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IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》

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【第580話】

 午後の部、最初の競技である【コスプレ生着替え走】――倫理的にいえば不健全な内容だったが反対するものは居なかった。


「楯無さん、この競技、何なんですか!?」


 いや、一夏が居た。

 ぶっちゃけ俺も倫理的にアウトだが、決まったものを覆す事は出来ないとは思っている。

 きょとんとした楯無さんは――。


「え、そのままの意味だけど?」

「いいんですか、倫理的に!」

「いいんじゃないの? だってここ、IS学園だもの」


 何者にも干渉されない唯一の学園、IS学園故の事だろう。

 俺自身、もうどうこう言うのは止めた。


「いや、だって、ほら……ひ、ヒルトからも何か言えよ!」


 まさかの飛び火、視線が俺へと向けられたが――。


「諦めろ一夏、学園以前に女尊男卑。 俺一人が何を言っても意味はないさこれがな」


 実際意味はない、やり取りも不毛だ――始まるなら成り行きを見守り、見たくないなら目を瞑ればいいだけの話だ。

 釈然としない一夏だったが、俺の言葉に何も言わずに椅子に座った。


「こほん。 ――さーてそれじゃあ、行ってみましょうか。 午後の部最初の競技、『コスプレ生着替え走』!!」


 楯無さんがマイクを握り、午後の部が開始。

 盛り上がる一同――実況は更に続く。


「ではでは、実況は私、更識楯無と――」


 マイクを手渡された――俺も言わないとダメだろう。


「有坂ヒルト、及び――」


 そう言って一夏に手渡す。


「お、織斑一夏でお送りします。 ――ほらヒルト、楯無さんに……」


 またマイクが返ってきた――楯無さんに手渡そうとするも、何故か首を振る。

 そして競技内容の書かれた用紙を渡された。

 これは俺が代わりに説明しろという事だろう。


「えー、僭越ながら俺、有坂ヒルトが競技の説明を致します」


 その言葉に、各人が反応を示した。


「ひーくん~、実況頑張れー!」

「わっ、有坂くんがやるんだ?」

「ふむ、あの落ちこぼれがやるのかね? あぁいや、落ちこぼれだから実況なのかな? ワハハハ」


 来客用の席からそんな声が聞こえる、実況席からそれほど離れていない場所に居るオッサンだった。


「オーランド、静かにお願いします」

「は、はぁ……」


 真ん中に陣取った女性がオッサンを戒めた。

 だが、俺は気にせず競技の説明を始める。


「先ず、各チーム代表が用意した服装を各々が抽選で引き当て、それ等を着替えゾーンにて着衣してもらいます。 この着替えの時は代表者が選出したチームメイトに着替えを手伝ってもらいます。 後、着替えゾーンに関する注意喚起ですが、肩から上は露出、ですが身を隠すカーテンは中からライトアップされ、ボディラインが浮き出る様にしてあるので気をつけてください」


 自分で説明してて頭が痛くなる、公然の前での着替え等、正直不味いのだが――。


「ハッハッハッ、良いですな、若い子の生着替えとは」

「それもコスプレですからね、生唾ものですな」


 下品な事を告げるオッサン――釘をさすためか親父が一睨みするも、堪えてなかった。

 それはさておき、代表者の声が聞こえてくる。


「な、なに!? 聞いていないぞ!」


 憤る箒、まあ俺も今知ったからな。


「この様なレディのプライドに関わる競技、流石に出られませんわ!」


 セシリアも同様だった、衆人観衆の目の前で着替えたい子等いない。


「あ、あたしも出ないわよ! 絶対出ないわよ!」


 何度もそう叫ぶ鈴音。


「ひ、ヒルトだけに見られるなら良いけど……僕も、嫌だな……」


 シャルも同意した、実際オッサンも増えてるから嫌だろう――得点もシャル組がダントツ一位だし。


「私、イヤ」


 簪も否定した、これに出るぐらいなら死んだ方がましといわんばかりだ。


「美冬もパス。 コスプレは嫌じゃないけど……」


 美冬は外部からの人間が気になるようだった。


「わ、私もやっぱり……パスかな。 ち、ちゃんと隠れられるなら……いいけど……」


 声が小さくなる未来、赤面し、可哀想になるぐらい涙目になっていた一方。


「私は出るぞ」

「私も! コスプレ気になるし!」

「わ、私もだ。 羞恥心が無いわけではないが、〇点では……」


 ラウラ、美春、エレンの三人が手を上げ、選出された一同驚き、視線が三人に向く中、余ったマイクで楯無さを声が響き渡る。


「なおー、この競技では一位のチームには五千点あげます」


 あぁ無情、一位のシャル組の得点を上回る点数、インフレの極みともいえなくもない。

 流石にそんな得点が貰えるとなると。


「くっ、出るしかないのか……!」


 羞恥心からか顔を赤くした箒。


「こ、ここで巻き返しますわ!」


 セシリアも同様、耳まで赤くしながら出場を決意する。


「こうなりゃヤケよ! 絶対五千点、もらうわよ!!」


 吹っ切れたのか鈴音はそう叫び、木霊した。


「こ、ここで引き離したら、僕の優勝間違いなしだし。 僕も出ます!」


 危機感を感じたシャルも参戦を決意した。


「私、勝つ」


 短くそう言うのは簪だ、彼女も恥ずかしいらしく顔を赤くしている。


「……私も優勝したいもんっ! 美冬も出るよ! お父さんやお母さんが見てても、出るもん!」


 美春も決意したらしく、出場宣言した。

 親父はというと――。


「くぅっ! 娘が恥ずかしい思いをするのは親としては敵わないが、娘のスタイルを見れるというのは棄てがたい!」


 ――お巡りさん、此方です。

 それはさておき、母さんは笑みを浮かべるだけだった。


「で、出るしかないよね……。 は、恥ずかしいけど……」


 未来も出場宣言、これで全員コスプレ生着替え走を走ることが決定した。


「じゃあ、各代表は補佐する子を十分以内に選出してねー!」


 最後は楯無さんがしめると、各代表は一斉に協力してくれる子を探し始めた。

 一段落し、持っていたスポーツドリンクを一口飲む。


「ヒルトくん、多分これから色々と言われるかもしれないけど、気にしちよダメよ?」


 楯無さんは気を使ってかそう告げてきた一方で、反対側に座っていた一夏は――。


「え? ヒルトって何か言われる様な事したのか?」


 ――という的外れな事を言ってくる、楯無さんは小さく溜め息を吐くと。


「一夏くん、ヒルトくんの今の立場って君ほど安定してないのよ。 今其処の来客席に居る人達、IS委員会の人間なのよ」

「へぇ。 さっき挨拶されたけど、わざわざアラスカから来たんだな。 ご苦労なこった」

「そう、わざわざアラスカから視察に来たの。 理由は委員会会長、レイアート・シェフィールドさんから訊いているわ。 ……ヒルトくんが、代表候補生に選出されても問題ないかって」


 何か俺の知らない所でえらく話が進んでるんだな。

 ……とはいえ、選出されるにしても活躍が無きゃ難しいだろうし……今は気にする必要は無いだろう。


「ふーん。 そういやヒルトってまだ代表候補生じゃないんだな」

「そうだけど、何か問題あるか?」

「いや、問題は無いぜ? ……でもさ、箒だって選ばれてるのにヒルトだけ選ばれてないのは何でかなって思っただけ」


 これに関しては俺がISランクEだからだろう。

 いくら最初に搭乗した男の操縦者とはいえ、落ちこぼれに税金払って給料支払いたくはないだろうし。

 箒は一応日本の代表候補生という事で落ち着いた。

 勿論今も箒の実力を懐疑的に見る子がいるのも事実、この辺りは箒自身が挽回するしかない。

 それはさておき、俺個人はこれ以上この話をしても仕方ないと思い――。


「とりあえず、この話はおしまいで。 もうそろそろ補佐する子の選出が終わりそうだし」


 そう言うと、ほぼ全員が既に選出を終えていた。

 話題をずらす事に成功した俺は軽く息を吐くと椅子に座りながら腕を伸ばして軽くストレッチするのだった。 
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