『外伝:赤』崩壊した世界で大剣豪とイチャコラしながら旅をする
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目的-やりたいこと-
村に現れた巨大なドラゴン。
俺達はそれをなんとかするべく村へと急いで戻ったのだが…。
「すまない…召喚されたばかりで身体が慣れず…ついうっかり宝具を発動してしまった。」
なんとそのドラゴン。
敵ではなく味方。しかもサーヴァントだったのだ。
「いきなりスマホが光って、そしたらジーク君が…。」
召喚されたのはApocryphaにて主人公をつとめたホムンクルスであるジーク。
突然渚ちゃんのスマホが光り、気が付いたら目の前にいたのだと言う。
というか、この子もマスターだったんだな…。
「来るのにだいぶ手間取ってしまった。本当ならもっと早く来てマスターの危機を救うのがサーヴァントの役目のはずなのに…すまない。」
「いいんだよ。ていうかさっきから謝りっぱなしだよジーク君。」
「す、すまないマスター。」
笑う渚ちゃん。
なんだ、こんな自然に笑えるのか。
辛いことばかりだったろうけど、サーヴァントが来てくれたからにはもう安心だろう。
「それじゃあ、夕飯の支度に戻りますね!」
「ああ、うん。」
そう言い、渚ちゃんは女性達が準備している調理場へジークと一緒に戻って行った。
「これなら…安心だな。」
「そうね。」
サーヴァントの召喚に成功したことは非常に嬉しいことだ。
この村だってきっと、もっと良くなる。
「にしても…。」
と、武蔵ちゃんが俺の方に視線を移す。
その先には勿論、先の戦いで俺が生み出した鞘の役目も果たしているメイスだ。
「一体なんなのかしら、それ。」
「分からない。むしろ俺が聞きたいくらいだよ。」
紅い刀、そしてメイス。
俺はこれまでに2つの武器を創造した。
原理も、仕組みも一切不明。
ただ分かることとすれば
「俺にはそれを生み出す力がある。でも、何で俺にそんなものが備わってるのか分からないけど…。」
「結局…分からないことだらけね。」
武蔵ちゃんもお手上げのポーズをとる。
ただこれは…この力はきっと宮本武蔵にふさわしいマスターになる為に必要な力なんだ。
弱かった俺を、強くしてくれる力。
「これがなかったら…俺は武蔵ちゃんにふさわしいマスターにまずなれないだろうし。ともかく感謝しなくちゃな。」
「ふさわしいとかふさわしくないとか…召喚した時点で大和くんは私にふさわしいマスターなのに…。」
「え?なんか言った?」
「ううん、なーんにも。」
聞こえなかったけど小言じみたことだろう。
この力に頼りきらず、自分の力で強くなりなさい的なことを言ってたんだと思う。
剣の腕はまだまだひよっこだ。
これからもっと修行もとい稽古をつけてもらわなきゃいけない。
頑張らないとな。
⚫
「物資からモンスター退治まで…何から何まで本当にありがとうございます!」
「いやいやそんな…。」
「どうぞこちらのお部屋でゆっくりお休み下さい!」
村の皆から感謝され、食事を提供してもらいさらに俺達は部屋が空いているからそこを使ってくださいと言われた。
至れり尽くせりで、こちらがお礼を言うべきだろう。
しかし彼らは大きな掘っ建て小屋にて布団を敷き詰め、雑魚寝しているが俺達だけ部屋一つ貸し切ってしまっていいのだろうか…?
俺は勿論、遠慮しようとはしたんだけど
「部屋までなんて…さすがにいいです。俺達は野宿でも…」
「いえいえ!ありがたく使わせていただきます!こちらも旅の最中で疲れてまして!あ、ついでにお風呂あります?え、ない。そうですか。」
図々しいにも程があるぞ武蔵ちゃん…。
ともかく部屋は仕方なく使わせてもらう。
「施しは遠慮しないの。気持ちだけ受け取っとくとかそういう事はしないで貰えるものは貰っとくの。」
「…。」
部屋に入るなりそう言われる。
生憎こっちは社会に出てから遠慮が大事って叩き込まれてきた人だ。
自分がこんなにされていいのか?こんなことして貰っちゃっていいのか、とか変に意識してしまう。
周りも頑張ってるんだから自分はもっと頑張らないといけない。自分のような人間はまだまだやらないといけない。
とまぁ社畜精神というかなんというか、そんなものが染み付いてしまっている。
「武蔵ちゃんは…遠慮を知らないよな。」
「当たり前じゃない。生きるためなんだから。」
…。
生きるため…か。
「その…生きるため、なんだけどさ。」
「…?」
ベッドに座り、後はもう寝転がって寝るだけでーす状態の武蔵ちゃんに俺は思ったことを話す。
いや、思ったことというよりかは、やってみたいことだ。
「なんだろう…生きるためというか…目的、やりたいことって言うのかな…?」
「やりたいこと…ふーん。なに?」
この件を通して、俺は分かったことがある。
「世界がこうなって、世の中には不便な思いをしてる人がたくさんいると思う。」
「そうね。」
「誰も皆余裕がなくて、分け合えるものを奪い合う。会いたい人にも会えなくて…心が荒んでいくと思う。」
この世界全部を見たわけじゃない。
でも、確かにこの崩壊した世界は人の心も荒んでいる。
ホテルに宿泊した際、テレビで見た。
モンスターに怯えて暮らす人々、協力するかと思えば、人のものを殺してでも奪う。
大切な人に先立たれた者。
モンスターに襲われ、追い出されるようにかつての故郷を去った者。
だから俺は…
「俺は…そんな人達の架け橋になりたいって思ったんだ。」
「架け橋…?」
「そう、架け橋。具体的にはなんというか…"運び屋"って言うのかな?」
何故それをやろうと思ったのかといえばそれは
"やりがい"を感じたから。
物資を届けた際、この村の人達は皆喜んでいた。
余程不自由な生活を強いられていたんだから無理もない。
満足にモノも食べられず、そして夜はいつ来るか分からないモンスターの襲撃に怯えながら過ごさなきゃいけない。
彼らの笑顔は、俺の心にかなりの印象とやりがいを残したんだ。
まだサラリーマンだった時に感じられなかった"何か"
干からびた心に水が満たされていくような清々しさ。
久しぶりだった。
誰かのために生きてるって実感したことは。
「それが…大和くんのやりたいことなのね。」
「ああ、夢なんて大層なものじゃない。けど俺は誰かのためにモノを届けたいって思えた。これを通して、自分が心の底から"やりたいこと"を見つけられたんだ。」
難しい顔をして腕を組む武蔵ちゃん。
少し考えると、彼女は口を開いた。
「やりたいことなら…私も否定はしない。目的のない旅よりかはいいかもだし。」
「この世界で誰かのための架け橋になる。それが目的。それに、修行とも両立してやっていくよ。」
俺だけじゃどれだけの人が救えるか分からない。
でも、出来る限りの人達を救っていきたい。
偽善かもしれないし、自己満足かもしれない。
けど、
それがやりたいことなんだ。
武蔵ちゃんも否定的なことは一切言わず、賛成してくれた。
「ところで大和くん。」
「…?」
「ベッドの事なのだけれど…。」
「あ、ベッド。」
貸してもらった部屋。
しかしベッドは1つのみ。
残念ながら二つ用意することは出来なかったようで、俺は渚ちゃんから毛布と枕をもらっていた。
「その…よかったら…」
「いや、いいよ。負けたのは俺だし、ここは素直にひくよ。」
「いや…そうじゃなく…」
勝負に負ければ床で寝る。
さっきの夕飯だって半分差し出したし、ここで変にあれこれ言う訳にもいかない。
素直にひき、俺はそそくさと床に寝転がった。
「そうじゃなくって?」
「あ、あーいや…あのね…辛くない?」
確かに硬い床で寝るのは背中が少し痛い。
けど、負けは負けだ。
「これくらいなんてことないさ。けど、次は勝ってみせるよ。」
「あ、あー…うん。」
幸い、戦いもあってか俺は横になるなりすぐに眠れた。
なーに大丈夫大丈夫。社畜生活のおかげでどこでも寝られるようになったからさ。
「一緒に寝ようって言うのは…いきなりレベルが高過ぎたか…何回もイメトレはしてみたけど…これに関してはいざとなるとてんでダメだな、私。」
寝かけた時、武蔵ちゃんが何か言っていたような気もしたけど寝言だろう。
⚫
「行ってしまうんですね。もしあなた方が良ければここに住んでも…。」
翌朝。
旅立つ際見送りに来た渚ちゃんがそう尋ねる。
「申し訳ないけど、それはできない…君達みたいに困ってる誰かのために、荷物を届ける運び屋として行かなきゃいけないんだ。」
とはいっても、昨日決めたことだけど。
「運び屋ですか…頑張ってください!」
「うん。君もジーク君と一緒に頑張ってくれよ。」
そういい、渚ちゃん含め村の住人に見送ってもらい俺達の旅は再開する。
この村はもう、大丈夫だろう。
強力なサーヴァントもいるし、
さて、俺は俺で彼女にふさわしいマスターになるための修行、そして運び屋としての旅を続けよう。
「で、仕事のアテはあるの?」
「かっこつけたけど…実は何も…。」
痛いところを突かれ、誤魔化すように頭をかく。
でも、
「きっとこの先、アテはたくさんあるんじゃないかな。」
「ふーん。ま、大和くんのやりたいことならどこまでもお付き合いしましょう!師匠であると同時に、貴方のサーヴァントなのですから!」
「それはどうも。」
どこまでも続く道。
この先、俺は様々な人や組織と出会い、この世界の様々な有様を目にする。
サーヴァントと仲のいい者もいれば、それを快く思わないモノ、もしくはそれを一方的に利用しようとするモノ。
引きこもりがちなサーヴァントと探偵を営むマスター
好きなように絵を描き、好きなように生きるサーヴァントとマスター
英霊達の第二の人生を綴ることにしたマスターと、それについていく文を嗜むサーヴァント。
これから俺は、そういった人達に会う。
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