KANON 終わらない悪夢
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09
あれから、髪を切った香里は、さっぱりしたように、手で髪をすくっていた。
「こんなに短くしたの小学校以来かしら? でも今日は散々ね、倒れたり、髪は切られるし、処女まで無くして妊娠させられそうだし」
「俺のせいか?」
「ふふっ、そうよ、もう責任取ってもらうしか無いわね」
「おいおい」
その時は、冗談でも言っている口調だった香里。祐一もそれほど重く受け止めていなかったのが間違いの始まりだった。
そして今度こそ、「車椅子ラブラブ二人乗り」で、電話コーナーに向かう二人。
「名雪が出るかも知れないけど、喧嘩するんじゃないぞ」
「ええ」
もう夜の10時を過ぎていたので、名雪なら寝ているに違いない、祐一は時間をかけ、ゆっくりとプッシュしていた。
プルルルルッ、プルルルルッ、プルルルルッ
『はい、水瀬です』
「もしもし、名雪か」
『うん、祐一?』
さすがの名雪も、香理が心配で寝付けなかったらしく、祐一としても用件だけ言って、すぐに切ろうと思っていた。
「ああ、まだ病院にいるんだ、今日は泊まって行くから、秋子さんにもそう言っといてくれ」
『うん』
そこで、家族でも恋人でもない祐一が残っているのに、疑問を感じる名雪。
『どうしたの? 栞ちゃんも調子悪いの?』
「いや、帰って(母親に倒されて?)寝てるはずだ、じゃあまた明日な」
「待ってっ、香里は?」
肝心の報告を忘れていた訳では無いが、言えば全て嘘になる。あえて勢いでごまかそうとしたのが仇となった。
「ああ、大丈夫だ。右手も足も動くようになったってさ、さっきも栞に電話して喧嘩してたぞ」
早々と電話を切るつもりが、名雪のペースになり、どんどん挙動不審になって行く。
「祐一、嘘ついてる、じゃあ何で泊まるの、そんなに悪いのっ?」
「違うって、香里も一人だと寂しがるし(あっ!)」
失言に気付いて、二人っきりなのを隠そうと言い訳を考える。
「おばさんが着替えを持って出直してくるまでは、ここにいる 「名雪……」 つもりだ」
何とか言い繕った所で、香里が受話器に近付いて声を出してしまった。
『香里? そこにいるの』
名雪でもその状況は変に思えた。香里の声が祐一と同じ距離、まるで唇が触れ合うような場所から、涙に濡れた声が聞こえたから。
「ああ、病院だから幽霊でも出たら怖いらしくてな、ここまで一緒に来てるんだ、笑ってやれ、ははっ」
乾いた笑いでごまかしたつもりだったが、香里は頬をぴったりと着けて抱き付き、片手でどうにかできる状況でも無かった。
『代わって』
「ああ」
名雪の言葉は重く、有無を言わさない重圧があった。
「もしもし、名雪」
泣いて、叫んだ後の、ガラガラの声で電話に出た香里。
『どうしたの、その声っ? だいじょうぶ?』
取り合えず普通の質問で切り返す名雪、しかしそれは、昼間聞く事もできなかった禁句。
「もう、だめみたい」
『えっ!』
「ごめんなさい、あの約束、守れそうにないわ」
名雪にも、香里は百花屋に行ってイチゴサンデーを食べる、たったそれだけの約束が守れないのだと分かった。
『どうしてっ?』
「あなたにも分かったでしょ、あたしと栞が同じ病気だって」
『うそ……』
「持って、後3ヶ月だって」
『そんなっ、やだよ~~っ』
「仕方ないでしょ、わがまま言わないで」
泣き出した名雪に、まるで子供を諭すように言っては見たが、言葉の最後は涙で詰まってしまった。
『やだー、香里っ、しんじゃやだーーー』
「何よ、貴方が泣いてどうするのよ、しっかりして」
先にパニックに陥った名雪を、病人の香里がなだめる、奇妙な光景が展開されていた。
「うえ~~~~ん」
「ぐすっ、うっ」
しばらく受話器を持ったまま、泣いていた二人だが、やがて香里から、何かを決心したように切り出す。
「でもね、帰り際、栞が言ったの、「祐一に抱かれれば治る」って」
『えっ?』
その言葉で、名雪にも先程の違和感の理由がわかった。
『そんな、まさか香里?』
「そうよっ、あたし、祐一に抱かれたっ」
涙に枯れたボロボロの声で、やっとそこまで言えた香里。
『……それは、病気が治るから? それとも』
永い沈黙の後、ようやく名雪も口を開いた。
「好きだからっ、ヒック、自分でも知らないうちに好きになってたからっ」
『でも、栞ちゃんと結婚させようとしてたじゃないっ』
「それは、祐一を諦めるため。二人が結婚したら諦められたはずだった。グスッ、でも、もう戻れないっ、栞と家族でいられなくても、貴方と友達でいられなくなっても、祐一は諦めないっ!」
香里は例え病気が治っても、名雪と二人で百花屋に行くつもりなど無かった。
そこで名雪は無言で電話を切った。病気になって弱っている親友を、口汚く罵りそうになったから。
「うっ、えへっ、うああ~~~~!」
受話器を置くと、その場に座り込んで泣き出す名雪。
「どうしたの? 名雪? 名雪っ」
(がんばって生きてって言ってあげられなかった、それでも一緒に百花屋に行こうって、言ってあげられなかった)
病気で親友を失うかも知れない悲しみ、自分と同じ男が好きで、その男に抱かれたばかりだと告白され、親友を失った悲しみ、名雪には泣く事しかできなかった。
「お母さんっ」
「何があったの? 言ってみなさい」
(祐一にも何も言えなかった、病気の香里を置いて帰って来て、なんて言えなかった。 でも香里が怖がらないように、傍にいてあげてなんて)
余命数ヶ月と宣告され、弱りきった状態とは言え、祐一は香里を選んだ。自分を責める名雪は秋子にしがみつき、子供のように泣きじゃくっていた。
(さよなら、名雪)
もう一人も、例え自分が死んでも、悲しまれるより嫌われる方を選んだ。きっと名雪なら、死んだ時に全て許してくれるだろうと信じて。
「もうやめろっ」
顔を押さえて泣く香里から受話器を取り上げたが、すでに回線は切れていた。
「くそっ」
一旦電話を切り、もう一度ダイヤルする。
「いやっ、名雪とは話さないでっ!」
「秋子さんと話す、おまえら、こんな時に何やってるんだ」
「やめてぇ、いやぁ」
縋り付いて泣く香里に阻まれ、電話はできなくなった。
「わかった、分かったから、そんなに泣くなよ」
祐一も、ようやく自分のした事の重さに気付き、あの家族や栞には、もう会えないかも知れないと思い始めていた。
(名雪、秋子さん)
それからしばらく、肩に顔を埋めて泣く香里を抱き、短くなった髪を撫でながら、その場で落ち着くのを待つ祐一。
(誰も来ないな)
これだけの騒ぎを起こせば、すぐに看護婦が飛んで来そうなものだが、ここでは日常茶飯事なのか、誰も咎め立てしなかった。
(いつもの事なんだろうな)
よく見ると電話台にも床にも、拭っても消えない涙の跡が、幾つも、幾つも残っていた。
(栞も、ここで)
栞、香里、過去の患者、様々な事に思いを馳せて涙する祐一、その雫はやがて香里の頬にも届いた。
「……祐一?」
「馬鹿だな、あんなにはっきり言わなくても良かっただろ」
「だって」
「俺なんかよりずっと付き合い長いんだろ? 仲直りできないのか?」
「貴方が原因なのよ、どうやって仲直りするの?」
ザシュッ!
「うっ」
鋭いツッコミで、刺されたような痛みを感じる祐一。
「お、俺なんて、そんな大したもんじゃ無いだろ? 女同士のプライドってやつか?」
「いいえ」
すっかり泣き止んで、上から見下ろすように顔を近付ける香里。
「友情とか、家族の絆まで捨てる程じゃないだろ? 今朝、名雪にはもう終わりにしようって言ったし、それに」
威圧されるように、次第に言葉が弱くなって行く、そこで香里は、祐一の言葉を遮るようにこう言った。
「違うわ、貴方がいれば何もいらない。家族だって、友達だって、私達の邪魔する奴はみんな殺してやるっ」
さっきまで泣いていたはずの香里は、恐ろしい表情で祐一を見下ろし、ガッチリ両肩を掴んで離さなかった。
(危ない、もう少しで、「お前とも終わりにしよう、だから名雪と仲直りしろよ」って言う所だった、今のこいつなら俺が終りになる)
もちろん、祐一がそう言いそうな気配を察し、極太のクギを刺しておいた香理。現在、余命3ヶ月で怖い物無しの香里ちゃんなら、心身喪失状態で、包丁フェンシングでも、窓からの道連れダイビングでも、お~るおっけ~だった。
「ねえ、滅茶苦茶にして」
どこかの舞ちゃんみたいに、傷付けて欲しがる香里。
「もう今日は大人しくしてろよ」
約束を破って名雪に喧嘩を売り、絶交と宣言したも同然の香里。しかし現状は、さっきの表情を見て、息子さんが縮こまって外に出て来れなかった。
「親友や妹から男を取り上げるような女よ、気にしないでいいから乱暴にして」
「もう十分傷付いただろ」
「うん」
(香里が見た栞の怖い表情って、アレじゃないよな?)
香里が見たのは、あくまで「もうすぐ死ぬ」と言われた人間の表情で、祐一が見たのは、「これから殺す」と言った表情だった。
それからも、一人になるのを異常なまでに怖がる香里は、水を飲みに行く時も、トイレに行く時も、どこまでも一緒に付いて来た。
「へえ、男の子って、そうやってするんだ」
小便器に向かう祐一の肩にあごを乗せ、先ほど自分と繋がっていたモノを見ている香里。
「ジロジロ見るなよ、お前、仮にも乙女なんだろ」
「仮にもって何よ、さっき色々したくせに、それにもう乙女じゃないわよ「コレ」に破かれちゃったから」
そう言いながら、祐一のを指先でツンツンと突付く。
「やめろっ、誰か来たらどうするんだ、こぼれるっ」
抵抗しながらも、クラスメートに触られた祐一は、ムクムクと大きくなってしまった。
「あっ?」
終ってからトランクスに入れようとしても、上や下からはみだしてしまう物を、両手で触りまくっている香里。
「こんなになったら、しまえないわね」
「お前、わざとやってるだろ」
「何よ、あたしのは明るい所で見て、触り放題だったのに、祐一のは見てないのよ、ずるい」
とても乙女とは思えない言葉をバンバン使う香里、あの栞と姉妹だとは信じられなかった。
「ちょっとこっち来なさい」
そのまま、引っ張られて(どこを?)個室に連れ込まれる祐一。内鍵を掛けられて、そのまま壁際に追い詰められる。
「いやらしい、私の体を思い出して、またこんなにしたのね」
便座の蓋に腰掛けて、祐一を立たせたまま(何を?)触っている香里。
「うわっ、ひど~い、ここって私の手首ぐらいあるじゃない、どうりで痛いはずだわ」
「うっ!」
先っぽの柔らかい所をグニグニされ、嬉しい悲鳴を上げる祐一クン。
「そ~ね、手を繋いだり、キスしただけで元気になるんなら、これはどう?」
チュッ
さっきヤられた仕返しに、お口で始めちゃう香里ちゃん。
「やめろ、汚いって」
トイレが終ったばかりの物を口にされ、少し抵抗するが、また違った感触にビンビン来る。
「何よ、自分は「綺麗だ」とか言って舐め回したくせに、ほら、コレも先がピンク色で綺麗よ」
「だ、やめっ… くっ」
チューーーーーーーーーーーーッ!
「はおうっ」
まだ「プロのお姉さん」に、お願いした事の無い祐一は、「思いっきり吸われちゃう」のは初めての経験だった。
プチュプチュッ、シュシュシュッ、かみかみ、はむはむ、なでなで、ころころ……
「だめだ、またっ」
香里の頭を抱え、外れないように押さえるが、香里も別に抵抗するでも無く、口撃を止めようともしなかった。
チューーーーーッ!
「ううっ!」
いつものように断続的に出すのと違い、一気に吸い出されるのも初めてだったので、腰が抜けそうになって壁をずり落ちて行く祐一。
「んっ、んふぅ」
そして、ついさっきまでキスもした事がないと言った娘は、平気で祐一のを口で受け止め、精*臭い息を鼻から出しながら、舌の上で転がして少しづつ飲み込んで行った。
ゴクッ、ゴクッ
(うっ、飲みやがった、栞でもまだ吐き出すのに)
やっぱり飲ませようとしていたらしい。さらに筒の中に残った物まで全部吸われ、気が遠くなって行く祐一。
(初めてのくせに、こいつが、一番上手い)
しおリンや、なゆなゆには、こんなゴイスーなテクは無いので、祐一もきっと体が離れられなくなるだろうと思い始めた。
残らず飲み干した後、下を指差しながら問い掛ける香里。
「こっちの口に出したかった?」
「お、お前なあ」
「残念でした、もう満タンよ、あたしだって、あんっなに一杯出るなんて知らなかったから、バスタオルまでベトベトよ、それに拭いても拭いても出てくるから、今もナプキン着けてるのよ」
当然血まみれなので、シーツを汚さないように着けていたが、それ以上ナニをこぼさないのが目的らしい。
「ほらっ、まだまだよっ」
ペシッ、ペシッ!
気絶した祐一のオットセイ君?を叩き起こす香里。
「もうだめだって」
チューーーーーッ!
「うっ、またっ」
ブハーーーーッ!
30分後
「……腹が減った」
3回連続で吸い出され、まるでサッキュバスに精を吸い尽くされたように、疲労困憊している祐一。
「そう? あたしは「お腹一杯」だけど?」
先程、「口にした物」の事をいっているのか、下の口からも沢山食べたので、香里はお腹一杯らしい。
「はい、ドリンク剤」
ごそごそと荷物を漁って、箱ごと取り出して渡す。もう部屋の中を歩き回って、ドリンク剤1ダース持ち上げるぐらい楽勝らしい。
「なんでこんな物が?」
「母さんが買って来たの、多分祐一用ね、え~、滋養強壮、疲労回復、病中病後」
「お前が飲めっ」
「じゃあ、精の付く物買って来て」
「やっぱり疲れたのか」
「いいえ、貴方が食べるの、食べ終わったらもう1回」
「お前なあ」
「ふふっ」
今は操状態なのか、機嫌がいい香里。
「じゃあ、バニラとチョコ、どっちがいい?」
ビクッ!
ある症状を思い出して言ってみたが、香里は予想以上の反応を示した。
「あっ、あるの?(ゴクリ)」
「コンビニだからな、年中売ってるだろう」
病院の売店と違い、全国標準のアイスクリームが置いてあるはずだった。
「もしかしたら、甘栗味のソフトクリ-ムもあるかもな」
「そっ、それ買って来てっ、お金ならあるわっ」
まるで中毒患者のように、慌てて財布を捜す香里。
(やっぱり……)
祐一はさらに確信を深めた。
「いいって、それぐらい買えるから、でも一人で置いて行ったら嫌なんだろ、一緒に行くか」
「いいえ、多分、患者は出られないわ」
その言葉で冷静さを取り戻したのか、一瞬、普段の香里に戻る。
「でも、それがあたしの処女の代金って事ね、せめて2個買って来て」
「オイッ」
人聞きの悪い話をする香里をジト目で睨む祐一、そこでまた学校での出来事を想像してしまう。
祐一妄想中…
「だからね、あたし、病院で祐一に何度も*された後、アイスクリームだけ食べさせてもらったの、初めてだったのに……(嘘泣) 100円のが2個だから、私の処女の値段は210円(消費税含む)ってコトよ」
「いやっ、酷い、相沢君っ!」
「「「最低~!」」」
「「「女の敵っ!」」」
「それに避妊もしてくれなかったから、全部中に出されちゃったし、痛いって言ったのに一晩に何回も*されて、トイレの中では口でさせられたわ。苦しかったのに3回も。その上吐き出させてくれないから、生臭くって苦いアレ、全部飲まされたの」
遠い目をして頬杖をつき、苦しくて苦かったのを思い出しながら、ため息をつく。
「香里っ、どうして訴えないのっ? それって強姦よっ」
「いいの、あたしって「そっち系」だったみたいだし、相沢君も「S」入ってるから、相性いいかも知れないわ」
そう言って気だるい表情で机に寄りかかり、乱れた髪を整えようともしない香里。
「いやっ、不潔よっ」
友人達も、余りの言動に引いて行く。
「香里、あんたそんな事言ってると友達無くすよ」
「うん、もう名雪には絶交されたし、妹の彼、寝取ったんだから、親も妹も口きいてくれないけど、いいの」
もう全身から力を抜いて、まるでその行為を思い出すように、震えながら深いため息を洩らす香里。
ザワザワザワ…
次第に祐一と香里の周りから、人が消えて行く休み時間の教室。
「相沢ぁ、ちょっと顔貸せよ」
そこで、下を向いて怖い表情をしている北川他数名に肩を叩かれて、両腕をガッチリ固められ、誰もいない校舎裏あたりに連行されて行く祐一。
「いや~~~~っ!」
何故かその時、何か打開策を考えないと、一週間以内に今の想像が実現しそうな予感がした祐一。もしかするとニュータイプとか、予知能力に目覚めたのかも知れない。
「ほら、もっといいの売ってるから、250円のパフェみたいなやつとか、大きい箱のでもいいぞっ」
「そんなに沢山食べられないし、多分、果物が乗ってるのも食べられないわ」
バニラ、チョコなど、混ぜてある物が限度で、トッピングも不可らしい。
「冷たいジュースとかは?」
「それも多分、体が受け付けないと思う」
そこで祐一は「それならあの生臭いのは、どうして飲めたんだ?」と聞きたかったが、そう聞くと「じゃあ、もう1回ソレ」と言いながら押し倒され、チャックを下ろされそうな気がしてやめた。
「じゃあ、買って来るから、下まで一緒に行こう」
せめてそれで点数を稼ぎ、身の破滅を防ごうと努力する。
「いいわよ、あたしにはもう、この子がいるから」
お腹に手を当て、嬉しそうにさすっている香里。
「そんなすぐに出来るかっ」
「うふふっ」
出かける前、その階のナースステーションに顔を出し、エレベーターホールに香里を待たせておく。
「あの、ちょっと買い出しに行って来ますから、その間あいつをお願いします」
「はい?」
ボケた看護婦を見て、嫌味の一つも言って見る祐一。
「あいつの妹もこの階だったんで、自分の寿命がどのくらいか分かって、ずっと変なんですよ、どうして事情を知ってる人間を、ここに連れて来たんですか」
「さあ? 患者さんの配置は私達で決められないので」
「そうですかっ」
昼間の教師達を思い出し、何を言っても無駄だと思い、足早に香里の所へ戻った。
「そこまでお見送りするわ、あ・な・た(ハ~ト)」
「お、おお」
しかし結局エレベーターに乗っても、見送るどころか、手を離さずそのまま乗って来た香理。
「一人でも大丈夫なんじゃなかったのか?」
そう言いながら、不安にならないように手をしっかり握ってやり、角に追い込んで体を押し付ける。
「あっ、こんな所でだめっ」
「ほら、監視カメラで覗かれてるぞ、明日には病院で有名人だ」
そこでキスしようとしたが、ある匂いが鼻を突き、顔を逸らせる。
「やっぱりあたしじゃだめなのね、いくじなしっ」
また弱モードに入ろうとする香里だったが、今回はさすがに意味が違う。
「違うだろ、口開けてみろ、まだ残ってるんじゃないか?」
「ア~~~ン!」
年頃の娘が、好きな男の目の前で、喉*ンコまで見えるぐらいの大口を開けた。
「こいつっ、やっぱり残ってるじゃないかっ、そんな口でキスしようとしたのかっ」
香里の口の中には、白い塊が沢山残っていて、ゆっくりと味わっていた。
「ふふっ、いいじゃない」
「すぐに吐き出せ、歯も磨いてきれいにしろ、口の中全部だっ」
「い・や・」
上目使いに祐一を見て、口を押さえる。
(くっ、これもエロ可愛いじゃないか)
「慣れるとおいしいって、誰か言ってたもん」
その言葉で、ついさっき出し尽くしたばかりなのに、またムクムクと育つ祐一。
「じゃあ、今日はもうキスは無しだ」
「えっ?」
「どうした? 嫌なのか」
香里の中で、おやすみのキス、おはようのキス、寝ている間のチューなど、どちらが得か回数が数えられた。
「後でまた飲ませてくれる?」
「え? ああ」
余りにもそのままの表現に、ちょっと気後れしながら了解する。
「じゃあ……」
ゴクリッ!
わざわざ聞こえるように、耳に近付いて大きな音を立てて飲み込む香里。
「あ~、美味しかった」
そう言って、精*臭い息を、耳に吹きかけて来る。
(うっ、何てエロい口撃だっ)
さっきから、栞や名雪には絶対できない方法で攻撃してくる香里。すでに祐一攻略戦では、名雪軍は壊滅し、栞同盟も敗戦は時間の問題だった。
1階に付くと、情緒不安定な香里はロビーで待たせておき、病院前のコンビニに行く祐一。
「じゃあ、ここで待ってろよ、どこにも行くんじゃないぞ」
「うん」
今は気分もいいのか、ソファーに座ってニコニコしながら手を振っている香里。
(それにしても、俺よりあいつの方が元気だな、もう治ってるんじゃないか?)
そんな事を考えながら病院を出ると、外には見覚えのある人物が立っていた。
「…やっぱり祐一がいた」
「舞じゃないか、どうしたんだ? こんな所で」
こんな夜に、と聞かないで済むのが、舞ならではだったが、普通この時間帯には、校舎の中にいるはずだった。
「…奴らが学校を出た」
相変わらず肝心な言葉は抜け落ちていたが、意味は理解できた、魔物が夜の校舎を出て、どこかに行ったらしい。
「出たって、アレは夜以外、どこかに戻るんだろ」
嫌な予感がしながらも、前に聞いた話を思い出しながら聞いてみる祐一。
「…さっきまでこの中にいた」
「何だって?」
最悪の答えを聞いて愕然とし、香里が心配になって今来た道を戻ろうとしたが、舞に捕まえられる。
「…今はもういない、タクシーに乗って出て行った」
「ええっ?」
あの見えない魔物が、タクシーに乗って移動する所を想像してみる。
(? 無理だな)
「…奴らはやり方を変えたらしい」
そう言って祐一に鼻を近づけ、クンクンと匂う。
「…女の匂いがする」
「これは香里が入院したから、今まで付き添ってただけだ」
別に慌てて言い分けする必要も無かったが、つい条件反射でやってしまう。
「…魔物の気配も残ってる」
「えっ?」
「…今日はもう出ない、帰る」
「おい、香里に会って行ってやれよ」
「…私は邪魔になる」
そう言い残して歩いて行くと、ほんの数メートル先で舞の姿は見えなくなった。
(相変わらず謎な奴だな?)
「うぐぅ、あの人苦手」
(大丈夫、力は強いけど心は弱い、いずれ片付けてあげるよ)
(シマツシテヤル)
「だめだよっ」
(それと、そろそろ君の体も用意しないといけないね)
「え? あるの」
(うん、こっちに来てごらん)
天使の人形に連れられ、どこかに移動するあゆ達。
(ほら、見て)
そこには、大きなチューブの中で、何かの液体に漬かって浮いている、あゆの体があった。
「あっ」
白い診察衣に包まれ、何故か頭のカチューシャと、背中に羽根が着いたリュックだけは背負っているあゆの体。
(キーワードは「捧げる」だよ、言ってごらん)
どこかの「グリフィスさんのお友達」、と似たようなセリフを言う天使の人形。
「え? ささげるって何を?」
(ニエ)
(気にしないで、それでいいよ)
「うぐぅ、ささげるって何~~っ?」
復活のための生贄は勝手に選んでくれるらしい、これがゴッドハンド? あゆの誕生の瞬間であった。
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