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IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》

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【第558話】

 美冬達が浴場で騒いでいた一方、場所は変わってIS整備室。


「うーん。 やっぱり自動修復を待ってなんていられないわね」


 軽く息を吐き、一人ごちる更識楯無。

 普段なら制服を着てるものの、今日は珍しくISスーツに着替えていた。

 目の前にある完全展開された【ミステリアス・レイディ】、見るからに装甲や武装類が中破していた。


「基本部分は大丈夫だけど……装甲何かはダメね。 武装は替えの武装あるからいいんだけど――でも、今の現状で学園最強を名乗ったら皆に笑われちゃうわね」


 困ったように笑う楯無――と、整備室の自動ドアが開いた。


「あっ、楯無さん。 やっぱりここに居ましたね」

「え?」


 ドアから現れたのはヒルトだった、突然の想い人の登場に楯無はテンパり始めた。


「な、なぁっ!? ひ、ひ、ヒルトくんっ!? ど、どうしてここに――」


 先日、自身のヤキモチで辛辣にした手前、逢いたいけど逢いたくないという複雑な乙女心に悩まされていた。

 だがヒルトはそんな事すら気にせず、楯無に会いに来てるのだからテンパるのも仕方ない。


「どうしても何も、母さんに用事があってその帰りに整備室に明かりが点ってたから誰かなーって窓から覗いてみたら、たてな――刀奈が居たから」


 刀奈――そう呼ばれ、激しく狼狽する刀奈、小さく小声で呟いた。


「……ふ、不意打ちなんて卑怯よ……」


 その呟きはヒルトに勿論聞こえていた、地獄耳――という訳ではないのだが昔からそういった小声を聞き分けれる。

 それはそうとヒルトの手から提げてる鞄の中身が気になり、話題を変える意味でも刀奈は――。


「ひ、ヒルトくんっ! その鞄の中身は何!?」

「え? 母さん用の夜食のおにぎりですね。 ……まあ実際二、三個食べただけでまだかなり残ってますから部屋に戻ってから俺が食べようかなって」


 そういって手下げていた鞄を見せるヒルト、ふと刀奈のお腹がくぅ……っと情けない音が鳴った。


「あ……ち、違うわよヒルトくんっ!? お、お姉さん夕食食べてないだけでお腹空いてないんだから!!」


 お腹の音に赤面しつつ、必死に言い繕う刀奈の姿は何処か新鮮だった。

 少し笑みを浮かべ、ヒルトは――。


「せっかくだし、一緒に食べますか?」


 そう告げると、一拍間を空けて髪をかきあげながらヒルトの近くまでやって来た。

 自動ドアに鍵を掛ける刀奈は、上目遣いでヒルトを見上げる。


「せ、せっかくだからお姉さんも一緒に食べてあげる。 け、決してお腹が空いたからではありませんからね、ヒルトくんっ」

「はいはい、じゃあ何処で食べます?」

「はいは一回! ……そうね、少し品が無いけど床で食べましょうか? ……せ、背中合わせで」


 何で背中合わせって言ったのか自分でもわからなかった、多分赤くなった自分を見られたくないとかそんな下らない理由だろう。

 じゃなければ好きな男子と面と向かって食べないという選択肢はないからだ。

 一方のヒルトは小さく頭を傾げながらも――。


「わかりました。 んと……じゃあこれを敷くんで、刀奈はここに座ってください」


 綺麗なハンカチを取り出したヒルトはそれを床に敷き、背を向けて片膝を立てる様に座った。

 ヒルトの小さな気遣いが嬉しかった、当たり前の行動一つで心が暖かくなった。

 背中合わせに座り、三角座りをする刀奈はヒルトに背中を預けるようにもたれ掛かる。

 一瞬反応するヒルトに、刀奈はくすっと笑みを浮かべると改めて今、彼に一番近いのは未来ちゃんではなく自分なのだと頷いた。


「ねえ、ヒルトくん?」

「ん? どうしました?」


 呼び掛ければ直ぐに反応する、そういうのも悪くないなと改めて思う刀奈。


「最近……どう?」

「どう……とは?」

「調子とかどうかなって」

「ん~。 何の調子かによりますね」


 体調なら問題はない、金回りならどうしようもなく、かといえば代表候補生になれなかったのを聞かれてるのであれば特に興味がないとしか言い様がなかった。

 刀奈自身も何の調子聞こうかとも思ったが、曖昧にして言ってみた。


「ぜ、全体かな。 ヒルトくんにとっての全体的な調子よ」

「全体……まあ色々ありますが、頗る悪くないとは思います」

「そ、そうなんだ」


 それだけを聞くと二人の間に沈黙が訪れた。

 刀奈自身、会話が途切れるとは思わず、仮に何を話せば良いのやらとぐるぐる二十日鼠の様に思考が乱される。


「んと、とりあえずおにぎり食べて良いですよ? 俺も小腹空きましたし」


 そう言ってヒルトは大きめの弁当箱を取り出し、中を開いて見せた。

 シンプルな塩おにぎりから定番の鮭やツナ、梅干しや昆布などが入ったおにぎりが列を為して現れた。

 一角にあった三個だけは抜けているのだが。


「じ、じゃあ頂くわね?」


 そう言って手近な鮭おにぎりを取り、そのまま小さく一口食べるとお腹が空いていたのもあってか凄く美味しかった。


「ん♪ 美味美味♪」

「ははっ、なら良かった」


 ヒルトはそう言ってからシンプルな塩おにぎりをぱくっと頬張る。

 暫くおにぎりを食べもって二人で互いに他愛ない話を繰り広げていく中、ふと時計を見たヒルト。


「っと、そろそろ戻ろうかな」

「えっ!?」


 楽しい時間の唐突な終わりに、刀奈は大きく反応してしまった。

 だが、刀奈自身も時間が時間というのも時計を見て気付いてしまった。

 だけど――またいつ二人っきりでこうした時間が生まれるかわからない。

 立ち上がろうとするヒルトの袖口を咄嗟に掴み、刀奈は――。


「ま、待って!」

「え?」


 袖口を掴まれ、振り向くヒルト。

 刀奈はそんなヒルトの顔を見ると言葉が出なく、徐々に赤面していった。


「ヒルト……くんっ!」

「え――おわっ!?」


 そのまま立ち上がるとギュッと背中に腕を回して刀奈はヒルトに抱きついた――そして。


「ま、まだ……一緒に居たいの……っ」

「え? ……了解です、刀奈」


 頭の上からそんな優しい言葉が下りてきて、思わず表情が崩れる刀奈。

 同時に、この間ヤキモチ妬いた事に対して怒った事を謝る絶好の機会だと思い――。


「ヒルトくん……この間はごめんなさい。 冷たくしちゃって……」

「え? ……全然気にしてないですよ? 俺ってアホだから寝たら忘れるんですよ」


 不意にヒルトの手が刀奈の髪に触れ、優しく撫で始めた。

 子供扱いされてる――昔ならそう思ったが今は好きな男の子にこうされるのも心地いいなと思ってしまった。

 暫くそのままの状態が続き、気付くと寝息をたてる刀奈にヒルトは――。


「……やっぱり疲れてるんですね。 国家代表で学園生徒会長……後は更識家当主の重荷。 ……今はゆっくり休んでください」


 そう呟くとヒルトはミステリアス・レイディを待機形態へと戻し、背中に彼女をおぶると二年生寮へと送り届けたのだった。 
 

 
後書き
次回から多分運動会かも 
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