『外伝:紫』崩壊した世界で紫式部が来てくれたけどなにか違う
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あたしの図書館には、二度嵐が来る。
前書き
どうも、クソ作者です。
これよりコラボ2件目となります。
「…。」
どこだここ。
いや、その問題はすぐに解決した。
ここはあたしの心の中。
その奥にある深層意識だ。
「うう…うえぇぇ…!!ぐすっ。」
どうして分かったか。
簡単だ。
目の前でこうして"あたし"が泣いている。
彼女はあたしであってあたしでない。
香子から"菫"と言う名前を貰った、裏人格のあたしだ。
こうして目の前で見るのは初めてだけれど、確かにあたしと瓜二つだ。
「…。」
「えええええん!!うわああああああ!!!!」
と、まぁ子供のように大泣きしている彼女に話しかけなければ、この状況は変わらないだろう。
「…お、おーい。」
「…。」
涙ぐんだ目で、菫は何も言わずあたしを睨み付ける。
こいつは確か、あたしを殺して自分が本物になりたいと香子から聞いていた。
つまり、こいつはあたしが嫌いなんだろう。
「笑ってんだろ。返り討ちにあってざまあみろってさ…。」
あたしとは対照的な真っ赤な瞳がこちらを見据える。
泪を拭い、立ち上がるとあたしのすぐ目の前までやってきた。
葵と菫。
あたしとボク
1番近くにいたはずなのに、1度も会った事の無い人。
「その…なんだろう…。」
「…。」
「相談、乗るよ?」
瞳の色を除けば、まるで鏡を見ているかのような錯覚を受ける。
しかし菫はまた涙をため、ぼろぼろと零れ始めた。
「…葵も見ただろ?ボクはああして香子にコテンパンにやられたんだ!!」
どうやら泣いている原因は、それのようだ。
「ボクは香子をいじめて!それから自分のモノだって証拠にたくさん歯型を残そうとしたんだ!逆らえないようにして…なのに…それなのに…っ!!」
「返り討ちにあって、逆に逆らえないようにさせられてたね。派手に潮も吹いてたしさ…。」
「うるさいバカ!それを言うなぁ!!!」
歯型をつけるというのは些か賛同しかねるが、ともかく菫はめっためたにやられた。
彼女には馬鹿力があるけれど、香子は菫にあらゆるまじないを施している。
つまり菫は香子には手も足も出せず、ただいいように弄ばれるだけなのだ。
そして思い出してしまい恥ずかしくなったのか、顔を真っ赤にしてうずくまって泣き出してしまった。
「何がサドとしての欲求はボクで晴らすだ!お前はいいよなぁ!!ボクなんか!恥ずかしいところ全部見られて…!!」
「…。」
うん。悔しい気持ちなのは分かる。
けど、ここでいつまで泣かれてはたまったもんじゃない。
「元気、出しなよ?仇(?)はあたしがとったんだからさ。」
「お前じゃダメなんだ!ボクはボク自信で香子をいじめたいんだ!!」
そう言い、菫は泣きじゃくる。
しかしそれから約10分。泣き疲れたのか菫はその場に倒れ、そのうちすうすうと寝息を立て眠り始めた。
「…子供みたいだ。」
自分のワガママが通らず、泣き、そして疲れて寝る。
子供のような思考回路でそれに似合わない残虐な思考も併せ持つ。
子供らしくするな、大人らしくしなさいと幼少から言われ続けたあたしの抑圧されたモノがこれだとしたら、まぁ納得はする。
そして心の奥底から蘇ってくる、あの時菫に言われた言葉、
「あたしが、あたしとしてもらったものはまだない…。」
彼女は名前を貰った。存在する理由を貰った、武器も、自分用のものを貰った。
あたしは、何かもらえただろうか?
香子は、あたしに何かくれただろうか?
分からない。もらっているのか、もらっていないのかも。
そうやって考えると、心が寂しくなって、欲しくなる。
香子が、たまらなく欲しくなる。
「いいよな、アンタは色んなモノもらってさ。正直言って羨ましいよ。」
その場にしゃがみこみ、眠ってしまった菫の頬を優しく触ると、突然上から眩しい光が降り注ぐ。
「これは…もうすぐ起きろって事なんだろうか…?」
光とともに、どこか遠くからアラームのなる音も聞こえてきた。
なるほど。やはり起きろということらしい。
「それじゃあ菫。またね。」
初めて会ったもう1人のあたし。
またいつか話せればいいなと思い、あたしは深層意識から現実へと浮上した。
⚫
「二重人格…か。」
「菫様のことですか?葵様。」
利用客のいないお昼過ぎの時間。
あたしは二重人格に関する本を読みながら、おやつのチョコミント大福をいただいていた。
和菓子喫茶、『ダーク・ラウンズ』から取り寄せたものだ。
「そ。でもいくら調べても原因とかキッカケ分かんないし、治し方も分からないまま。」
「ですが、そのままでも宜しいのでは?」
「は?」
分裂したあたしと菫。
なんとかしなければならないの思う中、香子がそう口にした。
「それってどういう意味?」
「あ、いえ…菫様は菫様でとても可愛げがあって…。」
「あたしは可愛げがないってこと?」
「そ、そうではありません!葵様にはまた違った良さがあります!言うなればそうです。葵様は"かっこいい担当"と言いますか…。」
「へぇ…そう。」
失言だったと気付き慌てて言い訳を並べていく香子だが、あたしは別に気にしてはいない。
今のところあいつは無害みたいだし、香子が制御してくれてるみたいだからとりあえず菫を消すみたいなことはしない。多分。
「流行りのサバッターでも一応調べてみるか…。」
そうしてあたしは、調べ物に専念する。
一応今、図書館館長としてしっかり勤務はしているし、図書館自体も開館している。
何せこの時間、お昼からめっきりお客さんは来なくなり、図書館は閑散としてしまう。
まぁ世界がこんなんだし、お客さんが毎日ゾロゾロと来る訳でもない。
静かな図書館を受付から眺めながら、こうしてネットサーフィンをし片手間に和菓子を頂くのも悪くは無い。
式神メイド達も今充電中だ。
お客も多分夕方頃に数人来るくらいだろう。それまでは、静かな昼下がりを満喫させてもらうとする。
しかしその静寂は、突然破られた。
「ふーん…。ここが葵紫図書館かぁ…。」
間延びした、のんびりとした口調。
聞いていて心地の良いゆったりとした声が静かな図書館内に響いた。
「…?」
入口を覗き込んでみるとそこには人が。
自己主張の激しい胸から見てわかる通り、女性だ。
ゆるふわ系…とでも言えばいいんだろうか?ともかくそのやって来た女性は、そういったカテゴリにあてはまる見た目だった。
「あ、こんにちは〜。」
「どうも…。」
あたしの視線に気付くとこちらに振り向き、ゆるりと手を振る。
「…?」
しかし、ここであるものに目がいった。
彼女が片手に大事そうに抱き抱えているもの、人形…だろうか。
古ぼけていて、所々ほつれており…なんだっけあのキャラクター…どこかで見たことあるような…。
「気になる?」
「うわっ!?」
気がつけば目の前にその人形がいた。
驚いて後ずさると、面白かったのか人形を持っていた女性ははははと笑った。
「これね、間桐桜ちゃん。知ってる?Fateの。」
「まとう…さくら…あ、あぁ…。」
古ぼけた人形の名前はそう、間桐桜だ。
とはいっても等身大とかフィギュアとかそういったものではなく、デフォルメされた可愛らしいものだ。
しかしボロボロのせいか、どことなく不気味にも見えるその人形だが…
というよりも、このお客さんは何者…?
「あ、ごめん。桜ちゃんよりも私の紹介が先だったね。」
お人形を小脇に抱え、自分の胸に手を当てて彼女は自己紹介を始める。
「私、森川 真誉。陰陽師!」
「お、陰陽師?」
「そ。噂に聞いてこの葵紫図書館が気になってやって来たんだ。あなたは?」
「あたし?」
名乗られたのなら名乗り返さなきゃいけない。
咳払いをし、あたしもまた自分の名前を明かした。
「あたしは源 葵。ここで図書館館長をやらせてもらってる。」
「へー。葵、葵ちゃんって言うんだぁ!へ〜。」
基本呼ばれる時は苗字か呼び捨てだった為、ちゃん付けされるのはどことなく恥ずかしい。
「ところで森川さん…さっき陰陽師って…。」
「そう。私は陰陽師!こうして日本中を回って、陰陽術で悪いやつをやっつけているんだ!」
そういい、彼女は人形の背中にあるファスナーを開き、中から御札を取り出して見せてくれた。
「私特注の御札!かっこいいでしょ!」
「かっこいいって…まぁ…。」
御札と入ったがよく見る長方形の紙などではなく、人型に象られた紙。
見方によっては鳥のようにも見えるそれは、中央に目玉が描かれた不思議な御札だった。
陰陽師、大雑把に言うならば悪魔祓いと同じようなもの。
最初はサーヴァントがおらずどうやってこんな子が己の身を守れるんだろうと疑問に思ったが、そういったものごあるのなら話は別だ。
「ねぇねぇ!何か本読んでいい?」
「うん。いいけど…。」
御札を見せびらかしたあと、彼女は本を読んでいいか尋ねる。
ここは図書館だしそういうところだ。余程の事せず静かにしていれば別に構わない。
彼女はあたしからの許可を得ると、スキップしながら本棚へと向かっていった。
「…。」
「不思議なお方…ですね。」
「うん。なんだろう…何か絡みづらい。」
歴史関係の本を手に取り、鼻歌交じりにページをめくる彼女を遠目に見て、あたしと香子は彼女について話し出す。
「第一怪しいよ。あんな子がこの世界を生きていけるなんて思えない。しかも1人だよ?」
「はい…確かにそこは香子も気になりました。ですが彼女は陰陽師と…。」
陰陽師だから、と言って生きられるか?
この世界に神秘と魔力が満ちた今、そういったオカルト的なものは力を持っている。
しかし彼女は隙が多い。あたしでも分かる。
筋肉のついてない細い手足、出るとこは出て引っ込んでるところは引っ込んでるいかにも男好みの襲われそうな身体。
もしや彼女が今こうして生きているのは陰陽術によるものではなく、ただ単に奇跡なのでは?と思う。
「ホントに…不思議な子だ…。」
「何が?」
「うわぁ!?」
そう呟くと、いつの間にか目の前には彼女が。
「何が不思議?何か変なことでもあったの?」
「い、いやいや!なんでもない!なんでもないから!!」
不思議そうにこちらを覗き込む森川 真誉。
あなたのこと話してましたというわけにもいかないので目をそらすと、あのボロボロの不気味な人形と目が合い、余計に気まずくなる。
「で、なんの用で?本を読んでるんじゃなかったの?」
「ううん。やっぱりうちで読もうって思って。ほら、ここ図書館でしょ?借りられる?」
確かにここは本の貸出はしている。
そうして彼女が差し出してきたのは一冊の本、
平安の時代にていたとされる伝説の陰陽師、安倍晴明に関することが描かれた本だった。
「へぇ…やっぱり陰陽師だから…参考に?」
「ううん。きらいだよ晴明なんて。」
…え?
「陰陽師と言えばみーんな晴明晴明晴明って、馬鹿の一つ覚えみたいに言うでしょ?」
「いやでも、安倍晴明なら知らない人はいないくらいだし、」
それに香子は晴明から陰陽術を教えて貰ったとも聞く。
陰陽師と言えば?と聞かれれば誰からも安倍晴明の名が出るのは無理もないだろう。
「知らない。ともかく私は安倍晴明が嫌い。だから私は殺すため、いつか来るだろう晴明を殺すため、敵を知るため本を借りる。」
「…。」
いつか来るだろうとは…どういうことか?
いや分かる。彼女は、いつか安倍晴明という陰陽師が"サーヴァント"として来るのを待っているんだ。
「いやでもさ、晴明は悪い人とかじゃ」
「晴 明 は 悪 い 人 な の ! ! !」
受付のテーブルをバンと叩いて彼女が叫んだ。
一瞬の静寂、あまりの出来事に凍りつくあたしと香子。
そして少しすると、彼女はにっこりと笑い、
「というわけで借りてくね?1週間後に返しに来るから、またね。葵ちゃん。」
晴明に関して話した時、彼女は今までの雰囲気からは想像できないくらい真面目な顔をしていたが、それを話し終えるとまたふわふわした雰囲気に戻る。
結局よく分からない彼女に翻弄され、あたしはただ帰っていく彼女をぼんやりと眺めることしか出来なかった。
「なんだったんだろう…あいつ。」
「嵐のような女…でしたね。」
確かに場を引っ掻き回すだけして帰ったから、嵐みたいなものだろう。
「にしても彼女の御札…どこかで…。」
「香子、なんか心当たりあるの?」
バタンと扉がしまり、一種の安心感を覚えたあたし。
そして香子だが、
「あのような御札…まさか…ですが彼女の手に令呪などはなかった…。」
「だからどうしたのさ。」
何やらあの御札にひどく覚えがあるみたいだけど
「い、いえ…なんでもありません。香子の思い過ごしですので…葵様はお気になさらず…。」
「…?」
そういい、顔は自室へと帰っていってしまう。
「香子?」
「すみません…少し考えます。」
「うん、分かった。でも夕方から神社の取材行くからねー!」
何か…悩んでいた、考えていた。
確かにあの森川 真誉という女は何処か掴めなくて怪しい女だ。
噂を聞き付けてやってきた?なんの噂?
なんだろう…図書館に用があって来たんじゃなく、あたしと香子に用があって来たようにも感じられた。
「…まぁ、いいか。」
考えすぎてもしょうがない。
さて、取材に行くまではまだ時間もあるし、二重人格についてもう少し調べることにしよう。
と、思った時である
「!!」
バァン!という音と共に入口のドアが豪快に蹴り開けられる。
今度はなんだ、もしかしたらこの前の葛城財団だろうか、と思いテーブルを飛び越え、入口まで駆けていく。
するとそこにいたのは財団でも悪そうな輩でもなく
「へぇ、ここが葵紫図書館…退屈そうな場所ね!」
「…。」
隣にいるのはマスターだろうか、
服の上からでも分かる程よい体付きで、筋肉の着いた健康的な肉体の女性。
そして隣にいるのは対照的に小さく、頭に角、そして腰には尻尾を生やしたピンクイロの髪をしたサーヴァント。
「あら、あなたがここの館長もとい、紫式部のマスターさん?」
「まぁそうですけど…ドアはもう少し丁寧に開けて貰えます?」
血の伯爵夫人、その幼き頃の姿。
エリザベート=バートリがそこにいた。
「で、何用で?」
「ふふ!アタシがこんな陰気臭いところに本を読みに来たと思ってる?」
「い、陰気臭い!?」
確かにこんな嵐のような女が大人しく本を読みに来るとは思えない。
にしても災難だ。こんな嵐のような女が続けて二度も来るのだから。
きっと今日は厄日なんだろう。
「葵様!どうされました!?」
と、騒ぎを聞き付け自室へ向かったはずの香子も思わず駆けつけてきた。
「へぇ、紫式部。派手なアタシとはまるで対極的な存在。それがアンタのサーヴァントね?」
「エリザベート様と…対極的…。」
まぁ対極的だろう。
性格もあるが何より身体もね。
「ではその、エリザベート様。今日は何用で?」
こんなふうにやって来て何も無いとは言わせない。
本を読みに来たわけではないとのことだし、香子がやや目線を低くしてエリザベートに尋ねると、彼女はふふふと笑い待ってましたと言わんばかりに叫ぶ。
「ええ!そう!アタシはアンタ達に勝負を挑みに来たの!」
「勝負…?」
どうしよう
いきなり勝負をふっかけられてしまった。
しかし勝負とはいえここでされてはたまったものではない。
それに香子はキャスターだ。あまり戦いには向かないサーヴァントだが…。
「身構えなくていいのよ。何もここでドンパチやろうって意味じゃない。アタシ達はもっとこう、平和的な勝負を挑みに来たんだから!」
「…?」
平和的な勝負?
と疑問が浮かんだがそれはすぐに晴れる。
エリザベートはアタシ達にビシィと指をさし、
「紫式部!そしてそのマスター源 葵!この図書館を賭けて!アタシ達とアイドル勝負なさい!!」
「…は?」
一瞬、耳を疑った。
だが耳がおかしくなったわけではない。ちゃんと聞こえた。
そうしてやってきた本日二度目の嵐は、とんでもない宣戦布告をあたし達に言ったのだった。
後書き
かいせつ
⚫森川 真誉(もりかわ まほろ)
自称陰陽師の18歳。
この世界ではまず生きていけなさそうな性格をしており、他人を疑わず、そして驚くほどに脳天気な子。
御札を持っている辺り、陰陽師なのだろうがどこか怪しい。
やや幼げな言動が目立ち、いつも笑っており言葉の本質もわからず掴めない人。
葵が気になってやってきたというが、やはりそれは嘘か本当か分からずじまいのままである。
ちなみに大事に抱えているのは寝そべりぬいぐるみの間桐桜。
かわいい…とは言い難く非常にボロボロであり、どことなく不気味さを感じさせる。
ちなみに人形は改造して背中にファスナーを付け、中には護身用の御札が入っている。
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