IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
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【第179話】
――IS学園正門付近――
相も変わらず夏真っ盛りの容赦無い日差しを浴び、額に汗が吹き出し、俺は持っていたハンカチで拭う。
「暑いなぁ……。 早く秋にならないかな……」
そんな呟きも、蝉の鳴き声に書き消された。
「……?」
正面を見ると、何やらぞろぞろと学園の寮へと何らかの荷物を持っていく一団(メイド服を着てるので、何かしらのお金持ちの子の荷物持ちだろう)。
……しかし、このメイドや飯使い?の人々の大名行列――は言い過ぎかもしれないが、何事だろうと思ってしまう。
……まあ、原因はこのカフェへと続く道の途中にあるだろうからと思い、俺はそのまま道なりに進んでいく――と。
「あれ? ……あれってもしかして……」
見覚えのある流れる様な長い金髪の学生が学園の正面ゲート付近に居た。
しかも白のロールスロイスが側に……。
一応人違いを危惧し、俺はその佇んでいる女子生徒へとゆっくりと近付いていく。
近付くにつれ、やはり見覚えのある金髪――背丈も制服もやはりセシリアだった。
「セシ――」
セシリアの名前を呼ぼうとするが、途中で止め、何故か俺の中の悪戯心が目覚めた。
なるべく足音をたてずに、セシリアの背後から近付き――そして。
「ひゃっ!?」
「…………」
後ろから両手で視界を覆うと、可愛らしい声をあげるセシリア。
「ちぇ、チェルシー……? わ、悪ふざけはやめてくださいなっ!!」
「ははっ、残念だがチェルシーではないな」
そう言った俺の声に反応し、一瞬身を強張らせるセシリアだったが――。
「あ……も、もしかして……ヒルトさん……ですか……?」
「さあ? もしかすると一夏かもしれないぞ?」
明らかに俺と一夏の声質は違うものなのだが、こう言うとセシリアがどんな反応するかが気になり、あえて言ってみたのだが――。
「……いいえ、わたくしが間違えるわけありません。 ……いくらなんでも、好きな殿方の声を聞き間違えていましたら……わたくしは貴方を好きになる資格はありませんもの……」
その言葉と共に、セシリアは自分の手で目を覆っている俺の手をそっと触れる。
その行為に、一気に瞬時加速したかのように心臓の鼓動が速くなる。
「……そ、そっか。 流石だな、セシリア?」
セシリアの目を隠していた両手を外すと、その瞳を閉じたままセシリアはくるりと振り返る。
その拍子に、セシリアの制服のスカートがふわりと舞い、それを見た俺自身更にドキドキする羽目になった。
「うふふ、やはりヒルトさんでしたわね」
閉じていた瞳を開き、俺を見ると柔らかな笑みを浮かべ、此方に近づいてきて――。
「一週間ぶりですわねヒルトさん? ごきげんよう」
言ってスカートの裾を摘まみ、まさに優雅な貴族的挨拶をするセシリア――そして。
「うふふ、堅苦しい挨拶はここまでにして……。 ヒルトさん、ただいま帰りましたわ♪」
そう言ってそっと寄り添う様にセシリアは近付き、少し背伸びをして軽く触れる様に頬に口付けを落とした――。
突然の行為に、目をぱちくりさせつつセシリアが行った行為を理解すると、俺の顔が一気に赤く染まる。
「へ? ……え、えと?」
「うふふ、外国風の挨拶ですわよ? ……照れないでくださいな。 わたくしも、恥ずかしいのですから……」
言って見上げるように見詰めてくるセシリアの頬は桜色に染まっていた。
「う、さ、流石に照れるって! そ、外なんだぞ? 誰かに見られたら――」
「うふふ、噂……されますわね?」
そんな風に言いながら悪戯っぽく笑うセシリア――と、突如背後から声をかけられる。
「お嬢様、そろそろよろしいでしょうか?」
「どわあっ!?」
「ちぇ、チェルシー!?」
いきなりの事に、思わず心臓が口から飛び出そうなぐらい驚き、俺とセシリアは飛び退く様に離れた。
「御二人とも、そんなに驚かなくてもよろしいかと……」
「ちぇ、チェルシー……? ……その、何時から見ていましたの……?」
おずおずと、セシリアは目の前のメイドさんに尋ねる。
……そういや、セシリアから何度か訊かされてたな……幼なじみのメイドがいるって。
二人の様子を見ていると、チェルシーさんは閉じた瞳をゆっくりと開き――。
「そうですね……。 有坂様がお嬢様に目隠しをなされた所から――」
「おぉぅ……最初から見られてるじゃねぇか……」
そんな俺の言葉に反応し、チェルシーさんは顔を此方に向けるとくすっと口元に手を当て、セシリアとはまた違った柔らかな笑みを浮かべて口を開く。
「ふふっ。 ……有坂様、お初にお目にかかります。 私はセシリア様にお仕えするメイドの一人で、名前はチェルシー・ブランケットと申します。 以後、お見知りおきを」
言ってから丁寧な御辞儀をする彼女を見て、俺も――。
「あっ、自分は有坂緋琉人と申します。 セシリアにはいつも色々と教えてもらって――」
「ふふっ。 お嬢様はイギリスにお戻りになられてからもこの一週間、毎日私共に貴方様のお話を訊かされていましたのでお会い出来て光栄です」
「ちょ、ちょっとチェルシー!?」
チェルシーさんが言った言葉に、いち早く反応したのはセシリアだった。
……てか一週間俺の事ばかり言ってたのか……通りでくしゃみがよく出ると思った。
「ふふっ、お嬢様。 何もそんなに恥ずかしがらなくても――」
「ちぇ、チェルシーが妙な事を言うから……!」
「へぇ……。 セシリアが砕けた物言いしたところ見るの、初めてだな」
そう俺が言うと、ハッとした表情になり、直ぐ様咳払いすると照れ隠しの為かくるりと後ろへ向いた。
「ふふっ、お嬢様ったら。 ――有坂様、一つお尋ねしてもよろしいでしょうか?」
「……? 内容によりますけど、良いですよ?」
「ありがとうございます。 お嬢様は、私の事を有坂様になんと?」
そう告げるチェルシーさんは、少し不安だったのか微妙に眉が下がっていた。
「へ? ……何度か聞きましたが。 ……とても良く気が利く方でメイドとしても優秀、時に自分の姉の様に優しくもあり、厳しくもあったって聞いてますね。 ――後、美人でしぐさが可愛い」
「まあ。 うふふ、お嬢様が……」
その俺の言葉に、さっきまでの不安が吹き飛ばされたのか異性同性問わずに魅力的な笑みを浮かべた。
ふと視線を感じたのでセシリアを見るとぶすっと頬を膨らまし、此方を見ていた。
チェルシーさんもそのセシリアの態度に気づいたのか――。
「この一週間、毎日有坂様のお話をお嬢様から訊かされていましたが……。 うふふ、有坂様、気になりますか?」
少し悪戯っぽく笑うと、軽くウインクするチェルシーさんに図らずもドキッとしてしまった。
「ま、まあ気にならないと言えば嘘になりますからね」
そんな俺の言葉に、セシリアはあわわっと徐々に慌ただしく表情が変化し、動揺が隠せないでいた。
「くすっ。 お嬢様から訊かされた有坂様は……」
「ちぇ、チェルシー!?――きゃあっ!?」
慌ててチェルシーさんの口を塞ごうとするも、思わず足をとられて転けそうになるセシリアを抱き止めた。
「おいおい、慌てすぎだろセシリア?」
「あ、慌てますわよっ!? ……あぁっ、チェルシー……内緒にしてくださいな……」
「うふふ。 ……もちろん、私とお嬢様の――女同士の秘密、です」
言って、人差し指を唇の前に持っていき再度ウインクした。
そんなチェルシーさんのしぐさにドキッとさせられ、俺自身も彼女が魅力的な女性に見えた――。
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