IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
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【第184話】
まだあどけなさの残る少女、二月程前までは目の前の少女のこんな笑顔が見れたと誰が想像出来ただろうか?
嬉々として喜ぶラウラを見、こうやって感情を表す事が出来るのは喜ばしいことなのだが――問題は、その笑顔が悲しみの色に染まるのを阻止できない現実が目の前――。
そう思ったのだが、そういえば確かウォーターワールドは当日券は二時間待てば手に入るという事を思い出した。
これならば、ラウラを悲しませる必要もないし、俺が二時間並んで買えば全く問題ないというものだ。
そう結論付けると、ポケットからチケットを取り出す――。
「一緒に行けるなら大丈夫だな。 ほら、ラウラ」
「う、うむ。 せっかく嫁が誘ってくれたのだ。 それを無下にするのは私としても心が痛いからな……。 ……やった……」
そうラウラは俺に告げるとチケットを受け取り、くるりと俺に背を向けると小さくガッツポーズをした。
そんなラウラを微笑ましそうにシャルが見つめていると、途中でハッとした表情と共に口元を手で覆った。
「あ……ヒルト? ラウラにチケット渡しちゃうとヒルトの分は……?」
「なっ……ヒルト、まさか自分の分を私に――」
「ん? まあラウラが気にするなって」
ニッと笑顔で俺は言うのだが、ラウラは流石にその事情を知ると複雑そうな表情でチケットを返してきた。
「こ、これは受け取れん。 ……よ、嫁を差し置いて喜んでしまった私が恥ずかしい……」
そう言うと共に、声のトーンが下がり、明らかに悲しそうな表情をするラウラだが。
「ん? もしかしてラウラは俺がこれを渡したから行かないとでも思ってるのか?」
「ぅ……む……。 嫁を差し置いて夫である私が皆と楽しむ等と――それに、嫁であるヒルトがいないのであれば楽しみが半減するというものだ……」
「だ、だからってラウラが返す必要ないよ? ぼ、僕、今回は遠慮す――」
「いや、シャルもラウラも遠慮するなって。 てか、俺も勿論ウォーターワールドに行くしな。 一応、並べば当日券買えるし。 ……せっかく水着が見られるってのに逃すわけにいかないしな……」
「「……?」」
最後の方の言葉は、小声で呟いた為に二人には聞こえず、互いに首を傾げていた。
「そ、それなら良いのだが……。 だが、それなら夫である私が当日券を買うために並ぶ――ふゃっ!?」
「はっはっはっ、俺の夫ならそんなバカな事を言うなよ?」
ラウラが炎天下の中、並んで当日券を買うとかは俺自身が許せないため言ってる途中でむにっと両頬を引っ張ってみた。
痛くない様には引っ張っているものの、気恥ずかしさからくるのか上目遣いで睨み付けられ、頬を赤く染め上げていた。
「……ラウラは炎天下の中、並ぶ必要無し。 まだ並ぶって言うならこのまま頬をむにむにし続けてやるぞ?」
「うぅ~~…………」
若干涙目になっているラウラだが、こうやってると凄く意地悪したくなってくる可愛さがあるな。
このやり取りを見ていたシャルは、凄いジト目で俺を見ていたのだが……ヤキモチなのだろうか?
むにむに弄っていた頬を離すと、ラウラは直ぐ様両頬を撫でていた。
そんな様子に、俺は頭を撫でると再度唸り声をあげる――。
「うぅ……。 よ、嫁に子供扱いされてる気がする……」
「ん? ははっ、頭を撫でるのが子供扱いなら俺は大概の奴を子供扱いしてるってことになるぜ? ……てか前にも言った様な?」
多分、この言葉は前にも言った気がする。
俺自身がなでなでするのが好きな為、よく美冬や未来の頭を撫でるのだがここの学園に来てからというもの、頭を撫でる子が増えた。
セシリア、シャル、ラウラ、鈴音、のほほんさんが主だが――実は、鷹月さんの頭も撫でた事があったりする、
しっかり者の彼女が、山田先生に頼まれていた資料を運んでいた時に途中で俺がそれを見つけ、替わるついでに頭を撫でてみるとボシュッという音と共に真っ赤になっていたのが可愛かった。
……個人的に、もう少し彼女と話がしたいものの、ルームメイトが篠ノ之という罠が立ち塞がっている為になかなか……。
……って、今は鷹月さんの事じゃないな。
「何にしてもラウラ? 俺の夫というなら嫁である俺の言うことを聞いて黙って受け取る。 そして明日の朝10時にゲート前に集合、いいな?」
「う……わかった。 ……ヒルト、その……だな?」
「ん? どうした、ラウラ?」
目線が合うと、ラウラは真っ赤になりながらも視線を軽く逸らすと共に――。
「ぁ、ぁり……がとぅ……」
「ふふっ、どういたしまして。 ……シャル、ラウラの事、頼んだぞ? 前の臨海学校の時みたいに髪をアップテールにしてやってくれ」
「ふぇっ? ……うん、わかったよ。 ……ヒルト、今回は僕、選んでくれた水着を着るからね?」
「あぁ、期待してるぞ? ……カメラ用意するのも悪くないかもな、記録に残す――と思ったが、女尊男卑な昨今、盗撮だーって、他の客に言われても敵わんから諦めるか」
「「……ぁぅ……」」
カメラで撮るという言葉に反応した二人は、まるでリンクした様に同じく声をあげた。
……個人的に撮影会を頼めば、二人とも撮らせてくれそうな気もするが……逆にドン引きって言われそうな気もしないわけでもない。
「……さて、明日は始発で早めに並ばないと遊ぶ時間が短くなるからな。 鈴音の部屋に行ったらすぐに寝ないと」
「む? もう帰るのか、ヒルト? 良かったら泊まっていくといい。 私のベッドで寝れば何の問題もないからな」
「ちょっ、ラウラ!?」
ラウラの言葉に真っ先に反応したのはシャルだ。
当のラウラは、何故お前が反応するといった表情だが――。
「おいおい、流石に泊まる訳にはいかないって」
「……何故だ? 夫婦なんだ、たまには夜の営みというものを――」
「わああっ!? ら、ラウラは何を言い出すの!? ぼ、僕が隣で寝てるのに二人でそんなことしちゃダメだからねッ!?」
顔を真っ赤にし、抗議をするシャルに対してラウラが言った言葉が――。
「む? ……ならシャルロットも交ざればいいだろ」
「ふぇっ!?」
「……おいおい、流石にそんな事出来ないし、てか俺が泊まる前提で会話が進むのはダメだぞ? ……3Pとか、AVやエロ本の世界じゃねぇか……」
若干その行為を妄想しかけるが、頭をブンブン横に振ると共に払拭した。
「……とにかく、ラウラもバカな事を言うなよ?」
「む? 割と本気だったのだが……まぁ、私も出来るなら嫁と二人の方がいいしな」
「はいはい。 ……あまり、俺の性欲に訴える様な事を言うなよな……。 じゃあ二人とも、明日の朝10時にゲート前に集合、わからなかったら美冬に連れてきてもらえばいいからな?」
「了解した。 何か用意した方が良いものとかあるか、ヒルト?」
「ん? ……浮き輪ぐらいかな? シャルも、いつまでも惚けるなよ?」
「ふぇっ!? べ、別に惚けてなんか……」
そうは言いつつも、スカートの裾をきゅっと握りながらもじもじするシャル。
可愛いと思いつつも、口に出せばいつもと同じように顔を赤くするだろう。
「じゃあ俺は行くからな? 二人とも、また明日。 おやすみ」
「う、うん。 ヒルト、おやすみなさい」
「うむ、嫁よ。 また明日な」
その声を背中に受けると、俺はひらひらと手を振って二人の部屋を後にした。
……部屋に行くだけであれだけドキドキさせられるとは……。
ゆっくりとした足取りで、俺は鈴音のいる部屋へと向かった――。
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