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『外伝:紫』崩壊した世界で紫式部が来てくれたけどなにか違う

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こうしてアタシは、出てこれた。

 
前書き
こんにちは、クソ作者です。
今まで抑え込んでいた欲望が形になってできたモノ。
"アタシ"と名乗る源葵は自らをそう名乗った。
欲望とは、同性愛だけではなかったのか、
それとも彼女自身にはまだ、明かされていない欲望があるのだろうか。
そんなこんなで本編です。

ちなみに二重人格というとクソ作者はまず自分の黒歴史を思い出します。
そう…あれは中学の頃。
なぜかガンダムOOのアレルヤに影響されて私は…
と思い出すのもクソ恥ずかしくなってくるし自分語りするところでもないのでやめます。
今度こそ本編です。どうぞ。 

 
「よいしょ。」

側に落ちていた斧を拾い上げ葵ではない葵はそれを嬉しそうな顔で眺める。

「すごーい。本物の斧だぁ。」

まるで欲しかったおもちゃを手に入れたような、純粋な表情。
いろんな角度から見ると蝋燭の光が斧の刃に反射し、ギラリと光って葵にはそれがとても面白かった。

「葵!それを離しなさい!」

父親の怒鳴り声に一瞬肩をすくませる。

「えー。やだよ。」
「それは危ないものだ…返しなさい!!」

先程蹴っ飛ばしたのに、あいつはアタシの恐ろしさを知らない。
怒ればさっさと返すと思ったのか?
言葉は武器にはならない。うるさいだけだ。

「お前達!葵を取り押さえろ!!」
「はい!!」

屈強な部下達が葵を囲む。
隙を見て斧を取り上げようと男達はじりじりと近寄る。
だがしかし

「これ、返してほしい?」
「返してほしいじゃない!返しなさい!!」
「んー、そっかぁ。」

口許に指をあて、悩んだような仕草をした直後だ

「じゃあ返す。」

男は、声も上げられなかった。
"有り得ない力で投げ返された"斧は正面にいた男の頭に、ざっくりと刺さって返却された。

「あ…が…。」

あまりに衝撃の出来事に、そこにいた全員が言葉を失い静寂が支配する。
父親は絶句。母親は開いた口が塞がらず。
斧を返された男は何かを言おうとしたが言えず、やがて前後にふらふらし、

「っはっはぁ!!死んだ死んだ!!」

どさりと倒れた。
拍手で喜ぶ彼女。
それをスイッチに悲鳴をあげる母。
部下の男達もただ事ではないと冷や汗を流す。

「すごい!見てよ父さん母さん!血だよ!噴水みたいにビューって出てる!!」
「お前…お前…っ!!!」

悪魔と契約させられた娘。
だが、両親はここで確信した。

「殺せ!!娘はもう手遅れだ!!」

彼女こそが、悪魔なのだと。

「うおおおおーっ!!」

男達が武器を手に取り襲い掛かる。
女性の上さらに丸腰。殺すのに抵抗はある
しかし、その躊躇がいけなかった。
悪魔なら悪魔だと思い、力のままに武器を振るえば良かった。
一瞬の迷いが、彼女に猶予を与えた。

「いいもん見ーつけたァ。」

何かを蹴り上げ、手に取る。
それは数々の契約者の手首を切断してきたであろう、血で錆びた包丁であった。

「死ねェ!!」
「…!!」

何の躊躇もなく、その包丁を男の腹に深々と突き刺す。
思い切り引き抜くと、血がたくさん出てきた。
自分の衣服が返り血で汚れる。
だがそんなことはどうでもいい。

「~♪」

呑気に鼻歌を歌いながら、殺した男から武器を奪う。
バットだ。
さっきから後頭部がずきずきする原因はこいつだが、これで殴られなければ自分は出てこられなかった。
なのでこのバットには感謝はしている。

「~♪」

ご機嫌な鼻歌を続け、もう一人の男の脇腹にバットをフルスイングで叩き込む。
だって武器を振り上げて隙だらけのお腹だったんだ。ついフルスイングしたくなっちゃうじゃない。
それにメキメキと嫌な音をたて、バットは食い込む。
男のなんとも言えない苦悶の表情。それが今の葵にはとてもたまらなかった。

「っ。」

とっさに感じた何か。
それに対応し振り向き様にバットを振るうと何かが火花を散らして弾かれた。

「動くな…一歩でもうご」

ボウガンをかまえた男。
動けば撃つ、そう伝えたかったんだろう。
だがそれを言い切る前に、葵は最初に殺した男の頭から斧を引き抜き、投げた。
最初の男同様、ボウガンをかまえていた男もまた脳天に斧が突き刺さり絶命。
こうしてこの部屋で生きているのは葵、そして父親と母親という家族のみとなった。

「やっと…家族水入らずだね。」

葵を相手にしていた部下達はこの教徒達の中でも一際腕に自信のあるものばかりだった。
なんならモンスターだって倒したことがある。
とはいっても群れからはぐれたバジリスクだったり、空腹で衰弱していたワイバーンだったが。

「い、いや…来ないで…!!」

周りから称えられていた彼らは何も言わぬ死体となった。

「来ないで…来ないで!この悪魔!!」
「実の娘にさぁ…それはさすがにないんじゃなーい?」

この人間同盟支部長の、実の娘によって。

「あなたなんか私達の子じゃない!!悪魔なんか産んだ覚えも!育てた覚えもない!!」
「あーやだなー。アタシすっごい傷付いた。」

怯える母、そしてそれを庇うように肩を支えている父。

「けど殺さないであげる。条件を飲んでくれたらね。」
「条件…だって?」

バットを杖代わりにしてよりかかり、その赤い瞳で見下しながら娘だった悪魔は言った。

「取り消して。」
「え…?」
「アタシのサーヴァントの紫式部。それが悪魔だってことを取り消してよ。」
「…。」

両親はこの人間同盟に入信した際、教祖からこう教えられている。
この世界崩壊後、ある特定の人物に"サーヴァント"と名乗り、歴史の人物の名を名乗るものがいる。
彼らは人ならざる力を使いこなし、契約を交わしたものを"マスター"と呼び慕い、守る。
しかしそれは罠なのだ。
契約とは魂の契約。
サーヴァントとは悪魔であり、契約した人間の魂を狙う。
ただ守ってくれる?そんな虫のいい話があるわけがない。
契約させられた人達は悪魔に騙され、堕落した人間だ。
教祖の友人達もまた、サーヴァントに惨たらしく殺されたと聞く。
サーヴァントは悪魔。サーヴァントは絶対悪。
二人はそう教えられ続けた。
今さらそんなものを否定するなど、到底できない。
それに、

「む、無理よ…!」

折角ここまで来たんだ。
生きるために入信した人間同盟。
死ぬ気で働き、やがて布教活動が評価され、二人は支部の代表を任せられるほどにまでなった。
周りからは異例のスピード出世であり二人同時の支部長だと言われ讃えられた。
この地位と名誉は、捨てられない。
もしサーヴァントが悪魔であることを否定すれば、周りからの評価は落ち、教祖様からは失望され降格は間違いなしだろう。

悪魔の手に堕ちた娘の言うことを聞くか。
教祖様の教えを貫くか。
宗教に心を染められた二人がどちらを選ぶかは、明確であった。

「葵…聞いて…彼らは悪魔なの。」
「…あっそ。」

拾い上げたボウガンを、撃つ。
放たれた矢は母親の足に命中し、叫び声を上げて崩れ落ちた。

「ああ…ああ!!あああああ!!!!」

血の流れる足をおさえ、痛みから呻く母親。
いや、こいつはもう母親ではない。
子供の言うことよりクソのような宗教に味方した時点で葵の、"アタシ"の親ではない。

「お前…なんてことを!!」

父親が叫ぶが、無視して踵を返す。
殺そうと思ってたが飽きたのだ。

「どこへ行く!?葵!!」
「飽きた。香子んとこ帰ってえっちする。」
「な…何を言ってるんだ!!」

子供のように純粋に、さも当たり前のように言い、葵は南京錠で閉ざされた扉をこじ開ける。
その細腕からは考えられない力で鎖を引きちぎると、ドアを勢いよく開けた。

照明が眩しい。
光に目が慣れてくると周りには教徒達が待っていた。
おそらく緊急浄化した両親を褒め称える予定だったんだろう。

だが出てきたのは緊急浄化を施されていない契約者。
血にまみれ、薬でもキメているのではと思うくらいに清々しい笑顔をした源葵。
その光景に教徒達は後ずさる。

「なに?」

怯えた目で見てくる教徒が鬱陶しく、にらみかえす。
すると彼らは遠ざかる。
面白い。けど殺すのには飽きたのでそのままスルーする。
ここを出ていく。大好きな香子に会う。
それだけが今、彼女の頭の中にあることだった。




「契約を…肩代わりする…?」

いきなり現れた少年にそういわれ、戸惑う。
契約を肩代わり、とはすなわち

「僕が君のマスターになろう。あ、自己紹介がまだだったね。僕は神代正義(かみしろ まさよし)。人間同盟の教祖だ。」

手をさしのべた少年は自らを教祖だと名乗った。
周りからも声援が聞こえる辺り、それは本当なのだろう。

「君達悪魔にも正義の心があるのは知っている。どうだろう?僅かでも正義の心があるのなら、僕と一緒に世界を救ってみないか?」

迫られる香子。
周りからの視線。
教祖は嫌なら断ってもいいというような言い方をしてはいるが、この状況から断るのは場の空気的に難しいだろう。
しかし

「お断りします。」
「え?」
「私には…葵様がおりますので。」

その瞬間、教徒達から怒号、罵詈雑言の嵐。

「ふざけるな!!教祖様のご厚意を台無しにしやがって!!」
「死ね!やっぱ悪魔は最悪だな!!」
「根っからのクズなのね悪魔って!」

「…。」

その容赦ない言葉を一身に受けるも、香子は何も言わない。
他のマスターに乗り換える?そんなこと、出来るわけない。
彼女は自分を大事にし、自分を愛してくれた。
そんなマスターを、捨てることなんて出来ない。
そう、思った瞬間だ

「…!?」

マスターの気配が、消えた。

「葵様…!?」
「マスターの事が気になるのかな?」

繋がっていたはずの気配がない。
いくら探せど、見つからない。

「彼女はおそらく"緊急浄化"を受けた。つまり、もう君との契約は切られたはずだよ。」
「…!」

契約を切られた…?
そんなことが可能なのだろうか。
だけど待て。

「この…感じは…?」

何かが、自分に繋がった。
この気配は自分のマスター、源葵の気配。
だが、何かが違う。
綺麗でいて、とても攻撃的で、いつものマスターとは違う気配。
それが、建物の中から感じ取れる。
そのときだ。

「アオーーーーーーーン!!!!!!!」
「!?」

狼の遠吠えが響いた。
それの同時に教祖達の目の前にドスンと着地する"何か"
それはまごうことなき

「田所さん!?」
「なんかやばそーだなーと思ってさ。来てみたらコレだ。」

田所先輩のサーヴァント、ヘシアン・ロボだ。

「大丈夫かおるっち?」
「はい、私はなんとも…ですが葵様が…!!」

ロボの背から降りる田所先輩。
紫式部に言われ、周囲に葵がいないことに気付いた。

「みなもっちは?」
「あの建物の中に…。」

ロボにびびり、教徒達が引く中、一人だけそこをどかないものがいる。

「何?ここを通りたければ俺を倒せ!的な。」
「まぁその通りだよ契約者。ただし戦うのは、僕ではないけどね。」

教祖、神代正義だ。
教祖はそういい、指をパチンと鳴らす。
するとどこからともなく現れた影。教祖の忠実なるしもべ、

「ブラダマンテ…只今参上しました!」

サーヴァント、ブラダマンテだ。
主の前に膝をつき、礼をして次の指示を待つ。

「ブラダマンテ。あの狼を倒せ。」
「はい!!」

立ち上がり、こちらに振り向く。
教祖が持つサーヴァント、ブラダマンテ。
人間同盟とは、サーヴァントを悪魔と見なし、排除しようとする宗教団体。
しかしなぜその教祖たる存在がそのサーヴァントを持っているのか。

「僕の友達が悪魔と契約していてね。それを肩代わりしたんだ。」
「へー。なにそれネトラレってやつ?」
「…?言ってる意味が、よくわからないな。」

そういった用語には疎いのだろう、教祖は首をかしげる。
サーヴァントであるブラダマンテはかまえ、対するロボも唸り声を上げた。

「じゃあ残念。借り物なんかに私のロボは倒せないよ。」
「ロボ…シートン動物記の狼王か…悪魔というのはなんでもありだな。」

呆れながらも教祖はロボを指差し、田所先生いわく借り物サーヴァントに命令する。

「ならばこちらは有名な物語に名を馳せたらしい聖騎士の一人だ。動物とはわけが違う!!」

彼の言葉とともにブラダマンテは跳ぶ。
ロボもまた、首狩り鎌を噛みしめ跳躍した。
槍と鎌が地上で交差する。
大狼と聖騎士。大勢の教徒が見守る中その二騎の戦いが始まった。

「ウウウ…!!」
「お任せくださいマスター!復讐に身を染めた獣などにこのブラダマンテ!負けるはずがありません!!」

サーヴァント同士の戦い。
香子はキャスタークラスであり、二人の戦いは見ることしかできない。
しかし、自分でも援護くらいはできるはず。
そう思ったときだ。

「あ、いたぁ。」

緊張感のない、間延びした声が聞こえた。
教徒の一人が気付き、「ひぃ!」と悲鳴を上げて腰を抜かす。
そこにいたのは

「あ、葵様…?」

バットを引きずり、血にまみれたマスターだった。
自分を見つけるなりそのバットを適当に投げ捨て、こっちに向かって走ってくる。
そして

「わっ!」
「香子だぁ。やっぱふかふかだぁ…。」

飛び付くように抱きつき、血で汚れているにも関わらず彼女の胸に顔をこすりつけた。

「葵様!?な、なにを」
「なにをって、こうやってギューってしてるんだよ。」

自分に抱きついてるのは確かにマスターの源葵。
だが、何かが違う。
妙に子供っぽく、そして純粋だ。

「寂しかったんだよ?今まで暗いところに閉じ込められて、アタシも香子とえっちしたかったんだよ?」
「こ、ここでそのような発言はお控えください!」

と注意した際、違和感があった。
アタシも、香子とえっちがしたかった。
アタシもとは、どういうことだろうか?
まるで別人のような言い方。自分とマスターの魔力供給を見ていたような言い方。
この目の前にいるのは…何だ?

「あなたは…一体…。」
「アタシ?アタシはアタシ。源葵だよ?」

ニィ、と笑って歯を見せる葵。
違う。彼女は源葵ではない。自分のマスターではない。
この"何か"は危険だ。
そう思い引き離そうとした時だ。

「ねぇ…どうしてそんな顔するの?」
「…!」

彼女の手が、両頬に触れる。

「アタシは嫌い?あっちの"あたし"の方がいいの?」
「…。」

なぜだろう。
危険なはずなのに、なぜだかこの葵は優しくしたくなる。
彼女は葵だが葵ではない。けど、

「ごめんちょっと!!いつまでイチャイチャしてんのさ!!」
「!!」

何か答えが出かかったその時、田所先輩に呼ばれふと我に返る。

「くっそぉ…悔しいけどあのブラダマンテ…強いな。」

どうやら押され気味らしい。
教祖のブラダマンテはぶっちゃけ強い。だがそれは教祖のおかげではなく前のマスターからかなりの愛情をもらっていたんだろう。

「いいぞブラダマンテ!!そのまま押し切れ!!」
「はい!マスター!!」

このままではじり貧で負ける。
そう思い、キャスタークラスである紫式部は援護に入ろうとした。
だが、

「その首もらったアァァァァーッ!!!!!」
「!!」

第三者の介入により、戦いは思わぬ方向へと進む。

「あれは…森くん!?」
「…っ、間に合った!!」
「って、こんちゃんじゃん!!」

森長可の介入。
そして後ろからは走って息を切らした近野がいた。

「葵さんは無事!?」
「ええ、この通りです。」

抱きついたままの彼女を見せ、確認する。

「いいところに来てくれたけどさ、こんちゃんどしたの?」
「どうしたもなにも私の確認不足…全部私のミスです!すいません!!」

ビラをきちんと読まなかったのは全員の責任だが田所先輩を悪く言うわけにはいかない。
なので後輩である近野はミスを全て自分の責任とし、全力で頭を下げた。

「人間同盟とはサーヴァントを悪魔と見なし、迫害する宗教団体だったんです!」
「うん。申し訳ないけどさっき分かったよ。」

後輩のミスは大して気にせず、戦いの方に目を向ける。
森長可が加わり、こちらが一気に有利になった。
対するブラダマンテは二人の攻撃をさばききれず、今度はあちらが押されている。

「やはり数は…実力ではカバーできないか。」
「そうだざまぁみろ!!私の森くんと先輩のロボがいればそんなサーヴァントなんて瞬殺だ!!悔しかったらもう一騎連れてこい!!バーカ!! 」

と近野はありったけの悪態をつく。
返す言葉もなく、教祖はただ悔しさで下唇を噛みしめることしか出来なかった。

「森くん!!やっちゃって!!」
「おうよ!!ところでマスター!!奴の首は何点だ!?」
「百点!!」
「よっしゃあ!ぶち殺す!!!」

ハイテンションで槍を振り回し、かまえる。
人間無骨の刃が左右に割れ、本来の刃が姿を現した。

「ブラダマンテ!気を付けろ!!」
「はい!マスター!!」

相手の宝具の展開にブラダマンテはみがまえる。
だが、敵は一人ではない。

「ガウッ!」
「なっ!?」

瞬発的な速さでロボが駆け抜け、ブラダマンテを切り裂く。
致命傷は免れたものの姿勢は大きく崩された。
つまり、

「哭けェ!『人間無骨』ゥッ!!」

彼の宝具を、無防備なまま受けることになる。
このままいけば首と身体が別れを告げるのは明らかだ。
だからブラダマンテは

「くぅ…うぅっ!!」

あえて受けた。
身をわずかにずらし、人間無骨は彼女の肩を切り裂いたのだ。

「まだ…まだぁ!!」
「っ!こいつ…っ!」

凄まじい音を立て、己の肩を切り刻んでいく人間無骨。
想像以上の痛みだが、なんとブラダマンテは歯をくいしばってそのまま槍を掴み、

「そこぉっ!!」
「!!」

予想外のカウンター。まさに肉を切らせて骨を断つ。
彼女もまた、森長可の鳩尾に短槍の一撃をくらわせた。

「てん…めェ!!」

ブラダマンテが人間無骨を離し、互いに離れる。
痛み分けとなった二騎のサーヴァント。
だが忘れてはいけない。
森長可が致命傷になったとはいえ、

「ウウウウ…!!」

こちらにはまだヘシアン・ロボがいる。
血の止まらない肩の傷口をおさえながらブラダマンテは槍を向けるが、ただの虚勢だ。

「森くん!!」
「なんてことねぇよマスター!女相手にはちょうどいいハンデだ…!」

腹に風穴を開け、血を滴らせながらも彼はまだその戦いに対しての貪欲さは衰えていない。
この戦い、どちらが勝つかは誰がどう見ても明らかだ。
こちらは三騎、向こうは一騎。そのうえ大怪我を負っており盾をかまえることすら充分に出来ないほどのダメージ。

そしてそれは、マスターである教祖も理解していたのだろう。

「下がれ、ブラダマンテ。」
「マスター!?わ、私はまだ戦えます! 」
「いや、無理だ。」

そういい、教祖はこちらに背を向けそのまま言った。

「今なら逃がしてやる。これに免じて二度とこの人間同盟には手出しするな。」
「高圧的ですが降参…ということですかね?先輩。」
「かもね。ちょいムカつくけど。」

逃がしてやる、というよりかはこちらの降参ですと言った方が正しいのかもしれない。
教徒達はなにやらヒソヒソと話しているが、彼の言うことに異議を唱えるものは誰一人としていなかった。

「じゃあお言葉に甘えてやろう!お前達も私の町に二度と近づくなよ!じゃあな!!」

ロボにまたがり、そう捨て台詞を吐いて彼女らは早急に逃げ出してやった。




町に帰った一同。
こうして葵は、両親と再会を果たすことが出来たのだがそれは決裂、もとい親子の縁を切るような形で終わった。
そして当の本人は

「いいないいなー。アタシもこれくらい欲しかったなー。」
「だ、だからといって人前で触るのはおやめください…!」
「あ、じゃあ誰も見てなければいいんだ!!そっかそっか!」

相変わらず子供のようにはしゃいでいる。
血にまみれてさえいなければ、それは綺麗な笑顔だった。

「葵さん…何かおかしくありません?」
「あーそれ私も思った。どしたのさみなもっち。」

一緒にいた頃とは明らかに違う彼女を気にしてか、二人は声をかける。

「おかしくないよ。アタシはアタシ通り。なんでもないよ?」
「葵様…一応アスクレピオス様に診てもらった方が…。」
「お医者さん!?やだ!!痛いの嫌い!!」

紫式部の胸に顔をうずめ、震える葵。
子供のようになってしまった彼女。
それに紫式部は困り果てるが、気になる点が一つあった。

「葵様…。」
「なぁに?」

アタシはアタシ、
アタシも香子とえっちしたかった。
アタシは嫌い?あっちのあたしの方がいい?

「ひとつお尋ねしたいのです。葵様は…香子のマスターはどこですか?」

彼女は、二重人格なのではないかと。 
 

 
後書き

二重人格。
心に強いストレスを受けた際、それから心を守るための防衛手段だと言われています。
自分の中に自分ではない新しい自分を作り上げる。
そんなことができる人間ってすごいなって思いますし、怖いとも思えます。
この物語の主人公、葵もまたあることがきっかけでもう一つの人格を産み出しました。
抑圧していた欲望。したいことを我慢する、というのは想像以上にストレスがかかります。
とまぁ、難しい話はここまでにして、
次の話ではエロを書けたらいいなぁと思います。
それではまた。 
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