IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
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【第600話】
艦内へと潜入した俺と刀奈、足鰭は邪魔だったから脱ぎ捨て、ウェットスーツも脱いで今は二人してISスーツ姿に。
場所は空母の調理室――様々な調理器具があり、貯蔵庫の中を見ても手付かずの食料が山ほどあった。
誰にも見付からずに調理室に辿り着けた俺達だが、普通もっと人が居るはずだ――現に調理室だって夕方なのだから数人居ないとおかしいのだが誰も居ず、料理の仕込みをした形跡すらない。
刀奈も気付いたらしく「妙ね……」と小さく呟いた。
「てか誰もいないってのはおかしくないですか? 少なくとも空母には五百人はクルーが――」
そう言葉を続けようとするが、足音が聞こえてきた。
咄嗟に刀奈は身を隠し、俺も近くの段ボールを被る。
古来から潜入の相棒は段ボールという先人の教えに習った隠れ方――そして、足音の人物が入ってきた。
「おーい、腹減ったぞー。 誰かいないのかー?」
「ライバック、居ないのか? ……かぁぁっ、誰も居ないって有り得ねぇぞ、なあイーリスのお嬢ちゃん」
「ってかお嬢ちゃん呼びはやめてくれ!」
入ってきたのはテレビでも見たことがあるアメリカ国家代表イーリスと俺の親父、有坂陽人だった。
何で親父が――そう思っている俺に、イーリスは近付いてくる。
「取り敢えず何か食い物ねぇかな……」
段ボールに近付くイーリス――俺の被っている段ボールはリンゴが入っていた段ボールだ、しかも手前にあるから逃れられない。
蓋が開かれるその時――思いきって俺は立ち上がった。
「おわっ!? 誰だお前は!?」
防衛本能が働いたのか、ナイフを手早く抜き取り、腹部を狙う一閃――。
「うぉっ!?」
堪らず段ボールを被せて視界を奪う俺――そんなやり取りを見た親父は暢気な声で言った。
「よぉヒルト。 お前も腹減ってたのか?」
「いや、別に――てか驚けよ、親父! 何してるんだよとかさ!」
「わははははっ、驚くも何も、元からお前たちが来るのは知ってたからな!」
「知ってた?」
そう告げる親父――被せられた段ボールをかなぐり捨てたイーリスは俺の胸ぐらを掴む。
「おいお前、どうやってここに入り込んだ? カールビンソンみたいな空母ならいざ知らず、この空母はイレイズド所属の秘匿艦だぞ?」
「は、はは……何故でしょう?」
明らかにはぐらかそうとする俺に軽くため息を吐くイーリス。
「……まあいい。 お前、有坂陽人の息子だな。 そこの親父からも聞いてるし、ナタルからも話を聞いてる」
「ナタル?」
「ナターシャ・ファイルス、銀の福音のパイロットだよ」
銀の福音で思い出す――金髪のロングヘアーで年上の彼女、更に鮮明に思い出すのは彼女の唇の柔らかさだった。
「本来なら秘匿艦へのスパイ行為で銃殺刑何だがな、お前の親父はアタシや米国を何度も救ってくれたからな。 今回だけは見逃してやるよ。 ……アタシに勝てたら、だけどな」
「え?」
悪戯っぽく笑うイーリス――首根っこをがっしりと捕まれ、俺は何処ともわからぬ場所へ連れていかれる。
一方、取り残された刀奈と陽人。
「お嬢ちゃん、もう出てきて構わないぞ」
そう言って姿を現した刀奈――何故ここにヒルトの父親が居るのか、様々な疑問が浮かぶが……。
「お嬢ちゃん、調べものならセントラルルームで調べるといい。 俺は念のため艦内で誰か居ないか調べねぇとな」
「な、何で――」
言葉を続けようとするが、有坂陽人が口を挟んだ。
「一応お嬢ちゃんの情報提供したのは俺だからな。 ……てか本来なら制式な手続きを経てさせたいんだが、艦内に誰もいないんだよ。 生体センサーもサーマルもパッシブも使ったが、もしかしたら隔離されてるかもしんねぇからな。 もしそうなら助けなきゃならんしな」
「…………」
この人何者なの――暗部がもたらしたと思った情報の出所がヒルトの父親、有坂陽人だった事に内心疑惑が浮かぶ。
だが陽人はそんな刀奈の心情を察したのか。
「わははっ、昔色々やってた時のつてだ。 ……色々思うところがあるかもしれねぇが、ヒルトや美冬、真理亜に――家族に誓ってお嬢ちゃんにとっての敵じゃないことを誓うよ」
真っ直ぐな言葉――それに、ヒルトの父親という事もあり、警戒を解く刀奈。
一礼をして調理室を後にした。
「……てかどういう事だ? ……片っ端から探すしかねぇか」
頭を掻き、有坂陽人も最後に調理室を出ていく。
一方――首根っこをがっしりと捕まれ、ヒルトは広い格納庫へと連れてこられた。
最新型のF-35対IS仕様の機体が並んでいる。
首根っこを離すイーリス……解放された俺だが、本当に解放された訳ではなかった。
「有坂ヒルト、これからアタシと勝負してもらう。 勝てばスパイ行為や不法侵入を不問にしてやる。 負けたらお前はアメリカで裁く」
「……マジっすか?」
「マジだよマジ。 ……心配すんな、お前は有坂陽人の息子だし、本当に銃殺刑にしたらナタルは怒るだろうし、何よりF.L.A.G.を敵に回したくねぇんだ」
まだ勝負方法を聞いていない――流石にIS勝負ではないだろう、国家代表とまだ代表候補生になってない俺じゃ相手にならないはずだ、だが――。
「有坂ヒルト、勝負は勿論ISを使って行う。 ……容赦しねぇぜ、国家代表の実力、見せてやるよ!」
身体に光の粒子が集まり、タイガーストライプ柄の【ファング・クエイク】を身に纏ったイーリス。
「Are you ready?」
準備は良いかと言われて良くないと言っても意味は無いのだろう。
負ければアメリカに――そうなれば皆に会えなくなる。
「I'm ready……!」
返事をした俺は直ぐ様後方へ大きく宙返り――光が身体に収束し、天・伊邪那岐を纏う俺。
口角を吊り上げて笑うイーリス――同時タイミングで瞬時加速を行い、格納庫で二機が激突した。
「ハッ! やるじゃねーか!」
「まだ始まったばかりだ、やるもやらないもないさ!」
力押しで比べ合う二機――拮抗し、瞬時加速の衝撃が小さく近くの戦闘機を揺らす。
「オラオラッ! まだまだパワーはあるんだぜ!」
「こっちだってまだまだ余力はあるさ!」
背部可変展開装甲がイザナミの可変翼とボディーを媒体として取り込み可変展開――二基の可変スラスターと並列スラスター八基が瞬時加速用に最適化されて可変――唸りを上げて押し込む。
「チィッ……何だ、このパワーは!? ファング・クエイクを遥かに上回るだと!?」
「まだまだァァァッ!! 呼応しろォォォッ、イザナギィィィッ!!」
全スラスターが唸りを上げ、ファング・クエイクを抑え込む――完全にパワー負けしているファング・クエイクは壁へと追いやられた。
「チィッ! パワー負けしたならしゃあねぇ! 取っておき、見せてやるよ!!」
一瞬だけ上回る個別連装瞬時加速で俺の頭上をとったイーリス。
「チッ! リボルバー・イグニッション・ブーストかよ!?」
「御明察! そらぁぁぁぁっ!!」
個別にスラスターが瞬時加速し、多角的に格闘術を叩き込むイーリス。
だが天・伊邪那岐の装甲から発せられるプラズマでエネルギーが削られていた。
流石に国家代表は伊達じゃなく、エネルギーを確実に削ってきた。
最後の個別連装瞬時加速――だが失敗したのか天井方向へと吹き飛び、叩きつけられていた。
「……どういう事だ?」
国家代表が個別連装瞬時加速失敗?
有り得なくはない、事実未来もエレンも失敗する――エレンに関しては聞いただけだからわからないが。
天井に叩きつけられたイーリス、直ぐに床に着地すると――。
「まだ勝負は終わってねぇ!」
「チィッ!」
「逃がすかよ!!」
二人の戦いが激化し、空母全体を揺らす戦いに――。
一方の有坂陽人、空母一室一室誰か居ないかを探していた――だが明らかに人っ子一人もいない。
「……どうなってやがる、乗組員は何処に……」
黒夜叉の機能を使い、陽人は艦全体を隈無く探す――交差する二人はヒルトとイーリス、セントラルルームに居るのは更識楯無――だがそれ以外の反応が全くなかった。
「……最初から誰も乗っていない? 或いは降りたのか……? ……有り得なくはないな、アメリカの潜水艦もありゃ、横浜にも艦はある。 なら何故俺に乗船許可が……?」
答えは見つからない――いや、もしかしたら……俺の提供した亡国機業、スコール・ミューゼルの情報が――。
その刹那、突如空母の何処かで大爆発が起きる――爆風の振動で揺れる船内、何があったかわからなかったが陽人は脱出の為に出ようとしたその時、黒夜叉に届いた秘匿回線から入ったメッセージ。
「チッ、こんなタイミングで――セントラルルームで情報回収に破壊……。 ……成る程、米国政府にも俺が疎ましい奴がいるからまとめて始末しようって奴か。 ……この命令はプレジデントの物だが、プレジデントは何も知らずって所か?」
舌打ちし、脱出する前に有坂陽人はセントラルルームへと向かった。
一方でヒルトとイーリスも空母の異変に戦いを中断。
「この揺れ……水の音……チィッ! 有坂ヒルト、直ぐに脱出準備だ! 空母が沈む!」
「空母が!? ……チッ、乗組員は――」
「それなら大丈夫だ! 生体センサーもサーマルにも感はない、無人艦だ!」
「無人艦!? じゃあ何故貴女はここに――」
「アタシは補給目的だ。 この後ハワイに戻らなきゃなんないんでね。 てか脱出するぜ、話なら後で聞く! それよりもISで脱出するが、一応此方側のIS部隊には事情説明しといてやるからな!」
空母の天井を突き抜けてイーリスは脱出した――ヒルトも迷わず、空母から脱出――既に日は落ち、空には満天の星空が彩っていた。
「親父は……いや、親父なら大丈夫だ。 刀奈は……無事か!?」
辺り一帯を探す――直ぐ様反応があった――だが、刀奈は誰かと交戦していた。
「今度こそ逃がさないわよ、スコール・ミューゼル!」
ほぼ修復が完了していた『ミステリアス・レイディ』を完全展開した刀奈は、周囲一帯にナノマシンを散布――周囲の海水から無数の水流弾を放った。
「無駄よ更識楯無。 貴女のISでは、私の『黄金の夜明け(ゴールデン・ドーン)』は倒せない」
機体周囲に張られた熱線のバリアが水流弾を遮断、蒸発させる。
「アハハッ! この程度の水では、この炎の結界《プロミネンス・コート》を破れないもの。 そして――」
言葉を続けながらスコールは刀奈に向かって手のひらを向け、其処に火の粉が集まり、凝縮された超高熱火球となる。
「『ミステリアス・レイディ』の《アクア・ヴェール》では、私の《ソリッド・フレア》を防げない!」
言葉と共に放たれた火球――だがその火球は刀奈には届かなかった。
刀奈の目の前にあるイザナミの腕部パーツから形成されたエネルギーシールド――それらが刀奈を守った。
「ッ……新手!?」
ハイパーセンサーで周囲を索敵するスコール――だが周囲に反応はなく、熱線バリアーによって周囲に陽炎が立ち込めていた。
刹那、背後から受ける強烈な一撃――背部テールクローが破砕され、破片が海上に落ちていく。
立ち込めた陽炎から現れたのは――。
「クッ……有坂ヒルト……くん!!」
立ち込めた陽炎から姿を現したのはヒルトだった。
単一仕様【陽炎幻影】、姿を眩まし、ハイパーセンサーですら捉えられないステルス能力。
「俺の名前を知ってる……? 誰だ、お前」
刀奈を攻撃していたアンノウン――顔はフルフェイスバイザーで隠され、大胆に開いた胸元、靡く金色の髪と金と朱の装甲が特徴だった。
「ヒルトくん! その女は亡国機業実働部隊『モノクローム・アバター』リーダーのスコール・ミューゼルよ!!」
「……成る程」
射出されたイザナミの腕部パーツが天・伊邪那岐へと装着され、新たにギガンティック・マグナムを両手に形成。
両腕部可変展開装甲が組み替えられ、大神之神霧露同様にイザナミを媒体にしたギガンティック・マグナム改め【神を穿つ巨拳《焔火》】と可変展開する。
「数としては私が不利……でも!」
複数に形成した火球《ソリッド・フレア》を散弾の様に放つスコール――刀奈は回避機動を取る中、俺は焔火を構える。
其処からはただ速かった。
俺は拳を真っ直ぐ打ち出す、スナップを利かせたジャブ。
その速い打撃は無数の閃光を生み出し、散弾するソリッド・フレア事撃ち落としていく――否、撃ち落とすだけではなくその後ろに居たゴールデン・ドーンのプロミネンス・コートに突き刺さる。
阻まれる白亜の閃光――だが、流星の様に降り注ぐ無数の拳は突き刺さったプロミネンス・コートごと爆ぜる。
一瞬で消し飛ぶ熱線のバリア、だが流星は止まない。
シールドバリアーを突き抜け、ゴールデン・ドーンの装甲に突き刺されば爆ぜ、二発目を受ければ肩の装甲が破片を散らせた。
三発、四発、五発と突き刺されば制限の掛かっていないシールドエネルギーが削られていく。
回避すらままならず、幾重に降り注ぐ白亜の流星の雨は無情にもスコールの機体を光芒の中に沈めていく――。
「うああぁぁぁあああっ!!」
何度も絶対防御を発動させ、流星が止む頃にはゴールデン・ドーンの無惨な姿が現れる。
輝きを放っていた黄金の装甲は激しく破損、ぼろぼろとなっていて両腕部からは紫雷が走りいつ爆発してもおかしくなかった。
「な、何が起きたっていうの……この私の、ゴールデン・ドーンに!!」
神を穿つ巨拳《焔火》――イザナミの腕部パーツを媒体にした巨大な拳、村雲・弐式の経験値と打鉄・改、そしてイザナギの経験値が生み出した新たなフラグメントマップ構築の結果だった。
誰もが見向きもしなかった――その武器はISが使うには使いづらい、一発限りの拳だった。
だが、幾重にも積み重ねてきた経験値がその拳も成長させ、武装を昇華させた。
そして――閃光の煌めきがゴールデン・ドーンを中破させた、僅か二十秒にも満たない時間だった。
神々しささえ感じさせたゴールデン・ドーン、既に見る影すらない。
奥歯を噛みしめ、スコールは強い殺意を見せる目付きでヒルトを睨む。
「……悪いがテロリストに掛ける情けはないんだ」
「くっ……!?」
迂闊だった――スコールもやはりヒルトを甘く見ていたのだ。
適性の低い落ちこぼれ――だがヒルトは一昨日の連戦で更に技術を上げ、第二形態移行した結果攻撃力も上昇した。
更に言うなれば、スコールはヒルトにとって相容れない敵――それが情けすら与えず、無慈悲な攻撃を浴びせたのだろう。
「楯無さん、こいつを拘束する!」
「ええ、勿論よ。 やっちゃえ、ヒルトくん!!」
瞬時加速で肉薄、焔火の拳が閃光に包まれたその時だった。
直上から降り注ぐ粒子ビーム、ヒルトも刀奈も即座に回避機動をとった。
新手の登場にヒルトは夜空を見上げる――其処にいたのはサイレント・ゼフィルス。
「無様だな、スコール」
「え、エム……」
ぼろぼろになったゴールデン・ドーンとヒルトの合間に立ち塞がるエム――。
「貴様には借りがあったな。 その借り……今返させてもらう」
構えたスターブレイカーの粒子ビームが夜空に煌めき、弧を描いてヒルトに襲い掛かる。
だがヒルトは軌道を読んで回避――エムが見せた一瞬の隙を刀奈が攻める。
辺り一帯に散布したナノマシンにより海面からまるで対空砲の様に水流弾が吹き上がった。
回避機動を描き、避けるエム――その隙に逃げ出そうとするスコールだが――。
「逃がさない……!」
「……!?」
学園から飛んできた簪が立ち塞がると同時に叫ぶ。
「お姉ちゃん! 受け取って!」
「簪ちゃん!?」
「聞いたから! お姉ちゃんの覚悟も、名前の意味も!! まだ私、足引っ張っちゃうかもしれないけど! 私だって、更識家の人間だから!」
逃げようとするスコールに追い討ちをかける簪だが、手負いとはいえ技量差で避けられる。
片手で投影キーボードを叩き、夜空に記号が羅列となって集結、形となって姿を現す。
専用機専用パッケージ『オートクチュール』――名は《麗しきクリースナヤ》、赤き翼はミステリアス・レイディへと接続されアクア・ヴェールの色が青から赤へと変わった。
「スコール・ミューゼル……貴女に見せてあげるわ、学園最強を受け継ぐ私の本気――ワンオフ・アビリティー《セックヴァベック》!」
簪の攻撃を避けた先を空間指定する刀奈――、そして、ゴールデン・ドーンをその空間に沈めていく。
「し、沈む!? 私と『ゴールデン・ドーン』が、空間に沈んでいくですって!?」
飲まれていくゴールデン・ドーン、もがいて脱出しようにもヒルトから受けたダメージが大きく、拘束力の高い単一仕様からは抜け出せなかった。
「ちっ、世話をやかせる」
エムがごちる――スターブレイカーを刀奈と簪に向ける、だが降り注ぐ流星がエムの射撃を阻んだ。
「悪いが、借りを返すんじゃなかったのか?」
「チッ!」
神を穿つ巨拳《焔火》の閃光は確実にサイレント・ゼフィルスを追い込んでいた――既にシールド・ビットもヒルトに四基破壊されている上に、拳による面制圧で避けきれない。
モーションの速いジャブ――それを両腕部で放つのだから相手からすれば堪らないだろう。
その間も空間に沈んでいくゴールデン・ドーン――刀奈は隙を逃さず、周囲の水蒸気から水流弾で包囲攻撃を行う。
ここは海上――水あるところならミステリアス・レイディに死角はない。
例え相性の悪い炎が相手でも、水があれば負けない。
プロミネンス・コートを抜け、確実にダメージを負わせる刀奈、簪も負けじとミサイルを浴びせる。
スコールにはどうすることも出来なかった――ヒルトを侮った結果、自身の運命がこうなるという未来に。
助けにきたエムもヒルトに抑え込まれている――そして、水流弾の一撃が絶対防御を突破、スコールの左腕を吹き飛ばした。
だが、その左腕は作り物の機械だった、繋ぎ目の部品がバラバラに散っていく。
「……やはり、機械義肢ね」
「どうやら、私の身体の秘密がバレちゃったようね……!」
吹き飛んだ義肢は海面へと落ちていく――シールド・エネルギーがいよいよ無くなろうとしたその時、更なる増援が現れた。
強襲する翼――ユーバーファレン・フリューゲル、カーマインだった。
降り注ぐ赤い粒子の雨は簪、刀奈の二人の機体にシールド・エネルギーにダメージを与え、更にフリューゲル・ユニットから放たれたソード・ビットがセックヴァベックを切り裂き、スコールを空間から救う。
「あら……何で――」
『ウチノボスカラノメイレイダ。 マダシヌウンメイジャナイ』
機械音声で答えたカーマイン――更に直上からもう一機現れる、赤い機体を纏ったシルバーだ。
「カーマイン、離脱するわよ。 ……その女は本来、うちのボスの命を狙ったのだから殺しても良いのだけど、そのボスが守れっていう以上は仕方ないわね」
『…………』
カーマインは答えなかった、フリューゲルユニットのスラスター全基点火させ、スコールを連れて離脱する。
「に、逃がさな――」
「残念、逃がしてもらうわ。 ……単一仕様《境界解除(バーンダーリィ・リリース)》発動するわ!」
簪の言葉より早く指を鳴らすシルバー――刹那、刀奈と簪の二人が身に纏っていたISが解除され、光の粒子となって散っていく。
重力に引かれ、落下する二人を見たヒルトは――。
「ッ!?」
『主君! 一人は任せてくれ!』
『悪い! なら俺が刀奈を助けるから簪を!』
『承知した!』
イザナミを解除し、ヒルトは刀奈の救助、雅は簪の救助を行った。
その間にシルバーとエムも戦線離脱――闇夜に二機、空間に浮かぶだけだった。
沈み行く空母――親父はもう脱出してるだろう……戦いが起きた時点で黒夜叉が居れば色々不味いだろうし。
それよりも正直ISを使ってる現状が不味いが……だからといって夜の海を泳ぐ事は出来ない。
イザナミが簪を連れ近付く、そのまま俺に預けると再度パッケージ化されて装着された。
「楯無さん、簪、二人とも大丈夫か?」
「私は大丈夫よ、ヒルトくん」
「平気。 ……でも、あの女の人の単一仕様……。 ISが一時的に呼び出せなくなってる……」
ISを強制解除させた単一仕様――前の無人機襲撃に来ていたあの女だろう、手助けしたという事はあの女も亡国機業の人間?
ならばウィステリア・ミストもそうなるが――いや、今は考えるよりも二人を安全な所に下ろさないと。
「二人とも、確りしがみついててくれよ? 可能な限り安全運転で戻る」
そう告げて俺達は一路臨海公園へと戻った――。
『……真理亜、俺だ。 一応米国プレジデントが要求した依頼は達成した。 必要な秘匿データの回収及び破壊――とはいっても、空母自体が海の底じゃ、破壊も意味は無かったかもな』
『ご苦労様。 一応その辺りに自衛隊が行かないようにはしたけど……どうかしら?』
『問題ない。 ……っても亡国機業が介入してきたからな、てか今回の見返り依頼、何かおかしくなかったか?』
『……そうね……まるであなた事海の藻屑にしようとしてた様な……』
『……ふむ。 ……まあこの話はとりあえずここまでだな。 あ、後真理亜、強化外骨格《クサナギ》のコピーデータがあったがそっちも念のため破壊しといた』
『ウフフ、お疲れ様ぁ。 ……後、ヒルト達は――』
『無事だ、あいつらが亡国機業を退けなかったら色々不味かったかもな』
『うふふ、何にしても……少し米国の動向を注視しましょうかぁ……』
『あぁ、とりあえずそっちに戻るよ。 後でな』
チャネル通信を切ると、有坂陽人はその空域から離脱した。
後書き
ほぼほぼ話を一纏めにしてみた
カーマイン久々(・ω<)
シルバーは……( ´艸`)
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