『外伝:赤』崩壊した世界で大剣豪とイチャコラしながら旅をする
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恋愛-しゅぎょう-
前書き
こんにちは、クソ作者です。
先に言っておきますが、クソ作者は真っ当な恋愛を書くのが苦手です。
ヤンデレやSM、そういった歪んだ恋愛は得意なのですが王道を行くイチャラブやら甘々なやつはどうにも苦手なのです。
書いててクッソ恥ずかしくなります。
そういったことを踏まえ、今回の話をお読みください。
あ、ここクソ作者悶えながら書いたんだろうな…と思いながら読んでいただくと幸いです。
それではどうぞ!
一つ、彼の願いが聞こえた。
彼の人生はひどく平凡で、またひどくつまらないものだった。
子供の頃は友達はそれなりにはいたが、社会に出てからは彼は文字通り奴隷となった。
なんの刺激もなく、なんの楽しみもなく、
行きたくもない会社といつ崩れてもおかしくなさそうなボロいアパートを行き来するだけの毎日。
休日出勤なんてのも当たり前だったし、飲み会だって義務として無理矢理飲みたくもないものを飲まされ聞きたくもない上司の長々とした武勇伝も聞かされた。
自分の時間もなく、心休まる時はわずかしかなく、
次第に彼の心はじわじわと死んでいく。
そんな中、死ぬ間際彼の願いが…大和くんの願いが私の胸中に伝わってきた。
つまらない人生とおさらばできるなら大歓迎だ。
ただ、
人並みの恋愛は…してみたかったと。
私は…生涯を刀と共に生きてきた剣豪だ。
そんな私に、彼の願いを叶えるのはほぼ無理なのはわかってる。
でも、私は彼のサーヴァントだ。
どうにか出来ないか…なんとかしてあげられないか?
色々考えるものの、込み上げてきた羞恥心が勝って何も出来ず終わってしまう。
何か距離感を縮められるものはないか、
そう悩んでいた時、大和くんからあの話を持ちかけられた。
私の弟子にして欲しいと。
弟子ってなんだ。そしたら人並みの恋愛が余計に出来なくなるんじゃないか?弟子と師匠って、余計に距離感が遠ざかっちゃいないだろうか?
しかし他にどうにもできなかった。
大和くんの目は本気だったし、断ったとしてもそれでも何度も頼み込んでくるだろう。
私というサーヴァントに、相応しいマスターになりたい。
あれだけ大切にしてくれたんだ、もう充分相応しいよ。
そんな簡単なことも言えず、私は…。
「ほらほら!遅い遅い!」
「っ…くぅ!」
昨日の雨が嘘のように晴れ渡る中、
私は大和くんの稽古に付き合っていた。
不思議な力で出てきた紅い刀を使い、私に無我夢中で打ち込んでいく。
1本でも取れたら勝ち。
さらに私は腕一本のみ動かしていいとハンデをつけてはいるが、今現在有利なのは私だ。
「ダメだ…っ!」
「ほら休まないの。ならこっちから行くわよ!」
攻めるだけ攻めさせてあげたんだから次はこっちの番だ。
肩で息をする大和くんに接近し、峰ではあるものの、本気で打ち込んでいく。
「っ…!」
ギリギリで防いでいるものの、疲弊しているせいか今にもうち負けそうだ。
しかしここで手加減してあげるほど私は優しくない。
「ごっ!?」
刀を手の内でくるりと回し、柄を大和くんの鳩尾にめりこませる。
肺の中の空気が無理矢理出された呻き声を上げ、大和くんはその場にしゃがみ込んだ。
「はい、今日の稽古おしまい。」
刀を鞘に戻し、パンパンと手をはたく。
「いや、まだだ…!」
「無理はしないの。体壊されても困るんだから。」
刀を杖代わりにして立ち上がろうとする大和くん。
だめだ、彼は焦ってる。
一日でも早く、私に相応しくなるんだと急ぎすぎているんだ。
「まだ…やれる…っ!」
3時間ほどつきあっただろうか。
腕には峰打ちでやられた打撲痕があちこちにあるし、これ以上すればまともに刀も握れなくなるだろう。
実戦で何も出来なくなっては元も子もない。
「大和くん。休憩しましょ?」
「でも…まだ…あっ!?」
一歩踏み出そうとした彼だが、疲れがたまってたんだろう。
普段通りに動かない足にとられ、見事につまずく。
そのまま倒れる大和くんだが目の前にはわたしがいるわけで…
「…った。」
「…。」
私を巻き込むように、押し倒す形で転んでしまった。
「…!ご、ごめん!!」
自分のした事に慌てて謝罪しすぐにその場からどく彼。
「あ、あの…俺…!」
「疲れてるんでしょ?だったら無理しないの?」
押し倒した際、大和くんの顔がすぐ近くまで来た。
大和くんは恥ずかしいのか私から必死に顔を逸らしているも、1番心が落ち着かなくて仕方がないのは私の方だった。
(触れた…のよね?大和くんに…。)
彼に触れた手、そして身体が熱くなる。
これは…なんなのだろう?
恋?いや、そんな単純なものじゃないはずだ。
そういえば、私以外にもこの世界にはサーヴァントが存在していると聞いた。
そしてさらに聞くところによれば…互いに身体を重ねる行為…魔力供給というものも行っているとか。
いや、そんな大義名分ではない。
中には互いに愛し合い、欲望のままに身体を交えることだってあると聞く。
いや、そんなこと私に出来るわけない!そういうのはなんかこう…色々と段階を踏んでやるものじゃない?
まだ握手することにものすごい勇気を振り絞る有様なのにいきなりそんなことするなんて…
って何を考えてるんだ私!
「武蔵ちゃん?」
「わぁ!?」
気がつけば目の前には大和くんの顔。
びっくりして今度は私がすっ転んでしまった。
「な、なにいきなり!?」
「いやその…ボーッとしてたからさ…。」
そういい手を差し出される。
「し、師匠としたことが…す、少し油断してました。」
申し訳ないけど差し出された手を無視し、自分で起き上がる。
ともかく…大和くんの人並みの恋愛がしてみたい。
そういった願いは確かに私に聞こえた。
けどできるのだろうか?望みを叶えられるのだろうか。
大和くんは変わりたいと思ってる。
そしてまた私も…もしかしたら変わらなきゃいけないのかもしれない。
「その…大和くんはさ…。」
「いや、待って。」
何か話そうとした時、大和くんが待ったをかけた。
「どうしたの?」
「なにか聞こえる…こっちだ!」
聴力も強化されていたのだろうか、何かを聞き取った大和くんはどこかへと走り出す。
私も後を追いかけてみればそこには
「これは…!!」
横転したスクーター
過積載された荷物。
そして、傍らには血を流して倒れている運転手の姿。
「う…うう…。」
「大丈夫ですか!?しっかりしてください!!」
呻き声を上げているということはまだ生きている。
おそらく大和くんはこの声を聞き取ったんだろう。
近くに魔物の気配はない。
とすると…これは事故か。
「大丈夫ですか!?」
「こ…この荷物を…!」
ヘルメットを被った若い男性はスクーターに積まれた荷物を指差す。
「北の…集落に…!」
「北の!?そんなことより怪我を…!」
頭から血を流している。
おそらく骨折もしているだろう。
私達に助けられるレベルではない。
それに
「届けて…欲しい…たの、む…!」
助けに来るのが遅すぎた。
もう少し早ければ、応急処置なりなんなり施して生きながらえたのかもしれない。
「そんな…。」
「多分荷物を積みすぎて事故しちゃったんでしょうね。道もだいぶ荒れてるし…。」
上を見る。
ガードレールは壊れ、そのまま下に落下しただろう。
おそらく道路だってロクに整備されてないはずだ。
そんな中、限界まで荷物を積んで荒れた道を走ってみろ。
こうなることは目に見えていたはずなのに。
「それと…これを…!」
「…?」
大和くんが紙を渡される。
この辺りの地図であろうものと、封筒…おそらくは手紙だろう。
「渚に…たのんだ…!」
そういい、男はがくりと頭を垂れて事切れた。
「…。」
大和くんは黙って地図を広げる。
この辺りであろう場所、そこから北へと進んだところが赤い丸で囲ってある。
これが目的地ということなのだろう。
「…武蔵ちゃん…。」
「まさか…運ぶとか言い出すんじゃないわよね?」
大和くんは立ち上がってこちらに向き直る。
その目には、信念が宿っているのが分かった。
こんな世界だ。他人に構ってやれるほどの余裕なんてないし優しくもない。
ましてや死人の頼みを引き受けるなんて
「ああ…運ぶよ。」
「…本気?」
そうして大和くんは積荷を確認していく。
「でも大和くん…!」
「大丈夫…今の俺ならこれくらい持てるから。」
「そういう問題じゃなくて!!」
人を助ける。
それはいいかもしれない。
しかし彼は死人だ。それに
「余裕なんてないでしょ…大和くん。」
彼に、それが出来る余裕なんてあるわけない。
稽古の疲れもある。
それに、もし魔物と遭遇したら?
重い荷物を持ったままでは満足に戦えないだろうし
けど
「ないけど…託されたからにはやらないと。」
彼は言っても聞かない頑固な人間なのは知ってる。
それに、人助けをする性分なのもだ。
でなければあの時、自分の命を顧みずデーモンから女性を守ったりしない。
「…わかった。」
だから私は、渋々了承した。
「でもそんな大荷物…大和くん一人で持てるの?」
「…だ、大丈夫…!」
積荷を一纏めにし、背負う。
踏ん張ると足にこの前のような赤い閃光が迸り、大和くんは難なく背負ってみせた。
「うん…大丈夫だ…今の俺なら、これくらい重くない…!」
身体中痛いだろうに、疲れ切っているだろうに、
彼は託されたからという理由だけでこうしている。
こんな世界になってしまった今、他人を助けてやれる余裕なんてないのに。
⚫
それから
野晒しでは良くないと死んでしまった男を埋葬し、木の棒を立て花を添えただけの簡素な墓をたてた。
地図によればここから北に10キロ。
赤い丸で囲ってあるそこにこの荷物を届ければいいんだろう。
中身を確認してみると食べ物、そして薬や包帯などの医療道具。
きっとあの男は…これを届けるために無茶して…。
「その…大和くん?」
「なに…?」
しばらく歩いていると武蔵ちゃんが心配そうに話しかけてくる。
「少しくらい…持ちましょうか?」
「ううん…大丈夫。代わりにそれだけ持ってくれればいいんだ。」
荷物を持たせることはしない。一応師匠なんだし。
けど今はとりあえず竹刀袋を持ってもらってる。
中身は勿論、あの時の紅い刀だ。
「それにこれも…修行の一環だと思えばさ…!!」
踏ん張る度、足にばちばちと紅い雷が走る。
そうすると荷物が軽くなった気がして、まだ頑張れる。
頑張れ俺…託されたからには…やらないと。
「…!!」
草むらからガサガサという音がし、咄嗟に顔を上げ身構える。
そこから顔を出したのは真っ黒な体毛に2本の牙
間違いない……魔猪だ。
「っ!」
荷物に姿勢を崩されながら後ずさる。
魔猪の狙いは…俺の背中の荷物。
積まれているものが食べ物だと理解すると、即座に草むらから出てきて俺に狙いを定めた。
1匹だけじゃない。
2匹、3匹…
計5匹の魔猪がやってきた。
「武蔵ちゃん…刀を!」
これは俺が引き受けたこと。
だから荷物も自分が守らなきゃならない。
うしろにいる武蔵ちゃんに手を伸ばし、刀を渡してもらおうとしたが…
「え…。」
刀は渡されなかった。
その代わり、
「!」
俺の横を走り去り、すれ違いざまに魔猪達を一刀のもと斬っていく武蔵ちゃん。
数秒とかからず、突然やってきた脅威は沈黙した。
「武蔵ちゃん…?」
「弟子がそんなに頑張ってるのに、師匠が何もしないわけないでしょ。」
そう言いながら、刀についた血をはらって鞘に収める。
「ほら、届けるなら早いうちがいいわよ。日が暮れたらきっともっとヤバいのに襲われるだろうから。」
「あ、うん。そう、だよな…。」
守ってくれたことに感謝し、俺は再び歩み始める。
「ほんと…自分の事だけで精一杯なくせに、人の為にどこまでも頑張る人なのね、私のマスターは。」
「…?今なにか言った?」
「ううん。なーんにも。」
聞き直そうとしたがほら急いだ急いだと急かし、武蔵ちゃんはぐんぐん前に進んでいく。
俺もまた、彼女に置いていかれないよう必死について行く。
日が暮れないうちに早く行こう。
「…にしても。」
歩いているうちに丘のようなところについた。
元は街だったであろう場所が一望出来るが、かつての面影はもうない。
「本当に…こうなっちゃったんだな。」
ビルは倒壊し、巨大な木々はアスファルトどころか建物を突き破って高く伸びている。
ゲームとかでよく見た、人がいなくなった街の末路みたいだ。
日はまだ沈んではいない。早く北へ行かなければ…。
後書き
遅すぎる登場人物紹介
⚫竜胆 大和(りんどう やまと)
25歳社畜。
世界崩壊の際、デーモンに殺され一度は死んだがなんやかんやあって復活。
髪は白くなり、落ちた体力と視力は全盛期以上になって蘇った。
こうなった原因は武蔵にも分からないが助けようとした際、魔力に飲まれてこのようになっていたとのこと。
何か自分の思うものを生み出せる力があるようで紅い刀を作り出した。
今回の鞘も同じである。
そして次節迸る紅い稲妻だがこれは魔力である。
魔力が彼の身体を駆け巡り、力を与えているのだ。
しかしその魔力がどうやって生み出され、どこから来ているのかは一切不明。
⚫宮本 武蔵(みやもと むさし)
みんな大好き大剣豪宮本武蔵。
大和のカルデアから来ており、半年ログインしていない彼を心配していた。
世界が崩壊し、こうして彼の世界に来られるようになったことを心のうちではかなり喜んでおり、一緒にいられて嬉しいと思っている。
さらに、童顔で顔のいいイケメンということもありテンションはまさに鰻登りひつまぶし。
しかし、彼にその好意は伝えられずにいる。
召喚された際聞こえた彼のひとつの願いを叶えてあげたいが、自分に素直になれず中々踏み出せずにいる。
幾多の修羅場をくぐぬけたとしても、たった1人の男に好きという気持ちを伝えるのは彼女にとって何よりも難しいことなのであった。
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