IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
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【第553話】
運動会が決まった次の日、二時限目の授業が終わった休み時間、俺はのほほんさんから預かっていた生徒会の書類を渡しに二年生の教室に向かっていた。
わかってはいるもののやはり二年生も皆女性ばかり――普段来ない一年生、特に男子の俺が歩いてるのが目立つらしく通りすがる度にチラチラと横目で見られていた。
好奇の目なのだろう、気にせず歩いて楯無さんの教室へと向かい、ドアの前に立つと自動で開いた。
「あれ!? 有坂君じゃん!」
一瞬ビクッと反応してしまう俺、教室に来ての第一声が俺を見つけた上級生の声だったので以外にも動揺してしまった。
その第一声が呼び水となったのか一斉に俺を注視する生徒一同――視線恐怖症再発しそうだ。
「君が来るなんて珍しいね? うちのクラスに何か用?」
「え? えっと――」
用件を伝えようとする前にわらわらと集まり始めた上級生達――。
「ご用件は素早く迅速に承りっ!」
「よ、用件ってのは――」
用件を伝えるよりも早く、矢継ぎ早に上級生の言葉が飛び交う。
「さあさあ有坂君、誰が目当てなのか言いなさいな!」
「え、えぇ!?」
驚く俺に対して、何故か大胆なボディータッチをしてくる娘もいた、更には明らかに胸を押し付けてくる娘まで――。
「へぇ……やっぱり男の子の身体って引き締まってるものなのね」
「有坂君、お姉さんのおっぱい……どう?」
「は、はい!?」
謎の積極的なアプローチにたじたじになる俺――実はこれには理由があった。
楯無がヒルトの面倒をちょくちょく見始める様になった九月辺りから、楯無自身がクラスの子達にヒルトの事を話していたからだ。
無論当初は興味がなかったものの、楯無自身人を惹き付ける魅力と話術によって少しずつだがヒルトに対して興味を湧かせるきっかけを作っていたからだ。
だが、楯無にとっては誤算だったのかもしれない――当の本人が教室へと戻ると、目の前で繰り広げられている光景に一瞬驚き、その中心に居たヒルトを見つけると嬉しい感情が沸き上がるも、同時にヤキモチを妬いていた。
「ちょ、ちょっと、楯無さんに用があるから――」
何とかそう告げたヒルトの声、その中に楯無の名前があったのでドキッとしつつもあくまでも冷静に努めて制服から扇子を取り出すと何時ものように開き、パチンと小気味良い閉じる音が響き渡った。
「……な~にをしてるのかしら~? ヒ・ル・ト・く・ん?」
本人は冷静に努めているつもりだったが、明らかな声色の変化。
「あっ!? 楯無さん! 楯無さんに用があって――」
そう告げる俺だが、当の本人はそっぽを向いて自分の席へ移動し、着席すると窓から外を眺めた。
「え? ……た、楯無さん?」
普段とは違う楯無の対応に戸惑う俺――キスしたことを怒っているのだろうか……?
何とか女子生徒の集団に言い聞かせ、俺は脱け出すと楯無さんの所へと向かう。
視線は窓の外へと向いている楯無さん。
「あ、えっと……楯無さん?」
そう声を掛けた俺に返ってきたのは無愛想な言葉だった。
「……何かしら?」
「え? ……のほほ――本音から書類を預かっていたので渡しに来ました」
そう言ってクリアファイルを手渡そうとする俺だが楯無さんは顔を此方に向けてくれることはなかった。
更に返ってきた言葉はというと――。
「放課後でいいじゃない」
「え? ……た、確かにそうですけど……急ぎだと思ったので……」
明らかに怒気の含まれた声色――内心焦る俺。
クリアファイルをそっぽを向いたまま受け取る楯無さんから意外な言葉が出てきた。
「本当は二年の教室で女子を漁るつもりだったんじゃない?」
「なっ!? そ、そんな訳ないじゃないですか!」
そんな唐突な言葉に俺も僅かに怒ってしまう――一瞬ビクッと反応した楯無さん。
ここで予鈴が鳴り響いた。
「あ……す、すみません楯無さん。 ……書類は渡しましたので、これで……」
「……ご苦労様」
流石に年上に対して怒ってしまった――それも世話になってる人に一瞬でも感情的になってしまった自分に嫌悪しつつ、一礼して二年の教室を後にした俺は急いで自分の教室へと戻っていった。
一方の楯無はというと、僅かに涙目になっている自分に驚きつつ、嫉妬してヒルトに対して冷たい態度をとった事に後悔していた。
自分自身でもわかるぐらい醜い感情を露にし、それをよりによって想いを寄せるヒルトに対してぶつけてしまったのだから。
嫌われる――思考がネガティブになる楯無、スカートのポケットから携帯を取り出し、メールフォルダを開く。
メインフォルダの下のメールフォルダ、『ヒルト』の中を見る。
メール回数は既に五十件を越えていて下から見ていく――業務連絡もあるものの、大半は他愛ない内容――だけど楯無にとっては大事な内容の為、全て保護設定になっていた。
……後でちゃんと謝らないと。
メールを送って謝罪するのは簡単だが、それだと気持ちが伝わらない。
携帯をポケットに入れ、軽く呼吸を整えると気持ちを何とか切り替えて授業の準備に取り掛かった。
場所は変わりイルミナーティ本部、ウィステリア・ミストはヨーロッパ各地から送られてくる資料に目を通していた。
「ふむ……イタリア代表が現地を発ったか――意外と早いが……。 ……デュノア社に関しては相変わらず難航しているようだな、次世代機の開発に」
「えぇ。 ラファール・リヴァイヴがある意味完成された形ですからね、ボス」
そう告げるシルバー――ウィステリアが読み上げた資料を支部毎に振り分けていく。
「まあいいさ。 それよりもシルバー、『ヴァリアント』の生産状況はどうか?」
「概ね八割は完成、残り二割は各パーツの生産が追い付かない感じかしら」
「成る程。 ……まあ八割あればISの保有に関しては我がイルミナーティが最高保有数になるだろう――無論未登録故に既存のコア数に含まれないがな、これが」
未登録のコアを含めると既に世界には五〇〇を越えるISが現存しているということになる。
各国に振り分けられたコア数も限界がある中、イルミナーティ組織が保有する機数は断トツといえるかもしれない。
「……そういえばシルバー、PPS――有坂真理亜が開発したといわれるあのパワードスーツの情報は入らないのか?」
「……残念ながら。 カーマインの機体から画像はあるもののその構造や動力機関といったものは不明です、装備品等はISで流用可能な物もあるのである程度の互換性はありそうなのですが」
「成る程。 ……搭乗者は確か有坂陽人だったな」
「えぇ」
それだけを告げるとウィステリアは暫く沈黙、シルバーはそれを眺めながら言葉を待った。
「……いずれあの二人とも接触しなければならないな」
「兄さん、それは……イルミナーティの為? それとも――」
シルバーの言葉を遮る様にウィステリアは断言した。
「無論我がイルミナーティの為だ。 それ以外に理由はない」
「……わかったわ兄さん。 じゃあ私は戻るわね?」
「あぁ」
部屋を出ていくシルバーを見送り、ウィステリアは投影ディスプレイを取り出す。
其処に映し出された映像はラファール・リヴァイヴによく似た機体だった。
「……歴史通りに完成させるか、或いは私がその針を進める、か……」
そう呟くウィステリア、だが彼が介入しなくても着実にその歴史の波に変化は訪れていた。
夜、IS学園一年生寮。
今日は男子が浴場を使える日だが、ヒルト自身は一夏の誘いにうんざりしていたので断り、寮の廊下を歩いていた。
時間も時間で一年生女子も其々の事をしていた。
「あ、き、君!」
「ん? エレン?」
廊下を歩いていた俺を呼び止めたのはエレン・エメラルドだった、髪を結ってポニーテールにしていた彼女は俺を見つけると駆け寄ってきた。
「す、すまない。 急に呼び止めたりして」
「構わないさ。 どうしたんだ?」
「う、うむ。 え……と、その、だな……」
言いにくいのかモジモジし始めるエレンに、首を傾げていると――。
「う、運動会……。 き、君は何か叶えたい願いとか、あるのか?」
「願い? ……そうなんだよな、願いなぁ」
実際問題俺自身、本当に叶えたい願いというのが思い付かなかった。
「君は何か叶えたい事とかないのかい?」
「うーん……」
「あ、すまない。 君を困らせるつもりじゃなかったんだ。 ……わ、私自身君がどんな願いがいいのか気になっただけだから」
「そうなんだ」
「うむ。 ……ヒルト、当日はライバルだ。 君には一度敗退しているが、次は君に負けるつもりはない。 次は私が勝つ」
そう宣言し、立ち去るエレン・エメラルドに若干ポカーンとしてしまう俺だった。
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