IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
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【第590話】
四戦目前の補給時間、従来なら整備班の誰かが行うことをヒルトが全てやっている。
補給が終えたら直ぐに試合――本来であれば休憩時間を挟むのだが時間の問題で許されていなかった。
気を緩めることなく、試合に望むヒルトに少しずつ、少しずつ精神が蝕まれていく。
一方で――。
「これで三連勝! スゴいね、有坂くん!」
「うんうん! わりと順調だし、もしかしたら良いところまで行けそうじゃない!?」
生徒一同、ヒルトの活躍に期待していく――盛り上がる声はヒルトに届かないものの、客席のボルテージは上がっていた。
来客席では――。
「専用機持ちにはパッケージ装備を義務つけろ――ですか?」
「えぇ、オーランドさんがそう仰有っていました」
「おぉ! それはまた見応えのある試合になりそうですな!」
レイアート会長がそれを聞き、その案に賛成する反対派。
パッケージ装備が出来ない機体もあるが、大半は装着可能で機体性能や新たな技能を付加出来る物もある。
専用機――それならばヒルトにもパッケージ装備をと思うが、補給だけで時間手一杯。
無論断ればいいが、断ったら断ったでその弱味につけられ、ヒルトの代表候補生選出を反対派に圧しきられる可能性もあった。
苦渋の決断だが、レイアート・シェフィールドは頷いた。
「……わかりました。 ではパッケージ装備可能な代表候補生は次回から必ず装着の義務を伝えてください。 織斑先生、誰かそれを伝えに行ってもらっても――」
「わかりました。 ……山田先生、お願い出来ますか?」
「わ、わかりました!」
駆け足で山田先生は走っていく、その姿を見た反対派のダスティは顎に指を添えてなぞっていた。
あの教師、以前日本の代表候補生で専用機を持っていた筈だ――。
手元の端末で調べるダスティ、旧来のノートPCだが性能は未だに現役だ。
検索を掛ければ直ぐに出てくる代表候補生時代の山田真耶――それと同じく、当時乗っていた【ラファール=リヴァイヴ・スペシャル『幕は上げられた(ショウ・マスト・ゴー・オン)』】の姿が。
その専用機の所在は不明――だが、先程生徒が面白い話をしていたのを思い出した。
午前に行われたISを用いた騎馬戦で学園内に保有するIS全てを使ったとか、だけどそうなるなら何故山田先生はラファールの部分展開でボーデヴィッヒさんの砲弾を狙撃出来たんだろう――そんな何気ない会話だが、ダスティが疑うには十分だった。
もしかしたら、秘密理に山田真耶がもう持っているのではないか――と。
もしそうなら――ニヤリと笑うダスティは、向こうへと走っていく山田真耶の背中を意味深に見ていた。
補給を終えたヒルト、再度定位置につくと次の相手であるラウラが待ち受けていた。
「ヒルト、連戦で疲れてはいないか?」
「ん……まあ大丈夫さ」
「ふむ。 ……とはいえ、今回もだが嫁といえども手を抜く訳にはいかないのでな」
「わかってるさ、ラウラ」
右手で眼帯を取り外すラウラ――金色の眼が姿を現した。
最初から本気――ラウラは一年の中でも機体込みで最強クラスだ。
勝率も八割――AIC込みでなら九割はある。
普段は解放されない左目を最初からというのは彼女なりの本気だろう。
シグナルの点灯と共にラウラはプラズマ粒子をその手に帯びさせ、それが刃に形成される。
ヒルトも同様に、北落師門・真打ちを呼び出し、構えた。
張り詰めた空気、ラウラの鋭い眼光――五月、初めて彼女とあった時をヒルトは思い出していた。
緑のシグナルが点灯と同時に、二機の凄まじい接近戦が開始された。
互いの刃が交差し、至近距離から放たれる二機のワイヤーブレードによる一撃は、お互い切り払う。
更にラウラは肩の大型レールガンで接射――砲撃が轟くも後ろに回り込む形でヒルトは避ける。
ラウラも境界の目の解放で、ヒルトを見失うことなく振り向き様に攻撃を防いだ。
右手のプラズマ手刀で北落師門を抑え込むと、小さな体躯からなる軍仕込みの格闘術で連撃をヒルトに叩き込んだ。
「ぐっ……!? チィッ!」
更に其処からソバット、更に身体を捻り胴回し回転連撃と流れる様に繋げたラウラ。
シールド・エネルギーが削られるも、連撃の隙を拭う様に胴に一文字斬り――絶対防御を発動させ、ラウラのシールド・エネルギーは大幅に減った。
其処から互いに螺旋を描くように上昇――砲撃戦に移行したラウラは、レールガンを放つ。
一方のヒルトも、電磁投射小銃による一斉射を行うが――。
「無駄だ、AICの前では」
停止結界を前面に展開したラウラ――無数のタングステン弾は空中で静止、落下していく。
だがヒルトは更にワイヤーブレード、肩のランチャー、電磁投射小銃と波状攻撃を仕掛けた。
流石に全てを受け止められないラウラ――結界を解除し、回避機動に移る。
ランチャーの粒子ビームを避け、ワイヤーブレードは自身のワイヤーブレードで対処、電磁投射小銃の弾丸は多少もらうも残りは停止結界で当たる寸前に止めていた。
射撃戦では互いに有効打を与えられない――二人揃ってそう決断するや、同じタイミングで瞬時加速、また激しい近接戦闘が開始された。
「な、何て言うか……スゴすぎ……」
「こ、これが一年生の戦いなの!?」
「ぼ、ボーデヴィッヒさんは分かるけど……あ、有坂くん……明らかにあの実力、E適性受けた実力じゃないじゃない!」
レベルの高い攻防、自分達が一年の頃にこんな戦いは少なくとも出来なかった。
勿論、ヒルト等一年生は入学してからあらゆる事件に対処してきたという他の誰よりも経験してるのもあるだろう。
「す、スゴすぎて……どっちが勝つか何て、わからなくなるよ」
「あ、でもでも、有坂くん押し始めてるよ!?」
大型投影ディスプレイに映し出されているシールド・エネルギーゲージは、均衡を保つように減っていたがここに来てヒルトが優勢に立ちつつあった。
来客席に座っていたオーランドは面白くなかった。
オーランド自身、有坂ヒルトは早くて一戦目のセシリア・オルコットが彼を瞬殺するものだと。
だけどその目論見は外れ、二戦目の凰鈴音、三戦目のシャルロット・デュノアと立て続けに勝利していた。
四戦目のラウラ・ボーデヴィッヒとの戦いもどうなるかわからない。
だが――有坂ヒルトの代表候補生選出はあくまでも【専用機持ち全員】に勝利すればの話だ。
レイアート会長の考えではこれだけの戦いを見せられたら我々の心も変わるだろうと踏んでいるのだろうが、そう簡単にはいかない。
深く腰を下ろし、座り心地の悪いパイプ椅子にもたれ掛かったオーランドは不機嫌な表情で試合の行方を見ていた。
AICでヒルトを拘束と同時に斬りかかるラウラ、ヒルトにはAICは殆ど効かないものの一瞬動きを止める事は可能だった。
その一瞬を狙う――だが、明らかヒルトは停止結界の網の外まで離れてからサイドアタック、後ろに回り込みバックアタックと間合いを読まれている様だった。
実際、ヒルトは何度も動きを止められてAIC範囲外が大体何れぐらいかを把握していたのだ。
繰り返しAICを受けた事による経験――模擬戦等での経験が全てヒルト個人に蓄積された結果だろう。
「ッ……流石は我が嫁だな。 改めて見直したぞ」
「ハハッ。 ラウラに褒められるのは悪くないな」
一旦互いに間合いを取る、シールド・エネルギーは既にラウラは一〇〇を下回り、ヒルトは残り一二〇。
流石のヒルトも連戦に次ぐ連戦で額は汗で濡れていた。
ラウラも同様、激しい接近戦で無意識に汗を拭う。
「……そろそろ決着といくか」
「うむ。 ……ヒルト、どちらが勝っても恨みっこ無しだ!」
叫びと共に飛び出したラウラ、ワイヤーブレード全基射出、先制を打った。
ヒルトもギリギリまで見極め、ワイヤーブレード全基が一直線で並ぶ一瞬に合わせ、ワイヤーブレードを一基射出。
その刹那の一瞬を捉え、六基のワイヤーブレードはヒルトの一基に全て払われた。
その有り得ない光景に一瞬思考が停止したラウラ――だが、その一瞬が命取りだった。
瞬時加速と同時に放たれた一閃は、ラウラの胴へと当てられ、痛みと共に絶対防御が発動。
バリア無効化攻撃は絶大で、その一撃を受けたラウラのシールド・エネルギーは〇になった。
試合終了のブザーが鳴り響く。
「……ヒルト、いつの間にそれだけ腕をあげたのだ?」
「え? ……自分じゃ今一実感ないが……上がってるのか?」
「あぁ。 ……少なくとも、以前模擬戦を行った頃より遥かにレベルが上がっているように思える」
ラウラの言葉に、思い当たるのはここ最近見ていた【夢】が原因としか思えなかった。
何度も現れる仮面の男『ウィステリア・ミスト』の存在。
だが……夢を見たたけで強くなれるなら誰しも苦労はしない。
「……持つべき者の義務《ノブレス・オブリージュ》」
「え……?」
「それと、前に言われた親父の言葉。 『一人の男が世界を変える』……この辺りかな、今の俺の強さは」
答えじゃないことはわかっていた、だけど……夢で見た事よりも【意味のある言葉】の方が信憑性は高いとヒルトは思った。
その言葉を訊いたラウラは、僅かに頬を紅潮させ――。
「ば、バカ者。 ……不意にかっこよく決めるな……」
「ははっ、俺には似合わなかったな」
そう答えたヒルトに、ラウラは視線を逸らした。
恋をしてるからか、何を見ても何を訊いてもかっこよく見えてしまう。
「つ、次の準備もあるだろう! ヒルト、まだまだ続くが……無理はするな。 少なくとも、ヒルトは私達に勝利したのだ、委員会も必ず代表候補生としての選出を考えざるをえなくなるはずだ」
事実、ヒルトが勝つ度に評価は上がっている、モニターしている教師陣ですら評価を改めていた。
従来、モンド・グロッソでも試合後の休憩はある、試合とは神経を磨り減らすものだ。
「そうだな、そうなれば……良いけどな」
ヒルトはそう答えるも、本心じゃなかった。
万全を期す為にも、ヒルトは疲労が溜まろうと勝つしかなかった。
ラウラにサムズアップし、改めて補給に戻ったヒルト。
だが次からの戦いはヒルトにとって更に厳しいものになるとはこの時、誰も思っていなかった。
一部を知る者以外……。
後書き
やっと四人、これ書き終わったのは四日の日曜だけど話考えるのががががが
次の相手からパッケージ装備されます(一部だけ
てかぶっちゃけちょっとはしょりたく思ってる
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