| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

【第587話】

 代表候補生選出を掛けた試合が始まる――。

 規定位置へと到着した俺を最初に待っていたのはセシリアだった。


「御待ちしていましたわ、ヒルトさん」

「初っぱなからセシリアか」

「うふふ。 流石に初手は譲れませんわよ。 ……貴方と初めて戦ったのはわたくしですもの」


 そうだ、四月――クラス代表をかけた戦いで俺は彼女と戦った。

 あの頃は今のように自由に空は飛べず、動きも悪かった。


「ヒルトさん、今回は貴方の代表候補生選出をかけた戦いですわ。 わたくしに負ければそこで終わり。 勝てば……次の相手が来ますわよ」

「あぁ。 俺の条件が専用機持ち全員に勝たないといけないらしいしな」

「そうらしいですわね。 ……ではヒルトさん、そろそろ始めましょう……」


 その言葉が合図となり、ハイパーセンサーに試合開始のシグナルが点った。

 セシリアは何時ものようにスターライトmkⅢを粒子化させ、それを構える。

 対する俺も、新たにインストールされた電磁投射小銃を呼び出した。


「あら? 見たことない銃ですわね?」

「ん、ついさっきインストールしたばっかりだからな」

「そうですの。 とはいえ、新たな武器が貴方の力になれるかは……貴方自身の扱いがキーになりますわよ」


 二つめのシグナルが点る――全校生徒が見守る中、俺は緊張は感じていなかった。

 一方のセシリア――騎馬戦の時と同様のプレッシャーをヒルトから感じていた。

 これまで何度も模擬戦を行っていた彼女だが、冷や汗が背中を伝うのを感じていた。

 怖いとかではなく、例えるならこれまで眠っていた獅子を起こそうとしているような――言い様のない感覚だったが、セシリアはそれを振り払う様に頭を振った。

 そして――シグナルが緑へと点灯、それと同時にセシリアは素早くセーフティーを解除し、ヒルトをロックしようと狙いを定めるのだが――。


「っ……速い!?」


 定めるよりも速く、トップスピードに乗ったヒルトは急上昇しながら電磁投射小銃による一斉掃射を行った――二本のレールで加速された無数の弾丸は、甲高い空気を切り裂く音と共にセシリアの機体に直撃した。


「キャアアアッ! こ、この威力は……!!」


 油断していた訳ではないが、直撃を浴びたセシリアのシールドエネルギーが一気に半分まで減らされた。

 立ち止まっていては狙い撃ちされる、セシリアは直ぐ様回避機動を行いつつ、ヒルトの弾幕から抜け出した。

 ヒルト同様トップスピードに乗ったセシリア、学園上空へと互いに射撃しながら上昇していく。


「くっ……離されていますの……!?」


 上昇速度は明らかにヒルトが上回っていた、一定高度に達したヒルトは距離を保ちつつ、今度は緩やかに下降を続ける。

 セシリア得意のアウトレンジでの射撃戦――開幕は奪われたがセシリア自身、この距離での戦いなら負ける気がしなかった。

 だが――。


「きゃぅっ! ま、また当たりましたの……? お、お互いトップスピードになっていますのに!」


 スターライトmkⅢでヒルトをロックするセシリア――完了と共に引き金を引くのだが、その粒子ビームが当たる事はなかった。

 ロックしたのに全く当たらない違和感――自律機動兵装であるブルー・ティアーズを展開しても、トップスピードに乗ったヒルトを追いかけるだけで精一杯となり、オールレンジ攻撃を行う前に破壊されるだろう。

 ヒルトには当たらないのにセシリアには当たる――無論アサルトライフル故の弾幕もあるだろう。

 だが、レール部分による加速力を考慮していなかった――否、セシリアも、その場にいる誰もがまさかレールガンのダウンサイズに成功した物があるなんて思いもしないからだ。

 ラウラのシュヴァルツェア・レーゲンの肩にあるリボルバータイプのレールキャノンが、世界認識――現在の技術力ではこれ以上サイズダウンしようがないのが技術者の見解だった。


「クッ……ですが、アサルトライフルの装填出来る弾数は最高一〇〇発。 そろそろ――」


 そこでセシリアの言葉が止まる――最新型のアサルトライフルでも一〇〇発なのだが、既にヒルトは一〇〇発以上撃っていた。

 いや、既にもう最低でも五〇〇以上は撃っていた――そして今現在も、新たに弾装を装填する事なく放たれている弾幕にセシリアは戦慄していた。


「ま、まさか……まだ弾幕を張れますの!?」


 圧倒的弾幕――何れリロードすると踏んでいたセシリアの思惑は崩れ去る。

 銃身は加熱されてはいるが、同時に冷却もされていて融ける様子は見られない上に既にセシリアの認識以上の装弾数によって、得意なアウトレンジが一転、自身を追い込んでるかもと脳裏に過った。

 何とか接近しようと、セシリアはヒルトの下から回り込もうとする――だがヒルトはそれすらさせず、ドッグファイトを続けた。

 広さに制限のあるアリーナならセシリアも上手く回り込めたかもしれない――だけど、もしアリーナであれば電磁投射小銃による弾幕で一気にシールド・エネルギーが削られるという事実には気が付かなかった。

 既にシールド・エネルギー残量は二〇〇を下回るセシリア、自身の射撃は直撃せずともヒルトのシールドバリアーを掠めているため、ある程度は削れてはいるのだがそれでもヒルトのエネルギー総量は六〇〇を越えている。


「ッ……このままでは……」


 トップスピードに乗っていたセシリアだが、意図せず速度を落とした――それに気付いたヒルトも、無意識に速度を減少させていく。


「……! ここですわ! 行ってくださいな、ブルー・ティアーズ!!」


 一斉に射出された四基の自律機動兵機、それらは多角的機動を描きつつ互いにフォローするようにヒルトに迫った。

 そして、弧を描く粒子ビームは、間断無くヒルトを全方位に降り注ぐ。

 全てを回避は出来ないヒルト――何度もシールドバリアーを掠める度に、エネルギー残量が減少していく。


「チッ……やっぱセシリアのオールレンジは厄介だな!」


 ごちるヒルトだが、包囲するブルー・ティアーズ一基、また一基と推進部を破壊し、墜落させていく。

 セシリアもその隙を逃さず、スターライトmkⅢによるフレキシブルでヒルトの死角から狙い撃ちした。


「ッ……!」


 またもヒルトのシールドバリアーを掠める一撃――まだヒルトは優位にたってはいるものの、シールドエネルギー残量は四〇〇を下回った。

 一方、グラウンドでは――。


「へぇ、あの子、案外やるじゃん」

「楯無の贔屓かと思ってたけど、そういう訳じゃなさそうね」

「ヒルトくんっ! 頑張れー!!」


 流石に試合を目の当たりにした上級生の評価も変化し始める。

 だが来客席では――。


「意外としぶといですな、あの落ちこぼれ」

「全くです。 あの良いお尻をしたイギリス代表候補生は手を抜いてるのではありませんか?」

「ふむ、その可能性は否定出来ませんな。 ……とはいえ、漸く調子が出てきた様で」


 グラウンドには超大型投影ディスプレイに試合の様子が映し出されていて、シールドエネルギー残量も選手パラメーター上に表示されていた。

 無論そこにはセシリアのパーソナルデータも、ヒルトのパーソナルデータも載せられている。

 互いに最新のパーソナルデータを表示している――のだが、以前楯無の不注意によってヒルトの最新のパーソナルデータが消去され、何度か復旧を試みたものの結局出来なかった。

 だからヒルトのパーソナルデータが最新ではなく、四月の物だと気付いてるのは消去した本人である楯無と、一度機会があって見ることが出来た織斑千冬以外はわかっていなかった。

 有坂真理亜は、試合を見ておらず、今なお学園整備室にこもっていた。


「貰った! 四基目ッ!」


 推進部から火を噴く自律機動兵機、四基全てを撃ち落としたヒルトだがエネルギーも三〇〇を下回っている。

 一方のセシリア、僅か一二〇と追い込まれていた。

 虎の子のブルー・ティアーズは落とされ、残ったのは弾道型ブルー・ティアーズ――スターライトmkⅢとインターセプターだが正直接近戦でヒルトに敵う筈もなく、だからといってアウトレンジはヒルトの弾幕に削りきられるのは目に見えていた。

 セシリアは短期間で伸ばしたヒルトの実力に驚きを隠せないものの、好きな男子が更に頼れる存在になったことが嬉しく思えた。

 まだ負けが決まった訳ではないが、負けてもセシリアに後悔はない。

 一緒の部屋で毎日過ごす、二人だけの甘い甘美な時間を過ごすという事が出来なくなるが、あくまでそれは【毎日】であり、たまになら今でも可能なのだ。


「ヒルトさん! まだまだ、行きますわよ!!」


 結局セシリアはアウトレンジでの戦いを選び、弾道型自律機動兵機を絡めたフレキシブル射撃を行う。

 張られた弾幕を抜けられず、弾道型自律兵機は爆発、爆煙が二機の合間に舞い上がる。

 ――弧を描く粒子ビームも、やはりイザナギのシールドバリアーを掠めるが、決定打にはなり得なかった。

 シールドバリアーを貫通する弾丸、それらはセシリアの肌表面の絶対防御に触れると根刮エネルギーを奪っていく。

 シールドエネルギーも残り一〇を下回った――勝つ可能性が限り無く低くても、セシリアは全力でヒルトと戦った。


「悪いなセシリア、俺個人としても……持つべき者の義務としても。 ……俺の勝ちだ!」


 ヒルトは引き金を引いた――加速力のついた弾丸は、セシリアのシールドバリアーを掠め、残ったエネルギーは〇へ。

 ハイパーセンサーに表示されるwinの文字――セシリアとの戦いはヒルトが勝利した。


「……いくら好きな人でも、やはり負けると悔しいですわ……」


 悔しさ滲み出る表情のセシリア、だが軽く息を吐くと――。


「ですが――それ以上に、わたくしが愛する殿方の勝利、そしてこの一歩が貴方を代表候補生へと導くと考えれば……嬉しく思いますわ」


 ニコッと笑顔に変わるセシリア――ヒルトもそれに応える。


「ありがとうな、セシリア」

「いえ。 ――ですが、まだ相手は居ますわよ? 補給、急ぎませんと」

「そうだな。 とりあえず次の相手が誰かはわからんが……勝つさ、セシリア」

「えぇ! ここで負けられたら、意味はありませんわ」


 セシリアの檄を受け、ヒルトは一旦補給に戻った。


「……完敗、ですわね」


 消え入りそうな声でそう呟くセシリア――模擬戦の結果はセシリアの負けだが、何故完敗なのか――。

 直撃を何度も浴びてダメージを受けたセシリアに対して、ヒルトは『シールドバリアーを掠めた』ダメージしか減少していない。

 シールド・エネルギーによるライフ制がISでの基本だが、もし仮にシールドバリアーの使用がない場合、直撃したセシリアは良くて重症、悪くて戦死。

 一方のヒルトは被弾すらしていないという、事実を知れば知るほどヒルトのパーフェクトゲームという結果に。

 しかも――セシリアが得意とするアウトレンジでという事実が深い影を落とす。

 頭を振るセシリア――開いた差は大きいもののあの背中に追い付く、そんな目標が出来たセシリアは気持ちを切り替えてグラウンドへと戻っていった。 
 

 
後書き
セシリア戦終わりーッ 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧