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『外伝:赤』崩壊した世界で大剣豪とイチャコラしながら旅をする

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槌矛-ふたつめ-

道のり、というのは実に遠い。
北から10キロ。
実際に歩いてみるとこれが中々かかる。
途中途中諦めそうにはなるが、彼の無念を思うと歩みを止める訳にはいかないと己を奮い立たせて踏ん張る。

と、それを何度か続け

「あれって…。」

歩き続けているとやがて建物のようなものが見えた。
掘っ建て小屋のような、とりあえず住めるように作りましたという感じの建物がいくつかある。
おそらくここが

「場所的にそうかな…。」

地図を見る。
これが正しければ、こここそが赤く囲っていた場所。
すなわち目的地だ。

「どうするの大和くん。」
「とりあえず入ってみよう。」

低めの柵で囲まれた村のような場所。
そこに足を踏み入れると、ちょうど小屋から女の子が出てきた。

「…!」

1度建物の影に隠れようとするが、俺達が人だとわかると小走りでよってきた。
まだ中学生くらいの女の子だった。

「あの…あなた方は?」
「頼み事をされてね。ここにこの荷物を持ってくるよう言われたんだ。」

そういい、重かった積荷をその場にドスンと降ろす。

「頼み事…それって?」
「ああ、多分ここに向かうはずだったんだろう人を見つけて…その人はもう助からなくて…それで託されたんだ。」

女の子が恐る恐る荷物のダンボール箱をあける。
そこには野菜や果物、保存食。
何かの薬や包帯。
こうなってしまった世界には欠かせない必需品ばかり。

「渚に頼んだ…最後に、男はそう言ったんだけど…。」
「…!!」

俺がそう言った瞬間、女の子は何かに気付く。

「もしかして…お兄ちゃん…?」

するとどうだろうか、
女の子の目は涙ぐみ、それはついに抑えきれなくなって大粒の涙をぼろぼろと流し始めた。

「え、えーあの!?どうしたの!?」
「お兄ちゃんだ…!お兄ちゃんが…届けてくれたんだ…!!」

泣きながら礼をされる。
一体どういうことなのだろうか。

「どうした!?何があった!?」

そして家から見ていたのだろうか、
女の子が泣くのと同時にここの住人であろう人々がゾロゾロと出てきたのだ。

「お前!渚に何か用か!!」
「あ、あーいえ違うんです!僕ら怪しい者ではなく…!」
「ならなぜ泣いている!」
「いえ…た、ただ!」

俺達がこの女の子を泣かせるような事をした。
第三者から見ればそう見えるらしく、住人の男達に怖い顔をされながら詰め寄られる。

「お願いします!誤解なんです!!理由を聞いて!!」
「そうよ!大和くんはこの荷物を届けてきてくれただけなんだから!!」
「…荷物?」

男の一人が、持ってきた荷物を覗き込む。

「これを…?」
「そうです…彼らは悪い人なんかじゃないです。お兄ちゃんの頼みを受けてここまで持ってきてくれた…優しい人なんです。」

泣いていた女の子が涙を拭いながら、男にそう説得する。

「お兄ちゃん…まさか湊か?」
「はい…きっと。」

女の子から話を聞き、男達はようやく俺達のことを怪しいものでは無いと理解をしてくれた。

「そうか…わざわざありがとう。ついてきてくれ。」

じきに日も暮れる。
男達はそう言うと一際大きな家の中へと入っていった。



それから、

「そうか…湊が…。」

教えてもらったことだがあの荷物を届けようとした男の名前は花江 湊。
そして最初に出会った女の子の名前は花江 渚。湊の兄だという。
俺なら話を聞き、湊が死んだことを悟り渚という子は思わず泣き出してしまったんだ。

「疑って申し訳ない…何せここ最近は追い剥ぎや強盗まがいの人間も多くてな。」
「いえ、なんてことないですよ。」

詰め寄ってきた男達が頭を下げる。
しかし…

「あの…あの子は?」
「渚のことですか?」
「はい。やっぱりお兄さんを失ったので…精神的に不安定なんじゃないかと…。」

あの子のことが心配だ。
物資が来てくれてここのみんなは大喜びだが大きすぎる代償と言うべきか、彼女の兄は死んだのだ。

「いえ、大丈夫です。」

そんなことを心配していたら、本人がやってきた。

「皆を楽させてやるって突然出ていって…それからもしかしたらと前々から覚悟はしてましたから…。」

とはいっても赤くなった目、いかにもついさっきまで泣いてましたと言う感じだ。
心の整理がつかないのも無理はないだろう。

「それに…こうして荷物が届いたんですからお兄ちゃんも天国で喜んでますよ、きっと!」
「…。」

無理をして作ったかのような笑顔。
妙にそれは心に突き刺さる。
でも…

「本当に…ありがとうございます。」

荷物を届けた。
お礼を言われると、やはりやり甲斐というか達成感みたいなものはひしひしと感じる。

「大和くん。」
「?」
「ニヤけてるけど。」
「え、うそ!?」

どうやら顔に出てたらしい。

「こちらからもお礼を言わせて頂きます。この御恩…どう返したらいいか…。」

おそらくリーダーであろう男が深々と頭を下げお礼を言う。
俺は別にこれくらいいいですよと彼らの恩返しをやんわり断ろうとしたが

「そうね…実は寝るところに困ってまして!!」
「武蔵ちゃん!?」

彼女が割って入った。

「ご飯も満足に食べれてなくて明日をも知れぬ身!ここはどうか一つ、一晩だけでも泊めて貰えないでしょうか!あと出来ればごはんも!」

あ、厚かまし過ぎる…!

「いや、武蔵ちゃん。ご飯は今朝食べ」
「何言ってるのかしら大和くんきっと空腹のあまり夢と現実の区別がついていないのね…。」

やめてくれ。
やめてくれよ。

「そこまで空腹の身とは…そうまでして湊の荷物を届けてくれたなんて…!よし、渚!」

リーダーの男が女の子の名前を呼ぶ。

「はい!」
「この方達は大層お腹を空かせているそうだ。兄からの贈り物もあるし今晩は少し豪勢にいくぞ!」

とまぁそんなことを言っちゃう始末。
ああ申し訳ない。
隣の武蔵ちゃんはニッコニコだが俺はもう罪悪感が込み上げている。

「それと空き家があります。粗末なものですがお使いください。」
「ありがと!それじゃ大和くん、行きましょうか!」
「…うん。」

リーダーも立ち上がり、こちらですと空き家へ案内してくれる。
そうして外に出て、周りを見渡す。
ここは"村"と言うべきだろうか。
簡素な掘っ建て小屋が並び、周囲は背の低い柵で囲まれた村。
話は聞いたが彼らはついこの前まで普通に暮らしていた。
だが世界は崩壊し、モンスターが住宅街だった場所を闊歩するようになり、彼らは逃げるようにしてかつての故郷を去った。
最初は100人ほどいたらしいが、ここにたどり着いた頃には生き残りは30人を切っていたという。
そして最初に俺達が会った女の子、渚ちゃん。
最初は祖父母、両親と共に逃げていたがやがて全員途中で息絶え、または自分達を庇って死んでいった。
兄は、唯一生き残った肉親だったのだ。

「…強いんだな。」
「…そうね。」

空き家に案内される途中、外で食材を切る渚ちゃんを見つける。
悲しむ表情はもう見せず、手伝うよという子供に笑顔を見せ、共に料理をするおばさん達とも楽しく会話しながら作業している。
兄を失って、悲しいはずなのに。

「何か…してやれないかな…。」
「充分したじゃない。こうして困ってる村の皆に色々な物を届けられたのよ?私だったらその場で食べちゃうかも?」

と、武蔵ちゃんからフォローされるがまだ何か足りない気がする。
果たしてそれでいいのだろうか?
そういった疑問符が俺の頭の中を埋めていくのだ。

「…でも、ちょっとびっくりしたかな。」
「え、何が?」
「大和くんの行動。余裕なんてないのに、見返りなんてあるかも分からないのに誰かを助けるんだもの。だから師匠としてそこには驚きました。」

褒められて…少しだけ嬉しく感じた。
そんな時だ。

「みんなー!!隠れろー!!」
「…?」

一人の男がそう言いながら走って行く。
何があったのだろうか…?

「何があったんですか?」
「モンスターの襲撃だ!くそっ!ここは安全だと思ってたのに…!」

そういって男は駆けていく。
皆に危険を知らせる為だろう。
けど

「…。」
「大和くん…まだ何かやり足りないって言ってたわよね?」
「…村人達には悪いけど…俺達からしたらベストタイミングだ…!」

モンスターの襲来。
力無き彼らが隠れて怯え、逃げることしかできないのなら…

「俺達が倒せばいい…!」

竹刀袋から刀を取り出し、武蔵ちゃんと目を合わせると互いに無言で頷き、走り出した。




「あれは…!」

男達が集まっている所まで行くとそれは見えた。
遠くの方、岩の塊が蠢いているかと思えばそれはまさかのゴーレム。
さらに彼らの後ろにはまるでリーダー格とでもいいたげなスプリガン。
ゴーレムは少なく見積っても20はいる。

「あなた達は…!」
「助太刀しに…いいえ!俺達に任せてください!!」

不安な表情を浮かべながら武器代わりの工具を構える男達。
戦闘経験は恐らく皆無。
だから…ここは俺達がやるしかない。

「何から何まで…本当にすまない…!」
「いいのいいの!但し見返りは求めるけどね!」

…がめつい人だなぁ…。

「と、いうわけで!あなた達はそこで私と大和くんの活躍を目に焼き付けておくこと!安心なさい!すぐに終わらせますから!」

そういい、武蔵ちゃんは1番に駆けていく。
俺も負ける訳にはいかない。
いや、役に立たなきゃいけない。
修行の成果とかを見せる時だし、彼らのためにやらねば。

「…っ!」

脚に力を込めると、バチッと赤い電気が迸る。
それから一気に踏み込み、ゴーレム達との距離を一瞬で詰めてみせた。

(この力…コツは大体分かってきたぞ…!)

最初は振り回されっぱなしだったけど、この謎の赤い雷の力についてだが少しづつ分かってきた。
力を込めればそれは何倍にもなって発揮されること、刀はその雷に呼応し、切れ味が増したりすること。
全部わかった訳では無いが…少しづつ、少しづつだ。

「とったッ!」

まずは1番前のゴーレムを袈裟斬りにする。
だが、

「…?」
「なっ…!?」

何故いける思ったのだろう。
冷静に考えれば分かったはずなのに。
相手はゴーレム。鉱物の塊。
そんな硬いものに、刃物は通りはしない。
ガチンと音を立てて火花が散る。
首に当たった刃は痛くも痒くもないのだろう。ゴーレムは首を傾げた。
そして次の瞬間

「ぐっ…あぁっ!!」

ゴーレムの文字通りの鉄拳。
ギリギリで刀で防いだが、衝撃は殺しきれず俺は後ろに大きく吹き飛んだ。

「大和くん!!」

着地の姿勢を整えられず、背中から地面に叩きつけられ転がっていく。

あちこち身体が痛むが、動けないほどじゃない。
なんとか立ち上がり、刀を構え直した。

「大丈夫…ちょっと、油断しただけだから…!」

油断も何も無い。
あの時割と本気で斬ろうとした。
武蔵ちゃんがあんまりにも心配そうな目で見てくるから余計な心配はかけさせまいと虚勢を張っただけ。

「何か…こいつを倒せる方法は…!」

武蔵ちゃんはじゃあどうしているんだと思いちらりと目をやれば、彼女はなんの問題もなくゴーレムを叩き切っていた。
岩だろうが鉄だろうが鉱物だろうが、どの種類のゴーレム達も武蔵ちゃんの刀によってまるでバターのように切り裂かれていく。
あれは…彼女だからこそできる芸当なんだろう。
つまりはこの前刀を握ったばかりの俺には全く参考にならないってことだ。
達人でもなければ"空"に至ってもいない。
そんな俺に何が出来るんだと言えば

「倒れるまでやるしかないだろう…!!」

敵が倒れるまで我武者羅に刀を振り続けるだけだ。

「うあああああぁーっ!!!」

振りかぶり、ゴーレムの脳天に思い切り刀を振り下ろす。
しかし手応えは同じ、硬いものに当たった振動が刀を伝って腕に伝わり、じんわりと痺れる。

「まだまだァ!!!」

そこがダメなら首、肩。
まずは足元から崩してみるかと打ち付けまくるがまるで意味は無い。
ゴーレムに対し、この刀は分が悪過ぎるのだ。

「…!!」
「ぐぅ…っ!!」

俺の攻撃をうざったく感じたのだろう。
ゴーレムは腕を振り払って俺を吹き飛ばす。
このままでは拉致があかない。
我武者羅にやったとしても自分の体力を無駄に削るだけなのは理解出来た。
俺はこいつらを…どう"斬ればいい"…?

「きゃあっ!!」
「!?」

悲鳴が聞こえ、振り向くとそこには渚ちゃんが腰を抜かして倒れていた。
後ろには怯える子供達。
さらに彼女に襲いかからんとする一体のゴーレム。
おそらく子供達を連れて避難しようとしたところを、別方向からやってきたゴーレムに襲われたところだろう。
武蔵ちゃんはあっちの相手…なら

「やめろおおぉぉッ!!」

俺がやるしかない。

「ぐっ…うぅ…!!」

ゴーレムの拳をすんでのところで受け止める。
重い一撃だが

「どけぇッ!!」

返せない攻撃じゃない。

「あ…ありがとうございます。」
「お礼はいいよ。とにかく早く避難して!」

ゴーレムは倒せたわけじゃない。
押し返しただけだ。
横入りした俺を睨みながらゴーレムはゆっくりと迫る。

「…ッ!」

刀を握り直す。
奴らは鉱物。俺のようなド素人に斬れるわけがない。
ならばどうするか…。

「…。」

なら…
そうだ…斬れないのなら…わざわざ斬る必要なんてないんだ。
自分の紅い刀を見て思った。
そうだな、そうだよな。

「だったら…!」

バチバチと迸る電撃。
右足に集中させ、ゴーレムを渾身の力で蹴飛ばした。
倒すわけじゃない。
これは時間稼ぎ。

そして俺は駆ける。
あるものを取りに。

「この紅い刀は俺が竹刀から無意識に生み出したもの…だとすれば…!」

この力の事は分からないが、ある推測を立ててみる。
走って取りに行くのは、武蔵ちゃんが斬り飛ばしたゴーレムの腕。
落ちているそれを素早く掴み取り。力を込めてその電撃を流し込む。

「当たってくれよ…俺の推測!!」

バチバチと迸る赤い電撃はゴーレムの腕を覆い尽くす。
やがてそれは変異し、姿を変え。

「…当たった!」

鉄の塊へと姿を変えた。

「あれは…!」

ゴーレムを斬り捨てながら、武蔵ちゃんは俺の方を向く。

「抜き身なのもそろそろどうかと思っててな。ちょうどいい"鞘"が欲しかったのさ!」

そう、その生み出された鋼鉄の塊、長方形のゴツゴツした鈍器は"鞘"。そして

「あれが鞘!?あれじゃ鈍器…それこそ鎚矛(メイス)じゃない!?」

第二の武器になりえた。

「お手並み拝見、といこうか!」

鋼鉄の鞘に紅い刀を納める。
ガチリとハマり、そう簡単には抜けなくなったそれは斬るものから叩き潰すものへと用途を変えさせた。

「叩き…潰すッ!!」

踏み込み、ゴーレムへ接近してメイスを振りかぶると、
脳天めがけその鉄の塊を振り下ろした。

「…ッ!!」

ゴーレムの頭が、身体が、砕かれ弾ける。
これまで苦戦していたのが嘘のように、あっけなくゴーレムは砕け散ったのだ。

「やれる…!これなら!」

肩に担ぎ、次なるゴーレムめがけ走り出す。
それを見てボーッとしていた武蔵ちゃんも

「成程…斬れないのならやり方を変えるまで…わざわざ刀にこだわる必要もないってわけね!これは私も負けられない!」

次々とゴーレムを粉砕していく俺を見て、より多くのゴーレムを切り伏せて行った。

「大和くん!勝負しましょう!」
「え?」
「相手より多く倒した方が勝ち!負けた方は夕餉の半分を勝者にあげること!」
「そ、そんな勝手なこと…!」

そういいかけるも武蔵ちゃんは目にも止まらぬ早さで駆けていき、あっという間に二体、三体と斬っていく。
俺だってお腹は空いてるんだ。
ムキになるのは子供っぽいけどここは負けられなくなってきた。

「悪く思うなよ…!俺の夕飯がかかってるんだ!!」

メイスを振るい、俺を囲もうとやってきた周りのゴーレムを一網打尽にする。

どうして、鈍器を思いついたのかって?
いいや、紅い刀ならここは鞘にもなる鈍器が必要になるだろうなって思ってな。
って誰に解説してるんだ俺は

「七…八!」

場面を戻そう。
刀からメイスへと武器を変えた俺はゴーレムを次々と砕いていく。
八体、九体、十体とバラバラに砕いていくのはどこか爽快感みたいなものを感じさせた。

「どんどん追い上げてくるわね…!じゃあ私もペースを上げましょう!」

意地汚いのか負けず嫌いなのか、夕飯がかかっていることもあって武蔵ちゃんは更に斬っていく。
とすると…今まで本気じゃなかったってことになるのか…。

「俺だって腹は減る!満足に食べて気持ちよく寝たいんだ!」
「ふーん、そう。じゃあ負けた人は床で寝るっていうのも追加で!」
「そんなのあんまりだろ!!」

振り下ろす力に怒りに似たものも加わり、もはや驚異ではなくなったゴーレムはどんどん死んでいく。
そして

「これで…ッ!」
「十五体目っ!!」

ゴーレムは全滅した。
後はそれらを率いていたリーダーであろうスプリガンのみ。
そして俺も武蔵ちゃんも倒した数は十四。
すなわち、こいつを倒した方が勝者となる。

「…!」

スプリガンは俺達の接近に気付くとその巨大な石の剣を横に振るう。
俺はその一撃をメイスで受け止めたが、武蔵ちゃんは軽い身のこなしで飛び上がると

「とったッ!!」

二つの刀がスプリガンの首を捉え、はねた。
はずだった。

「さすがに…そんなに脆いわけないわよね…!」

確かに斬った。
だが、スプリガンはゴーレム以上に硬く、武蔵ちゃんの攻撃ですら浅い傷をつけるのみだったのだ。

「なら…!」

力を込めて踏ん張り、受け止めていた石の剣をはじき返す。
予想外の反撃にスプリガンは大きくバランスを崩し、よたよたとふらつく

「これで…!!」

狙うは足。
渾身の力を込め、メイスの一撃を叩き込んだ。
するとどうだろうか。
斬ることに対しては滅法強くても、砕くことには弱かった石の巨人の足は簡単に砕けた。
片足になり、完全にバランスを崩して仰向けに倒れるスプリガン。
砂埃が舞い上がる中、スプリガンが空に見えた光景は

「おしまいだッ!!」

跳び、メイスを振り上げる俺の姿だ。
土手っ腹に強烈な一撃をおみまいされればひとたまりもない。
それはバラバラと砕け、もがくスプリガンは糸の切れた人形のようにパタリと動かなくなった。

「夕飯と寝床は…死守できた…!」

一安心し、もはやただの石の塊と化したスプリガンから降りる。
落ち着いて見てみると、俺はこんなとんでもないものを倒し たのかと改めて驚く。

「大和くん!」
「やったよ武蔵ちゃん!これで俺の勝ち…」
「そうじゃない!後ろ!!」
「…え?」

撤回しよう。
俺はスプリガンにトドメを刺していなかった。
いや、刺しきれていなかった。
振り向いた先には振り上げられた石の剣。
倒したと思い油断しきっていた俺は行動するのがかなり遅れた

このままでは、あの質量武器を顔面にぶつけられてしまう…

「…!」

そう思ったが武蔵ちゃんがそれを許さなかった。
駆け、石の剣を簡単に弾き返してみせる。

「あ…ありがとう…。」
「勝ったからって油断は禁止!勝って兜のナントヤラって言うでしょ!」
「ごめん…。」

そうして怒られている間にスプリガンはゆっくりと身体を起こしていた。

「ま、トドメ刺しきれてなかったし。今のはノーカンってことで!」
「えっ!?」


踏み込み、スプリガンが石の剣を振り下ろすよりも速く刀を突く武蔵ちゃん。
その切っ先は俺が砕いた土手っ腹を突き抜け、
やつの核であろう精霊根を貫いたのだった。

「はい、これで十五。私の勝ち。」

ズズン…と地響きをたてスプリガンは今度こそ停止した。

「さーて今日のご飯は何かしら。」
「ま、待って!待ってくれ!」

刀を鞘に収め、手をパンパンと叩きながら武蔵ちゃんは村へと帰ろうとする。
だが待って欲しい。武蔵ちゃんが勝てた要因は彼女だけではないはずだ。

「ん?何?」
「ああやってトドメを刺せたのは俺のおかげとかじゃないのか!?俺が砕かなければ核だって突けなかった訳だし!」
「うーん…それはそれ。大事なのはそれまでの経過ではなく結果なのです。というわけで満場一致で私の勝ち!」

何がどう満場一致なんだ…。

「待て!待ってくれ!待ってください!!ここは引き分けで」
「勝負の駆け引きに引き分けはありません。」

勝ちは勝ち。
それを一切譲らず武蔵ちゃんは帰っていく。
でも…もし負けたら負けたであれこれ理由付けて引き分けに持っていこうとしそうだな…この人。
意地汚いし。

「…!」

このままではダメだ。
そう思った時だ

「うっ…!」

突然、耳をつんざくような咆哮。
思わず俺も武蔵ちゃんもとっさに耳を塞いだ。
地面はビリビリと震え、鼓膜は破れそうだ。
やがて咆哮はやみ、顔を上げると

「うそ…なにあれ…!?」
「…!」

有り得ないものを見た。
村の中央、そこには

「ドラゴン…だって!?」

遠くからでもその大きさが分かるほどの、巨大なドラゴンが降り立っていたのだ。

「行かないと…!」

迂闊だった。
ゴーレムを倒していくうちにだいぶ村から離れてしまった。
しかしあんなに大きなドラゴンだ。
飛んでいたら嫌でも目立つハズ…。
なのにどうして気付けなかった?
いや、そんなことはどうでもいい!
早く行かないと村の皆が…!!

「間に合ってくれ…頼む!」

突如現れたドラゴン。
胸に刻まれた紋章のようなものから只者ではないことは伺える。
敵が増えたとかこれでまだワンチャンあるとか喜んでる場合じゃない。
ともかく急がなければ…!
 
 

 
後書き
かいせつ

⚫大和の武器
竹刀から変化させた紅い刀。
そして今回、ゴーレムの腕から変化させた鞘にもなるメイス。
なぜ彼がこういった武器を精製出来るのかは定かではないが大和自身は、近しいモノを"触媒"にすることにより自分が望むものを生み出せるのではないかと推測。
結果それは当たることとなる。
これにより、敵に対して臨機応変に対応が出来るようになった。
硬い敵には刀を鞘にしまいメイスで、そうでなければ刀を抜いて斬る。
何故紅い刀には鞘代わりのメイスなのかと言えば、それは大和の嗜好にも由来している。
仕事が忙しくなる前、プラモデル作りが趣味であった彼はとある機体が妙に印象に残っており、紅い刀も心に残っているそれが無意識下で具現化したものである可能性が非常に高い。
知らない人は『アスタロトオリジン』で調べてみよう。 
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