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Fate/imMoral foreignerS

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バイトの話

 
前書き
どうも、クソ作者です。
舞くんのバイトの話となります。 

 
「なぁマイ、今日くらい行かなくていいだろ?」
「行かなきゃダメなんだよ…!今週は忙しいんだから…!!」

学校から帰り、家に帰ってきた僕。
しかし今日はバイトの日なので制服のまま準備をし、時間が無いので早く行こうとするも、
大体、お栄ちゃんが止めに入る。
腰に引っつかまったお栄ちゃんをズルズルと引きずり、なんとかして行こうとする僕。

「一回、一回だ。一回してくれれば満足するから。ナ?」
「そういっていつも何回もするじゃん…!遅刻の理由考えるの…大変なんだから、ね!!」

いつまでもここで手こずってる訳にもいかない。
遅刻して先輩に迷惑かけるなんてあってはならないことだ。

「帰ったらするから…!」
「いやだ、おれは今シたいんだ。学校のせいで半日も待たされて、もうたまったモンじゃねェ。最近はばいとばいとってそればかりじゃないか。マイはおれとばいとどっちが好きなんだい?」
「それはお栄ちゃんだけど!」

それはそれ、これはこれだ。
なんだかめんどくさい彼女になったお栄ちゃんを強引に振りほどき、とりあえず開放される。

「ああ待てマイ!!なんならおれを連れてけ!!」
「やだよ!!お栄ちゃん絶対なんかするでしょ!?」

最後にそう言い捨て、僕は急ぎめに出ていった。



「ったくよう…人の気持ちも知らねぇで…。」

どれだけねだってもこれっぽっちもしてくれなかったマイ。
玄関のすぐそばで不貞腐れるおれだが、さすがにばいとの事くらいは分かってる。

だが最近、本当に多い。
学校から帰るなりすぐに「じゃあバイトに行くから」といってすぐに出かける。
もしかして焦らされている?いや、マゾのマイにそんな考えなんてあるわけねぇ。

「洗濯物もねぇし、絵も散々描いてきたしナァ。」

こうなった時は洗濯物をあさり、マイの下着で自慰行為にふけるかマイのあられもない姿を絵に描き起こすかするが洗濯は昨日したらしく、脱衣かごは空。
さらにマイの絵もあらゆるシチュエーションを描きすぎたせいで純粋にネタ切れ状態になっていた。

じゃあそのマイのばいと先とやらに行けばいいじゃないかと思うが残念ながらマイは、おれにばいとの事を頑なに話さない。
だからどこでやってるのかも知らないし、どんな仕事をしてるのかも知らない。
まさか人には言えねぇえっちなばいとを…ってそんなわけあるか。

「きるけえのとこに遊びに行くか。」

退屈で仕方ないのできるけえの所に行くことにする。
聞けばあいつは薬の調合において右に出るものはいないそうじゃないか。
アレコレ頼んで、色んな薬でも作ってもらうとしよう。うん。



隣町にある喫茶店、そこで僕はバイトをしている。
ここは元々友作くんが働いていて、僕がバイトしたいと相談したらここを紹介してくれた。
駅の近くにあるため多くの利用客がおり、特に夕方辺りは平日でもうんと忙しくなる。
僕はスタッフさんや同じアルバイトの人達に挨拶を済ませ、更衣室へと小走りで向かって急いで着替えた。

「…よし。」

ネクタイをしめ、更衣室に備え付けられている姿見で身だしなみを確認する。
青を基調とした、シックでかっこいいウェイターの服。

よく女の子みたいだとか言われるけど、こうしている間だけ僕はかっこよくしていられる気がする。
さぁ、これから忙しくなるんだ。急がないと…!

「おはようございます。」
「お、葛城くんおはよう!」

この喫茶店の店長、野中さんに挨拶を済ませ、僕はタイムカードを切っていざ出勤。
夕方のこの時間、学生やら社会人やらでどんどんテーブルが埋まりつつある。
よし、今日も頑張るぞと深呼吸すると、

「よう少年!私に挨拶はナシかい!?」
「!!」

背中をバシッと叩かれ、吸い込んだ空気が強引に吐き出される。
うるさいくらい元気な声、そしてこんな挨拶をするのは喫茶店にて一人しかいない。

「せ、先輩…おはようございます。」
「おはよ。今日も忙しくなるけど頑張ろうね!」

コックコートに身を包み、身長177cmの僕よりも背が高いこの女性の名前は田所 浩美(たどころ ひろみ)さん。
この喫茶店には少し前からいるらしく、厨房を任されるくらいには仕事が出来るし料理上手。
僕はそんな彼女にお世話になりっぱなしなので、敬意を込めて先輩と呼び慕っている。

「ほーらネクタイ曲がっとんぞ少年。」
「あっ、」

姿見で確認はしたもののネクタイが曲がっていた様子。
田所先輩はしゅるりとネクタイを外すと、慣れた手つきで僕のネクタイを締め直してくれた。

「あ、ありがとうございます…。」
「どうってことないさ!ほら!今日も頑張ってこーい!」

くるりと回され、肩をトントンと叩かれ最後に背中を軽く押される。
引っ込み思案で根暗な僕にとって、こうやって明るくてグイグイ引っ張ってくれる田所先輩は何よりの救いだ。
この人がいてくれたからこそ、ここまでやってこれたというものもある。
よし、今日も頑張らないと…!

「うわぁ…すごいな…。」

ホールに出てみればまだ夕方だというのに殆どの机がうまっており、僕と同じ学生のアルバイトさんは立て続けにやって来るお客さんのメニューを聞いたりと対応に追われている。

「ここが正念場だ…よし!」

ぺしぺしと両の頬を叩き、歩き出す。
別のスタッフさんを休憩に入れ、入れ替わる形でやってきた僕。
元気よく挨拶をし、お客さんのオーダーを聞き、田所先輩達が作ったものを迅速に運ぶ。
途中コケたりはこんでいるものを落とさないようにしながら気をつけつつなんとかうまくやっていく。
そうしてやっていき、外も暗くなってきた頃。

「…?」

何か、視線を感じた。

「あれって…?」

入口のガラス戸に目をやると、そこで誰かが中をじっと見つめている。
いや違う。お店の中を見てるんじゃない。
あの子は…僕を見ている?
距離も遠く、そして外は暗いため顔は分からない。
ただその子は学校の制服を着ているのだけれど…

「あれ…うちの制服だよね…?」

着用している制服。
それは僕が通う螺歩蔵第一高校の制服だった。
こんな隣町に何の用だろう…?入らないのかな…?と疑問を抱いたけれどお客さんに呼ばれてしまいその子の正体と目的を突き止めることは出来なかった。
その子は気がついたらもう居なかったし、なんだか少し不気味な感じがした。

さて、

「そろそろ来る頃かな?」

時刻は八時過ぎ。
店の様子もだいぶ落ち着いてきた頃、この時間帯には決まって友作くんとキルケーがご飯を食べに来る。
お客さんの帰ったテーブルを綺麗にし、洗い終わったグラスを吹きながら待っていると

「お、友作が来たよ少年。」

ドアの開閉を知らせるベルの音。
このくらいの時間に来るお客さんは大体友作くんだということは先輩も知っている。
ちなみに友作くん、ここで働いてた頃は元々ホールだったけど、人手が足りない時に臨時として厨房に入り、器用なこともあってそのまま厨房に移ったんだって。

さて、メニューとおしぼりを持って入口まで行くと、そこには友作くんとキルケーが。
しかし、様子がおかしい。
友作くんは何か難しい顔をしてるし、キルケーにいたってはなぜか申し訳なさそうな顔をしている。
どうしたんだろうと疑問に思ったけど、それはすぐに解決した。
そしてそれは、僕にとっても非常に問題のあるものだった。

「いらっしゃいま…」

来客は友作くんとキルケーの二名様、
ではなく今日は三名様であった。
2人の後ろからやってきた人、
それは

「ほぉ、マイはこんなとこで働いてんのかい?にしても笑顔が眩しいじゃないか。」
「」

キルケーが、申し訳なさそうに頭を下げる。

「ごめん。でかけようとしたところに来たんだ。それでマスターがうっかり口を滑らせて…。」
「悪い。バラすつもりはなかった。」

絶対に来て欲しくなかった人が、そこにいる。
来たら困る人が、そこでニヤニヤしながら立っている。

「ほらマイ。お客様だ。いつまでもぼうっと突っ立ってねぇで案内しとくれヨ。」

お栄ちゃんが、
お栄ちゃんがそこにいた。



キルケーと友作くんとは、ある約束をしていた。
それは、お栄ちゃんに僕のバイト先を聞かれても絶対に黙っていること。
お栄ちゃんのことだ、きっとあれこれして僕のバイト先を特定しようとするだろう。
だから僕は先手を打ち、2人にそう呼びかけた。
しかし2人がここに向かう最中、何故かお栄ちゃんと遭遇。
どうしてそこにお栄ちゃんが?と言いたいけどなんでも暇過ぎてキルケーに薬を作ってもらうためやって来たとか何とか。
そしてあれやこれや誤魔化すキルケーだけど、そこで友作くんはうっかり口を滑らせてしまったんだ。

「葛城んところに飯を食いに行く」

って。

「ご、ご注文は…」

そして今に至る。
正直に他の人に注文聞くのを変わってもらいたかったけど生憎みんな休憩中。
僕の休憩時間はもう少しあとなので、嫌で嫌で仕方がないけど聞きに行くことにした。

「俺とキルケーはいつもので。あ、俺だけ飯は大盛りで頼む。」
「いつもので…えーと…。」

このまま2人の注文だけ聞いて逃げ出してやろうかと思った。
でも、目が合った。
悪戯心に満ちたその視線と、いやでも目が合った。

「そちらのお客様は…」
「マイ。」
「え?」
「マイだ。お前さんが欲しい。」
「ふ、ふざけないでよ…。」

こんなところで何を言い出すんだと呆れながら、僕はもう一度聞き直す。

「ご注文は?」
「…。」
「え?」

何か言った。
しかし声が小さくて聞き取れない。
聞き直すもまた小さい声で言うので耳を近づけたら

「ふーっ♡」
「んっあぁっ♡」

息を吹きかけられた。
変な声を上げてしまい、もう少ないけれど周りのお客さん達の視線が僕に刺さりまくるのが分かる。

「おっ、お栄ちゃん!!」
「なんだい。」
「いい加減にして!僕怒るよ!!」
「マイが怒んのかい?おーこわいこわい」

お栄ちゃんはクスクスと笑い、大袈裟なリアクションをしながら僕をからかう。
僕はもう顔から火が出るくらい恥ずかしくてたまらないのに。

「おうい、まだ注文してねぇヨ?」
「お水ですね!!かしこまりました!!!!」(全ギレ)

頭に来たので2人分のメニューだけ聞いて戻る。
お栄ちゃんは腹が立ったのでお水だけにした。

で、

「葛城くん!?あれだれ!?あれマジで誰!?」
「結構仲良さげだったけど…少年もしかしてあの子彼女とか!?」

一部始終を厨房の小窓から覗いていた店長の野中さんと田所先輩からアレコレ聞かれた。
マスターとサーヴァント、という関係は明かせないためなんとか一応親戚の親戚みたいなもので今は訳あって同棲していると誤魔化した。
しかし、

「…?」

それからお栄ちゃんのからかいは続く。
手招きし、なんだろうと思い近付いてみれば

「んっ、むぅ!?」

ネクタイを引っ張り、こんなところだと言うのに強引にキスしてきたり、

「ひゃあっ!?」
「おっといけねェ、つい色気のある尻が目の前にあったんでナ。」

近くのテーブルを掃除していたらいきなりお尻を掴まれるし、

「暑いねェ、ここくうらあ効いてんのかい?」
「効いてるはずだけど…って!?」

暑がるふりをして、上着の襟を引っ張って胸を見せつけたり
もうとにかくたまらなかった。
そして僕が今までお栄ちゃんにバイト先を教えなかった一番の理由が"コレ"だ。
ちょっかいを出してきて、仕事にならなくなるから。
もし教えればお栄ちゃんは絶対に来るし、僕をからかう。
だから嫌だったんだ。
恨んでやる…友作くん、俺口硬いから安心しろって言ったのに…!

ちなみに友作くんとキルケー、お栄ちゃんにやめてあげなよと言ったらしいがこう返されたとか。

「マイを見てみろ、いじめたくなる顔してるだろ?ちょっかい出す度にかわいい反応するもんだから余計にだ。」

とのこと。




「はぁ…もうやだ。」

やっと休憩時間。
事務所の椅子に座り込むと、どっと疲れが押し寄せてきた。
なんだろう…ものの3時間なのに朝からフルでバイトしたくらいの疲れだ。

「はぁ…。」

2度目のため息。
これから先、どうしようかなぁと不安のため息だ。
だってお栄ちゃんにはバイト先バレちゃったし、絶対僕がバイトあるたび来るだろうし、そのたびにあれやこれやちょっかい出されてからかわれるだろうし。
もう僕の憩いの場は学校だけになっちゃうよ…。

「よっ。おつかれさん。」
「あ、先輩…。」

うなだれていると頭にぴとっと何か冷たいものを押し付けられる。
顔を上げてみればそこにはペットボトルを差し出す先輩の姿が。

「それで良かった?」
「あ、はい…ありがとうございます。」

隣に座り、自分の持っていたコーラの缶を開けて飲む先輩。
僕もいただいたミルクティーを一口飲んで乾いた喉を潤した。

「にしても少年、彼女がいるならいるで言ってくれよなー?」
「ああ…すいません。ってあの子は彼女じゃないですよ!!」
「前はよく仕事終わりのラーメン付き合ってくれたのに…最近付き合い悪いなーなんて思ってたらそういうことだったのか!謎は全て解けた!」
「だっ、だから違いますって!」

顎に手を当て、名探偵っぽく言っておどける先輩。

「いやーでも青春よのぉ。いいんだぜ少年。今ある限られた学生生活という時間。それは今しかないんだからうんと楽しんどけ!じゃないと死ぬほど後悔するぞ!」

と言い、背中をバンバン叩いてくる先輩。
先輩、と慕うこの人だが実は僕とそんなに歳は変わらない。
だってこの人、年齢は十八歳だ。

「死ぬほど後悔するって…先輩は?」
「あ、あーうん。私はやりたいことがあったから中退した。あと私の学校クソつまんなかったしね!」

本来なら、田所先輩は高校三年生だ。
だけど今この人はこうして喫茶店の調理場に立っている。
死ぬほど後悔する。
この言葉はやはり、自分の体験から言っているんだろうか。

「先輩の通ってた学校って、どこなんです?」
「えーそれ聞く?死ぬほどつまんないよ。」

いつも不思議に思う。
この人は、自分の昔の話になるとすぐに逸らそうとする。
まるで…触れられたくない過去みたいに。

「それよりさぁ少年!ちょっと今やってるイベントのここがクリアできないんだけど…」

そう、こうやって。
話題転換に先輩が見せてきたのはスマホ。
そこに映っているのはFGOだ。

「これって…だめじゃないですか!相手ムーンキャンサーですよ!」
「えっ、えーとじゃあ…」
「ロボはだめです。入れたい気持ちは分かりますけどここは別の方が…。」

先輩がFGOを始めたキッカケは、僕だ。
休憩中、僕がやってるのを見て始めた。
最初は何が何だかまるで分からず、僕にあれこれ教えて貰いながら進めた。
そうして苦戦しながらもついこの前、無事に人理修復を達成出来た。
ちなみに田所先輩の推し鯖は話にも出てきた通り

「じゃあロボはお留守番か…。」
「そうですね。確かにステータスはこの中でいちばん強いですけど相性不利となるとさすがに…。」

へシアン・ロボだ。
元々先輩は犬好きで、始めた時たまたまピックアップしていたものだから衝動的に引いてしまったらしい。
聖杯とかも遠慮なく捧げ、最初からいてくれた彼(?)はもう少しで絆レベルが10になる。
と、田所先輩はロボに多大な会い所を注いでいるけど僕からしたら、その狼はもう二度と見たくないサーヴァントだった。
だって、この前の桐生のこともあるし、何より右腕を噛まれたから。

「そういや少年は…まだ出来ないんだっけ?」
「はい…そうなんです。」

ちなみにFGOができなくなったことは先輩も知っている。
そうしたらお栄ちゃんが来ました、なんてことは言ってないけど。

「誰だっけほら、少年のお気に入り」
「北斎ちゃん、ですか?」
「あーそうそうそれ!新しいクラスだよね!アレ強いの?」
「あぁ、強ぇヨ。」
「へーそうなん…え?」

お栄ちゃんは強い。
しかしそう答えたのは僕じゃない。

「えっ、あっ、彼女さん!?」
「お栄ちゃん!?どうしてこんなところに!?」

お栄ちゃんだ。

「しばらく出てこないもんだからこっちから来てやった。」
「お栄ちゃん!!ここ従業員だけしか入っちゃいけないの!!」
「知るか。おれァマイのお栄ちゃんだぞ。」
「関係ないから!!」

奥の方からは友作くんの「本当にすいません」という声。
おそらく止めてくれたんだろうけど、だめだったみたい。
で、お栄ちゃんの視線は僕から隣りの先輩に移ると

「で、マイ。そこの馴れ馴れしい女、誰だい?」
「お、私?あーごめんごめん。別に彼氏とるつもりはないんだよ!」

冷たい視線に変わる。
先輩は笑いながら大袈裟にどくリアクションをするも、お栄ちゃんの顔は不機嫌なままだ。

「いやいやどうも。私この喫茶店での少年の保護者をやっております、田所って者です。以後お見知り置きをー。」
「…。」

お栄ちゃんの手を掴み、深々と頭を下げながら握手する先輩。
いやそれでもダメだ。
お栄ちゃんの機嫌はまだ悪い。

「ところで彼女さん!」
「あ?」
「少年のどこが好きになったんです?チャームポイントは?」
「えっ、せせせせせ先輩!?」
「…。」

だめだ!
もとよりこの人お栄ちゃんの機嫌が悪いのをわかってない!
脳裏に浮かぶのは、お栄ちゃんにボコボコされた桐生。
このままでは先輩もあんな風に…!

「犬っぽいとこ。」
「…へ?」

焦る僕、
難しい顔のお栄ちゃんはそう答えた。

「可愛げがあって、ときおりいじめたくなる。ちょっかいを出してやると反応も可愛くてな。益々からかってやりたくなる。」
「…へー。」

うんうんうんと頷きながら納得する先輩。
そして僕の方を向くと。

「うん。やっぱり犬だよ。少年。」
「えっ」

とだけ言った。

「私の言うこときちんと聞くし、なにか出来たらもの欲しそうな目で私を見る。」
「な、なんですかもの欲しそうな目って。」
「犬みたいに頭撫でてやると可愛いんだなこれが。嫌がってるフリして満更でもない顔するんだ、少年。」
「やっぱりそうかい?」

やっぱりってなんだ、やっぱりって。

「彼女さんもそう思います?」
「おうともサ。前々からマイは犬っぽいって感じてたからナ。マイの先輩のアンタもそうなんだろう?」
「あ、たどちゃんでいいです。」

おかしい。
さっきまで流れていた険悪なムードは消え失せ、いつの間にか同じ意見で気が合い、意気投合している二人が。
そして気がつけば…

「たまにマイも男らしくてナ。なよなよしているかと思ったら言いたいことはキチンと言う。」
「そっかぁ…最近少年がほんのちょっぴり明るくなったのは彼女さんのおかげなんだねぇ。」

お客は少なくなり、テーブルを挟んで仲良く離すお栄ちゃんと田所先輩。

「おい…葛城。」
「…。」
「あれどうなってる?なんで田所さんと北斎があんな仲良く話してんだ。」
「ぼくもわからない。」

ともかく、ボクが考えうる最悪の展開にはならなくて済んだ。

「おーいしょうねーん!」
「?」

先輩に呼ばれ、なんだろうと思い駆け寄る。
すると、

「休憩終わったらさ、これに着替えようよ。」
「…え?」

お栄ちゃんと先輩が僕にみせてきたのはこのお店のウェイトレスの制服。
そう、ウェイトレス。
女性用の制服を差し出してきた。

「な、なんで!?僕男ですよ!!」
「いやー、彼女さんとお話させてもらってる間に気があっちゃってさー。少年、女の子みたいな顔してるよねーって。」
「だからここはうぇいとれすの制服を着てもらおうって話になったわけだ。」

わけわかんないよ。
とりあえず休憩時間ももう終わる。
僕はそんな罰ゲームみたいなことはお断りだと言ってタイムカードを切りに行こうとするが…

「えっ、わっ!?」

お栄ちゃんが掴みかかる。
逃げようとするも足は先輩に抑えられ、僕はあっという間に2人に捕われ、担がれた。

「やめて!!誰か!誰か助けて!!」

周囲にお客さんがいるのも気にせず、僕は叫ぶ。
女装?そんなの死んでも嫌だ。
ただでさえ女の子に間違えられるのにこんな屈辱的なことされてたまるか。
それに女装なんかしたら、人として…ううん、男として大切な物を失う気がする。

「友作くん!!キルケー!!」
「あ、すいません。お会計お願いします。」
「お願い!!おいてかないでぇ!!!」

報復が怖いのか2人は手を貸してくれない。あろうことか逃げてしまった。
頼れるのは自分のみ、だから精一杯抗った。
しかし非力な僕はサーヴァントのお栄ちゃんにも、学生時代は水泳をやってたらしい体育会系の先輩にも一切適わず、そのまま無慈悲に更衣室へと連れていかれた。

で、


「うう…!」
「おお…やっぱり似合うねぇ!」
「おれの目に狂いはなかったナ!」

ホールに立たされた僕。
そこそこ短めなスカート、上下青を基調とした服に可愛らしくアレンジされたオシャレなエプロン。
この制服は女子高生からは割と人気あるらしく、それを理由にバイト志望をする学生も少なくないという。
ただ、

「えーすごくない少年?男物よりこっちの方が似合ってるよ!今日からソレね!」
「ほらマイ、お客様だ。いらっしゃいませって言うんだヨ♡」

殺して欲しい。
この制服だって僕みたいな男に着られたくないはずだ。
で、これを着たことによる周囲の反応なんだけど

「あ、誰かと思えば葛城くん!?あんな新人いつ入ってきたのかと思ったよ!」
「え…やば…あれで男?なんかうち女として負けた気がする…。」

僕と同じようなアルバイト達からは絶賛の嵐。
さらに

「いいんじゃない?たどちゃんもそう言ってるしさ。明日からそれでもいいよ。」
「だとよ少年。じゃあ前の制服は業者さんに返却するとして…」
「絶対に!!!!!!嫌です!!!!!」

店長さんからも許可をいただいた。
どうなってるんだこのお店…。

「なーんだ。ぱんつは女物じゃねぇのかい。」
「めくらないでよ!!!」

相変わらずちょっかいをかけるお栄ちゃん。
バイトが終わるまでは約一時間。
普通に考えればそこまで長い時間ではないけれども、

今日の僕にとってそれは苦痛の時間だったし、たった1時間でも無限のように感じられた。





それから、
バイトは終わり、帰路に着く僕。

「つかれた…。」

自転車を押してとぼとぼと歩き、本日何度目かもう分からないため息をつく。

「見たかいマイ。最後の客、お前さんが男なんて気づいてなかったナァ!」

そして隣を歩くのは、僕とは対照的にウキウキして嬉しそうなお栄ちゃん。
そう、バレなかった。
大してメイクとかそんなものもしてなかったのに、お店が閉まるまでの間事情を知る物以外には僕が男なんてバレなかったんだ。

「うん…そうだね。」
「なぁにしょぼくれてんだい。おれァ褒めてんだ。」

女装が似合うね、なんて褒め方されても嬉しくないよ。

「にしてもあの先輩…たどちゃんだったか。」
「…?」
「面白い人だ。おれと話も合うし今度また来ようかと思う。」
「やめてよ。」

お栄ちゃんと仲良くなれる人がいた、というのは予想外だった。
それもよりによって先輩と来た。
僕としては嬉しいような寂しいような複雑な感情だけれど…でも一番に言いたいのは

「もう来ないでね。」
「なんでだい?」
「絶対にちょっかいだすでしょ。先輩と一緒に。」

もう来ないで欲しい。
バイトのたびに今日みたいなことがあるなんて考えたくもない。
それに、

「どうしてだい?おれまたマイの女装姿が見たくてナ。今度一枚描こうと思ってるんだが」
「描かなくていいよ!それにもう絶対しないから!!」
「そういや先輩、この制服いらないですってマイの前のやつ店長に返してたぞ。」
「うそ…でしょ?」
「冗談だヨ♡」

そう言ってお栄ちゃんは豪快に笑うが僕はそれどころじゃない。
そんなことが本当だったら僕はバイトで羞恥プレイを強いられるようなものだから。

「よーし、帰ってせっくすだ。今日は何がいい?」
「お尻以外ならなんでも…って、あれ?」

いつもの話をしながら、僕とお栄ちゃんは歩いていた。
しかしそこに、奇妙なものが現れる。

「人…?」

人がいた。
まるで僕等の行くてを阻むようにして、仁王立ちで立っている。
何よりもおかしいのが…

「お栄ちゃん…何かあの人おかしいよ。」
「ああ。鎧来て歩く傾奇者がいるみてぇだナ。」

鎧、その全身に甲冑を纏っていた。
さらにその手には槍。
やたらと大きいその鎧の人は、槍を持っていた。
そして、

「おい。」
「…!!」

喋った。
甲冑の中から、くぐもった声が反響して聞こえる。

「てめぇら、フォーリナーとそのマスターだよな?」
「ふぉ、フォー…リナー…!?」

その鎧の男は、確かに言った。
フォーリナーと。
一般人ならまず知りえない言葉。
こいつは…まさか…!

「マスターからの命令だ。死ねや。」

サーヴァント…。

そう思った時、目の前の鎧男は槍を振り上げていた。

「…!」

動けない。
動きたくても、恐怖に支配されて足が動いてくれない。
このままでは僕は真っ二つにされる。
そう思ったけど

「…ぐっ!!」

間に入ったお栄ちゃんが大筆でその槍を受け止めた。

「マイ!隠れてろ!!」
「ほぉ、やるじゃねぇか。その細腕でオレの人間無骨を受け止めるなんてよォ!!」

鎧男は槍を振るい、お栄ちゃんをはじく。
吹き飛ばされたお栄ちゃんは空中で身をひねり、私服から普段の着物へと霊基を変換させ着地した。

「誰だい?アンタ。」
「オレか?これからぶっ殺す奴に名乗る名は持ち合わせちゃいねぇな。」

言葉遣いからして鎧男はかなり気性の荒い男だと言うことが分かる。
でも…正体は分からないにしてもこいつはなんだ?
僕を殺しに来た?まさか…桐生の仲間?

「大人しくそこどけやフォーリナー。そうすりゃてめぇだけは瀕死にとどめてやるよ。」
「断る。」
「ああ…そうかよ。」

鎧男が踏み込み、アスファルトがへこむ。

「じゃあてめぇをぶっ殺して!マスターも始末させてもらうとするぜェ!!」
「やってみろ鎧男!返り討ちにしてやらァ!!」

お栄ちゃんも筆を振るい、跳んだ。
そうして誰も知らない深夜、
サーヴァントの戦いが唐突にして始まった。


 
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