IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
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【第596話】
ベンチに腰掛けるヒルトと、イザナギに補給する未来――束の間の休息、だが次に待ち受けているのは副担任の山田真耶だ。
栄養ドリンクの効果もあったが流石に未来とエレンの二人組相手に大分消耗してるのか、ぐったり身体をベンチに預けている。
「ヒルト、補給はもう少しで終わるよ」
「ん……」
「……やっぱ連戦疲れ、キツい?」
未来の言葉に小さく頷いたヒルト――これが他の子なら頷いてはいなかっただろう。
「そっか。 ……あんまり効果あるかわからないけど、ちょっと揉みほぐして上げるよ。 だからうつ伏せになって?」
「あぁ……」
促されるままうつ伏せになるヒルト――未来はヒルトの足首から軽く揉みほぐしていく。
「っ……」
「やっぱ疲労たまってる感じ? あんまり強く圧してないけど……」
「たまってる……な。 めちゃくちゃくる……」
筋肉を解していく未来――足から臀部、腰、背中、肩にかけて揉みほぐしていた。
イザナギの補給が終わったのか、装甲に刺さったコードが音を立てて外れた。
「ん……少しは軽くなったと思うけど、どう?」
ベンチから立ち上がり、軽く腕や足、腰回りを回すヒルト――。
「あぁ、さっきよりはましだ。 ありがとうな」
「ううん。 ヒルトはずっと連戦続きだもん。 他は大丈夫?」
「他? 特に大丈夫かな」
「そっか。 ……ヒルト、持つべき者の義務《ノブレス・オブリージュ》は私にはわからないけど。 ヒルトは肩肘張らなくていいと思う。 もし今回の件で代表候補生になれなくても、今日のヒルトの頑張りは皆見たから評価は――んんっ……!?」
未来の言葉を遮るようにヒルトは唇を塞いだ――するりと口内に侵入してくるヒルトの舌を、未来はたどたどしく絡ませる。
いつ誰が来るかわからない状況下で交わされる濃厚な口付けに、未来の脳内は沸騰していた。
唇を離すヒルト、未来は――。
「い、いきなり何するのよ、バカ!!」
「いや、何か未来難しい話しだしたからな。 ……皆の期待を背負ってる、代表候補生になれなくても何て考えてないさ。 俺は……なるんだよ、代表候補――いや、更にその先の、国家代表にな」
そんなヒルトの言葉に、小さく「バカじゃないの……」と呟く未来。
ヒルトも聞こえていたが、補給も終えたという事もあってイザナギを身に纏うとふわりと舞った。
「未来」
「え?」
不意に声を掛けられた未来は、ヒルトの方へと顔を向けた。
「行ってくるよ」
「……行ってらっしゃい」
ヒルトに笑顔で返した未来、そのままヒルトは規定位置へと飛翔していった。
既に準備を終えている真耶は――。
「有坂くん、手加減はしませんからね」
「ん……了解っす」
手加減はしなくていい――もうゴールは目の前なのだから。
真耶を退ければ残りは一夏のみ――油断さえせず、零落白夜に気を付ければ――後は、身体が何れだけ動くかどうかだった。
シグナルに灯りが点る――二挺のサブマシンガンを構えた摩耶に対してヒルトは電磁投射小銃を構える。
歓声が聞こえる――だけど、大半はヒルトがやられる――当たり前だ、教師が生徒に負けるなんて普通誰も予想できない。
二つ目のシグナルが点灯――陽は黄昏、暖色のある赤みがヒルトと真耶を包む。
三つ目のシグナルが点灯と同時に射撃戦が開始された――互いに放つ弾丸は迎撃、或いはシールドに阻まれ有効打を与えられない。
流石のヒルトも今回ばかりは迎撃機能をオフラインにはしなかった、そんな事をすればあっという間に削りきられる。
弾装を装填する真耶――装填に掛かる時間も二秒とかからず、直ぐに射撃を開始する。
夕焼けの空を彩るレーザー迎撃、互いに有効打が認められない中、真耶は二基のシールドを射出――有線で繋がったそれはイザナギのショットクローと同じ有線接続操作型だった。
包囲するように迫る二枚の盾。
「……なんだ?」
左右に迫るそれを避ける――サブマシンガンの追撃は止まない、迎撃しつつ、執拗に追ってくる二枚の盾を煩わしく思っていると残った二枚の盾も射出した真耶。
「これは……誘導されてるのか?」
一旦迎撃機能をオフラインにするヒルト、左右に避ける合間に四枚のシールドは上下左右に包囲網を敷いた。
『マスター(・_・;) シールドに包囲されてますよぉ(-o-;)』
『わかってる。 ナギ、雅……どう思う?』
『ボクはあれが何だかボクたちを取り囲む為に展開してる気がするのですよぉ(・〇・ )』
『私も同感だ。 主君、分離して二対一で攻めるか?』
『いや、多分それは直ぐに対応してくるだろう。 このままパッケージのままで頼む』
『承知した』
降り注ぐ弾雨、迫る四枚のシールド――空中の機動を奪うように配置されたシールドは明らかにヒルトの動きを狭めていった。
「チッ……!」
「ヒルトくん、防戦一方になってますよ?」
撃つのを忘れるくらい執拗な四枚のシールドと射撃によって自由奔放な動きを制限されていた――そして。
「ッ……!?」
避けた先に一枚のシールドが配置され、ヒルトは咄嗟に動きを止めてしまった。
真耶の眼鏡が光る――動きが止まったヒルトに対して上下左右にあったシールドが急加速、ヒルトのイザナギを完全に覆い隠した。
「チィッ!?」
『く、暗いのですよぉ(>Д<)』
『これは――主君! 早く迎撃機能を!! ラファールが迫ってきている!!』
その雅の言葉通り、瞬時加速で迫っていた真耶。
その間にサブマシンガンの弾装を取り換えを済ませる。
シールド内部で迎撃機能をオンラインにしつつ、脱出しようと足掻くが完全に包囲されて武器も振るえない閉鎖空間では無駄な行為だった。
寸勁ですら封じ込められた空間――僅かに空いた隙間に捩じ込まれる銃口。
『わわっ(゚ロ゚) 逃げ場がないのですよぉ(。>Д<。)』
『チィッ! 装甲展開! 雅! ナギ! 完全解放だ!!』
シールド内部で全身の装甲が開かれる、無数のレーザー砲口が現れた。
そして――真耶の無慈悲な射撃がシールド内部に放たれる、イザナギから放たれる無数のレーザー――だが距離が近すぎて撃たれた弾丸、跳弾する弾丸全てを迎撃できない。
シールド内部は剣呑な音と跳弾する火花、レーザー迎撃による光が僅かに漏れ聞こえてくる。
逃げ場がない無慈悲な射撃に、生徒は息を呑む――。
「幾らなんでも……あれじゃ、有坂くんも……」
「そ、そうだよね……。 やっぱり山ちゃん強い……」
「ここまで、かぁ。 ……でも、正直ヒルトくん見直した。 アタシは少なくともそう思う」
既にヒルトの敗北が決まったかのような言葉に――。
「ま、まだ決着は着いていません!!」
「そうだ! ヒルトくんが簡単にやられたりしないもんっ!!」
反論したのは四組のソフィー・ヴォルナート及びエミリア・スカーレットだった。
「ヒルトさんはここまで来ました! 例え相手が副担任でも、私はヒルトさんの勝利を信じていますっ!!」
グッと両手を構え、空高く右手を掲げるとソフィーは叫んだ。
「ヒルトさぁーん!! 勝負はまだ着いてませんから!!」
「そうよ! まだ負けてないし! それに、エミリアの素敵な彼氏なんだから負けるはずない!!」
エミリアも同じ様に声を上げた――それが伝染するように今度は一組に。
「ひーくん~! がんばれーッ!!」
「そうだ! 一年最強だって言われたラウラも倒したし、二対一でも勝ったんだ! 俺が応援するんだ! 負けるなヒルトォーッ!!」
「おー! 負けたら許さないー、負けたらヒルトに梅干し食わせてやるぞー!」
本音、理央、玲と声援をあげる――。
「ヒルト君! 負けないで!!」
「そうだよ! 山ちゃん相手だけど、ヒルトくん負けるなー!!」
「有坂くん、その武勇――皆に見せてくださいませ」
「ファイトだよ! ヒルトくん!!」
静寐、鏡ナギ、神楽、さゆかと続き――。
「ヒルト! こんな所で負けたら日米同盟間にヒビが請じるよ!!」
「ヒルト、勝って」
ティナ、セラと伝染していく――いつしか歓声の輪は拡がる、水面に小石を投じ、波紋が拡がるように――。
「ば、バカな……何故あの落ちこぼれにこれだけの声援を送る!? あんな役に立たない落ちこぼれに!?」
明らかに動揺を見せるオーランドに、千冬は呟く。
「……確かに、数値だけを見ればヒルトは貴殿方の言うように落ちこぼれです。 だが……ヒルトは、入学してからずっと訓練し続け、各国代表候補に教えを請い、力を着けてきた。 それを見てきた者達が今の彼女等です」
「ふん、ならば見る目のない小娘共だな! まあいい、どんなに声援を送ろうともこれで決着は着く。 万が一負けたとしても、貴様の弟が次の相手なのだ」
「…………」
千冬は何も答えなかった、ただ今は……試合の流れを見守るしか出来なかった。
カチッカチッとトリガーを引くも、既に弾切れとなったサブマシンガンからは何も出ない。
隙間から銃口を引き抜く真耶、まだ決着は着いていなかったが確実にダメージは負わせた。
四枚のシールドを解放――解放した空間にはガンスモークが立ち込めていてイザナギの姿を生徒達は視認出来なかった。
だが真耶はハイパーセンサーで確認出来た――イザナギの姿を。
堪えていたのだ、あの跳弾の嵐を――。
ガンスモークが晴れ、姿を現したイザナギ――オーバーヒート寸前の機体を冷却するために開いた装甲から廃熱する、立ち込めた蒸気がヒルトを包んだ。
『マスター、迎撃機能のエネルギー、底をついたのですよぉ(TДT)』
『仕方ない。 機能はオフラインだ。 雅、他はどうだ?』
『ダメージコントロールチェック。 ……主君、外部ダメージは無しだが内部は少しダメージを受けている。 これは連戦の影響だろう』
『了解。 シールド・エネルギーは残り二二〇か……』
エネルギーは減らされたものの、真耶の四枚のシールドは跳弾の影響でほぼ使えなくなっている。
だがそれでも残りエネルギー総量五〇〇を越えてる為、開いた差は大きい。
イザナミの両腕部から光刃を形成させ、二刀射出に合わせてワイヤーブレード全基射出、左肩ショットクローも同時に射出した。
回転する刃を避けるもワイヤーブレードを撃ち落とす真耶、だがショットクローの粒子刃が大きくシールドに干渉、エネルギーを削る。
波状攻撃を防ぎ切れなかったのはシールドがほぼ機能してないのが原因だろう――其処からヒルトの反撃が始まった。
さっきとは真逆に攻め立てるヒルトの執拗な中遠距離戦、アサルトライフル、サブマシンガンで反撃、迎撃を行う真耶だが明らかに追い付けていなかった。
ワイヤーブレード、ショットクローはナギが制御、天之尾羽張は雅が制御し、残った武装をヒルトが扱う。
パターンの読めない波状攻撃が真耶を苦しめた――五〇〇を越えてたエネルギーも徐々に減らされ、四〇〇、三〇〇と削られていく。
だがその一方で反撃も忘れていなかった、波状攻撃の迎撃の合間も、ヒルトにダメージを与えていく。
波状攻撃とはいえ間は必ず在り、真耶はその隙をついてシールド・エネルギーを削ったのだ。
だが――やはり実力差と疲労でヒルトが圧されている。
連戦はヒルトの精神と体力を磨耗させ、持続していた集中力も途切れ、回避できた射撃も諸に直撃を浴び始めていた。
ディスプレイに映し出されるヒルトの疲労の色がそれを物語る――そして、真耶はここから攻勢をかけた。
折り畳み式パドルブレード《九鬼姫》による剣閃とサブマシンガンを合わせた戦闘術が疲労したヒルトを更に苦しめた。
剣を捌けばサブマシンガンの射撃、射撃を何とか逸らせば今度は九鬼姫の剣閃がシールド・エネルギーを削った。
誰の目にも明らかになるヒルトの敗北――伝染した歓声が終息へと向かう――だけど……それでも声をあげて応援する子達が居た。
「ヒルトさぁーんっ! 勝負はまだまだこれからですよーっ!」
「そうだー! 野球だって二アウトから巻き返せるんだからーッ!!」
「ひーくんーっ! ふぁいとぉー!!」
「ヒルト! 勝って!」
四組のソフィー、エミリア、一組の本音、三組のセラと諦めていなかった。
特に普段物静かなセラが声をあげている事に、三組女子は驚きを隠せなかった。
終息し始めていた歓声も今再び巻き起こる――ヒルトはそれに呼応する様に吼えた。
「ゥォォォオオオッ!! まだだァ―ッ!!!!」
疲労困憊した身体に今一度力が込み上げてくる――対応しきれなかった真耶の攻撃に対応し始めたヒルト。
だが、それは遅すぎた――残りシールド・エネルギーが八〇を切り、一方の真耶はエネルギー二〇七。
だがそれでもヒルトは諦めていなかった――削られるシールド・エネルギー、疲労した身体に鞭を打ち、切り結ぶ刃――残りシールド・エネルギーが三〇、真耶は残り一六二――。
「ヒルト君! これで――お仕舞いです!」
北落師門が空を舞う――真耶の九鬼姫によって払われたのだ。
既に弾切れのサブマシンガンを捨てた真耶は九鬼姫を構える。
これまでか――否、まだ俺は……俺は最後まで――。
「――諦めてたまるかよォォォッ!!!!」
ヒルトの想い、それをコア・ネットワークを通じて訊いていた美春、静かに瞼を閉じ、両手を広げる。
「ヒルト……なら。 また力……貸すね?」
誰もいない整備室に一人――美春の身体がふわりと浮かび、光が放たれた。
共鳴現象――淡く優しい緑の光と美春の想いが、コア・ネットワークを通じてナギ、雅の元に届く。
四月から九月まで培ってきた村雲・弐式の経験値、打鉄・改の経験値――そして今、イザナギの経験値が三機のコア・ネットワークにリンクし、イザナギへと蓄積されていき、新たなフラグメントマップが構築されていく。
九鬼姫がイザナギのシールドバリアーに当たる瞬間、不可視の障壁がその一撃を阻む――そして次の瞬間、機体周囲にその障壁がクリスタル状にイザナギを覆われ、巻き込まれるように真耶は吹き飛ばされた。
周囲が騒然となる異変――生徒だけでなく、教員も何が起きたのか確認していた。
「な、何が起きてるんだ! 誰か説明しろ! あの落ちこぼれに、一体何が!!」
騒然とする会場に飛ぶオーランドの怒声――レイアート会長はみっともなく慌てるオーランドを一瞥しつつもレポートをとり続けていた。
吹き飛ばされた真耶は今の内にデッド・ウェイトとなった四枚のシールドを切り離す――目の前のクリスタルから放たれるプレッシャーに、手が汗で濡れていく。
そして――クリスタルは僅かにヒビを生じ、其処から亀裂が入ると周囲に白亜の高濃度圧縮粒子を放出、粒子崩壊現象を巻き起こした。
ハイパーセンサーに乱れを感じた真耶――一方でその変化を遠い場所で感じてる人物が居た。
イルミナーティ本部――窓から外を眺めていたウィステリア・ミストは小さく呟いた。
「……フッ、ようこそ。 新たな境地へ……否、まだ踏み込む手前かな、有坂ヒルト君」
仮面を外すウィステリア――瞳は更に紅い輝きを宿していた。
「フッ……さて、世界はどうなる? 一石を投じた波紋は、どう影響を及ぼすのか……見物だな」
ウィステリアの呟きは虚空へと消えていった――首に巻いた黒基調の赤のラインが入ったチョーカーが淡く輝きを放っていた。
学園上空ではクリスタルから粒子が放出され、亀裂が入り――目映い閃光と共に割れた。
割れたクリスタルの破片は粒子となって四散――其処から現れたのは第二形態に移行した【天・伊邪那岐(アマツ・イザナギ)】の姿があった。
定着した電離分子は分子結合殻と融合され、電離分子結合殻装甲《プラズマシェルアーマー》となって装甲表面に視認可能なレベルでプラズマを放出させていた。
漆黒の機体帯びる青いプラズマ、その影響からかヒルトの髪は後ろへ僅かに逆立っていた。
瞼を開き――ヒルトは吼える――学園全体に轟いた。
「行くぞォォォッ!! イザナギィィィッ!!!!」
可変展開された装甲が組み換えられ、パッケージとなったイザナミの腕部パーツを取り込む。
右肩のランチャーもそれに合わせて可変展開――取り込んだイザナミの腕部パーツを媒体にした幅広の可変型荷電粒子剣【大神之神霧露(オオカミノカムロ)】が形成された。
長大かつ幅広いその荷電粒子剣――その意匠は青みがかった白銀の光刃を纏った美しい剣だった、収束された粒子の光刃は、粒子片を溢す事なく形成されているのは単に有坂真理亜の技術力の高さを物語っていた。
右肩部から分離され、大神之神霧露をヒルトは構える。
だが長大な剣は振りが遅い――第二形態移行を目の前で果たされた真耶だが、落ち着いて対処しようとアサルトライフルを構え、発砲。
当たればヒルトは負ける――だが避けなかった、発砲した弾丸はシールドバリアーに当たる前に、視認可能なプラズマによって阻まれる。
弾装が空になるまで撃ち続ける――だがやはり、弾丸はプラズマが妨害してシールドバリアーに当たる前に灰塵となっていた。
真耶は額の汗を拭う――落ち着いているはずなのに心臓が早鐘を打っていた。
右方向へ移動しようと動く真耶――。
『ナギちゃんが拘束しちゃうのですよぉッ凸(`皿´)』
真耶の周囲の何も無い空間から光の剣が出現――光放つ粒子の剣がまるで力場を形成するように真耶は拘束された。
「えっ……う、動けなくなりました……AICじゃないこの拘束力は……!?」
油断してた訳じゃない――気付いたら何もない空間から光の剣が取り囲む様に出現、真耶は機体を動かせなくなっていた。
未だにISの全容は解明されていない、未知なる力をもっている可能性も多々ある。
そして――目の前の教え子は、その未知なる力の一部を解放してるのかもしれなかった。
「……ォォォオオオッ」
離れた位置から振るわれる大神之神霧露――光刃が真耶のシールドバリアーに触れると一撃でシールドバリアーが崩壊、シールド・エネルギーが〇になると試合終了のブザーが鳴り響くと同時に天・伊邪那岐の可変展開装甲から粒子が放出――黄昏に落ちていく夕暮れの空に大きく《天》の文字が描かれた。
『ムフフ( ´艸`)これでカッコいい必殺技になったのですよぉ(・ω<)』
『むぅ……よくわからないが、主君はどう思うのだ?』
「…………勝ったのか……?」
疲労困憊のヒルトは雅の問いは聞こえず小さく呟いた――それに応えたのは真耶だった。
「……えぇ、先生の負けです。 油断してた訳じゃないんですけどね……。 ……でもこれで後は織斑君に勝利すれば!」
負けたというのに嬉しそうに微笑む真耶、弾む乳房はダイナミックに動くも疲れ果ててるヒルトはそれに反応すら出来なかった。
補給に戻るヒルト――一方でレイアート会長は興奮していた。
「あれが第二形態移行なのですね! うふふ、良いものを見れました!」
子供のようにはしゃぐレイアート会長を面白くなさそうに見てるのはオーランドだった。
まさか元代表候補生の教師が落ちこぼれに負けるとは思わなかったからだ。
「オーランドさん、これでヒルトは織斑以外に全員勝ちましたが?」
千冬の意地悪な問いに、オーランドは――。
「わ、分かってる! ……まあここで織斑一夏が負けるなんて事はないだろうがな。 有坂ヒルトが負ければ我々は皆、代表候補生選出に反対しますぞ?」
「……えぇ、分かっています」
そう小さく呟く千冬の言葉は風に乗って消えていく。
苛立ちを隠せず、オーランドは立ち上がり、席を離れると慌てて反対派のメンバーも後に続いた。
「第二形態移行だと……落ちこぼれ風情が、何故出来るんだ!」
「た、確かにその通りです! 落ちこぼれなのに……」
「し、しかしどうしますオーランドさん? 次は織斑一夏君ですがもしも彼も負けたら――」
「ふんっ! 負けるはずはない。 あの落ちこぼれは疲労困憊、それにB適性の織斑一夏君ならあの落ちこぼれよりも凄まじい戦いを見せてくれるだろうしな、ワッハッハッハッハッ!」
高笑いするオーランドにつられて反対派も笑う――。
一方で有坂真理亜――。
「えぇ、お久しぶりですプレジデント。 うふふ、お世辞が上手ねぇ~。 あ、そうなのよぉ……用件ってのはねぇ~。 ――――」
誰かに電話をしている真理亜、掛けてる相手が誰なのかは――陽人には分かってはいたが何も言わずに聞くのみだった。
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