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この凄まじいセカイに祝福を?(カズマがサッキュバスにヤられたり、触手の化け物や両性具有の天使にガチ堀されて出産する話)

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41魔王と対面


 ウィズが降り立った城塞都市、鉄を鍛えたり武器を販売する都市、そこは廃墟だった。
 ほんの数週間前まで使われていた街は、馬車が繋がれたまま、牛や犬がロープを千切って市中を歩いていたが、魔族、亜人は一人もおらず、商店には崩れた塩の柱、宿にも塩の柱、酒場にも飲まれていた酒や食事、その前の椅子には塩の柱が積もって崩れていた。
「何なのっ! 誰かっ、誰か居ないのっ、答えてええええっ!」
 自分がリッチでなければ、もう気が狂って町の外の砂漠に向かって走り出していた。
 生きている馬を見付けて馬車でも使って隣町まで走って、そこでもここと同じ光景を見れば絶望して倒れてしまう。
 騒がしいはずの雑踏にも塩の柱、汚らしい売春宿にも塩の柱、子供がいたはずの学校にも小さな塩の柱。
 もう呼吸などしていない身が息苦しくなり、その場に膝を着いて気分が悪くなったが、嘔吐すらできない体だった。
「天使が、みんな殺しちゃった、あは、あはははは、あああああああああああああああっ!!」
 人間らしい感情も失ったはずだが、ここまで凄惨な殺戮、動物以外は誰一人逃げる余地すらない絶滅に、ウィズの胸は張り裂けそうになって叫んだ。

 犯罪者や金には困っている連中なら、下種な考えを起こして盗み放題盗み、馬車にでも満載していき、人間が生きている街を探し求めて換金するが、それでも数か所、誰一人として存在しない都市を見れば発狂する。
「誰か、誰も居ないのっ?」
 これで腐敗した死体にハエがたかり、腐った肉の中でウジムシが蠢いて、肉を十分に食べた野犬やカラス、ハゲタカでもうろついてウィズを囲み、腐っていない新鮮な肉でも求めていれば、もっと修羅場だったが、塩だけは十分にあって、人間の脳の破滅へのスイッチを入れる死体の腐臭は漂っていなかった。

「おい、生きてるのか? また幽霊じゃないだろうな?」
 ウィズの叫び声を聞いて、調査と金品の収集をしていたドラゴンや、運搬係の魔族が近寄って来た。
 動物の声と風の音以外何も聞こえない、ほぼ無音の世界なので、幻覚でも見たのか、本当に幽霊が出るのか、兵士達も怯えながらこんな場所に存在するはずがない人間形態の女を見た。
「あなた達は? 幽霊、それとも現実?」
 ウィズも、存在しないはずの生存者に声を掛けられ、あの世に焦点を合わせた目で兵士達を見た。
「我々は魔族軍、ドラゴン兵団の調査隊である、貴君の官姓名を名乗られよ」
 こんな時の所属とはありがたい物で、混乱時でも訓練された通り声のを出し、所属不明のウィズに誰何し、名前も身分もある生物だと言わせようとした。
「私は魔族軍幹部、リッチーのウィズです。魔法での転移は可能ですが救助を要請します。あなた達の指揮官に合わせてください」
 魔族式の敬礼をして、仲間であることを主張するウィズ。
 兵士も、途中で悪鬼羅刹に変化する人食いの化け物に変化されるとしても、名前が分かって身分を明かした人物には胸襟を開けた。
「はっ、ご案内します」
 こんな状況だったので、ウィズは水や食料の必要がない体でも、人の温もりや会話、何より騒音を求めた。
 自分が未だに人肌を求め、誰かの存在がないと凍えてしまう心を持っていたのは驚いたが、ここまでの孤独に耐えられる人間やリッチなど存在しないのだと知った。
 兵士達も、リッチーと聞いて寒気はしたが、ハイレベルのウィザードで魔族軍の幹部でもある人物だと分かり、会話や和解が不可能な怨霊の類ではないと知って安心した。

 魔族軍テント
 恐怖の余り兵士も幻影を見るのか、本当に怨霊が現れるのか、死んだ城塞の中では野営できず、外で野生動物の恐怖におびえる方が良いと判断して、外でテントを張って調査を続けている部隊。
「お邪魔します。一人あの街にいて静かすぎて、おかしくなりそうな所を、兵士の皆さんに保護して貰いました。皆さんがいてくれて助かりました。初めまして、魔族軍幹部でリッチーのウィズと申します」
「よくおいで頂きました。私が派遣軍の指揮官です」
 あの惨状を見た者同士、金策や揉め事、政治的な野心も何も考えず、ウィズも「保護」と言ったので、死の街で一人でいた心細さが伝わった。
「昔は、この街を拠点に活動したりしたものですから、地図が変わっても勝手が分かるだろうと思って移動の魔法で転移して来たんです。でも、全員天使に塩の柱にされたようで…… 私がいた人間の街でも、誰とも会話できないよう、言葉が通じなくされてしまって、荷物を纏めて魔族の街に来たんです、それなのに……」
 熱い茶を出してもらって、そのカップの熱さに両手を当てても震え、故郷にも近い場所で言葉が通じたのも有難かった。
「それは大変でしたな、天使をご存じで?」
「ええ、何度か下級天使とは戦いましたから。でも、毎回負け戦でしたね、救助要請されたクエストも大抵失敗、時には城塞ごと消されましたから」
 どんな破壊魔法も大半をレジストしてしまい、魔族や人間の「文明」「発見」を破壊して回る下級天使。時には物理法則すら無視した巨大化までして、最期には天の雷を導いて落とす化け物たち。
 救助や救出のクエストは失敗続き、一人の子供も救えず、もう神も愛も信じる事すら無くなり、エリス教のバッジを首から引き千切って投げ捨てたあの日。
 地上から神や天使に呪詛の言葉を並べ、神から最も遠い存在になってまで復讐を誓ったが、天使の物量や性能には適わなかった。
 いつものように「空飛ぶ機械を作った奴がいて、そいつは雷に焼かれて死んだのに、城塞から誰も出入りできなくなった」または「水を煮込む大きい鍋から蒸気を出して歯車を動かそうとしたら天使が来た」それらが天に歯向かう罪だとは思えない出来事で、町ごと消される事実。
「しかし、言葉が通じなくなるとは、報告を受けておりませんが?」
「ええ、私だけ人間の街にいて、それもリッチなので書き換えできなかったみたいですね。古い文献に、バベルの塔と呼ばれる言葉の統一とか乱れを司る塔があるんですけど、魔族と人間が会話できたり、大陸の端と端、どんな田舎でも言葉や流行語までが同じなんて、おかしいですよね?」
「さあ、それが普通だとばかり思ってましたが」
「町ごと消される時は、書き換えじゃなくて、今まで同じに調整されてたのが止まるみたいです。天使が終末のラッパを吹いて「この町は終わりだ」って言ったときと同じです」
 まだ老人ではない指揮官には理解出来ないことばかりだったので、疑問符を浮かべられた。
「私見ですが、私は本当にこの世の終わりが来たと思っています。兵士には休暇を取らせて故郷に帰らせ、今残っているのは冒険がしたい若い者ばかりです」
 ウィズの言葉は理解できなかったが、起こっている状況は掴んでいた指揮官。
「ええ、そうですね。私はある人が女神とか天使を呼んでしまって、私たちが不要になったんじゃないかと思ってます」
「ある人?」
「はい、あなたは理解力のある方です、ぜひ協力してください。魔王にも会っておきたいです」
 旧知の魔王にも面会し、何かが起こっていると伝え、その中心にいる人物を探すのも協力して欲しいと願い出るつもりだったが、それは既に手遅れだった。

 サッキュバス領
「カズマ様、本日の予定ですが、魔王との面会と、今までの魔族統治への感謝の言葉を述べて頂き、その後魔王討伐をして頂きます」
「エ?」
 普通の人間、それが例え本当の人間でも、魔王に面会するのは無理かと思ったが、このクソ天使は平気でそれを実行する。その上「魔王討伐」とかありえない述語を言った。
「あの、低レベル冒険者に魔王討伐とか無理ッス」
「ご安心ください、同行した天使が魔王をタコ殴りにした後、ヒットポイントが1とか2しかない所を、この「単分子カッター」で切り刻めば簡単です」
 普通のロングソードか、反りがある乗馬用の細い剣を見せられたが、女神が使うウォータージョットカッターとか、このファンタジー世界では聞けない単語を聞いた。
「イヤ、パーティメンバートモ、ソウダンシナイトイケナイシ」
 ガクガク震えながらカタカナ言葉になり、魔王に面会させられるので、ダクネスとかめぐみんとか、一応クソ女神にも相談しないとイケナイ。確か女神は、カズマが魔王討伐に成功すると天に帰る。
「ご覧ください、このように石でも鉄でも真っ二つ、相手が魔王でも簡単です」
 どこかの五右衛門さんが持っているような刀の切れ味で、石の柱を切って鉄の鎧を真っ二つにした天使。装飾用なのですぐにプリントアウトして復元した。
「不安でしたらカズマ様のコピーを向かわせて、魔王の首を持ち帰りますが? それでも宜しければ」
「イエ、イキマス」
 歴史の転回点なので、自分の目に収めて、できれば向きを変えようと思うカズマ。一回寝ると並列化され、魔王を倒した記憶も追加されるが、その瞬間には同行したいと思わされた。

 魔王城
 めぐみん、ダクネス、アクアを連れて、魔王城まで超音速ですっ飛んできたカズマ一行。屠龍君は人間を乗せる容器として参加、中身もいつも通り。
 魔王は閣議中だったが、天使達は構わず乱入した。
 議題はもちろん人類側守備隊壊滅、大天使の出現、魔族軍が天使を回避して侵攻している状況で、魔王直々に指揮を執るか、このまま天使を恐れながら自由に侵攻させるかであった。
「ああ、そのままそのまま、私たちはお前らの造物主である天使だ。今まで魔族全体の統治、ご苦労だったな。まず本当の人間であるカズマ様より、お褒めの言葉が下達される、心して聞け」
 魔王以下幹部や重臣は固められ、身動きできない状態にされた。魔法の寝言どころか指一本動かせず、呼吸まで止められた。
「うっ、ぐあっ」
「え~と、ヒョウショウジョウ、アナタハ~」
 どっかの国の大使館の大使みたいに、相撲の表彰式に表れてカタコトの日本語で表彰するオッサンみたいに話すカズマ。
 今の世界では、カズマと天使の言葉が標準語だったが、魔族にはカタコトにしか聞こえていない。
 呼吸停止から一分以上、心臓の悪い重臣は倒れ、魔王も酸素がないと生きては行けない。女神や天使のような酸素も必要ない完全人工物ではなく、寿命もある生命体である。
「おや、呼吸をさせるのを忘れていたな、呼吸や心拍を許す」
 わざと停止させていた呼吸を再開させ、止まりかけていた心臓の鼓動も許可する天使。この中のメンバーを何人か残して生かすような構想はなかった。
「魔王よ、このままカズマ様や我らに忠誠を誓い、家臣として仕えるなら生かしてやろう。拒否すれば死あるのみだ」
 絶対の自信があるのか、同行した天使は数人。セラフ1だけでも余裕の茶飯事で、ワンパンで魔術的な防御を剥がして丸裸にして、ただのオッサンに変えられる。
「こ、この私が天使や人間ごときに屈すると思うか?」
「あっそ~、じゃあシね」
 orzの体制だった魔王を蹴り上げ、魔装や呪術的防御、魔法防御、何もかも剥がして普通のオッサンにして、ヒットポイント0になった処から命を繋ぎ、瀕死でザオリクか何かで復活した勇者みたいにしてやる。
「やめてよう、やめたげてよう」
 パーティーの中で、何故かカズマだけが見知らぬオッサンを庇い、天使の暴虐から守った。
「カズマ、何をしているのだ? そいつは魔王、人類の敵なのだぞ、アガペーもいい加減にしろっ」
 使えない剣を抜いて魔王に向けたダクネス。これが人類が初めて魔王に向けた剣になった。
「でも知らない人でしょ? 見ず知らずのおじさんに暴力なんて、オヤジ狩り?」
「何を寝ぼけたことを言ってるんです、それは魔王なんですよ、復活しないうちに早くっ」
 めぐみんからも正しい意見が出たが、カズマが守っている間に魔王が復活し、一応ボスキャラ的な大きさに変化した。
『カズマとやら、褒めて遣わす、私が復活する隙を与え、ぐああああっ!』
 天使から「目の前でエクスプロージョンしても防御スクリーンを張ってやる」と言われていためぐみんは、室内でも構わず爆裂魔法をぶっ放した。
「エクスプロ-ジョン!」
「凍結」
「圧縮」
「固定」
「死」
 天使達も得意な呪文?を唱えると、魔王は絶対零度に冷やされ、テニスボールぐらいまでギチギチに圧縮され、空間座標に固定されたので時速数百万キロのスピードで太陽系から放逐されて死んだ。
「な、何が、これ?」
 セラフ1の、どこでもドア方式の転送で数百万キロの彼方から引き戻され、元の体は「げんしはかいじゅう」でコナゴナ、「アソパソマソ新しい顔よ~」と言われて、新しい顔をプリントアウトされ、首から下が無いのに、何故か生かされている魔王は、何が起こったのか分からず怯えた。
「さ、カズマ様、コレを処分してカズマ様は英雄、勇者カズマとなるのです」
 いつも通りの黒い笑顔で魔王の首を差し出すセラフ1。これを破壊すると、アクアは天に帰る。
 もしかしたら手渡された単分子カッターなら天使を切って葬れたかもしれないが、本体を壊す方法は存在しなかったので、新しい天使がプリントアウトされるだけだと思って実行できなかった。
「い、痛い、苦しい、殺してくれっ、早く私を殺して~~っ!」
 魔王は、無くなったはずの体が猛烈に痛むようで、治療魔法だとか回復能力も効かず、もだえ苦しんでカズマに死を願った。
「は、はい、ごめんなさい、ごめんなさい」
 言葉を喋って知能もある相手を殺すのは初めてだったので、謝りながらとどめを刺そうとしたカズマ。
「待って下さいっ!」
 ピーちゃんに乗ったドラゴン少女も駆けつけ、魔王の処刑を止めた。

 その後、いつも通りカズマが土下座して「生きている人は殺せませんっ、苦しまないようにしてやって下さいっ」と世界の片隅で愛を叫ぶと、魔王は許され苦痛からも解放、天使達にも感激された。
「ああ、貴方こそやはり我々が求めていた人、悪の大魔王にすら見せたアガペー、その言葉や心があれば、きっと今後の人類は戦争など起こさないでしょう」
「感服いたしました、その愛、憐みの心。あと一歩で人類の勝利となったのに、その栄誉も捨ててまで、このような化け物にまで与えて下さる無限の愛、私にもその愛を下さいっ」
「ああ、やはりカズマ様こそ「本当の人間」争いの心を持たず、野生動物にも、魔王にまで愛をお与え下さる神です」
「ありがとうございます、このセラフ5、目から鱗が落ちました。亜人など所詮実験動物と考えていましたが、心を入れ替えます。このようなモルモットでも、カズマ様から見れば愛の対象なのですね?」
 何かオイオイ泣かれながら天使にも抱き着かれ、日ごろ見知った顔が髪の色だけ違って、いい匂いさせて柔らかい体で抱き着いたので発情したカズマ。
「「「「あ?」」」」
 
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