IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
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【第589話】
シールド・エネルギー及び推進剤を補給するヒルトを他所に、流石に二戦連勝したヒルトの評価は上がっていた。
「有坂君って、落ちこぼれって聞いたんだけど、あれ見る限りじゃ……私等より強くない?」
「そ、そうだよね。 ……それに、よく見たらヒルト君って、カッコいいよね」
「うんうん。 あたしは最初っから気付いてたけどね?」
「嘘言うなー。 昨日まで有坂って明らかに贔屓で専用機もらっていいなって言ってた癖に!」
手のひら返しともいわんばかりに、其処らかしこから評価する声があがる一方で、やはりその対比となるのは一夏だ。
「有坂君があれだけ強いなら、一夏君はもっと強いんじゃない?」
「そうよね! 何てったって、千冬様の弟ですもの! 血も滲むような努力に、姉に勝る才能を併せ持って、それにマッサージが上手いときてるんだから!」
対比される一夏の期待が上がっていくのだが、当の本人はこれまで努力という努力はしていない。
あくまで言われたから訓練をしてるのであって自主的に行った事はない。
転入当初から箒、鈴音の二人に連れられて訓練だ。
鈴音も途中から訓練はしておらず、一夏は箒とやってはいたが、その結果が突撃or一撃必殺にかけるだけの単細胞になってしまった。
適性はB――ちゃんと自主的に訓練していれば、そして……ものの頼み方を知っていればこんな自体は避けられたのかもしれない。
否、例え――違う世界線であっても、一夏は変わらないのかもしれなかった。
補給を終えたヒルト、次の相手はシャルだった。
「ヒルト、次は僕が相手だよ」
「……シャルか」
相性の面でいえばヒルトは明らかに有利だ、シャルの持つ重火器類の大半は迎撃機能で無効出来る。
エネルギー消費量を考えても、正直お釣りがくるぐらいだった。
勝負に情けなど必要ないが、だからといってそれに頼りすぎてもダメになる。
迎撃機能をオフラインにするヒルト――これで負けたら、そう判断した俺が馬鹿なだけだ。
『マスターΣ(゜∀゜ノ)ノ 迎撃機能オフラインになってるのですよぉ(°д°;;) ボクが直ぐにオンラインに戻すのですよぉ( ̄^ ̄)b』
『いや、そのままオフラインのままで構わないさ』
『えっ(・ω・;)(;・ω・) わ、わかったのですよぉ(・_・;)』
ナギにそう告げる、そして改めてヒルトはシャルに視線を向けた。
模擬戦はこれまで何度も行っている、シャル自身美冬と同様の第二世代の機体で操縦技術だけで勝利を重ねてきている。
実力ならトップクラス――そんな彼女に対して、迎撃機能オフラインで対抗するのは無茶かもしれなかった。
だけど――代表候補生になるのなら、これぐらいは乗り越えなければいけない。
「ヒルト。 手加減しないからね?」
「あぁ。 無用だよ、シャル」
今のシャルの瞳は恋する少女ではなく、代表候補生として、ヒルトに立ちはだかる壁として、信念を持つ瞳だった。
物理シールドを呼び出したシャル――ハイパーセンサーにシグナルが点る。
接近戦――そう過ったヒルトだったが、どの距離もそつなくこなすシャル、それにシールドを呼び出したからといって接近戦とは限らなかった。
ヒルトは電磁投射小銃を呼び出す――粒子が像を結び、形成された。
一方のシャル、二戦共に見たヒルトの戦い――転入当初の面影はなく、すっかり頼りになる男性と改めて認識した。
学園外に出ればいつフランス政府から逮捕されるかわからない身――だけど、そんな自分を守ってくれる、居場所となってくれるヒルトが大好きだった。
だけど、いつまでも依存するような関係ではヒルトは見放すかもしれない――いや、ヒルトは優しいからそれは無いかもしれないが、共に歩んでいくのであれば、依存してばかりでは並び立つ事は出来ない。
シグナルが緑色に――試合開始と同時に、シャルは物理シールドをヒルト目掛けて投擲した。
ヒルトの様なスキルは無くても、圧倒的大容量で何枚もある物理シールド一枚の投擲はシャルにとって問題はなかった。
意表をつく行動だが、ヒルトは物理シールドを蹴り払う――だが、蹴り払ったシールドから遅れること僅か一秒、シールドを隠れ蓑にしてピンの抜かれたフラググレネードが三個投げられていた。
いくらハイパーセンサーでも、透視する機能は無い――サーマルセンサー等を使って知ることも可能だが、他の機能と干渉しかねないセンサー類の併用は危険だった。
三個のフラググレネードの爆発に呑まれたヒルト――だがシャルの追撃は止まらない。
得意の高速切替によるリボルバー式グレネードランチャー二挺呼び出し、ポシュッポシュッと軽い音と共に放物線を描き、爆発の中心へと集中攻撃をした。
学園島に轟く轟音、爆発による衝撃波がグラウンドに砂塵を舞い上がらせた。
「ハッハッハッ! 流石の落ちこぼれも、あの集中攻撃には何も出来ずにやられましたな!」
「その様ですな。 愉快、愉快」
まるで自分が勝った様に誇らしげに語るオーランド――本当に決着が着いているのであれば、試合終了の合図がなるという事を忘れている様だった。
カチッカチッと弾が無くなるまで引き続けたシャル、二挺のグレネードランチャーをかなぐり捨てるとそれ等は粒子となって四散した。
新たにアサルトライフル【ヴェント】を呼び出したシャル――。
周囲に立ち込めた爆煙が晴れていく――その中心には、周囲にハニカム状の防御膜が張られているヒルトの機体、イザナギの姿があった。
しかも普段は装着しないフルフェイスヘルムを着けていて、フルスキンと相まってまるで有坂真理亜が開発したPPS黒夜叉に酷似している様にも見える。
淡く紅の光を点すツイン・アイ――機体色と共に放たれるヒルトからのプレッシャーを敏感に感じたシャルの額と背中を汗が伝う。
夏は過ぎ、秋も深まる季節なのに伝う汗は、シャルにとって気持ちのいいものではなかった。
だけど、そんな事よりもシャルは更に先手を打つべく、ヴェントによる一斉掃射を始めた。
同時にヒルトも、電磁投射小銃による射撃戦を始める。
距離を維持した射撃戦――空中を彩る黒と橙、電磁投射小銃による射撃を物理シールドで受けるシャルだが明らかに威力が桁違いで、直ぐにただの鉄屑へと変貌していく。
一方のヒルト、フルフェイスヘルムによって強化されたハイパーセンサーで、空中を縦横無尽に動き回るシャルを捉えていた。
物理シールドが無ければ既に半分は削っていたであろうシールド・エネルギー、まだ一〇〇程しか削れてなかった。
繰り広げられるドッグファイト、近中距離という事もあり、射撃、近接戦闘と互いに譲らなかった。
「やっぱり、強い! ……でもねヒルト、僕だってとっておきがあるんだから!!」
瞬時加速で間合いを詰めるシャル――更に其処から加速力が上がった。
一夏も使う二段階瞬時加速――間合いをゼロ距離まで詰めたシャル、一閃を浴びせて横を切り抜け、置き土産と謂わんばかりにフラググレネードを置いていく。
ゼロ距離からの爆発はヒルトを一瞬にして呑み込む――更に二段階瞬時加速で離脱しつつ、爆発に向かってサブマシンガン二挺による弾雨が降り注ぐ。
シャル自身のヒルト――否、ヒルトだけじゃなく未来や美春対策でもあった。
三人の機体に共通する迎撃機能――実弾全てをインターセプトする鉄壁の守り。
元々は宇宙から飛来する隕石迎撃の為に開発された物を、ISが運用可能なレベルまでサイズダウンした機能だ。
サイズダウンした結果、隕石等の破砕には役に立たないが、銃弾等の命を脅かす脅威を完全に防ぐ。
ISの射撃武器はいまだにほぼ実弾、防御機能としては最高ランクとも謂える。
シャルの機体にある武器の大半は実弾――ヒルトも言う通り、相性は最悪なのだ。
だけど――そんな迎撃機能もゼロ距離なら機能は難しい。
だからこそのとっておきである二段階瞬時加速を此処で使ったのだ。
此処で見せる事によって、シャルには新たな技能と手札が一枚あると皆に認識させる事が出来る。
見えないアドバンテージ――これに関しては既にヒルトが実証済みだった、だからこそシャルは今此処で手札を切り、ヒルトのシールド・エネルギーを大幅に減らすことが出来た。
ゼロ距離爆発を受けたヒルト、絶対防御は発動しなかったが流石に至近距離の爆発はダメージが大きく、シールド・エネルギーが一気に二〇〇も削られる。
でも――削られたからといってヒルトは諦めない。
周囲を舞う爆煙から飛び出すワイヤーブレードと左肩に備わった有線式ショットクロー、それらが三次元機動でシャルに迫る。
直ぐに退き、迫るワイヤーブレードを切り払うシャルに、爆煙から牽制射撃で動きを止められてしまった。
残ったワイヤーブレード、及びショットクローが強襲――持っていた武器を叩き落とし、粒子エネルギーを纏ったショットクローはシャルのシールド・エネルギーを大幅に削った。
生身の部分に粒子エネルギーが触れた事によって、絶対防御が発動したのだ。
フルスキンタイプならそんな自体も無いが、ISの主流はスキンタイプ。
どちらにも利点はあるし、不利な面もある。
大幅に削られたシャル、体勢を崩すが直ぐ様整える最中、爆煙から飛び出すヒルト――その加速力はトップスピードに乗ってからの瞬時加速。
二段階瞬時加速の様な後発の速さは無いが初速は圧倒的に上だった。
接近戦――一瞬でシャルはそう判断し、近接ブレードを構える、だがヒルトは此処で直角カーブを使い、一瞬にして視界から消え失せる。
実際は消え失せた訳ではない、だけど人間予想外に動くものに対応は出来ない。
虫が良い例だ、飛んでる虫を人が見失うのは、予想外の方向へ突然曲がるからだ。
端から見た印象と実際に目の前から消えるのは全然違っていた――思考が追い付かない。
刹那、シャルは背中に斬撃を受ける――シールド・エネルギーは減らず、背部スラスターを狙われた。
小さく爆発するスラスターと共にオフラインとなる――ラファールの機動力をヒルトに奪われたのだ。
「あぅっ!! ……まだだよ!」
振り向き様にシャルは左腕の物理シールドをパージ、姿を現したのはパイルバンカー【グレー・スケール】、機動力を失ったシャルはその一撃を叩き込もうとした。
一撃の威力が高いグレー・スケール、絶対防御下にある顔や腹部といった部位に当たれば一発で決まることもある。
だが――。
「ああっ!?」
「悪いな、シャル……」
掌打で左腕を弾いたヒルト、体勢を大幅に崩したシャル、この瞬間勝負が決まった。
北落師門・真打ちのバリア無効化攻撃――その刃がシャルの肌に触れ、絶対防御を発動させた。
一気に枯渇したシールド・エネルギー、試合終了のブザーが鳴り響き、そのままシャルはヒルトに身を預けた。
「……負けちゃった」
「悪いな、シャル」
「……ううん。 負けたけど、悔しいけど……それ以上に、僕……嬉しいよ?」
身を預けたまま上目遣いになるシャル、頬は紅潮し、瞳が僅かに潤みを帯びていた。
「勝てなかったのは悔しいけど……ヒルトの代表候補生、選出に一歩近付いたって事だもん」
ニコッと笑顔のシャル、ゆっくり俺から離れ――。
「ヒルト、連戦だけど大丈夫?」
「ん。 ……まあ大丈夫じゃないが、何とかって所かな」
肉体的な問題は無いものの、やはり精神的に連戦はキツい。
精神鍛練していても、限界というものもある。
「何にしても、専用機持ち後八人……何とかやってみるさ」
「……うん」
不安げな表情のシャルの頭を撫で、ヒルトは再度補給の為に戻るのだった。
一方で――。
「いやはや、不味いですよオーランドさん」
「わ、わかってる。 ……落ちこぼれが何で勝てる!!」
ヒルトの三連勝という結果に憤る反対派、正直男の広告塔は一夏だけで充分なのだ。
一夏には何より、織斑千冬の弟――機体はあの篠ノ之束が関わったとされる白式なのだ。
いくら有坂ヒルトが世界初でも、それしか話題性がなく、特にスター性も感じられないのが代表候補生になっても仕方ないのだ。
それに――反対派の優遇してる企業の全部が織斑一夏に自社の製品を使ってもらいたいと言ってきてる。
「……オーランドさん、どうします?」
「……ふんっ。 ……そういえばレイアート会長、専用機持ち全員と言っていたな?」
「え、えぇ」
「……今から急いで、出ていない専用機持ち――それも教職員含めて検索しろ、いいな」
「わ、わかりました」
「待て。 ……それと、次は無理でもその次の落ちこぼれが相手する専用機持ちにはパッケージ装備を義務つける様にしろ。 会長にもそう伝えるんだ」
「りょ、了解しました!」
そう、専用機持ち全員と言っていた事を思い出したオーランド。
更に、パッケージで専用機持ちの性能を底上げさせれば連勝を食い止められるかもしれなかった。
「更識楯無は無理なのは仕方がないが、まだ居る筈だ。 ……専用機を持つ者がな」
不敵な笑みを浮かべるオーランド、なにがなんでも阻止しようと企むのだった。
後書き
シャル戦終わりっ
てか書いてて連チャン疲れる('A`)
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