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『外伝:紫』崩壊した世界で紫式部が来てくれたけどなにか違う

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踏み込んだあたしは、窮地に陥る

 
前書き
登場人物紹介
⚫尾頭 守(おがしら まもる)
横浜にて傭兵業を営む元高校生。
サーヴァントというのは原則一騎ではあるものの、彼の場合何騎ものサーヴァントを所持している。
小児愛者。簡単に言えばロリコン。
所持するサーヴァントは全て幼い外見の少女ばかりであり、彼自身のカルデアから来たものや途中で拾われたはぐれサーヴァントのものも存在する。
そんな彼の戦闘能力はサーヴァントにも引けをとらないほど。
改造されたショットガンは鋼鉄だろうが木っ端微塵にし、
限界まで改造された身体は恐るべき身体能力と巻き戻しに近い回復能力を備えている。(全部こいつ1人でいいんじゃないかな?と言ってはいけない。)
職業柄、躊躇なく人を殺すが根っからの悪人ではない。
本人は自らを極悪人と名乗ってはいるが葵は口は悪いが悪い人ではないと見抜いた。
あと死ぬほど強い高性能ばあちゃんがいるが本作に出すとマジでバランスブレイカーになりかねないのでここでは出さないでおきます。
いやあれマジでやばいって。

⚫尾頭 守のサーヴァント達
数多くいる彼のサーヴァント。
尾頭は依頼の内容に応じて連れていくサーヴァントを決めている。
自分のカルデアからやってきたアビゲイルやジャック、紅閻魔を筆頭に
ダ・ヴィンチ(騎)、メドゥーサ(槍)、ジャック・ザ・リッパー
元はぐれサーヴァントの酒呑童子や茨木童子、
イリヤ、美遊、クロエの魔法少女3人組など
系11騎のサーヴァントを所持している。
彼女らはマスターの尾頭 守と共に、傭兵をこなしながら農業を営み、気ままに暮らしている。
しかし少人数ではあるものの、人を殺すことに未だ戸惑いを隠せない者もいるようだ。 

 
「…?」

地下室。
陽の光が僅かに差し込むその場所で、男は液晶に目を向けた。

「…ちっ、勘づかれたか。」

壁に設置された10数個の液晶。
それは廃工場の至る所を映しており、1つの液晶には傭兵の尾頭 守そしてサーヴァント達が映っていた。

「まぁでも面白いや、ちょうど人間相手にも飽き飽きして来たし。ゲリラ生放送と行こうかな?」

男は机にあるパソコンを使い、いつものように配信を始める。
ある時は誘拐してきた女性とモンスターの鬼ごっこ配信
別の時はあらゆる拷問器具で女性を痛めつけ、死姦する。
法律の死んだこのご時世だ。
何をしようが犯罪にはならないし、何より暇を持て余した奴らがこうして刺激を求めて配信を見に来る。

配信を始めれば、もうそこには三桁を超える視聴者がいる。

「はいどーもー。テイマーチャンネルへようこそ!突然で申し訳ないんだけど、実は俺の家にゲストが来てね、ゲームをしようと思うんだ!」

液晶に向けいつも通りの間が抜けた挨拶をするとコメント欄が更新される。
なに、いつもの鬼ごっこ?とか
レイプショーか?とか
視聴者参加型の強姦イベント?とか
匿名性をいいことに欲望をさらけ出したコメントで埋め尽くされた。

「うーん残念!正解はどれでもない。実はそろそろゲームの対象をサーヴァントに変えようと思ってね!」

そういい、動画配信者テイマーは彼らの映る液晶に切り替える。

「どう?ヤバくね?男は即殺すとして中々上玉揃いでしょ?」

映されたサーヴァントを見てコメント欄はすぐに埋め尽くされる。
視聴者もどんどん増え、これは儲かること間違いなしだ。

「それじゃあもう始まってるけど改めて、第一ゲームスタートってコトで!」

テイマーは指を鳴らし、ゲームは開始された。




「ちっ、雑魚ばかりだな。」
「そうやね。少しは骨のあるやっこさんがでてきてほしいんやけど、このままじゃ拍子抜けやさかい。」

廃工場に踏み入り、まず最初にあたし達を出迎えたのは動画配信にもいた"小鬼"であった。
だらりとよだれを垂らし、両手を振り上げ襲いかかる小鬼達。
人間には脅威だとしても、サーヴァントにとってはなんて事ない。
酒呑童子は容易く彼らの首を跳ね飛ばし、イリヤちゃんはパニックになり、滅茶苦茶に魔法を放つもそれは充分に効果を発揮した。
そして

「この程度ならお任せ下さい。」

人差し指で空間をなぞり、綴った文字を飛ばして小鬼達を撃退していく香子。
魔性ならお任せ。魔性絶対殺すウーマンとはよく言ったものである。

あと、サーヴァントではないが

「弱い。弱いな。俺達止めたきゃビーストでも連れてこいよ!!」

サーヴァントを率いるマスター、尾頭さんも訳の分からないくらい強い。
いや、これはもはや理不尽だ。

改造された銃は小鬼を木っ端微塵にし、さらに懐に飛び込んできた命知らずな者は頭を軽く握りつぶされる。
彼は…本当に人間だろうか?

『あーあー、テステス…よし。』

そうしてとめどなくやってくる小鬼達を殺していると、随所に設置された拡声放送スピーカーから男の声が。

『やぁやぁようこそ!勇敢なるサーヴァント諸君!私はこの廃工場の主、人気配信者のテイマーだ!』
「うるせぇ」

と、1番近くにあったスピーカーを撃ち抜く尾頭さん。

『おいおい横暴だなぁ。私は君達と視聴者にゲームを楽しんでもらいたいだけなのに…。』

しかし別の場所からのスピーカーからまた聞こえる声。
どうやらこの声の主こそ、動画配信者のテイマーらしい。

「知るか。お前のクソみてぇな趣味になんの興味もねぇ。俺達はてめぇを殺しに来たんだ。」
『殺す?殺すって?ハハハ言うねぇ!実にチャレンジャーらしい!』
「ちっ!」

ムカついたのか、尾頭さんは別の場所のスピーカーも容赦なく破壊する。

「ゲームは簡単。君達は私を見つけられればいい。そうすれば君達の勝ち。でもそれまでに凶暴なモンスターや様々な罠が張り巡らされているからね。さぁ、何人生き残るかなぁ?」

それじゃあ、ゲームスタート!!という掛け声と共に今度は別のモンスターがやって来る。

「わぁぁあ!!!またなんか来たぁぁ!!!」
「野郎…気に入らねぇ…!」

叫ぶイリヤちゃん。
イラつく尾頭さん。
そんな彼らに迫るのは真っ白な巨体を持つ人工生命体、ホムンクルスだ。

「成程…モンスターを従えてるから"調教師"ってワケだ。」

そんなホムンクルスを尾頭さんは顔色一つ変えずに撃ち抜いていく。
脅威ともなんとも感じていない。ただ邪魔な存在だと思っているだけだ。

「しかしこれだこの魔物を…たった一人の人間が従えているのでしょうか…?」

ふと、香子が疑問を口にする。
ここまで倒してきたモンスターは30は超えている。
一人の人間がここまで多くのモンスターを従えるだろうか?
それともテイマーはマスターの可能性もある。
使役する系統となるとおそらく香子と同じキャスタークラスのサーヴァントだろうか?
ともかく、正体を突き止めなければ全ては推測のまま、
下手すればサーヴァントよりモンスターを屠る尾頭さんに続いて行こう。

「?」

と、ここで何か嫌な予感がした。

「葵様!!」
「ッ!!」

壁の横には何かセンサーのような赤いランプ。
それはピーという甲高い音と共に点滅すると

「イリヤちゃん!!」

爆発。
モンスターに気を取られていたイリヤちゃんを抱き、爆風から逃れるため地面にヘッドスライディングした。

「…大丈夫?」
「はい、葵さん。ありがとうございます…。」

なんとか爆発に巻き込まれずに済んだ。
だが

「葵様!!ご無事ですか!?」
「イリヤはそっちか?状況はどうだ?」

爆発により壁が倒壊。
高く積もった瓦礫の山は私と香子、尾頭さん達を分断してしまった。

「あたしもイリヤちゃんも無事!そっちは!?」
「問題ありません…ですが…!」

あちらもどうやら怪我人はいないみたいだ。
けど、分断されたままではどうにもできない。
まずは何とかして合流しなければ…。

「あ、葵さん!!」
「どうし…」

どうしたの?
そう聞こうと振り返った瞬間、イリヤちゃんの指さした先には大量の小鬼が。

「紫式部…ごめん、前言撤回。」

舌なめずりをし、じりじりとあたしたち2人に近付く小鬼。

「ちょっとヤバいかも!!」

女二人なら楽勝だ。
何人もの女性を狩ってきた小鬼はそう思ったのだろう。
ニヤリと口を三日月形に歪め、それぞれが一斉に襲い掛かる。

「このッ!!」

飛びかかってきた一匹の小鬼に回し蹴りをおみまいし迎撃。
しかし相手は魔物。
人間であるあたしの攻撃が通用するだろうか?

「…え?」

いや、通じた。
回し蹴りをくらった小鬼は地面に落ちると、じたばたと暴れ始める。
まるで殺虫剤をかけられたゴキブリのようにだ。
そして呻き声のようなものをあげ、より一層暴れたかと思えば…

「え…。」

パァンという気持ちのいい音を立て、"破裂した"

「え…あ、葵さん?」
「なにこれあたしも分かんないって。え、怖…。」

いけない…。
イリヤちゃんが本気で怯えてる…。

「あ、当たりどころが悪かったとか?」
「え、えーと…クリティカルヒットみたいな…?」
『いえ、そのようなものでは御座いません。』

小鬼が何故あたしの蹴り一発で爆発四散したか、
その疑問は、どこからか聞こえた声が答えてくれた。

「この声…紫式部?」
『どうやら無事に効果を発揮されたようですね。いかがだったでしょうか?魔性特攻のついたブーツの履き心地は。』

どこからともなく聞こえる香子の声。
彼女は瓦礫の向こう側に居るはずなのだが、何故かとても近く…そう、まるで耳元で話しかけられているようなてん…。

「あ、葵さん!もしかしてソレじゃないですか!?」
「…これ?」

イリヤちゃんが左耳に付けられたイヤリングを指差す。
確かに、香子の声はそこから聞こえていた。

『緊急用の連絡手段として葵様のイヤリングに細工をさせていただきました。』
「ああ、それはどうも。」
『話を戻します。葵様の履いているブーツにも実は細工を…いえ、強力な呪いを仕込んであります。』

自分の履いているブーツ。
なるほど。つまりはかけられた魔性特攻のまじないで小鬼が爆発したわけだ。

「さすがはあたしのキャスター。魔性絶対殺すウーマンの名はだてじゃないね。さしずめ"魔性絶対殺すブーツ"ってかんじ?」
「思いの外そのままなんですけど!!」

さて、想定外のプレゼントをもらい形勢逆転だ。
複数の小鬼達はあたしの蹴りで仲間が爆散したせいか、じりじりと後退りしている。
ただものじゃない。それだけは低い知能の彼らでも理解は出来たんだろう。

「じゃあ香子!あたしとイリヤちゃんは合流出来る場所をなんとか探す!」
『かしこまりました。他に何か問題はありますでしょうか?』
「ううん、ナシ!全部蹴散らして解決する!!」

地を蹴り、あたしは駆ける。
逃げる小鬼、襲い掛かる小鬼と奴らは様々だがそんなの関係ない。
立ちはだかるなら、全部蹴飛ばす。

「行くよイリヤちゃん!ついてきて!!」
「は、はい!出来るかどうか不安ですけど…精一杯サポートします!!!」

小鬼を蹴散らし、イリヤちゃんの後方射撃の援護を受けながらあたし達は進む。
しかし、本当に数が多い。
一体どれだけの数を操っているというのかがやはり気になるが、とりあえずは合理するのが先だ。

『分断された挑戦者御一行!しかし怒涛の快進撃を見せる!』

配信者テイマーが実況する声がスピーカーから聞こえるが煽っているようにしか聞こえない。

「んのっ!!」

小鬼を蹴り飛ばし、スピーカーにぶつける。
うるさいから今は黙っていて欲しい。

「…!」
「葵さん?」

と、ここで監視カメラを見つけた。
こうしていたるところからあたし達を撮り、見世物にしていると思うとなんだか段々と腹が立ってきた。
なのでそれに向かってキッチリ言ってやる。

「さぞやパソコンの前でふんぞり返ってるんだろうけど、逃げるなら今のうちだよ。あたし達は必ず、お前の買おをぶん殴りに行く!!」




一方。
葵、イリヤの2人と分断された尾頭、酒呑、紫式部は

「で、アンタのマスターは無事なのか?」
「ええ、連絡をとりましたが葵様の様子は無事です。イリヤさんも問題ないかと。」
「へぇ、そりゃ良かった。」

改造ショットガンで小鬼やホムンクルスを次々と肉塊に変えながら尾頭は淡々と答える。

「しかし気になるな。」
「何が…でしょうか?」
「酒呑、お前も何かおかしいと思わないか。」

ここで尾頭はある違和感に気付く。

「せやね旦那はん。小鬼がホムンクルスと徒党を組むなんて聞いたことあらへんわ。」

確かにそうだと、紫式部も考えた。
追加でやってきたホムンクルス。
小鬼も一緒に襲いかかる訳だがそれはどうにも連携の取れた動きを見せてきた。
妙なのだ。
それに

「俺達だけで100は殺した。あっちも多分そこそこ殺してるだろうよ。なのにまだウジャウジャ出てくる。これは操ってるって可能性はゼロで、むしろ1から"生み出してる"って言う方が正解かもだな。」
「生み出している…ですか?」

数が一向に減らないのは、それらを生み出しているからではないかと尾頭は口にする。
ならしかし

「召喚系の魔術でしょうか?だとしたらこれだけの数を生み出すのにはそれ相応の魔力も必要の筈…。」

小鬼とはいえこれだけの数を召喚するのならそれなりの魔力は必要なはず。
テイマーという配信者の陰にいるサーヴァントが何者なのかはまだ分からないままだった。

「サーヴァントの正体もモンスターの生産方法のタネも、どのみちテイマーを見つけてぶっ殺せば分かるやつだ。そら、行くぞ。」

襲い掛かるモンスターをものともせず、彼らは行進する。
だが

「…!」
「へぇ…ちったぁ骨のある奴が出てきたな。」

廃屋を破壊しながら登場し、ズシンと重い足音を響かせこちらに近づいてくる身の丈3メートルは超えるであろう巨大な"何か"
そう、それは『鬼』だった。
赤鬼、青鬼、緑鬼。FGOで呼ばれる『大鬼』という類だ。
数は5。しかし…

「あれ、なんやろね。」

それらの鬼は皆、顔に札のようなモノを貼り付けられていた。
人型のようにも見えるし鳥のようにも見える。中央には目が描かれた不思議な御札だ。

「関係ねぇ、どうあれ殺せば一緒だろ。」
「せやね。」

武器をかまえる各々、そしてスピーカーからは相変わらず間が抜けた明るい声の実況モドキが響く。

『始まりましたVS大鬼!ここまで来たのは君達が初めてだ!!さぁさぁ!!この強敵相手に彼らはどう立ち回るのか!?レディー…ファイッ!』

テイマーの掛け声と共に大鬼達が雄叫びをあげる。
周囲のものがビリビリと揺れ、思わず耳を塞ぎたくなるような声量。
御札のせいで恐怖よりもどこか不気味さを感じさせる大鬼は、それぞれの得物を手に挑戦者に襲いかかった。




その頃、分断されたあたし達は

「なんだろう…ここ。」

イリヤちゃんが何やら妙な所を見つけた。
廃屋の中に隠れて敵をやり過ごそうと入ったところ、部屋の真ん中には重い鉄板が一枚敷かれていた。
気になり、どかしてみればなんとそれは地下に続く階段があり、冷たい空気が吹いてくる。
真っ暗で、ほんの少し先も見えない。
合流するのが先だと言ったがここは

「行こう。」
「えっ!?葵さん本気ですか!?」
「もしかしたらこの先、テイマーって奴がいるかもしれない。それにそいつを叩けば、外にうじゃうじゃいるモンスターだって止められるかも。」
「でも…。」
『それは名案かもしれませんねぇ。』
「…! 誰!?」

あたしとイリヤちゃん二人だけだが、全く知らない声が聞こえた。
香子のものではない。じゃあ誰か。

「あ、"これ"です。ルビーって言います。」

声の正体はイリヤちゃんが持つステッキ、星と翼の飾りが象られたいかにも魔法のステッキという感じの道具であった。

『どうも初めまして。葵さん。』
「あ、どうも…。」

イリヤちゃんの手から離れたルビーは浮き、あたしの目の前にやってくる。

『今まで話すヒマもなく黙っててすいません。私は愉快型魔術礼装マジカルルビー。まぁ変身用アイテム兼魔法少女特有のマスコットキャラクターだと思っていただければ。』
「そんなんじゃないですからね!!葵さん!マスコットキャラクターなんて真に受けないでくださいね!!」

と、浮いているステッキのマジカルルビーを掴んでイリヤちゃんはそういう。

『まぁまぁ大体そんなもんじゃないですか私。あ、そうだ。葵さん。お近付きの印にイリヤさんの秘蔵の1枚、どうです?』
「あげなくていいからそんなの!!」
「あのーちょっといい?」

なんなんだろうかこのマジカルルビーという杖は。
ともかく話がそれにそれそうなので戻すことにする

『なんでしょう?』
「話を戻すけどさ、さっきマジカルルビー…さん?もそう言ってくれたし、この下に行こうと思う。それでいいよね?」
『ええ、ビミョーに魔力反応もこの下から探知出来ますし、もしいざとなればイリヤさんがなんかこうズババーっとやっちゃってくれます。先手必勝!サーチアンドデストロイ!忍び込んでササッと敵将の首を頂いちゃいましょう!あ、あとフツーにルビーでかまいませんよ。』
「ほんとに首はとらないよね…?」

にしてもよく喋る杖だ…。
まくし立てるようにそう言ったルビーの言う通り、あたし達はこの階段を降りてこの先にいるらしいテイマーを倒しに行く。
合流してからの方がいいのでは?と思うかもしれないが、ここはもう最低な奴はさっさと倒した方がいい。

「行くよ、イリヤちゃん。」
「はい!」

明かりのない階段をゆっくり、慎重に降りていく。
途中ルビーがライト代わりになってくれたもののそれは下やほんの少し先を照らすだけで遠くの方は全く見えなかった。

「…。」
「…。」

そして暗闇の階段を降り続け、10分が経過しただろうか?

『葵さん葵さん!』

ルビーが何か急に話しかけてきた。
気になるものでも見つけたのだろうか?

「何?どうしたの?」
『葵さんはレズなんですか?』

ずっこけた。

「な、何言ってるのルビー!?」
『えーだってずっと沈黙の気まずい空気でしたしここは私が話題を提供しようかと思いまして…。』
「だからって変な事聞かないで!!葵さんズッコケちゃったでしょ!!」
「ううん、大丈夫大丈夫。」

危うく階段から足を踏み外しそうになったけど。

「じゃあいいよ。喋らないのもアレだし折角だから話すよ。」
『お、いいですねぇ!これから葵さんのめくるめく百合色学園生活のキマシタワエピソードが聞けるってわけですねぇ!』
「いやそれは話さないけど。」
『え』

第一学生の頃は普通だったし。
とはいえ、心に欲望は溜め込んでいたけど。

「でも葵さん、その…同性愛って事は」
「ああ、カミングアウトしたのは最近だけどね。親に言ったら相当嫌な顔されたよ。心の病だって。」
「…。」
「でもそんなの知るかって感じ。こうなった世界で縛られて生きるよりも、あたしはあたしらしく生きようって思った。それに…。」
『それに?』
「紫式部がいる。あの人はあたしの全部を受け入れてくれた。隠されてた部分も、醜い部分も、それも全部をあたしだからって。」

あたしの為だけに来てくれた、あたしだけの紫式部。
あたしの全部を肯定して、受け入れた何にも変えられない大切な人。

「ねぇ、イリヤちゃん。」
「は、はい!」
「イリヤちゃんには何にも変えられない、大切な人はいる?」
「何にも変えられない…大切な人…。」
「マスター?それ以外?でも、それが誰だとしても大切な人に変わりはないよ。」
「うん、います…私の大切な人…私の大事な友達…。」
「…そっか。」

こうなってしまった世界。
大事なのはその"人"だ。
自分の全部をあずけられて、そしてその人を信じられる信頼。

「じゃあ、その人の事を必死に守ろうね。あたしもそう思って、全力で紫式部を守ってる…ってなんかあたしの方が話がズレちゃったね、ごめん。」
『いえいえ、大変尊きものを聞かせていただきました。イリヤさんも大事なお友達の美遊さんと仲良くしていきましょうね。そう…葵さんと紫式部のように百合百合しいカップルのごとく…』
「だからなんですぐそういうのに繋げたがるのかなぁ!!折角葵さんがいい感じにまとめてくれたんだよ!?」

緊迫した空気がなんだか程よく緩んできた。
イリヤちゃんはなんかこの以来の時からこわばってたし、このマジカルルビーという摩訶不思議ステッキ、案外良い意味でその場の空気をぶち壊してくれるいい存在なのかもしれない。

「…!」

で、その時だ。
ふと何か声のようなものが聞こえた。

「葵さん?」
「しっ!多分ヤツがいる…!」

人差し指を唇に当て、静かにのジェスチャーをとる。
目を凝らせば、もう少し下に明かりが見える。
そして

「おーいいねぇいいねぇ!容赦なく鬼さんの口に弾丸をプレゼント!しかしそろそろ濡れ場が欲しいなぁー?視聴者さんのコメント見ると相当イライラが溜まってんだよねー?いい加減男は引っ込んで女はやられてくんねーとさぁ…困るんだよ。エンターテイナーの気持ち考えてよキミー。」

男の声。
間違いない。スピーカー越しに聞いていたのはこの声だ。
つまりはこの先に、テイマーがいる。

「イリヤちゃん。ルビー。」
「はい!」
『お、ついにやる時ですね!』
「うん、行くよ!」




液晶越しに見るやつらの活躍。
いやーやばいなサーヴァントって。
こんなに強いなんて思わなかったよ。
カメラやスピーカーは何台か壊されたが、まぁ儲けたお金でなんとかなる。
視聴者が投げ銭をくれるが、これもしかして歴代1位なくらいもらってないか?
まぁそれだけサーヴァントが負けて犯される姿が見たいってことか。
そういえば、
別れたあの二人の姿が見えない。

「さーて、皆さん気になっているかもしれないが分断されたあの二人、実は行方不明でございます。もしかしたらカメラのないところに連れ込まれて俺のペットに犯されてるかもしれませんが…えーと。」

液晶のカメラを切り替え、何処にいるか確認するが2人の姿はどこにもない。
小さい娘と金髪の女。どちらも目立つし見失うはずが…
まさか逃げたか?

「アレー?マジであいつらどこ行った」
「ここだよ!!」

とその時、部屋のドアがバンと勢いよく開いた。
振り向けば探していたその2人。
そしてずかずかと入り込んだかと思えば

「うぉお!?」
「お前…ッ!!」

胸ぐらをつかみ、そのまま俺の頬をぶん殴った。

「っだァ!?」

辺りの機材を巻き込みながら、俺は倒れる。
まじでなんだこいつ…女のくせに殴る力半端ねぇぞ。

「お、おい待て待て待て!!ゴールに辿り着いたからって主催者殴るのはどうかと思うぜ?」
「黙れ。」

手のひら突き出して待ったをかけるがまたこの女は殴りにかかる。
そして後ろにはピンク色の可愛らしい衣装を着た子が杖を構えてこちらをにらみつけている。
あっちがサーヴァントだろう。

「待って!マジでお願い!!分かった!やめるからやめるから!!」

掌を合わせておねがいのポーズをとると、女は振り上げた拳を渋々降ろしてくれた。

「アンタが…テイマー?」
「そ、テイマー。サーヴァントってランサーとかライダーとかなんか色んなクラスあるじゃん?だからそれに則ってモンスターを操る俺は調教師(テイマー)ってワケ。どう?イカしてるだろ?」
「ああ、イカレてるよ…!!」
「わー待った待った!ごめんなさい!!ほら!優勝賞品あげるからさ!ね?ね?」

降ろした拳がまた振り上げられる。
やべーぞこの暴力女!

「…。」
「な、な!?欲しいだろ!?優勝賞品!!」
「まずは止めて。」
「…え?」
「尾頭さんや紫式部を襲ってるモンスター達を止めてって言ってんの。」
「あ、は、はい…!」

ビクビク震え、怯えたフリをしながら俺は慌ててデスクに向かい、キーボードを叩き始める。

「これでよし、と。」

エンターキーを叩き、俺は言う通りにした"つもり"にする。
ホントに止めるわけねぇだろバーカ。
それに今押したのだって

「!?」

モンスターの檻を解錠するスイッチだから。

「イリヤちゃん!!」
「葵さん!これって…!」
「あばよクソ女共!こんなもんで俺が配信やめると思ったかバーカ!」

檻が開かれ、ぞろぞろとやって来たのはとっておきのモンスター、『土蜘蛛』だ。
その鋭利な鎌と全てを絡めとる糸、中々の強敵だしあの陰陽師のお墨付きだ。
さて、俺は俺で緊急避難用のワイヤーにぶら下がり、安全な所へと避難する。

『どうやら私達ハメられてみたいですねぇ。』
「落ち着いてないで何とかしてよルビー!!」
「こいつら…小鬼みたいに一筋縄じゃ行かなさそうだけど…!」

素早い動きで複数の土蜘蛛は二人を囲み、逃げ場を無くす。
さて、上にある実況席から俺は配信を続けさせてもらおう。

「さぁて!優勝賞品は次なるステージの挑戦権!VS土蜘蛛だ!!鬼ほどのパワーはないにしろその俊敏さと狡猾なやり口!奴らの猛攻から逃れ、倒せる術は彼女らにはあるのかーッ!?」
「うるさいな…!」

悪態をつくがその威勢がどこまで持つことやら。
殺しはしない。だが動けなくなるくらいに手加減はしろ。
土蜘蛛達にはそう指示してある。
まったく感謝感謝だぜ。
妙な格好をした自称陰陽師からもらったこの御札があれば、どんなバケモンでも簡単に俺の言うことを聞く。
まぁ人類を幸福にするためなら何に使ってもいいって訳分からんこと言われたけど、こうしてエンターテイナーとしてこの御札は役立たせてもらおう!!

「さぁ殺しあえ!最後に笑うのは誰だ!?レディー…ファイッ! 」 
 

 
後書き
かいせつ

⚫魔性絶対殺すブーツ
葵の履くブーツに紫式部が呪術をかけたもの。
蹴りの威力が僅かに増加しているがそれの本領は魔性を相手にしたときに発揮する。
魔性特攻のまじないがかけられており、小鬼などの弱いものなら一発で確実に死に至らしめることが出来る恐ろしいもの。
さらにその後魔性絶対殺すグローブも開発されている

⚫イヤリング
葵が何らかの理由で紫式部と離れた際の通信手段として付けたもの。
彼女が元々付けていたイヤリングに紫式部が細工した。
2人がマスターとサーヴァントという主従関係を結んでいる限り通信可能。つまりは通信可能範囲は理論上無限大。
ちなみに葵は左耳のみにイヤリングをしている。
気になる人は『イヤリング 左耳 意味』を調べてみよう
 
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