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KANON 終わらない悪夢

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16入院2日目

 副題:狙われた学園には、時をかける謎の転校生が11人いて、七瀬はふたたび夕映え作戦の、未来からの挑戦が赤外音楽で、続・タイムトラベラーだった。(課題図書?)

 入院二日目、秋子の要請でもあったのか、何故かまた二人部屋に移動した香里、今日も隣のベッドは空いたままになっている。
 祐一が病室に着くと、朝と同様、香里の友人達が詰めかけ、学校での話をしていた。電話でお別れを言われた者も、香里の顔色に気付いた者も、余りその話題には触れず、元気付けようとしていた。
(まずい、昨日と同じで二人部屋じゃないか、このまま昨日の繰り返しなら俺は死ぬ)
「ねえ香里、今、学校ではあんたの噂で持ちきりなのよ~、男嫌いのあんたが、相沢君とラブラブになってたって話とか、相沢くんのヒーリングで治るんだとか、「奇跡の恋再び」って話よ~」
 香里に精力を吸い尽くされた前日の出来事を思い出して怖がりながらも、ドアが開いている部屋の中を確認し、一応ノックしてみる。
「あっ、相沢くんっ、ほら香里、「運命の人」が来ちゃったわよ、ラブラブな所見せなさいよ」
「祐一、やっと来てくれた」
 部屋の中には、友人四人と栞、母親がいた。母親がいる限り「怪獣大決戦」にはならないので安心したが、友人達が帰ってしまうと重い話題になりそうなので、できるだけ引き止めて明るい話をして欲しい祐一。
「やあ、学校帰りなのか? よく来てくれたな、香里に面白い話でも聞かせてやってくれよ」
「ええ~? あたしらおじゃまじゃん、香里も、もう帰れって顔してるし~」
「ふふっ」
 笑っている香里だが、相変わらず祐一がいないと血の気が引くのか、昨日のような真っ白な顔に戻っていた。
「ねえねえ、アタシらにもヒーリングっての見せてよ、こいつも顔色悪いからさ、一発キツイのお見舞いしてやってよ」
「あははっ」
 下品な口調で囃し立てられるが、場所を譲られ、手を握るつもりで近付いた祐一。だが香里はベッドの上で中腰になり、いきなり抱き付いて、抵抗できない祐一にキスをした。
「おお~~っ、やりやがったーーっ!」
「写真写真っ!」
 最初から証拠写真を撮ろうとしていた友人達にチェキされてしまう祐一。携帯電話が普及していない時代なので銀塩写真だが、すぐに現像されて焼き増しされて学校に出回り、北川他数名が不幸になって行くのも簡単に想像できた。
「ああっ、ホントだ、香里の顔色がっ」
「凄いっ、やっぱり奇跡ってあるんだっ」
 サッキュバスにヒットポイントを吸われ、ヴァンパイアにエナジードレインでも喰らったような気がした祐一は、1レベルほど下げられ?やっと香里の魔の手から解放して貰えた。栞の方向からドス黒いオーラが発散されていたが、母親の監視下なので何とか平静を保つ。
「もう、遅いんだから」
 エロサッキュバスさんは、ねっとりした表情と仕草で祐一を離し、ベッドに座り直したが、友人達の証拠写真作成にも協力し、良くなった顔色のまま舌を出し、Vサインまでして妹の前で勝利宣言した。
「へへっ、これで良くなるんだよな? 香里、助かるんだよな?」
 朝に電話で「お別れ」されてしまった友人が泣いてしまい、しんみりした雰囲気になった病室だが、祐一も何とかフォローしてみる。
「いまの見ただろ? こいつの正体はヴァンパイアだ、香里は助かるが俺は助からない、こいつに血を吸われて明日にはカラッカラだ、誰か牧師を呼んでくれ」
「ははっ、確かにそうだ、こいつバンパイアだっ」
「アタシも見たぞ、相沢の血を吸う所、あははっ」
 涙を拭きながら、冗談とも本気ともつかない会話をして、少し雰囲気が明るくなる。
「それと、牧師がいるってのは、こっちだろ?」
 香里の友人に左手を掴まれ、袖の下に隠れていた「二人の時間を繋ぐ運命の腕時計」を引き出される。
「出たね、それを付けてたら、相沢が起きた時間までわかる、ラブラブアイテムだ」
 先程の電話の内容まで聞かれていたのか、友人同士で自慢話があったのか、腕時計の交換の話まで知っている一同。
「やるー、アタシも結婚式、見たかったな~、もっかいやってよ、ほらなんだっけ「富める時も、貧しき時も」」
「病める時も、健やかなる時も?」
 その続きのNGワードが言えなくなった友人は黙りこんでしまったが、代わりに香里が口を開いた。
「死が二人を分かつ時まで、愛しあう事を誓いますか?」
 その視線と表情は祐一に向けられ、今朝と同じ言葉を要求されていた。
「ああ、誓うよ」
 栞が見ていても、否定の言葉は出せない祐一、これが後ほどどれだけ不利になるかも知らずに答えた。
「ううっ!」
 写真も撮られたが、友人の一人が泣き崩れてしまい、他の友人達もやっと収まった涙があふれ出していた。
「なあっ、相沢っ、助けてやれよっ、香里を助けてやってくれよっ」
 服を掴まれ、何度も引っ張られる祐一。背が高い少女は力が強く、シャツのボタンが一つ千切れ飛んだ。
「やめなよ、服が破れるって」
 別の友人に止められ、腕を離してもらい、飛んだボタンも探して拾ってくれた。
「相沢くん、付けてあげるよ、ちょっと待って」
 鞄からソーイングセットを出して、ボタンを付けようとしてくれる少女。
「おいおい、それは「妻」の仕事だろ、ゆずってやりなよ」
「あっ、そうだね、はい香里」
 わざと目立つ赤い糸を針に通され、ボタンと一緒に渡された香里は、祐一のシャツをはだけ、ボタンを縫い始めた。祐一は針で刺されそうな予感もしたが、今日はまだ刺されるような失態を起こしていないので任せてみる。
「さあ、夫婦初めての共同作業です」
「あはっ、相沢くん、シャツ脱いだ方がいいんじゃない? 香里も喜ぶし~」
「お、こりゃあ別の共同作業になりそうだな、アタシら外に出てようか?」
 話題を何とか下ネタ方向に振って、場を明るくしようと務める一同。
「初めてのキツイ共同作業は、昨日ヤったわよ、あたし、祐一の針で縫われちゃった」
「「「「ええーーーーっ!」」」」
 一連の恋バナ自慢は済ませていたようだが、下ネタ方面は母親や栞の手前、話していなかったのか、ボカして話たのか、突然の発表に驚く一同。祐一は栞の行動と北川の安否が気になったが、下手に動くと刺されるので自重した。
「香里、もう卒業しちゃったんだ~」
「何で男嫌いの香里が一番で、アタシら取り残されてるワケ?」
「やっぱりなー、「十ヶ月持ったら子供産め」なんて、経験者でないと言わないよなー」
「香里、吐け、お前には色々と聞きたいことがある」

 針が近いのに、色々と小突き回される祐一と香里。そこで母親が空気を読んだのか、栞が暴れだす前に腕を掴み、外に連行しようとした。
「私らはちょっと出てますね、ごゆっくり」
 引き摺られるように退場する栞だが、当然のように香里が座っているベッドに当身をして、針が祐一に刺さりそうになった。
「うわっ!」
「きゃっ」
「アラ、ゴメンナサイ」
 明らかな故意で嘘を付いているせいか、話し言葉がカタカナになり、イントネーションもおかしい栞、友人達も顔を青くしながら「奇跡の恋シーズン1」のヒロインを見送った。
「ヤバイよ、妹さんメッチャ怒ってたよ、ネトラレだよ、香里、よく平気だな?」
「いや、朝に見舞いに来た子も、修羅場だって言ってたけどね、香里、あんたメンタル強すぎ」
 一足遅く、ボタンの取り付け工事が終わって糸が切られた。栞に対しては大変な失言があり、香里にはキスまでされたので、自業自得と諦めた。
「さっきも言ったでしょ、妹が帰る前に自分で言ったのよ、「今日にでも祐一さんと愛し合って下さい」なんて、あたしの病気を治すために、あの子が自分から祐一を譲って、沢山「お注射」してもらったのよ」
 また香里のモノマネを聞いてしまった祐一、咳止めか何か、薬のおかげで声の調子が戻ったので結構似ていた。
「それにしても、病室でスルなんて、あんたら度胸あるわ」
「それもあの子が看護婦に言って帰ったのよ、「最後に好きな人と、一緒に過ごせますように」って、だから今日と同じで二人部屋で同室の人もナシ、検温にも来なかったわ」
「じゃあ、今日もヤル気マンマンだろ、エロいねー」
「それより初体験のご感想は? kwsk,クワシク、詳っ、しっ、くっ?」
 祐一は自分も席を外そうかと思ったが、香里に抱き付かれてベッドに座らされ、ボタンの外れたシャツから手も入れられ、直接肌が触れる面積を増やそうとしていた。接触充電が可能なのを学習したらしい。
「確かに最初だけ痛かったけど、翌朝、世界が輝いて見えるってのは本当だったわ」
「「「「おお~~っ!」」」」
「一回目が終わったら、悲しくなって泣いちゃうのも本当だったわ、子供の自分とお別れっていうか、もう綺麗な体じゃなくなったって言うか、何か悲しくなるのよ」
「一回目、だと……」
「な、何回したの?」
 何故か主題とは違う部分に、グイグイ食い付いてくる一同。
「え? 回数なんか数えられない、え~?」
 指折り数えて、何回したのか数え直す香里、その間、女子の視線は祐一に向き、犯罪者を見るような目で見られた。
「サル、ケダモノ」
「初めての女の子に何回も? ひっど~い」
「ふざけんなっ、相沢」
「待て、毎回上に乗ってたのは香里だ、こいつはサッキュバスなんだよ」
 祐一の懸命な言い訳にも関わらず、女子の責めは止まらなかったが、香里の一言でドン引きした。
「う~ん、九回ぐらいかしら? 後「口で」三回」
 その言葉で祐一は解放され、開いた口が塞がらない表情で全員が香里を見た。
「九回? 口で……?」
「凄ぇ、お前がチャンピオンだ」
「じゃあ、お前が上ってのも本当なのか?」
「ええ、あたしが痛がったら急に「もう止めるか?」とか言い出して、萎えちゃったのよ、きっと妹の顔でも思い出したんだわ、だからあたしが上に乗って立たせて入れたの」
 よく痛いと聞かされる初体験、それも普通演技だとしても、しおらしく見せる所を、自分で引き入れた勇者に敬礼する一同。
「最初は助かるために割りきって、妹に言われた通り、体だけの関係になるはずだったんだけど、キスしたり、色々してると本当に元気が出たのよ、だから一杯したら治るんじゃないかって」
 学校での噂のような、ラブラブな話ではなく、なまら生々しい話になって少し引く友人達。
「何ていうのかしら、たった一晩で「心も体も奪われて」、「もう体が離れられない人には言えない関係」って奴にされちゃったの」
「相沢、お前がそんなジゴロだなんて知らなかったぞ」
「わ~、怖~い、アタシらも相沢にヤられちゃったら、もう二度と体が離れられなくなって、エグいホストみたいに貢がされるんだ~」
 昨日の未来予測が現実になりそうで、嫌な汗が流れ始めた祐一は、何とか方向転換を図ろうと考えた。
「いや、それは無いって、香里も無理すんなよ、ずっと泣いてたじゃないか、辛かったんだろ? 友達の前だからって、もう見栄張ったりしないでいいんだ、素直になれよ」
 祐一に寄りかかって甘えている香里の頭を撫で、昨日の「処女の代金は210円(消費税含む)」を公表されないよう努力してみた。
「だって、好きになっちゃったんだもん、仕方ないじゃない」
 文字通りカラダが離れないのか、充電中なのか、祐一に張り付いて離れず、胸に顔を埋める香里。
「うわっ、やっぱジゴロだ、香里も変なオクスリ注射されちゃって、ハマっちゃってるよ」
「あの香里が、たった一晩でここまで」
 何やら逆効果だったようだが、全員ドン引きしたまま帰って、北川他数名にボコられるのは阻止…… できなかったかも知れない。
『じゃあ相沢くん、私にもしてよっ、「もう体が離れられない関係」ってのっ、私も皆に自慢したいし~』
 今の声は変に思えたが、小柄な少女は両側から叩かれてリボンが片方飛んだ、こういう時のオチ担当らしい。
「あははっ」
「お嬢も寝とる気マンマンかよっ!」
 香里にも笑顔が戻り、再び明るくなったように見えた病室、そこで飛んだリボンを拾った少女が、肝心な事を聞いた。
「ねえ香里、ちゃんと避妊した?」
「え~? ヒニンって何ですか~? あたし保健体育ニガテだから~、イミワカンナ~イ?」
「あははっ」
 香里はド底辺高校の生徒でもないくせに、カタカナ言葉を混ぜて頭が悪い振りをした。そこでまた祐一の予知能力?が発動した。

 祐一妄想中…
 昼休みの教室で、何故か茶髪にギャルメイクの、ケバい感じのカヲリが、ネイルの手入れをしながらエロ自慢話をしていた。
「アタシ~、もうユーイチにスッゴイことサレチャッテ~、体がハナレラレナイ~みたいな~、エロいカンケイにされちゃて~、もう超ヤバのエロエロで~、今~「愛のドレイ?」みたいな~」
「それ超ヤバクない~? アタシ~、モトカレにもそんなハイテク男いなかったし~」
 さらに金髪ギャルメイクのナユキまで、頭と股のユルそうな女に変身し、バイト先のキャバ嬢のような「ペガサス昇天盛り」でキメていた。
「アイザワってヤバくな~い? 超ホスト向いてるっていうか~、今すぐ転職しろって感じ~」
「ギャハハハッ! 言えてる~、カオリみたいなババア系、すぐダマせるっていうか~」
「ダレがババアだっつーの、アタシ~、ジュンアイ系だし~、超つくす方だし~、コドモデキたらスッゲ~名前考え中だし~」
 そこに「武闘派」のダブリで一年のシオリが、「兵隊」を連れて三年の教室に乱入し、教室の後ろの扉をガラスが割れるほど勢い良く開けた。
「オー! アネキー! 今日こそユーイチの兄貴返してもらうかんなーっ! 覚悟しやがれっ!」
 そのお姿は白の特攻服にアフロヘアー、金属バットにメリケンサック、背中には「喧嘩上等!」腹と胸にはサラシ、超ロングのスカートに、素足で踵を踏み潰した靴、改造した制服には龍や虎の刺繍、内張りには何か分かりにくい短歌が刺繍で縫い込まれていた。
「コギャルのババアどもっ、キョーこそケッチャクつけてヤンヨ!」
「ナニ、テメッ、ジョートーダッ、ブッコロシテヤルッ!」
 仲間のミシオとかマコトも、頭の悪そうなカタカナ文字で喋り、シオリと似たような気合の入った特服を着て、背中には「七生報国!」「夜露死苦!」、中卒で部外者のマコトは特服上下、鉄パイプやチェーンで武装し、原チャリ用の半キャップヘルメットからは、パーマやブリーチで傷みきった髪がはみ出していた。
「ああ? やんのか? アタシらのシマでデカイツラすんなよっ、コブタどもっ」
 三段警棒を振り出し、立ち上がるカオリ、ナユキ他数名、各自スタンガン、マスタードスプレーなど予備の武器も装備している。
「ッッシタラッ! カッ! テメッ! シッ!」
 頭に血が登って、既に日本語にならない何かを口走りながら突撃するヤンキー軍団。
「かかって来いやーーっ!」
 ギャルのチーマーとヤンキー軍団の抗争で無茶苦茶にされる教室。シオリのフルスイングのバットを、三段警棒を持ったカオリは難なくかわしたが、それはもちろん祐一の腹に収まり、北川と一緒に場外ホームランをキメられた。
 以上、ド底辺高校の昼休みを見てしまった祐一の妄想が終わった……

 香里のエロ自慢話が続く中、体の心配をした少女が話を続けた。
「でも、避妊だけはしておかないと、学校戻れなくなっちゃうよ」
「もう戻れないわ、昼の散歩だけで、付き添いがいないと出られないんだから、通学なんて夢のまた夢」
 折角エロ話で盛り上がっていた病室は、また現実に引き戻された。
「検査の結果とかも良くなってるんだろ? 栞みたいに二ヶ月もしないで治るさ、また学校も行こう」
 秋子の言葉を信じて、無責任な発言をしてみたが、特に後ろ盾があるわけでもなく、何の保証もない漠然とした話を口にしてみた。
「相沢、調子のいいことばっか言ってんじゃないよ」
 綺麗事だけ並べて嘘で騙すのが嫌いな友人が、祐一に突っかかって来てしまった。
「何でもうちの家系には、そんな力があるらしい、癒やしだとヒーリングみたいな力が。名雪の母親が言うんだから間違いない」
「秋子さんが?」
 心当たりがある者もいたのか、秋子の言葉なので信頼が高いのか、とっさの話でも通ってしまった。ここで栞を呼んで、例の曲芸でもやってもらえばさらに信じてもらえそうだが、手品のタネも分からない状態では、来客を驚かすのも難しいのでやめた。
「俺の力が無くなったら、次は名雪呼ぶからさ、仲直りしてやってくれよ」
 香里は無言で答えた。顔色を変えるのも、表情を変えるのも、言葉を発するのも、全てが今の感情を現すのに不適切なので、無言で通した。
「お前らまた喧嘩したのか? 前は「夫婦喧嘩」って言ってやれたのにな、今は相沢と不倫か? 名雪が元カノってとこか?」
「また名雪とねえ? 今度は何したの? ああ、聞かなくてもなんとなく分かった、三角、いえ、四角関係? ひどい話ね~」
 それでも香里が無反応だったので、リボンの少女が気付いてはいけないことに気付いた。
「あ~、相沢くんジゴロだから、名雪にも手出しちゃったんだ~、そうだね「恋は距離」って言うもんね~、それで隣の部屋に住んでる名雪が正妻で、妹ちゃんが彼女、香里が愛人なんだ~~」
「エッ? ナンノコトカナ、オレ、シラナイヨ」
 バッチリ当てられてしまったので、目は泳ぎまくり、声もカタカナ文字になり、イントネーションもおかし過ぎる祐一。
「そっか、名雪がいつも寝てるのって、夜は寝かせてもらえないからなんだ~」
「チガウヨ、チガウヨ」
 やっている最中でも寝るので、名雪の睡眠に関しては祐一に罪はない。
「来るのが遅いって言ってたけど、家で名雪に捕まって「わたしを置いていかないでっ、ゆういち~~」って言われて、縋り付かれたのを蹴って出て来たんだろ? 鬼畜~~」
 名雪のキャラまで把握されているらしく、まるで見ていたかのような名探偵の推理で、うぐぅの音も出ない祐一、蹴ってはいないが、ほぼ正解である。
 そこで香里の左手の握力がゴリラ並になり、捕まっている腕がミシミシ鳴り始め、胸に置かれていた右手の爪が刺さり、そのまま下方向に「ギーーーッ」と音が聞こえるほど引っ掻かれた。
「イタイ、イタイ、ユルシテ」
「ねえ、祐一? 名雪と栞、二股かけてたのよね、もしかして秋子さんとも関係あるの?」
「シテナイ、シテナイ」
「お~~、秋子さんとも。五角関係かスゲーな? まあアタシも男だったら、秋子さんと同居したら堪らなくなって絶対イッてるよな」
「シテナイ、シテナイヨ」
 さすがの「鬼畜姉妹丼男」でも、血の繋がった叔母とするほどの鬼畜ではない、祐一はこの危機から脱出する手段を考えていた。
「アノ、チョットトイレニ、イキタインダケド」
「そこに尿瓶あるわよ、女用だけど」
 香里の言葉を聞いて、何故かドアを閉め、鍵を掛けている少女がいた。
「アレ、ナニシテンノ?」
「相沢、腰の物をだして貰おうか?」
 床下から尿瓶を出す少女もいて、香里は祐一のチャックを下ろしている。
「ミンナ、キュウニドウシチャッタノ?」
 祐一クンはお小水とか精子をカツアゲされ、集団レイプされそうになっていた。

 選択肢
1,全員に順番でここでヤられる
2,どうしてもトイレに行く
3,大声で栞に助けを呼ぶ
4,秋子ちゃんと愛の逃避行
 選択「2」

「アノ、ドウシテモトイレにイキタインダ」
 まるでゾンビのように寄ってきた少女を押しのけ、何とか内鍵を開け通路に出てみたが、まだ19時の病院は深夜のように静まり返っていた。辺りを見回しても誰もおらず、通路か近くのベンチに座っているはずの栞もいない。
「どうなってるんだ?」
「さ、トイレに行くんでしょ?」
 香里に左手を掴まれたまま、合計五人の女に囲まれて「女子トイレ」に連行されていく、やがて一行は車椅子も入れる広めのトイレに入って内鍵を掛けた。
「ねえ、みんな、男の子がする所見たことある?」
 昨日同様、慣れた手付きで祐一クンのオットセイを連れだして、早速調教を始める香里。
「無いけど。これに出してよ」
 トイレなのに、先程の尿瓶を出され、違和感を感じる祐一。大勢の女子に見られるのも嫌だったが、尿瓶に出す意味が分からなかった。
「ほら、いっぱい出しなさいよ」
 違うものを絞り出す気満々で手を動かす香里、現在祐一は香里の左手で腕を掴まれたままで、別の少女が差し出す尿瓶にオットセイ君が入っている。
『香里、アレも出しちゃってよ』
「おお、見たい見たい」
 合計十個もの少女のキラキラした目で、興味津々の表情で見られた上、指でツンツンされ、ムクムクと成長して違うのも出ちゃいそうになるマゾい祐一クン。
『出、し、てっ、出、し、てっ』
「だ~せ、だ~せ」
 変なコールまで始まってしまい、本当に尿意があった祐一も出してコールに逆らえず、香里の攻撃によって別のものを出す前に「彼女の友人前公開放尿プレイ」に挑戦してみた。
「ああっ、出てる出てるっ」
「へえ、こうなってたのか?」
 放尿中は香里の攻撃も止み、静かに見守っている一同。しかし祐一が出し終わっても、便器に流そうともせず持ち去り、別の女が出したカップに移し替えて蓋をしている異常な光景も目にしてしまった。
「あれ、何してるんだ?」
「さあ、飲むんじゃないの? あたしも一回飲んでみたいな~」
 正常に会話しているように見えて、どこかおかしい香里。目付きもトロンとして、催眠術にでも掛かっているように思えた。
(尿サンプルの回収に成功)
 そこで、普通の声ではない何かが聞こえた、リボンの少女の声にも似ていたが、何かが違う。以前、舞に睨まれた時に同じ声を聞いたような気がする。
『ねえねえ、次、こっちに出してよ』
 リボンの少女は、先程の尿サンプルよりは小さなカップを出し、香里に「精子サンプル」を出すように言い出した。違和感を感じまくった祐一は……

 選択肢
1,友人達の眼の前でたっぷり出してやる
2,断固拒否する
3,お前ら全員体が離れられなよう調教しちゃる、順番に直に種付けしてやるからケツ出して並べっ!
4,秋子ちゃんと愛の逃避行
 選択「2」

「いやいやいや、ムリムリムリムリ」
 香里はカップを受け取り、手での攻撃を続けようとしたが、祐一は何か嫌な予感がしてオットセイ君をしまい込んだ。
『え~~? もっと見せてよ~、私がしてあげるからさあ』
 先程の香里の手の動きを真似、手コキまでしてくれると言う少女。
「いやいや、それはだめだろ」
『じゃあ、お口でしてあげる』
「もっとだめだろ、付き合ってないし、キスもしてない相手と……」
 キスもしたことがない、苗字しか知らない程度の女がフェラまですると言ったが、断るとリボンの少女は祐一に抱きつき、結構濃厚なキスをして来た。
(うっ、まずいっ、香里の前でっ)
 舞と会話しただけで浮気認定、キス疑惑まで持たれたので、ディープキスの場合はどうなるのか? 現在ゴリラのような腕力で掴まれている左腕は粉砕されるに違いない、祐一は香里の鉄拳制裁を思い、身を固くした。
「も~、お嬢はいっつも、人が持ってる物すぐ欲しがるんだから」
 キスから開放されて涎の銀の橋が掛かっても、明らかに舌まで入れた濃厚なキスを見せられても、香里は怒りもせず、持ち物に対する物欲を責める程度の指摘しかしなかった。
 そこで祐一は、ディープなキスをしている最中から、写真に撮られているのに気付いた。
「え? 何? 脅迫写真?」
『記念写真だよ、ファーストキスの記念』
 その割には上手で、舌を入れるのにさえ全く躊躇が無かったリボンの少女は、祐一の口をハンカチで拭き、後ろを向いて自分の口を拭く振りをしながら、先程の小さめのカップに祐一の涎を流し込んで蓋をした。
(唾液のサンプル回収に成功、口を拭いた聖遺物も回収)
 先程と同じく、精度が悪い雑音だらけのマイクが拾った音のような、変な声を聞いた気がする祐一。それで疑惑は確信に変わった。
『相沢くん、ついにチューまでしちゃったね、私達もう恋人同士でいいよね?』
「え~、いいな~、アタシにもしてよ」
 香里の様子を見ながら、別の女まで祐一に迫るが、香里は怒りもせずにこう言った。
「仕方ないわね、みんなキスまでよ、祐一もそれ以上しようとしたら、許さないんだから」
「やり~~っ」
「お口の処女卒業ってカンジ?」
 明らかにおかしくなっている香里と友人達。そう言えば先程からずっと、リボンの少女の語り口調もおかしい。声だけでなく、頭の中にまで響くようで、その声を聞くと逆らう気が起きなくなる。
「私は遠慮しとこうかな? だって香里に悪いし」
「アホか? アタシらこのために何年「草入り」してると思ってるんだ」
(黙れ、正体を明かすつもりか?)
 キスを遠慮した少女を、祐一に向って押し出した少女の言葉の意味が分からず、また違和感を感じたが、リボンの少女の心の声が響くと、他のメンバーの動きが止まった。
「ごめん、だってファーストキスがこんな所で、それも香里の彼氏だなんて、悪いなって思っちゃって」
 震えながらキスを拒んでいた背の高い少女も、言葉とは裏腹に祐一迫り、小鳥のような口の先が触れるだけの軽いキスをされた。
『だ~め、やり直し、もっと息を吹き込むみたいにしてもらわないと。ねえ相沢くん、人工呼吸してあげてよ』
「えっ?」
『私達も香里と一緒でさ、血が足りなくなる病気なんだよね、この辺の風土病なのかな? だから香里にも頼んで、私達も治してもらおうって決めたの』
「ああ、そうだったのか」
 頭の中の違和感を消され、治療のためなら仕方ないと思い直し、震える少女を捕まえて、人工呼吸をしてやる。
「ふううっ」
 祐一の吹き込む息が、鼻から抜けているのに気付き、鼻を摘んでもう一度強く吹き込んでやる。
「うううううっ」
 目を見開き、口をふさがれたまま悲鳴のような喘ぎ声を上げる少女。祐一を突き飛ばすように離れると、よろよろと後ずさって、座れる場所を見付けて便器の蓋の上に座り込んだ。
「はーーっ、はーーっ、はーーっ」
『ねえ、どうだった?』
「ええ、凄い気が流れ込んできて、入りきらないぐらいに。これなら香里が良くなったのも分かります」
『そっか~、じゃあ次行ってみようか』
「アタシ、アタシ」
 言われるまでもなく祐一に襲いかかった少女は、早速ディープなキスを始め、人工呼吸もしてやると、先程と同じように体がパンクする前に祐一を突き飛ばして離れ、両手で腹を押さえながらトイレの壁にもたれ、下にずり落ちて行った。
「キッツー、これ、キスだけで孕んじゃうよ、こりゃあ癖になるわ」
 最後の少女も、期待と不安が混じった表情をしながら、鼻を摘まれ人工呼吸を受けた。
「ううううっ!」
 祐一を突き飛ばせず、モタモタしている内に、鼻で呼吸した祐一に二度目の人工呼吸を受けると、立っていられなくなったのか、その場に座り込む少女。
「あっ、あたしパンクしちゃったかも? ダメダメ、怖い怖い怖い」
(チャクラが開いただけだ、じき収まる、心配するな)
 額や胸を押さえて怖がる少女に、あの声が伝わると恐怖の表情が消え、友人に引き起こされると、やはり腹を押さえて壁にもたれた。
「あっ、出ちゃう、中身出ちゃうよっ」
 耳や口だけでなく、乳首、ヘソ、アソコ、お尻など、何か出そうな穴を上から順に押さえる気の毒な少女。やがて人体の機能で「出してしまっても良い物」が選別され、顔色が悪くなった少女は、鍵を開けて近くの個室に駆け込み、盛大に前後から出る音で合奏を始めた。
「イヤッ、キカナイデッ」
 隣から聞こえる小さな金切り声や水を流す音より、何かの突出音が大きく、空気が混じった音になると、一緒に泣き声も聞こえたような気がした。
「相沢、聞かないでやってくれ」
「え? ああ」
 別の少女に耳を塞がれ、静寂に包まれるトイレ、やがてトイレットペーパーを回す音が聞こえ、大きすぎて流れなかったのか、洗浄音が三度聞こえた。
「あれ、便秘にも効くんだ」
 暫くすると、手を洗う音がした後にドアの前に立つ人影が見えたが、一向に入って来ない。心配した友人がドアを開けると、その少女は両手で顔を覆い、シクシクと泣いていた。
「私、もうお嫁に行けないっ」
「心配すんな、相沢の耳は塞いでたから」
 少女は友人の気の毒そうな表情を見て嘘だと気付き、まだ耳を塞がれている祐一をキッと睨んだが、目を合わせられず顔を赤らめて下を向いた。

「次はあたしの番ね、本当のキスを見せてあげるわ」
 そこで、場の雰囲気を良くしようとしたのか、今までの光景を見て嫉妬していたのか、香里が近寄ってきた。
「香里、便秘は無いのか? トイレ……」
「真ん中のトイレは使っちゃダメッ」
 友人の言葉を遮って叫ぶトイレの少女、やはり流れなかったらしい。
「フン、トイレなら目の前にあるじゃない、そこですればいいんでしょ?」
「お前、相沢に見られても平気、いや、見せるつもりなのかっ?」
 唖然として見守る一同の中で、香里の真意に気付いた少女が叫んだ。
「その辺のお綺麗なアイドルじゃないのよ、あたしの一番汚い所も見てもらわなくちゃダメでしょ」
 友人の恥を掻き消すためなのか、「友人及び恋人の前で公開出産?プレイ」に及ぼうとしている香里。
 昨日までとは全く変わってしまった二人の関係。自分を出さない栞とは違い、たった一晩で自分の内面の汚い部分も、何もかもさらけ出した香里とでは、絆の深さまで逆転してしまったように思えた。
「キスってのはこうやるのよ、見てなさいっ」
 宣言するとすぐに詰め寄られ強引にキスをされた祐一。自分で鼻を摘んで人工呼吸も要求されたので、さっきの要領で気を込めるようにして香里を膨らませ、離れようとしないので鼻で呼吸し直し、三度に渡って気を送り込んだ。
「ぷはああっ!」
 ようやく口を離した香里は、一気飲みをしたオッサンのような呼気を出した。体が膨らんだのか一回りほど大きく見え、鼻や口から蒸気のような何かを吐きながら腹を押さえ、目の前の壁「祐一の胸の中」に飛び込んで体を預けた。
「どう? こうすんのよ」
 友達の前なのか見栄を張り、他の友人が耐えられなかった回数をこなしたのを自慢するが、足が震えて立っていられないのは公表しなかった。
「おお~~っ」
「香里、トイレ大丈夫? 早めに行くんだよ」
 目の前の便器ではなく、外を指差して誘導する気の毒な少女。

 選択肢
1,祐一の目の前でたっぷり出してやる
2,祐一が来る前の準備に出してしまったので、残念ながら出ない
3,がんばって小さい方だけでも出す
4,秋子ちゃんと愛の逃避行
 選択「2」

「残念、祐一が来る前に出しちゃったから、出そうに無いわ」
 そう言いながらも診察衣をたくし上げ、下着も降ろして便座に陣取る香里。
「香里、あんたメンタル強すぎ」

 そこで、ドアがノックされ、外から声が聞こえた。
「すみません、病院の者ですが、お具合大丈夫ですか? 倒れてらっしゃいませんか?」
 少女達は顔を見合わせ、集まって心の声で会話しだした。
(人払いの術が破られました。表にいるのは病院の者ではありません、発覚しました、お嬢様はお逃げ下さい)
 見舞客のうち一人は、リボンの少女の付き人だったらしく、敬語で話し「お嬢様」とまで呼び始めた。
(事を荒立てぬように、静かに、静かに退くぞ)
『すいませ~ん、ちょっと女の子同士てダベってたんです、すぐ出ますから~』
 扉越しに術を掛け、様子を伺ってから鍵を開け、ゆっくりとドアも開ける。自分より下位の術者には効いたようで、虚ろな目をした人物が軽く注意をした。
「もう…… いけませんよ、車椅子の方はここしか使えないんですから」
『は~い、気をつけま~す』
(散れっ)
 先程の尿サンプルを入れた鞄を後生大事に抱えた少女が飛び出し、唾液のサンプルを持った少女も逆方向に走っていく、聖遺物とまで言われたジップロックに入ったハンカチを渡された少女も、脱兎の如く走り去った。
『じゃあ香里、私達今日は帰るねっ、また明日も来るからっ』
 リボンの少女も、香里に一声かけると走って帰って行った。呆然と見送っていると、職員らしき女性も出て行ったので、祐一も女子トイレから出られた。

 その後、ふらふらになった香里を病室に戻すと、すぐに眠り始め、治療?が効いたのか大の字になって、いびきまでかきはじめた。
「おい、大丈夫なのか? おい」
「眠たいのよ、寝かせて」
 起こそうとすると邪魔だと言いたげに振り払うので、意識はあるようなので安心する。母親と栞が帰って来ても、同じ調子で「もう食べられない」などとホザいたので、一般病棟の面会時間が終わると、香里を置いて帰ることにして、祐一もタクシーで送ってもらい、その日は解散になった。

「うぐぅ、あの子たち誰なの? 祐一クンが危ないよ」
(さあ? 地元の子じゃないね、どこから来たんだろう? でも、相沢祐一も嫌がりもせず、嬉しそうにしてるじゃないか?)
「祐一クン酷い、香里さんも変だよ」
(香里さんは術に掛けられてるよ。ほら、力が強い子が『こうやったら色々命令できるんだよ』知ってた?)
「天使の人形様、何でもお命じ下さい、ボクは貴方様の下僕です」
(あ~あ、効き過ぎちゃった、『もういいよ、元に戻って』)
「うぐぅ、何か酷い目にあったような気がするよ」
(あははっ)
 
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