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Fate/imMoral foreignerS

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始まりから夏休みまで
  兄の話

 
前書き
登場人物紹介

⚫葛城 恋(かつらぎ れん)
葛城舞の兄。
自己中心的で自分が1番じゃないと気に入らない性格。
舞とは血の繋がった実の兄弟ではあるが、似てるところは何一つない。
勉強ができない弟を徹底的に見下しており、時にはストレス解消と称して暴力を振るっていた過去もある。
両親も勉強の出来る兄をとことん贔屓し、あまやかした。
その結果がこの性格と体型である。
ちなみに舞が絵が描けなくなった1番の要因は紛れもなくこいつ。
詳細は次回で語るので待っててね。
ちなみに似てるところは何一つないと言ったがむしろ正反対と言った方が正しい。
例を挙げると
スラリとしていて痩せっぽちなスレンダー体型の舞くん。
背は低く太ったずんぐりむっくり体型の恋。

女性と見間違える程の若く美しい女顔の舞くん。
中年男性と見間違える程の老け顔で醜い顔の恋。

肉はあまり好まず、野菜中心の食生活の舞くん
野菜を好まず、肉中心の食生活の恋。

そして最後に恋のおちんちんは短小包茎。
ズルムケ巨根の舞くんとはおちんちんすらも正反対なのだ。
と、ふざけた登場人物紹介はここまでにして、本編へと行きましょう。
それではどうぞ。 

 
「どっこにもいねぇナ…。」

マイが出ていった。
絵を描いていることを聞いたら、何か怖がっているような顔をしておれから逃げるように家を出ていった。

前から疑問には思ってたサ。
絵を描かないのにあんな部屋があるって自体、おかしいんだ。
だからこう思った。
マイも絵を描いていたんじゃないかと。

じゃあ昔描いていたんだろうかと聞いても、そもそもマイは昔のことを話したがらない。
昔のことはどうでもいいとか、聞いても面白くないよとか、飯の最中や行為の後に聞いても適当にはぐらかされた。

過去に、何かがあったんだろうか。
おれはマイのさあばんとだ。けど、マイのことはほんの少ししか知らない。
昔のことも、マイが何を考えているのか、何を悩んでいるのか、
性癖を開発するよりもまず、そこから知るべきだったのかもナ。

さて、というわけでおれはマイを探して駅前の広場までやってきたわけだが、そこにマイの姿はなかった。
大方広場のどっかで落ち込んでるだろうと思ったが見込み違いだったみたいだ。

そのときだ。

「だから!!こいつが殴りかかってきたんだ!!俺をいきなりガッと掴んで!」
「わかった、わかったから。」

何やら騒がしい声が聞こえる。
ふとそこに目をやれば、警察官…だったか、そいつらに必死に何かを訴えかけてる太った男が。

「でもそしたら通報の内容と少し違くないかな?」
「本当なんだよ!信じてくれよお巡りさん!!そうだ!パパとママに連絡しよう!ママは政治家で…」

子供のように泣きじゃくりながら何かを言っている中年男性。
見苦しいことこの上ねぇし、さっさとマイを探そう。
と思ったが、そこから目が離せなくなった。
なぜなら

「…。」
「なぁ?そうだよな!?お前が俺に殴りかかってきたんだよな!!」
「…。」
「何『可哀想なのは僕です』みたいな顔してんだ!被害者は俺!可哀想なのは俺!てめぇは加害者なんだよ!!あぁ!?」

明らかに被害者の態度じゃない彼が怒鳴りつけてる相手。
それがマイだった。

「ほら、土下座しろよ。俺とお巡りさんに。」
「…。」
「あの、キミ。」
「いいんですよお巡りさん。こいつは出来の悪いやつだから、このくらいしないと反省しないんでね。」

マイに土下座をさせようとする男。
警察が止めようとするも男は汚ぇ笑みを浮かべたままやめようともしない。
なんだこいつは、
こいつはマイのなんだ?
マイに何させようとしてる?

「ほら、しろよ。どーげーざ!どーげーざ!どーげーざ!お巡りさんもご一緒に!」
「ちょっと待ちなさい!土下座の強要は…。」
「うるせぇ!俺のママは議員だぞ?ママにいいつければてめぇら公務員風情すぐに社会的抹殺できんだぞ?それでも俺に楯突くのかよ?あ?」

我慢ならねぇ。
怒りが込み上げ、自然と足が前に出る。
そして

「ん?なんだおま」

気が付けばタヌキみてぇなそいつの顔をぶん殴っていた。

「ぐばぁ…っ!」
「!?」

メガネが割れ、鼻から血が吹き出す。
周りにいたやつがとんでもねぇ顔してるが知るもんか。
悪いのはどう見ても、こいつだ。

「お、お栄ちゃん!?」
「マイが!!てめぇに!!何をした!!」

一発殴ったくらいで倒れようとするもんだから胸ぐらを掴んで強引に引き寄せ、もう一度その鼻っつらをへし折る。
男は手のひらを突き出してやめてと身振り手振りで伝えようとするがそんなの知るか。

「キミ!!やめなさい!!」
「やめるもんかヨ!マイが人を殴るだァ!?冗談も!休み休み!言いやがれってんだ!!」

土下座をしようと地面に座り込んでいたマイが驚いた顔で見上げている。
そうだ、マイはこんな性格だ。
こいつが警官に事情を話していたがマイは自分から人を殴りに行くような性格じゃない。
もし仮にそうだったとしても、少なくとも先に何かされているはずだ。

「やっ、やめろぉ!俺は…俺は議員の息子、だぞぉ!?」
「知らねぇよそんなもん!!」

拳に力を込め、思い切り殴りぬける。
渾身の力を込めた一発は、まるまる太ったこの男でもほんの少しは吹き飛んだ。

「ぐっ、ぐふっ、あ、あああ…めがね…いたい!いたいぃ!はなぢがとまんねぇ…!」
「…。」

その身体を縮め、蹲る男。

「立て。」
「やだ!!いやだあぁぁぁぁ!!!!!」

おれが冷たくそう言うと、男はびくりとしてより一層その身を震わせる。

「お栄ちゃん…もういいよ。」
「いいやまだだ。なんなら息の根を止めるくらいしねぇとおれの気が済まねぇ。そもそもこのオヤジは誰だい?」

マイがまた止めようとするが、今回ばかりは言うことを聞く訳にはいかない。
というか誰なんだほんとに。
何があったのかは知らないがマイに因縁付けてきやがったこいつは…。

「僕の…兄だよ。」
「…は?」
「言ってなかったよね。僕、兄がいたんだ。」

兄がいた。
別にそういったことに驚いてるわけじゃない。
ただ、これが…マイの兄貴。
見るに堪えない顔に肥太った身体の、豚のようなこのオヤジが?

「兄貴…?聞き間違い…じゃねぇよナ?」

耳の穴をかっぽじってもう一度マイに尋ねるが、マイはうんと頷く。
どうやらこいつは、正真正銘マイの兄貴らしい。

「な、なにみてんだよぉ…!!」

にしても似ていない。似て無さすぎる。
兄弟てのは似るもんじゃないのかい?
でもなんだこれは。まるで違うじゃないか。






「じゃあ、そういうことでよろしいですね。」
「ああ、迷惑かけてごめんよお巡りさん。」


それから、
警察官にはこちらの事情はこちらで解決するのでということで帰ってもらった。
さらに通報で受けた内容と恋の供述した内容があまりにも違いすぎたので、問い詰めたところ恋が悪いことが明らかになった。
そして眼鏡が割れ、両鼻にティッシュを詰め込んだ惨め極まりない舞の兄、恋本人だが

「ふざけやがって!!おい!メガネの弁償代と慰謝料請求してやる200万はくだらねぇからな!!」
「…へぇ。」

怒鳴る兄、怯え、身を縮こませる舞。
しかし彼の隣にいる北斎は笑顔だった。

「弁償だァ?何様のつもりだい?」
「俺は…こいつの兄だぞ!!こいつより偉いんだぞ!!頭もいいし金もある!将来何も無いニート予備軍のこいつと違って!俺は医者になる男だぞ!!」
「ほーう、そうかい。」
「大体お前は何様だ!!女ごときが俺たちの問題に入る権利は無いんだよ!!!」

先程ボコボコにされたというのに、返り討ちになることは分かるはずだが恋は北斎に掴みかかろうとする。
しかし、

「おれ?おれァマイの彼女サ。」

その一言で、恋は止まった。

「か、かの…じょ…?」
「そ。彼女。兄貴なら彼女の一人や二人くらい出来たことあんだろ?」
「か、かの、かの…じょは…。」

口ごもり、急に弱気になる恋。
理由は簡単。彼女なんていたことない。
小中高とすべて学業に捧げてきた彼は、女性はおろか人付き合いすらまともにした事がなかった。
友達はいた。だがそれはあくまで親の仕事関係から来るものだった。

「おや、いねぇのかい?」

弟に彼女がいる。
たったそれだけで彼のプライドは傷付いた。
自分よりも頭が悪く、自分よりも馬鹿で、自分よりもなんの取り柄もないこの弟が、
苦労してばかりの自分ではなく、楽してばかりの弟がどうして彼女を持っている?

「俺は…苦労したのに!!!!」

膝から崩れ落ち、石造りの地面をドンと叩きまた恋は叫ぶ。

「彼女はできねぇ!勉強もうまくいかねぇ!人間関係は滅茶苦茶!両親からは働けと言われる!何もかも上手くいかねぇ!こうなったのは全部!てめぇがいなくなったせいだ!!!!」
「…落ちたんだ。」
「…!!」

力の限り叫ぶ恋。
こうなったのは全部弟の舞のせい、自分は悪くない。悪いのは弟。
そう叫び弟に怒鳴るが、その弟から返ってきた一言で彼は再び止まった。

「お、おち…」
「働けって言われてるなら…そういうことだよね。もし受かっていたらまずこんな所にいないだろうし…何より僕を連れ戻そうなんて考えなかったもんね。」
「…やめろ…うるせぇ…うるせぇ!!」
「大学受験、落ちたんだ。」
「っ…っあああああああああああああ!!!!!!」

咆哮、とでも言えばいいか。
人目の迷惑もはばからず、彼は行き場のなくなった悔しさを声に出して上へ放った。
しかし、そうやったって変わらない。
悪いのは全て自分という事実は。
そして何よりも、
受験に落ちたという恥ずかしい事実を弟に突き止められたことが彼のプライドをズタズタに切り裂いた。

「全部てめぇのせいだ!!!どうして俺が!!なんで!!絵ばっか描いてるてめぇが!!!」
「…いい加減にし」
「うるさい!!!!」

いい加減うるさいのでそろそろ黙らせてやろうかなと動こうとした北斎だが、弟の声で兄は一瞬にして黙った。
そう、弟だ。
今まで兄に歯向かわなかった弟の、はじめての反論だった。

「マイ…?」
「どうして今更帰らなきゃならないんだ!!もう僕はお前達とは縁を切ったんだ!お前はもう兄じゃない!もう関係ない!!早くこの町から出ていけ!!」

溜まりに溜まったものを舞は一気に吐き出した。
それに対し兄の恋は

「は?…なんだよお前…それが兄に対する態度かよ…え?」

つい先程とは打って変わって、聞こえるか聞こえないかくらいの声でそう呟く。

「言ったろ。マイはもうお前とは縁切ったって。だからお前はもう兄貴じゃねぇのサ。」
「…。」

舞は冷たく恋を見下ろす。
今まで見たことの無い顔でこちらを見下ろす弟。
もう何も言葉が出ない。

「な、なぁ…」

と思っていた。

「まだあんのかい?」
「ああ、そっちの低学歴なクソ弟に用はないが、お前だよ。」

恋が指さしたのは北斎。
舞の隣に立つ、サーヴァントの北斎だ。
一体なんの用があるのだろうかと話だけは聞こうとしたが、その内容はとても酷いものであった。

「なぁ…そんなやつよりも、俺の女になれよ。」
「は?」

手をちょいちょいと動かし、おいでと手振りをする恋。
何がどうしてこうなったらそういった考えになるのか、
それは舞にも北斎にも分からない。
ただ恋は勝ち誇ったような汚い笑みを浮かべ、北斎を口説き始めた。

「そんな彼氏、面白くねぇだろ?成績も良くねぇ、運動もできねぇ、気持ち悪ぃし、最底辺の人間でしかも将来ニートの穀潰しだ。それに何より障害者と変わんねぇ。だから、俺と付き合えよ。」
「…。」

黙って聞いている北斎。
だがその眉はぴくりと動き、つり上がっている。

「アイツと違って俺は高学歴っていうキャリアがある。いずれ医者になるし病院だって引き継ぐ。いわゆる超エリートの金持ちだ。それに最近キャバクラにも通い始めてな。女の扱いならそこの童貞よりも俺の方が長けてるぜ?あとパパとママに頼めばどんなことだって出来る。どうだ?余程のバカじゃなけりゃ、どっちと付き合えば自分に得かは…分かるよな?」

強引なナンパめいたもの。
しかしその内容全てがひどい。
学歴を語り、親の七光りを自慢げに語り、さらにキャバクラに通っていることを誇らしげに話す辺り、ナンパの何が良くて何がダメなのか全くわかっていない
そんなやつのナンパに乗る気もない。

「…。」
「お栄ちゃん…?」

北斎は黙って歩き出す。
ポケットに手を突っ込み、恋のところまで近付くと、

「ほら、どうだ?お前が彼女を持つなんてなまい」
「じゃあ、おれァアンタでいう余程のバカらしい…ナ!!」

懇親の膝蹴りが、恋の股間にくい込む。
ミリミリとやばげな音を立て、北斎の膝は恋の急所を潰さんばかりの勢いだった。

「あ…ひぎっ…!?!?」

絞り出すような掠れた声を上げ、恋は悶絶する。
股間をおさえ、うずくまり彼は動かなくなってしまった。

「おれが好きなのはマイ自身だ。金とか頭がいいだとかそんなもんじゃねぇ。それと金輪際マイに…いや、この町に近づくな。もし近付こうもんならどうなるか。自称頭のイイアンタなら…分かるよナ?」

そういい、踵を返して北斎は舞の元へと戻る。
「帰るぞ。」とだけ言い北斎は彼の手を引っ張り、そそくさとその場を後にした。

「お栄ちゃん…。」
「話したいことはごまんとある。聞きたいこともだ。隠し事も全部べっどで吐いてもらうからナ。」
「その…ごめん。」
「…。」

勝手に出ていったこと、隠し事をしていたこと。
どれの謝罪かは分からないが、北斎は何も言わず帰路へとつく。

「ただな。」
「?」
「最後のはよく言えた…偉かったヨ。」

弱気な彼では言えなかったであろうあの言葉。
それは成長した証なのだろうと思い、北斎はそれは褒めてあげることにした。



「ってことがあったんだ。酷い話だろ?」

その日の夜。
恋はボロボロになり自宅へと帰宅。
しかし傷ついた心は癒えないので、最近通い始めたキャバクラにてその心を癒すため来ていた。
そしていつものお気に入りの嬢を指名し、今日あったことを多少の脚色をつけ、北斎と舞を悪者のように改変した話を自慢げに話していた。

しかし、

「えーでも、それってれんれんが悪くない?」
「え?」

お気に入りの嬢からの言葉は慰めではなく、相手の同情だった。

「なんでだよ。悪いのは家を出てった不良の弟で…!」
「出てったならほっとけばいいじゃん。そんで呼び戻そうとして殴られたんでしょ?」
「でも俺は兄としてちゃんと…!」
「出てく時、縁切ったんでしょ。ほっとけばいいのに…。」

仲がいいと思ってた子に同情して貰えない。
可哀想なのは自分なのに、怪我をしたのは自分なのに。
なのに何故この女は自分を慰めない?何故同情してくれない?

それだけで、彼のプライドは傷付いた。

「おい。」
「え、なに?」
「前に俺達、相性ピッタリだねって言ったよな?」
「うん。そうだけど?」

その言葉はあくまで商売上の常套句であることを恋は知らない。
女性相手の経験が圧倒的に足りない彼はそれを本気でそう思い、もしかしたら彼女になれるかもしれない存在だと思っていた。
そしてその自分勝手な思い込みは、ダメな方にはたらいた。

「ヤらせろよ。」
「え、冗談でしょ?」
「俺達、仲良くなれるって言ったよな?相性ピッタリって言ってたよな?じゃあ、いいよな?」
「いや、ちょっと待って、それはあくまで例えてきなやつ?みたいな?ねぇ?嘘でしょ?ほんとにやめてってば…。」

キャバ嬢に詰め寄る恋。
弟に彼女がいたことが許せなかった。
弟にいて、自分にいないのはおかしい。
じゃあ作ればいい。それで既成事実を作ればいい。
女性という生き物はすぐセックスをしたがる。だから問題ない。
前に見たAVにそんなことが書いてあった。

「待って!やめて!!誰か!!誰か助けてーっ!!!!」
「いいだろ?ほら、まずはキスから…。」

抵抗するのは演技。本当はしたくてたまらない。
その知識もAVで得た。

「何してんだテメェ!!!」

しかしそんなところで邪魔が入る。
個室に強引に入り込んできたのは数人のスーツを着た男。
強面でガタイも良い。
そこで恋は、自分のしでかした事の危うさに気付いた。

そして彼は

「おい!待て!!」

外しかけたベルトを締め直し、死に物狂いで逃げ出した。




「なんでだよ…なんでだよなんでだよなんでだよ…!!」

息を切らしながらも恋は必死に逃げる。
おかしい。女というのはヤりたがる生き物だ。
ヤりたがるからAVの仕事もするし、風俗も喜んでやる。
それなのに拒否された。しかも男達にも邪魔された。
おかしい。どうして?それに何で逃げなくちゃいけない?
俺はエリートなのに。父は医者、母は議員。高学歴で金持ちで、偉いはずなのに

「いたぞ!!」
「!!」

しかし、走りの遅い恋はすぐに追い付かれてしまう。
気付けば後ろには黒いスーツの男数人。

「ウチの店の子に手ぇ出しやがって!!」
「捕まえろ!んで警察に突き出せ!!」

なんでだ、
キャバクラはお気に入りの子と好きなことが出来る。そういうお店じゃなかったのか?
今まで性に関する知識から隔離されてきた恋は、今自分が持てるAVや官能小説で得た少ない知識で考える。
が、納得のいく答えは出なかった。

捕まれば死ぬ。そう思い傷む横腹をおさえ、足を無理矢理動かして息も絶え絶えに逃げ続ける。

「あれ…?」

もうダメだと思い諦めかけたその時、
振り向けばなんとスーツの男達は立ち止まっている。
諦めてくれた。と思う恋だがそうではない。
だって彼が今走っている場所は、飛び出した場所は、

赤信号の交差点だったのだから。

「え…?」

ふと横を見れば、すぐそこにまで迫った大型トラック。
逃げきれたという嬉しさが漏れ出す笑顔のまま、恋はスピードの緩めていないトラックに正面から衝突。
そのまま吹っ飛び、腕や脚はありえない方向に曲がって交差点のど真ん中に投げ出された。

悲鳴が反響し、周囲がどよめく。
「救急車読んだ方が良くね?」「やべーよ、事故だよ。」「やばくね?呟こ。」「俺達は悪くない。飛び出したあいつが全部悪い。」

色んな声が聞こえる。
そして話し声に紛れて時々聞こえるのはシャッター音。
撮るな、助けろ。と言いたいが生憎掠れた声しか出ないし立ち上がることも出来ない。
腕、脚、体、とにかくありとあらゆるところが全部痛い。
目に映るのは夜の空。
薄れる視界。
だがそんな時、あるものが映り込んだ。

「キミが、葛城恋くんだね?」

倒れた自分を覗き込む、黒い肌の男。
いかにも自分が葛城恋だが、こいつは何者なのだろう。

「なに、私はただのしがない神父さ。」

そう思うと、神父は笑顔で答えた。

「キミのような逸材がここで死ぬのは勿体無い。チャンスをあげるよ。それに力もあげよう。キミが思うままに好きにできる、望み通りの力をね。」

神父が手を差し伸べる。
俺が逸材?どうやらこの神父、俺の事をよく分かっている。
そして生き返らせてくれる上に、力もくれる。
そんな条件飲むしかない。
痛む手を伸ばして彼は神父の手を掴んだ。

「キミは舞台に上がって暴れて欲しい。状況を引っ掻き回して、いろんなことをするんだ。キミも見たいだろう?弟くんの絶望する顔。欲しいだろう?弟くんの持ってる彼女。じゃあ、兄として弟から過ぎたオモチャは取り上げないとね。」

ああ、そうだ。
受験に落ち、仕事も見つからず、友人関係もうまくいかず、そして今こうして死んだのも全部弟のせいだ。
弟が悪い。弟が憎い。
だから復讐だ。お仕置きだ。
兄として教育し直してやる。

覚悟しろ。
お前の何もかも全部奪い取って、二度と兄に逆らえないようにしてやるからな。 
 

 
後書き
キャバ嬢に手を出してスーツの人に追いかけられて信号無視でトラックに引かれて死ぬ。
実は恋の最期なのですがハーメルン連載当時から考えておりました。
なんとも間抜けな死に様ですね。はい。
そしてまた現れた謎の神父。
恋に手を貸し、何かを企んでいるようだがその実態とは…!?
次回もお楽しみに! 
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