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KANON 終わらない悪夢

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32秋子の昔話

 天使の人形と一弥から聞こえた心の声、それは「全ヒロイン爆乳化計画」という厨二病で子供じみた唾棄すべき物であった!
 女性陣は特に気にせず、貧乳女性は有り難い申し出だと喜んで軽く流していたが、ただ一人、祐一だけは看過できなかった。
 既にあゆは「Eカップ」などという奇乳にされてしまい、公式では盛った数値が掲載されているが、実際には身長140以下でバスト70前後が正解で、ヲタク界貧乳の至宝「如月千早様」「にっこにっこに~」などに匹敵する美乳が失われた!
 魔物によって体を強化されてしまった栞、美汐、佐祐理の中には今後の設計図として「時限爆弾」が仕掛けられ、栞のタプタプの脂肪は、筋肉に栄養を与え終わった時、「寄せて上げて乳に集中させる」という卑怯で卑劣な手段で爆乳化が進められる手筈になっていた!
 今後体全体は体脂肪10%以下になり、カッチカチのムッキムキのマッスルボディになるので、それはそれとして良かったのだが、シュワちゃんだかスタローンみたいな胸筋の上に、一部だけ場違いなタップンタップンでぶよんぶよんの代物が置かれてしまう。
 さらに美汐も、腹の肉とか下っ腹の肉とか、ケツ肉、ぶっとい太腿の贅肉、背脂などから、あの愛らしいバスト80以下の胸部に脂肪が集中してしまい、油臭い女にされてしまう。
 魔物には支配できない体の沢渡真琴にも「空中乳素固定装置」なる卑怯で下らない装置が取り付けられ、バスト81のBカップが、爆乳、奇乳へと作り変えられてしまう!
 ついでに月宮真琴なんかも「前より肩甲骨の方が膨らんでね?」という折角の良品を、少ない脂肪を集めて無事脂肪させられるらしい。
 ここに天使の人形と祐一という、同骨相食む宗教戦争にも似た戦いの火蓋が切って落とされた!
 守れ貧乳! ビバ微乳! 素晴らしい物、それは貧乳! ゆけ、祐一! 掛け替えのない人類の宝を守るのだ!

 ついでに美汐ちゃん、あゆ、佐祐理お姉ちゃんなんかは不老不死化され、BBAになるのは阻止されたらしいので、それはそれでオッケーだった。
 も一つついでに、「大量の悪人の命が奪われ、あゆや少女たちの命を繋ぐため消費されている災厄」なんかも起こっているようだが「は? 何ですかそれ、どちらかと言うと世間のためになりますよね?」程度の認識で、秋子ちゃんも祐一も佐祐理も特に気にしていなかった。

 しかし佐祐理には恐ろしい呪いが掛けられ、術を使うたびに体の細胞が焼失して行き、体全体が萌え?尽きてしてしまうような術を使った後、精霊と同じ体だけが残り、人間の子を産むこともできなくなり、魔物である一弥しか産めない体になる。
 一弥が産めるのと、不滅の肉体になるので、それはそれでオッケーだったが、人間が持つ低性能の五感が失われてしまい、佐祐理の大切な趣味である「舞の下着を少し霧吹きで湿らせてから、ビニール袋に入れてレンジでチンして膨らんだ所を開封して、アツアツの蒸気がモワッと吹き出すのを楽しみ、残りも新しい空気を入れながらクンカクンカスーハースーハーして楽しみ、水分が無くなるまでチンして繰り返す」という高度な趣味を楽しめない体になってしまう!
 これからは舞本体を直接楽しめる関係になったので、もう毎日でもモミモミチューチューペロペロモフモフして楽しむ予定だったが、人体を失うと他の可愛い女の子を楽しめなくなり、スーハースーハーする中でも「舞の足の裏から出た脂汗が、靴と足裏に残った白癬菌を始めとする有能な菌類によって熟成され、三日間以上脂汗の補充と熟成を重ねた至高の逸品、靴下!」「舞が履き古して、キャベツが腐ったような匂いがする布の運動靴」の匂いを楽しめなくなってしまう!
 セブンセンシズに目覚めれば、靴下が奏でる異次元のメロディーや、アンモニアなどを始めとする生物が毒だと感じる臭気を、全身に纏って完全変態?することも可能で、臭気として再び楽しむこともできるのだが、それを知らない佐祐理は不幸のズンドコに叩き落とされていた。

 第三十二話
「もういいか? 私は眠い、パーティーの食い物が来たら起こしてくれ、では寝る」
 美汐からチョロインさんに魔物が移動し眠りに着いた。続いて佐祐理は、祐一の中に眠る舞の胴体の魔物、祐一クンロボの戦闘AIでもある「嫉妬」の使い魔を引き出そうと思った。
「ご覧頂けましたか? 魔物は美汐から緒路院(チョロイン)さんに移動しました。次は座古さんと月人さんの番ですね」
 佐祐理の能力によるものか、雑なネーミングで名付けられてしまったザコ三人。これからは佐祐理の手足となって働き、魔物も入れてもらって真っ当な戦力として扱われるようになる。
 そこで一旦録画を止め、カメラを移動させて自分と祐一の前に設置する。
「さあ一弥、貴方の中の魔物が必要になりました。舞の胴体さん、ちょっと移動してもらいますよ」
「私の意思では移動できない、戦闘AIとしての任務を解任し、マスターが追い出す状況でなければならない」
 祐一くんが「田村ゆかり」の声で話し始め、ビデオにも音声が残るよう配慮した。
「そうですか。一弥? この子を解任して押し出して頂戴。それと、胴体さんは一度だけ舞の中に帰ってくれる?」
「分かった」
 ザコの中に入って間違って討伐され、舞の魔物が失われた時の事も考え、一旦本体に戻して双方に修復のボーナスを与えようとする。
「舞、こちらに来て、それで背中の傷をビデオに向けて見せて頂戴」
「…こう?」
 ジャージの上を脱ごうとした舞を止め、佐祐理が手ブラで隠しながら説明する。
「今、舞の背中はこうなってます、魔物に負わされた傷、舞が魔物に負わせた傷、両方が体に残って、こんな酷い傷だらけの体です」
 魔物の爪痕が斜めに走り、縫わないで癒着したのが不思議なほど深い傷、痣が定着した赤黒い染み、まだ新しい青あざ、擦過傷、数えきれない傷が録画された。
「さあ一弥、舞の胴体を返してあげて」
「ああ」
 先程から、自分の口から田村ゆかりの声が出るのを不思議に思いながら舞の横に行き、手ブラで隠しながらビデオに映るようにキスをした。
(サンキュー、ハバナイスデイ、アイラブユー、グッバイ、サイチェン)
 別れの言葉を告げて舞の本体に帰った魔物、暫くして舞にも異変が起こった。
「…うっ、ああっ」
 膨大な数の傷跡が、浅いものから順に消えて行き、痣も薄くなり、最後に深い傷が塞がって行った。
「佐祐理も見るのは初めてですけど凄いですね? あれほど酷かった舞の傷が全部消えてしまいました」
 荒い息をして耐えている舞の背中を撫でながら、歳相応の少女らしい、スベスベしてきめ細かい肌になったのを確認して満足する。
「舞の胴体さん、暫くそこで休みますか? それとも移動したいですか?」
「私はまだ、この女と和解していない。それに私は祐一のオナニーで可愛がられただけで、女としては何も満足していない、すぐに移動する」
 今度は舞が舞の胴体として喋るが、見分けができるのは佐祐理だけで、他の人物には同じ声で見分けが付かない。
 そこで祐一は、自分の自慰行為発言が歴史に残りそうなビデオに録画されてしまい、顔から火が出そうになったが、ゴミ箱やトイレに投入された子種達は、舞の胴体が受け止めてくれていたり、「舞のフタナリチ*ポ」をゴシゴシして絞り出して楽しませていたのだと知って、全てが無駄になったのではないと思い直していた。
「じゃあ、舞の胴体さんはどちらに入りたいですか?」
 ジャージを下ろした舞は、二人を見比べ、座古を指名した。
「こっちの女がいい、私はそちらの強さを求める女には向いていない木の精霊だ。お前には火の精霊が入る、少し待っていろ」
「え? はい」
 月人は後日に回されるのかと思ったが、強さを求めているのも知られているようで、一度川澄舞に戻ったはずの、左手の使い魔が来てくれるようなので安心する。
「そうですか、自己紹介をしてもらうのを忘れてましたね、ちょっといいですか?」
「ああ、すぐ移動したい、この体でこいつと同居するのは嫌だ、私は火水風木土の木の精霊、喜怒哀楽は持たないが、最大の「嫉妬」の心をを持つ、あらゆる木や草と感応し、大きなネットワークと繋がる存在。これでいいな? 来い、座古」
「え? ああ」
 急に指名され、心の準備もしないうちに佐祐理と交代して座らされ、舞に唇を奪われる。
「うっ、あああっ!」
 体に侵入され、心も穢され、いろんな所をペロペロされてしまい、カメラの前で痴態を披露する座古苺。やがて胴体に定着されこう言った。
「妬ましい、全てが妬ましい。この女が幸せな子供時代を送ったのも妬ましいが、両親が死んで、病気の妹と一緒にたらい回しにされて保険金も奪われ、祖母の所で粗末な暮らしで苦労した感情は美味い、極上だ」
 嫉妬の魔物だけあって、憑依者の負の感情をエネルギーとして動いているのか、嗜好品として楽しんでいるらしい。
「この女は欲が少ないが知識に関しては貪欲なようだ、人間が手にしてはならない知恵の実の全部と、生命の木の実をたらふく食わせてやろう。ふふっ、面白い、こいつからは呪いと憎しみと穢れと罪を盗んでやる。そうすればこいつは無原罪の存在となって、神にも近い存在になるのだ、真理に辿り着かせ、たっぷりと苦しませてやる」
 佐祐理や祐一にはその意味が分からなかったが、色々と苦労させられる気の毒な状態にされるのは理解できた。
「さて、私も眠らせてもらうとしよう、体の中でこいつを味わってやる。何だ? 心配するな、心や魂は食べない契約だ、安心するが良い」
 そう言って、ソファーに転がっている美汐や緒路院の隣に座って眠り始める魔物。
 舞は残った月人を呼ぶ前に佐祐理を呼び、隣に座らせた。
「…佐祐理、私の右手を受け取って、この子が佐祐理の体が燃えてしまわないようにする、受け止めて」
「いいんですか? そんなことをしたら、舞はまた空っぽに」
「…構わない、一人には慣れてる、悲しい心なんていらない、でも佐祐理の体が消えるのは嫌」
「そう、ありがとう、舞」
 抱き合った二人は体の一部を交換し合い、悲しみと水の精霊が佐祐理に宿り、怒りと憎しみの炎を消し、体が燃え尽きてしまうのを防いだ。
 舞には佐祐理が持っていた大きな悲しみや悔しさが宿り、泣き出さないように抱いて優しく包み、眠りに落ちた佐祐理の体の姿勢を整えてやった。
「…さあ、最後は貴方。私の左手、炎の精霊を預ける。でもその前に約束して、佐祐理や祐一を守って、傷付けないと誓って」
「はい、了解しました」
「…貴方の心は食べない、でも、心の奥に私たちに刃向かえないよう杭を刺す、いいでしょ?」
「ええ、構いません、今後、貴方やお姉様に仕えます、決して背いたりしません」
 少女は騎士のように膝を屈し、今後自分の主となる相手に頭を下げると、顎を持ち上げられ唇を重ねられた。
「あっ、うううっ!」
 土や木といった刺激の少ない精霊と違い、宿った途端に自分の弱い部分を燃やして、強い部分だけを残して再生して行く精霊。
 天使の人形と使い魔の契約とは、半人半妖の人間が出す化け物を、純血の妖狐に宿るものと同じ、精霊へと変化させるもので、契約とは名ばかりの特殊な妖術であると理解させられた。
「…眠りなさい、貴方の弱い所が消えて無くなるまで」
「は、はい……」
 ソファーの上は、気を失った少女で溢れ、舞の家の時と同じように、屍累々となったリビング。
 少女たちの中では栞と月宮真琴だけが目を覚まし、名雪は食材を買いにお使いに追い出されていて、舞も疲れたのか座って目を閉じた。

(何がどうなったんだ?)
 一部始終を見ながら、何が起こったのか把握していない祐一も、ビデオを止めてダビングできるように巻き戻し、家のビデオデッキに繋いで新しいテープを取り出し、ダビングを開始した。
 そこでまた真琴の携帯電話が鳴り、嫌な顔をしたが、母親からの電話だと気付いて電話に出た。
「お母様っ?」
「おお、真琴か、まだ命があったか」
 本家に遅れること数十分、やっと真琴一行への処刑宣告を聞き、娘に電話した母。
「ええ、みんなに助けてもらって、今は秋子様の所にいるの」
「そうか、お前は使い魔に食われてしまったのか? それとも元のお前なのか?」
「私は元のままよ、憑依してるのは使い魔じゃなくて、純血の妖狐に宿っている精霊と同じなんだって。相沢くんが出した使い魔が特殊な契約をして、川澄舞さんが出した使い魔を精霊に変えたそうなの、移動している所はビデオに撮ったわ、また送るね」
 このビデオを見た無能や、不老不死が欲しくて仕方ない痴呆が入った老人たちが、自分の使い魔に言い含めるだけで術式が使えると思い込み、沢山の喜劇を産んだのは言うまでもない。
「では、お前は今、どうなっておるのだ?」
「うん、相沢くんとも愛し合って、倉田佐祐理お姉様から精霊を譲っていただいたから、これから風と雷槌の精霊にしてもらえるの、体は燃えてしまうかもしれないけど、私も現人神になれるの」
 それが教団の究極の目的なのか、涙ぐんで母親に報告する真琴。
「そうであったか、他の巫女も全て神となるのか?」
「うん、栞さんも香里も、佐祐理お姉さまと天野ミシオさんは改造が終わったりして精霊が抜けてるの、いつもの三人にも精霊を宿してもらって、後何日かで現人神になれるそうなの」
 七人もの神人を生み出し、同じ精霊が宿った舞も同じになる。真琴と母は喜びの涙を流した。
「そうか、では土曜には帰って来い、待っておるぞ。こちらも今は大騒動だ、お館様は秋子様のお怒りに触れ自害、新しいお館様からお前たちの助命が命令された、もう安心すると良い」
「え?」
 自分の近くにいる人物を見て恐怖が走る、この現人神は月宮の当主に自殺を命じることができる。
「ではまた電話する、体を大事にな、神人(かみびと)となって故郷に凱旋するがいい」
「うん……」
 複雑な表情で電話を切った真琴、このまま数日生き延びることができれば、佐祐理と同じ「不滅」にして貰えるかもしれないが、本当にそれまで生きていられるのかが不安になった。
 もし沢渡真琴が目を覚まし、自分に襲いかかってくれば抗うすべはない。秋子に不敬な態度を取り続けた自分たちは、その逆鱗に触れれば自害さえ有り得る。このまま逃亡生活を続け、山奥にでも篭って体の改造を待とうかと真剣に考えた。
「逃げる必要はありませんよ、二階にいる真琴はそんな悪い子じゃありませんし、祐一さんのお嫁さんを酷い目には合わせません。まあ、嫁姑の関係が悪化するのはよくあることですが」
 怖すぎる姑に恐れを抱き、震える真琴。秋子の表情は純血の妖狐を我が子のように呼んでいるが、グリズリーやサイと生活していれば、ちょっとじゃれ付かれただけで首が飛ぶ。子供の虎やライオンと遊んでいると、頚椎を甘噛されて脊髄を切断されてしまう。
『じゃあ、皆さん寝ているようですし、パーティーの食材が来るまで休んで下さい』
「「えっ……?」」
 栞は同じ中学だった美汐を「お前どこ中よ?」みたいな顔で睨んでいたが、真琴と一緒に眠らされた。

「皆さん寝てしまいましたね、祐一さん、何かお話があるんじゃないですか?」
 残り二名が強制的に眠らされたのは怖かったが、美汐の言葉で気になる所があったので早速聞いてみた。
「じゃあ秋子さん、ちょっと教えて欲しいんですけど」
「はい?」
 秋子ちゃんは、祐一君に「女の子の体の仕組み」とか「女の子の悦ばせ方」を聞かれるのではないかと思い、ちょっとドキドキした、かも知れない。
「叔父さんってどんな人だったんですか、それと…、俺の親父の事も知っていたら教えて下さい」
 秋子ちゃんは期待が外れたのか? ちょっと困った顔をしたが、やがていつもの表情に戻ってこう言った。
「じゃあ、少し昔話をしてあげますね」
「は?」
 何となく茶化されているような気がしたが、食事をするテーブルに移動して、お茶を出されて向かい合って座る二人。
「いつか話さないといけないとは思っていました、でもまだ名雪には内緒ですよ」
「はい」
 秋子の手には挿絵の入った古いノートがあり、この日を待っていたかのように最初のページを開いた。
「ある日、一人の青年が、ものみの丘に登って来ました。でもその青年は自分の名前も知らず、どこに住んでいたのかも、何も覚えていませんでした」
(それが親父か叔父さんなのか?)
 余りに真琴に似た状況を聞き、母親や秋子が事件に巻き込まれて行く予感に胸を高鳴らせる。
「でも、その場所は青年にとって懐かしい場所だったらしく、熱に火照った体を雪の中に横たえると、静かに目を閉じ、最後の瞬間を待っていました」
(最後の発熱か、でも親父は生きてるから叔父さん? だったら名雪がハーフなのか)
「そこに、近くの巣穴から狐が現れ、倒れた青年を舐めたり、服に噛みついて目覚めさせました。その青年も狐の言葉が分かったらしく、請われるままに今までの話を始めました…… ただ一つの記憶、街に住む娘との出会いと別れの物語を」
 そこで秋子は一筋の涙を流した、まだその娘が秋子か母親かは分からなかったが、祐一は悲しい話を思い出させたのを後悔した。
「無理しないで下さい、辛い話ならやめて下さい」
「いいえ、いいんです、そんなに悲しい話じゃありませんよ」
「はい」
 普段見られない秋子の表情からも、その昔話が実話なのを悟り、黙って聞く事にする。

「その少し前、丘には大きな輿が登ってきて、古式に則って儀式を行い、狐達に食べ物を振る舞い、一人の娘を差し出しました。でも花嫁衣装で身を包んだ娘は、とても顔色が悪く、一人で立つ事すらままなりませんでした」
 挿絵にある儀式を見て、美汐に聞いた話を思い出す。
(余命幾ばくも無い者は、妖狐と血を交え、命を永らえたと伝えられています)
「その儀式とは、医者に見放された娘のために、この土地の慣わしを聞いた家族が、昔の神事を真似た物だったのです」
(この字、何語だ…?)
 さらにその本には、祐一が全く読めない文字が並んでいた。子供の名雪や祐一が盗み見ても理解できないよう、日本語ではない言語で書かれていた。
「やがて娘を気に入った数匹が名乗りを上げ、近寄って娘の匂いを覚えました。本来ならその夜、娘を残して縁者は去るしきたりでしたが、父親はそれを認めず、娘を宿に連れ帰りました。そこで儀式は破られ、狐達は食べ物を貰っただけで終わったはずでした、一匹の狐が仲間の力を借り、娘の後を追うまでは……」
(そんなすぐに?)
「真琴は大きくなって力を付けるまで、時間が掛かったようですけど、この狐は妖狐になる力を持っていたんでしょうね」
「はあ」
 祐一の疑問に答えるよう、ノートから顔を上げて説明した秋子。どうやら佐祐理お姉ちゃんみたいに、何でも聞かれている気がした。
「その後、街に現れた青年の姿は、この時代では珍しい紋付き袴という服装でした。でもそれは儀式の時、丘に残された花婿の衣装だったのです」
(そう言やあ、真琴の服って)
「儀式が無かった時は、服を着たまま現れるみたいですね。 相手の理想の姿か、思い出の服装で」
「そうなんですか」
 祐一の心の声に的確に答える秋子を見て次第に変な汗をかき始め、できるだけ余計な事を考えないように務めた。
「やがて娘の匂いを辿って宿に着いた青年は、娘に面会を求めましたが、どこの誰とも知れない男など、宿の者や父親の取り巻きに追い払われそうになりました。しかし青年は見えない力で男達を跳ね除け、奥へと進んで行きます」
 挿絵には、どこかの栞さんのようなマッスルボディで、周囲の人間を蹴散らす妖狐の姿があった。
「そこで、儀式を取り仕切っていた男が、父親に告げました「これは本当に、丘から降りて来た妖狐かも知れない」と、父親は鼻で笑いましたが、すでに娘の容態は予断を許さない状態になっていたので、家族の願いもあり、藁にも縋る思いで娘に引き合わされました。すると青年は、意識を無くそうとしていた娘の手を取り、こう言いました、「私は君に会う為に来た」と」
 弱り切って布団に寝ている女性を抱き起こし、祐一にも非常に身に覚えがある「接触充電」で力を分け与えている青年。
「それを聞いた父親はまた笑い、青年に現金を差し出し「これを持って帰れ」と言いましたが、青年は紙幣を匂うと「そんな紙は薬にならない、薬草なら摘んで来た」と言い、懐から草を取り出して自分の口に放り込みました。紙幣も知らず、薬草を噛み千切って混ぜて行く粗野な行動を見て、一部の者は本当に妖孤が降りて来たのでは? と考えましたが、口移しで薬草を飲ませようとした青年を見て、慌てて引き離しました」
 その様子を思い浮かべたらしく、秋子は笑顔を取り戻し、クスクスと笑い出して、止まらなくなった。
「ははっ、その場面、そんなに面白かったんですか」
 何故秋子がその場面で笑うのか分からなかったので、探りを入れてみる祐一。
「ごめんなさい、これを話してくれた人と、書き写していた人は大丈夫だったんですけど、横で聞いていた人が怒り出して大変だったんですよ」
 ちょっと聞いただけなのに、秋子は平然と「この本が書かれた場に自分が居合わせた」事を喋った。
(それも教えてくれるのか)
「じゃあ、続けますね」
「はい…」
「それから、青年が額や患部に手を当てているだけで、娘の状態は見る見る良くなり、ついに意識を取り戻すと、誰も青年を疑う者はいなくなりました。そして娘も何かを悟ったのでしょう、男を見て驚きもせず一言、「ありがとう」と言って微笑みました。家族からも感謝され、宴席が設けられましたが青年は断り、名前を問われても「知らない」と言い、どこから来たのかすら覚えていませんでした。それからも謝礼の現金も受け取らず、食事も採らず、ただ娘の手を取って、いつまでも患部をさすり「痛みは取れたか?」と問いかけ、夜は更けて行きました。やがて二人は引き合う磁石のように……」
 破かれたノートを見て言葉に詰まり、次のページを開いた秋子。
「ここからは検閲が入って、ページごと破られてしまったので、少し話が飛びます」
「は?」
 一体誰が何のために検閲したのか、理解できなかった祐一だが、あっけに取られている間に話は進んだ。
「やがて一週間が過ぎ、寝起きにも困らなくなる程回復した娘は、家族の目を盗み、何度も青年と愛し合っていました。しかし、それを知った父親が二人の関係を許すはずも無く… 強引に宿から連れ出し、二人は生木を裂くように引き離されました……」
 とうとう涙声になり、言葉に詰まり出した秋子。
(これ、やっぱり秋子さんと、叔父さんの話なのか?)
「青年の力なら娘を連れ出す男達を追い散らす事もできましたが、グスッ、万が一にも娘を傷つけないよう、そして何より、自分の命が長くないと知り、身を引いて、もう娘の前に現れないと心に決めました」
 ただ挿絵では、娘を連れて行った一団を見送り、自分を懲らしめようと残った者を、残らず撃破している青年の絵があった。
「やがて全てを話しを終えた青年は、狐達の頭を撫でながら、自分の命を与えた娘が元気になり、末永く幸せに暮らせるよう願うと、満足そうに微笑み、瞼を閉じました」
 何か良い話でも聞いたように、ハンカチで目頭を押さえている秋子は、すっかり自分の話に入り込んでいた。

(これで終りなのか? その妖孤ってやっぱり叔父さんなのか?)
「いいえ、まだ続きがあるんですよ」
「へっ?」
 やはり秋子にも祐一の心の声が聞こえるらしい。
「そこでっ!」
 急に語り口調を変え、机を叩きながら熱っぽく語り始める秋子ちゃん。
「それを聞いた狐達は大いに悲しみ、怒りに身を震わせました。やがてその声は仲間達にも届き、愚かな人間達に罰を与えるため、話を聞いた二匹が代表して、丘を降りる事になりました」
(二匹……? 丘を降りる)
 祐一の頭の中で、何かが危険を告げていた。普通なら狐視点で話が始まった時点で気付いても良い筈だが、高校生の祐一クンと言えど、そこまで頭が柔らかく無かったらしい。
「仲間の力を借り、人間の娘になった二匹は、眠った青年を連れて人間の街へと降り立ちました。過去に災厄の根源として恐れられた妖狐、それがニ体も」
(天野、お前が言った通りかも知れないな……)
 オバン臭い物言いをする後輩を思い出し、物語が自分の出生の秘密に届きそうな予感に、ついウルウルしちゃう祐一クン。
「二匹は青年を暖かい場所で休ませ、燃え尽きようとする命を繋ぐため、年長の一匹が青年と血を交え、力を分け与えました」
「えっ?」
 祐一は、そこから挿絵が、写真になっているのに気付いた。
「ええ、ここでカメラが手に入りましたから、この後は写真です」
 その写真には、紛れも無く「若かりし頃の父親と母親」が写っていた。それも「初体験記念~、も~チョ~ラブって感じぃ?」みたいに縋り付いてる母親が……
「…………」
 美汐の言った通り、栞と香里に生きる力を授け、真琴が復活したのも祐一の力なのかも知れない。
「妖狐達は人間の世界に入り込み、神通力を使って罰を与え始めます。二匹の力は凄まじく、木の葉の数だけ紙幣が舞い、紙屑の数だけ債券があふれました。程なく人間の世界は大混乱となり、大きな会社がバタバタと倒れ、それは娘の父親にも及びました」
 二十年程前の不況は、目の前の秋子ちゃんと、自分の母親が原因らしい。祐一クンの瞼からは、とめどなく涙が流れ落ちていた。
「妖狐からも、この災厄の原因が知らされ、禁忌を破った親子の話が知れ渡っていました。やがてその親子は人間達の手で狩り出され、妖狐を恐れ敬う者達の手によって、二匹の前に差し出されました」
 最初は泣いていたはずの秋子ちゃんは、この下りになると、とても楽しそうに、力強く語っていた。
「怒りに我を忘れた二匹は、当然のように親子の命を求めましたが、青年は咎める様子もなく、ただ元気になった娘を見て喜びました。そして娘の戒めを解きながらある事に気付き、こう問い掛けました、「私の子を身籠ってくれたのか?」と」
「あの、その親子って、誰なんですか?」
 該当者から自分と名雪が外れたので、それが誰なのか聞いてみたが、秋子ちゃんは話のウェストを折られ、ちょっぴりご機嫌斜めになった。
「川澄さんです」
「…………」
 秋子ちゃんは、祐一にダメージを与える答を口にすると、またニヤリと笑った。
(姉さん… なのか)
 舞がハーフで、自分が純生らしい。その場合、二人は異母姉弟の仲になる。
「娘は「はい」とだけ答えると、また泣き始め、青年に優しく抱き寄せられました。しかし、その様子を見た年長の妖狐が怒り狂い、娘を引き離すよう命じたので、人間達は恐れおののきましたが、年少の妖狐には何が腹立たしいのか理解できませんでした」
 今は大人の秋子ちゃんも、当時は恋愛感情が分からなかったらしい。
「青年は娘に自分の寿命が短い事を伝え、別れを告げました。そして娘や人間達に人が欲しがる紙の束を分け与え「この娘と私の子を宜しく頼む」と言ってその場を立ち去ると、妖狐達も青年の穏やかな表情に毒気を抜かれたのか、人間達に注意を与えると慌てて後を追いました。巣に戻ると、青年は二匹の妖狐に「ありがとう」と言い、満足した表情で丘に帰ろうとしました。ものみの丘に戻るのは、青年が消える事を意味しましたが、年長の妖狐はそれを許さず、縋り付いて「帰るな」と泣きました。それは人となって、温もりを知ってしまった哀れな妖狐の姿でしたが、不思議と侮蔑の念は浮かばず、崇高な物でも見る思いがしました」
 あの母親が、そんなしおらしい態度を取ったなど想像もつかなかったが、祐一にもようやく、この話を語ったのが父親で、書き写したのが秋子、途中で怒り狂ったのが母親だと分かった。
「青年は妖狐に請われて人里に残る事になりました、それは陰ながら我が子を見守り、残りの命を二匹の妖狐への感謝の為に捧げようとしたからです。しかし、その後も青年に力を与え続け、狐に戻る事も叶わなくなった妖狐も、人として生きる他は無く、もう一匹もそれを放っておけませんでした。力を失った時、人間の報復を恐れたからです、その時から二匹は姉と妹となり、青年や子供を見守る事になりました」
 ちなみにそれは、秋子ちゃんと祐一は血縁が無く、叔母、甥の関係ではないと言う意味でもある。
「姉は僅かな妖力で仲間の元に戻り、青年が生き残る方法を探りました。そして残された方法は、もう一匹の妖狐とも交わらせ、異質な力で妖力を全て消し去る以外に無かったのです」
 名雪が自分の妹である確証に近付き、身を震わせる祐一。血を分けた妹とは、もう何度も交わってしまっていた。
「巣に帰った姉は妹に縋り、青年の命を永らえる方法を伝えましたが、どうか青年が気に入っても、自分から取り上げないで欲しいと言って、また泣きました」
(あのババアが?)
「祐一さん、ババアなんて言っちゃあ可哀想ですよ、まだ若いんですから」
 美汐や佐祐理と同じく、とうとう祐一の心の声に答えた秋子ちゃん。
「えっと、全部聞こえてました?」
「ええ、昔からずっと(ニッコリ)」
 それは、真琴を拾って匿っていた間の会話「沢渡真琴と言う片思いの女の子の一連の話」以外にも、一人で発電する時、「名雪っ」とか、「栞っ」とか、「秋子さんっ」と考えていたのも、1階で全部聞こえていた、と言う意味でもある。
「祐一さんの声って、よく聞こえるんですよ」
「は、はあ……」
 もちろん、誰も来ないはずの森の奥で泣いている祐一の声を聞き付け、あゆを連れて病院まで送り届けたのも、秋子達の力だった。
「でも、俺には秋子さんの声って聞こえないんですか?」
「え? 私は最初から、声には出してませんよ」
「はぁ?」
「ほら、こんな時って、名雪が珍しく早く帰って来て、ドアの向こうで聞いているのがお約束じゃないですか、だから」
 カチャ、バタバタバタッ
 そこで、「まるでドアの向こうで盗み聞きしていた名雪が、驚いて走り去った」ような音が聞こえた。
「名雪っ!」
「名雪なら大丈夫です、それともこれで終わりにしますか?」
「いえ、続けて下さい」
 しばらく、まともな会話すらしていなかったので、今行っても無駄だと思えた。それに、この話を聞き終えれば、すべてが解決するような気もした。
「姉さんって、丘にいた頃から祐一さんのお父さんに憧れていたんです、ですから力を分ける時でも自分から進んで。それに私にはもう「見るな、触るな、近寄るな」って大変だったんですけど、さすがにこの時だけは違いました」
 秋子は明らかに「姉さん」と宣言した、しかし語るに落ちたのでは無い証拠に、再び本に目を落とし読み始めても、口を閉じて、声を出している振りはしなかった。
「そこで姉は、血を交える事は狐に戻る力や、様々な能力が失われるとは、どうしても言えませんでした。もし妹が断り、青年が消えると考えただけで耐えられず、まるで人間のように、仲間でさえ騙せるほど落ちぶれ果てていたのです」
(凄い、舞や天野より良く聞こえる)
 明らかに声とは違う二人と違い、秋子ちゃんの心の声は、実際に聞いているのと何ら遜色は無かった。
「妹はそれを快諾し、姉の体に宿った新しい命の為にも、青年と姉には長生きして欲しいと言いました。それは嘘や偽りでは無く、本心から出た言葉でしたが、もう人と同じになった姉には、どうしても信じられず、また多くの嘘を重ねました」
(じゃあ名雪って、やっぱり俺の妹っ?)
「それは後でお話します」
 祐一に目線を送ると、秋子ちゃんは話を続けた。
「青年についた嘘とは、妹と交わると力が消えるだけでなく、今までの記憶、人間の娘との思い出まで消してしまう事を隠しました。それは自分以外の女と子供を愛し、今でも大切な記憶として思っているのが許せなかったからです」
 普段はそんな素振りすら見せなかったが、自分の母親がそこまでしてでも、父親を独占したかったのだと思い知らされる。
「でも青年も、姉の邪な考えを薄々知りながら、その願いを受け入れました。例え何かを失ったとしても、命さえあれば子供達を見守り、支える事ができると思い、自分の命を永らえる方法を選びました。その後、姉の妖孤は再び記憶を失った青年を連れ、妹や仲間達から逃げるように姿を隠しました。そして青年と愛し合った娘が死にかけても、その子供が苦しんでいても、それを知る力すら失い、愚かな人間として何年も過ごしました……」
 秋子は静かにノートを閉じ、エプロンのポケットに入れた。

「姉さんとお父さんの馴れ初めはここまでです、でも故意ではなかったんです。私も舞さんや川澄さんを助ける程の力は無くしていました、姉さんを許してあげて下さい」
「はい……」
 もう混乱して、許すとかどうとか言える状態では無い祐一。
「でも、馬鹿な事をしたものです、獣と言っても同じ巣に住む異性には発情しないのが普通です、変に引き離したので、みんな久しぶりに会って余計に興奮したみたいですね」
「は?」
「最初はもっと早く、発情期に入る前に三人を会わせるつもりだったんですけど、姉さんが渋って、なかなか引き渡してくれなかったんです。祐一さん、妹や姉と愛し合えて嬉しかったですか?」
「な? 何言ってるんですかっ」
「ちょっと抵抗があるかも知れませんけど、気にする必要はありませんよ、何しろ私達は獣なんですから」
 そこにはもう、いつもの秋子さんではなく、獣の目をした一匹の秋子ちゃんが祐一を見ていた。
「そんな……」
「今日はお姉さんともでしたね」
「すいませんっ!」
 名雪に続いて舞とも愛し合ってしまい、冷や汗や脂汗を流し、異母姉妹とも激しく交わってしまった自分の愚かさを後悔する祐一。
「いけませんね、人間の習慣に慣れすぎです、平安時代は異母姉弟でも結婚できましたし、古代ペルシャなら最近親婚が当たり前だったんですよ。それと、最後にお父さんと私が交わって力を失った後、こんな約束をしました」
「え?」
 秋子ちゃんは満面の笑みを浮かべながら祐一の隣に座り直し、だんだんと近寄って来た。
「姉さんの子供が大きくなった時、丘に帰る為、その子の力を私に分けて下さいって」
 どうやら、自分こそが祐一の約束の相手だと言いたいらしく、今回ここに引っ越して来たのも、その約束を果たす為らしい。
(あのババア、自分の色恋のために、息子を売りやがったな?)
「…そんなに私じゃ嫌なんですか?」
「いえ、そうじゃなくて、あっ! 秋子さんっ?」
 祐一の手を取って自分の胸に押し当て、もう片方の手で祐一をまさぐり始める秋子。
「こんなオバさんじゃだめですか? それも名雪みたいに大きな娘までいる女じゃあ」
「だって俺と秋子さんは、親戚…」
「姉さんと私は、本当の姉妹じゃありませんよ、近い血筋でしたけど親戚でもありません」
「うっ」
 その声は、秋子の指摘に驚いたからでは無く、女性の手で股間を触れられた、嬉しい悲鳴であった。
「それに、私は生まれてから、まだ21年しか経ってないんですよ」
「ええっ?」
 思いっっ……きり嘘のような気がしたが、この肌の艶や若々しさからすると、信じられない話では無い、しかし名雪の年齢を引くと……
「2歳までは狐でしたけど、そこは掛算しないで下さいっ」
「はい」
 強い口調で言われ、狐年齢は計算しない事にする祐一。
「私は姉さんに引き離されて、「貴方」のお父さんとは、「Bまで」でしたから、「男性とは経験が無い」んです」
 顔を赤らめ、さらに自分を「処女」だと言い張る秋子、名雪と言う証拠がある限り、まるで「マリ*ァナを吸った事はあるが、肺には入れていない」と言った某大統領ぐらいの大嘘である。
「じゃあ名雪は?」
「祐一さんの妹じゃありません、名雪は私のクローンですから、心配しなくても大丈夫ですよ」
「ええっ!? 何の話ですかっ? クローンって、そんな」
「私と名雪って、よく似てるでしょう? 姉さんや真琴の体も、私達が使う「人間に変化した過去の純血種」のコピーなんです」
「そんな?」
「でも今の私達とは適合しないので、普通は1ヶ月しか持たないんですけど、「力を無くして人と同じになったお父さん」「祐一さんを妊娠して生き残った姉さん」「自分と同じ名雪を妊娠して余り力を失わなかった私」「私と同じでも人として生まれた名雪」「祐一さんのお陰で定着した真琴」今までの歴史上、これほど純血の妖狐が集まった事は無いんですよ」
 話の内容が凄すぎて混乱している祐一は、これは夢ではないかと、自分の頬をつねっていた。
「ふふっ、夢じゃありませんよ、それにこの体、狐や人間と混じった体と違って凄いんです、ほら」
 何が凄いのか知らないが、やはり叔母として尊敬していた相手と交わるには抵抗があった。
「待って下さいっ」
 さらに今日は、十発も発射しているので、賢者モードで比較的冷静な祐一。
「やっぱり姉さんに任せっきりだったのが悪かったみたいですね、それに祐一さんに 「自分で」させるなんて」
「えっ?」
 祐一を触りながら、艶っぽい目で見上げている秋子ちゃん。
「姉さんとは練習しなかったんですか? 祐一さんの部屋のゴミ箱や、お風呂場のニオイで、名雪が発情して大変だったんですよ。ちゃんと祐一さんとしたので良かったんですけど、もし学校で発情して誰とでもしていたら…」
 祐一は、つい疲れて使用済みティッシュをゴミ箱に捨てたり、便所や風呂場でヌイてしまい、ニオイを残した事を後悔した。
「いや、それは、その」
「も・ち・ろ・ん、私も発情したんですけどね、フーーッ」
「うっ!」
 体をぴったりと付けて耳元で囁かれ、甘酸っぱく熱い吐息をかけられる祐一。もう何もされなくてもビンビンだった。
「だから祐一さん、その気になっても自分でしちゃ駄目ですよ、これからは私か名雪、真琴も帰って来ましたから、誰か呼んでして下さい、私達3人なら妖孤の純血を保てるんです」
「そんな」
「昔にも稀に、災厄の後、純血の妖孤が生まれた事がありましたけど、一人ではどうする事もできないで、また人の中に埋もれて行ったんです」
「はあ」
「その名残が倉田家や美坂さん達なんですけど、たまに力だけを持って産まれて来る子供がいるんです。でもS2器官が無い体だとすぐに衰えて、栞さんや香里さんみたいになってしまうんですよ」
「ええっ?」
 だんだん危ない話になって来たが、どうやら栞の4次元ポケットはディラッグの海に繋がっていて、香里の知力の源は、体全体が生体コンピューターになっているが、フルに活動すると電源切れで1分持たないらしい。
「そうですね、三人とも一緒に妊娠すると、祐一さんのお相手ができなくなるので、ずらした方がいいでしょうね、足りなかったら、香里さんと、栞さんも入れて…」
「そんな事できませんよ」
「あら、今は仮に良くなったように見えるだけで、月に1回は「注射」してあげないと、すぐ元に戻りますよ、それもゴムを付けたり洗ったりしたら、「粘膜感染」しないので意味が無いんです」
「…………」
「それがだめなら、せめて「口から飲ませる」しかありませんけど、注射の五倍は飲ませるか、「直腸から注射して」2,3日は置いておかないと」
 避妊するなら、五回以上「口出し」するか、事前の処置として、「2,3日トイレに行けないぐらい空っぽにしてから」直腸に注射しないと効果が無いらしい。
「それに病気を治して十年近く生きるには、祐一さんの子供を産むしか無いんです。舞さんに聞きましたか? 川澄さん、六年ぐらいしか持たなかったようですね」
 美汐と同じく「何か」に聞いて、舞の母親の死亡と復活まで知っていた秋子ちゃん。例の話の「瀕死の重病から、妖狐の子を産んで六年生きた」というのは舞の母親のことらしい。
「その時、舞さんに力が無ければどうなっていたか、姉さん、お父さんに恨まれたでしょうね… あっ、祐一さんが舞さんのお母さんに直接注射してあげるって方法もありますよ」
 まるで、あゆのように「ぽむっ」と手を叩いて、今思いついたように言われる。
「もうやめて下さい」
「やっぱり私じゃ嫌なんですか?」
「い、いえ、そうじゃなくて、名雪が見てるかも知れませんよ」
 そろそろ限界だったが、幼馴染の従妹?が見ているかも知れない、と言うのが最後の堤防だった。
「うふっ、姉さんが「取らないで」って言ったので、祐一さんのお父さんは取りませんでしたけど、名雪からはそんなの聞いてませんよ」
 世間の常識では、娘の恋人(従弟)を取り上げる母親(叔母)は存在しない。
「十年程前の事です、人間の娘と青年の最初の子供が、ひどい目に会った時も、こんな事がありました」
 秋子はテレビのリモコンを操作して、ニュース番組に合わせた。
「円安が進行しています、現在円は1ドル147円をつけ、最安値を更新しました。弱い円を見越して日本株は一斉に売られ、東証株価指数はバブル崩壊後の最安値と……」
 199*年当時、日本の景気はどん底だった。バブル崩壊で日本経済が壊滅したのは「舞を見せ物にした上、化け物呼ばわりして虐めた」後、「あゆを落として祐一を苦しめた(言いがかり)」のが原因らしい。
「この前、秋子さん事故に合いそうになりましたよね、あれって」
「ええ、私を狙ったんだと思います、だから…」
「尚、今回解散を表明しました**証券、及び**銀行では、経営幹部による記者会見が行われています、それでは現場からお伝えします」
 今回の、ちょ~~不景気は、祐一の親や秋子ちゃんを狙った事への報復だったらしい。
(怖いお人や…) 
「でも、祐一さんが私を可愛がってくれたら、少しは景気が良くなるかも知れませんよ?」
 秋子ちゃんは、日本の景気を盾に関係を迫っていた、要はセクハラである。
「いいんですか? 秋子さん(ゴクリ)」
「ええ、でもここじゃあ何ですから、私の部屋で」
「はイっ!」
 声を裏返しながら起立する祐一、別の場所も起立していたのは言うまでも無い。

 選択肢
1.名雪が家にいて、他の子も大勢いるのに、秋子さんと動物のように激しく交わる。
2,名雪が家にいて、他の子も大勢いるのに、秋子さんと動物のように激しく交わる。
3,名雪が家にいて、他の子も大勢いるのに、秋子さんと動物のように激しく交わる。
4,名雪が家にいて、他の子も大勢いるのに、秋子さんと動物のように激しく交わる。
5,名雪が家にいて、他の子も大勢いるのに、秋子さんと動物のように激しく交わる。
6,名雪が家にいて、他の子も大勢いるのに、秋子さんと動物のように激しく交わる。
7,名雪が家にいて、他の子も大勢いるのに、秋子さんと動物のように激しく交わる。
8,名雪が家にいて、他の子も大勢いるのに、秋子さんと動物のように激しく交わる。
9,名雪が家にいて、他の子も大勢いるのに、秋子さんと動物のように激しく交わる。
10,以下同文

 その後、円安は土俵際の徳俵で持ち堪え、日本発の世界恐慌は回避された、そこに祐一の多大な努力が関係していたかどうかは定かでは無い。


 あゆちゃんのゆめのなか。
((おいしいパンを作ろう~))
 天使の人形と一弥は、あゆのドスケベボディの作成を終了し、背中から繋いだ機器を調整していた。
(これで後は、誰か力の強い奴を破滅させて、その力であゆちゃんの魔力源と心臓を点火して起動させればいい、ついに完成だ!)
(ヤッタネ)
 ついにあゆ復活の下ごしらえを完了し、ハイタッチで喜び合う二人。
(僕がお姉ちゃんを呼び出して憑依して、舞さんの偽物になるよ、お姉ちゃんを攫われてしまって、僕がひどい目に合わせたやったと言うだけで、舞さんは……)
(あははははっ!)
 
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