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IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》

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【第176話】

 
前書き
ここから第四巻っす 

 
 終業式も終わり、夏真っ盛りの八月初頭。

 蝉の鳴き声の煩さに、耳がどうにかなりそうな気もしたが、慣れるとやはり軽いBGM感覚で聴き流せる様になる。

 そんな蝉の鳴き声を聴きつつ、俺は冷房の入った喫茶店で淹れてもらった紅茶を飲んでいると――。


「なあヒルト、今日はシャルロットさんと一緒じゃないのか?」

「そうだそうだ! 俺も信二もシャルロットさんともっと仲良くなりたいぞ!」

「……うるさいな、シャルは今学園に居るが今日は整備で忙しいんだよ」


 いつまでもシャル、シャルという二人に萎えつつ、答える。

 隣にいるのは成河拓斗事たっくん。

 そしてその隣には佐々木信二が……。

 夏らしく、カジュアルな格好をした二人だが、頭にはバンダナを巻いているので暑くないのかとも思ってしまう。


「あー、せっかくシャルロットさんと話が出来ると思ったのにさぁ……」

「彼女、可愛かったよな? ヒルトが彼女を狙わないなら、俺が猛アタックかけちゃおうかな!」

「……安心しろ、シャルは二人の事を【いい人】ぐらいにしか思ってないからさ」



 女の子が言ういい人=どうでもいい人。

 つまり、幾ら頑張っても友達以上にはなれないという残酷な言葉なのだが二人は――。


「おぉっ!? それって脈ありなんじゃね!?」

「や、やべぇ……あんな子が彼女だと毎日あんな事やこんな事出来るじゃん」


 出来ねぇよ、と心の中でツッコミを入れつつ、また一口紅茶を飲むと。


「ふふっ。 二人とも相変わらずだね?」


 そう言ったのは食器を洗っていた笹川成樹だった。

 相変わらず様になる姿で、今は女性客が少ないがその姿を恍惚とした表情で眺める女性も居たりする。


「……だな、お前ら見てると平和だと思えるぐらいだ」


「おぅ! 女尊男卑何か気にしないぜ!」

「だからヒルト! 学園の子、紹介しろ! シャルロットさんを呼べーっ!」

「だから、合コンも開かないしシャルも呼ばねぇよ。 ……てかさ、二人ともそんなことで俺を呼び出したのか? まあ成樹の紅茶飲めるのは有り難いが」

「ふふっ、ヒルトがそう言ってくれるのは嬉しいよ。 ……まだまだ勉強中だけどね」


 そう笑顔で答える成樹は、食器洗いを終えると奥に消えていった。

 ……と、たっくんが口を開く。


「あぁ、そうだったそうだった。 なあヒルト、ヒルトは【ウォーターワールド】に興味あるか?」

「ん? ウォーターワールドって確か今月出来たばかりのやつか? まあ興味がない訳じゃないが、あれってたしか前売り券は今月分完売の当日券は最低でも開場二時間前に並ばないといけないっていう――」


 言ってる途中だったが、それを遮るようにたっくんが勢いよく口を開く。


「そう、そのウォーターワールド! 実はさ、当日俺と信二、二人ともバイト入ってさ……行けなくなったんだよ」

「んで、ヒルトなら大丈夫かなーって話してて呼んだわけ。 チケット五枚で二万五千でどうだ?」

 言って、チケット五枚を取り出すと日付が今週の土曜日の日付だった。

 つまり、明後日……。


「明後日のを五人分で二万五千か……高いな」

「バカ! 友達価格じゃねぇかよ! 前売り券って高いんだぞ!」

「本当なら俺達が女の子と一緒に夏をエンジョイしようと思ってたのに……。 店長の馬鹿ーっ!!」


 そんなどうでもいい叫びを聞きつつ、値段の高さにどうしたものかと思っていると、そういえば九月に文化祭があったなと思い出し――。


「……なあ、お前ら知ってるか? IS学園は九月に文化祭があるって。 お前らの分の券、用意してやるからそれと等価交換でどうだ?」


 俺がそういうと、二人は互いに顔を見合わせて、溜め息をつく。


「……IS学園の文化祭って、一般人入れないじゃん」

「入れない券だと価値なし、尻拭く紙にもなりゃしねぇ」


 等と言ってる二人……と、奥から成樹が戻ってきて。


「ふふっ、二人とも知らないのかい? 学園生徒がもらう券は、その人の関係者って事で見せれば一般の方でも入れるんだよ。 もちろん、IS関連施設には入れないんだけど。 ヒルト、僕が聞いた話だとそうだと聞いたけど……あってるかい?」

「おぅ、あまりに詳しすぎて若干びっくりしたが成樹の言う通りだな」



 何で成樹がここまで詳しいのか気になりつつも、二人の反応を眺めて――。


「そ、それマジな話か!?」

「嘘じゃねぇだろうなっ!?」

「嘘なんかつかないさ。 まあ券一枚で一人しか入れないのがネックだが、そこはもう美冬と未来に話をつけてるからな。 だから成樹の分も含めてちゃんと人数分用意できるさ、これがな」


 そう言うと、成樹は柔らかな笑みを浮かべ――。


「ふふっ、僕もいいのかい? ヒルト?」

「当たり前だろ? 文化祭一週間前には送るから、たっくんも信二もそれで良いだろ?」

「「…………」」


 声をかけるが、二人からは返事がなく、ただパチパチと瞬きするだけだった。



「……まあ何にしても、等価交換としてはそっちのが利があるだろ? ウォーターワールドは並べば入れるが、此方のは並んでも意味ないから。 ……成樹、紅茶美味しかったよ。 幾らだ?」

「ふふっ、今日は僕の奢りだよ。 こうしてヒルトが僕の紅茶を飲みに来てくれる。 それが僕にとっては嬉しいからね」

「ははっ、そう言ってくれるのは有り難いな。 また時間がある時に飲みにくるさ。 ……じゃあそろそろ帰るかな。 ……チケット、貰っていくからな二人とも」


 言って、たっくんの手に握られていたチケット五枚を受け取り、財布の中へと入れると喫茶店の出入口へと向かう。


「じゃあ成樹、ごちそうさま。 二人も、いつまでもボーッとしてるなよ?」

「ふふっ、今度は母さんのケーキも――」

「勿論だ。 じゃあな」


 カランカランと、ドアを開くとベルが鳴り、そのまま喫茶店を後にする。

 少し歩いた先で喫茶店から二人の歓喜の声が聞こえてきたのは気のせいではないだろう……。

 夏の容赦ない日差しの中、可能な限り日陰に入りながら俺は駅へと移動していった……。 
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