『外伝:紫』崩壊した世界で紫式部が来てくれたけどなにか違う
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これからあたしは、動いていく
前書き
葵紫図書館(きしとしょかん)
廃墟同然となっていた図書館を改築して作られた図書館という名の複合施設。
普通に本は読めるし貸し出しもしている。
中庭もあり、そこでお茶をしながら話し合ったりと憩いの場も完備。
さらに地下には小さなシアタールームがあり映画鑑賞も可能。
従業員は2人だけ。
図書館長の源葵とそのサーヴァント、紫式部が司書を勤めている。
その他の事は友達からもらったメイド型ゴーレムに手を加えたオリジナルのゴーレム、通称式神ゴーレムによって賄われている。
一応部屋もいくつかあるため、少人数なら泊まることも可能となっている。
あれから、葵紫図書館はというと
「改築しに来たぜ!」
「は?」
翌日宮本が再びやって来て、いきなり無料でこの図書館を改築するとか言い出した。
どんな設備が欲しいか言ってみろというので香子の要望も聞きつつ、あれこれメモに書き出して言ったがまさか全部やってくれるとは思わなかった。
「物足りないと思ったからあれこれ増築もしといた。」
「いや何してくれてんのホント。まぁありがたいけど…。」
冷暖房、中庭、シアタールーム、さらにはプライベートルームと宿泊施設まで…
これはもはや図書館じゃない。娯楽施設だ。
それと次の日には
「こんにちはー。」
「こんちゃん!」
あの町でお世話になったマスターの1人、こんちゃんこと近野のどかだ。
「図書館を建てたって噂を聞いたんで、気になって来ちゃいました。」
「ああ、どうも…って言っても面白いものは何も無いよ?」
かまいませんよと言い、こんちゃんはあるものをあたしに差し出す。
植木鉢2つ。注目すべきはそこに植えられたものだ。
「葵と…紫式部ですね?」
「はい。うちの町で今ガーデニングが流行ってて…そしたらちょうどこの2つがあったので貰って来たんです。」
町の住人が趣味でガーデニングを始めたそうだ。
しかしおかしなことに、この植物は一昨日植えたばかりのものだという。
つまり、僅か3日あまりで種子からここまで育ったことになる。
「アスクレピオス先生いわく、魔力が満ちてるせいで植物にも多少の影響があるらしいです。」
しかし人体にはなんの影響もないとのこと。
そういうことなので、あたしはこんちゃんからその2つの植物をありがたく受け取ることにした。
「折角の葵と紫式部ですから、隣同士で置いてあげてくださいね。」
「うん。そうする。」
窓際にでも置いておこう。
「お客様ですか…?」
と、入口で話し合っていると香子もやってきた。
「まぁ、近野様。」
「久しぶり紫式部さん。相変わらずお盛んみたいですね。」
「…?」
お盛んなのは確かだが、香子はなんの事やらと上品に首を傾げる。
「ほら、ここですよここ。」
「…!」
首筋をトントンと指で叩くと、慌てて首筋を隠す香子。
確かに首に何かある。
あれは…そうだ。
「いえ…これはその…そう!アザです!実はうっかり首を箪笥にぶつけてしまいまして…」
「いやバレてますよ。」
首筋のあざ。
それは紛うことなきキスマークだ。
「ちなみに首筋のキスマークは執着心の現れだそうですね。良かったじゃないですか紫式部さん。けっこう大切にされてる証拠ですよ。」
「わ、わかってますからやめてください!!」
わかっているとはつまりどういうことなんだろうか…。
ちなみに他にもキスマークはたくさんつけた。
露出のほとんどない彼女のドレス、そこに隠された素肌には、あたしのものだという証が至る所につけられていたりする。
「それではお二人さん。良い営みを。」
それだけいい、こんちゃんは去っていく。
お茶くらい出したかったがいいものを見させてもらいましたといい断られてしまった。
⚫
図書館が完成し、なんだかんだで利用客も来るようになった。
「こんにちは…。」
やってきたのは香子に負けないほど豊満な身体を持つ褐色肌の女性。
彼女は人間ではなく、サーヴァントのお客様だ。
「こんにちはシェヘラザードさん。今日はどんな話をお探しで?」
シェヘラザード
三笠にある孤児院で働いているサーヴァント。
その役目はやはりというか子供達のために童話などの読み聞かせをしたりすることだ。
彼女が作ってきた物語はたくさんあるが、やはり限度がある。
そのためこうして図書館を訪れ、童話や昔話などの本を読み参考にしているとのこと。
「まぁ。シェヘラザード様、よくおいでくださいました…!」
「ええ。ここのところは死ぬ危険性もなく、平和な日常を過ごしておりまして。」
足げく通うシェヘラザード。
当然香子とは仲がよく、会うたびこうして笑顔で話し合っている。
「それではこのようにするのはどうでしょう?」
「いいですね…楽しめて教訓にもなると思います。」
時には香子と2人で子供たちに聞かせる話を考えたりするくらいだ。
どういったものがいいか、どうすればわかりやすくなるか、面白くなるか。
そしてそんな楽しさと同時に色々な事も教えていきたい。
悪い人は酷い目にあうとか、いい行いをしてきた人には必ず幸福が訪れるとか、昔話のお約束というか子供の教育にも役立ちそうな御伽噺をこのキャスター2人は色々案を出しながら作っていくのだ。
でも…
「…。」
受付で何もすることがなくボーッとそれを見るあたし。
なんかこう…悪気はないのだろうけどこうして仲良くしてるのを見せつけられると…少しだけ嫉妬してしまう。
「ありがとうございました…紫式部さん…。」
「ええ…良いお話が作れますように。それではまたのお越しを。」
帰っていくシェヘラザードを見送り、香子は本日閉館の立て看板を置く。
結局、2人は時間いっぱいまで話し合っていたのだ。
ちなみにお客さんさんはシェヘラザードさん以外来てない。
まぁ世界がこんなんだし。普通の人が来るわけもないんだけど。
「…葵様。」
「…。」
さて、ドアの鍵はしまり、この広い図書館には今あたしと香子だけとなる。
強いて言うなら式神ゴーレムはいるけどそれはノーカンだ。
「あの…葵様…?」
「楽しかった?」
「…はい?」
嫉妬から来るんだろう。
つい、香子には意地悪をしたくなる。
「シェヘラザードさんと話を作るのは。」
「まぁその…はい。」
恐る恐る頷く香子。
彼女自身も知ってるんだ。このあとあたしがどうするのか、自分が何をされるのか。
「あたしとセックスするより?」
「…っ!そ、それはそれで別の…!」
戸惑う香子。
椅子から立ち上がり、香子の腕を掴むと壁際まで追い込む。
「…っ。」
「ごめんね。香子が他の女と仲良くしてると…ついシたくなる…。」
逃げ場はない。
そもそも、逃げようともしない。
「ねぇ、好き?」
耳元で囁くと、もどかしいのかくすぐったいのだろうか彼女は身をよじらせる。
「な、なにが…っ。」
「あたしとこうするの。何よりも好き?」
吐息が聞こえる。
興奮して、僅かに激しくなった呼吸が。
「好き…です。」
「そっか。じゃあ今日もいっぱい付けてあげる。」
首筋に貼られている絆創膏を指でなぞり、剥がしていく。
そこにあるのは勿論キスマーク。
そこだけじゃない。
スカートをまくれば太腿にも、いくつものあたしのモノだという証拠が。
胸元、背中、お腹にお尻も、
付けられるところは全部つけた。
どこからどう見ても、紫式部というサーヴァントはあたしのモノだと証明するために。
「綺麗だよ香子…。」
「…っ。」
このまま図書館という空間で愛し合うのもいいかもしれないが自室へ向かわせてもらう。
掃除と夕飯は…後にしよう。
今はこれが最優先なんだ。
⚫
それから別の日。
葵紫図書館が出来て数週間が経った頃、起きることはやはりいい事ばかりではない。
「図書館をのっとって何をするつもりだー!出ていけー!」
「私達の本を返せー!!」
「…チッ」
朝っぱらから拡声器を使ってうるさく騒いでいるのは誰だろう…いや、見当はつく。
最悪の目覚めと共に朝を迎え、渋々服を着る。
図書館の扉をさっきからずっとドンドンドンドン喧しく叩いてる奴ら。
うん、そうだ。
「…どなたです?」
「葵!?やっぱり葵だったのね!!」
人間同盟のおでましだ。
しかも支部長…もといあたしの母親も。
「なに?」
「何って…連れ戻しに来たのよ!ほら!」
あたしの手を掴んで引っ張りこもうとする母親。
しかしあたしとの縁は切ったはずなのにどうしてまた来たのか?腐っても母親は母親ということなのだろうか?
「やめろよ!」
あんまりにもうざったいので手をはらう。
すると母親は余程ショックだったのだろう。
顔が引き攣り、次第に泣き出しその場にしゃがみこんでしまった。
「ひどい…そんな…葵…葵いぃぃぃ!!!」
「大の大人が泣くなよ。みっともないな。」
「お前支部長に…自分のお母さんになんて事を!!」
向こうから縁を切ったんだ。だからこいつはもう母親じゃないし、あたしはこいつの娘じゃない。
「きっと悪魔のせいだ!引きずり出せ!!」
「この奥にいるハズだ!!」
と、あたしは悪くないらしくどうやら全て紫式部という名の悪魔のせいだとする人間同盟の方々。
しかし
「な、なんだこれ…!!」
「1歩も入れないぞ!?」
押し入ろうとした教徒達は図書館への1歩を踏み出せずにいた。
まるで見えない壁に阻まれているみたいに。
最初はふざけてパントマイムでもしてるのかと思ったが、どうやらそうではないらしい。
「結界です。邪な感情を持つ者、私と葵様に殺意や悪意を抱く者は入れぬようになっています。」
「…お前!!」
と、あたしの後ろからコツコツと靴の音を立ててやって来たのは紫式部。
凛とした上品な佇まいの彼女。
一体人間同盟の奴らはどこをどう見たらこれが悪魔に見えると言うのだろうか。
「図書館長に変わり申し上げます。お引き取り下さい。」
冷たく言い放つ紫式部。
だが言われただけではいそうしますと引き下がる人間同盟ではないことは勿論知っている。
「悪魔にそう言われて大人しく引き下がれるか!」
「俺達の図書館を返せ!!」
知るか。この図書館はあたしのだ。
「警告します。これ以上何がするのであれば、私達も力を以てあなた方を鎮圧します。」
と、彼女は言うがやつらは聞く耳持たずだ。
「知ってるぜ!悪魔の中には戦いが得意じゃないタイプがいるんだろ!?」
「やれるもんならやってみろ!俺達には教祖様の光の御加護がついてるんだ!」
「葵様…!」
いい加減うざったくなってきたんだろう。
「いかが致しましょうか…!」
ほら、語尾に殺意こもってる
「やっていいよ。」
「では!」
あたしからの指示を待ってましたと言わんばかりに紫式部は手をゆっくりと上げる。
伸ばした人差し指、それで宙に何か文字を書いたその時だ。
「!?」
彼らの前に、6つの影が降り立った。
「なんだこいつら…!?」
「メイド?…に、人間!?」
「まさか悪魔のあやつり人形に…!?」
式神ゴーレムだ。
確かに初めてそれを目にするのならば、人間に見えてしまうだろう。
やつらはそれを見るなり悪魔に囚われあやつり人形と化した元人間という都合のいい設定をプラスした。
「それでは…適度に懲らしめてください。」
紫式部の声に式神ゴーレムが頷き、動き出す。
あれ…なんていってたっけ?
このゴーレムには戦闘機能がついてて…HJYしすてむ?なんかそういう名前のシステムが付いてるって言ってた。
要は強いんだろう。
「がっ…や、やめろぉ!目を覚ませ!!」
と、ゴーレムに胸ぐらを捕まれいとも簡単に持ち上げられる大の男2人
それと
「1つ勘違いしておられる様子…そのメイド達は皆、自ら志願して私の奴隷となった身…正気に戻そうと思っても無駄です。」
式神ゴーレムを操られている人間だと思い込んでいる教徒達にそう解説する紫式部。
「あなた方もなってみますか?悪魔の奴隷に?」
それにしてもこの香子…ノリノリである。
「嫌だ…貴様らの誘惑になど…!」
「ではお帰りください。」
式神ゴーレムに持ち上げられた2人はそのまま彼らの元へ投げ返される。
既に教徒達の顔には恐怖の感情が刻まれていた。
それに
「じゃ…じゃあ葵も…!?」
わなわなと震える手で口元を抑えながら、元母親が恐る恐る聞く。
ノリノリな香子は待ってましたと言わんばかりに答えた。
「ええ…お母様、あなたの娘もまた自ら私の奴隷となったのです。」
「そんな…嘘…嘘よ!!」
泣いていたがより一層激しく泣き叫ぶ母親。
「ねぇ紫式部…いくらなんでもその設定はさすがに…」
「良いのです。そちらの方が諦めもついて来なくなるでしょうから。それと今回はいつもよりもう少し痛めつけましょう。」
「…怒ってる?」
「…少しばかり。」
実は以前にもこうして、朝早くから図書館の前にて大声でデモをすることは何度かあった。
そのたびに追い返してはいるのだが後日懲りずにやってくるのだ。
あたしは強めに言って追い返し、たまーに蹴飛ばす程度だが香子も香子でかなり鬱憤が溜まっていたんだろう。
そして蓄積された怒りとかそういったものは今日ついに大爆発。
式神ゴーレムを使役して徹底的に追い出すことに至ったのだ。
「去りなさい人間。あなた程度のような虫けらが、悪魔にかなうと思うなど実に愚か!身の程を知りなさい!!」
しかもノリノリで。
「…ねぇ香子。」
「なんでしょうか?」
「…楽しい?」
「…少しばかり。」
そうしている内にも式神ゴーレムは教徒達を追い払っていく。
さて、それじゃああたしも母親にトドメを刺そう。
「母さん。」
「…!」
泣き崩れた母親に優しく声をかける。
ハッと顔を上げた母親。その感情には僅かな希望を抱いているのが分かった。
娘が戻ってきてくれるかもしれない。
多分、そう思ってるんだろう。
でも違う。
「ごめんね。あたしと紫式部…もうこういう関係だから。」
トドメを刺す、とは言った。
でもそれは物理的にじゃない。精神的にだ。
「…!!」
悪魔ムーブノリノリだった香子を抱き寄せ、そのままキスをする。
「…!!」
母親にとってそれはあまりにショッキングなものだったんだろう。
両手で口を隠し、出そうになる悲鳴を抑えていた。
「ん…はぁっ♡」
「あ、あおい…さまっ…い、今は…ぁあ♡」
見せつけるように、堂々と。
これがあたし自身だと母親に示す。
熱い口付けを交わす…というよりかは香子の唇を無理矢理奪う。
身体を愛撫し、スカートを捲りあげ太腿を撫でているだけなのに香子は甘い声を漏らした。
「葵…やめて…やめてぇ!!!!」
同性愛、
それが母親にどう見えているか。
この悲鳴に近い言葉で分かる。
「おかしいわ!おかしいわよ…!そんなの葵じゃない!!いつもの葵に戻って!!」
「…っ。残念だけど、これが”あたし”だよ。」
今まで隠してきたあたし自身。
さらけ出せなかったあたしの本能。
けど、今なら出せる。見せつけられる。
「病気よ!女性同士なんてそんなの有り得ない!!」
「…じゃあ帰れよ。」
「!!」
病気呼ばわりするのなら、帰って欲しい。
香子を悪魔と思うなら二度と来ないで欲しい。
「昔からああしろこうしろあたしを決めつけやがって!!もうこれからは自分自身で生きてくんだ!お前の指図なんかいらない!!消えろ!!」
「…!!」
この言葉が、トドメとなったのだろう。
母親はついに、何も言わなくなり糸の切れた人形のように俯いた。
「し、支部長!!」
「このままでは悪魔の下僕に殺される…!一旦撤退だ!!」
教徒達に支えられ、母親は引きずられるように退却。
まぁ、わざわざ殺すつもりは無かったけど。
「一昨日来いっての、バーカ。」
情けなく去っていく彼らの背中に中指を立てて見送る。
キツめにはやったんだ。これでもう来なければいいけど…。
「それでは皆さんお疲れ様でした。」
「…。」
香子は一仕事終えた式神ゴーレム達に労いの言葉をかける。
とはいっても自我はないので無表情だし何も言葉は返さないが。
「…。」
「え、なに…?」
こちらをじっと見つめる式神ゴーレム。
自我はない。と宮本から説明してもらったがたまにこの式神ゴーレム、あたかも自我があるような振る舞いを時折見せることがある。
「葵様、どうされました?」
「ううん、なんでもない。」
気のせいかもしれない。
そういうことは頭の隅にでも置いておくとしよう。
さて、
結界やメイド達の戦闘能力など、こういった対策は実は元からあったものではない。
実はある日を境に実装したものなのだ。
そのある日とは、時を数十日ほど遡る…。
後書き
登場人物紹介
⚫シェヘラザードさん
横須賀にある三笠記念艦を改造して作られた孤児院に勤めているサーヴァント。
子供達へおとぎ話などの読み聞かせをしたりしているがいかんせん通常の格好では子供達に大変よろしくないため普段はタートルネックにジーンズという現代風ファッションで過ごしている。(しかしそれはそれで人によってはよりエロく見えてしまうとの事)
紫式部とは図書館に通ううちに仲良くなり、
式神ゴーレム②
親友、宮本からもらった全6機のゴーレム。
主である紫式部の命令を忠実に遂行し、時には戦闘もこなせる。
当初は図書館内のみでしか稼働できなかったがアップグレードし、図書館周辺までは動けるようになった。
ちなみにこの式神ゴーレムに搭載されているHJYシステムとは
H(ふたりの)J(邪魔は)Y(許さない)の略称。
命令はなくとも、2人の百合百合しい雰囲気を邪魔する者あれば自動的に排除しにかかるもの。
なので言葉は発しないが、実はちゃんとした自我がある。
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