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崩壊した世界で刑部姫とこの先生きのこるにはどうしたらいいですか?

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ほんへ
最終章『ふたりで…』
  実験と再会と島の秘密

「しかしいつ来てもあれだな…ここだけは何故か"空気"が違う。」
「ああ、分からんがあまりここに長居はしたくないのう!」

葛城財団本部。
探偵からの指示により地下にあるという見えない壁の装置を破壊するため別行動を命じられた子安さんと以蔵。
建物に入ってすぐのエレベーターを使って下へと向かう。
その先に広がるのはいくつもの培養ポッド、そして…

「…!」
「…これは!?」

ガラスの向こう側に広がるおぞましい光景。

人であったであろう巨大な何かがいくつものチューブに繋がれ、蠢き、時々咆哮を上げている。
肥大化した身体のせいでロクに動けず、さらに脚であろう部分の間には、透明なチューブが繋がれていた。

「なんじゃ…あれ…。」
「見て分からないのも無理はない。以蔵。あれはな…サーヴァントだ。」
「!?」

子安の言ったことに驚きを隠せない以蔵。
確かにそうだった。
あの醜く肥太った人らしき『何か』。
それは、元はサーヴァントであったモノだ。

「じゃ、じゃああれは!?なんでじゃ!?なんでサーヴァントはそげなことに…!!」
「母体だよ。サーヴァントをああいう風に魔改造して、兵士となるサーヴァントを新しく生み出そうとしていたらしい。」
「…。」

デスクに乱雑に置かれている資料に目を通す。
『サーヴァント量産計画』と書かれたファイル。
めくっていけば『母体』の作り方や研究結果などの様々なデータが記されている。
おそらくここは、そういったものの研究所だったのだろう。

「行くぞ以蔵。ここから先、さらに下るぞ。」
「お、おう。」

なるべく『母体』を見ないようにし、そそくさと去る子安。
以蔵は思わず見てしまう。
ガラスの向こう側の『母体』は彼らの存在に気付き、動けない身体をよじらせこちらに両手だったものを伸ばして叫んでいた。

頭の良くない以蔵でもわかった。
彼女らは、『殺して』と言っていると。



別のエレベーターを使い、さらに下へと向かう。
すると子安は最深部ではなくとある階で止まった。

「…どうした?」
「かまえろ。」

自分達が押したボタンは1番下のボタン。
しかし止まった階は最深部などではない、中途半端な階。
止まるとすれば故障か、もしくは"誰か"が止めた。

そうして、ドアが開かれる。
エレベーターのすぐ前に待ち受けていたのは

「h@g@g@…」
「やはりか!以蔵!!」

真っ白なラフム。
おそらくここに残った職員が変貌したものだろう。
刀を抜き、以蔵は斬りかかろうとするが…

「…。」

ラフムは襲いかかってこず、やがて前後にゆらゆら揺れたかと思えば、大きく後ろに倒れた。
つまり、こいつはもう最初から事切れていたのだ。

「これは…!」

よく見れば銃創がいたるところにあり、さらには切り傷らしきものもいくつか見られる。

そして、ラフムがこうなっているのならそうした本人がいるはずだが、
その疑問は割と早く片付いた。

「動くな。」

物陰から現れた少女がこちらに銃を向ける。
おそらくこの少女がラフムを倒したのだろう。
片手に銃、もう片方にはナイフとラフムの受けた傷と武器は一致する。

「抵抗しなければ悪いようにはしない。私はあくまでここを抜け出したいだけだ。」

と、ボロ布同然の衣服を身にまとった少女はそう答える。
辺りを見回す子安。
この部屋にはいくつもの檻があり、どうやら収容施設として使われていたらしい。

床に散らばった資料。何も無い檻の中には大分時間の経ち赤茶色になった血痕。そして拘束具の数々…。
ここに収容された者達は何をされたのかは安易に想像できるが、考えるのはやめることにした。

そして囚人だったであろうこの女の子は自ら抜け出し、そしてラフムと化した職員をなんと1人で倒した。
下手すれば殺されかねないし子安は大人しく言うことを聞いて両手を上げようとしたが…。

「…。」
「おい、どうした以蔵。」

刀を下げ、以蔵はそのまま女の子に近付く。
女の子もそうだ。
目をぱちくりさせ、持っていたナイフと拳銃を落とすと以蔵に歩み寄った。

「おまん…マスターか…?」
「以蔵…?」

何度も確認し、女の子の目からはボロボロと涙が零れ出す。
どうやら彼女こそが、

「以蔵…以蔵なんだな!?」

この岡田以蔵の、マスターだったのだ。



マスターに上着を羽織らせ、以蔵と子安は走る。
そうしてエレベーターに再び乗り込み、子安はあることに気付いた。

「探偵から聞いた話だが、右腕が飛ばされたと聞いていたんだが?」

以蔵の隣にいるマスター。
話によれば北斎のマスター、葛飾 舞に腕を消し飛ばされたという情報だが、彼女の腕はきちんと両方揃っていた。

「うん。ちょっとした実験に付き合わされてね。実はこれ、サーヴァントの腕なんだ。」

そういい、右手を見せてくれた。
確かに二の腕部分には縫い目らしき継ぎ接ぎが残っている。
しかしそれは非常に雑で、痛ましく見えた。

「すまんマスター…わしのせいで…。」
「以蔵は気にしなくていい。現にこうして耐え抜いて、また以蔵の隣に立ててるんだからさ。」

オモチャとして扱う。
財団の職員はそのつもりで彼女を連れてきた。
だがそこでまた別の人物が遊び半分でサーヴァントの腕を移植してみないかと提案してきたのだ。
腕は縫い合わされたものの、拒絶反応により彼女は苦しみ続け、御奉仕どころではなくなった。
そのうち拒絶反応で死ぬだろう。
そう思われていたが彼女は生き残った。
痛みに耐え、実験は成功だと喜ばれそれからあらゆる薬を投与され彼女はサーヴァントの腕を持ちながら人間として生き抜いた。
そのあり方はまさに

「それに、シロウみたいでかっこいいだろ。片腕がサーヴァントの腕ってのも。」
「随分と呑気なやつだな。お前のマスターは。」

正義の味方である彼のようでもあった。

そうして話し合う内に、チーンと気の抜けた音が鳴る。
最深部。すなわち見えない壁の装置がある場所へと着いたという意味だ。
エレベーターが開き、目の前には頑丈な扉。
中へはいるには一定の階級の者のみが持つカードキーに暗証番号。さらに代表の同伴が必要だが…

「やれるか?以蔵。」
「やれるよ。」
「おうとも。マスターの言う通りわしは剣の天才じゃ。つまりはこの扉も…!」

鞘から刀を抜き、扉を切り裂く。
一瞬火花が散り、そしてズズズという重い音を立てて厚い頑丈な扉は崩れ去った。

「…。」

それと同時に中から漏れる冷たい空気。
さらに、一定の規則で聞こえてくる謎の音。
それはまるで…鼓動のようで…。

「な…!?」
「なんじゃ…あれは!!」

そう、鼓動。
見えない壁の装置は

「あれが機械なのか!?」
「いや、私にはそう見えない。あれは…あれではまるで…!!」

天井にぶらさがるように固定された"それ"は赤黒く、ぬめぬめとしている。
そしてどくん、どくんと脈打つ。
装置と言うにはあまりにもかけ離れているそれは

「心臓だ…!」

巨大な心臓であった。





「もう一回だおっきー!!」
「りょーかい!!全部隊展開!狙いヨシ!」

場面は変わり俺達が獅子奮迅している地上では、つい先程と変わらず大量のラフムと戦っている。

「「乱れ撃つぜーッ!!!」」

おっきーの千代紙部隊達が一斉に発砲する。
一緒になって俺もマグナムを撃ちまくり、目を瞑ってても当たるようなラフムの数に魔力で精製されたゴム弾の嵐を浴びせる。
何十体ものラフムが爆散し、絶命するもどこからともなく次のラフムがやってくる

「ダメだ!キリがねーよ…!」

トリガーを引きまくったせいか指の感覚がそろそろおかしくなって来ている。
しかしラフムは一向に減る気配を見せない。
どれだけここに職員がいたんだよって話だ。

「無駄だ…!天使は潰えない!主人公の僕が…こうしている限り!!」
「だからてめぇはもう主人公じゃねぇっつったろ!!」

ムカつくので正義に一発撃ち込むが簡単に手でキャッチされてしまう。
主人公としての力は落ちているが、やはり弾丸程度なら受け止められるらしい。
ただ、

「く…うぅっ!」

サーヴァントにはかなわなくなってきている。
武蔵の攻撃を受け止めてはいるものの、はじき返す程の力がないのか、彼は防戦一方に追い込まれつつあった。

「卑怯だぞ…!複数で僕に挑むなんて…!」
「何百ものラフムを率いたあなたに…言われたくはないけどね!!」

斬り掛かる武蔵。
正義は咄嗟に剣を出して受け止めるもそれはすぐに役目を終えてしまう。
あれだけ簡単に刀を折っていた正義の武器達は、
今度は逆に、その刀に折られていた。
そう、その分、彼の力は落ちているということだ。

しかしここで

「ぐ…うぅっ!!」

突然正義が膝をつき、苦しみ出した。

「これでトドメ…!」
「武蔵、待て。」

蹲る正義に最後の一太刀を浴びせようとした武蔵だが、大和に止められる。

「どうして?」
「変だ…様子がおかしい。」

刀を鞘におさめる大和。
正義が突然苦しみ出した理由は、武蔵の攻撃によるものでは無い。
もっと別のものだ

「あれは…老化?」

よく見ると胸の辺りを押さえている正義の手はシワだらけになっており、次第に筋肉が衰え、やがては骨と皮だけの身体になっていく。
よく分からないがこれは

「推測だけどよ…。あいつは色んなサーヴァントの霊基を身体に取り込みまくった。副作用も何も考えず、手当たり次第に。」

マグナムをホルスターにおさめ、俺は話を始める。

「主人公という座から下ろされた今、その"ツケ"がまとまって返って来たんじゃねーの?」
「…そうか!」

普通の人間にサーヴァントの霊基を移植、もしくは吸収させるなどそれはもう大変なことだろう。

何でもない人間を疑似サーヴァントにするっていうのは到底無理な話だが、こいつはメアリー・スーを入れられた際『主人公』となったからそれが出来てしまった。
そして、仲間のために無理をして身体を張るのも主人公の特権だ。
副作用やそういったものは全て主人公補正で片付けられ、なかったことにされる。
全て主人公だからという理由で何とかなっていたが、こうして主人公ではなくなった今、
本来来るはずの副作用、無理矢理霊基を取り込んだ拒絶反応。何十騎ものサーヴァントを取り込んだんだ。マトモでいられるはずがない。

「なんだ…これ…!記憶が…頭…が…ぁあ!ああああ!!!」

正義が頭を押さえて苦しみだす。
かきむしると同時にボロボロと抜け落ちる毛。
痩せたことによりギョロりとした目玉がカメレオンのように左右別々の方向へとぐりぐり動く。
混濁してる。
頭の中で取り込んでいったいくつものサーヴァントの記憶が混ざり合い、膨大な情報量となって脳内を掻き回している。

「ぼ、ぼくは!よは!おれは!せっしゃは!わたしは!おまえはきさまはだれ!だれ!だれ!だれだ!だだだだだだだだだだだだれれれれれれれれれれれ」

最後に倒れ、鼻血を垂らして痙攣しながらバグったゲームのように同じ言葉しか発さなくなった。
老人のような痩せ細った身体になり、びくびくと痙攣しながら意味不明な言葉を話す何か。

おそらくかつてのクラスメイトがこれを見たとしても、あの神代正義とは気付かないだろう。
それほどまでに、彼は変わってしまった。

「これが…主人公の末路か。」

最早なんの戦力もない正義に近付き、大和が呟く。

「主人公じゃねーよ。主人公になろうとした精神異常者だ。」
「しかし…なんとも呆気ない最期だったな…。」

このまま何もしなくとも、彼はサーヴァントの情報量に脳が耐え切れなくなり死ぬか、衰弱しまくった身体がやがて死に至らしめるか、
どちらにせよ彼はもう…残っている時間は少ないだろう。

「あばよ正義。最初から最後までうざってぇクソ野郎だったぜ。」

最初はなんてことない、ただのクラスメイトだった。
しかしそんな奴が、まさかこんなところで壁になるとはな。
世界崩壊直後の俺には到底考えられなかったろう。

「クラスメイト…と言ってたな。」
「別になんの感情も湧かねーよ。あ、ざまーみろっていうのはあるな。」
「…そうか。」

こうして主人公、神代正義は撃破された。
俺達という、期間限定の主人公によって。

 
 

 
後書き
⚫葛城財団の内部事情
かつては有能な研究者や指揮者で溢れ返っていた葛城財団ではあるが、今では見る影も無くなっていた。
有能な研究者がいなくなってしまえばあらゆる計画はなくなり、
有能な指揮官がいなくなれば実働部隊も烏合の衆同然となる。
こうして有能な人材が消えていった一番の理由としては代表が上げられる。
彼は非常にプライドが高く、そして気が短い。
少しでも気に入らないことを言えば即刻殺されるし、改善点を指摘すればそれは自分に欠点があるのかと逆ギレし殺される。
さらに葛城財団は1度の失敗も許さない。
何も捕えられなかった実働部隊は連帯責任として部隊全員が惨殺。
さらに何もしていなくとも、気晴らしに殺されたりイライラしている時に憂さ晴らしとして彼らは殺されていく。
そうしている内に重大な役割を持つ者や有能な人材は次々と消えていき、気付けば素人同然の研究者に一般人で構成された実働部隊ばかりという結果となった。
人数不足は各地から来てくれた宗教団体により改善できたものの、有能な人材は確保できなかった。
それによりさらに怒り狂う代表ではあるが言ってしまえば自業自得である。

⚫サーヴァント量産計画
戦力不足を補うために考案された計画。
使い捨てられたサーヴァントを再利用し、産むために特化した身体に改造して新たな兵士を生み出そうとしていたらしい。
計画は順調ではあったものの、考案者が代表の八つ当たりに遭い死亡。
それにより計画は頓挫し、残された者達でなんとか完成させようとしたがそれも上手くはいかなかった。

⚫疑似サーヴァント計画
サーヴァントの霊基を移植し、兵士の強化を狙った計画。
量産計画が量ならば、こちらは"質"を高めるための研究と言ったところか。
子安綾女はこの研究に携わっており、技術サーヴァントの実装は比較的早くなると思われたが完成直前に脱走。
さらに助手としてついていた有能な研究者達もこれまた代表のやつあたりに遭い死亡。
よって計画は凍結。かつて使われた研究所は収容施設として再利用されていた。
ちなみに、この計画の研究データは後に神代正義の疑似サーヴァント化に活かされている。 
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