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IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》

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【第595話】

 空中で静止する三機。

 一機はイザナギを纏ったヒルト――対面する様に並ぶのは天照を纏った未来。

 パッケージは装備されていないものの、第二形態移行を果たした未来にとっては必要ないと判断した。

 その隣はエレン・エメラルド、纏った機体はウィオラーケウス・デンス。

 偽装改修を行った影響からか、ファング・クエイクの時に装着できた強襲用パッケージ【ヘル・フレイム】が装着不可能になっていた。


「二対一という状況で君と戦わなければならないとは……」

「ハハッ、気にするなよ。 一対一が希望ならまた今度やればいいさ。 なあ未来?」

「そうだね。 ……ヒルト、連戦平気?」


 連戦疲れを気にする未来に、ヒルトは頷くと――。


「大丈夫。 さっきの三十分休憩も効いたし、栄養ドリンクも飲んだ」


 言い換えれば、栄養ドリンクを飲まなければいけないほど疲弊していたといえる。

 複雑な表情を浮かべた未来――一方のエレンは。


「ヒルト、今回の勝負の勝ち負けはともあれ、一対一の勝負が私にとっては本当の勝負だ。 次は君に勝つ」

「ははっ、リベンジならいつでもOKさ」


 二人のやり取りに未来は疑問符を浮かべた――何故なら転入して間もないエレンとヒルトが模擬戦をしたなんて聞いたことがない。

 聞いたのは織斑君との模擬戦、勿論勝ったのはエレンなのは知っていた。

 あの試合の結果は織斑君が転入生であるエレンに勝ちを添えたと噂になっていたが――実力を知る未来はそれが眉唾物の噂だと直ぐにわかった。

 女の子は噂が好きだ、何処からねじ曲げられたかわからないがいつの間にか最初の内容と擦り替わっている事も多々ある。

 特にヒルトと一夏の事に関しては噂が逆転し過ぎているのだ。

 未来から見ても確かに一夏はイケメンだが胸がときめく事はない。

 彼はなんというか……無自覚な悪意を振り撒いてる。

 他者の事を心配してそうで実は興味がない……等、言動や行動で何となくわかってしまう。
 どれだけ織斑千冬の弟と言われてもときめく事はない。

 それに――未来にとっては一途に想う相手はヒルトだけで充分なのだ。

 ボーッとヒルトとエレンのやり取りを眺める未来、ちくんっと小さな針が胸を刺した気がした。

 嫉妬なのだろう、天照の胸部装甲に触れた未来――ハイパーセンサーにシグナルが点った。

 試合が始まる――ヒルトがIS型パッケージ装着していても、連戦の疲れは取れない。

 シグナルが緑に点灯――三機が交戦を開始、未来、エレン二人してショットガンを構えて散弾による面制圧射撃。

 雷鳴の様に轟く発砲音――刹那、イザナギとパッケージとなっているイザナミの装甲が開かれた。


「【一〇式・八尋殿】!!」


 機体が閃光に包まれた一瞬だった、散弾による面射撃はレーザー迎撃で阻まれた挙げ句、レーザー射撃によって微細ながらもシールド・エネルギーを削られた二機。


「っ……何だ!?」

「迎撃と一緒に反撃もしたの!?」


 一瞬の間に反撃も食らった二機、アイコンタクトで未来はエレンに指示すると左右から挟撃を開始。


「……ォォォオオオオオッ!! イザナギィィィッ!!」


 ヒルトの叫びが轟き、イザナギの全身の装甲が開かれ唸りをあげるように圧縮粒子を開放、周囲一帯で粒子崩壊現象を引き起こした。


「な、何だ!? は、ハイパーセンサーが干渉を受けている!?」

「ダメ……! エレン! ハイパーセンサー切らなきゃ、まともに見えない!!」

「ッ……」


 未来、エレンの二人はハイパーセンサーをオフラインに――その瞬間、白亜の粒子を放出しながらヒルトがエレンに肉薄した。

 加速力のついた胴回し空転蹴りの一撃は重く、シールドバリアーを突破、ウィオラーケウス・デンスの肩部装甲を破砕させ、破片が舞う。


「ぐうぅぅっ!? こ、この加速力……さっきより速い!?」

「エレン!! あっ!?」


 離れた距離から直ぐに未来に肉薄するヒルト――未来の瞳に映るヒルトの眼差しはいつもの赤い目ではなく、紅蓮を宿したいつもと違う眼差しだった。

 密着状態から放たれる打撃技――その衝撃は装甲越しから内部の絶対防御を発動させた。

 寸勁――体重移動と筋肉の瞬発力を利用した物理技、ISでそれらを行うのに難しくない。

 体重は機体重量――筋肉の瞬発力はアシストパワーで代用しているのだ。

 それらを組み合わせた一撃は重く、天照の絶対防御を発動させ、ほぼ最大値まであったシールド・エネルギーが一気に二〇〇を下回る。


「あぐっ……!? こ、この威力……武装を使うより重いの……!?」


 北落師門の一撃すら上回る寸勁の一撃に未来は戦慄した。

 基本ヒルトは自身が祖父から習った中国拳法はほぼ使わない、殴る蹴るで解決するのは野蛮人がする事だと思っている。

 それに女尊男卑とはいえ、女子に手をあげるのはよく思わないヒルト。

 だが明らかに吹っ切った様に技を見せたヒルト――持つべき者の義務という言葉が心で加減していた枷を解いたのだろう。


「……フフフッ! はは……ハハハハハッ! そうだ、私はキミのその力を待っていたんだ!」

「え、エレン……?」

「すまない……だが、私はやはりキミと一対一で戦いたい! だから……手出しは無しだ、未来!!」


 肩部ウィングブレードを展開、腰部増設ブースターが唸りをあげ、大きく振るう右手に粒子が収束され、スレッジハンマーを形成させたエレン。

 瞬時加速――否、個別連装瞬時加速――通称リボルバー・イグニッション・ブーストを行ったエレン。

 唸りをあげるウィオラーケウス・デンスのスラスター、翡翠の煌めきが漆黒の機体へと迫る。


「ハアァァアッ!」


 リボルバー・イグニッション・ブーストの加速力を加えたスレッジハンマーの一撃――それを避けたヒルトはエレンの脚部を狙い、蹴りの一撃。

 だが個別連装瞬時加速は終わっていない、それを避け、機体に掛かるGによってエレンの身体は悲鳴をあげるが後ろに回り込み、再度スレッジハンマーを振るう。

 今度は北落師門でそれを防いだヒルト――ここでエレンは口角を吊り上げて笑った。


「キミの為だけに、ウィオラーケウス・デンスはキミ対策の為に改装したんだ!」


 スレッジハンマーだと思われた武器――だがそれはスレッジハンマーが鞘となった幅広の高周波ブレードが抜き放たれる。


「チッ!? スレッジハンマーは――」

「ああ! スレッジハンマーは隠れ蓑って訳だよ!!」


 抜き放たれた一閃はイザナギのシールドバリアーを突破、高周波ブレードによる一撃に内部ダメージも与え、絶対防御を発動させる。


『すまない主君! 咄嗟に反応出来なかった!』

『ごめんなのですよぉ( ;ω;)』

『構わない! 一気にエレンを戦闘不能にするぞ! 雅、連携で行く!!』

『承知した!!』


 大幅に減ったシールド・エネルギー、だが接近戦はヒルトの間合いでもある。

 イザナギからイザナミが分離――擬似的にエレンは二対一の状況に追い込まれた。

 イザナミの腕部から放出されるプラズマは刃を形成させ、背後から斬りかかる。


「ぐっ……!?」


 更にヒルトからも北落師門の一閃――そして、二機同時の交差攻撃によって更にシールドエネルギーが減少した。

 エレンは高周波ブレードを振るう、空を切る刃はヒルトには当たらず、飛行形態に変形したイザナミの背に乗り、電磁投射小銃を構える。


「一斉射だ!!」

『任せてくれ、主君!!』


 イザナミから放たれる指向性の光弾とタングステン弾の弾雨がエレンを襲った。


「……やらせないよ! 九式・禍乃白矛!!」


 キンッ! 一斉射全てを迎撃するレーザーの雨、エレンは未来に振り返った。


「エレン! 一対一じゃ無理だよ! 私も居るから!」

「っ……わかった! 未来、お願いだ!!」

「任せてよ!!」


 互いの射撃は、お互いの迎撃機能によって無効化される中、エレンは再度高周波ブレードを鞘であるスレッジハンマーに収め、突撃をかけた。


「ヒルト! これで――」

「終わるわけにはいかないってな、これが!!」


 再度イザナミがパッケージ化し、イザナギへと装着された――イザナミの左腕部が可変、長大な荷電粒子剣『天之尾羽張』を形成させた。

 瞬間、腰だめに構えるヒルト――前方へと振り切ると光刃の長さが増し、イザナギの腕部から離れて空中を舞う。

 回転する光の刃は直径八メートル――突撃をかけたエレンに避ける術はなく、光刃が絶対防御に何度も触れ、エネルギーが〇へ。

 迂闊だった――勝ちを急ぎすぎたのだ、エレンは二度目の敗北に悔しそうに俯きながら、地表へと降りていく。

 まだ試合は終わっていない――激しく回転する天之尾羽張、そのコントロールは雅が行い、執拗に未来を追い詰める。

 ヒルトも同様、電磁投射小銃を構えて斉射――未来は迎撃機能で撃ち落とすが、その前に九式・禍乃白矛のエネルギーがもたない。

 迫る光刃、迎撃機能によるエネルギー枯渇と問題が迫る。

 まだ――まだ戦える!

 未来のそんな心の声に応えるように、天照のコアが共鳴現象を引き起こした。

 刹那――光が天照に収束、目映い閃光を放つと同時に未来は叫んだ。


「【天巽降臨】!!」


 白亜の装甲色が変わっていく――まるで紅椿の様な紅へと染まる装甲。


「……なんだ!? 天照の装甲色が!?」

『ま、マスターΣ(゜ロ゜;) あれは単一仕様なのですよぉ(・ω・;)(;・ω・)』

「ワンオフアビリティかよ……!?」


 紅に染まった天照――刹那の一瞬、彗星の様な煌めきがヒルトのすぐ横を通り過ぎた。


「グゥッ……!?」


 紅い閃光から放たれた一閃が、イザナギの絶対防御を発動させる。

 一気にシールド・エネルギーが一〇へ――イザナギもほぼ最大値だったエネルギーが一気に削られた。


『しゅ、主君!?』

『チィッ……何て単一仕様だよ!?』


 一気に形成逆転されたヒルト――紅い装甲の天照だが、気付いた時には白亜の装甲色に戻っていた。


「驚いた? 天照の単一仕様《天巽降臨》、止めはさせないけどこの一閃はシールド・エネルギーを一気に一〇まで減らせるの」

「ッ……」


 顔色の変わるヒルトを他所に、来客席のオーランドは満足そうに頷いた。


「ハッハッハッ、良いぞ良いぞ! 残り一〇じゃあの落ちこぼれも何も出来そうにありませんな!」

「オーランド!」


 レイアート会長は叱責する――だがオーランドは気にすることなく続けた。


「おっと会長。 会長は甘いですな……我々反対派があの落ちこぼれの試合を見れば心変わりすると思っていたようですが。 生憎と彼を推し進めても旨味はないのですよ」

「旨味……?」

「そう、旨味です。 彼にはネームバリュー及び商品価値が無さすぎる上に適性が低い。 勿論この試合を見たものの中には評価を変える人間も居ることでしょう。 我々IS委員会は各国の助成金で成り立っていますが、それだけでは運営が難しいのですよ。 来年行われるモンド・グロッソの運営資金捻出の為にも、織斑一夏君には次世代ブリュンヒルデ――否、ジークフリートとして旗柱になってもらいませんとな。 まあついでに煩わしい女尊男卑という世論も、取り払いたいものですしな」


 オーランドの高笑いが響き渡る――女尊男卑の中、そんな事を言い出せば普通なら村八分扱い。

 だが彼はIS委員会議員という権力がある、他の会社社長の様に権力があれば女尊男卑も関係ない。

 力あるものに逆らうのは愚の骨頂――。


「おっと、どうせ勝負も決まるでしょう。 まあ仮に有坂ヒルトが勝とうとも、次の相手にゃ敵う訳ないですからな」


 パイプ椅子から立ち上がったオーランドに、ダスティは――。


「オーランドさん、どちらへ行かれるので?」

「トイレだ」


 それだけを言い、携帯を取り出すと何処かへ連絡を取りながら消えていった。


「……貴殿方も、彼の代表候補生選出には反対なのですか?」
「え? い、いや、私はその……」

「ま、まあ反対ですかな……」

「と、とはいえ……再考の余地はあるとはいえますが……」


 そう呟く反対派の面々――もしかしたら、ヒルトが活躍すれば取り込める可能性もあるかもしれない。

 仮に無理でも、無数のドローンカメラに撮られた映像を見せれば確実に賛成に持っていける。

 レイアート自身、その為にも試合のレポートを録り続けるのだった。

 そして、学園上空。

 まだ諦めていないヒルト――ますます紅い光を宿す眼差しは鋭くなっていく。

 未来もヒルトが諦めてない事を悟ったのか、右腕部クサナギブレードを振るう。

 そして――また互いに交差する黒と白――一撃でも当たれば負けるヒルトだが不思議と未来の動きが読めていた。

 次にどう攻撃するか、どう避けるか――集中力が増し、まるで未来の動きがゆっくりスローモーションでハイパーセンサーに捉えていた。

 避けた先に北落師門の一撃――カウンターを仕掛ける未来の一撃は身を逸らして避け、カウンターで反撃。

 この時のヒルトは無意識下で本来の力を発揮していたのかもしれなかった。

 疲労の溜まった身体、無駄な動きを無くし最小の行動だけで避け、一閃を加える。

 そして――無我の境地に達したその時、試合終了のブザーが鳴って我に返った。

 最後の一閃――未来はヒルトに当てる事すら敵わず、逆にヒルトの北落師門がシールドバリアーを切り裂いていた。


「……負けちゃったか」

「……ハァッ、ハァッ……」

「……ヒルト?」

「ハァッ、ハァッ……ん……。 あれ……終わった……んだよな?」


 一瞬思考が追い付かなかったヒルトだが、未来を見ると小さく頷いた。

 安堵するように息を吐くと同時に歓声が巻き起こる。


「ヒルトくーん!! 凄かったよー!!」

「凄い逆転劇! な、何か感動しちゃった!」

「凄い凄い!! 後は織斑君との戦いだねッ!!」


 巻き起こる完成と拍手に、ヒルトは一息吐くと――。


「そっか……もう、そこまで来てたのか」

「……うん」


 嬉しそうに微笑む未来――だがここで突然のアナウンスが学園全体に響き渡る。


『たった今入った情報ですが……最後の織斑君との対戦の前に、一人エントリーされます! えーっと……『山田真耶』って――山ちゃん!?』


 そのアナウンスと共にディスプレイに表示される山田真耶のステータスと登録機体【ラファール=リヴァイヴ・スペシャル《幕は上げられた(ショウ・マスト・ゴー・オン)》】の姿が映し出される――刹那、学園上空からオープン・チャネル通信が学園全体に開かれ、声が聞こえた。


「スタンダップ・ハーリィ・イッツ・ショウタイム!!」


 かつての授業の時の様に空から現れた山田真耶――ラファール・リヴァイヴの意匠を残しつつ、まるで打鉄の様に機体周囲に展開した巨大な盾が特徴だ。

 その盾も四枚有り、ウィング状に繋がって見える。


「有坂君、次の相手は私です」

「……ハハッ、どうあっても俺を代表候補生にしたくないようだな」


 荒い呼吸のまま、来客席をズームアップすると其所には不機嫌そうな表情のオーランド等反対派の姿があった。


「有坂君、補給後直ぐに試合です。 ……本来なら、先生と生徒でこういった事はあってはならないのですが――」

「……いいさ。 ……俺が勝てば、少なくとも度肝抜かせることも出来るだろ、先生?」


 ヒルトの言葉に驚く未来と真耶――ヒルトは勝つ気でいるのだ、自分の副担任に――《銃央矛塵(キリング・シールド)》の二つ名で呼ばれた山田真耶に。

 僅かに微笑を溢す真耶――掛けた眼鏡のズレを直すと。


「飯山さん、有坂君の整備、手伝ってあげてください。 先生も――彼とは一度本気で手合わせしたかったんです」

「そ、そんな……本気でって――」

「良いんだ未来。 ……落ちこぼれって言われた俺が今、各国の代表候補生に連勝を続け、今また新たに立ちはだかる嘗ての代表候補生に挑戦し――勝つんだぜ?」


 額を汗で濡らすヒルトの不意の笑顔にドキッとする未来だが。


「で、でも……山田先生は……」


 強いから――そう口にしようとした未来より早くヒルトは言った。


「強い。 だから負ける? ……未来、まだ俺は戦ってる訳じゃない。 勿論手合わせする機会はあって敗北してるが。 ……最初から負けるって決め付けてたら勝てるわけない。 例え勝率が低いと言われても――負けるつもりで挑んじゃ負ける。 最初から勝つつもりじゃなきゃな。 持つべき者の義務《ノブレス・オブリージュ》として、俺が立ち向かう試練さ!!」

「……何をカッコつけてるのよ、バカヒルト」


 そう言いつつも頬が赤い未来。

 そしてヒルトと未来は一旦補給に戻るのだった。 
 

 
後書き
これで残りは山田真耶と一夏のみ

フォルテとダリルは出ないんで 
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