IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
【第177話】
――IS学園駅校内――
モノレールに乗り、学園へと帰宅。
まだ夕方前なので、車内には学園へ帰る生徒が数名居ただけだった。
友達同士なのだろう、数名纏まって話をしながら駅から寮への道を歩いていった。
俺も寮に戻ろうと、駅校内から出ると不意に声をかけられた。
「あれ? ヒルトじゃん。 き、奇遇ね」
「ん? ……何だ、鈴音か」
俺の言葉に、ムッとした表情になる鈴音。
仁王立ちになり、何故か俺を指差しながら――。
「むっ。 何だとはご挨拶じゃない。 こんな可愛い子があんたに声をかけてあげたんだから、有り難く思いなさいよッ!」
「……おいおい、自分で自分の事を可愛いって言うなよ。 どっちかと言えばじゃじゃ馬娘だろ、鈴音は」
「な、何ですって!? ムキーッ!」
拳を振り上げて、肩にパンチしようとする鈴音の手首を掴むと何故か驚いた表情と共に顔がかぁーっと赤くなった。
「ほら? やっぱりじゃじゃ馬娘じゃねぇか」
「う、煩いわよ! 早く離しなさいよ、バカッ!」
「わかったわかった」
二つ返事で手首を離すと、パッと慌てて離れ、鈴音は自分の手首を触り始めた。
そんなに強く握って無いのだが、痛かったのだろうか……?
「鈴音? ……どうした? 痛かったか?」
「……!? な、何でもないわよッ!!」
言ってから俺は鈴音の顔を覗き込むと、ハッとした表情になった。
そこから目まぐるしく表情が変化する鈴音。
心なしか少し頬が朱色になってる気がした。
……まあ、確かに鈴音は可愛いなとは思う。
絶対に本人の前で言わないが――言えばどうせ「アンタバカじゃないの? あたしに言うぐらいなら他の子に言いなさいよッ!」って感じで。
まあ何にしても、痛くないなら良かった。
「そういや鈴音、何で駅の近くに居たんだ?」
「へ? ……んとさっきまで灯台にいて海を眺めてたの。 ……あたし、夏は帰省しないでここに居ようって思ってね。 帰省しても、軍の施設で訓練漬けになるしね。 それで、さっきまで何となく海を眺めてたらちょっとだけ感傷的になっちゃって……。 ……つまんない話でごめんね、ヒルト?」
「……何処がつまんない話だよ。 俺で良かったらいつでも話聞くぞ?」
ニッと笑顔で応えると、ふぃっと顔事背け、後ろに手を組んで落ち着かなさそうに片足を前後に揺らす鈴音。
「……そうだ。 鈴音、良かったらこれやるよ」
「……へ?」
きょとんとした表情の鈴音を他所に、ジーンズのポケットから財布を取り出し、中からウォーターワールドのチケット二枚を出すと、鈴音に見せた。
「これって……確か、今月出来たばかりのウォーターワールドの前売り券じゃない」
「あぁ、今日友達に会ったときに貰ったんだよ。 でもよくよく考えると五枚も貰っても余るからな。 セシリアは帰国……てか帰省してるし、美冬も今家に戻って大掃除中だしな」
終業式が終わった次の日に、セシリアが帰省したのだが……セシリア的には帰省せず、日本に滞在したままでいようと思っていたらしい。
でも流石にそこは説得し、向こうの友達やら墓参りやらしてこいと俺が言うと、名残惜しそうに返事をしたのが印象に残っていた。
……何だかんだでほぼ毎日セシリアと居たから、寂しくないと言えば嘘になるが……直に会えると思えば。
そんな風にセシリアの事を思い出してると、渡されたチケットを見ながら鈴音がもじもじとしつつ――。
「だ、だからって、何であたしにくれるの……? そ、それも二枚も……。 ……も、もしかしてさ、アンタ……あ、あたしをデートに……誘ってる……の?」
「へ?」
鈴音の突拍子の無い言葉に、俺は気の抜けた声で返事が出た。
……何処をどう勘違いしたらデートに誘ってる様に見えたのだろうか?
……しかし、今の鈴音は普段のギャップ差で可愛く見えるのは何故だろうか?
「い、いや……俺が鈴音をデートに誘っても、お前断るだろ? 一夏の事、好きなの知ってるし」
「……そ、そうね。 も、勿論アンタが誘ったとしても……こ、断る……わよ……」
「……?」
最後の方は歯切れが悪く、言い終わるや前の未来よろしく、頭をわしゃわしゃとかきむしっていた。
「……何にしても、そのチケット使ってさ。 一夏を誘えよ? ……たまには鈴音からアプローチしないとな? あいつ、お前の事も幼なじみって言ってる割には全然構わないし」
「……わかった。 ヒルト、ありがとね? ……ね、ねぇ?」
「ん?」
「と、当日さ。 ……もし、もしだけど……アイツが来ない時はアンタに合流しても……いぃ……?」
遠慮がちにそう告げる鈴音は、まるで弱々しい小動物の様な印象を受けた。
「……あぁ、勿論構わないぞ? 遠慮なく合流しな」
「そ、そうね。 ……じゃあ、明日一夏を誘ってみる。 ヒルト、ありがとね? いつも気を使ってくれてさ。 ……でも、あんまりアタシに優しくしてるとさ……か、勘違いしちゃうからねッ!!」
最後の言葉が大声で駅周辺に響き渡り、ハッとした表情になるや一気に顔が真っ赤に染まり、脱兎の如く寮への道を走って鈴音が去っていった。
「……勘違いって、何を勘違いするんだ?」
鈴音が言っていた勘違いの意味がわからず、首を捻る。
しばらく考えたがやはりわからず、このままこの場に居ても熱中症になるだけなので俺は大人しく寮の自室に帰ることにした。
ページ上へ戻る