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KANON 終わらない悪夢

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31真琴の危機、魔物の引っ越し

 秋子から月宮の里や天野本家に命じたにも関わらず、一度使い魔が憑いた者は助からないので必ず殺すか、嫁として献上するにしても体の穴の大半を人毛で縫い、手足の骨を折ってから差し出すのが作法としてあり、鉄の掟として残っている妖狐の一族。
 美汐は縫われる前に救い出したが、月宮真琴達には追手が迫っていた。

「た、助かりました、相沢さん」
 さすがに生命の危機を感じた美汐も、涙目で命の恩人に感謝したが、詳しく事情を知れば「お前のせいだろーがこの野郎っ!」と怒り出すのも簡単に想像が付いた。
「まだ安全になった訳じゃないんだけどな」
 この後、どうにかして美汐もペロペロしまくり、ヤることをヤりまくってから、舞の魔物を抜き出さないと、使い魔の恐ろしさを知っている連中が放っておいてくれない。
(ジャイアントバズーカ、残弾1)
 再生産が間に合い、一発だけ撃てるようになったが、こんな回数や「恋愛体験の少なさ」では舞の魔物が満足してくれない。
「あ、お邪魔します、秋子様」
「ええ、いらっしゃい」
 ようやく姿勢を変えた美汐も、椅子には座れなかったのか、床上生活者の癖なのか、その場に正座して話した。
「私は今、どうなってるんですか? 使い魔が入ってる実感も無いんですけど?」
「多分、お前の右足に入ってる、よくある話みたいに命も心も食われるんじゃなくて、お前が長生きできるよう、体を強くするために入れたらしい」
「はぁ?」
 祐一も説明に困り、美汐の状態を知るために、この家での数少ない自分の財産で、壊しても構わない品物を持ちだした。
「天野、これをちょっと曲げてくれないか?」
「こんなの女の力で曲がる訳ありません」
 防犯用にゴミ捨て場から拾って来ていた、金属製のゴルフクラブを渡すと、口では拒否しながら曲げるように試してくれた。
「えっ?」
 パイプ部分は簡単に曲がって半分に折れ、二本重ねでも簡単に曲がり、四本になっても半分に折れた。
「きっと、古くなって錆びてたんですね」
 美汐は自分のパワーアップに納得していないようなので、もう一度頼んで見る。
「じゃあ、ヘッドの所を曲げてくれ」
「まさか、こんな塊ですよ?」
 そう言いながらも試すと、分厚い鋳物のヘッドは曲がらずに簡単に割れた。
「…………」
 流石に言い訳の仕方が見つからず、戸惑っているようなので説明してやる。
「お前は「この世に悪がはびこる時、必ずや現れると言われる十二人の乙女の一人で、射手座の」ゲフッ!」
 説明中に舞からチョップを食らい、倒された祐一。
「…真面目に」
「分かったよ。術を使う人って色々消耗するんだろ? 力を使うと栞とか香里みたいに血の気を無くして、力の源が無いとそのまま死んでしまうとか何とか」
「はい、術者の宿命です。私は妖狐の孫なのでまだ大丈夫ですが、曾孫、玄孫となると力も失っていって、妖狐の家系だと力だけ持って産まれることが多く、美坂さんの姉妹もそのようですね」
 天野の家では、まだ若い美汐にも妖狐の事情を教えているようで、何一つ知らない祐一や名雪より物事の道理を心得ていた。
「それで、天使の人形って奴が、舞の魔物、使い魔を入れて体を強化する方法を見付けたらしい。もう栞は何かするにも呪文は使わないし、音速で走るし、氷のブレスに異世界に放り込まれる暗闇とか、羽生やして空も飛ぶし……」
 話しているだけで怖くなり、元恋人が異形の化け物に変化してしまったのに怯えた。
 嫉妬に狂って暴れられると命の保証はないので、佐祐理お姉ちゃんか舞お姉ちゃんに縋るしか生きて行く道が無い。
「凄いですね、もしかして私も?」
 美汐が両手を開いて何か念じると、水瀬家だけで地震が起こった。舞の右足は火水風木土のうち、土の力が宿った魔物らしく、動作チェックだけで地震が起こった。
「簡単な確認だけで地震が起きました。羽根は生えないようですが、地面には潜れるようです。私はモグラですか?」
 派手な力を使う栞や佐祐理と違い、能力バトルでも地味過ぎる力で、レインボーマンでも人気がない「ダッシュ6、土の化身」にされてしまった美汐さん、五時間のヨガの眠りを行うには最適らしい?
 他のヒロインがプリキュアなら、昔の戦隊物でのイエローポジションになり「大食いして太って、地面にもぐったり、馬鹿力だけ出してればいいんですね」と拗ねていた。
「凄いな、もう体の強化も終わって、特別な術も使えるんだな、だったら後は魔物にも「恋愛させて満足させたら」取り出せるはずなんだ」
 そう聞いて、先ほど魔物に心を奪われていた間の記憶を取り戻し、祐一と佐祐理にキスされた状況を思い出し、顔面装甲に血が集まってきて、唇を手で押さえ、頭から蒸気を噴き出し始める美汐。
「あ、ア、あ、相沢さん、記憶が定かではないんですが、使い魔に意思を奪われている時に、わ、私に、も、もしかすると、いえ、多分間違いないと思われるのですが、せっぷん、口付けのような行為を、お二人からし、す、なされたりしてませんでしょうか?」
 もう視線を反らし、気の毒なほど動揺して目を泳がせ、体全体を震わせて、自分が行った破廉恥な行為を思い起こし、頭の蒸気圧力が上がり、安全弁が動作する寸前まで圧力が高まった。
「……うん、した」
「佐祐理もしました~、美汐さんはもう佐祐理の妹です」
 そう聞いて安全弁が爆発し、蒸気弁をふっ飛ばして飽和蒸気が吹き出し、体がグニャグニャになってその場で卒倒する美汐。
「おいっ、天野っ、大丈夫かっ? おいっ」
 薄れ行く意識の中で、ちょっと憧れていた先輩とキスしたのが嬉しいような、恥ずかしすぎて顔も目も合わせられず、さらに女同士のキスという有り得ない行為を宣告されて、精神崩壊してゲシュタルト崩壊して、「キスって何でしたっけ? 西洋では挨拶の行為で、一般の日本人の間でもいつの間にか解禁されてたんでしょうか? 知りませんでした」と思いながら意識が途絶えた。

 選択肢
1,体の強化は終わっているので、右足の魔物を吸い出して舞の体に帰ってもらう。
2,スーパーペロペロタイム、もう美汐は汚嫁?に貰ったので、佐祐理お姉様の命令で自分の部屋に連れて行き、栞と真琴と名雪がロストバージンしたベッドで脱がせてペロペロしまくり、起きて暴れないようにベッドに縛り付けてビデオと写真の撮影も済ませ、佐祐理愛用の100V電源の電動マッサージ器を召喚! 紅音ほたるのAV撮影現場みたいにビニールシートを敷き詰め、2リットルのスポーツドリンクも4,5本並べ、名前が美汐だけに電マで攻め立てて潮を吹かせまくって、口と違う場所からゴキュゴキュ飲んで吸い取って魔物を回収。ついでにジャイアントバズーカで撃退してロストバージンさせ、佐祐理お姉様の妹として所有権設定もシッカリ済ませ、お姉様の指と舌と電マが無いと生きていけない体に調教してやる。
3,秋子ちゃんに色々な謎を質問する(エロ有り)。
4,月宮真琴も心配なので電話してみる。

 ついに到達した選択肢3を見て、2にも非常に興味と未練と夢と希望があったが、やはり3の括弧内の表現には勝てず、心の恋人秋子ちゃんと結ばれたい祐一クン。
 しかし地味な所で4が落とし穴のような気がして、仕方なく4の未来予測をしてしまうのだった。
 祐一プチ未来予測中……

 掛かって来た電話を取ると、涙声の真琴が勇気を振り絞って別れの言葉を紡いだ。
「相沢くん、掴まっちゃった、もうお別れなの」
 怪しい宗教団体に属していない、月宮本家からマンション近くに浸透して潜んでいた別働隊に突入され拘束済み、オヤシロサマ搬入も終了、後はブチ込まれる寸前の一同。
「うおお~、アタシは無実だ~~っ!」
「もう諦めろ、ここまでの事態を報告せず、秋子様からの「お叱り」があった時点で我々は同罪なのだ」
「ごめんなさい、お嬢が殺されるなんて耐えられなかったんです、許して下さいっ」
 全員とっ捕まり、里に送られてナニか入っていないかジックリ調べられ、祐一クンの赤ちゃん以外の物が入っていれば処刑されちゃう一同。
「最期にお別れの電話だけ許してもらったの、もう一回頼んだら、お母さんかお父さんともお別れできるかな? 短い間だったけど嬉しかった、ごめんね、もう会えない…… ターーン! ブツッ、ツー、ツー、ツー」
 拳銃の発射音が聞こえ、電話も壊れたのか、切断と不通の音声だけが響いた。
(らめえええええええええええええっ!)

 少し前の真琴のマンション。
「ちわー、宅配便で~す」
 どこの業者かも名乗らず、オートロックのはずのマンションの三階に直接来て、オヤシロサマを担いで真琴たちを定形外の「ヤマト便」か、佐川の240サイズぐらいで梱包して月宮の里まで運搬しようとしている男達。
「表にいるのは宅配業者ではありません、後ろに警官の格好をした者が二人おりますが里の術者です、お嬢様はお逃げ下さい」
 少女達は顔を見合わせ、集まって小声で会話しだした。誰が前衛か決め、防刃ベストを着こんで防刃手袋をはめ、手に手に凶器を持って戦闘態勢に入った。
「分かりました、『三名、盾となって我を逃がせ、地根力顕現あらはせあらはせ、この者達の命を糧とし、金剛力を与え給えっ!』ゆけっ、金剛力士っ!」
 月宮真琴は印を結んで何かの呪文を唱え、後ろを向いた三人の背中に順に平手を叩き込んだ。
『『『応っ!』』』
 三人は扉の前に立ち、あふれる力を示すように服の袖や背中が破れ、突入の瞬間を待った。真琴は持ち物を捨て、ポケットに電話とメモリーカードだけを入れると、指先を噛んで血を出し、涙を流しながら額に血で紋様を書き、空中に何かを描いて印を結び、別の呪文を唱え始めた。
『我は疾風、山野を駆け抜ける風なりっ、何人たりとて我を捕らえること能わずっ、瞬動天足の術! あああっ!』
 今度は自分の両足の太腿の辺りに平手を叩き込み、素足の脛に血印を描いた。少女が四股を踏むと、その足には風が纏わり付き、目で追えなくなって姿がぶれて霞んで見え、狭い部屋には風が吹き始めた。
『解錠』
 術者が外から鍵を開けて扉を開くと、人が飛び込んで来たが、金剛力士と化した三人が押し留める。
「お嬢様っ、お逃げ下さいっ」
『相分かったっ! 命を失う前に降るが良いっ!』
 術者の隙間を通り、三階の通路から飛び降りた真琴は、電柱や電線、地面と飛び降り、文字通り風のように消えた。
「押せーーーっ!」
「「おおっ!」」
 力士と化した三人は、警官のような格好をした二人を倒し、残りを壁に投げ付けていた。
「追うぞっ、下も固められているはずだっ、暴れられるだけ暴れて、突破口を開く」
「おおっ」
 力士達が駆けて行き、階段の踊り場から踊場を一歩で飛び、階下に降りて行った。

 秋子の家。
 即座に電話に向かってスッ飛んで、月宮真琴に電話する祐一。ポケットに入っていた携帯番号を素早くプッシュした。
「真琴ちゃんっ!」
「あ、相沢くん? 私、もう駄目みたい」
 猛烈な風切音の中を走っていると思われる真琴。マンションから疾風の術で逃げたようだが、追手の「待てー!」だの「裏切り者っ!」と叫ぶ声まで聞こえ、拳銃の発射音や弾丸が直近を通過する音が聞こえた。
 祐一は全力のヘルプミー表示の顔で、舞に向かって振り向いて叫んだ。
「舞っ、真琴のいる場所まで道を開けるかっ?」
「…今日は使い過ぎたからだめ、さっき結界を切って無理に開いたから、もうできない」
「ギャーーッ!」
 舞の言葉なので「根性で開く」とかも無理で、さっき天野の家の中に開いたのがマハマンでも使った「奇跡」で、レベル9の魔法は打ち止めになった舞ちゃん。高レベルSAMURAIでもマロールが使えないのでティルトウェイトなんかも使えないらしい。
 さらに高速移動では定評のある栞さんもおらず、頼るべき人物がいなかった。
「昼間の疾風の術じゃ逃げられないのか?
「天足の術は誰でも使えるの、簡単に捕まるわ、もうお別れね、最期に思いを遂げられて嬉しかった、さようなら……」
 涙声でお別れを言い、運命を受け入れたような声で囁く。
「まだ諦めるなーっ! 雷光の術とか使えるだろ? 早く逃げろっ」
「え? あんな高等な術使えないよ?」
 祐一が見たのは、怪獣大決戦になった時の未来予知で現実では無い、それでも佐祐理に入っていた魔物は大気と雷槌の精霊なので、呪文さえ唱えれば術者の真琴なら飛べる。祐一は未来予知で聞いた呪文を必死で思い出した。
(リピートアフタミー、我は雷光……)
 戦闘AIのアシストが入り、舞の胴体が知っている、左足用の呪文を唱えた。
「今から俺の言った通りに言うんだ。我は雷光、あらゆる鎧をも貫き通し、戦士を焼き払う雷槌なり」
『我は雷光、あらゆる鎧をも貫き通し、戦士を焼き払う雷槌なり』
「いかなる盾も我を防ぐこと能わず、雷電怒涛の術」
『いかなる盾も我を防ぐこと能わずっ、雷電怒涛の術っ!』
 そこで放電するような音が響き、通話が途絶えて不通の音だけが聞こえた。
「真琴っ!」
 月宮真琴は雷光になり、電柱に落雷し、電線の中を電子のスピードで走って水瀬家まで到達、受電している電線に入ったが結界に弾かれ、勝手口近くに実体化した。
『解錠』
 沢渡真琴と秋子は怖かったが、勝手口を開いて中に入ると、自分を救ってくれた恋人が見えた。
「相沢くんっ!」
 お互い駆け寄って泣きながら抱き会い、感極まってキスもする二人。
 もし栞がいれば、パロスペシャルから卍固め、延髄蹴りから大車輪キック、32文ロケット砲で処刑されるような犯罪行為だった。
「危なかったな、俺らが余計なことを言ったから危ない目に逢わせてしまって。他の三人は?」
「もう捕まってると思う、でも使い魔が入ってないから許してもらえると思うわ」
 それは若い真琴だけが持つ甘い考えで、反逆者には大きな罰か、死が与えられる過酷な掟があった。

 秋子は怒りに身を震わせながら無言で立ち上がり、真琴の携帯電話を取り上げて、子供たちに聞かれないよう勝手口から外に出た。
『月宮当主、出なさい』
 先ほど真琴を罵倒し、舞と一緒に始末してやると言い切った人物が、自分の意志に反して手近な電話を取らされ、秋子の怒りを全身で受け止めさせられた。
「秋子様……」
『私が命じた簡単な言いつけも守れない無能。相沢祐一の嫁候補である月宮真琴一行を無傷で出頭させるよう言ったのを無視し、殺すように命じたのは誰か?』
「わ、私です、これは掟ですので必ず…」
『黙れ、私の命令は掟より上、それを守れないのなら災厄で答えよう、天罰を受けよ』
「それだけはご容赦をっ!」
『処刑の命令を出した全員を直ちに開放せよ、美坂栞や香里、倉田佐祐理、川澄舞への実力行使も禁じる、天野の家はこの命に服した、月宮の家は降格する、お前は耄碌し過ぎた、命令を実行した後に自害せよ、一日だけ猶予を与える』
「か、かしこまりました……」
 秋子の術で命じられ、遺言を残し、引き継ぎをした後に、自分の意志に反してでも自害が決定した月宮家当主。もし呪いの言葉でも残せば家そのものが絶え、災厄によって滅ぼされる。既に傀儡となった当主は、粛々と命令を実行した。

 その頃の天使の人形。
(いやあ、今日は大収穫だね、こんなに大勢の術者の命が吸えるなんて、めったに無いよ)
「ふふっ、天使クンやりすぎ」
(いやいや、縮地で走り回って、みんなぶっ飛ばしたのは栞ちゃんじゃないか)
「でも、食べちゃったのは天使クンでしょ?)
 栞の家の近くには、月宮の刺客が転がり、命を吸われて老人のようになった術者が倒れていた。栞本人も殺戮を楽しんだが、これ以上穢れが残らないよう、死人は出さないように調整された。
(お姉ちゃんは…… いいか)
 こんな状況なので、姉も似たような状況だろうと思ったが、自力でどうにかできないなら知らないと、故意に救援には駆け付けず、キッパリサッパリと見捨てた。

 香里の病室。
 香里抹殺停止の指示を断り、当主の命令を掟通りに実行しようとした者がいたが、看護婦の服を着た人物が撃退し、香里の眠りは守られた。
 母親は舞の術で帰らされ、テレビクルーも帰らされていたので被害は無かったが、血の匂いで呼ばれた一弥が術者の命を吸い、あゆのために持ち帰った。
「お疲れ様、今日は大変だったようですね」
 別の看護婦の服を着た女性が交代のために現れ、軽く話して引き継ぎをしていた。
「ええ、人数も少なかったのでそれほどでも無かったんですけど、使い魔の少年が来てみんな食べられてしまいました」
 ここにも老人のようになった術者が倒れ、病院の世話になりそうだったが、点滴や薬でも「命」を補充する術はなく、徐々に回復したとしても長生きはできない。
「秋子様の指示に従っていれば、私達のように命を与えられたものを、気の毒ですね」
「ええ」
 病院で病死寸前だった女性たちも、秋子の使い魔を宿らせて貰って命を繋ぎ、勤務時間外では子供を育てたり普通の人間のように暮らせるが、他の少女達のような自由意志はなくなっていた。心も喰われ、抜け殻になった体でも「自分が産み遺した子供を育て続ける機械」として存在し、自分の命と体を対価として提出して、望み通り墓穴に入るのだけは阻止していた。

 真琴のマンションの下。
「ちっ、手間取らせやがって、こいつら殺す前にヤっていいんだろ?」
「罪人でも名門の子女で術者だぞ、赦免で減刑されるはずだ、やめておけっ」
 逃げおおせた真琴と違い、アイアンメイデンにブチ込まれたまま片道三時間の自動車旅行を楽しまされ、インターチェンジでのトイレ休憩も貰えない三人。
「じゃあ逆らうようなら口封じに殺してやる、抵抗したから仕方なくってな。俺達使い捨ての分家のクズと違って、お高くとまったお嬢様方は、どんな声で鳴くんだ?」
「やめてやれ、自分が逃げるために命削る金剛力士の術を掛けられるなんて、こいつらも使い捨ての捨て駒じゃないか、俺らと一緒だ」
「知るかっ、才能無い俺達も、生まれてすぐ似たような術掛けられてるだろうがよ」
 元々寿命がないザコの皆さんに出発前に軽くレイプされ、口答えすれば殺される運命にあった一同。
「ちくしょうっ、だから死ぬまで戦えって言ったのに、大して抵抗もしないで降参しやがって」
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
「せめて初めてだけでも相沢に捧げられたのが救いか。いや? 血印があるのだから相沢とお姉さま方以外、この身には触れられぬはず?」
 19時を過ぎて日が落ち、夜の闇に包まれだした街並み。そこで男達の後ろから、呪いの塊のような物体が現れ、こう言った。
(あたしメリーさん、今、貴方の後ろにいるの)
「「「「うわああっ!」」」」
 天使の人形の声が聞こえると、車田調で眉毛が極太の栞が駆け込んでフィニッシュブローを放った。
「お前の後ろだああっ!」
 鳳翼天翔や幻魔拳ではなく、アナザーディメンションだったが、ユニコーンの邪武みたいな分家のザコは一掃された。惰弱な性格で姉の影に隠れるだけだった少女は、聖闘士?として一人前になり、佐祐理お嬢様(アテナ)を守る戦士の一人となった?
「い、妹ちゃん」
 さすがに救援に駆け付けてくれた場合は、栞の嫌いな呼び名「バケモン」ではなく、香里の妹として扱うザコ1号。
「栞さん、ありがとう」
 救ってもらったと勘違いして、昼間はマジ喧嘩した相手に感謝の言葉を述べるチョロインさん。そこに手と口の周りだけ血が付いた、見えない魔物が通過して、分家のザコを捕食し始めた。
「「「ひいいっ!」」」
(いやあ、今日は術者を沢山食べられてオイシカッタな、秋子さんが電話するだけでこうなるんなら、明日もやって貰おうか? 倉田家や天野家の奴らって味が違うのかな?)
「うふっ、術者って美味しいの? じゃあ、この人達も食べたら?」
「「「ぎゃああっ」」」
 救援ではなく、ただ術者が多い場所に来て捕食していただけの天使の人形、少しすると血の匂いに呼び寄せられて一弥も参加した。
(おーい磯野、晩飯持って来たぞ~)
 どうしても中嶋くんポジションなのか、何かを腸詰めにして持って来た一弥。もちろん材料は人間の腸と命である。
(テイクアウトはあゆちゃん用だな、ほら、生で食べなよ)
(病院で食べきれないほど食ってきたよ、これも腸詰かな?)
 両手で掬ってもすぐ零れてしまうので、命は腹を裂いて筒状の腸に集めて外し、手慣れた様子で風船アートのように絞りを入れて、持ちやすいように首や肩に掛けて帰る準備をする。
「あれ、この三人は食べないの?」
「「「ひいっ」」」
 レイプで済む男達と違い、人体も腸も「命を持ち帰る袋」ぐらいの認識しかない連中に囲まれ、血印で貞操が守られたとしても「生鮮食品」として扱われる使い魔には何の効果もない。
(食べないでおくよ、こいつらは魔力源を持ってないし、相沢祐一と秋子さんを敵に回すと面倒だ。今日はいい魔力源が結構入ったし、一弥が持って来たのも合わせると6個、大収穫だ)
 安物で小さい魔力源でも、あゆに食べさせれば一つに統一できる、天使の人形もこんなお祭りがあるなら、毎日でも喜んで踊りに来るので、ぜひ無能な指導者が間違った行動をして欲しいと願った。
「おいっ、新しい指示が出たぞっ、全員開放だ。秋子様の命令を破ったお館様は明日自害、新しいお館様から正式な命令だっ」
 車を回して来た男が何か言ったが、指示を受けるはずの人員が、半死半生で生かされているだけの状態で捕食されているのに気付き、踵を返して逃げ出す。
(見ちゃったね)
(うん、見られちゃったよ)
「ぎゃああああっ!」
 栞が投げた暗闇に足を取られ、歩くことも出来ず、匍匐前進で逃げようと必死な男。
(ナイスコントロール、さてもう一杯逝っときますか?)
(うん、持ち帰りだね)
 カウントも一杯二杯で、盃の数なのか、イカやカニ程度の数え方なのか、手早く処理された気の毒な男は、腸に命の大半を集められた後に、両端を縛ってから引き千切られた。
「うおおおおうおおっ!」
(おっ、魔力源持ちじゃないか~、今日七個目ゲットだ、やったね)
 小腸の大半を失い、大腸と適当に繋いで失血死しないよう処理されて、腹も閉じられた男。他の男も同じ処理がされて、そのままでも死にはしないが、人力で開腹手術をして繋ぎ直しなどすると余計悪化して死ぬ。開腹から切断、結合も人智を超えた手段で行われ、大便まみれの腹腔内も、呪いで感染症から守られる異常な事態が起こっていた。
(後は心臓と魔力源を点火するエネルギーが欲しいな、やっぱりお姉ちゃんを滅ぼして、舞さんも道連れコースがいいなあ、ははっ)
 まるでハワイ旅行に行ってレイでも掛けられたか、蛇使いのように何本も腸を首に掛けて持ち帰る二人。
「良かったですね、皆さん開放だそうですよ、所で真琴さんは?」
 あれだけの熟練の術者、それも武道にも精通し、自分たちが三人集まっても勝てない、戦いに慣れた相手を、歯牙にもかけず葬った女。
 見えない使い魔たちが食事をする凄惨な現場でも、嘔吐すらせず楽しげに見守った化け物。
「お嬢は逃げた、誰でも自分の身が可愛いからな」
「へえ、仲間を見捨てて一人だけで? がっかりしました。でも一週間もすればこちら側に来れます、皆さんも早く成れるといいですね」
 その「こちら側」が精神的な物か、肉体的な物か、考え方なのか迷ったが、どれも恐ろし過ぎて嫌な気がした。
 例え不老不死で不死身の肉体を与えられるとしても、既に人間の心など完全に失い、使い魔と同じ行動原理と価値観で動いている人外の少女。その目と真っ白な顔色は、とても生者とは思えず、獣か悪鬼羅刹の類にしか見えなかった。
「皆さんここに残りますか? 今日はここで怯えながら眠るか、それとも秋子さんの家に行きたいなら縮地で送りますよ、もちろん途中に何かいても、全部ぶっ飛ばして食料に変えてやります」
 こうなるのを知っている先祖や、里の長老たちが定めた掟は、例え自分自身が処刑されるとしても正しかったのだと感じた。
 親友で指揮官の少女も数日でこうなるなら、今のうちに倒すのが正解だと思えた。
「待って、私を連れて行って、もうこんな怖い思いしたくないっ、弱いままは嫌っ」
 チョロインさんは考え方と人生設計を大幅に変え、栞に同行して使い魔に自ら進んで憑依され、体も心も強化される道を選んだ。
「お前……」
 親戚で友人で子供の頃から一緒に修行させられた少女が、人間を捨てて化け物になると聞かされ、止めようと思うザコ1号。
「私も連れて行ってくれ、そこまで強い肉体、鋼の心、私も興味がある」
 続いて付き人の少女まで「最強」を目指し、人外の化け物に憧れる言葉を発してしまい、ただ一人残って残党の襲撃を受けるのに耐えられず、こう呟いた。
「アタシも……」
 後世のためにも友人や自分の体も実験台にして、伝承の一ページを書き加え、心境の変化や体の変化を詳しく書き残し、価値観の変化が体の強化による奢りから来るものか、心も穢され闇の眷属となったためかも全て記述し、里にいる祖母に託してしまえば、自分自身を見失ったとしても既に何度も失った命なので惜しいとは思わなかった。
「じゃあ皆さん、明日も学校に行くんでしたら準備して下さい。2,3日したら帰れると思いますから、下着と着替えも持って下さい」
 栞は指先一つ動かすだけで三人の拘束を切り、三階の部屋まで送った。一応中を確認しても誰もいないようなので、持ち出し品を選ぶのは本人に任せた。
「あ、また集まってきましたね、私は外で片付けしてきますからごゆっくり」
 妖狐の一族としての勤めを果たすために、使い魔が憑いた悪鬼羅刹を狩るべく集結し、下で仲間の仇を討とうと待ち構えている連中を感じ、三階の通路から飛び降りて悪魔の翼を広げ、地面に降り立つ栞。
「さあ、準備だ。この拠点は捨てる覚悟で行こう、服や下着は最低限、金で買えるものは全部捨てろ。ビデオやメモリーカード、写真や貴重品だけを持て。お嬢の持ち物は私が持ち出す、お前の伝承もコピーは捨てていけ、いいな?」
「ああ、分かったよ」
 人払いが行われている外では、数人の術者の壮絶な叫び声が響き、拳銃の発射音まで聞こえたが、あっと言う間に鎮圧され、使い魔たちに捕食される悲鳴だけが残った。
「あれ、皆さんそんな軽装でいいんですか? 学校の準備はしないんですか?」
「構わない、元々学業などどうでも良い、まずは生き延びること、それから術者としての興味や信仰を守って、できれば体の強化をしたい」
「アタシも」
「ええ、教科書とかノート、どうせ学校のロッカーに入れっぱなしですし」
「そうですか、じゃあ行きますよ」
(行ってらっしゃい)
(またね、栞ちゃん)
「行ってきま~す」
 魔物たちを置いて、縮地を使って消えた栞。一弥と天使の人形は持ち帰り可能な保存食の作成に勤しんだ。

 秋子の家。
「そろそろ夕食の準備もしましょうか? ご飯は沢山炊いてますから、おかずは何がいいですか? 名雪、大勢ですから何か買ってらっしゃい」
「うん」
 修羅場の数々を知らず、風呂にも入ってサッパリした名雪ちゃん。見覚えのない子がソファーで転がっていたが気にせず放置、また戻って来た月宮真琴もいたが、とりあえず無視した。
「お夕食時までお邪魔してすみません、佐祐理も何か買ってきます。あ、家に電話したいのでお借りしてもいいですか?」
「ええ、どうぞ」
 佐祐理が買い出しに席を立ったので、自動的に舞も立って警護に付いた。美汐は卒倒したまま、真琴は怯えた目をしたまま祐一から離れようとしなかった。
「佐祐理です、爺やですか? 遅くなってすいません。今、一弥といっしょにいるんですけど、お夕食はこちらで頂いて帰ります。ええ、「水瀬秋子さん」のお宅にお邪魔してるんですけど、できれば私の分の夕食や、他の皆さんの軽食か食材を配達して頂けませんか?」
 爺やと呼ばれた年配の運転手は、妖狐の血族である秋子様の家にお嬢様が居ると聞いて、心拍と血圧が上がりまくった。
 川澄一家の失態で災厄が起こり、その怒りを鎮めるために駆け回り、先代当主と一緒に川澄一家を狩りだした過去を思い起こし、壮絶な災厄の根源に身を震わせた。
「お嬢様、先ほどお会いしたユウイチさんと言う方は、もしかすると「相沢祐一様」でしょうか?」
「え? 一弥の事ですか? そうですけど、爺やも知ってるんですね」
 そこでセバスチャンは、お嬢様が既に災厄に取り込まれ、祐一を一弥と呼ぶように何かの術に掛けられているのを確認し、電話の前にある「非常事態」ボタンのカバーを割り、躊躇うこと無くボタンを押した。
「あれ? どうしたんです? サイレンが鳴ってますよ、火事ですか?」
「ええ、災厄が起こった場合、皆様にお知らせするサイレンです、お気になさらず。まもなくご当主様や奥様もおいでになると思いますが、ご入用の品はそちらの皆様がお食べになるオードブルやパーティー用の品で宜しかったでしょうか?」
「ええ、え~と、十人分程度お願いします」
 一弥、自分、舞と指折り数え、多めに頼んで見る佐祐理。そこで自宅で起こっている災厄とは、こちらで起こっているのと同じものなのか確認してみた。
「あの、こちらで起こっている災厄は、一弥の魔物の天使の人形さんが、お友達の「あゆさん」を蘇らせようとして、舞の魔物が夜に人の命を食べて回ったり、佐祐理や美坂さんの姉妹とか天野さんの中に魔物が入って、命を繋いでくれたり、体を強くしてくれたんですけど、その事ですか~?」
(お嬢様ぁぁ……)
 佐祐理の言葉を聞き、胃の辺りに激しい痛みを感じ、目眩がして膝を着いて嘆き悲しむセバスチャン。
 あの愛らしかったお嬢様は、よりによって川澄の娘の使い魔に穢され、命も心も食い荒らされ、祐一様を一弥様と混同するような術の餌食になり、秋子様の家に召し出され、直接処罰を受ける寸前なのを察した。
「あ、それと「肩が凝りましたので」大きな「電動マッサージ器」もお願いします」
「畏まりました、すぐに用意させてお届けに上がります、それでは後ほど」
 その言葉で、とりあえずお嬢様は無事で、大願成就して川澄舞と結ばれた後、電動マッサージ器まで使ってお楽しみになるつもりなのだとも察し電話を切った。
「あれ? 場所を言ってないのに、爺や分かるのかしら?」
 自分が何を仕出かしたか理解していない佐祐理。秋子や真琴相手ではなく、信頼の置ける爺やだったので、いつもの天然癖が出たらしい。

(スポーツドリンクもご入用でしょうな?)
 内線で厨房に電話し、軽食やパーティー用のコーラや烏龍茶以外にも、ポカリ系の電解質とか生理食塩水に近い飲み物を「多めに」出させる、よく分かった爺や。
 今生の別れになるかもしれないパーティーを、せめて盛大で楽しい物にしてやろうと思っていた。
「何事ですっ? 非常事態のスイッチを押すなど」
 まず佐祐理の母が駆け付けたが、あの経験豊富な爺やが膝を着いてorzで嘆き、苦しそうに受話器を置いたのに驚いていた。
「奥様、災厄が起こっております。現在お嬢様は秋子様のご自宅に…… 詳しくは確定しておりませんが、お嬢様のお話ですと、川澄舞の使い魔が数人に取り憑き、もしかすると、その、お嬢様も犠牲に……」
「何ですって?」
 月宮家、天野家に続き、ほぼ解散して妖狐の一族としては機能していない倉田本家にも災厄の一報がもたらされた。

「うふっ、爺やが出ましたので、わがままを言ってパーティー用の軽食とオードブルをお願いしてしまいました。今日は記念日ですので、ご迷惑でしょうが小さなパーティーを開きたいと思います、宜しいでしょうか?」
 自分と舞と一弥(祐一)がついに結ばれた記念日なので、自宅で開催したかったが、出先の秋子の家の迷惑にならない程度の簡単なパーティーを開きたくなった佐祐理。
 それならケーキも頼めば良かったと思い直したが、そこはセバスチャンが察してケーキも買いに走らせた。
「ええ、構いませんよ、他にも記念日の方は多いようですし」
 ロストバージンしちゃった記念日の子が6人とか、相沢さんに嫁入りしてしまった硬い子や、復活して秋子の家に帰って来た狐とか、色々な記念日と災厄がごちゃまぜになった複雑な日。
 栞は完全に闇堕ちし、舞は左右の腕と和解して取り戻し傷が消え、佐祐理は本物の一弥と数年ぶりに対面、天使の人形と一弥は、あゆの新しい体に使う魔力源や、術者の持っている比較的清潔な命を大量に手に入れ、大喜びしていた。

「あの、お邪魔します」
 栞に連れられ、包囲網とか追手とか刺客とか絶対防御陣地とか、全部軽~く撃破して秋子の家に着いた月宮の三人。
 目の前には現当主を自害させる指令を出した化け物がいて、二階には純血の妖狐がいたが、自分たちの殺処分命令を出した人物よりはマシだと思い、頼ってみる事にした。
「みんなっ、無事だったのね。ごめんなさい、一人で逃げてしまって」
「ご無事でしたか、天足使いが走って行ったので、お嬢様も危ないかと思いましたが?」
「相沢くんが雷電の術が使えるって教えてくれたの、お姉様からお預かりした使い魔は風の精霊だって知らなかったから、本当に使えるなんて思わなかった」
「相沢が? 術を?」
 何も知らないはずの一般人同然の祐一が、何故高度な術や風の精霊の存在まで知っているのか不思議に思う一同。
「いや、「分岐点」に当たったら、その先の選択肢を考えてた時に見たんだ、真琴ちゃんがその術を使ってる所を」
 舞と栞の変化した姿や、何より雷天大壮しちゃった佐祐理お姉ちゃんの姿が怖すぎたが、戦闘AIである舞の胴体の魔物が呪文の内容を記憶していたので真琴は助かった。
「「「「分岐点?」」」」
 術者にも分岐点の意味は分からなかったが、天啓を受ける者や預言者が未来を選び、最適な道を選ぶと聞いたこともあるので、現人神である祐一なら不可能では無いと思えた。
「私達もあれから脱出しようとしたのですが、熟練者には為す術もなく破れ、体を汚されるか命を奪われるところでした。栞さんと天使の人形に救われましたが、相沢か佐祐理お姉さまにお願いしたいのです、もう私達は弱いままでは嫌です、他の使い魔を私達にも宿して頂けませんか?」
「ええ、構いませんよ」
 残り三人も味方に引き込めるようなので、気軽に引き受けた佐祐理。手始めに美汐の中に宿る魔物を引き出すことにして、美汐を叩き起こそうとした。
『起きなさい、美汐。貴方の魔物が必要です、舞の右足だけでも起きなさい』
「私か? どうするつもりだ」
 目を開いた美汐は魔物の声で答え、舞の右足として起動した。
「凄え、使い魔だけ起こして会話してる…… そうだ、ビデオを撮らせてくれませんか?」
 記録マニアのザコ一号が、またビデオをねだったので、佐祐理はカメラバッグを漁り、新しいテープを入れて三脚と合体させた。
「美汐のお婆さんにも見せて、安心させてあげたいですね、ダビングして貴方も持っていなさい」
「はい」
 美汐の前にビデオカメラが設置され、まるでAV撮影前の自己紹介シーンのように、ソファーに座ってカメラに向かって話をさせられる舞の右足。
 もう佐祐理のオーダーでアルター能力に支配され妹になり、お姉様の命令通り動くらしい。
『舞の右足、貴方の自己紹介をなさい』
「分かった。私は川澄舞から追い出された右足の魔物、喜怒哀楽の楽の感情と羞恥心を持つ。属性は土、術者の能力によっては地震を起こしたり、ゴーレムを作って使役させられる。私が強化して不老不死の体を与えた天野美汐には様々な能力を書き加えたが、この女は後ろから蹴ろうがタックルしようが、男に近寄ろうともしないガチガチの堅い女で苦労している。解決方法があれば教えてくれ」
 録画はしているが、使い魔がビデオに向かって自己紹介するという異常な事態に興奮し、メモも取っているザコ一号。
 美汐には地味ながらも「不老不死」なる人類の夢が与えられ、ロブスターとかポリプに変化して永遠に生きるクラゲみたいになり、他のBBAになって劣化する女と違い、永遠の十六歳で貧乳、という珍しい属性を得た。
「美汐の強化が終わってるなら、他の子に移るほうが楽よ、この三人の中から、相性が良さそうな子を選びなさい」
 佐祐理に勧められ三人を見比べると、真ん中にいるジメジメしていて暗い性格で、幸薄そうな顔をして、実際不幸な女を見てピンと来て、栞の次に「穴掘って埋まってます~」みたいなセリフが合いそうなチョロインさんを見初めた。
「その真ん中にいる女、お前が良い、中に入れろ」
「そこを動かないで、録画中よ」
 席を立ったが佐祐理に注意され、男優役?のチョロインさんが移動して美汐の隣りに座らされて抱き寄せられた。
「え? 直接移動できるんですか? 相沢くんやお姉様を介さないでいいんですか?」
「私が望めばどこからでも入る、耳からであろうが、鼻であろうが構わない。人間は下らないまじないを信じているようだが無駄だ、紙切れも人間の毛も関係ない、出入り自由だ」
 この言葉で、本体から十年も離れて暮らす熟練の魔物には、人毛や御札など関係ないのが解説された。さらに入り口に制限がないのを証明するため、チョロインさんを魔物の腕力で押し倒して「下から」入ろうとしたので、美汐のお婆さんには見せ辛い展開になった。
「え? そんなとこ? やっ、駄目っ!」
 美汐の体がほんのりと輝き、通り道を確保するだけのキスをすると、美汐はまた気を失って転がされ、元の位置にチョロインさんが座ってカメラに向かって答えた。
「こちらに移動した。この女はジメジメしていて心地良い、不幸で気が弱いから、こちらの頭が硬すぎる女と違って、私が押し引きすればどちらにでも行く。そうだ、お前らは気にしているようだが、私は天使の人形との契約で、どちらの女の心も魂も食べない。普通は移動するのに邪魔で、居座るのにも邪魔なので手っ取り早く食べてしまうが、人によって別の場所に繋いで飼いならすのも簡単だ。ヘキトサクゾレにサデスハして、マクバリエタセをタダメキソすればいいだけだ」
 意味不明の言葉を喋る魔物だが、高位の術者なら理解できる魔力に関する器官の名と用法なので、ここに人体に使い魔を入れて共存させ、体を強化する魔法が公開された。
「すげえ……」
 伝承を調べあげ、器官の名も見た覚えがあるので、普通の人体を妖狐と似た存在にする秘術を解明した人物として名前が残ったザコ一号。
(吾輩はザコである、名前はまだ無い)
「この女に不死は無理のようだが、不老程度なら可能だろう。体もある程度強化できるが、美坂栞ほどの願望がないので無理だ。魔力源も持っていないので、強力な術者にもできない、どこか良い所を伸ばす場所があればいいが?」
 秋子ちゃんと同じ不老にしてもらえるチョロインさんだが、キャラ作成時にボーナスポイントが低すぎて上級職にもなれず、成長させても先が見えてしまう気の毒な子。
 あゆも一弥も、この程度の普通の人間として復活させるならもっと簡単だが、「六速ATフル装備、シーケンシャルパドルシフト、オートエアコン、アルミ、ツインターボ、インチアップ、公道使用可認定改造済、8ナンバー取得車検可能、サンルーフ、車高調付きアクティブサス、インタークーラー、ミッドシップ上方排気、TCS、AWS、プログラム変更可能ECU、三次元マッピングインジェクション、大口径スロットルボディ、カーボンモノコック製バスタブ、コークボトル形状ボディ、カーボンブレーキ、フレキシブルウィング、FRICK、Fダクト、ICE,ERS,MGUK,MGUH……」と装備すると大変なので納期が遅れていた。
「何か質問はあるか?」
 話が凄すぎてついて行けない一同と、元々興味が無い舞。佐祐理も理解に努めようとしたが無理だった。
「私も不老不死なんですか?」
 珍しく栞が質問したが、秋子や祐一の目から見ても既に闇堕ちしていて、明らかに人間や猫の皮を被るのをやめた相手を、恋人や嫁とは見れなくなっていた。
「お前は不死と、滅びない鋼鉄の肉体を望んだから、体の強度が持つ所まで不死だ。だが増築中の体の改造が終わっていないから不老ではない。骨はもっと丈夫なものに交換されて、筋肉はさらに強化される。子供は若いうちに産んでおけ、もうお前は人間ではない、人だった面影もすぐに失われるだろう」
「そうでしたか、お姉ちゃん、美坂香里はどうなったんですか?」
 余命一年とか零日から、奇跡の逆転ホームランをぶちかまして不死になった化け物は、嬉しそうに微笑んだ。
 姉の生死も不明なので尋ねたが、しぶとく生き残っていると思い、どの種類の化け物に変化したのかも聞いてみた。
「美坂香里はまだ分からない、左手が命を繋いだばかりで抜けたから、これから設計図通りに、奴の願い通りの魔物になるだろう。人間でいられるのは数日だ」
 祐一は「あれは最初から人間じゃない」と思ったが、これからさらに人間離れして、もっと怖い嘘芝居をして、キワドイ脚本を書いて追いつめられるのを感じ、背筋が凍った。
「今は蛹の状態、これから美しい蝶になるか、醜い蛾になって誘蛾灯に釣られる化け物になるかは奴次第だ」
 サナギマンから超力招来して、イナズマンだか夜の蝶に変身する予定の香里。変体に失敗し変態になり、心が腐ってしまって腐女子、貴腐人、汚超腐人とポケモン進化するのか、佐祐理と同じ「キマシタワー」全開の人格になり、今までの相棒、名雪とヨリを戻すのか、後輩女子を食べまくって楽しむのかは本人次第だった。
「佐祐理はどうなったんですか?」
 人間ではいられない人物が続出し、自分の状態も気になって質問した佐祐理。一弥を産めなくなるのだけは回避したかった。
「お前も、もう人ではない。いずれ雷化した時点で人の細胞は焼け尽くし、精霊と同じになる。不老不死ではなく、破壊されるまでは「不滅」だ。人の子も産めないが、一弥をこの世に下生させる魔物の母体として改造された。暫くは人の体を楽しむといい」
「そんな……」
 何かマギアエレベアだか禁呪だとかで雷化してしまい、精霊の体になると、電マで楽しんだり、潮を吹きまくって遊んだり、双頭ディルドーとかペニ*バンドを装着して舞や祐一を攻め立てたりできなくなる。
 さらに人間の嗅覚を失ったりすると、舞の下着とかブルマとか「靴下」をビニール袋に入れてレンジでチンしてクンカクンカスーハースーハーして遊べなくなる佐祐理。
 確かに今日からは「現物」をペロペロして弄くり回して遊んだりできるのだが、あれはあれで趣があり、特に匂いが強い靴下臭は素足では堪能できず、布の靴や皮のブーツでは代用できない独特の感覚が「来る」ので、例え絶体絶命のピンチに陥っても、雷化の術を使った時点で人生の楽しみの半分を失ってしまうので、その恐怖に震えた。
 さらに味覚を失うと折角舞を生でペロペロチューチューできるようになった身分なのに、その楽しさと味を失い、風呂に長時間漬けた「舞汁」の晩酌も楽しめなくなってしまう。その絶望に満たされ、目の前が真っ暗になって膝を着き、涙を流し始める。
(何て事を……)
 どこかのビリビリさんと同じで「幻想殺し」ができる人じゃないと感電してエロエロな行為もできなくなるので、舞と祐一、残りは同種の能力を持たされる予定の月宮真琴、妹に追加できれば秋子、真琴、名雪ぐらいしかスーパーエロエロガチレズ行為もできなくなってしまうので、早めに全校生徒の女子や他校の女生徒を食べてしまわないと人生をエンジョイできなくなる、自分の呪われた未来を予測し絶望した。
 でも一弥は産める体で、恐ろしく丈夫な子になるようなので、そこだけはオッケーだった。
「もういいか? 私は眠い、パーティーの食い物が来たら起こしてくれ、では寝る」
 一人目の移動が終わり、参考になる話も聞けたので満足した一同。これだけ機密事項をペラペラ喋りまくると、死亡フラグが立ちまくって首に吹き矢が刺さったり、背中から狙撃されてうつ伏せに倒れて心臓の周りから血を流す演出がされるのがお約束だが、とりあえず忙しい天使の人形たちからも見逃され、本人たちは別の作業に勤しんでいた。

 あゆちゃんのゆめのなか。
(いやー、お疲れさん、きょうは大収穫だったな、兄弟)
(おう、まさかこんなに大漁とは思わなかったな、相棒)
 ハイタッチなどしながら、大漁の腸詰めを持ち帰り、ホクホクしている天使の人形と一弥。
 栞が走り回ってぶっ倒した術者や、通常の歩兵、臨時の兵隊、ゴミ以下の893のタヒ体も後から追いかけて全部回収した。
 もう持ちきれなくなって何度か往復し、危険だったが転移穴を開けたまま生で搬入したり、指揮官の大きめの魔力源も手に入れ、合計十個もの魔力源を仕入れて、あゆの体に素早く食べさせて巨大な試験管に大量の命も投入し、何やら光り始めたあゆの体。
 もう「心臓と魔力源、点火するんじゃね?」ぐらいの勢いだったが、さすがに一般人ではそこまでの威力はなかった。
(さてここで、明日のためのその3、待望のスーパーエロエロダイナマイトボディの作成タイムです)
(へへっ、おっつぁんよお、こいつぁちょっとしたパズルだぜ)
 あゆの体はどこかの誰かと同じで「チンチクリンでチンクシャで、こまっしゃくれた顔」が特徴だったが、十七歳以上のエロエロボディに新造され、カーボンモノコックのコークボトルボディの括れがエロエロだった。
 さらにデッカイ乳を乗せて、デカイケツと太腿も盛り盛りの大盛り、邪悪な邪夢おじさんとバイ菌マソが共同で、美味しいパンを捏ねまくっていた。
(いやあ、さすがにこの工程だけは本人にミセラレマヘンなあ)
(せやなあ、姉さんにだけはミセラレマヘンなあ、クックックッ)
 何かこの程度の理由で放逐された、あゆと真琴。セクハラオヤジの共同作業で、新しいボディは八頭身で足も長い、ドスケベボディに改変されてしまった。

 これをもし現在の祐一本人が知れば、「Eカップ以上とは何事か? 女の乳はBカップ以下が定説。そこに「イカの頭のごたる」パットを乗せて、寄せて上げて涙ぐましい努力をして、ようやくCに近付けて行くのが至高。生まれつきAカップのあゆを、そんな「デブ」で「垂れ乳」にするのは天に唾吐く行為で貧乳神への冒涜。AAカップとまで贅沢は言わないが、AはエンジェルバストのA、美乳で微乳はAからBが究極。貧乳の素晴らしさが分からない奴とは旨い酒が飲めない、ましてや俺の体に帰って来るとか、遺伝的には俺の息子として産まれたい? 有り得ねえ有り得ねえ、いつまでも巨乳だとか爆乳とか奇乳なんて子供みたいな夢を見やがって、現実を見ろっ! バストは80までだ、あゆと美汐がピッタリそのサイズ、真琴が1センチオーバー、栞は79だったが最近デブった、それ以上はデブ、ブタ、実は佐祐理さんの乳もデカすぎて、名雪と別れたのも乳がデカ過ぎてケツもデカ過ぎたのが理由だ、舞なんて89とか、もうすぐ0.9メートルじゃないか? 俺は将来この中の誰かと結婚したら「乳癌予防のための乳房切除手術」を勧めるつもりだ。真っ黒で巨大な乳輪が広がって、乳首も巨大とか有り得ないだろ? せっかくのあゆの貧乳をこんなにした、お前達だけは絶対に許さないっ!」という乳で乳を洗うような宗教戦争が勃発するのが確定した。
 
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