうとした。


『そうはさせない! 私は主君に誓い、任されたのだ!』


 分離したイザナミのパーツは、追従しながら弾幕を張り続けた――指向性の粒子弾が放たれ、鮮やかな光が黄昏へと落ちていく空に彩りを与えていた。
 一方のヒルト、美冬との機体体格差があるものの、挙動の軽さから逆に翻弄していた。


「ッ……お兄ちゃん速すぎッ! 追いきれない!!」


 空を切る巨腕、腕部天乃御柱から周囲に弾幕を張るようにレーザーを放つも掠る事すらなかった。

 強化外骨格クサナギを攻撃するヒルト――繋ぎ目も補強されているが、そう何度も防げる訳ではなかった。

 繋ぎ目故の脆さ――ピンポイントでその箇所を狙い続けるヒルトの正確な攻撃に、美冬は驚きと共に防ぎきれない自身の未熟さにやりきれない気持ちに――。

 美冬の実力は正直シャルに見劣りしない、同じ第二世代を駆る者、それに――村雲は母である真理亜が初めて作ったISだ。

 負けたくない――そんな気持ちが僅かに村雲のコアに届き、搭乗者の同調率を上げた。

 追いきれなかったヒルトの軌道が少しだが追える様になった美冬――先読みするように巨腕を振るうと、僅かだがイザナギのシールドバリアーを掠めた。


『マスターΣ(゚ロ゚) 掠っただけで一〇〇も削られたのですよぉ(;>Д<)』

『わかってる! 元々クサナギと此方の質量差が違うんだ! 直撃すれば分子結合殻の装甲でももたない!』


 強化外骨格クサナギにも施されてる分子結合殻――対弾性能も防破性能もトップクラスだ。

 それだけじゃなく硬い――硬さはそのまま威力にも直結する、更に巨体故の質量も乗るのだからほとんどの機体はたまったものではなかった。

 回避しつつ、繋ぎ目に攻撃を続けたヒルト――美冬も立ち回り、そうはさせないとヒルトから逃れる。

 そこへ――。


「隙だらけだよ!」

「……ッ!?」

『主君すまない! 抜かれた!』


 イザナミの自律機動兵器を抜き、ヒルトの間合いへと入った美春――。


「美冬はやらせないんだからッ! いっけぇぇぇえええッ!! シャイニング・コアァァァッ!!」


 刹那、掌から無数の白亜の光弾がショットガンの様に散弾。

 シールドバリアーを突破されなかったもののエネルギーは更に減少した。

 だがヒルトにとってはチャンスでもあった――美春が放った隙を逃さず、北落師門の連撃を叩き込み、更にイザナミの自律機動兵器から放たれる指向性光弾の弾幕をもろに浴びた。

 小さく爆ぜる光弾は、銀の福音のソレに似ているとヒルトの思考に過った。


「あうッ! え、エネルギーが……!?」


 ナルカミの常時起動による粒子放出が止み、開いた装甲が閉じていく。

 ナルカミのエネルギーが切れた美春――爆ぜる光弾の直撃を何度も浴び、シールド・エネルギーが大幅に減少した。

 目映い光と共に元の村雲・弐式へと戻る美春――天狼を呼び出し今度は――。


「やられるのも時間の問題なら――一矢報いるんだからッ!! 単一仕様、使うよ!! 【天叢雲剣】!!」


 掲げた天狼の刃が光を放つ、刀身に光刃を纏い、間合いを広めた美春。


「美春! 連携で行くよ!」

「任せてよ!」


 二人の交差攻撃――強化外骨格クサナギの巨腕の一撃、天狼の光刃を交わすヒルト――可変していたイザナミの腕部パーツもイザナギに再度取り付き、避けきれない一撃を守る強固な防壁を張っていた。


「チィッ! 連携が上手いな!!」

「へへッ、そりゃあ美春と一緒に連携訓練してたもん!」

「そう簡単にはいかないからねッ!!」


 二人の一撃は、互いに当たらないよう上手く立ち回り、だけど隙を見せない連携が徐々に俺を追い込む。


『主君! このままでは不味い。 分離して戦う許可を!』

『分離!? イザナミ単体で戦うのか!?』

『無論だ! このまま交差攻撃に手をこまねくよりは分散させる方が主君にもまだ戦いやすくなるはずだ!』

『わかった。 タイミングはそっちに任せたぞ!』

『承知した!』


 刹那の一瞬、舞うように攻撃を避けたその瞬間、イザナギの身に装着されたイザナミ各パーツが一斉に外れ、直ぐ様合体し人型形態に。

 バイザー・アイに光が点ると同時に瞬時加速――クサナギの巨体を揺らす体当たりの一撃を決めた。

 その一撃に取れていた連携が崩れ、美春、美冬と驚きの表情を見せた。

 その一瞬をヒルトは逃がさなかった。


「イザナギィィィッ!!」


 叫びは轟き、学園全体を木霊する。

 声に呼応するイザナギ、コア・クリスタルが目映い光を放つ。

 全身の可変展開装甲が開き、ハイパーセンサーに表示された【限界解放瞬時加速《オーバー・リミット・イグニッションブースト》】をタップ――可変展開装甲から放出された粒子と共に周囲に陽炎が立ち上った。

 次の瞬間、周囲に衝撃波を放ち、爆発的な加速力で美冬に迫った。


『主君!』


 雅の声と共にイザナミは分離――イザナギが加速する中、各パーツはイザナギに装着されていく。

 体勢を崩した美冬の強化外骨格クサナギ――衝撃波が機体を揺らした次の瞬間、多角的機動を描いたヒルトの包囲攻撃を受けた。

 あまりの速さで切り刻まれていくクサナギと共に減少していくシールド・エネルギー――五〇〇あった数字があっという間に〇へ。

 小さく煙を吐き出すクサナギを強制排除した美冬はそのまま戦闘続行不可能となった。

 衝撃はあったものの、美冬に外傷も無ければ内部ダメージもなかった。

 何が起こったか理解する頃には、ヒルトによってシールド・エネルギーを減らされ、戦闘続行不可能な状態になっていた美冬。


「美冬がやられた? ……やっぱヒルトって凄い!! でもね、美春もまだやられてないからね!」


 単一仕様【天叢雲剣】によって光刃を纏った天狼を振るう美春。

 光波となり、斬撃が飛ぶも限界解放瞬時加速中のヒルトに掠りもしなかった。

 刹那、一瞬で間合いへと入ったヒルト――その眼は紅蓮の輝きが宿っていた。

 零距離接近――次の一撃で美春は負けるという直感があった。

 だけど、わざと負けるなんて事は美春は選べない、最後まで全力で戦う――そして、二撃目を振るう。

 残光を残す斬撃は、唐突にヒルトが消えた事によって空を切る結果に――。

 光が屈折し立ち上る陽炎、そして、幻の様に現れては影の様に消えるヒルト。

 ハイパーセンサーでも目視でもヒルトを見つけられない美春。


「【陽炎幻影】……! これが俺の、新たな単一仕様だ!!」


 刹那の一瞬――シールドバリアーを切り裂く一撃が走った。

 揺らめく陽炎――見える幻影から姿を表したヒルトの一撃で、美春のエネルギーは〇へ――同時に試合終了のブザーが鳴り響いた。


「……負けちゃった。 ……単一仕様隠してたなんて」


 ムスッと膨れる美春、後ろからは美冬からも抗議の目が。


「そうだそうだ! お兄ちゃんが単一仕様使えるって知ってたらもっと違ってたのに!」


 そうは言うものの、ヒルトが発現したのはついさっき――それもこの単一仕様はイザナギのではなく【イザナミ】の単一仕様だ。

 打鉄の時の【桜花幻影】に極めて近いものの、限り無く遠い存在ともいえる。


『フフッ。 私と主君の相性は抜群なのでな』

『むぅぅ(`ヘ´) ナギちゃんだって最強最高ラブラブ相性なのですよぉ(`o´)』


 ハイパーセンサー状に繰り広げられる喧嘩にへきへきしつつも、何とか試合が終わったその一方で――。


「オーランドさん! あ、あの落ちこぼれ、また勝っちゃいましたよ!? い、いくらパッケージ装備したからって――」

「煩い! わかっているわ! ……くそ、あの落ちこぼれ……忌々しい……」


 オーランドの筋書き通りに行くならば、今の試合はヒルトの圧倒的敗北だったのだが、見たことがない可変IS型パッケージの登場、二対一という不利な状況を跳ね返す力。

 親指の爪をかじるオーランド――。


「……ならばもう一度二対一で戦わせれば問題ない。 次は流石に無理だろうしな、あの落ちこぼれの幼なじみと時期外れの転入生。 これがダメなら……フッフッフッ」


 視界の先に居る山田真耶の背中を見たオーランドは静かに笑う。

 IS委員会の権限で調べた結果、前日に【一機のIS】が搬入されてる事がわかった。

 ほぼ確実に言える――あれは山田専用機だと。


「フッフッフッ、何にしても反対派である我々の基盤は磐石というものだぞ、ダスティ」

「そ、そうですな」


 ニヤリと笑うオーランドと共に笑うダスティ――それを見ている一人の視線に、二人は気付かなかった。


「あらあらぁ……。 ……うふふ、私の息子はそう簡単に根をあげないわよぉ~」 
 

 
後書き
色々と御披露目っす

イザナミは前々からIS型のパッケージ案で進んでました

前々っても三年ぐらい前からだけど

其処から色々ブラッシュアップしてから可変型って形に

デュアルコアじゃないのであしからず

でも単一仕様は後イザナギのも出す予定……いつかはわからんが

残り未来とエレン、んで一夏だけですなー(棒 
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