詩織の【全裸のモーニングサービス】
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彼が寝ている隣の部屋で
夏休みの朝、私の部屋には二人の男がいた。
ひとりは彼だけど、もうひとりは、ミツキとかいう名前だったな。どんな字を書くんだろう?
ふたりは昨夜1時過ぎ、酔った状態で転がりこんできた。どんな飲み会だったか知らないが、かなりの泥酔。
お手洗いを貸し、水ぐらい飲ませたけど、あとは放置……したかったけど、ふたりとも勝手に下着姿になって床に寝たものだから、毛布はかけてやった。
私も、いつもの格好(ショーツ一枚)で寝るわけにはいかず、
Tシャツとホットパンツでベッドに入った。
で、朝。
彼でないほう、つまりミツキ君が先に起きるのは、お約束よね。
◆
――おはようございます。ご迷惑おかけしました。
礼儀正しいミツキ君だった。
もちろん、きちんと服を着てるよ。
というわけで、ここからは、“彼”というのはミツキ君のことだからね。
◆
Tシャツに生脚のままの私は、彼と一緒に朝食。ご飯に味噌汁。スクランブルエッグ。
彼はお酒の分解が早いのだろう、見たところ、完全に平常だ。
コーヒーはインスタントだけど、いわゆるモーニングコーヒーの気分だった。
あ、彼は全然私のタイプじゃない。嫌いとまでは言わないけど、なんというか、ねぇ。
ところが、
食器を流しに運んだあとだった。
彼が、私に見せた自分のガラケーの画面に、あっと声を上げてしまった。
私のヌード画像。
ベッドに腰かけた全裸の私の乳房や脚が、自分で言うのもなんだが、美しい。実は嬉しかった一枚だ。
サンタフェ、とかいう超有名な写真集に、似たようなカットがあるらしい。
夕べの飲み会で、どちらからともなく恋人自慢になった時に、“証拠”として赤外線で送りつけられたのだという。
◆
「消しますね」
彼はガラケーを操作しようとする。
「いいよ。持ってて」
つい言ってしまった私。
驚く彼。
だって、正直だから。
削除も保存も、私に内緒でできるのに、そうしないなんて。
中学生の時、クラスの男子が、私のパンツを見てしまった、と謝ってきたことがある。
確かにハーパンをたまたま穿いてなかったから、移動教室への階段とかで見えたのだろう。
……ちょっと嬉しかった。
その時も「別に、いいよ」とか言ったと思う。
短大生になってもその気持ちは同じだが、
それだけじゃ、つまらない(?)
「ただ、私にもあなたの彼女の裸の写真を見せて」
◆
私は、全裸で、リビングの床に体育座りのポーズをとっていた。
彼の自慢の彼女、リナさんのヌードはガラケーに一枚しかなかった。
当時のリナさんは高校3年生。
バージン最後の裸身として、決死の思いで残した写真だが、乳房の膨らみすらわからない、縮こまった体育座りのポーズでしか撮れなかった。
それほど、恥ずかしかったのか、怖かったのか。
でも、けなげだな。
その恥ずかしさに耐えて裸になって、処女を捧げたんだ。
◆
リナさんは暗い部屋でしか抱かれないという。
彼は、恋人の完全な裸体を数えるほどしか、しかも暗いベッドの上でしか、見たことがないという。
明るい場所で見る、初めての裸の女性が、私。友達の彼女。
彼は、興奮しているというより、感動していた。
隣で本来の彼が寝てるけど、あの状態で起きてくることはない(学習ずみ)。だいたい、私のヌードを流出させた張本人ではないか。文句は言わせない。
◆
公平という観点から、体育座りのポーズだけ、撮影を許可した。
ただ、乳房は隠さなかった。
隣の部屋の爆睡野郎に遠慮してか、恐る恐る私のヌードを鑑賞する彼。
あ、そういうの、嫌いじゃない。
私は、彼に歩みより、彼の手を取って、私の胸にあてさせた。
「明るい部屋で、いいよ」
◆
セックスが始まった。
乱暴にしていいよ。リナさんじゃできないこと、していいよ。
おおいかぶさってきた彼に言ったのは、それだけだった。
でも、普通に私を組み敷く体位は変えなかった。
実は、明るい部屋でのセックスは、私も恥ずかしい。
恥ずかしさを上回る快感が押し寄せるから、恥ずかしくなかったと錯覚してしまうのだ。
たとえば、ビキニの水着もレオタードも恥ずかしいのは最初だけで――
「あっ!」
もう、彼が、入ってきた。
まだ濡れかたが足りない。すこし痛い。
「う、うう」
組み敷いて動きを封じた私の中を、じわじわと進む彼。
私におかまいなしの、自分がしたいままの行為だとすれば、十分乱暴かもしれない。
ここで、思い出したように胸に伸びる手。
「あんっ!」
突起をねじられた。もちろん痛い。
でも、これが快感に変わるなら、声が抑えられない……。
「ううう、う、あ、あ、あ、あぁ、だ、だめ、だめ、あ、あ、……」
初めてなのに、合ってしまった裸体のリズム。
◆
最後まで正常位だったが、
男の体重で押さえつけられて苦しい、下手と紙一重のセックスだった。
「ぐっ、うぐっ、う、うう、うう、うぐっ、あん、あんっ」
(もうやめて、やめ……)
その時、唐突に引き抜かれる、それ。
次の瞬間、それは、私の口におさまっていた。
(えっ?!)
口の中にほとばしった。
◆
これも未経験だった。
洗面台で、吐き出した。
顔をそむけて、蛇口をひねった。
裸のまま座り込む私に、彼が近づいてきて、謝った。
全裸のままだったが、彼のどこも見ることができなかった。
◆
別々にシャワーを浴び、一糸まとわぬ姿のまま、コーヒーを飲み直す、ふたり。
怒ってないよ、という私の言葉に、彼は心から安心していた。
そう、ほんとに私は怒ってない。
放出なんて、すべて信頼してないと、できないことだと思うから。
◆
そのあとは、
彼はきちんと服を着て、私はショーツだけ穿いて、記念のツーショット撮影をした。
彼を送り出しても、タツヤは爆睡していた。
あれをくわえてやれば、さすがに起きるか、なんて考えた……ような気がしないでもない。
――――――――――
(終わり)
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