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IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》

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【第559話】

 
前書き
まだ原作前に話を足します 

 
 IS学園整備室。

 髪を結い、つなぎを着てISを整備する女性――有坂真理亜だった。

 捲った腕には油で黒ずんでいて、頬にも油汚れが目立っていた。

 黒夜叉の修理は当に終えていたものの、ISの方がおざなりになっていたので突貫で仕上げていた。


「ふぅ……。 流石に私も、疲れたわぁ……」


 ふわふわした声だが、いつもの様な元気はなかった。

 表情にも疲労の色が見えていた――だが。


「一応最終チェックだけは……テストはぶっつけ本番かしらぁ」


 そう呟き、映し出された投影ディスプレイを見ながらキーボードを叩き始めた。

 一方のIS――従来のISとは違い、明らかに搭乗者が纏う事が出来ない構造になっていた。

 というよりは、明らかに構想が学園へと襲撃してきた機体と同様の仕様だった。

 違う点といえば、ライン・アイではなくバイザー・アイ、背部に可変式飛行翼が特長になっているぐらいだろうか。

 飛行翼を抜いたシルエットは現行のISよりは細身で、支援機の様にも見受けられた。

 キーボードを叩き終え、基礎OSを組み、そこから特殊なプロトコルを組み上げていく。


「ん……これで大丈夫な筈だけど……」


 そうごちるや、簡易試験でエンターキーを押すと――。


「……うふふ。 一応形にはなってるわねぇ。 ……後は、イザナギとの……」


 疲れが吹き飛んだのか、満面の笑顔を見せた真理亜。

 飾られていたコアは淡く蒼く光を放ち、見守っていた。

 場所は変わって第三アリーナ。

 其処では久々に模擬戦を行うヒルトと一夏の姿があった。


「ハァァアアアアアッ!!」


 白亜の光刃を振るう一夏、無論刃はシールドバリアーすら掠りもせず、空をひたすら斬っていた。

 既に何度も目にした太刀筋、成長が全く無い訳では無いのだが戦い方が零落白夜による一発勝負に賭けているのが目に見えていた。

 無論全く成果が無い訳ではない、実際授業では希にだが代表候補生のシールドバリアーを掠める事もある。

 そういった実績と呼ぶには懐疑的だが、事実がある以上一夏にとっては勝利する可能性が最も高いこの戦法ばかりになってしまった。


「ッ! 当たらねぇ……ならッ!」


 ならばと可変腕から新たな光刃が伸びて刃を形成した。

 手数が増えれば当たる機会も増える、一夏の考えではこれが正しかった。

 単純だが実際問題、手数が増えれば当たるという訳ではない。

 実際、機動力と運動性が上がったヒルトの機体【イザナギ】に掠る事がなかった。

 空を彩る白亜の残光、当たらない攻撃――そして。


「っ……エネルギーがもたねぇッ!!」


 第二形態移行後、消費エネルギーが格段に増えた白式では長期戦は振りだった。

 だからこそ、一夏には継戦能力を鍛えなければいけなかった。


「一夏、試合開始してまだ十分もたってないぞ!? もう終わりなのかッ!?」

「ッ!! クソォォオオオッ!!!!」


 形振り構わずの特攻――真っ直ぐ突き進む一夏の最後の一撃。

 ヒルトはまたかと思い、迎え撃つのだが――。


「うぉぉおおおっ!! くらえぇぇぇえええッッ!!!!」


 真っ直ぐ突撃と思っていたヒルト、だが一夏は零落白夜の纏った雪片を真っ直ぐ投げてきたのだ。

 いつもと違う戦法に一瞬思考が追い付かなかった――このままでは刃が刺さるかもしれないと考えが過ったその瞬間。


『マスター!(`o´) 切り払うのですよぉ!!o(`へ')○☆パンチ!』

「チィッ!?」


 投擲された雪片を切り払う――纏っていた白亜の光刃が四散し、落下していった。

 だが、まだ模擬戦は終わっていなかった。


「ヒルト! これで勝負はもらったぜ!!」


 そのまま突撃をかけてきた一夏の左手はクロー状に形成された刃がヒルトを襲った。

 一方のヒルトは切り払いからの一連の動きで直ぐ様には動けなかった。


「……やられる……!?」


 エネルギー状の刃だけはイザナギの装甲でも防げない、かといってエネルギーシールドは論外だった。

 緊急回避――だが瞬時加速が加わった白式の短距離加速に関しては他の機体でも敵わない。

 万事休す――そう思った矢先、クロー状の刃が四散したと同時に試合終了のブザーが鳴り響いた。

 夜、1025室。


「……まさか武器を投げてくるとは思わなかったな」


 自室で一人、今日の反省点を洗い流していたヒルト。

 反省点もそうだが、心の何処かで一夏には楽勝で勝てるという慢心が招いた結果かもしれない。

 本来戦うのは嫌いだが、状況がそういう訳にはいかなかった。

 ――と、コンコンッとノックする音が響いた。


「はいはーい。 ちょいお待ちを」


 椅子から立ち上がり、ドアを開くと。


「あっ。 起きてた?」


 開けたドアの先に居たのは未来だった。

 そういえば未来が俺の部屋に来たのはあの時以来だった、二人が初めて交わったあの時から。


「ヒルト。 今日の模擬戦見させてもらったよ?」

「あ……み、見てたのか」

「うん。 ……上がってもいい?」


 別に疚しい気持ちは無いが、未来の無防備さが危うく感じられた。

 勿論、それだけ俺を信頼してるのだろうが。


「あぁ、構わないぞ」

「ん。 じゃあお邪魔するね?」


 そう言い、部屋へと入る未来。

 俺はドアを閉じると未来に飲み物を用意し、それを手渡した。


「ありがとう、ヒルト」

「いや、構わないさ」


 一口それを飲む未来、一息入れた未来は真っ直ぐ俺を見つめた。


「実はね、織斑君にヒルトに勝つ戦法は無いのかって言われたんだ」

「え?」


 思わず聞き返した俺だが、未来は気にせず話を進めた。


「それでね、あんまりそういった戦い方を教えるのも、織斑君自身の為にはならないって思ったんだ。 勿論教わる姿勢は大事だけどね? けど――あんまりしつこく言ってくるから。『じゃあ思い切って突撃しながら雪片投げてみたら? 意外性はあるから一矢報いる事出来るかも』って言ったんだよね……」


 眉根を下げて困ったように告げた未来、視線が僅かに俺から逸れてしまった。


「そうなんだな。 ……何にしても、俺自身に慢心があったから対応が悪くなったんだよな」

「そ、そぅかな? 私が織斑君にそんな戦法教えたのが悪いと思うんだけど……」


 何だか会話が延々とループしそうな気がするので話題を変えた。


「そういや話は変わるけどさ、未来。 天照、第二形態移行してからどんな感じだ?」

「え? ……ん、調子は凄くいいよ? 単一仕様の発現はまだだけど、前以上に私に応えてくれてる感じだよ」

「成る程。 他には何か変わった点はある?」

「ん~……性能面以外では特に無いかな? ちょっとエネルギー効率が悪くなったけど、そこは手入れとかで補えるから」


 コアとの対話をしたわけではない様だ――第二形態移行すれば誰もが聞こえるのかとも思ったのだが、違うのかもしれない。


「……ね、ねぇヒルト?」

「え?」


 考え事をしていると未来が控え目に聞いてくる、頬に赤みが差してるのが目に見えた。


「そ、その……ね? ……こ、この間の……事……」

「え? ……この間って、アレか……?」

「ぅ、ぅん……」


 ボンッと茹で蛸になるぐらい赤面した未来、俺も思い出すと全身の熱が急に上がった気がした。


「こ、恋人同士じゃない状態でするのも変だけど……。 ……で、でも……私は、やっぱり嬉しかったよ?」

「ぁ……あぁ」


 嬉しかった――短い言葉だが自然と俺の表情もにやけてくる。


「ひ、ヒルト……。 んと……ね。 ら、来週の運動会、もし私が勝ったら……ひ、ヒルトと一緒に出掛けたいなぁって……」

「え?」


 またエッチするとかの話ではなく、単に出掛けたいと言った未来に――。


「……優勝しなくてもさ、出掛けるのは出来るだろ?」

「え? ……うん、そうだね♪」

「いつでも未来に付き合うからさ。 遠慮なんかするなよ?」

「うん……!」


 花開く様な笑みを浮かべた未来に、俺も応える。

 そして――。


「じ、じゃあそろそろ戻るよ。 美冬ちゃん心配しそうだし」

「そっか。 ――未来、おやすみ」

「うん。 おやすみなさい、ヒルト」


 小さく手を振り、部屋から出ていく未来。

 頬を指で掻いた俺はまた反省点の洗い流しを始めたのだった。 
 

 
後書き
あまり模擬戦してないなぁ 
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