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はたらく魔王様、天使の飼い方(鈴乃やエミリアともスルものの芦屋と漆原にもオッスオッスされる話)

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01エミリア出生の秘密i

 
前書き
アニメと原作3巻までしか読んでいませんので設定違いはご容赦下さい。 

 
 ある日、エミリアは魔王のアパートに呼ばれ、渋々、嫌々やって来た。
 もちろん監視のためも有るが、何と「お前の両親の馴れ初めを教えてやる」と言われてしまったので、来ない訳にもいかなかった。
「真奥、入るわよ」
 一応ノックをして開いたままのドアを潜って部屋に入る。クーラーが無いのでドアを半開きにしたまま安物のビニール紐で全開にならないように止めて換気し、換気扇で三人分の男の熱量と汗の匂いを追い出し、扇風機でどうにか涼を保っている腐った部屋である。
「エアコンぐらい買いなさいよ、そっちの二人も働かせたら楽勝でしょ?」
 蚊の行き来まで自由なので、早めに退散しようと思ったが、芦屋は何か気の毒そうな目で自分を見て、漆原は一瞥しただけでパソコンに向き直し、いつものような歓迎と言うか、罵倒とか皮肉のような言葉も無かったので妙な気分がした。
「暑いときは銭湯にでも行って、熱い湯に長いこと浸かって、汗を流してサッパリしてから風に当たるのがいいんだよ。折角日本に住んでるのに「風流」ってものが分かってないな、お前は」
 この部屋には座布団もなく、あっても暑いだけなので畳の上に直に座るエミリア。特に座るようにも言われず、席も勧められていないが、出口に近いちゃぶ台の前に座った。
「で? 話ってのは何なの? 私の両親の馴れ初め? 何であんたがそんなこと知ってんのよ? どうせ嘘でしょうけど言ってみなさいよ?」
 全部疑問形、喧嘩腰、相手を信用しない、いつものように、いつも通りの挨拶が終わった。
「ああ、これなんだけど」
 ちゃぶ台に置かれた写本を差し出すと、濡れて汚れるのを嫌った芦屋が飲み物を片付けて布巾で台を拭き、客人に茶も出さずに逆に片付けた。
「天使の… 飼い方?」
 エミリアが常用している中央の言語と違い、鈴乃が住んでいる地方の言語で書かれてれている装丁を見て首を傾げる。
「大抵の人間と、天使の女の出会いと別れのお話だ。お前、前に「何でお父さんを殺したの? 許さない、絶対に許さないっ!」って言ってただろ? それに「どうして魔族は人間を殺すの? 何のためにあんな酷いことをしたの?」って言ったよな? あの時は口籠って言えなかったけど、もう俺達の仲だ、話してもいいだろ」
「はぁ? いつどこで誰が、あんたと仲良くなったのよ? いい加減にしなさいっ、私は今でもアンタ達魔族が、お父さんを殺したのを許さないし、人間を沢山殺したのも許さないわっ」
 いつものように敵を見る目で睨むが、この魔王は案外良い奴で、自分も鈴乃も千穂も何度も救われてしまったので、言葉にも怒りにも前ほどの勢いがないので困る。
「まず、人間ってのはアレだろ? 開墾だか開拓だとか言って、近くの森を見たら住んでる先住民は皆殺し。オークだろうがホビットだろうがお構いなし、エルフかダークエルフなんかいた日には、軍隊まで来て男は皆殺し、女は全員連れ去って、高く売るか貴族に献上して、エルフも長寿で死ねないから、監禁されたまま相続される悲惨な運命の始まりだ」
「何の話よっ! それは魔族の方じゃないっ、人間が来たら皆殺し、話し合いなんて一切しないで近くの村を襲って火をつけて残忍な殺し方をする、それが魔族よっ!」
「それが人間のやり方だ。まず殺されても良いような貧乏人とか嫌われ者が、村から離れた所に捨てられて住むか、自分から人間嫌いになって離れる。まあそんなクズだから魔族ともうまくやって行けるはずがないから、盗みをやるか殺しをやって仕返しをされる。ここまでが既定路線だ、そうなったら捨てたはずの奴なのに「あんないい人が殺されてしまった! やっぱり魔族は悪魔だ鬼だ、今すぐ殺さないと俺たち全員殺される!」な~んて、軍隊か商人の手先が広場で大騒ぎをして、男手を集められるだけ集めさせて焼き討ちに行く」
「嘘よっ! それは魔族のやり方でしょっ!」
 そうは言ってみたが、戦場での商人や貴族の汚いやり方を見せられ、自分達が攻め落とす城塞がどうなったか、自分の目で見てきたエミリアには強い否定の言葉は出せなかった。
「最初に死んだやつも、警告で殺されたのか、人間の軍隊が殺したのか分からないけど、体もバラバラ、八つ裂きにされた人間の死体と血を見せられて、「善良な市民」も狂うんだな、そうしたら数の少ない魔族なんて勝てるはずがない、一晩か、長くて二日で皆殺しだ。財産とか食料は山分けにして、森ごと燃やされて畑にされるか、木を切り出して材木にして、捨てた枝とか葉が乾いた頃に焼畑農業開始、上手く根っこまで焼けたら取る手間まで省けて結構毛だらけって訳だ」
 自分達が攻め込む前に、商人が用意していた図面や見取り図まで見せられ、「ここが公共の広場になって、ここがゴミ捨て場、焼却場、水汲み場、洗濯場」と図を指差して嬉しそうに教えられ、食い詰めた者達や開拓者が送り込まれ、「まあ最初の二、三年は魔族がここを取り返しに来て焼かれたり、皆殺しにされたりもしますが、みんな犯罪者か前科者で、こうやって行くしか食っていけない連中ですから、勇者様はお気になさらず」と笑いながら説明された。酒が入っていて気が大きくなっていたとしても、勇者に教える話ではない。
 これまでの経験と、真奥貞夫への信用度の高さから、この話が嘘では無いと理解させられたエミリア。
 そして、これまで話してくれなかったのは、魔王を信用しない相手、人間を信じて魔族を憎む相手に、何を言っても逆効果で、怒りの炎に油を注ぐだけだと思われていたのにも腹が立った。
 しかし「両親の馴れ初め」「天使の飼い方」この2つは絶対に結びつけてはいけない単語なので怒ろうとしたが、真奥への信用が勝ってしまった自分が心の中にいて、今までのように怒りに任せて全否定できない。
 恐怖によって顔が青ざめ、嫌な考えになってしまい血糖値まで下がって、ブルブルと震え出す自分の体を抱いて、反論もできなくなり、魔王の次の言葉を待った。
「まあ、話の枕はこの程度でいいか? 魔族と人間の戦争論は、結局どっちもどっちだ。人間は増えるのが早いし土地がいる、商人とか貴族は金の話に敏感だし、政府も取り立てられる税金が増えたら万々歳、役人も鼻薬には弱いから「襲われた住人のために、早く軍隊を出動させて下さい」だ、軍隊も遊ばせておくより、焼き討ちに参加して略奪して経験値挙げて、エルフのいい女がいたらズタボロにされて孕まされる前に献上したら、いい金になるし出世もできる」
 もう声を押し殺して、口を押さえながら泣き出してしまったエミリアの前に、芦屋が入れた100均のマグカップに安物のティーバッグが入ったままの紅茶と、皿の上に乗せられた角砂糖が出された。
 これから聞かされる話が、もっと過酷になるのだと悟ったエミリアは、毒など入っていそうにない紅茶に角砂糖を全部ブチ込んで溶かし、温い茶で一気に糖分を胃袋に流し込んだ。
 むしろ毒でも入れてくれて、ここからは精神の苦痛ではなく、肉体の苦痛で責めて欲しいとさえ思った。
「さて本題だ、人間と天使の女の出会いって知ってるか? 俺から言っても何だから、その本、声に出して読んでみてくれ、読める所まででいいから……」
 真奥はエミリアが怒り出して誤魔化さないよう、自分の声で自分の耳に入れさせ、キレて魔王をなじり、嘘だと泣き叫んで出ていかないよう、自分のペースで飲み込ませる方法を選んでくれた。
 それは有り難い方法でも何でも無く、自分で自分に死刑宣告をさせるような物だったが、それでもエミリアは勇気を出して、自分への死刑を言い渡した。
「天使の唾液や尿、排泄物は、古くから知られる万能の霊薬である。ヒック、近世でも天使の羽毛は織物としても高価で、その羽根を用いた羽ペンで書くと、うっ、どんな凡才でも名文美文を書き起こせる魔法の品である、ヒック」
 もう序文を読んだだけで、自分の母親や仲間が人間からどういった扱いを受け、どんな目的で「飼われた」のか分かってしまったので、涙を流し、嗚咽で声を詰まらせながら読んだ。
 堕天使である漆原は、その事実を知っていたのか、真実を読み上げさせられている同胞の泣き声に耐えられなくなったのか、無言で部屋を出て夜風に当たりに行った。
「さて、そんな天使の「入手方法」だが、ううっ、飛行中の天使を捕らえるのは困難であるのは言うまでもない。しかし、ヒック、任務によって降臨した天使にも、水は必要である。食料を携えていたとしても、飲み水を掬う場所、人が通えぬ場所での仲間との水浴び、うっ、その最中に痺れ薬を塗った矢を放ち、必ず肺を貫くこと、心臓を傷付けても天使は死なないのでご安心召され。ヒック、気胸を起こして飛べなくなるので、素早く翼の先を両方切断、羽毛収穫用の翼は半分残し、その先は再生しないように焼いてから毒を…… いやあっ、もう読めないっ!」
 写本を真奥に投げつけ、顔を覆って泣き、そのまま床に倒れ込んで気分が悪くなりながらも泣いた。優しかった父親が死んだと知った時よりも泣き叫んだ。
「そうだよ、お前の父親は「勇敢な戦士」じゃなくて「優秀な猟師」だったんだ。人間がいるはずもない高地で何日も動かないで「獲物」を待って、水浴びでもしてたお前の母親を「仕留めた」んだ」
「いやあああっ! 言わないでっ! 嘘よっ、そんなの嘘っ! 父さんと母さんは川辺で出会って恋に落ちて、愛し合って私が生まれたのよっ! お母さんは「奴隷」なんかじゃないっ、羽や体液を収穫する「家畜」なんかじゃないわっ!」
 写本や真奥の言葉をどれだけ否定しても、母親の体液や羽毛は実際に収穫されていた。
 曰く「ご近所の皆さんのため」「売ればお金になって、みんな幸せに暮らせる」そう言った母の笑顔は、光彩に光がない、力を失った「レイプ目」だったのが今にしてみれば思い起こされる。
 どこかの恩返しに来た鶴のように「決して覗かないで」と言いつけられ、本当に父と母の「夜の営み」を覗かないで過ごし、教会に預けられるまで守り抜いたのも後悔した。知ってさえいれば「もっと早く母を救えたのに」と。
「天使を飼い慣らすには、羽を抜いて鎖で縛るだけでは足りない。猫にマタタビが有るように、天使に与えてはいけない毒がある。これを常時与え続け中毒にさせ、さらに雌の天使には子供を産ませれば良い。天の掟によって自死は許されず、新しい命を断つなど天使には到底出来ない。そしてその子が成人するまで「飼い主」の元に留まり、天の恵みを飼い主とその子供にもたらす」
「ヒイイイイイッ!」
 写本の一説を読む真奥の声を聞かないように耳を塞ぎ、悲鳴を上げて体を丸める。
 母は「病気で元気がない」のではなく、狩猟によって捕まって監禁され、羽毛や霊薬を生み出す家畜として飼われ、泣き叫んで嫌がっても力づくで乱暴されて子供まで産まされて、天の教えでその子を殺すことも許されず、自殺するのも許されず、いつまでもいつまでも救いに来てくれない仲間を待ち、長い寿命の一時、我が子のために身を裂いて、体を穢されても心までは汚されないようにしたつもりが、毒薬によって心まで穢され、その毒を貰うためにはどんな事でもする雌奴隷に成り下がっていた。
「嘘よっ、嘘だわ、魔族が、魔王が私を苦しめるために作り上げた嘘の本だわ、そんな物信じないっ」
 弱い心が嘘の中に逃げ込むよう命令し、豆腐のメンタルが壊れきって崩れ、再起不能になる前に逃げ出した。その目は母と同じく、光彩に光がなかった。
「この本は鈴乃に借りてきて貰った本物だ、一般人には絶対教えないけど、猟師の中では一子相伝ぐらいの口伝で伝わってる話だ。だからお前の近所の人も、買い物に行く街の人も、「美人の奥さん」ぐらいにしか思ってなかっただろ?」
「信じないっ、信じないっ、絶対嘘だわっ!」
 大きな声を張り上げても、真奥の顔は見れなかった。その顔と目に「本当だ」「気の毒に」と書いてあるのは間違いない。
「天使ってのは、声以外の何かで仲間を呼べるらしい、その器官が首の下にある。それを切り取られると仲間も探せないそうだな」
「うそよ、うそ、嘘だわ、間違いよ……」
 芦屋の目も顔も見れなかった。その顔にも、敵ではあるが知人でもあるエミリアの出生の秘密を気の毒に思う表情があり、例え逃げ出しても階段に座って泣いている漆原が振り返って、人間に捕らえられてしまい、家畜として長年飼われてしまった同類を憐れむ顔を見てしまう。
 そして望まれずに生まれてしまった片翼の天使、天使の合いの子がどうやって生まれてしまうのか知っている堕天使が、泣いている表情を見せ付けられてしまう。
「嘘よ…… 嘘よっ、嘘なんだわっ!」
 その声に次第に狂気が混じり、1オクターブ、2オクターブと上がって絶叫へと変わった。
「お前のお母さん、背中から肺に突き刺さった矢傷があっただろ? 翼は半分に切られて再生しないように焼き切られて毒で締められて、首の下、喉笛掻っ切られて、仲間を呼ぶ器官を引く摺り出された傷もあっただろ?」
「いやあああああああああああああああああああああああああああああああっ! そんなの絶対に信じないいいいいいいいいいいいいいいいいっ! 嘘だわああああああっ! 魔王がっ! 魔族が勇者を陥れるために吐いた嘘だもんっ! 嘘に決まってるわああああっ!」
 真奥に襲いかかろうとしたが、ベターハーフを取り出せないのも重なり、その言葉が全て真実だと確定してしまったので、絶望に満たされながらいつもの100均のナイフを抜いて襲いかかった。
 ガタガタと震えた体では何の力も無く、聖なる力も憎しみや憎悪では発動できない。そんな攻撃は暴れる赤子か子供のように魔王には通じず、逆に哀れな迷い子として抱き締められてしまった。
「おうっ、げっ、おええっ! げぼおおっ!」
 最悪の気分と感情は、体を壊し始めて猛烈な嘔吐感に襲われ、真奥の体から離れてその場で嘔吐する。
 晩飯も、先程の紅茶入り砂糖も全て吐き出してしまい、orzの体制で胃袋の中身を全部吐き出し、それは胃液を吐くまで続いたが、真奥もそれを責めもせず、芦屋もそんな無様な勇者の姿を見て嘲りもせず、途中からコンビニ袋の中に吐くよう手渡し、無言で雑巾を持って来て清掃し、敵の吐瀉物を片付けた。

 そこでエミリアも気付いた。母が語り続けた父との愛の夢物語は、自分を慰めて騙し続けるための毒薬、愛しい我が子を憎まないで済むように造られた惨めな作り話。
 薄汚い猟師も、家畜の言葉に対し「ああ、そうだったかな」と苦笑いするだけ。
 それは愛娘に自分達の恋の馴れ初めを知られるのを恥じらい、苦笑いで噛み潰しているのだと思った自分が愚かだった。
 その悲劇の最終章は、愛する子供をどこかに預けた後、迎えに来た仲間の前で自分を苦しめ続けた汚らしい人間を惨殺したか、村を襲撃した魔族によって開放された後、考えられる限りの苦痛を与えて男を殺害して復讐を果たし、穢れきった体で天に帰り、憎い汚物の血が混じった娘を呪いながらも愛し、今も天から見守っているのを感じ、この体、汚らしい人間と天使の合いの子の肉体にも愛想を尽かして、今までの思い出を胃袋から吐き出し続けた。 
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